※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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J-2 デミウルゴスが現れた

 複数人の拷問の悪魔(トーチャー)から本当にこと細かく羊皮紙の造り方を教わった。

 説明する拷問の悪魔(トーチャー)達も羊皮紙とは別の目的があるのではと勘ぐってしまったが、そういうことは無いようだった。

 皮の剥ぎ方、剥ぐ範囲に羊の労(いた)わり方、使う道具に溶液など。

 問題があるとすれば彼らの羊は普通の羊ではないと言うことだ。

 主からの説明では『アベリオンシープ』と名づけられている獣だ。

 手順と作業工程に日数をメモしていく。

 通常は死んだ動物を使うのだが悪魔達は生きたまま皮をはぎ、治癒魔法をかけていく。

 デミウルゴスの性格からは効率より悲鳴が優先されるらしい。

 当然、治癒の直りも遅くなるし、質も悪くなるだろう。

 調子に乗っていると後で叱られる気がするのだが、自業自得の部分があるだろうから指摘しない事にした。

 魔法のスクロールはここでは生産せず、加工の終わった羊皮紙を届けるだけだという。

 身振り手振りも交えた説明が終わり、拷問の悪魔(トーチャー)達に礼を言った。

 彼らが退出した後は用意された部屋で眠るだけだ。

 一人で色々と学ぶのは大変だ。拠点をいちいち留守にしなければならない。

 メイド達も柔軟な対応が出来ればいいのだが、柔軟すぎても駄目だろう。

 そもそも生産拠点を作る事になるとは思わなかった。

 欲望は果てしないものだ。

 パワーレベリングによる強化。

 一時的な夢になるだろうが引継ぎは存在する。やる気を出せば出来ないことはない。

 あとは強大なモンスターの討伐などの目的を残せば開拓くらいしかない。

 遠い未来まではすんなりと見せてはくれないが、限界突破も悪くはないだろう。

 翌朝、全身を縛られた上で野に放たれているかと思ったが、そういうこと無かった。

 ただ、豚鬼(オーク)達が入れ違いに来ているせいか賑やか、というかうるさくなっていた。

 タオルを濡らして顔を拭いたり、身だしなみに気をつけた後は軽い体操をする。

 今日も生きてるぜ、と生(せい)に感謝する。

 帰り際に天幕を燃やしたら面白いだろうな、という思いが過ぎった。

 あと、二度寝して夕方にしたら驚かれるだろうな。

 イタズラ心が騒ぎ出す。

 お父さんのようになっちゃいけないよ、と遠くに居る子供たちに言っておく。

 というか今は何時(なんじ)だろうか。

 時間の感覚が分からなくなる事が多いので時計は複数所持するようにしている。

 七時半。それでも外が騒がしいというのは元気が有り余っているのだろうか。

 約束していない事もあり、誰も起こしに来ないが頼んでいないから別に問題は無い。

 これが主人なら定時に起こすんだろうな。

 睡眠不要のアンデッドはずっと起きてて大変だな。暇な時はずっと暇で退屈だろう。

 仕事があるアンデッドは羨ましい。

 というか冒険者の仕事、全然やってなかった。

 このまま続けるのも不毛な気がする。なにせ一人だから。

 相棒は居ることは居る。アダマンタイト級だけど。

 魔導国の魔の手が王国周りにあるから仕事を請け負っても気になってしまう。

 三日ごとに国家の存亡を揺るがすモンスターが頻繁に現われでもしない限り、暇な日が多いな。

 自然界に居るモンスターが雑魚ばかりと言うのもあるだろう。

 巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)。

 これが大量に居れば討伐してもいいが、稀少なモンスターは残しておきたいな。凶悪な特殊攻撃が無ければなお良いけど。

 ゲーム時代は気にしなくて良かった事が今は色んなことを気にするようになってしまった。

 八時になる頃に部屋を出ると昨日は居なかった人物が骨の玉座の近くに居た。

 顔立ちは東洋系で黒髪のオールバック。丸メガネにネクタイ。

 ビジネスマン風の服装。紳士的なたたずまいをかもし出している。だが、銀のプレートに包まれた尻尾があり、先端は棘が複数生えていた。

 ナザリック地下大墳墓第七階層守護者。

 炎獄の造物主『デミウルゴス』だ。

「おはようございます、お客人。よく眠られましたか?」

「お陰さまで。勝手な訪問を許していただき感謝しています」

 挨拶の後、互いに見つめあう。ただし、ヤントラは仮面を被ったままだが。

「有意義なご意見を聞かせていただき感謝します。……それからなにやら騒がしいようですが……、何かありましたか?」

「この辺りはいつも騒がしいのです」

 微笑を絶やさないデミウルゴス。

 苦手としながらもヤントラには悪を象徴する立派な悪魔だと感心していた。

 天使は好きだが今のヤントラは悪魔寄り、というか極悪クラスかもしれない。

 カルマによって取得できるクラスも変わったりするようだが、酷い人間が出来上がったものだ。

 アインズが極善だったらどんな世界になっていたんだろうか。

「……お名前を伺ってもよろしいですか?」

 というデミウルゴスの言葉に我に返るヤントラ。

「旅の商人で結構ですよ。こちらはご主人様とお呼びいたします。……ここの主、という意味ですよ」

「……なるほど。了解いたしました」

「それにしても立派な玉座ですね。染みが全くないとは。それは運ばれたりするのですか?」

「お褒めに預かり嬉しい限りです。現地生産したものですから我が主が気に入っていただければお持ちします。ですが、素材が悪いのか、別の椅子をご使用しまして……。これはこれで我が忠誠心の証しとして置いておこうと思った次第です」

 主人のためにデミウルゴスがこつこつと本当に丹精込めて作ったのだろう。

「羨ましいですな」

「この椅子が、ですか?」

「いえ……。部下の居る風景と言うものが。人の輪をまとめるのが苦手だから一人で何でもやってしまう。仲間と呼べるものを手に入れたと思ったら……、何も命令出来ない。かといって従順な人形では虚しくなってしまう」

「人形では愛着が持てなくなってしまうから……、ですか?」

 デミウルゴスの言葉にヤントラは頷く。

「部下ではなく使い捨ての人形。言葉は悪いが、ご主人のご主人様から愛着もなく、命令どおりに動けと命じられ、要らなくなったら捨てられる。それを許容できますか?」

 この言葉をデミウルゴスは即答で『はい』とは言えなかった。

 仕える主人の命令は絶対。

 使い捨てになさりたいなら受けなければならない。それが忠誠心と言うものだ。

 ナザリックの糧となるならば。などなど思い浮かぶ。

 だが、愛着がない、というのはデミウルゴスにとっては少しばかり面白くない。

「自分の理想は面白いものと思っていたのですが、期待通りにはいかないようです」

「今は退屈していらっしゃると?」

「素材集めだったり、女体観賞だったり、おっと失礼。冷めやすい性格のようで長続きしません。今は自分の事より他人のお手伝いのような事をしているわけです。あっちこっちからお叱りを受けたりしますが……」

 目的もなく突き進む。

 未知の結果の方がいいが、良い結果は避けたいと思っている。

「ああ、あと自分の思い通り過ぎて新しい発見の楽しみがない、というのもあります。未知の冒険が好きですから。時には結果が伴わない。それもまた冒険の醍醐味です」

 命の危険もあるけれど挑戦する事に意義がある、という意見もある。

「私には崇高すぎる領域かもしれませんね」

 と、デミウルゴスは言った。

 それはもちろん、アインズの考えなどの事だろう。

「失敗続きの大冒険ですけどね」

 失敗から学ぶ事は多い。

 成功が奇跡と思えるほどであればいいのかもしれない。

 これもまた経験だ。

「商人と言う事でしたが……」

「はい」

「我々に何か売っていただけませんか?」

 いつもの微笑みに戻ったデミウルゴスは言った。

「そう……。たとえば人間……のようなものとか」

 デミウルゴスは試す意味で言って見た。拒否されれば、それはそれで別に構わなかった。

「ご希望があれは詳細……、一覧表のようなものですね。そんな感じのものをいただきたい。子供は少ないですし、年齢ごとに集めたわけではない、ということもご了承ください。あと、運ぶのが大変なのです。ここら辺は馬車も通らないようだし……」

 森の中を突っ切ってきたし。

 スレイン法国に見つかるとうるさくなりそう。

「お急ぎでなければ出来る限りご用意しますよ。ただし、人形なので想像とは違うかもしれませんが……」

「似たものは確認しているので大丈夫です。分かりました。一覧表をご用意するのでお待ちください。この後は聖王国へ向かわれるのですか?」

「様子は見てきたので後は帰るだけです」

 デミウルゴスは一度頷いてから希望の商品を選ぶために退出していった。

 それぞれ役割の違う部屋になっているようだ。

 執務室に物置、部下達の宿泊部屋に会議室。

 正面からでは見えないが小部屋がいくつもある広い施設となっているようだ。

 防音はそれぞれの部屋に施されているようだが外の音はタダ漏れのようだった。

 慌しく賑やかで何を話しているのかはさっぱり分からない。さすがに盗賊(ローグ)系とはいえ数が多いと、ただただうるさいだけに聞こえる。

 デミウルゴスはこんなところで仕事をしていて楽しいのだろうか。

 楽しみがあるなら気にならないのかもしれない。

 飲食不要のシモベが多いのか、客人に飲み物や食べ物を出す事はなく、そういう風習に疎(うと)いのかもしれない。

 それはそれで別に問題ではない。

 自前の保存食は持ち歩いている。口寂しくなれば食べる事があるからだ。

 待っている間に勝手な飲食は失礼かもしれないので黙っていた。

 飲食不要の客人が多ければ仕方の無い事だが、豚鬼(オーク)達はどうなのだろうか。

 十分後に一覧をまとめた羊皮紙を手渡した。

 数としては千人規模だが手持ちの在庫の範囲内。年齢まではさすがに高望みしないらしい。というか集めている間に年が変われば意味が無い気がした。

 男女の偏りなくバランスの良い並びとなっていた。

「用意できそうですか?」

「子供は大変ですが……。問題は……、どうやって運びましょうか?」

 馬車は論外。箱詰めして持っていくしかないか。

 それより天幕に運ばないと駄目なのだろうか。

 タイル貼り、やってなかったな。

「近くに飼育場がありますので、無人のところに『転移門(ゲート)』を開いてもらいます」

「『維持の指輪(リング・オブ・サステナンス)』はどうします? 人形とはいえ生きているので。あと、自発的に食事はしません」

「ほう。それはいけませんね。食事までは失念していました。では、それはサービス、という形にしていただけませんか?」

 一覧表の数と予備の数を軽く引き算する。

「……さすがにそこまで便利な魔法は……、ないよな……」

 頼りたくなる便利な魔法。

 高い位階魔法はコストが大きい。

「保存となると『仮初めの停滞(テンポラル・ステイシス)』が良いのでしょうが……。コストが甚大(じんだい)ですからね」

 一回につきユグドラシルの金貨五百万枚かかる。現地通貨では金貨五万枚。貴族や王族に使うのであれば払えない金額ではない。

 単純計算で軽くユグドラシル金貨五十億枚となる計算だ。

 人形風情に使うには大出費だ。普通にアイテム製作を依頼した方が安上がりだろう。だが、人間のためにアイテム製作を依頼する事ももったいなくて出来ない。

 ヤントラは膨大な金額を予(あらかじ)め生産し、依頼している。

 過剰供給に対して資源も追加する。

 自前で作る算段はまだ出来ていない。

「死体なら『保存(プリザーベイション)』でもいいけど……」

 一気に千個の消失は大きいが千個以上の無駄遣いはしているのでサービスにすることに決めた。

 あとの問題は何処に『転移門(ゲート)』を設置するかだ。

 ヤントラ自身は『転移門(ゲート)』についてあまり詳しくない。

 知っている場所。または見た事のある場所に転移門(ゲート)を開き移動する。

 術者の近くに一つ目の転移門(ゲート)と移動先の転移門(ゲート)の二つが開く。

 維持するためにはMPを時間分だけ消費する、などなど。

 似た魔法に『上位転移(グレーター・テレポーテーション)』がある。これも高い位階魔法なのだが、大規模か小規模かの違いだろう。

 短距離、長距離。失敗するかしないかなど。

「工事は終わったんでしたか?」

「お陰さまで。既に職人達は引き払っていきました」

「では、お時間がかかると思いますので……。二日後……二日ずつ商品を回収させていただきたい。その時は旗(はた)などの目印を立ててくださればありがたいですね」

「了解しました。じゃあ……今から帰らないと……」

「ああ、無理に急がなくても大丈夫ですよ。二日おきに回収に向かわせますから」

「分かりました。焦ってしまうと混乱しますからね」

 一日いっぱいの『転移門(ゲート)』は階層守護者であっても大変だと聞いた事がある。

 誰が『転移門(ゲート)』を使うんだろうか。

 ご苦労様です、と見えない相手に言った。

 商談はまとまった。一方的な損(そん)ということもあるだろうが、家を空けたままなので心配で仕方が無い。

「では、二日後から回収に向かいます。……あ~、こちらも色々と準備をしますので御礼はちゃんとしますよ」

「それは楽しみだ」

 がっしりと握手をした後は大急ぎで自宅に帰ることにした。

 天幕の入り口から出ようとしたヤントラに裏口から森を抜けるようにデミウルゴスは配慮したので、帰り際に一礼した。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 帰りつつも植物や気になるモンスターを見かけては回収していく。

 問題は大木(たいぼく)、樹木類。これは枝や根などを切っておけば良いとンフィーレアに教えられた。

 森を抜ければ平原が広がる。

 そこかしこに生えている花も回収対象だ。

 そうして数時間後には宝物庫に到着する。

 煙などが上がって廃墟と化しているかと思ったが無事のようだ。

 地上部分を見渡し、リイジーが元気かどうか見てから施設内を点検する。

 七の宝物庫以外に控えているメイドの数が足りない。

 移動しつつ、報告係のメイドが簡単に様子を伝えていく。

 その後で金貨の貯蔵施設に向かうと山が崩されていた。

「謙虚だな。………。うん、まあいい」

 一つ頷いて他の宝物庫の様子も点検する。

 広大ではあるが見るべき部分は限定的なので時間もそれほどかからない。

 屠殺場を通って大浴場で残っているメイド達と共に洗浄作業を始める。

 それらを終えると六の宝物庫に容器を並べていく。

 室内を満たすには途方も無い時間がかかるだろう。

「次だな」

 デミウルゴスの依頼の為に素体の選定を始める。こればかりは短時間で出来ないのでメイド達を増やしておく。

 アイテム担当。素体を運ぶ担当。

 中身だけ必要なのでメイドでも出来る仕事だ。問題は溶液が無駄になってしまうことだ。

 予備はたくさんあるけれど。

 素体は大浴場に並べておく。

 人形とはいえ作業の時は淡々と無駄口を叩かずに行(おこな)うから、別にさびしくは無かった。というか集中しているから気にならないだけかもしれない。

 一覧表を満たすような並べ方をしていないから捜索するのに時間がかかる。

 年齢順とか性別順とか統一性を持たせた方がいいかもしれない。

 その前に七の宝物庫の内装をやらなければ。色々と仕事が残っていて忙しいな。

 半日かけて半分の作業が終わり、牛の世話をメイドに託(たく)す。ブラッシングと牧草の補充程度だ。本当はやらなくてもいいが気分的にやらせてみた。

 ナザリックに大急ぎで向かう。

 現在の魔導国は首都の製作の為に区画整理などが行(おこな)われていた。

 ログハウスもいずれは撤去されて代わりの詰め所が作り上げられるらしい。

 セバスから今後はログハウスまで来なくてもいいかもしれないと教えられた。

「そちらの宝物庫に『転移門の鏡(ミラー・オブ・ゲート)』を設置する計画が登りまして……」

「……本気か? いくら指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)が無くとも第十階層に直通だぞ?」

 第十階層の巨大図書室(アッシュールバニパル)が設置の候補に挙がっているとセバスは説明してきた。

「検討なので今すぐ、というわけではありませんよ。将来的にイビルアイ様のご協力が得られたりするかもしれませんので」

 当然、すんなり設置するわけには行かないのは階層守護者でなくとも理解できる。

「私的利用の『転移門の鏡(ミラー・オブ・ゲート)』は欲しいのだが……。それよりも私が居ない時は稼動しない施設だぞ」

 そう言われるとセバスも苦笑するしかない。

「……ああ、管理する者(プレイアデスの末妹)が居るから大事(だいじ)にはなりにくいか……」

 転移については後日にして、今は下に降りるのが最優先だった。

 ツアレのパワーレベリングというのも頭に過ぎったが今日は諦めた。

 複製でもいいのかもしれないが、本物に依頼する方が質も高い、気がする。

 例によって溶液と容器と指輪を依頼してみる。

 自前での製作にも挑戦すべきなのだが、来てしまったのは愛着なのだろうか。あと、膨大な量を依頼すべきか、少し迷った。

「数でお悩みですか?」

「もはや金貨の数を数えるのが面倒くさい」

 ティトゥスは苦笑した。

 大量注文するのだから仕方が無いだろう。

 金貨と必要な魔法や素材を媒介にするとはいえ、規定の料金が簡単に運べる量ではない。

「端数はシズ様に隠し金庫に入れてもらいましょうか?」

「入れるよりは使用した方がいいだろう。三つとも空にしてシズに自由に使わせた方がいいかもしれない」

「では、そのように……」

 少しオーバーする程度の依頼を済ませた。

 足りない金貨は施設から持ち出せばいい。

「いずれナザリックからの自立も考えなければならない日が来るのだろうな」

「最後の時までお仕事のご依頼はお待ちしておりますよ」

「ありがとう」

 心優しいナザリックの面々。

 ゲーム時代は無機質なメッセージの連続だったはずだが、世界の最適化の影響。アバターの支配なども関係しているのだろうか。

 そういう知りたくない事は無視したいところだ。

 第九階層に向かい、いくつかの料理を食べておく。

 以前は便利に使わせてもらっていたが指輪の影響からか、食のこだわりが無くなってしまっていた。

 地下にこもるし、妻の手料理もいつから食べていないのだろうか。

 数ヶ月前か。子供たちには離乳食をしっかり食べさせているのに。つい忘れそうだ。

 いずれは妻や真蒼の薔薇とも離れ離れになっていきそうだ。実際、彼女たちと随分と会っていないような気がする。

 関わらない方がいい、という選択肢もあるのかもしれない。

 これが本来の道筋というもの。

 施設内を稼動していけば自立した宝物庫として出来上がるだろう。

「どうかしたのですか?」

 メイドの一人が食べ物をじっと見つめるヤントラが心配になって尋ねてきた。

「んっ?」

「今日のお料理……、お口に合わなかったのでしょうか?」

「……久しくものを食べずに働いていたせいか……。食べる喜びを忘れかけていた」

「まあ。忙しくされていたのですね」

 料理がまずいわけではないと分かったのか、他のメイド達は安心したようだ。というよりは元気の無いヤントラを心配するメイド達に取り囲まれていた。

「こだわりがないと面白くないな」

「面白くない? おいしくない、わけではないのですね?」

「他人を健康にして自分が不健康では本末転倒だな」

 宝物庫に居るメイド達は話しかけてこない。

 憧れも無く、創造主を尊重していない。

 命令には忠実だが、それ以外は止まってしまう。

 それはきっと最適化されていないからだろう。

 与えた命令を最適化させる方法があれば独自の自我を構築するかもしれない。

 ナーベラルは抵抗しようとしたと言っていた。それが命令以外の最適化の影響なのかもしれない。

 デミウルゴスも独自の考えを持って動いている。

 月や星の民となる彼らが独自に動き出すまで数百年くらいはかかるはずなのだが、今はとても虚しい。

 数百年と言うのは『付喪神(つくもがみ)』の事で、百年経てば道具にも魂が宿るというものだ。

 実際に自我の無い肉人形が意思を持つのかは分からない。永遠に動かないこともありえる。

 出来る事なら自我は与えたいところだが、自我が芽生えない事も幸せかもしれない、という考えもある。

 自分の与えた命令以外の挙動も楽しみたいのだが、うまい解決策が欲しい所だ。

「……バスパ様、いつになく真剣ね」

「労(ねぎら)いでは足りないかも」

 解決方法が一つ浮かぶとすれば第九階層の人材を丸ごと移せばいい。

 第十階層でもいい。

 計画の邪魔さえしなければナザリックの存在が居ても実のところ問題は無い。

 それを実現するには不可能に近い事が起きなければならない。

 ひとつはナザリックを制圧し、実権を握る。

 もうひとつはアインズが心変わりすればいい。

 浮かぶとすればこの二つくらいだ。

 ちなみにメイド達を拉致していく、という案もあるけれど無意味な行為だろう。

 抗い続けた結果なのか、これもまた一つの選択肢なのか。

 孤独は辛いよ、たっちお兄ちゃん。

 ゲームはとっくに終わった。だから、本来ならば戦い続けなくていい。

「……明日辺り死んでるかもな……」

 役目は終わった。皆さん、さようなら。

 そんな最後と変わらないな。

 第九階層で最期を遂げる気は無いが、宇宙を漂っていてうっかり寿命というか老衰でお亡くなりになる気がした。

 それはそれで処分してから死なないと駄目なんだろうけれど。

「いつもメイドさんに心配かけて申し訳ない」

「いえいえ」

「あっ、料理は美味しいよ。……つい色々と考えてしまってね。一人だからよく考えるのが常(つね)なのだが……」

「賑やかなところではないようですね、バスパ様の居るところは」

「一人で居るのは危険かも。家族サービスは大事なのだろうけれど、それぞれ忙しいからね」

 子供に愛情を注げているとは思えない。妻ともしばらく顔を合わせていない気もするし、イビルアイ達に任せっきりだ。

 作業は一人なのだが、それ以外の賑やかさが欲しいのかもしれない。

 それは決してなくしてはいけないものだろう。

「素直にナザリックに頭を下げて一緒に実験しませんか、と言うべきなのだろうな」

「実験? 拷問などの類(たぐい)でしょうか?」

「ある意味、拷問じみていたな。なにしてんだろう、と残念な気持ちになってくる」

「失敗とかしたんですか?」

「……成功や失敗よりも実験をすること事態が面白くなくなってくる。一人で作業すると虚しさが襲ってくるものだよ。仲間が欲しくなる」

「あらら、それは大変だったでしょう」

「では、褒めればよいのでしょうか? 応援などが良いのでしょうか?」

「少し賑やかで忙しい風景かな。雑音になってしまうけれど、ナザリックに長く居たせいもあって、仲間達の話し声などは嫌いではなかったな」

 最初こそはゲーム攻略に忙しかったけれど、後半は付き添いもあり、居るだけでも退屈はしなかった。

 戦闘に参加しない間は退屈なのだが。

 メンバーが去っていく間もこつこつとアイテムや金貨を溜めて狩り場を探していた。

 アバターなら自由に動けたのでサービス最終日まで慎ましく続けられた。むろん、毎日ではない。数ヶ月に一度と言うこともある。

 今となっては『その後』や『続き』の世界なのだが、続けられる限りは進みたい。

 戻る事はもう無いだろうし。

 

 仕事が残っているので帰ろうとしたときナーベラルとルプスレギナが戦闘メイドのかっこうで姿を見せてきた。

「ちわっす、バスパ様。今、食事が終わったところっすか?」

「ルプスレギナ先輩だ」

「ナーベラル先輩も!」

「お二人が揃って第九階層にいらっしゃるなんて」

 戦闘メイドの寝床は第九階層にある。だから二人が居てもおかしなところは無い。

 アンダーカバーに一段落つけたナーベラルはたびたび戻っては休んでいるという。

 その二人はヤントラの対面に座った。

「いやー、驚いたっすよ。ナーちゃんが陵辱の限りを尽くされた下りは興奮ものでした」

 楽しそうに同僚の不幸を笑うルプスレギナ。

 というか、ルプスレギナも山となるほどの脱糞をする姿を晒したはずなのだが。

「命令に抵抗させる上ではえげつない方法っすけど、抵抗した形跡は見られたっすか?」

「回数なのか時間経過なのか……。それは短期間では分からないよ。分かった事は抵抗する意志はあった、ということだ」

「ほうほう。人形には意志は無いっすか?」

「これから形成されるかもな」

 不機嫌な顔のナーベラルを見据える。

「屈服させたいわけではなかったのだが……。君たちのような部下が欲しいと思ったのは事実だ。……結果として大失敗だったようだ」

「そう易々とナザリックの者は他人のものにならないっすからね」

 話している間に他のメイド達は話しを聞いた方がいいのか、聞かない方がいいのか、行ったり来たりを繰り返す。

「あ~、一部の人は座って聞くなりご飯食べるなりしていいっすよ」

 許可を出すと興味のあるメイド達は食堂で色々とオーダーを出し始める。

「次はルプーも陵辱の実験を体験するか?」

「抗えない気がするっすね。命令ならば妊娠も覚悟するけど……、やっぱり抵抗しそうっす」

 苦笑するルプスレギナ。

 自分の気持ちに正直な所を見て、不思議と安心した。

「……しかし、食べた量以上に出てくるのは不思議っすね~」

「無限の胃袋の弊害だろう。健康被害は無いようだが……、魔法という物理法則を無視した力がある以上、ありえないこともありえることとして世界が処理しているのかもしれない」

「……普通にしていればお腹が破裂したりはしない、という理解でいいっすか?」

 そう言うとヤントラは頷いた。

「ただ、メイド達は擬似的な消化をしない内はお腹に溜まる。食べ過ぎるとこの子達のお腹でも膨れる」

 排泄はしないが食べたものは何処かに消えてしまう。

 それが無限の胃袋。

 ヤントラの予想では一度に詰め込める限界はあるはずで、それを超えると腹部が破裂する仮説を立てている。

 無限に食べ続けるメイドは居ない。どこかで制限が設けられているからだ。

 規定量までの食事。

 もし、際限の無い食欲ならばいつまでも食べている筈だ。

「抵抗の実験は時間をかければ成果が見られるかもしれない。ただ、命令に抗う可能性と言う問題点が生まれてしまう」

 戦闘メイドの二人は命令遵守と否定の双方を天秤にかける。

 どちらも時と場合によっては必要な事だと思うが、どちらか一方に偏る事は出来ないとも思った。

「自害の命令を即座に出来るか、抵抗するか。従者の我々はどちらが良いんですか?」

「……どちらがいいんだろうな。愛着の差では死んでほしくない。余計な知識を得て暴れられても困る。悩みどころだね」

 さっきまで元気の無かったヤントラが戦闘メイド達の話しにしっかりと答えているので一般メイド達は少しだけ安心した。

 それぞれ料理を用意したり、席の確保をしたりして聞き耳を立てる。

「バスパ様の研究で何が分かるんすかね? 暴走の類(たぐい)っすか?」

「最初は安直(あんちょく)に本物と偽者の区別かつくのか、というところからだ。なにしろどちらもオリジナルで学習する。違うとすれば経験の差だろう」

 強さは同等。能力も同等。

 性格も同一にすれば区別は難しい。

 ただし、片方が学習した事を複製も自動的に学習する事はない。それが出来てしまうと色々と情報がだだ漏れになってしまう。

「物体操作(アニメイト・オブジェクト)ではないんすね」

「そこら辺はアインズにしか言えない問題だから答えられないぞ」

「知りたいっすが……、アインズ様は重要機密指定にしたようっすから聞けなかったっす」

「部下にポロポロ喋っては知恵を付けられてしまうからだろう。アインズ様の判断は間違っていない」

 ナーベラルは複製を処分する理由はなんとなく理解できていた。

 本物と成り代われるからこその処分だという理解だった。あと、適度に身についた経験をリセットする。

 それにしても今のところヤントラが本物と偽者の区別がついているところは少し感心していた。

 当たり前なのか、見抜く方法を持っているのか。

 その方法が仮にあるとして、それを知ることはきっと不利益になりそうだとナーベラルは判断し、尋ねなかった。

「物体操作(アニメイト・オブジェクト)というのは魔法でしょうか?」

 とメイドの一人が尋ねてきた。

「物体を意のままに動かす魔法だ」

 この魔法をかけると術者との繋がりが出来て、敵と判断した者を攻撃する。

 物体が命令されただけでは勝手に浮いたりしない。

「便利な魔法も悪用すれば厄介な事になる。ましてや相手が出し抜いたりでもすれば自分が苦境に立たされる」

「……それは怖いっすね」

 ではなぜヤントラは本来は敵であるアインズに情報を伝えたのだろうか、という疑問がナーベラルの中に生まれる。

「疑いたくはないのだが、アインズ様に伝えた真意……、というか目的は……、アイテムか私達の身体か?」

 裸にしたり陵辱が趣味、という単語がナーベラルの脳裏に浮かぶ。

「前に言ったかな? 世界を潰すのを防ぐためだ」

「……たぶん初耳っす」

 そうルプスレギナが言うとヤントラは少しだけ驚いたようだ。

 別の人物に言ったのかもしれない。

「偽者たちは未来を知らない。闇雲に扱えば破滅しかない。一見すると魅力的なオモチャに見えるかもしれないが……」

 ヤントラ自身も扱いを誤れば危険な事は自覚している。だから研究が必要だ。

 破棄しても誰かが発見しては意味が無い。

 隠蔽で解決できるとも思えない。

 見えない敵対プレイヤーは自力で見つけ出すかもしれない。

 少なくとも賢いプレイヤーはステータスを見る方法を探すはずだからだ。

 尚且つギルドマスターともなれば何が起きるか分からない。

「下等生物(フジツボ)には無理でもアインズ様なら……。アインズ様の想定を上回る事態になっては一大事だな」

「研究の引継ぎって意外と大事だ。中途半端なに(・)わ(・)か(・)では痛い目に遭うぞ」

 ナーベラルは研究の一部と思われる書類をアインズに渡したが中身は見せてもらえなかった。

 宝物庫から持ち帰った包みも同様だった。

「折角だ。簡単なものでいいなら本物と偽者を解説してやろう。メイドさんもたくさんいるし」

 手を出してルプスレギナ達に意見を求めると二人とも頷いた。

「詳しく言えないことを先に詫びておくぞ」

「望むところだ」

 ナーベラルの力強い意見にヤントラは頷き、羊皮紙を何枚か出した。

 それらに文字を大きく書く。

「君と君。これ持って並んで」

「畏まりました」

 と、元気よく返事をする一般メイド。

 少し元気になったヤントラに先ほどまで話しかけていたメイド達は安心した。

 

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