ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
地下一階に上がると何も無い空間が広がるのだが、無数の柱以外に部屋は無い。
これだけ広いのに集めた素材を入れた容器を並べるとまだまだ余裕がある。
他にも置く予定なのだろうか。
「もちろん複製もどんどん置くんだけど、仕切りは必要かな?」
「そうですね。この空間にどれだけ保管できるんでしょうか? あと、天井が高いので、少しもったいない気がしますね」
積み上げれば拡張しなくてもよさそうな気がする。
「そこは設計ミス、ということだ。試作には失敗がつきものだよ。あと、意見を聞く相手が居なかった……」
「す、すみません。お一人で作られたんですよね。相談できる相手は必要ですよね、やっぱり」
多くの意見を聞けばもっと機能的な宝物庫が出来ただろう。
屠殺場や拷問室に平気な人間でなければならないのだが。そんな相手はンフィーレアの知る限りは居ない。というか友人が居ないので思い浮かばないだけかもしれない。
それでもこれだけの規模の施設が出来たのだから、素直にすごいと思った。
リイジーならもっと早い段階で良い意見を与えられたかもしれない。
未使用の溶液類も想像を超える量があり、驚いた。
特に保存ではない培養液というものに。
これが本来『
「
総重量十トンほどになる溶液タンク。手に入れた素体に使うには少ないのだが、下準備に時間をかけているようなので仕方が無いだろう。
保存液も同様にあり、そちらは多少の入れ替えで使用されている。
広いのだが各所に掃除用具と洗い場が設置されていく。
排水も完備。
タイル張りなので現場で洗浄も可能。
それは下の階も同様だ。というか施設内はほぼ現場で洗い物が出来る。
「地下にこもっての実験は精神的にきついから地上の方がいいですよ」
窓や時計は設置されているけれど。
「秘密の実験は地下でやりたいですね。もちろん僕は解剖は苦手ですけど」
研究施設としては優秀だろう。
迷宮のように入り組んでいないし、今回は六と七の宝物庫それぞれ地上に上がれる仕様になっている。
五の宝物庫は入れる内容が金貨の為に地上への通路は作られなかった。
「地元の領主に見せるのが恐いですね」
「ヤントラさんでもそう思いますか?」
人体が入った容器を見せようものならびっくりするだろうな。
びっくりだけでは済まないのが一般的だが。
「ナザリックの宝物庫は種族の特性を生かし、毒が充満しているそうですよ」
「うわ……。警備は万全って意味ですね」
「ここで同じ事をしたら毒が漏れてみんな死にます」
「当たり前ですが、それはとても危険ですね」
荷物の搬入だけ済ませた後は地上に戻る。
整理整頓はヤントラが個人的に
大事な研究には警備体制は必須。
「リイジーの若返りにも挑戦しないとね。二十代でいいかな?」
「……本人の希望に任せます。急に魔法が切れるとどうなりますか?」
「効果は永続のはずだから普通に寿命は経過すると思うよ。急にポンと老婆に逆戻りするのは低位の魔法効果だろう」
「そういうものですか? 一気に生命力を奪うのでは、と……」
「老化に転じれば可能かもしれないが……。副作用は無いはずだ」
クレマンティーヌは若々しいままだし。
解呪の効果も表れない。
イビルアイにも同様に
「魔法を自在に操ると倫理観が吹き飛ぶ。そもそも誰がこんな魔法を作ったんだろうね」
「生まれた時から既に世界に広まっていたようですし、今も新しい魔法の開発が進められています。更なる凄い魔法が出てくるかもしれませんね」
便利すぎる魔法は少し恐いとンフィーレアは思うのだが、好奇心は恐怖を上回ることがある。
最後の施設の完成が近いせいか、実家に引き上げていく職人が現われる。
給金をもらえば次の仕事に彼らは向かう。
行商の人たちも同様に。
そうなると宝物庫は静かな世界になる。
魔導国とは違い、保管庫の役目しかないので当たり前だ。
せいぜいリイジーの研究施設が唯一の利用者のような気がする。もちろん宿舎は誰でも利用できるのだが。
畜産は既に地下に退避させ、実験農場も新たな作物が入らない限りは閉鎖してカルネ村に引き上げていく予定になっている。
賑やかな街づくりには適していないが仕方ない。大都市が近いから。
ナーベラルを起こし、屠殺場に向かわせた。
後は様々な命令を下し、全ての命令を遵守するのか確認する。
『
極端な
知らない単語に関しては無反応。適当な単語は理解できないもよう。
王国語や帝国語の命令は通用しない。
ありえない命令を出してみる。これが出来れば、こんな
複製で、ある程度は実験済みだが腕が増えるのか、眼球ばかりの嘔吐物が出るのか。
魔法を使わずに浮かぶのか、などなど。
ひどい事だと人体の許容量を遥かにしのぐ脱糞に成功するのが凄かった。
体内から排出される事に関して
原住民にも通用するのだが、これは普通の状態では通用しない。魔法という文化の悪影響だと推測する。
『
安易に魔法に頼っているといずれは世界が崩壊してしまうかもしれない。今の内に研究する事は大事だろう。
堆肥生産としては問題が無いのかもしれない。
実験農場で使う土が正に美女の堆肥入りという。
出来た作物に異常は無く、野菜類を調理したのだが、材料の出所を知る者には抵抗があるかもしれない。もちろん、そういう趣味の者には大興奮だろう。
何もしていないのに吐血するのか、切れていないのに胸が独りでに切り落とされるのか、ということも確認した。
実験が終わればナーベラルは綺麗に洗浄される。
涙が止まらない、というもので泣く事は確認できた。あと鼻水も出る。
人並みの代謝ができるのなら可能なのだろう。
ナーベラルに限らないが悪用マニュアルとしての書類が出来た。
もっと酷い事が浮かべば量は増えるが、オリジナルに試せるものは多くは無い。
脱糞などは複製で試したわけだが、やはりオリジナルがもったいないのか、自分の弱さなのか。
「交配実験もいくつかは確認したが優秀な種族とか戦力としての新種というのは期待はずれなところがある。制御できない生物は危険だ。それもやめるきっかけではある」
「……うむ」
「アンデッド系はそもそも生命を生み出せない。掛け合わせすぎると……、
見もふたも無いな、とナーベラルはため息をつく。
「アインズ……、あえて種族
以前は簡単にしか言っていなかった。
「ん……」
アンデッドと生身が交尾、という図式を浮かべようとしたが、行為だけは出来るのかも知れないが妊娠と言うところだと無理ではないかと思った。
「父方の魔力と身体の粉末か固形物でもいい。それを混ぜたものを母方の子宮に直接入れる。その後で五レベルドレインを費やす『
「それでアンデッドの子を妊娠するのか?」
「アンデッドの胎児としては生まれないがな。子供は母方の種族に依存する。だが、父方の一部の能力はちゃんと受け継ぐようだ。レベルは確か……ゼロだったと思う。後はどう育てるか、育つか、だ」
レベル0。経験値が無い状態。
立って歩く頃には1レベル分の経験値は溜まるだろう。そこからどう育っていくかは子供次第だ。
一部の能力と言っても物凄い才能とかではない。
ヤントラが知るうる限りでは暗黒の魂、不死の祝福。
実験ではまだそれくらいだが。
「生まれた時から第十位階魔法や超位魔法は使えないぞ。頭がいいかは不明だ。それは本人の努力次第だろう」
それらの情報はナザリックに提出する極秘書類として作成されている。
ナーベラルに話している分は特に制限は設けていない。
「これらの情報は……、アインズ様に直接渡さなければならないものか?」
「暴走しそうな人が居るからな。共有するかは支配者の裁量だ。どんなことにも冷却期間は必要だろう」
完成するかは不明だが半年後を目処にもう少しまとまった形にする事を伝えた。羊皮紙の在庫の都合もあるので。
「複製とオリジナルは違うものなのか?」
「命令する側の問題だ。だが、それも大事な事だろう。大切に思う心があるのと無いのとでは……。複製のナーベラルでいいならモモンが心配して来たりはしないだろう」
定期的に様子を見に来る辺り、心配する心はあるようだ。
それはヤントラも素直に見習いたい。
「話しは変わるが空中に宝物庫を作るメリットはなんだ?」
「土地を買わなくて済む。領主に迷惑がかからない。デメリットとしては地上に降りるのが大変だったり、落下したら大崩壊だ。落ちてもいい場所に作る必要はあるだろう。あと、建設するのに膨大な資材を必要とする。良い面もあれば悪い面もあるものさ。水源とかな」
「なるほど」
一通り話し終えた後で美姫ナーベの姿に着替える。
冒険者としての仕事は休みだが、噂話などを集めていく。これはアインズの元に戻ったとしても世間知らずでいるのを防ぐためだ。
一人の時もあれば真蒼の薔薇のメンバーと一緒の時もある。
ナーベラルでは出来ない悪用を複製で実験し、書類をまとめつつ地下の点検も
下水周り、空気の逃げ道、隠し部屋の状況など。
自分の目で確かめる事は必要なのだが、広い施設になったせいで数日がかりの仕事になっている。
それだけで時が更に過ぎてしまう。
バスディオ達は会う度に大きくなっているように見えるほどだ。
ヤントラから何か特殊な力でも継承している、という事は無かった。
元々がただの人間だから仕方が無い。
シズ用の武器も溜まったようだが、弾丸類は箱に詰め込むと圧巻だな、と思った。
大型銃器を操るメイド。
そんな事を思いつつも最後の七の宝物庫の建築状況を視察する。
ここも二階層になっていて集めた複製体の保管庫として使う予定なのだが、仕切りは必要だろう。
地下二階部分に並べて地下一階はンフィーレアの為の実験施設に使わせることも考えておこう。
計画は計画。臨機応変に対応すればいい。
あくる日にルプスレギナが
「……私が居る日が分かっているのか?」
「ちゃんと確認してから来てますんで大丈夫っすよ」
今回連れてきた
「ザリュースとシャースーリューと……、誰だ?」
「おっ、鋭いっすね。左からシャースーリュー・シャシャ。弟のザリュース。もう一人はゼンベル・ググーっす」
「髪の色とかならいいのだが、どう区別すればいいのやら」
すっかり見覚えは無く、初対面のような感じだった。
以前会っているはずなのだが、記憶力が衰えているのだろうか。それは
「一年近くも会っていないのですから、覚えては居ないでしょう」
「養殖に興味のある
「はい。貴重なご意見を頂き、感謝しています。俺はザリュース。こっちが兄者のシャースーリューです」
ザリュースはヤントラに頭を下げた後でそれぞれ紹介した。
「……見た目には弱そうな人間なんだがな……」
「無駄をそぎ落とした強者っすよ。それよりナーちゃんは元気で暮らしているっすか?」
「
「仲間内でも危険ってことっすか?」
「まずアインズが精査して、共有できる部分があれば、だ。ここは慎重に扱ってもらいたいところだ」
「了解っす。こちらの
雑な説明だが、それで理解するヤントラは苦笑した。
「報酬として、アルベドを
「了解っす。ナザリックの繁栄にはお二人の問題がいつまでも解決しないのは不健康っすからね」
「しつこくは言わないが、頑張れと……」
「優しいっすね、バスパ様は」
「人に命令するのが苦手だというのがよく分かった。真蒼の薔薇が居て、ナーベラルが居るのに命令できていない。あれをしろ、これをしろと言える奴は凄いな」
ソロプレイヤーとして長く続けてきたし、部下を扱う仕事はやったことが無い。
複製と同じ命令でどうして扱えないのだろうか。
甘いのか、苦手なのか。
命令は出来るのだからやればいいだけだ。
「無理しなくていいっすよ。今回、私は彼らを連れてくるのが仕事。また三日ほどでお願いします。あと、カルネ村で待機してますんで」
「いいように使われているな。それはそれで気分転換にはなるのだが……。モンスターの少ない平原に居るからなのか?」
「そうかもっす。でもほら、
二人が怒涛の会話を繰り広げて居るのを三人の
ナザリックの戦闘メイドと普通に話している人間。
何も知らないで利用されているのか、知っていて落ち着いているのか、その判断はつかないようだった。
「まず……、食料の確保からだな。ザリュース君でいいのかな?」
「呼び捨てでいいですよ」
「君の妻のことは聞いたかな?」
そう言うとザリュースは唸った。それだけで状況は把握した。
「私の趣味は恐ろしいぞ」
「……話しが理解できなかったのですが……、その……見せてくれませんか? 言葉よりは見た方が早いかもしれません」
「では、食料を確保したら行こうか」
ルプスレギナは三人を置いてカルネ村に行った。
ヤントラ達は宿舎から食料を調達してから地下に降りる。
「……空気が変わった……」
今にもモンスターが現われそうな気配がそこかしこから漂ってくる。
「各部屋には人間の複製が保管されている。奥にはモンスターもある。種族問わずね」
「……これらの部屋全てに!?」
「空いている部屋が多い。地下にもあるし、最近出来た部屋にも移動させている。随分と集めたのだが……」
いくつかの部屋を見せるとそれぞれ唸り声を上げた。
特に部位の容器は驚いたようだ。
「同じ人間が何人も居る……」
「予備としてね」
「……確かにすげーな。並みの人間じゃねーのは分かった」
ザリュースの妻クルシュを置いている部屋を見せた。
「うあ!?」
白い
「……ああ、これはこれで凄いな……」
「ナザリックに居たクルシュは本物なのか?」
「偽者は送らないさ。ちなみにこれも生きている」
「化け物め……」
「おい、話しを聞いた上で来たのだろう? 今更蒸し返してどうする」
ザリュースの怒りを兄が静める。
「申し訳ない。それにしても複数も居るとは驚いた。食料では無いようだが……」
「何に使うか、という疑問だろうが何も決まっていない。見せた素体を優先的に使うわけではない。決まっている事でいいならば……、住人かな」
「住人?」
「孤独な世界に連れて行く住人だ」
ゼンベルは容器に入っているクルシュ達を眺めた。
外傷は無く、ただ静かに眠っているようにしか見えない。
「
「少し前は
「あの獣人も居るのか!?」
と、ザリュースだけが驚いた。
彼は『旅人』と呼ばれる
「仮に食料とすると他のも食料扱いになってしまうのだが……。その方がいいならそういうことにしてもいいぞ」
「い、いや。出来れば……、遠慮してほしい」
「……
片腕が巨大化しているゼンベルが言った。
「ありがとうだ」
「………、はっ?」
「ここには私の仲間達や妻の分もあるぞ。見るか?」
にこりと微笑む怪物に
それなりの話しは聞いたが相手は常識の通じない化け物かもしれないと思った。
「他人に出来て自分たちに出来ないなど頭の悪い人間と一緒にされては困るな。とりあえず……、見せるものは見せたから移動しようか」
「おおぅ」
念のためにヤントラは妻であるラキュースや真蒼の薔薇の面々の保管状況を見せる。
狩り取り方が尋常ではない。
唸りつつも目的地の屠殺場に向かう四人。
広大な空間が
外からでは分からないが地下空間はザリュース達の想像を超えるものだったようだ。
「始める前に……ザリュース。君の程度を知っておこう」
「んっ……」
ヤントラは服を脱ぎ、ザリュースに剣を渡した。
それから合図によって現れたメイドを控えさせる。
「首以外の何処でも刺すなり切り落とすなり、やってみるといい」
「はっ? そ、そんなこと……」
「やらないとクルシュを焼いて食べますよ、君の目の前で」
意地悪を言っているのは理解出来るのだが、内容が酷い。
温厚なザリュースでも激怒するだろうとシャースーリューは思った。
「……無駄口は叩かない。さっさとやる」
「ん……。後悔すんなよ! この化け物が!」
ザリュースの一撃はヤントラの肩口を深く切り裂く。
与えられた武器は切れ味がよく、使った
思った以上に切れてしまったので、すぐさま飛びのいてしまった。
「な、なんだ、この武器は!?」
「もう終わりか、ザリュース。……期待はずれだぞ。一撃で満足するのは命取りだと思うな」
「い、いや……。それよりなぜ平然と喋っている!」
「何か問題でもあるのか?」
攻撃が来ないようなので治癒魔法で傷を塞ぐ。
「それで終わりか? 焼いて食べないと本気を出さないか……」
ザリュースが戸惑っているようなのでゼンベルが剣を奪い、斬りかかってきた。
ほぼ袈裟斬りに刃が通り、驚いたのだが、そのままヤントラを断ち切ってしまった。
落ちる前に剣をつかみ自らに再生魔法をかける。
「今なら私を殺すチャンスだぞ。世界を救えるかもしれない」
「……おいおい、よくそんな姿で……」
見ている側から再生が始まり、世にも不思議な光景が
地面に落ちた部分はメイドが既に再生魔法をかけた後だったのか、同じく復活しようとしていた。
更に合図によって現われるメイド達にヤントラは担ぎ上げられ、一息つく。
「そういえば自分の素体がまだだったな。あまりあっても役に立たないのだが、何に使えるかな」
再生が終わった自分の腕を改めて切り落として再生させたりしていく。
胴体の部分が入っていない部位は再生が止まりやすい事も実験済みだった。
「無駄な時間だな。少し待っててくれ。特訓はそれからだ」
相手にしてはいけない化け物が居るとザリュースとシャースーリューは思った。
ゼンベルは平然としている人間にただただ驚いていた。
再生が終わり、着替えを済ませ、床の掃除が終わるとメイド達により椅子や食事の用意が整えられていく。
トイレや風呂場の場所が伝えられる。
「まさか、他人に痛みを与えて自分は痛みを受けない、とか頭の悪い人間を想像していたのかな?」
「……はい」
素直にザリュースは言った。
「死んだ回数では誰にも負けない自信があるぞ。では、まずは恒例の儀式からだな」
門下生となることを誓わせ、どのように強くなりたいかアンケートを取る。
様々な事柄の説明で三十分は経過する。
いちいち思い出すよりマニュアルがあると効率がいい。
「技を教えられないけど、大量のモンスターをひたすら倒すだけだから」
「それで他の
モンスターを倒しただけでザリュースたちを圧倒するようになってしまった。
独自に武技なども覚える者が現われるほどだ。
クルシュも高い位階魔法を扱えるようになり、魔法の使用回数も以前より格段に増えて驚いた、という。
というか、身体を斬られたことが無かった事にされているのでシャースーリューは少し困惑する。
特に小言も無く説明だけが進んでいく。
話しが一段落すると、それぞれ上等の武器を渡される。
「疲れたらメイドに休憩することを伝えるように。攻撃してこないと思うが、君たちはただ無心にモンスターを倒せばいい。片付けはメイド達が
「分かった」
三人をそれぞれ離れた位置に立たせる。
メイド達がそれぞれ飲み物を提供する。
ヤントラが別室に消えて数十分後に第一陣のモンスターが現われる。
「アンデッドではないようだな」
「ああ、
「
森の中でも比較的、見知って居る者たちが次々と現れていく。
時間の経過とともに次々と。
「……この施設にはどれほどのモンスターが居るんだ?」
「そんなに居ないよ」
シャースーリューの疑問に施設の
「事前に用意することが出来ないから時間がかかる。メイドでもいいんだろうが……」
「それより倒していいんだな?」
「倒さないと特訓にならない。さあ、始め」
そう言ってヤントラはまた奥に引っ込んだ。
再生が終わったモンスターに即座に命令を下すのは難しいが、それを可能とするのが魔法だ。
その間に先ほど採取した自分の素体の洗浄作業をメイドに任せる。
本来ならナーベラルに任せるところなのだろうが、やはり自分の部下と言う扱いが出来ない。
一から作り上げる部下でないかぎり抵抗があるのかもしれない。
稼動しているメイドのように従順な方がいいのか、ンフィーレアのような率先して手伝う人間がいいのか、実際のところはどうしたいのか、色々と悩みどころだ。
機能的にすればいいのだろうが不測自体が起きやすい気がする。
ナザリックの者達ならそれらに対処できそうなのが多いから良いのだが、こちらは一人だ。
戦闘メイド並みの柔軟な思考と行動が出来る部下を育てるとなると途方も無い時間がかかるだろう。
今からでは遅い。
教育できない理由としては頻繁に使用しないから、というのもある。
保管庫だから仕方が無いし、毎日の警備も結構な労力だろう。
ラキュース達には荷が重いだろう。そこまで人間は捨てていないようだし。
イビルアイも。
クレマンティーヌ。ルリマリス。
仲間として手に入れたはずなのに誰一人として扱えていない。
ギルドに向かない性格かもしれないとヤントラは残念に思った。
悩んでいても仕方ないので作業は続ける。
一時間後に自分の複製も作っておく。
自分自身が自我を持ったら危険だろうな。効率的ではあるのだが。それに『あるアイテム』の影響は受けないようだし、都合がいいのか、更なる不安に繋がるのか。
数体は保管し、他は作業に従事させる。
一気に効率は上がるが、呆れもする。
結局は自分が一番、動いた方が楽だと言う結果に。
複製体はアイテムボックスを持ってはいるようだが、本体のアイテムは横取りできないようだ。
それだけ分かれば今はいいだろう。
三時間後には屠殺場の中はすごい事になっているのだろうが、ヤントラは
自分自身の交尾など気持ち悪い気がするので試す気にはならないが、いくつかの実験は必要だろう。
少し経ってから本体と複製の近親相姦を色々とやってしまった事を思い出して反省する。
二時間後に休憩に入らせて、その間にもモンスターを用意しておく。
ザリュース達の様子を見ると未だに奮闘していた。
人間よりは見所があるようだ。
「数千体の
疲労は感じているようで三人共に息が荒くなっていた。
それが普通の反応だろう。
対処しきれずに三人が集まっていた。
「こらこら、固まったら駄目だ。離れて倒してくれないと経験にならない」
「一休みさせてくれ」
ヤントラが手を叩くと一斉にモンスター達は壁際まで移動を開始する。
倒した残骸は壁から出てきたメイド達によって一斉に片付けられていく。
「一日は長いよ。ご飯でも食べて、今のうちにお風呂で休んでくるといい」
「休んでいいのか?」
「特訓だからね。休憩はあるさ」
三人がそれぞれ休む頃にヤントラは気がかりを思い出す。
自分を複製しなかった理由だ。
その事を失念していた。
保管庫に運んだ分はすぐさま処分する。
大浴場に居る分も同様に。だが、既に手遅れのような気がした。
複製にはそう簡単に記憶は宿らないし、自我も芽生えない。
だが、例外だの、不測の事態は起きるものだ。
今回は複製の眼球のみを回収し、身体は即座に処分する。
逃亡は許さない。徹底的な探知を駆使して施設内、転移状況などを調べ上げていく。
それを三十分かけた後でようやく一息つく。
「……本物は始末した。……という捨て台詞を吐く奴が居たらまずいよな。効率化の図り方も考えないといけないな」
ここは妻の協力を得る方がいいだろう。
愛すべきラキュース。用済みになれば捨てる、というのは問題なのだが、仕方ない。
「これもデメリットか……」
忘れないうちに資料に加えておこうと思った。
更に三十分後にザリュース達を性転換させて交尾させるような事は無く、特訓を開始させた。
「大振りじゃなくても的確に急所を狙えば楽に倒せますよ。無駄な動きばかりだと疲れやすいと思うけど」
「そ、そうなのだが……。なんなんだ、この数は」
「どんどん強えーモンスターが出てきてねーか」
「大変な方が経験になるし、特訓らしくていいと思いますが……」
平然と喋りつつ何処かへ行くヤントラ。
数千体が止め処も無く居る中を全く頓着せずに立ち去ってしまった。
「屠殺場……。皆の言う通り恐ろしいところだ」
名前の通りなら自分たちは激しい拷問を受けると思っていたほどだ。
モンスターを倒しまくる場所だと、改めて思い知る。
当たり前なのだが、コキュートスの話しぶりでは普通の場所ではないし、並みの特訓とは思っていなかった。
「それにしてもなんだ、このモンスター達は」
無抵抗でただ歩いてくるだけ、と聞いていたが無抵抗すぎる。
それはそれで恐怖心を刺激するだろう。だが、慣れたゼンベルはもう気にせず淡々と倒していく。
攻撃されないのは確かだし、見せしめで殺すわけではないのだから特訓としてやるだけだ。
「そういえば、メイドは倒してはいけないそうだが……」
うっかり食事を持って来たメイドの首を撥ねてしまった。
味方を攻撃してしまう気分にさせるほど単純作業は恐ろしいと仲間たちは口々に言っていた。
武器の切れ味も恐ろしいものだと驚愕する。
簡単に人体を切断できたから。
「敵味方の区別がつかなくなる、という意味だったようだな」
「固まっては駄目だ、というのも理に適っているのだろう」
「仲間達の身体があるならそれが出てきて場合は……、我々は敵味方関係なく殺し合いをしてしまうかもしれないな」
クルシュの大群とかもあるかもしれない。
それを可能にするおぞましい施設なのだ。
「やっべ、こっちもメイドを殺しちまった」
定期的に食事を持ってくると言われていたにも関わらず、武器をふるってしまった。
数分後に裸の女性を担いだヤントラが現われる。
死んだメイドを一瞥すると合図を送る。
数人のメイドがモンスターを蹴散らして仲間の装備を剥ぎ取り、片付けていく。
それからすぐに彼女たちは居なくなった。
「混乱させるつもりは無いのだが、敵と味方の区別が付けにくいですか?」
「あ、ああ。どうにも自制が……」
「精神的な苦痛も特訓です。出来るだけ今居る場所から動かない方がいい。攻撃はしてこないから、武器を下ろして食事を命令してごらん」
「うむ」
言われた事を実践してみる。
メイドは近づくモンスターを押しのけてシャースーリューの近くに食事と飲み物を置いてすぐに飛びのいた。
疲れたら休んでもいい。
あくまでモンスターを倒す事であり、自分たちがケガすることではないのだろう。あと、武器を地面に置けば自制もなんとか保てる事に気づく。
「初日はそんなものですよ」
そう言ってヤントラは大浴場に消えた。
それぞれモンスターを蹴散らしつつ水分補給していく。
確かに攻撃は来ないのだが、モンスターが迫ってくる中での食事は中々に大変だった。
本物の戦場ではこんなことは出来ない。
特訓だからこそ可能なのだと。