ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
ラキュースに代わって王都の内情を調査する仕事についている。
たまに発生するモンスター退治も
悪魔に代表される凶悪な種族は滅多に現われない。
モンスターより人間の犯罪者の方が多いかもしれない。
「
寝ているナーベラルを見せた後は工事の様子などを視察する。
巨大な穴なので建設も大変なようだ。
空中の橋渡しは無数の浮遊する木材などで作った
落下すれば石でも
「ナザリックで大きな動きがあったようですね。敵となるか味方となるか……」
「む……。いや、まあ……。色々と……話してしまったからな」
「折角隠していたのに……。と、この後は嫌な予感でもしますか?」
話すことで嫌な予感がするのはいつものことだ。
この施設はそもそも嫌な予感しかしない。
「う、うむ。良くないことが起きそうだなと……」
「丁度いい充電期間です。ナザリックも一気に拡散、とはいかなくなりました。それくらい慎重な方が世界も安心するでしょう」
たった一人で強大なナザリックを押さえ込むヤントラ。
イビルアイは神とはこういう存在なのだろうか、と思った。だが、変態は何とかしてほしい。
「……ところで『黒い仔山羊』が現れたそうだが……」
ついに出てきたか、と少し諦めに似た気持ちになった。
「要望で出しました。練習台ですから人への被害は無いですよ」
「やはりか……。扱いは注意してくれとレエブン侯が言っていた」
「対処も出来ずに出したりはしませんが、注意は怠りませんよ。命令が無ければ大人しいので」
施設内には今のところ物騒なモンスターの姿は無いようだが、地下に無数の巨大なモンスターが居るような気がしてきた。
階層の高さ的には居ても不思議は無いのだが、一度は全てを見てみたい。
「ラキュースとは仲良くしているのか? 城の方に姿を見せていないのだが……」
「数日に一回はカルネ村に様子を見に行っていますよ。のびのびと子育てをしています」
「そうか。一時は復讐の鬼と化すのではと心配したものだ」
「……私の精神状態がおかしいせいで君たちに迷惑をかけたね」
「うん。普通の人間ではないぞ。それと……、月に行く計画だが……。その前の空中都市は作れそうか?」
「これからです。基準となる基礎をどこまで重量に耐えられるかが問題ですね。どの道、総重量は一気に下にかかってきますから」
街以前に、まず土台となる部分を解決しなければならない。その事にイビルアイは納得したり、少し性急な思考に反省したりする。
基礎はもちろん大事だ。それをちゃんと分かっている辺り、バカではないだろう。
実際問題として空飛ぶ岩とか城はどうして耐えられるのかが謎だ。
どんな物体の重量も無にするアイテム。というものでもあれば欲しい所だ。
無重力を発生させるアイテムがあるらしいのだが、どんなものかが不明。
「……色々と考えてみたのだが、長い孤独に君を連れてはいけない。賑やかな世界で生きるべきだ」
「それが命令ならば……。だが、孤独で言えば私は先輩だ。魔法だって少しずつではあるが増えてきたのだ。役に立つ事も……」
「今日明日に決まる事でもありませんよね。まだ工事中だし……」
「考えることは必要だ」
「色々な量産を始める時は手伝ってもらいましょう。羊皮紙の量産とか。……問題なのは作業を始めると地下にこもらなくてはならないことですね。地上の光りを入れるのも大切なのですが……。覗かれるのも不安です」
「監視はされたくないのだな。敵とかに……。それは何処も一緒だ」
たわいも無い話しをしつつ実験農場の様子などを視察する。
作物の多くは順調に育ち、出たものは食卓に上る。
大規模な建築事業の噂が出ると建築とは関係の無い人間が来るようになった。
一部の邪魔にならない位置の土地を彼らに貸し与え、わずかばかりの収入を得る事にした。
建設が終われば職人達は引き上げるので長く住むのには適していないことは伝えた。
夜間に倉庫付近に大きなモンスターが来るけれど近づかないように言い含める。
獣型はただのモンスターなので気をつけるように、とも言っておいた。
「冒険者から小さな地主だな、ご主人」
あまり統一性が無いのが残念な点だが。
「複製たちは何ヶ月も保管されているようだが、しっかり保存しているようだな。どれくらい溜まったんだ?」
「数千体ほどでしょうか? 全て餓死しないようにアイテムを身に付けさせています」
「リング・オブ・サステナンスという指輪だったな。メイド達のような複製を造り続けているようだが、今のところ問題は無いんだな」
「どこかで異常が出るかもと思っていましたが、今のところは無事のようです」
「身体のもろい者はなんなんだ?」
「弱体化の実験で作ったものです。ちゃんと弱く出来てて良かった」
レベル一桁台まで落とせばルプスレギナの攻撃でも充分に人体を貫通する事が出来る。
急な自我に対応するため、いくつか用意しているものだ。
「時間を無駄にするわけにはいきません」
「うむ。王都の仲間達はそれぞれ仕事に精を出している。クレマンも呼ぼうか? リリーも」
「強制はしない。
屠殺場を除けば複製体を量産する施設と言うわけではなく、適度に管理する上で必要な処置を講じている。
イビルアイに改めてナーベラルの寝顔を見せておく。
「言葉を除けば真面目で素直な女性です。とても仕事熱心ですし」
「美姫ナーベ……。このまま眠らせるのか?」
「起きたら五十年後……。数日は寝かせておきます。今なら胸とか触り放題ですよ」
「するか! モモン様に会った場合は黙っていた方がいいのか?」
「いずれ返す気だから、その時は迎えてくれと伝えてください。あと勝手に殺さないように。……精神を病んで治療中とでも言っておいてください」
「
「代わりにナーベラルの装備をつけますか? ここにあるのは駄目ですが……」
メイド服を着ると言っておきながら全然着なかった事を思い出す。
可愛いメイド服ではなく、実戦的な戦闘に耐えられる武装メイド服。
背も高いので見栄えは良いかもしれない。
「……着るだけ着てみます……」
数十分後に戦闘メイドのイビルアイが誕生する。
戦士系の職を取っているので装備できる。というか装備できた。ただ、とても重く感じる。
普段はローブなどの軽い装備だったので鈍重さに驚いた。
「……うう。座りにくそうな装備だな」
スカート部分が卵型で膨らんでいるのが特徴的だ。
「金属音がうるせー……。戦闘メイド……。魔法の武具なのだな。身体にぴったり合うのが不思議だ」
身につけた途端にキュッとしっかり身体に合わせてくる。
見慣れた光景ではあるけれど、不思議だなといつも思う。
ナーベラル・ガンマは魔力系
「これが美姫ナーベの普段の武装か……。いつもの装備では心許なかっただろう。……ゴツゴツしていては目立つか……」
美姫ナーベは剣士風のいでたちだが魔法職が基本だ。
防御が薄いのは仕方が無いのかもしれない。
だが、この装備というか本来の装備なら防御面も強化されているだろう。
「……いつもの装備が動きやすいです……」
「これ着て城へ行け、とは言いませんが、ナーベラルの戦闘時の姿は中々お披露目できなくて可哀相だなと……」
「心配性なのだな、ご主人は。ナーベ殿が羨ましい。……私も心配してくださいね」
「もちろんです」
その後はラキュースが様子を見に来たり、エンリが農園や工事の様子を見に来る。
あくる日はルプスレギナが訪れた。
「ナーちゃんは眠ったままっすか」
「そろそろ起こそうか。ルプーもクビか?」
「クビになりかけたけど、今はカルネ村で親善大使みたいなことしてます。ナーちゃんと一緒にクビにされるところだったけど……」
容赦の無いナザリックは恐いっす、と言っていた。
「クビの方が都合がいいんだろう。私としても『そういうこと』にするつもりだ。それより、アインズの奴、随分と思い切ったな。意外というか……。ちゃんと自分で考えたのか?」
「さあ? 会議には立ち会えなかったんで。あとアウラ様が顔をケガされてました。なんでも自分で目を抉って耳を引き千切ったとか」
「……複製問題が悪化しているようだな。迂闊に他人の情報を利用しようとするからだ。それでアウラはもう大丈夫なのか?」
「大丈夫……だと思います。経過は見てないんで……。聖王国近くの森の調査に行ったと聞いているっす」
「まさかマーレは去勢したりしてないだろうな?」
「あうわ。……おう、それは……、無いかと……」
と、女性ではあるが思わず自分の股間を押さえてしまった。
ルプスレギナの脳裏に、お姉ちゃんが耳ならボクは、と股間を血まみれにするマーレの姿が浮かんだ。
「ルプーは大体気付いていると思うが、この施設内で片付けるつもりだから今はナザリックで試すのは得策じゃない」
「はいっす。ああ、そういえば、隠さなくなったっすけど。これって、いわゆる『次のステージに登った』ってやつっすか?」
「この施設で言えばそうかもな。隠していた黒い仔山羊も出してしまったし。あれは丸々保存は出来ない。容器が巨大モンスターに対応出来ないのと運べない」
「……あれはデカイっすよねー。地下に運べないっしょ。つーことは肉片で保管しかないっすね」
戦闘メイドでも突撃されればひとたまりも無いだろう。
「施設の秘密というか複製の秘密は最終的にアインズと個人レッスンになるかもしれない。本当の意味で極秘会談となるかもしれないから、ルプー達には言えなくなると予想している」
「えー。ケチー」
「安全を重ねるとそうなってしまうんだ。そういや、ルプーはナザリックに帰還した時、何か警告とか警報音とか鳴ったか?」
「いいえ。アルベド様も異常無しと言われました」
「名前が赤く表示されていて金貨が一気に半分になったとか?」
「そんな異常事態なら大騒ぎっすよ」
「拠点ポイントは拠点ポイントの範囲外は関知しないのかな?」
「拠点ポイント?」
「詳しくはアインズに聞きなさい。私はギルドを作ったことないから、よく知らない」
「は、はあ……。色々と面倒くさい事がありそうっすね」
「困ったことにな」
ナーベラルは夜中に身奇麗にするので清潔である事と施設はまだ少し完成が遠い事を伝えた。
太い柱の建造とつり上げなどに時間がかかるのが原因のようだ。
更にあくる日はハムスケにまたがった漆黒のモモンがナーベラルの様子を見に来た。
連絡もよこさずに眠っている事に驚かれたが。
数分後に目が覚めたナーベラルはモモンの姿を見て、すぐさま跪く。
今のナーベラルは装備を外されたラフな格好だった。
「よい。それよりずっと眠っていたのか?」
「……夜間に目覚めて施設の見回りをしております」
声は
これは癒しを拒絶している弊害だった。
「精神を病んでいる事にしてある。しばらくの滞在を命じるが……。自害せずに私の招集を待っていてくれるか?」
「……それは……、お止めになった方が……」
「謎を解けば問題あるまい」
「……組織運営に響きます」
「アインズには悪いのだが、ナザリックの者を側に置きたいんだ。いわゆる『目撃者』が必要だ。信頼厚いナーベラルを利用させてもらう事になっているがな」
と、言ったのは施設の主であるヤントラだった。
胸糞悪い言葉ではあるのだが、それは一つの手段でもある。
囮とも言うのだが、情報を得るには犠牲も伴う。
「……今の主はヤントラ様でございます」
自分の部下が他人の部下となる現実。これを受け入れなければならないのは屈辱的だった。
「……時が来ましたら改めてお声をかけていただきたく存じます」
「ああ、必ず来るとも」
モモンはナーベラルを抱きしめた。
「なら、まず命令を聞いてくれ」
「……主の
「その言葉、間違いが無いな?」
ヤントラが言うとナーベラルは頷いた。
「その喉の癒しを受け入れろ。それから概要だけ言っておく。研究するのは『悪用方法』だ。これは敵に漏れれば世界を破壊されるに匹敵する。支配など出来なくなる。取り扱いを誤ればナザリックとてひとたまりも無いだろう。私の未来ではアインズが愚を犯す未来が待っていた。だからナーベラルを手に入れて阻止したわけだ」
その言葉にナーベラルはもちろんモモンも驚いたようだ。
未来を見る能力。それに類する『
予言めいていて当たり前だ。
手に取るように未来を見てきたのだろう。
レエブン侯の話しでは『未来予測』と説明された。
覚えなければならないことが山積しているから。
「……参ったな。お前の秘密はタレントだったか」
「勝手にな。しかも見せるだけじゃないぞ。危機を煽ってくるし、身体をのっとるような真似までする。危険な能力だ」
エロいのもタレントなのだろうか。
「アバターに操られるとは……、そういうことか。それは確かに危険だな」
ヤントラ自身ではどうにもならないのだろう。だから自己犠牲のような実験を繰り返しているのだと悟った。
後世に残すために。
決してナザリックを害したいわけじゃない。それはアインズに伝わった。
遅かれ早かれ、複製に気付いて怪しげな実験をしていてもおかしくないだろう。
そして、色んなことを失敗する。取り返しのつかないほどに。
「着眼点は素晴らしい。そして、それに満足しないところは立派だ」
「お前もアバターの影響で心変わりか?」
「……かもしれん。変態が広まっているお陰で友人が増えてきたよ。征服は停滞しているが、親交は広まっている。今度、竜王国の女王と色々と会談することになった」
「おめでとう」
モモンは腕を組んで鼻を鳴らした。
「ナーベラル・ガンマ。支配者として決断を下した事を恨むか?」
「……いいえ。……支配者として当然の権利だと思います」
「今しばらく待ってくれるか?」
「……そのお言葉だけで充分でございます」
モモンはナーベラルの肩に手を置いた。
「この変態野郎は私が責任を持ってぶちのめしておく」
「ああ、変態だよ。卑猥なダンスを躍らせるぞ」
「んだとテメェ! ペロロンチーノに何を教わった!」
「エロいシチュエーションだな。拷問器具の楽しい使い方とか」
あの野郎、とドス黒いオーラが噴出する。
「私は健全なエロを探求しているだけだ。やりすぎはあれだ、タレントのせいだな」
「ぜってー違う! そんなタレント知らねーもん! あっても困る!」
激しい怒りを何度も噴出しつつモモンはヤントラに迫る。
「純真気取りはやめろよ。胸は揉み放題なんだ。楽しまなくてはもったいないだろう」
「もうやったよ! いや、女性は大切にするべきだと……、思います!」
「いつもまでも初恋気分だと相手の女性のフラストレーションはいつ爆発するか分からんぞ。特にアルベドは危険だ。ちゃんと二人でデートでも出かけろよ」
二人でデート。それは盲点だった。
特定の女性と二人で出かけたのはナーベラルくらいだ。
そもそも『モモンガを愛している』と書き換えたのにナーベラルとばかり一緒と言うのはやはりまずいだろう。
モモンは唸った。
自分で愚を犯してしまったことに気付いたからだ。
「……アルベドの事は……ちゃんと考える」
「それなら文句は無い」
意外とあっさり引き下がるヤントラにモモンは眉は無いが眉根を寄せる気分になった。
怒涛の攻防にナーベラルはただ口をあけて驚いていた。
卑猥なダンスを躍らせるくらいなら連れて帰るぞ、と言いたいところだが飲み込んだ。
自分で変な言葉を口走るのは負けた気がする。
「ナーベラル……。お前のカタキはいつか取るからな」
「……は、はは……。……ありがたき幸せにございます」
ヤントラに向き直り、とりあえず一発だけ顔を殴った。
軽くとはいえゴギッと音が聞こえるほどの衝撃を受けて壁にぶち当たる。
装備している鎧が強固なので結構な打撃力があったようだ。
「今日はっ……、ひとまず帰る。……また顔を見る来るからな」
「……次までに……喉を治しておきます」
それだけでモモンは安心した。
「……お前とはじっくり拳で語り合う必要があるようだな」
魔法職だけど、と捨て台詞を言った後にモモンはナーベラルの頭を撫でてから退出していった。
顔が砕けて喋れなかったが頑張って治癒する頃にはモモンの姿は無かった。
「……まったく、素直じゃないな、あいつは……」
「……それも魅力のうちだ」
「喉は治すが、まだ少し寝ているといい。……さすがに数百年も寝かせたりはしないぞ」
「……了解した……」
喉の癒しを受け、声の調子が戻ったところでしばしの眠りに入る。
意識は薄くあり、様々な音が静かに聞こえる。時には人の話し声、時には動物の鳴き声など。
ルプスレギナの声も聞こえることがある。
そして、月が替わり施設の一つの屋根が完成する。
残る施設も順調に工事は進められた。
天窓も付けられて中に明るい天然の日差しが差し込む。
地上からは
地下で作業していた人員は作業員専用の通路で地上に戻れるのだが、完成した後は塞がれてしまう。
内装はヤントラが一人で
今回は『五の宝物庫』にイビルアイとラキュース、ナーベラルとクレマンティーヌにルリマリスを入れてみた。
「これ一人でやる気だったの?」
「荷物運びはメイド達だが、タイル貼りは一人でやったよ」
「屠殺場より明るくて中の様子がよく見える」
「……より広いけど、何に使うの? 金貨?」
「素体の保管庫と金貨かな。都市クラス、ともいうべきものだ。予定では。実験場としても使えるし。予定は予定だ。変更だってある」
魔物がはびこる魔窟というわけではないが、クレマンティーヌは太い柱に手を当てる。
この柱にもタイルなどを貼り付けていくのだろう。
「黒い仔山羊などの巨大モンスターは保管しないのか?」
「床が壊れるから無理だろう。
「あ、ああ。天井を見ようとすると首が痛くなりそうね」
次に案内するのは出来たての『六の宝物庫』で、二階層に分かれている。
製作中の二階層になっている『七の宝物庫』は屠殺場への大穴を修復した後は天井製作に取り掛かる。
六番目は羊皮紙生産と動植物の保管庫にする予定だ。
七番目は二階層分、献体の保管事にする予定だった。
「まとめて帝国で作るとなったら凄いよね」
「もっと効率の良い形ならいいが、今は試行錯誤しながら作っている。不揃いなところは見逃してもらおう」
「ナザリックで同等の施設を作る空間はあるのか?」
「地下だけなら……、充分収まるだろう」
「……あなた、ナーベさんも真蒼の薔薇に入れる気?」
「返す気でいるから……。ここに置いておくだけだよ。勧誘は自由だけど」
帝国にある闘技場は作らないのか、とクレマンティーヌは疑問に思っていた。
見世物として造る気はないと返答されて納得する。
「出来たては何も無いのだな。荷物の搬入は『
と言ったのはナーベラルだった。他の者は『げーと』とは何だろう、と首を傾げていた。
イビルアイは転移魔法ではないかと予想する。
「人力だ。これだけ規模も大きいから上から入れることも考慮した。それぞれの施設へは封印は施すけどね」
「うむ。敵の侵入を阻むのは基本だ」
「それにしても私達に見せていいの?」
管理するわけでもない人間に秘密を見せるのは得策ではない気がした。
「一度は見せたいと思っていた。人間の手足や内臓が垂れ下がるような施設ではないよ」
「……ひぃ……。そんなの嫌です」
「人間の部位のコレクションか。それは素晴らしいな」
ナーベラルだけ歓声を上げていた。
人間とナザリックの感性は違うのだろう。というかクレマンティーヌも少しナーベラル側のようだ。
多種多様な人間が揃っていて面白いとラキュースは思った。
見た目は人間なのに、それぞれ違うことに。
タイル貼りが残っているので五と六の宝物庫の出入りはまだ自由だった。
三倍の速さで時が過ぎて行く。
探究心は時間との戦いでもある。
広大な宝物庫を数ヶ月たらずで作れるのは資材搬入が雇い主自身の手伝いがあるからなのと、複雑な建築ではないからだ。
せいぜい大変なのは足場だろう。
細かい内装も雇い主であるヤントラが担当する。
天井の作業でも小さな立方体を駆使した足場が職人達の目を楽しませる。
メイドによる
子供の成長も早いのか、ただそう感じるのか。
王都の
如何わしい事は無く、新人兵士との交流に使われているようだ。
魔導国が現われて随分経つがモンスターによる蹂躙はほぼ聞かれない。というか、この施設で蹂躙劇が
何処よりもモンスターを殺しているのではないだろうか。
ナーベラルは施設に幽閉するわけにはいかないので一部を除いて施設内の見回りを許し、エ・ランテル、カルネ村。イビルアイ達と他の都市への視察も許可した。
『マグヌム・オプス』より外は美姫ナーベとして出歩いてもいいことにした。
精神を病んでいる、という事になっているので静養の為に各地の賑やかな様子を見る、という事にしてもらった。
モモンとも別に会ってはいけない理由は無いので会話は自由にさせた。
出歩くたびに両腕を切り落とすわけにも行かないし。
問題の卑猥なダンスは踊らされていないと告げるとモモンは心底安心したようだ。むしろ、それで真蒼の薔薇と親密になったほどだろう。
共通の敵ヤントラ、という点で。
それから
広い部屋のタイル貼りは一通り終わる。
側面全てに施す必要は無いのだが明るい雰囲気を出さないと気分が暗くなる。
膨大な枚数なので一気に運び込む事はできず、製作現場は大忙しだったようだ。
材料は掘り抜いた土や石を利用しているので資源の有効活用が
「……ところでンフィーレア君」
「はい」
「リイジーはずっと研究室にこもっているようだが……。商売はしていないのか?」
「研究の方が気になっているのかも……。でも、大丈夫ですよ。直接、ここに来て品物を買っていく人が居るそうです」
「研究だけして、そのままお亡くなりになられるのはもったいないぞ」
「ははは。心配してくれてありがとうございます。もし、よろしければ店を作ってもよろしいでしょうか?」
「もっと早く言ってくれれば……」
「僕も研究が大好きですからね。忘れてました」
位置的に彼らが店を出す場合はエ・ランテルが一番良いのだが、魔導国領なのでエ・レエブルかエ・ペスペルが無難だろう。
『
取引相手が居るらしいので資金は潤沢のようだ。
タダで利用しておいて見返りを払わず、資源を好き放題使う。
聞いている分にはひどい人間に聞こえてしまう。
「売り上げの一部を払うのは当然だと思うよ、おばあちゃん」
「タダでいいと言っているんだから、払う必要は無かろう」
「潤沢な資金はありますが数年後には税金を払っていかなければなりません。その時に逃げられるのか、いえ、失礼……」
「税金逃れで月に逃げるのは凄いですよね」
ンフィーレアは苦笑した。
税金は払わなければならないだろう。その時はかなりの金額が動くはずだ。
ずっとタダで施設を使わせていると維持費が無くなって更地に戻さなければならなくなるかもしれない。
「空中に作るための試作品と考えると……、色々と納得するのですが……」
「空中はもっと大規模なものを想定している。今は家一件分が目標かな」
夢は壮大なんだなとわくわく感のありそうな計画で胸が高鳴る。
それには重量や攻撃、耐久力などの問題を解決しなければならない。
重力の影響を無効化する方法。
色々と考えても理想的な形は球体だ。
中心に必要な重力があるのが望ましい。それを基準にしている限り、周りの重力を無効化しても生活に支障は無いはずだ。
だが、ヤントラが理想とするのは立方体のようだ。立方体というか、それに準じた形というか。
角に多大な負荷がかかる。それは
角に何らかの防御対策でも施すのだろう。それなら少しは納得する。
球体はそもそも造りにくい構造をしている。出入り口も決めにくい。
放牧していた牛達を六の宝物庫の地下二階に運び込む。
地下一階部分は家畜と集めてきた植物を並べていく。
繁殖しても大丈夫そうなものが殆どだ。あとは作物と種。
雑草も置かれていく。
無数の扉に各宝物庫は連結されているが端から端まで遠いなと思った。
転移系の魔法陣を設置したいところだが撤去方法を忘れているのと施設を作ったことの無い人間が設置するので少し失敗が恐い。
「ンフィーレア君に助手のような真似をさせて悪いね」
「タダで利用させていただいているので、これくらいは手伝わさせてください」
ナーベラルは現在、睡眠中だった。
「あの人はメイドさんのはずですが……。眠ってばかりと言うのは何故なのでしょうか」
牛を指定の柵に繋げながら言った。
格子状に設置された柵に百頭を超える牛が並ぶ。
匂いがきついのでンフィーレア達は顔を布巾で覆っている。
「人使いが下手なだけだよ。元々自分の部下ではないから、命令するのは従順なメイド達に任せている。美姫ナーベはやはりモモンの側がいいだろう」
「戦闘メイドでしたか。本来はかっこいい方なんですよね」
「そうだよ。第八……今は第十位階まで使えるのかな。魔力系
「第十……。ほぼ頂点ですね」
「第十位階が使えても魔法を間違えれば負けてしまうし、読み合いを制しないと勝てないものだよ。それが普通なんだけどね」
第十位階が普通に飛び交う世界に居るからこそヤントラは平然としていられるのだろう。
数々の魔法知識も納得できてしまう。
「随分と集まったものだ。これが終われば上だな」
「……僕は悪の道に落ちた気がします」
あの牛たちは食肉加工ではなく羊皮紙生産の為に使われるという。仔牛の生産から、と聞いているので想像したくない事が始まるのかもしれない。