ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
それほどの枚数が入っているとは思えないが数十分はかかっているだろうか。
それでもアルベドとナーベラルは待ち続けた。
更に数分後に部屋の扉が開いた。
「アインズ様……」
「……ああ、罠の
声の感じでは疲れているように聞こえた。
「……中身は言えんが……、お前たちを失望させる支配者になっていたであろう、予測が色々と書かれていた」
「失望……ですか?」
「……あいつが孤独なのは私の未来の姿かもしれん。よく一人で探り当てたものだ」
そして、よく一人で耐えてきた。
それは賞賛に値するだろう。
「まだ一部しか出来ていないところを見ると研究は続けるようだな。あれは最重要機密指定にするゆえ、アルベドにも公表は出来ない。それは許してくれ。ナザリックの存亡にも関わるだろう」
「それほどまでに……。畏まりました」
「内容的には複製など問題にならない事だが……。ナーベラル」
「はっ」
「命令に抵抗させた理由が判明した。お前たちは人形などではない。よくぞ耐えてくれた」
「えっ?」
「愛すべきナザリックの者達を人形だなどと誰が思うものか。自害を選ぶお前たちの姿を見せられる私の気持ちは骨が砕けるほど痛いものだ。そして、ナーベラルの忠誠心を簡単に捨てられるわけが無かろう」
「……もったいなきお言葉にございます」
「アルベドよ。そなたに報いてやれぬ私を許しておくれ」
「アインズ様? あの書類に何が書かれていたのですか?」
「色々とな。
ナーベラルは側に平伏する。
「ナザリックの為にまた働いてくれるか?」
「……裏切りの可能性がある私に残れと?」
質問を質問で返してしまい、床に頭を打ちつけるナーベラル。
「あれは裏切りなどと言う生易しいものではない。……これ以上は言えんな。あと、聞きに行くなよ? それは全ての階層守護者への言明でもある。いや、自分で言う。ナーベラル、面を上げよ」
「……申し訳ありません。顔を上げられません」
「それは抵抗できないということか?」
「……いえ。罰を受けなければ自分が許せないのです」
「私が許すといっても駄目か?」
「おそれながら……。他の者への示しがつくとは思えません」
困った事態ではあるのだが、自分の意見をしっかり言うナーベラルの姿はとても心強いものだった。
命令に従順な人形に今のナーベラルと同じことが出来るのだろうか。
経験を積めば出来るかもしれない。けれども忠誠心を養うのは大変なはずだ。
「ナーベラル・ガンマ。アインズ様が許すとおっしゃっているのよ。どうして従わないのですか」
「……自分が許せないだけでございます」
真面目なナーベラルの意志ならば納得は出来るのだが、融通の聞かないところは困ったところかもしれない。それでも自分の部下だ。
「よい。ナーベラルよ。……おお、そうだ。バハルス帝国に……、無理か……」
ナーベラルは魔力系
フールーダは新しい魔法の調査で研究室にこもっているようだし。
「ナーベラルには玉座の間で待機してもらいましょう。その代わり、冒険者モモンの相棒として私が側に付き従うのはいかがでしょう?」
「アルベドと?」
漆黒の鎧が二人も並んで歩くのは目立つのだが、違和感は無いだろう。
お互い顔は見えないけど。
冒険者よりはアインズの秘書のような扱いの方が無難な気がする。
「いや、それより各国首脳と話し合いをする時はちゃんと連れて行こう。アルベドを必要とするような大層な仕事は無いのだ。地味で地道な諜報活動しかないぞ」
「それでも構いませんとも」
「立場的にアルベドとは敵同士なのだぞ、モモンは。それより統治者アインズの秘書としてついてきてくれる方が助かるのだが……。出来る限り連れて行くと約束しよう」
「本当に?」
「私を信じてくれ、守護者統括アルベドよ」
「くふー! ……失礼しました。分かりました。では、ナーベラルの処分はいかがいたしましょう? この場で頭を潰す方が早いかと」
「バカ者。そんなこと出来るか。それを言うならルプスレギナにもや……。そうそう、ナーベラルよりサボるあいつにこそ罰は必要だろう」
真面目なナーベラルにはこれからも頑張ってもらいたいのだから。
「モモンの相棒として呼びつけるまでは第九……、第六階層の様子を見てもらう。ついでにマーレの様子とかな」
「第六階層……。監視は?」
「もちろん付ける。それなら異存は無かろう?」
「謹んでお受けします。……アインズ様、お手数をおかけして申し訳ありません」
「部下に甘い上司でこちらこそ、だ。ルプスレギナは奴の……。いや、あえて野放しの方がはかどるか……。ルプスレギナに奴の施設の周りを探る者が居ないか監視させておこう。シャルティアを精神支配した存在もまだ残っているしな」
「畏まりました。すぐに連絡をいたします」
「魔導国の統治者としての仕事もせねばな。リ・エスティーゼ王国に訪問の手続きを送れ、改めて国の代表者として会う必要があるだろう」
「すぐにご用意いたします」
まずは
ナーベラルが無事にナザリックの戦闘メイドとして復帰した事を代わりにやってきたルプスレギナが報告する。
「よくナーちゃんは自害しなかったっすね」
「ルプーもしないだろう」
「しないっすね。みんなが見ている前で命令されない限りは。死にたくないっすけど」
「監視かもしれないけど、カルネ村に行ってもいいんだぞ。地味な研究が続くだけだし」
命令では施設にずっと居なければならない、とは言われてはいないが何らかの調査は必要だと感じていた。
工事が終盤なのか人の数が少なくて少し寂しいのだが、その分施設内を探検させてもらえそうな気配を感じる。
「この施設を監視しようとする者を監視するのが仕事っす」
「王国と帝国ならば仕方が無いが……。おそらくは第三者の存在だと思うぞ」
「それは捕まえてみない事には……。監視は監視っすけどね」
怪しい施設だから抜き打ち検査の調査員と言う事もありうる。
迂闊に手を出すのはヤントラにとっては都合が悪い。
「
「ナザリックなら皆殺しっすよ。中の様子だとデストラップは無さそうっすけど……」
「無いよ。自分とかメイド達が引っかかりそうだし」
「あー、なるほど……。やたらとメイドの死体が転がっていたら、逆にびっくりっすね」
身体がもろい素体もあるらしいし、地獄絵図のようなありさまになるのだろう。
それはそれで見てみたい気もする。
最後の宝物庫は数日で完成する予定だが、ここで派手に壊せばまた工事で人が賑わうのでは、と提案してみたが金がかかるので却下された。
ナザリックとは違い、難攻不落ではない。
大きなモンスターを落とすだけでも充分に瓦解する。
「せっかく来たんだから交尾実験でもするか?」
「おぅ……。いやでも、処女喪失は……。治癒魔法があるとしても色々と不安っすね。それ以外だと何があるっすか? バラバラ以外で」
それほど多くは思いつかないがナーベラルが体験したエロいことの一部を伝えてみた。
「……女殺しの異名が付きそうっすね。……そういう性格だからナーちゃんに嫌われるようにされたのでは?」
「他人の裸は大好きだからな。あと、寝顔か……」
「晒し者にされたくないっすね」
「複製は晒し者にしているような気がするが……。他人に自慢する為に集めているわけではないよ」
要望があったとしても見せたくないものはある。
一の宝物庫の部屋は当人以外は出来る限り、入れないようにしている。
優しいのと激しいのをルプスレギナに選ばせた。
「うおぉぉ! 激しいレベル超えてないっすか!? その極端な対比はむしろ怖いっす」
内容を聞いたルプスレギナは顔を真っ赤にして慌てふためく。
ちゃんと恥ずかしがるところは可愛く見える。
「自分でもよくこんなことを思いついたなとびっくりした」
「……思いつかないでいてくれればいいのに……」
「食糞も加えたら……」
「絶対嫌っす!」
明らかに嫌そうな顔で抗議するルプスレギナ。ここまで拒否反応を示すとは驚きだ。
「そういうエロい趣向があるのは知っているっすよ。私は健全なエロで充分っす」
「胸を揉んだり、寝小便をたらす……」
「排尿も辛いっすね……。我慢は良くない事は分かっているけど……。知りたいようで知りたくないエロい世界があるんすね。……滅びればいいのに、そんな文化」
エロにも程度が必要ではないかとルプスレギナは思う。確実にのめりこんではいけない空気を感じた。
発情期に入れば全身が熱くなり、股間がよく濡れてしまう。
自慰は気持ちよく、気持ちを落ち着ける意味では有効だろうけれど精液まみれにまでは至らない。
女性としての尊厳と言うよりは存在としての尊厳を踏みにじるような方法は破滅を願うルプスレギナとて受け入れることは容易ではなかった。
食糞はダメだが、排泄と言う意味での脱糞は許容できる。出さないと具合が悪くなるから。
快眠、快食、快便。
健康的な暮らしは気分がいい。
禁欲的な日々が続いていたので優しい方に挑戦することにした。
エロいと分かって受け入れるのはヤントラの行動はだいたい把握しているからだ。
ナザリック地下大墳墓では出来ないことも経験させてくれる。知られると大変だが、言い訳が出来る自身があった。
妊娠、出産するようなことと精液まみれは断っておいた。当然、食糞はもってのほか。
「またバラバラにされるっすか?」
「多少はあるかな……。個人的趣味で」
「……そういう趣味の気持ちが分からないっす……。殺戮以外だと他人の……、結局はエロいことっすね」
他人の苦しむ姿や子孫繁栄に励む姿を見るのが趣味であるならばヤントラも同じようなものだろう。多少、強引なところは自分と似ているような気がする。
「ルプー達は既に自我を持っているから今更新しく別の自我が生まれるとは思えない」
「今の私の自我はそのまま維持されるんすね」
「そうなってもらわないと困る。元々は側に置くだけの擬似的な部下が欲しかったからだが……。今は随分と増やしてしまったな」
「戦力としては申し分なさそうっすね」
「私は楽しければいい。誰よりも強く、とか高尚な望みは無いよ」
「一番になりたいわけではないと?」
ルプスレギナの言葉にヤントラは黙って頷いた。
欲は全てエロいことに注がれているようだ。
あまりこだわりが無いせいかもしれない。
「……あまり滞在していると不味そうっすから、優しいコースでお願いします」
意識のある状態ではなく、眠り続ける方法だという。
カルネ村の警備の観点から長居は出来ない。
一通りの手続きの後、ルプスレギナは眠りにつく。
まずはナーベラルを泊めた部屋に運び込み、服を脱がす。
下着類だけの姿は綺麗だった。
日に焼けた健康そうな肢体。
それを
メイド達に容器類を運び込ませて待機させておく。
部位ごとに容器を満たしていく。それから男性化させて搾取。
ほぼコレクショクとして溜めている気がする。後々、色々と処理に頭を悩ませるんだろうなと思った。
狼形態の搾取は今回は諦める。その代わりにメスのルプスレギナ型を呼びつけておく。
まずは複製に男根をくわえさせて数度の射精を飲み込ませる。
以前に搾取した球状の女性器を舐めさせたり、男根に差し入れてみたりする。
後は獣らしく交尾に励んでもらおう。
容器類を片付けて戻った後は狼形態での交尾に切り替えてみる。
今までの我慢が爆発したように女体を貪る。
射精の度に相手の首を食いちぎり、首無しの狼とそのまま交尾を続ける。
元もとの凶暴性が現れた為に乱暴に扱うようだ。最終的には十二体ほど餌食になった。
更に二十体に差し掛かるころには殺さずに事を終えるようになった。我慢のしすぎはとても危険なようだ。
性別を戻して治癒魔法を掛けた後、
後はメイド達に風呂場で洗浄してもらう。
終わった後はしばらく眠らせることにした。
起きた後は精神的にも肉体的にも疲労が取れたようだ。
「……蓄積した疲労とか発情とか……、解消されているっすねー……」
何が
恥ずかしい質問しか浮かばなかったのかもしれない。
ルプスレギナは仕事の為に姿を消し、入れ替わるようにンフィーレアとエンリが工事の様子を見に来た。
「この施設が完成したら次は空ですね」
「月に行くのやめようかな、と言ったらがっかりするだろうな……」
「がっかりしますね。……たぶん僕が」
「何気に地下に居る牛の事を忘れていたりするし、やはり助手は必要か……」
牛たちを保管している『六の宝物庫』はンフィーレアとエンリに開放する予定になっていた。
「それにしても地上の施設はバラバラだな。仮設はあちこちにあるし」
設計はンフィーレアに任せてもいいのかもしれない。
エンリは村から持って来た弁当などを宿舎に納入していく。
牛たちは居るだけでうるさいから、そろそろ処理を始めたいところだ。
「ずっと入り浸っていたが、少し遠出をしようと思っている」
「冒険者の仕事もしていませんものね。あと、ご家族とも……。息抜きは必要でしょう。僕はおばあちゃんのお手伝いをしながら見回りをしておきますよ」
「冒険者をやめて研究者になろうかな。でも、外に出ないのも不健康だ」
「そうですね。僕らも時間になったら外で体操するようにしています」
研究も大事だが身体も大事だ。
それから数日後に最後の宝物庫が完成し、職人達は給金を受け取ってそれぞれの都市に引き上げて行った。
料金未納を新しく入った職人は恐れたがちゃんと支払いが済んだので安心したようだ。
数年はかかる規模を半年もかからずに作り上げる事ができるのは雇い主であるヤントラが居るからこそ。
広大な部屋の壁に貼られたタイルを見せてもらったが一人でやったとは思えない出来栄えに職人達は唸った。
七の宝物庫もタイルで埋め尽くされる予定だが、材料の搬入だけでヤントラ自身は久方ぶりに探検に出かけるようだ。
荷物の管理はンフィーレアとエンリが担当する事になり、たまにルプスレギナも混じる。
そもそも『マグヌム・オプス』とはどういう意味なのか、ンフィーレア達は知らなかったが大作や傑作という意味だと教えられた。
空に浮かぶ宝物庫は『ヴァルハラ』か『
月は『
広大な宝物庫を一人で運用する謎の変態貴族。
不名誉極まりない噂が各都市に
宝物庫を抜きにすれば高名な薬師の近くに変な施設がある、という噂もないわけではない。
工事が終われば人が寄り付かないのは仕方が無いのだが仮設施設の風呂などは利用可能で、飲食は持参しなければならないが、寝泊りは自由だった。
静かに研究する上ではリイジー達には最適な施設なのだが、宿泊施設を遊ばせるのはもったいないなとンフィーレアは思った。
風呂が使えるのだから何か良い宣伝にならないものかと所有者でもないのに考えてしまう。
ヤントラがカルネ村と王都に向かっている間、宝物庫に貴族の一団が訪れた。
対応できる人間が居らず、ンフィーレアがとりあえず伺いに向かった。
大勢の馬に乗った騎士と
「突然の来訪で申し訳ないが……、君が代表者かね?」
「えっと、ここの主は不在でして……。何かの調査でしょうか?」
「近隣都市からの視察である。主が居なくとも視察は受けてもらうぞ」
一方的な発言なのだが、断れない雰囲気があった。
カルネ村とは違い、何にも守られていない。
討伐隊の気配は感じたが雰囲気的には穏やかだった。
悩んでいると貴族風の男性が近づいてきた。
金髪のオールバックで痩せ型の人物はンフィーレアも見た事があった。
土地を提供してくれた六大貴族の一人『エリアス・ブラント・デイル・レエブン』だ。
「抜き打ちのようで申し訳ない。施設を荒らすつもりは無いのだが……」
と、申し訳無さそうに言っているレエブン侯の後ろから黒いローブを身にまとう骸骨の顔をした超越者『アインズ・ウール・ゴウン』魔導王が姿を見せる。その横では『黄金』と名高い第三王女『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』と白銀の全身鎧をまとう兵士『クライム』が出てきた。
「ゴウン様!?」
それに王女まで、とンフィーレアは驚きの連続だった。
「心配は要らない。施設の中に入っても良いと許可は得ている。当然、秘密の場所は厳重に封印されているだろうよ」
「そ、そうなんですか?」
「おぞましさで有名な施設が完成したというので見に来ました」
にこりと微笑むラナー王女。
以前にも増して笑顔の輝きが激しい。
政治手腕にも磨きがかかり、言いくるめられるものは居なくなっているという。
罪人に対しては容赦が無い、という噂があるようだが真実は分からない。
国の発展のためなら冷徹な判断も辞さない、というところから来ているのだろう。だからといって重税を課す案は出されていない。
「王国の皆さんは私がこの場所を乗っ取ると思われているかと思いますが……。取らずに利用する方向で検討しております。さて、下りるなら最適だという『六の宝物庫』に案内してくれるか?」
下りる位置をアインズが何故、知っているのだろうとンフィーレアは疑問に思ったが貴族達の視線が気になるので、案内していった。
アインズは案内されている間、周りの風景を
工事が終わった途端に
これが本来の姿なのだろうと思った。
拡張された宝物庫は地上から見ると凸凹していて面白みにかける姿だが、地下は広大にして荘厳。清潔なタイル張りの様相が一望できる。
本来、施設の出入り口は気がつくと消えているのだが、六の宝物庫はンフィーレア達のために開放されているので、入ろうと思えば野盗でも侵入出来るかもしれない。
大きな箱などを入れるために扉はかなり大きい。
「こちらでございます。案内は得意ではないし、実際のところどんな役割なのか聞いていません。保管庫、ということくらいしか分かりませんが……」
申し訳無さそうに言うンフィーレアに対してアインズは手を振った。
「だいたいは把握している」
「そ、そうですか」
アインズが手をかざすと扉が自動的に開いた。
その中に真っ先にアインズは入っていく。その後を追うようにレエブン侯とラナー王女達が『マグヌム・オプス』に飲み込まれていくように消えていく。
視察にはもう一人の人物が居た。
リ・エスティーゼ王国国王のランポッサ三世だ。
すぐさまンフィーレアは平伏する。
杖は突くが自分で歩けないほど老いてはいないしっかりした足取りだった。
その国王の周りを『ガゼフ・ストロノーフ』と現王国戦士長『ブレイン・アングラウス』が付き従う。
国家の重要人物が大勢押しかけてくるとは思ってもみなかった。
だが、もう一人居なければいけない六大貴族入りしたヤントラの妻『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』の姿は無かった。そして、イビルアイの姿も。
六の宝物庫は二階層になっているのだが高い天井に白いタイルの壁と天窓から降り注ぐ光りで明るい空間となっていた。
「随分と……、何も無い空間が広がっているな」
「思ったより広くなってしまい、余裕がありすぎるんです。将来を見越しているんでしょうが……。運んだ荷物は壁際にある分くらいです」
しかも遠くて見えにくい。
アインズは何とか見えているのだが、動植物の保管庫というだけあって様々な種や野菜、家畜類が保存されているのだろう。
「下に牛がたくさん居ると……」
「はい。格子状の柵に百頭は居るんじゃないかな。それでも全体としては少ない気がする、ほど広いんです」
思ったよりも広くてびっくりしたとヤントラ本人も驚いていたくらいだ。
「ここには誰も入らないのか?」
「六の宝物庫は僕たちも入っていいそうです。植物とか置きに……。この下も一応は降りられます」
騎士達が部屋の中に散開するが武装したままタイルを踏むとピキっと硬質的な音が室内に響く。
侵入者は音消しの魔法でも使わないと歩けないかもしれない。
「この空間は各地の植物などで埋める予定なのだな。しかし、なんでこんなに広いんだ?」
「正方形の設計だからだと思います。無駄に広いな、とヤントラさんも言ってました」
「……バカだな、あいつは」
そう言うとンフィーレアは苦笑した。
「……吹き抜けでは無駄な空間が出来てしまうわけか……。三階層……、いや、それは無理か。中途半端になってしまうものな」
作った後で大失敗に気づくようなものなのだろう。
思ってたのと違う、ということはアインズにも経験がある。
「侵入者を迎撃するトラップはあるのか?」
そんな疑問が国王を守護する従者達の間から聞こえてきた。
床の状態から見て、破壊活動に関する罠は置いていないだろうとアインズは予測する。
魔法的防御がタイルから感じ取れない。
「たくさんメイドさんが居るはずなのですが……。奥に行かないと出てこないのでしょうか?」
と、ラナーが言うとアインズは意外に思った。
王女は過去に入った事がある、ということだろうか。
様々な人間に見せているようだからありえないことはないだろう。
少なくともガゼフ達は知っているだろう。
「王国にも隠し事があるのか、それとも一部の人間には公開したのか……。判断基準が分かりませんね」
「私が言うのもおかしな話しだが……、奥まで進んでいいものか……」
「まあ、レエブン侯は頻繁に来ているのではなくて?」
「いいえ。二回ほどでございますよ」
「僕は割りと多いです。荷物を運ぶのを手伝ったりとか」
「それは一の宝物庫以外ではないかな?」
アインズの指摘にンフィーレアは頷いた。
「全てを見せてもらったわけではありませんが、危険なところには行かせないように注意は受けています」
「ほう、危険なところがあるのか」
「一の宝物庫の地下一階部分と大浴場の上の階のようですね。どちらも繋がっているようですが、使用するときは内緒にするそうです。使わないときはガランとしているとか」
大浴場の上の階。あまり呼ばないが三の宝物庫の地下一階である。
地上階があるのは一の宝物庫だけ。
話している時点で秘密じゃないだろう、とアインズは苦笑する。
移動するのには距離があるのでアインズは『
効果範囲は要人を中心にし、残りは自力での移動になる。
目的の扉まで飛行し、アインズは無造作に開く。地下一階部分に設置されている扉は五と七の宝物庫への通路。
床面には車輪が通る跡が設置されていてどちらに扉を開けるか分かりやすくなっていた。
六の宝物庫の地下二階に下りれば牛がたくさん居る光景が広がる。
ナナメの位置にある三の宝物庫へは直接は行けないようだ。だが、アインズの視界には怪しい雰囲気が立ち込めていた。
「ナナメに扉はあったかな?」
「角には何も無かったような……」
隠し扉的なものもあっても不思議はない。
工事関係者の話しでは隠し部屋はあるらしい、と秘密が漏洩されていた。
そんな部屋があちこちあるからメイドが湧き出ているように見えてしまうのだろう。
「屠殺場があるならモンスターが待ち構えているかもしれませんな」
噂で聞いたのか、従者が言った。
隠し事の多いアインズからすれば今の発言をした人間は殺すかもしれない。
意外と秘密が漏れてるぞ、と叫びたくなってきた。
七の宝物庫。ここも地上とつながっているので帰ることは容易い。
二階層になってはいるが内装はまだ
「未完成か……」
「ゴウン殿は全てを見るおつもりですか?」
「場所としては色々と見たいのですが……、
そこは金貨の山がある場所だ。
そこへ行くには地下二階に下りて屠殺場か大浴場を通る必要がある。
七の宝物庫からも行けなくは無いが秘密の場所に立ち入る事になるだろう。
広い空間を支える太い柱。これが無ければ重さに耐え切れず中心から崩れ落ちてしまう。
仕様に頼らない建築であれば色々と不自由なことはあるものだ。
階段もしっかりと丈夫に作られている。高さがあるので王には大変だろう。
適度に『
見取り図はアインズも手に入れているのだが、現場は想像以上の規模で距離が離れていた。
作った、というか作らせた人間も『思ったより遠いな……』と思った事だろう。
本当にバカだな~、と思う。
ナザリックの面々では多くの意見が議論されたり、検討がされるのだろうが、それが居ない中で作るのだから仕方が無い部分も理解できる。
これでも足りなくなるような時が来るかもしれないし。
新しい計画の参考にもなるだろう。
ジルクニフに見せたら、広すぎて駄目だなと言うかもしれない。
まずアインズは大浴場への扉を開けた。
女湯ならば恥ずかしい場面が展開されるのだが、聞いた話しでは混浴のようだ。
本来は複製の洗浄などの洗い場として使用されるのだが、普通に風呂としても使える。
沸かしたままなのか湯気が立ち上っていた。
「……ここを通るのが早いのだが……」
エリアエフェクトを変更すれば楽かもしれないが超位魔法をこんなところで使うのももったいない。
風呂場は特色が無く、格子状に並んでいるようだった。
全体を一気に沸かせられないからかもしれない。
広大な水を温めるのは物凄いエネルギーを必要とする。なので小分けしておくことで負担を減らしているのだろう。
アインズは扉を閉めて屠殺場へ、と思ったが遠回りになってしまう事に気づいた。
冷やすために『
支配者として命令を与えるという意味では正しい行為かもしれないのだが。
とはいえ、そのためだけに『
もったいない事は支配者はしたくないです、という図式で諦める事にした。
「……ん」
大浴場の奥からカツンカツンとタイルの上を歩く音が聞こえてきた。
予定通り、というところだろう。
「ふむ。調査は済んだのか、ガンマ」
そうアインズが言うと数十メートル先からやってきた人物はその場に片膝をつく姿勢をとる。
ちょっと声をかけるのが早かったかな、とアインズは思った。
恭しく頭を下げるのは仮面をつけた戦闘メイドだった。
「一部の扉は封印されておりました」
ラナー達は大浴場を覗き込むと戦闘メイド以外は誰も居ないことを確認する。
「そういえばメイド達が出てきませんな」
「神出鬼没のメイドな。……今日は休みか?」
アインズの感知能力では無人では無い事は分かっている。
レエブン侯は奥まで進んで大丈夫なのか心配だった。
国王の側にはガゼフ達が控えてはいるのだが、相手はアインズ・ウール・ゴウンを手玉に取る変態だ。
表現は悪いが、警戒は必要だろう。
「屠殺場は無人でございました」
「分かった」
報告の終わったガンマは静かに三の宝物庫の扉を開ける。
入らずとも漏れ出る黄金の輝き。
国王はうっすらと見える光景に軽く唸るのみだ。