※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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J-3 静かな施設と化す

 二人のメイドに羊皮紙を持たせて立たせる。

 両方にルプスレギナの名前。片方には偽者と書かれている。

「姿かたちに性格と能力まで一緒だ。本来なら見分けがつかない。身体も同じ」

「はいっす」

「どっちが偽者だ?」

 そう言われれば『偽者』と書かれた方を指す。だが、実際は身体に偽者とは書かれていない。だから、答えは分からない、が正解だ。

 それはルプスレギナも承知していたので首を横に振った。

 続いて両方に性格と書いた。

「基本的に『そうあれ』として想像された君達は自分の意思で動いている。この状態で」

「はいっす。ここまではなんとなく分かるっす」

「仮に今、二つに『自害しろ』と書いたらどっちが死ぬかな?」

「偽者?」

「正解。だが、本物はためらう。主の命令なのに。それは何故だ?」

「えっ? それは……。そんな命令をするのが信じられない、とか?」

「二つの違いは君達には分かるかな?」

 書かれた命令の差なのだろうかと思ったが、答えが浮かばない。

「本物にあって偽者にないものだよ。そして、それを偽者が把握するととても厄介だ。では、改めて本物と偽者を見分ける方法は何だと思う?」

 言葉の意味が理解できずに二人は黙ってしまった。

 なんとなく答えが浮かびそうで浮かばない。

「はいはい。お二人が悩まれているから本物なのではないでしょうか?」

 と、一般メイドが答えた。

 その事にルプスレギナ達は呻いた。

「それも一つの答えだが……。悩む演技をされては意味が無いぞ」

「あっ! そう……ですね」

 知恵を付ける偽者はとても厄介だ。

 それを見分ける方法などあるのだろうか。

 少なくともヤントラは知りえている。だから、余裕なのだろうか。と、ナーベラルは首をかしげた。

「二人とも。互いの仲間の首を撥ねてみろ」

 ヤントラの言葉にナーベラルは動かなかったがルプスレギナは手刀を振ろうとした。

「せいや」

 と軽い調子でナーベラルの首に手を当てるだけに留めた。

「命令に従ってみたっすよ」

 軽い冗談なのかもしれないが、一般メイド達は焦った。

「これでいいんすか?」

「今のが仮にアインズの命令なら出来るか?」

「ためらいは無くせないと思うっすけど……。恨まないで死んでくれと祈るっすよ」

「急には無理かもしれない。お伺いを立てて納得すれば撥ねるだろう」

 よくサボるから首を撥ねてしまえ。畏まりました。という風景がルプスレギナの脳裏に浮かんだ。

 ナーベラルなら確実に殺しにかかってくるだろう、と。

「この羊皮紙に書かれていない見えない経験が止めてくれるだろう。ただの文字ではない何か。それが本物であるゆえんとなるかもしれない。抵抗する意志は偽者にはまだ備わっていない。命令すれば従う人形だ」

「……書かれていない経験……。なんとなく言いたいことは理解出来るっす」

「うむ」

「ただ、一概にすぐ本物に成り代われる保障も無いけどな」

「本物以外にもなりえると?」

 本物になれないなら別の生き物に変身する、という雰囲気にナーベラルは聞こえた。

「与えた性格を芽生えた自我が取り込むかは分からない。全く新しい個人として目覚めるかもしれない。杞憂であればいいが……。メリットばかり熱望してはいられないのが研究者の性(さが)だ。不測の事態を想定してしまうのさ。アインズだってそうなんだろう」

 この言葉にルプスレギナ達は頷き、一般メイドの幾人かも頷く。

「アインズ様は何かにつけて対処や警戒とおっしゃっていました」

「ナザリックの強化も」

「強大な力をお持ちであるアインズ様が慎重に行動なさるのは何故なのでしょうか?」

 絶対の支配者なのに慎重に行動することは実は誰もが疑問に思っていたことだ。だが、それを当人に質問する立場に無いので今まで訪ねられなかった。

 一般メイド達の認識ではもっと堂々となさってもいいのに、という認識だ。

「アインズ様は外の世界を甘く見ていないだけだ。僅かなミスも見逃さない精細な対処は感服する」

 相手に反撃の隙を与える事無く世界に進出し、偉大な名を広げている、とナーベラルは誇らしげに言った。

「ところでバスパ様はアインズ様が活躍するのは面白くないと思う人っすか?」

「どう活躍するかにもよるな。王国を滅ぼされると今は困るし。あと、宝物庫も作っちゃったし」

「……なるほどっす。では、それ以外は?」

「モンスターを蹂躙しないでほしいな。狩り場が見当たらなくて寂しい」

 指摘されれば面白くない事が次々と出てくるようだ。

 ルプスレギナは気の毒だなと思って苦笑した。

「行った先でモンスターを倒したら実はデミウルゴスが管理しているモンスターで怒られる、というのは嫌だぞ」

「ああ、情報の共有が出来ていない事で起こる弊害ってやつっすね」

 狩り場が無いから自分で作る事になったのだなとルプスレギナは思い至った。

 ただ、未知の発見が無いはずだからヤントラ的には面白くないのだろう。

 

 メイド達から羊皮紙を回収し、椅子に座らせた。

「そういえば、命令って何処でもできるもんすか?」

「何処でもとは? ここからエ・ランテルに居るナーベラルに死ねと言ったら死ぬか、という意味か?」

「ええまあ。遠隔操作も可能なのかなと……」

「そうだとすると宝物庫に居るメイド達はすぐ死ぬぞ」

「ああ……、そうなっちまうっすか」

「……そうだな。声が聞こえる範囲かな。あと、動作が見える範囲も、かな。遠隔地なら『伝言(メッセージ)』も可能かもしれない」

 今のヤントラは『伝言(メッセージ)』は使えない。というか、使う気が無い。

 遠隔操作型なら何処でも自害させられるだろう。そうなると突然死が増えそうだと思った。

「私の声に秘密は無いよ。誰でも出来ては困るのだが……。その辺も秘密だ。アインズは読んでいれば承知しているはずだから」

「そ、そうか。あれに書かれているのだな」

「私と違って紳士だからな、アインズは」

「当たり前だ。アインズ様は至高の御方なのだから」

 力強くナーベラルが言うと他のメイド達も頷いていった。

「開けてびっくり、悪口がずらっと……。という不真面目な事は無いよ。変態でエロいけど、仕事は真面目にするよ」

「……説得力無いっすね……。正直な所は好きっすけど」

「よし。ナーベラル。ここで裸踊りしろ」

「んっ!?」

「これくらいの命令なら聞いてくれそうだ。聞いたら聞いたで大問題になるだろうな」

 ナーベラルが思いっきり顔をしかめたが裸踊りはしなかった。というか防具は外さなかった。

「うちに居る人形メイド達は慎重に取り扱っているよ。あまり大量には置いていない。把握できないほどの数は雑魚モンスターくらいだ」

「保存液に入っているのは起きないっすよね?」

「一般人以外は起きないようにしている。早くから暴走対策は検討していたからね」

「さすがっす」

「ナザリックに提供したものはどうなった? 上の階に放牧とかしていないだろうな?」

「聞いた話しでは第六階層より上には行っていない、はずだ。一部はバラバラにして保存されているとか。あとはアンデッドの媒介だろうか」

「ソーちゃん、喜んでたっす。久しぶりの無垢なる者だって」

「無反応だから期待はずれだったんじゃないかな?」

「それはまあ……。仕方ないっす。人さらいするわけにはいかないんすよね?」

 複製だからこそ提供できる。

 アインズは人さらいがお気に召さないようなのはルプスレギナ達にも伝わっていた。

 罪人には容赦はしないが女子供は大切にするように言いつけられていたから。

「餌用ではないのだが……。関知しても仕方が無いか」

「おい、下等生物(エメラルドゴキブリバチ)」

 ルプスレギナは少しびっくりしてナーベラルを見据える。あと、聞き覚えの無い下等生物名にも驚いた。

「命令次第では私をずっと下僕(げぼく)に出来ていたのではないのか? 何故、解放した?」

「私に本当の意味での忠誠を誓えるのか?」

 そう言われれば出来ないと答える。

 主はアインズだから。

 今の主だからではない。ナザリックの支配者だから、という答えでは駄目かもしれないけれど、それでも構わないと思った。

「ナザリックの支配者がお前ならば誓っていただろうな」

「支配者じゃなくても一員だったら私も下僕の誓いをしてもいいっすよ。……そうなると精液まみれにされそうっすけど」

「ありがとう。下僕よりも愛着が無くなって寂しい思いにとらわれている。孤独さは辛いぞ、ルプー」

「色んなことを研究している上では仕方が無いとは思うけど、我々も貢献できることがあれば協力したいっすよ。……前回の痴態はさすがに参ったっすけど……。全身精液まみれくらいなら許容しても……」

 匂いがキツイっすかね、と色々と言い出すルプスレギナ。

「今のところ個人で偽者を見分ける方法は無いだろう。当たり前だが見分けられては困る側も居るし。見抜かなければいけない側も居る。読み合いとはそういうものだ」

「ハイレベルな戦いっすね」

「アインズ様はそれくらいの戦いを経験しておられる。きっと解決策を見つけてくださるだろう」

 必要以上の探知妨害を心がけている理由もハイレベルな読み合いゆえだとナーベラルは納得する。

 自分たちよりも高みに居る存在の戦い。

 ヤントラは過剰な防衛柵は弱さの裏返し、というかっこいい事でも言おうかと思ったがやめた。

 ナザリックに限っては徹底した防衛柵は無くてはならないだろう。

 自分が発見した悪用方法は自滅型も含まれるのだから。

 アインズに対処できるのであれば、それはそれで構わなかった。

「施設で動いているのは実験体だが、野に放つつもりは無いよ。あれらは天の星の住人になってもらう予定だから」

「それでも我々が偵察に赴いて出会えば混乱する……。うむむ、つまりは勝手な行動をすれば自動的にナザリックが危機に陥るというトラップっすね」

 本物と偽者の区別がつかないのだから身の潔白を証明するには暴走しないうちに自害するしかない。

 それを防ぐ方法を模索しているのだとすればヤントラは慈悲深い存在と言えるかもしれない。

 アウラのように悩む事も無くなるかもしれない。

「たとえ軽い気持ちであっても主の言葉に従うのが従者。……辛いっすね~」

 孤独なのは稼動しない素体が多すぎるからだろうか。

 周りのメイド達の興味に満ちた視線は温かみがあるような気がした。

 街の風景も賑やかな方がいいだろう。

 

 ずっと話しているわけにもいかない事を思い出し、ヤントラは宝物庫に戻る事にした。

「最後に聞きたい。あの宝物庫の周りを支配する場合は抵抗するか?」

「宝物庫そのものに危害を加えないなら……、考えておこう」

 アインズからも迂闊に手を出すと痛い目に遭うから平和的に取得する方法を選ぶ、と言われていた。

 喜び勇んで恐怖を味わうのは愚か者のすることだ、と。

「私からも。屠殺場って私らも運用できるっすかね?」

「方法さえ得られればな。だが、その後のクラス調整はアインズにしか権限は無い、というような事になるだろう。勝手に強くなる事はあるようだが」

「敵は倒せるけど強さは秘密事項ってやつっすか」

「そうだな。誰でも出来れば欲が暴走するだろうな」

 ナーベラルは迂闊な秘密事項は知らない方がいいと判断し、ルプスレギナの脇を小突く。

 知れば大変な事になる。小声で尋ねた時、ヤントラは秘密だという。

 ヤントラが秘密だという事はアインズも秘匿すべしと言うのに匹敵する事がある。

 今回の質問も深入りだけはするなと言明されていた。

「第三者に複製を奪われて戦力にされることはあるのか?」

「君たちでもない限り、それこそ敵を見つける手がかりとなるだろう。それが出来る人間は少ないからね」

 つまり奪っただけでは運用は出来ないということだろうか、とナーベラルは首を傾げる。

「それ知っちゃうとアインズ様に怒られるレベルっすか?」

「怒りはしないだろうが箝口令(かんこうれい)は敷(し)くだろうな。物体操作(アニメイト・オブジェクト)は良い魔法だな、と……」

 この魔法が隠れ蓑として機能すれば少しは時間稼ぎできるかもしれない。そうナーベラル達は話しぶりから察知した。

 あと意外と秘密を聞きすぎたかもしれない。

 ここで改めて複製を取られれば知恵を付ける個体が現れやすくなるおそれがある。

 見えない経験と言う残滓(ざんし)は確認はされていないが無い、とは証明されていない。

 知りすぎると不利になりやすくなる。

 知らないと不利、ではなく、知る不利になる情報と言うのはナーベラル達にもどうすればいいのか、答えが出せない。

「これからアインズ様に報告しなければならないことが出来た。……聞いた話しは無難なものとして理解していいのか?」

「少し話しすぎた感(かん)はあるが……。まだまだ研究しないといけない。長期戦になる予感はしているよ。……あと、解決策があるにはある」

「……素体を全て処分すればいい……。ということっすよね?」

「正解だ。その賢さを仕事に使ってくれ」

 サボることに賢さを使うルプスレギナ。

 素体を全て処分すると様々な計画が破綻する。今はまだ出来ない、というのもルプスレギナは理解している。

 どういう理由かはルプスレギナもちゃんと理解しているわけではないけれど素体が無ければならない理由がある。

 星の住民にする、という事以外にも。

 思い浮かぶのは現時点での警備員。無人にするわけにもいかないし、真蒼の薔薇やンフィーレアに務まりそうに無い。

 戦闘メイドクラスの武闘派が丁度いいのかもしれない。

 あと人間の女性タイプだ。

「仮に……、ナザリックと手を取り合う場合は色々と情報共有はありえるっすか?」

「もう既にやっている気がする」

 この言葉にナーベラルは頷いた。

 必要な書類は受け取っているし、アインズが精査しているはずだ。

 その点で言えば共有は始まっているのだろう。

「あれ? ナーちゃんがスパイ活動した報告書ではないって事っすか?」

 ナーベラルはルプスレギナを少し睨みつけた。

「冗談っすよ、ナーちゃん。怖い顔しないでっす」

 怒るのも無理はないだろう。

 精液まみれにされて陵辱の限りを尽くされたと本人から聞いたのだから。

 それらの屈辱に耐えて手に入れた情報はふざけた内容であるはずは無いだろうが、それについてはアインズから何も言及されていない。

 口外できない内容ならば仕方が無いし、公開できるなら注意喚起しているはずだ。

「部下に教えられない事もあるだろう。裏切りと言うよりは余計な事をしそうな者がちらほらと居るからな」

 ルプスレギナ達が思い浮かべられる人物はアルベドとデミウルゴスだった。

「ナザリックでも制御出来ない事態はお前なら解決できるのか?」

「程度によるな。無限増殖系は苦手だからな」

「それはこちらでも気をつけます。自分の分身が増えすぎるのは精神的にも不健康っすからね」

「うむ。それには同意だ。肉体的にはなんともないのだが……」

「周りが破滅する分には構わないっすけど……。ナザリックに悪影響があるとなると話しは変わるっすね~」

 難しい話しについていけない一般メイド達。それでも食事したりしながら次の仕事までの間、聞き耳を立てていた。

 ナザリックの危機に関することだけはそれぞれ理解したようだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あまり聞きすぎてはいけないと判断したナーベラルはルプスレギナに余計な質問を打ち切らせて一礼してから去っていった。

 ヤントラは食器類を片付けた後はメイド達に感謝の意を表して地上に戻る。

 セバスにツアレの事をそれとなく伝えて見る。

 検討するという旨が返ってきた。セバスの一存で決められないし、本人と相談するのもいいだろう。

 というか料理や家事の為にモンスター討伐するのもおかしな話しだ。

 それからカルネ村に行き、子供たちの様子を見る。

 来るたびに愛情が薄れている気がすると両親に告げる。

「あなたたちの子供なのだから、一緒に連れて行けばいいじゃない」

「託児所があるんだろう?」

「……すみません」

 優しい両親でよかったと思うのだが、孫と離れるのは辛いのかもしれない。

 娘の旦那が思い悩んでいるように見えたのか、子供を連れて行くように勧めた。

 あと、エンリからいくつか食材を貰った。

「農業がはかどってびっくりしています。他の村とも協力して色々と育てていますよ~」

 徴兵によって疲弊した村を再生するためにエンリは自ら出向いていって色々と助言をしているらしい。

 小麦や穀物類に家畜の世話。

 野菜や山菜まで。幅広く生産する方法を模索していく。

「うちの施設も住人を募集した方がいいのかな」

「建設中は賑やかだったんですけどね。寂しいですか、ヤントラさん」

「秘密が多いせいもあるけど、孤独感はいろんなものを無くしますね。愛着や愛情。倫理観は言わずもがな。大切と言う気持ちも……」

 子供の面倒を見ているヤントラは確かに苦手そう、というかどう接してあげていいのか分からないような不器用さを感じた。

 研究者は様々なものを犠牲にする。それはンフィーレアにも通じるかもしれない。

 エンリはざっとヤントラの施設の地上部分を思い出してみた。

 宝物庫以外の部分で他人に利用できる空間は意外と広い。

 更なる拡張を考慮しても余りある広さがあるかもしれない。

「もっと広く宝物庫を使うつもりが無いのでしたら私たちにも手伝わせていただけませんか? 実験農園を作ったのですから研究者用の小さな施設を貸すとか。そちらはンフィーと相談してみますが……。もちろん家賃を払うようにしないといけません」

「ありがとうエンリ。問題点がある」

「彼らの食事ですね?」

「もともと生産性の無い場所だ。王都やエ・レエブルで居を構えた方が便利なのではないか?」

「確かに。ですが、ひっそりと研究したい人も居るかもしれませんよ」

 研究を盗みあって殺し合いに発展されては困るけれど、とエンリは思った。

 このところ頭もよく回るようになり、色んなことを学習している。

 文字も驚くほど覚えやすくなったほどだ。

 あと、確実に素手で人食い大鬼(オーガ)を倒せるくらい強くなった気がする。

 

 宝物庫は外敵対策の為に無人の方が都合が良い。

 リイジーに開放しているのとンフィーレアに宝物庫の一部を使う許可も出してしまった。

 知らない人間に使わせるのは正直なところでは心配だった。

 つくづく自分は街作りに向いていない。

 ギルドに加入したことが無い事も原因だろうか。

 組織とはどういうものだろう。

「……エンリ」

「はい?」

「私が与えた力は強大かもしれない。弱きものの為に使って下さい」

 この言葉には覚えがある。

 どれだけ他人に教えても身につかない部分。それは自分が飛びぬけた才能を持ってしまったから。

 膨大なモンスターを倒していない人達には到達するのが困難だという現実。

「みんなで協力して使っていきたいと思います」

「力がつけば他人の宝が欲しくなるもの。おいそれと与えられない。アインズは少なくとも与えない方だろう。自らの敵を造りたくないからね。多少は考えるかもしれないけど」

「はい。みんなと幸せになってみせますよ」

 良い村長になるのか、大農園の地主にまで成長するのか。少し興味はあるけれど、自分の施設の活用方法はもう少しゆっくり考える事にして子供達と共に『マグヌム・オプス』に向かう事にした。

 施設には既にンフィーレアが居てリイジーの手伝いをしているようだった。

 人気の無い施設にぽつんと居て平気なのだろうか。

 研究に集中できて幸せだ、と言いそうでもある。

 とりあえず、子供達を託児所に置き、専用のメイドを付けておく。

 食事類や排泄関係もしっかりこなし、不測の事態にはリイジーの元に駆けつける命令を与えている。リイジーが居ない時はカルネ村まで飛んでいく。

 緊急時の対策も必須だ。

「君達は寂しくないか? 誰も居ないから」

「夜は寂しいでしょうけれど、僕はカルネ村に帰るので。おばあちゃんは並みの人間じゃないですからね。街から様子を見に来る人が居るらしいです。錬金術仲間というか」

「仲間か……。うちの仲間と最近会ってないな……。イビルアイ達は元気だろうか」

 感傷(かんしょう)に浸っているわけにはいかないことを思い出し、ンフィーレアに地上部分を他人に使わせる場合の案を考えてもらう事にした。

 食事に関しては昼頃に仕出しの商人が来るらしい。たびたび外出しては必要な道具、日用品などを買ってくるのだとか。

 薬草採取は冒険者に依頼して持ってきてもらうようだ。

 アインズも冒険者の仕事を奪ってはいけないとしてモンスター退治以外はトブの大森林の立ち入りは黙認しているもよう。

 地下に入る前にやはり子供達を側に置いた方がいいと思い、六の宝物庫に託児所を移動させた。

 地下一階部分は動植物の保管なのでつ(・)い(・)た(・)て(・)を用意すれば凄惨な現場を見せなくて済むだろう。

 まずは金貨類を地上に運んでおく。

 そろそろ自前でアイテム製作などを行(おこな)う日が来るかもしれない。そうなれば更に孤独感が様々な感情を喪失させていくのかもしれない。

 仲間の居ない作業と言うのはこんなものなのだろう。

 イビルアイ達も非人道的な手法に関わりたくないだろうし。

 素体に指輪をつけて、処理の終わったものは運んでいく。

 それから数時間後には要望の素体全てが並ぶのだが、箱詰めしようにも数が膨大だ。

 時間をかけて連れて行くんだろうが、肉の山は改めて見ると凄いな、と思う。

 この全てが生きてはいるが動かないとは信じられないほどだ。

 デミウルゴスの使いの者が来るまで身体を冷やさないように大浴場に運び直す事にした。手間ではあるが、あそこなら蒸気などの影響もあり、低体温症などにはなり難(にく)いだろう。

 服までは用意できないし、指輪で我慢してもらおう。

 気がつけば一日が過ぎていた。

 子供達は無事のようだ。

 例の量産を行(おこな)った後は地上で寝泊りするだけだ。

 量産もいつまで出来るか分からないが、専用の人材も容易した方がいいだろう。

 仕事は残っている。

 精神がどれだけすり減るかが問題のような気がした。

 リイジーに言伝を頼んだ後は自分しか居ない宿舎に子供達を連れて食事などをさせて一緒に風呂にも入った。

 ずっとラキュースに任せっきりだったが、久しぶりの親子の時間だろう。

 子供を背負って人体を解体するわけにはいかないだろう、人として。

 倫理観は捨てたとしても気になってしまう。

 うっかりエクスチェンジ・ボックスに放り込まないか心配になってくる。

 こんな施設、貰っても嬉しくないだろうな。人体がずらりと並んでいるし、眼球まで浮いている。

 亜人の国でも攻めて来ない限りは平和なのだろうが、未知の敵が姿を現さない保障は何処(どこ)にもない。

「……甲斐性(かいしょう)無しの親で申し訳ないな」

 あとエロくて女体好きの変態だ。

 この子達の将来が不安だな。全く誰の(お前だよ)せいだろうか。

 ラキュース、後は任せた。

 翌朝には用意した金貨は持ち去られた。

 願いが通じたのか。いや、願ってはいないがイビルアイとラキュースが訪れた。

 数年来の知人のような気がする。

「閑散としているな、ご主人」

「宝物庫は人をたくさん迎えるようなところではないからね」

「子供達は宿舎?」

 ヤントラが頷くと安心したのか胸をなでおろすラキュース。

 部屋を聞いて早速ラキュースは宿舎に向かった。

 ここしばらく自分の都市の管理状況などを把握する仕事に従事していたようだ。

 汚職が蔓延(まんえん)している場所を丸ごと引き取ったのだから問題が無い方がおかしいだろう。

 領地の他に税の徴収もあり、財産的には潤い始めている。

 冒険者の収入よりも。

「気がつけば色んな物を失った気がするよ。何がしたかったのかなと……」

「殆ど不介入でいてくれたご主人に貢献できる事がなくて申し訳ないと思っているぞ。方法はともかく仲間や国を守ってくれた事には感謝せねばな」

 本来なら一方的な蹂躙に始終(しじゅう)することの出来る強大なナザリックを単身で止めたのだから。

 話し合いで今は小康状態と言えなくは無いが国王との仲は悪くは無いように見えた。

 部下に頼ると危ないかもしれないけれど。

 未知の敵の存在があるせいで強大な魔法を見せ付けるような事は無く、意外と紳士的な部分には驚いた。

「おっと、身体の方はだいぶ馴染んでいるぞ。クレマンも特に問題は無いそうだ。髪の毛が伸びているようだから成長が止まっているわけではないのだな」

「そのようですね。解呪も平気なようです。数段構えで対処はしていますが……。本体に試すのは中々勇気が要りますね。未知の発見を途中で投げ出すのは死にたい人だけで充分だ」

「魔法によるものならば文句は言わないが……。続けて大丈夫なものなのか?」

「停止やアンデッドにするわけではないけれど、歴史までは止められませんよ」

「……そうだな」

 イビルアイはヤントラの様子を見るためだけに来たので、特に用は無かった。

 そのすぐ後でラキュースが子供達を抱えて戻って来た。

「新しい我が家の方で育てます。しばらく授乳も必要でしょうし」

「君に任せるよ。ここは子供の教育には適さない。物騒なモンスターも来るし」

「私も手伝えればいいのだが、ラキュースと共に都市の治安について考えなければならないからな。ティア達は王都で我らと別行動だ」

「分かったよ。ありがとう、来てくれて」

「……ご主人。我々は必要とあれば側に寄り添うぞ。一人で抱えず、分かち合ってほしい」

「分かち合うには地下の様子に慣れないとね、イビルアイ」

 と、ラキュースの言葉に呻くイビルアイ。

「……無難なところで勘弁してください……」

「無難なところなら六の宝物庫かな。ンフィーレア君も入れるようにしてあるよ」

「確か……、牛を入れているんだったな」

「地下二階の方にね。そろそろ下準備もしないといけないけど。あと七の宝物庫は内装が残っている程度だ」

 羊皮紙は皮を剥いで作る、というのがラキュース達の頭の中にあるので、動物でもおぞましい作業風景になりそうな予感がした。

 名残惜しいがイビルアイ達は仕事が山積しているので『リ・アインドル』に帰る事にした。子供達は雇った執事やメイドなどに任せる予定になっている。

 貴族として身の回りを小間使いが担当するのは伝統的なものだ。

 イビルアイや他の仲間も住み込みで仕事に従事するらしいので大事(だいじ)に至ることは少ないだろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 彼女達が去ればリイジー以外は誰も居ない宝物庫と化す。

 宿舎を解体し、改めて周りの設計を考え直す必要があるだろう。

 風呂や下水関係はリイジーの施設に完備されているので問題は無い。

 区画整理をしつつ自給自足の畑類。果樹園の苗木も必要だろう。

 それから『黒い仔山羊』の肉片を小さな立方体に加工しておく。それと取り扱い注意の為のマニュアルも。

 的(まと)は必要だからと保管していたが戦う敵がいなくなった気がして虚しいと思った。

 牛も増産しておく。

 広い空間なので数千頭でも余裕がありそうだ。

 オスとメスの複製をそれぞれ五百頭ずつ揃えて、オリジナルは処分かそのまま酪農家に返却しようか迷った。

 生物であれば大抵の複製は可能なようだ。虫は小さいと無理そうな気がする。こちらはモンスター型で実験した方がいいだろう。

 オリジナルはアイテムを外して、地上に柵で囲んだ場所に放牧しておく。

 地下は複製だけでいい。

 動物用の首輪を付けていく。効果は指輪と同じだが数が足りなくなるかもしれない。

 鷲獅子(グリフォン)と八足馬(スレイプニール)も使わずに保管したまま。取得しているクラスが違っていれば使っていたかもしれない。

 交配用に牛を並べて治癒担当のメイドを複数人配置し、後は相手を変えての交配を続けていくだけだ。

 同じ種では限界があるかもしれないし、母体の栄養の都合もあるだろう。

 本来ならば異常が出てもおかしくない事も魔法の存在で解決してしまう事もある。

 人間と違い、胎児生産は動物にこそ相応しいのだろう。同じ命に変わりが無いのに、と少しは思う。

 身体の成長を促進するために様々な治癒魔法がかけられる。

 即席で身体を作るのだから骨などの成長が心配される。

 生まれた仔牛は複製とは違い、命令しなくても動く。動かないのは死産となるが今のところは全て動いている。

 動き回る仔牛はメイド達が手早く身奇麗にして、身体が無地の仔牛以外はどんどん処分していく。

 即席で作り上げる生命はもろくて溶けやすいのはファンタジー世界では通説のようだが、皮加工に耐えられるのであれば充分だろう。

 溶け易い個体は今のところ見当たらないけれど。

 しばらくすると鳴きだしてうるさくなる。

 身体が出来上がり、立って歩けるようになった仔牛に首輪をつけて柵に配置していく。

 最終的には三千頭ほどになっただろうか。それ以上に処分された牛が多かったような気もする。

 牛ではなく山羊ならばもう少し白い羊皮紙が生産できるらしいが、色々と失念していた。

 それと外に『転移門(ゲート)』用の旗を立てなければいけない事も思い出した。

 仔牛たちはしばらく放置して身体の安定に努めてもらう。

 地上に出ると日が傾いていた。

 目印の旗を立ててリイジーの様子を見る。

 店側は無数の商品が並び、奥にはエ・ランテルでも見かけた薬草類の陳列棚が積まれていた。

 基本的にポーションの発明に人生をかけているような人間だが、錬金術関係の商品開発も行(おこな)っている。

 冒険者の顧客は来るのだが高額な商品はなかなか買われない。資金力のある貴族達の使いの者が多い。

「退屈していませんか?」

「ん~? 一人じゃからな。かといって助手を雇って研究成果を盗まれても困る。私にはンフィーレアが居れば充分じゃ」

「こんな人気(ひとけ)の無いところより街で商売したいという気持ちはありませんか?」

「無いね。ここの方が集中できる。メシ時に王都やエ・レエブンに行くくらいじゃ」

 街に行くなら孤独というわけでもないのかな、と思った。

 このところヤントラは人気(ひとけ)の無いところばかり行っている気がする。王都と各都市、ナザリックと、意外と人の居るところに行っていたことに気付き苦笑する。

 散歩だけで都市めぐりするのも良いのかもしれない。

 外食も大事だろう。

 あと、タイル貼りに皮の洗浄に使う浴槽や手が荒れないようにする手袋なども揃えておかなければいけない。

 あとは山羊か。色にこだわる必要が無ければ仔牛でも充分なのだが、山羊も検討しておこう。

 そろそろシモベ達が来るかもしれないので六の宝物庫に複製体を並べておこう。

 二日と言うのは意外と休めないものだ。

 旗を目指して『転移門(ゲート)』が開き、悪魔達が現れる。

「では、一気に運んでくれ」

 敏捷などの魔法を唱えて複製体を悪魔に渡していく。

 二体ずつ施設から持ち出されるがヤントラ一人では大変だろうと手の空いている悪魔達が地下に降りて複数人でものの数十分で運び終わった。

「早い早い。……あと何か渡すものがあったかな? あ~、全てに指輪がついてるのと身体が冷えないようにしてあったからな。後、服は用意できない。そっちに任せる」

「……確かに承りました」

 長時間『転移門(ゲート)』は開いていられないので悪魔達は礼を言った後は帰ってしまった。

 それはそれで別に構わない。

 それにしても千体ほどを短時間で運べるとは思わなかった。

 チームプレイも侮れない。

「転移門(ゲート)が閉じてる!?」

 地下で手伝っていた悪魔が数人ほど置いてけぼりを食らったようだ。

「おや? アベリオン丘陵の天幕なら連れて行けるから今日はこのまま休んでいくといい。宿舎に誰も居ないから」

「申し訳ありません」

 女淫魔(サキュバス)の男版である男淫魔(インキュバス)と赤い瞳の朱眼の悪魔(ゲイザーデビル)だろうか。

 モンスターも知り合いの部下となると可愛いものだ。

 野良ならすぐ殺すのに。

 他にも悪魔が居たが、まとめて宿舎に案内しておく。

 まだ他にも施設内に取り残されていないか確認してから同じ宿舎で一夜を明かす。

 転移は使えないが箱に入れて運ぶ事は出来る。彼らはそれほど重くないし、丁度良い運動になる。念のために重量軽減の魔法は唱えておく。

 『集団飛行(マス・フライ)』があればもっと楽だと少し経ってから気付いた。

 迷彩柄で身を固めて少し狭いが箱に入ってもらった。

 それを担ぎ上げて一気に駆け出す。

 スレイン法国は無視して大森林に到着するのに一時間。後は飛翔して突破。

 急ぎであれば短時間で目的地に着く。それは八足馬(スレイプニール)を不用とするほどだ。

 よくよく考えると足の速いクラスだなと驚く。

 忍者(ニンジャ)というか女忍者(クノイチ)のスキルか何かだろうか。

 巨大天幕は良い目印なのですぐ分かった。

 一度行けば面白みの無い冒険になるのだが、仕方ない。

 いちいちナザリックの第一階層から降りていくわけにも行かないし。

「……この強行軍は……わりとキツイな」

 挨拶もそこそこに箱を天幕の中に入れて蓋を開ける。

「無事かね?」

「……な、なんとか」

 一人ずつ箱から出して、空になった箱はギュッという効果音が聞こえそうな形で消えていく。

「わざわざ届けてくださり、ありがとうございます」

 室内に居たプルチネッラのお礼の後で五人の悪魔もそれぞれ頭を下げた。

「色々と仕事が残っているので失礼するよ」

 そう言ってヤントラは来た道を引き返す。

 少しずれた場所から森に入り、動植物を回収しつつ宝物庫に戻る。

 三十分もかからない踏破(とうは)に自分でも呆れてしまう。

 じっくり探索したいところだが、あれもこれもと出来るわけがない。

 余計な荷物は大型倉庫や資材置き場に置き、回収した動植物は洗浄後に保存液に入れて保管する。

 地下二階の仔牛たちはかなりうるさい状態になっていた。

 メイド達に一頭ずつ身体を洗われた後、眠らせていく。

 地上の牛はエンリに任せよう。他の村に売るなり、街に卸(おろ)すなりしてもらうことにした。

「山羊の皮の方が白いと思い出したのだが、あれは買えるものか?」

「高山地方の酪農の方に相談すれば……、多少は可能かと。平原で育てている方は少ないでしょう。食肉、乳製品としても重宝されているので一頭丸々は難しいかもしれませんね」

 農業に関する知識はとても高い。

 専門職の人間の意見はとても有意義だ。

「盗んでくるしかないか」

「駄目ですよ、そういうことしちゃ」

「野良山羊は居ないものかな」

 高山地帯に生息しているようだが、エンリは詳しい生態までは知らない。

「……山(・)羊(・)っ(・)ぽ(・)い(・)モンスターは知ってるんだけどな。それじゃあ駄目だろうな……」

「ふふふ」

 受け取った牛達は肉食加工や労働力として売る事にする。

 複製の方を売れば儲(もう)かりそうなのだが、ヤントラは儲けるための方法は意外と取らない。

 何か理由があるのだろうとエンリは思った。

「必要な物を自前で用意できると儲ける気持ちが無くなってね。税金対策は大事なのだが……。空に浮かんで逃げるから更に物欲が減ってきている」

「エロい人なのに」

「生物に愛着があるうちはエロい人でいようと思うよ」

 牛の売買については任せてもらい、報酬はきちんとヤントラに渡そうと思った。

 その理由の大半がリイジーが賃貸料を払っていない事と施設の建造で職人達を労(ねぎら)った殆どをヤントラが支払ったこと。

 減る一方のヤントラに少しでも見返りは必要だとンフィーレアと相談して決めていた。

 カルネ村は充分に潤い始めている。他の村の面倒が見られるほどの余裕も生まれた。

 牛達も処分されるよりは何かの役に立てた方がいいだろう。

 食肉に適しているとは思えないので家畜として貰い手を探すしかない。居なければ自分たちで食べるか使うかするしかないだろう。

 頭数が多いから知人の助けも借りようと思った。

 

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