※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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第十章 万魔殿
J-1 豚鬼が現れた


 宝物庫『マグヌム・オプス』の謎解きを終えたアインズ達とは別行動を取っていた変態プレイヤー『ヤントラ・サルヴァスパ・デイル・アインドラ』は聖王国に向かう途中にある大森林の中を歩いていた。

 国境を越えるかもしれないから仮面や外套をまとって変装している。

 目に付く動植物は鑑定しつつ採集していく。

 傍目からは植物学者のように見えるだろう。または隠密行動している暗殺者(アサシン)だろうか。

 採集の為の準備を整えたお陰で作業ははかどっていた。

 この辺りは無数の亜人達が紛争を繰り返しているところだという。

 それなら気兼ねなくヤントラは突き進める。

 植物に詳しくないので麻薬類も混じるかもしれないが、それはンフィーレアに任せよう。

 すっかり彼は助手のような扱いだ。

 今頃、宝物庫は大破しているかもしれないが、その時はその時として諦めればいい。

 

 というわけにはいかないか。

 

 対策は取っているがどう転ぶかはアインズ次第だろう。

 野盗対策は出来るのだが、全員始末していたら荒らし放題だ。

 ソリュシャン(粘体系)型が居るから大丈夫か。倒されていなければだが。

 周りに凄腕プレイヤーが居ないせいで圧倒的な存在となってしまった。本来は大した実力は持っていないのだが、困ったものだと何度も思う。

 PK(プレイヤーキラー)による未知のクラスを獲得できるという情報のせいで異形種狩りが始まり、戦争状態に陥っていた。

 その中で何故か、ヤントラも巻き添えにあっていたわけだが。

 別段、それは取るに足りないことだった。

 逆行程度は良い刺激だ。

 そんなことでは世界王者(ワールドチャンピオン)には勝てない。

 スキルをろくに使えないヤントラはスキルを駆使するプレイヤーには遠く及ばない。

 原住民は普通の攻撃でも対処できる。

 いずれは多種多様なスキルを使う輩(やから)が出てくるかもしれない。

 百レベルプレイヤーならまだしも八十レベルまでの相手には遅れは取らない。

「……聖王国まで行こうかな」

 広い森の中を進むが珍しい植物はあるにはあるが違いはいまひとつ分からない。

 植物系モンスターも居るかもしれない。出来れば小型がいい。人型ならなお良し。しかし、エロいことしか浮かばない事にヤントラは辟易(へきえき)する。

 目に付く木の実なども集めつつ、出会う様々なモンスターも収集していく。

 地面の中に住むモンスターは陥没しそうだから却下としておこう。

 虫系も居るには居るのだが、持ち帰るのが大変そうだな。

 犬や猫系のモンスターも念のために捕獲しておくか。という軽い調子で突き進む。

 魔獣系は奥まで行かないと出てこないのだろうか。

 大地の狼(フェンリル)とか。

 身体が大きいから保存は大変そうだ。

 サクサクと植物を集めるが根こそぎ取ってしまうと生態系に影響が出るだろう。

 あと、適度に土も持ち帰る。

 特有の土地も大事だろう。

 木は小さいものなら持ち帰れるが大木は無理だな。

 せいぜい根の一部か。

 そんな事を続けて数時間後に森を突破する。

 アベリオン丘陵(きゅうりょう)と呼ばれる荒涼(こうりょう)とした大地が広がっている。

 どんなモンスターが居ようが気にするほどのことも無く。

 地図にある聖王国に向けて突き進む。

 今日はどんなところかの確認だけで引き返す。

 亜人系が部族単位で争う場とはいえ、特に変わった種族が居ないのは残念だ。

 人蛇(ラミア)とか。というかみんな女の子だが。

 屠殺場用のモンスターは必要なのだが気持ち悪いのは持って帰りたくない。

 土の採取意外はめぼしいものも無い。

 後は真っ直ぐに進むしかないわけだが、珍しい生き物でも発見したのか、亜人が寄ってくる。

 主に豚鬼(オーク)が多い。

 大抵は食料だと思って襲ってくるので、普通に撃退しておく。

 特に採取する価値は無いな。

 日が暮れる頃に聖王国の国境にたどり着くが、襲撃の痕がおびただしい。

 雑魚モンスターにスキルを使わないせいで使い方を忘れてきたのかもしれない。

 夜も更けていくと荒涼とした世界に闇が広がっていく。

 夜には夜のモンスターが居て、夜行性の獣から悪魔も出てくる可能性がある。

 盗賊(ローグ)系のクラスを修めているので夜間の活動は特に問題は無い。

 様々な事に対処できるクラススキルなどはとても重宝している。

 『闇視(ダークヴィジョン)』は仮面にも備わっているので気配などに気をつけていけば安全に進める。

 見晴らしの良い場所に女性型モンスターが居る方が珍しいだろうな。

 野良メイドはさすがに居ないだろう。

 人食い獅子(マンティコア)や飛竜(ワイバーン)が関の山かも。

 特定のモンスターの名前を言ったら出てこないかな。

「女淫魔(サキュバス)みたいな女性型モンスターなら大歓迎」

 夜間とはいえバカみたいに大声を出すのも少し恥ずかしい。

 デミウルゴスが近くに居るはずなのだが、名前を呼ぶのはさすがに可哀相というか妨害行為になってしまうだろう。

 アンデッドや動死体(ゾンビ)などが出てくるのは嫌だな。

 夜中にぽつんと花弁人(アルラウネ)とか森精霊(ドライアード)が居るわけも無く。

 巨乳なら何でも言い訳ではない。

 美形の男性モンスターは亜人には少ない気がするな。筋肉がいいってものでもないし。

 その点では獣人(ビーストマン)や蜥蜴人(リザードマン)はまだましかな。

 王都を襲撃してきた中に居たモンスターはほぼ気持ち悪い悪魔系。

 雑魚は気持ち悪いのしか居ないということだろうか。

「人猫(ワーキャット)って居ないのかな?」

 あまりの寂しさについ声に出してしまった。

 おっさんの人猫(ワーキャット)は嫌だな。

 

 辺りを見回すといくつかの天幕に明かりが灯っているのが確認できる。

 亜人達は天幕を張りながら移動するようで、明日には別な場所に移っている事だろう。

 暇つぶしに一つ一つ潰すような可哀想なことはせず通り過ぎていく。

 近づく亜人は等しくバラバラに散っていくのだが。

 そんな事はお構いなしに散歩がてら天幕を確認していく。その中にひときわ大きな天幕があり、いかにも強敵が居そうなたたずまいを発見する。

 夜間になっても亜人、大半が豚鬼(オーク)だが、彼らの出入りは激しかった。何故だろう。

 それはヤントラが通り過ぎた後に亜人のバラバラ死体が転がるからだよ、と。

 歩いているだけで襲ってくるのだから仕方が無い。挨拶はした。無視した奴は後ろに転がるだけだ。

 それにしてもよく切れる武器だ。

 肉体を切断するのに適した武器がこれほど脅威になるとは。

 もちろん酸や武器破壊には弱いのだが。

 使いこなせば昆虫(ビートルやインセクト)系や亀(タートル)系でも無い限り、サクサク切れそうだ。

 暗殺者(アサシン)こえー。

 関節を狙えば骸骨(スケルトン)系もスパスパ切れそうだ。元々人体を切っているから斬る分には大差ないだろう。

 こんな武器を作ってくれたナザリック地下大墳墓第十階層に居る鍛冶師の皆さん、ありがとうございます。

 まさかこんな事に使われるとは思わないだろうな。

 敵を倒すためだとは思われているだろう。

 牛頭人(ミノタウロス)や人馬(ケンタウロス)。様々な種族は他にも居ればいいのだが、この近辺は豚鬼(オーク)などしか居ないのかな。

 アーグランド評議国は様々な亜人が冒険者として住んでいるというから今度、狩りに、ではなく様子を見に行こう。

 亜人狩りをするスレイン法国のせいで種類が減っているのかな。

 豚鬼(オーク)を目の敵にしているわけではないが、住処を見つけてしまったのだから仕方が無い。

 慌てふためく豚鬼(オーク)を眺めつつ闇に潜んでいると中から豚鬼(オーク)以外のモンスターが現われる。

 純白の衣装に烏(からす)のクチバシを模したような仮面を被った道化師風の人物。

 デミウルゴスの配下の一人『プルチネッラ』という。

 悪魔系は人間の天敵のような性格設定が施されているので知らない人間は話しぶりだけで恐れを抱くだろう。

 彼の後ろから背の高い拷問の悪魔(トーチャー)が複数出てきた。

「今夜わやけに騒がしいですね」

 軽やかに歌う様にプルチネッラは言った。

 手下と思われる豚鬼(オーク)が何事か報告している。

 ここから魔法を撃ったら面白いだろうな。などと物騒な事を考えつつ様子をうかがう。

 気配を消すのも探知妨害なども展開しているので目の前にバカみたいに居ない限りは低位のモンスターには発見されない。

「襲ったら……。ふむふむ、返り討ちにあったのですね」

 仲間を集めて討伐しようと言う案が出されるが、それはプルチネッラの興味を引くものではなかったのか、豚鬼(オーク)達の好きにさせる事にした。

「全滅しないように何匹かわ、残ってくださいね」

「へい!」

 豚鬼(オーク)達が襲撃者を探しに松明などを持って散り散りに走っていく。

「敵でしょうか?」

 拷問の悪魔(トーチャー)の一人が言うとプルチネッラは口元に手を持っていく。

「おそらくわぁ……、お客様かもしれません。丁重にお出迎えをするのですよ」

 軽く笑いながら天幕の中に戻っていくプルチネッラ。

 相手の正体が分かってて潜むのはいかにも襲撃者っぽいなとヤントラは苦笑する。

 悪魔の根城にしては質素な雰囲気に驚くのだが、中は色々と装飾されているのだろうか。

 豚鬼(オーク)を従えているようだが、他の種族は居ないだろうか。

 小鬼(ゴブリン)とか人食い大鬼(オーガ)は見飽きてきた。

 豚鬼(オーク)も珍しい部類ではないが、興味は引かないなと思った。

 やはり女体。

 人蛇(ラミア)とか女の子の竜人(ドラゴニュート)とか居てほしい。

 その願いが通じたのか、腰から黒い翼を生やした裸に近い格好の女悪魔女淫魔(サキュバス)が数人天幕から出てきた。

 アルベドに比べると大人しく見えるが悪魔だ。

 ユグドラシル時代では十八禁に触れる行為は厳禁と言われているようだが、今の世界とヤントラにはク(・)ソ(・)食(・)ら(・)え(・)の約束事だ。性行為はやりまくってるし。

 摘発(てきはつ)はアインズならば恐れるだろうがヤントラは既に摘発対象に入っている、はずだ。

 できる(アカウント抹消)ものならやってみろ。それはそれで、おめでとう(今までご苦労様でした)と言ってやりたいところだ。

 女淫魔(サキュバス)達は豚鬼(オーク)にいやらしい目で見られつつ門番のように立ち尽くす。

 身体に触れようとする豚鬼(オーク)は容赦なく引っぱたいた。

 しばらく様子を見ていると別の女性型モンスターが姿を見せた。

 下半身が蛇。下半身が蜘蛛。他にも色々。

 上半身だけ女性ならなんでもいいわけではないのだが。

 これが有名なハニートラップ(女体の罠)だろうか。

 期待に応えずに帰ったら彼女たち(この場に居る女体達)は泣くだろうな。

 自然界に居るモンスターをナザリックが接収すると見つけるのが困難になるし、手に入れるのが難しくなる。

 野郎(醜いオス)が居てもいいが美形は少ないのかな。

 女淫魔(サキュバス)以外にも女性悪魔は居たはずだが、あまり入り口に固まっていると入りにくいだろう。というか、中は広いのかな。

 それぞれ剣、槍、メイスに棍棒などを持っていた。

 暗がりだから弓は持っていないようだ。

 闇夜に矢を放って上司に当たっては一大事だ。

 それよりもデミウルゴスも意外とハーレムが好きなところがあるのかな。そんな話しはウルちゃんからは聞いていないのだが。

 色々と疑問に思うけれど、豚鬼(オーク)の中に綺麗どころが居るのは嫌いではない。

 そういえば何しに来たんだっけ、とヤントラは首を傾げて数分間、熟考する。

 動植物の採集と聖王国の様子と目の前の天幕。

 亜人狩りに来たわけではないが、ひと時の目の保養は大事だろう。

 悪魔ばかりかと思ったが、それ以外にも居るものだな。

 それにしても豚鬼(オーク)は夜中でも活動するんだな、と早く寝ろと思いつつ物陰から姿を現すヤントラ。

 一部の豚鬼(オーク)はそれぞれの天幕か見張りに出払い、待機している女性型モンスターが居るだけとなった。

 もうすぐ真夜中になるが『永続光(コンティニュアル・ライト)』や松明などで辺りは比較的、明るい。

 荒涼とした大地なので水源や食料の確保の観点からも森に近い位置に拠点を作るのは大切だろう。

 中ほどの拠点は迎撃用。

 それにしても亜人達はどんな目的で戦っているのか、さっぱり分からない。

 分かってしまうとファンタジー感が無くなってしまうか。

「こんばんは」

 まずは軽い挨拶から。

 急に姿を見せたせいか、彼女たちは武器を手にしたまま身構えた。

 得体の知れないモンスターだと思ったのか、一様に恐怖の色を浮かべていた。

 お前達の方が得体の知れないモンスターじゃん、とつい言いそうになる。

「な、何者……」

「ま、待って……」

 と、彼女達の間で会話が交わされる。

「私は旅の商人……、ということにしてくれると助かるよ。襲撃する予定は無いので」

「……こんばんは。た、旅の方でしたか。こんな夜更けに……」

「……一人ですよ……」

 とヤントラが言うと周りを警戒していた女性達はそれぞれビクっと身体を跳ねさせる。

「い、今。責任者に確認を取ってきます」

「大きな声を出さなくても聞こえますから、落ち着いて」

「は、はい。すみません」

 見た目には仮面をかぶり、闇夜に溶け込むような外套で姿を隠した怪しい人物に映っている。

 それでも武器は携帯せず、優しく声をかける。

「皆さんはこの辺りの出身ですか?」

「いえ。様々なところから集められた、と言ったところです」

「女性型は中々見かけないので、誰かが乱獲したのかと思ってました。とある国では森妖精(エルフ)を乱獲しているらしくて腹立たしい限りです。闇妖精(ダークエルフ)の集落とか知りませんか?」

「……詳しい事は存じません」

 明らかに人蛇(ラミア)と思われるモンスターが下半身を器用に動かして辺りを警戒する。

 頭に蛇があれば石眼の人蛇(ゴーゴン)系だが、それは居なかった。

 鳥系も居ない様だ。

 なんでも女体化すればいいというものでもないが。

「商人と言っても……、奴隷商人ではありませんよ。女性が好きなだけですから」

「そう……でしたか」

 見張りに使うようなモンスターなら低位モンスターが多いのだろう。

 または中位ほどか。

 こんな場所に高位モンスターを出す場合は中に居る人物が高貴な存在で無ければならない。

 プルチネッラでは中位どまり、ということだろう。

「お、お待たせしました。中へどうぞ」

「お邪魔します。……暴れたりしませんよ」

 そう言いつつ天幕の中には居る。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 天幕の中は外から見るよりも広くて高い。

 奥には重要人物が座する玉座のような椅子があった。

 それは見事な白い骨で作られていた。出来栄えの程度からは高貴な存在のために作られたのだろう。

 現在、その玉座には誰も座っておらず、プルチネッラは自分用の椅子に座っていた。

 他にも従者が控えていて、こちらは床に直接座って居る。あと、大半は立ったままだ。

「ようこそおいでくださいました。旅の商人様。こんな夜分に宿泊ですか? あいにくとここは宿泊施設でわありません」

「寝袋は携帯しておりますので。……他人行儀な茶番はおいといて」

 ヤントラは仮面を外し、素顔をプルチネッラに見せた後で被りなおす。

「これわ失礼いたしました」

「いやいや、そのままで。今日は動植物の採集に聖王国の様子などを見るついででやってきました。それにしても豚鬼(オーク)に挨拶すると殴りかかってくるのは彼ら流の挨拶なのでしょうか?」

「いいえ。それわ災難でしたね」

 プルチネッラは部下と思われる女淫魔(サキュバス)に入り口を封鎖するよう命令する。

 外に出ていた女性モンスター達も中に入り、小部屋に移動していく。身体の大きい者は壁際に控えた。

 天幕の中はいくつかの部屋があり、森の奥に繋がっているのもあるようだ。

「そうそう、伝言を頼みたいのだが……。よろしいかな?」

「はい」

「以前、不機嫌だったのは寝ているところを叩き起こされたのと、寝不足が残っていたからだ。それぞれの仕事は尊重している。と、お伝えください。出会いがしらに殴りかかるような事はしませんよ」

「承りました。まあ、なんとお優しい方なのでしょう」

「それにしても女性陣が多いのですが……。主人の趣味でしょうか?」

「それわ、ご命令で呼びつけただけで、特に意味わ無いかと」

「あまりモンスターを乱獲されると小鬼(ゴブリン)や人食い大鬼(オーガ)ばかりになって面白くありません。花弁人(アルラウネ)とか水精霊(ウンディーネ)とか欲しいです。こほん、失礼。つい煩悩が」

 プルチネッラは軽く笑いつつ姿勢は崩さない。

「風の噂でこちらで羊皮紙を生産しているとか」

「お耳に入っておりましたか。確かに低位のスクロール生産を行(おこな)っております。それを買いたいと? 勝手に売買する事わ許可されておりません」

「拷問の悪魔(トーチャー)が行(おこな)っている作業風景などを見学できればいいのですが、説明だけでも聞けませんか? 材料はあるけど職人が……、おりません」

「あら? ご同業の方……でしたか」

「メモ帳が心許ないので。スクロールは……まだ取り掛かっておりません」

 話しを合わせるのはそれぞれの立場を尊重するためだ。それはプルチネッラも気付いているようで、許可された範囲を説明する。

 拷問の悪魔(トーチャー)の名前を出している時点で色々と見抜かれていることは感じていた。だが、それをやめろとは言われなかったのが不思議だった。

 いざとなれば女性型モンスターを提供してでもお帰り願え、と言われている。

「そういえば、低位のスクロールだけ生産しているのですか?」

「そういうご命令です。中位や高位わまだ研究段階かと」

 現時点では第三位階程度のスクロールしか作る事ができない。というか第二位階以上はなかなか安定供給できなくて困っている。

 魔術師ギルドで販売されているスクロールは低位のものばかり。

 国によっては高い位階のスクロールを販売しているかもしれない。帝国とか法国とか。

 ユグドラシルのスクロールは二位階ずつ素材が変わっていく。

 第九位階と第十位階にドラゴンハイドが使われるように。

 この世界では色々と秘匿情報があるので制作方法は強引な手を使わないと判明しないだろう。

 メモ帳程度なら羊や山羊、他の動物で製作されているだろう。

 金貨で作られるなら手っ取り早い。そもそもアイテム製作において選択肢を選んで無から有を作り出すようなことがいまいちよく分からない。

 釜の中の溶液を混ぜるだけで出来る、とかバカみたいな事もあるようだし。

 ぜってー無理だろ、と突っ込みたくなる。

「……だいたいの予想は出来ているし、私も人には言えない……、言っちゃってる部分はあるが様々な実験をしてきた。ここに来たのは潰すつもりではないことも伝えてください」

「畏まりました」

「実験段階だから量産体制にはまだ入っていないと?」

「司書長の意見を聞きつつ材料を提供しているのです。本格的に稼動させるのが楽しみなのですが、芳しくないご様子で」

 スクロールの事はプルチネッラに聞いても仕方ないし、司書長と話せばいいことだ。

 プルチネッラは主から連絡が来たのか、一時、退出した。その間に女淫魔(サキュバス)の一人が飲み物を持って来た。

「どうも」

 デミウルゴスとはあまり話す機会がない。というか無理して全員と同じ時間分話すわけではないから仕方が無い。

 恐怖公とか他の領域守護者とか。

 メイドとも特訓が続いて会っていない。

 宝物庫に居るのは人形のようなメイドだ。自我を持てばそれなりに話しができるのかもしれないが、本物が居るので少し怖くもある。

 折角来たから骨の玉座でもぶっ壊すか、という考えが過ぎったが通り過ぎてもらった。

 悪魔が用意した飲み物は何かの体液か、毒液か。

 見た目には色はついているが透き通っている。

 問題なのは酒類かどうかだ。

 こっそりと鑑定するとアルコール類ではないようだ。あと、飲んでも大丈夫な代物だと判明する。

 安全だろうと酒類だけは駄目だった。

「な、何かお飲み物に異常でも?」

 慌てた女淫魔(サキュバス)がヤントラ尋ねる。

「ああ、酒類だけはどうしても駄目なもので……」

「気がつきませんで申し訳ありません! こちらはこの地域で取れる草を煮出したグリーンティーでございます。……説明が……不十分で申し訳ございませんでした」

「客に出すときは気をつけるんだよ。例えば、予め苦手なものを聞くとか。事前に調べられない事があるから、思い切って質問する事も大切な事だ」

「ありがとうございます」

 デミウルゴスに嫌がらせでも受けているのか、部下は大切にしなければいけないだろうに。

 悪魔だから仕方が無いか。

 というか草なら何でも茶にはならないと思うのだが。何の草だろうか。

 雑草だろうか。

 毒性は無いようだが。

 折角なので飲んでみると青臭さが際立ち、とても飲める代物ではない、ということはなかった。

 人間相手とか亜人相手だから、そこらへんの草でも煮れば良い、とかちょっと思ったが美味しかった。

 間違ってまずい茶をプルチネッラに出したらどういう反応をするんだろうか。

「……うん。自分で分からない飲み物は出すべきじゃないね」

「重ねがさね申し訳ありません」

 新人さんかな。

 会社でドジっ子が通じるほど甘くないよ。可愛いから許してしまいそうになるけど。

 部下を恐怖で縛れば不測の事態になる。

 アインズにそれとなく部下の教育論について聞いてみようかな。

 

 数分の会話を終えてプルチネッラが戻って来た。意外と時間がかかったのは伝言(メッセージ)のせいもあるだろう。

「お待たせいたしました。デミウルゴス様がお礼を述べておられました。それと会議のために今日わお戻りになられないとのことでございます」

「無理に来て貰わなくて結構だよ。与えられた仕事を優先すべきだ」

「……ところで羊皮紙を生産された後わ……、ご商売にお使いになられるのですか?」

「メモ帳として個人的に使おうと思っています。今は金貨より物々交換のような商(あきな)いになっているもので、税金対策も必要なのですが……。……商人系のクラスを持っていないので苦手なのです」

 と、ところどころ小声で話した。

「あと、人材が居(お)りません。……居るには居るんですよ。命令を与える時の命令書が無いので」

 プルチネッラは少しの間、ヤントラの言葉を頭の中で整理していく。

「店はあるのに品物がない、というような事でしょうか?」

「似たようなものですね。店主は居るけど店員が居ない、みたいな感じです。大量生産したいけど、お手伝いさんが誰も居ない、みたいな。表現が難しくて困りますな、あはは」

「あらら……。それはお困りでしょう」

 大規模な店なら多くの店員がいなければ苦労する。それはプルチネッラも想像出来る。

 伝えたい事があるのに部下がいない、ようなものでもある。

「今は色々な職人の意見を集めている、というところです」

「そちらも羊をお使いなので?」

「仔牛を使う予定です」

「牛……ですか? 山羊とかではなく?」

「伝え聞いたところでは牛や鹿の羊皮紙もあるようです。魔法のスクロールに適しているかは分かりません。魔術師ギルドの収入源に関わるので色々と秘匿はされているでしょう。平地だからか山羊は……、山岳方面に行かないと手に入らないかもしれませんね。……確か純白に近い羊皮紙になるんだとか……。いずれ購入できたら確認したいですね」

 仔牛などは高級品の部類だが魔法のスクロールとしての優秀さは不明。

 家畜の全てを無駄にしない、という発想から羊皮紙は生まれたらしい。

 仔牛と言っても死んだ仔牛がよく使われる。

 手に入れるのも意外と大変な代物だ。普通なら。

 食肉や乳牛用なので羊皮紙専用としては育てられていない。ゆえに製品はとても高価だ。

 国の特別な行事などで使用される羊皮紙は紫などの色に染め上げたりするらしい。

 若い内の方が加工しやすく、使いやすい。肌のきめも細かく、毛穴が小さいという点からも好まれるようだ。

「私の権限で拷問の悪魔(トーチャー)をお売りする事わ出来ませんよ。貸し出す事も……今は無理かと」

「意見を聞くだけで結構ですよ。それに持ち帰るのが大変です。送ってくれるのであれば助かりますが……」

 羊皮紙の問題だけならプルチネッラの権限の範囲内で収まるようだし、売買契約に来たわけでも無さそうだと判断し、部下に命じて拷問の悪魔(トーチャー)を数人連れてこさせた。

 やってきた拷問の悪魔(トーチャー)の違いは全く分からない。

 身体についた返り血で区別しろと言われても無理かもしれない。

「では、あちらの部屋をお使いくださいませ。夜も更けてきましたので宿泊していただくように仰せつかりましたので」

「ご親切にどうも。……朝方豚鬼(オーク)に袋叩きに遭いそうですが……。そういえば亜人達の紛争が頻繁に起こっているというのに皆さんは彼らに協力するのは……」

「我らの主が拠点を作ろうとした場所がたまたま亜人達の紛争地域だった、というだけでございます」

「モンスターが絶滅すると冒険者は失業しますから大切にしたいものです」

「愛するものが居なくなるのわ悲しい事でございます。あなたもお優しい方なのですね」

「変態とよく言われますが……。では、部屋を貸していただきます」

 と、拷問の悪魔(トーチャー)と共にいくつかある部屋の一つに入った。

 プルチネッラは大事(おおごと)にならなかった事に安堵(あんど)し、主へ報告すると共に別の部下に天幕周りの警備を命令する。

 

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