ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
牛を任せた後は地下二階部分の洗い場の選定を始める。
既にタイルが貼られている所は剥ぎ取り浴槽型を設置する方がいいだろう。
大浴場で作業するには低い位置にある。新たに作る方が何かと便利かもしれないし、勉強にもなるはずだ。
何度も水の入れ替えをしなければならないはずだし、酸性の水を扱うので排水にも注意が要るだろう。
皮を延ばして削る作業に必要な木枠も用意しなければならない。
あれもこれも一人で全てをこなすのは時間がかかるものだ。
信用の置ける部下が居ればまた違うのだろう。
イビルアイやエンリは手伝えないだろう。
ラキュースは自分の都市を得て、むしろヤントラも妻の手伝いをした方がいいのではないかとさえ思う。
ここまで作っておいて放っておくことは出来ない。
色々考えても仕方が無いので出来る事を始めようと思った。
浴槽と水抜き。排水関係。
七の宝物庫のタイル貼り。こちらはメイド達と一緒に出来るので問題は無い。
後はアイテム類の整理もしなければならない。
一の宝物庫の地下二階部分は整理次第、アイテム製作の工房にしようかな。
素体は全て七の宝物庫で事足りるだろう。
地下一階部分に置いている初期の容器類はそのまま。
一日がかりで進めるところまで進める。
次の日の朝、牛の様子を見ようと外に出るとコキュートスが佇んでいた。
共は連れておらず一人だけのようだ。
一日おきに訪問されると意外と宝物庫には顧客が居るのかなと思ってしまう。
「朝からとは……。どんな用かな?」
「アインズ様ノ命ニヨリ、オ願イガアッテ参リマシタ」
「……大方の予想では『黒い仔山羊』かな?」
そう言うとコキュートスは唸って、そして、感心したようだ。
「少し待っていろ」
話しを聞かずにヤントラは施設の中に入り、十数分後に戻って来た。
「いくつか細分化しているが、使い方は羊皮紙に書いてある。これをアインズに渡せばいい。説明書は大切だぞ」
「……何故、要望ガ分カッタノデスカ?」
「聞くな。自分でも何をしているのか分からなくなっている。用件はそれだけか?」
「リザードマン達ノ実力ノ底上ゲヲシテ下サリ真ニアリガトウゴザイマシタ」
コキュートスは大きな図体でヤントラに感謝の意を表す。
「報酬としてナザリックを貰ったとしても私はきっと孤独のままだ。イビルアイ達も自分の都市を手に入れて大忙しのようだし、なかなか楽しい冒険とはいかないものだ」
「……孤独。多クノメイド達ガ居ルノニデスカ? ア……、アレラハ人形デシタナ」
「強大な敵の居るナザリック……。冒険が出来ないぞ。武器やアイテムも使うほどの目的を失っている。女性型モンスターでも探したくなるし。これはどうでもいいか……。どっかに手ごろなダンジョンのようなものはないものか……」
ナザリック以外で強そうな敵の居る洞窟類に心当たりは無いのだが、退屈しているヤントラが気の毒に思えてきた。
謝礼について言及していないが女性型モンスターでいいのなら探してみようかと思ってしまった。
それとは別に目的の品物を扱いやすいように用意してくれた事には感謝している。
無理難題を言う前にコキュートスには荷物を持って帰ってもらった。
特殊召還のモンスターも気にはなっているのだが、施設に入らないような化け物は扱いに困る。
第四階層の守護者ガルガンチュアの場合は三十メートルほどもある巨体だったはずだ。
上には上が居るものだ。
それはともかくエ・レエブルに行き浴槽を作れる人に依頼しておく。
希望の大きさを頼み、施設の地上部分で製作してもらう事にした。材料は職人に任せて数日かけても構わない事を告げる。
無数のダンジョンやクエスト。城に砦。狩り場などは無数にあった。
今は何処へ行くにも不自由している。
スタート地点近郊だからなのか。
もっと遠くに行く必要があるのかもしれない。
アーグランド評議国とか。
そんなことを考えつつも職人達の為の仮設作業場を用意する。
造りなれてきたので一人で簡単に設置できるようになった。
それとは別に宿舎の中を確認していく。
更地にするか、継続使用するか。
メイド達を呼びつけて清掃するか。
月の開拓を残して手詰まりになっている。だから、というわけはないだろうが目標を他に見出せない。
一箇所に滞在しすぎて他の国に行けない状態のようだ。
煩悩に従った結果とはいえ、困った事態だ。
拠点を持たなかった時代とは違うのだな。改めて不自由さを痛感する。
何も思いつかない時は気晴らしの量産だ。徹底的に増やして暇を潰す。
効率が上がると数万体は平気と言うのは凄いな。
あっさりと次の日になったわけだが依頼した浴槽は組み立てだけで日が暮れる内に完成していた。
ホーロー加工された特殊なタイルが張られている。接着剤が乾くまでは数日かかるので使用はその後になる。
それらを地下二階に運び込む。等間隔に洗浄や水抜き後も支障のない位置に置いておく。
水を引き込む方法は配管を利用すればいいのだが増改築は色々と大変だ。
やりすぎれば配管だらけに掃除もしにくくなるデメリットがある。
手の行き届かないところから変なモンスターが湧かないとも限らない。
こういう時は人海戦術が安全策なのだろう。
これがナザリックであれば、と無いものねだりしても仕方が無い。
床に固定するためのオリハルコン製の杭を打ち込み、コンクリートで固めてタイル貼り。それを繰り返していくと完成。と言っても一つだけだが。残りは明日に回そう。
作業を続けていくと時間は無情に流れていく。
生き甲斐が無いと楽しくない。
あらかたモンスターを倒した後のユグドラシルも似たような状態だったのかもしれない。
最後の年は別のゲームに移行しようか悩んでいた気がする。今となっては不可能な望みではあるが。
最初から中盤が一番楽しかった。
強敵倒しちゃったしな。
攻略系から生産系に移る事は珍しくないが、目標が欲しい所だ。月以外に。
無心にモンスターを倒してきたから目標が決め難い。
アドバイザーが欲しい。設計士も。
自分はここまで不器用だとは驚きだ。人に頼りたくなるが相手が居ない。
他のプレイヤーは全然見つからない。
ナザリックに所属していないから他のプレイヤーを引き込む事も考えてもいいだろう。
イビルアイは当分は自由にならないだろうし、おぞましい研究に否定的だ。無理に誘う事は出来ない。
近場にはプレイヤーは居ないかもしれない。スレイン法国以外では、という意味だが。
竜王国より先の世界に居るかもしれないし、
一日が過ぎるのはとても早い。なので一ヶ月も一年も早いだろう。
こんな状態で世界征服を企む存在は理解不能だ。
やる事なくて暇だ。
ヤントラとしては仕事は残っているけれど、ダンジョンや城などを攻略したいものだ。
最初に城に行かずに冒険者としてプレーしていたらどうなっていただろうか。
普通にアダマンタイトになって城に行く。悪魔の襲撃に
その後としては目標が無いだろうから女体を求めていく、みたいな感じだろうか。
どの道、楽しくない。
夜も更けてきたし、地上の様子でも見ようかな。
製作系のスキルの影響で時間の進みが速いのかな、と思いつつ地上でると大勢のモンスターが施設の側に居た。
それも古今東西の女性型モンスターばかり。
いつの間に。
施設の扉を開けたり、侵入してきたら多少は分かるが地上部分に居る分には探知はしにくい。
彼女達を連れてきたであろう悪魔のシモベが進み出た。
「報酬としてお受け取りください、とのことでございます」
「圧巻だな……」
「多すぎるのであれば人形制作の後に回収する手はずになっております。どちらでもお選びください。
ざっと見ても三百から五百。種類としては百を超える程度だろうか。
全て別種というわけではないようだ。
元もとのシモベから原住民まで居るのだろう。
中には
規模からすれば二日あれば充分だろう。もっと日数をかけたいところだが
「よし。三日後に回収に来てくれ。貴重な生物は殺すのは惜しい」
「畏まりました」
まずは中に運び込む。
シモベ以外は手足を縛られたり、眠らされているようだった。
何処かから捕まえたのだろう。さすがに殺された者はいないようだった。
数十分で地上は静かになった。手伝ったシモベは一礼して帰っていった。
さて、問題は連れてきたモンスターをどうするかだ。
全て女性型というわけではないようだが、
まずは縛られている者は全て眠らせておく。
次に
居るところには居るもんだと驚いた。
少し図体の大きい
水棲モンスターは乾かないように水をかけておくようにメイド達に命令する。
デミウルゴスも意外とハーレムが好きなのかな、と思ってしまう。
凛々しい顔つきの女性モンスター。
亜人種と異形種が混ざっているので区別するのが難しい。。
尻尾がたくさん生えている狐型とか。
眠らないものは手足を縛って猿轡しておく。
大半が眠っているので少し目を離しても大丈夫だろう。監視は付けておくが。
一日で大半のMPは使ってしまったが折角の好意だ。このまま続けられるだけやってみよう。
時計を確認し、魔力の回復を終えておく。
メイドと仕切りの容易をしておく。
準備が整った作業の開始だ。
図体の大きいのは後で考えるとして十体ずつを目処としておこう。
貴重なモンスターは多めに取りたいものだ。
下半身が蛇のモンスターは意外と多く、違いが分からない者が居る。
搾取が終わった者は身体を洗われて離れた場所に寝かせておく。
悲鳴が無くとも肉体が床を打ち付ける音は聞こえているかもしれない。あと、呻き声が少し。
仕切り壁を追加し、起きている者に食事と飲み物を用意しておく。
寝ている者から優先的に
効率よく。回復役。眠らせる役。武器の洗浄役。
滅多な事は起きないと思うがこまめに
搾取だけヤントラが一体ずつ行うだけだ。
三日で終わる気がしない。
一日目は時間がかかっても仕方ないので続けておく。
次の日の朝、天窓から降り注ぐ光りを受けて、更にメイドを追加する。
一度に百体ずつ作業できるだろう。半分を過ぎる頃には最初の方は再生が終わっているだろう。
五往復すれば充分だろう。
そのまま二日目が過ぎる。
三日目は貴重なモンスターで構成されている。同じ方法を十往復以上繰り返す。
十三往復くらいになったかもしれない。
湯に弱いモンスター以外は大浴場に運び込み、洗浄していく。
眼球以外にも取れるものは取っておいたが、他にもモンスターが世界に居るのか少し期待を抱いてしまう。
初期に採集していた胸などはやめておいた。
その日の夕方に悪魔のシモベがやってきたので一気に運び込んだ。
服はオリジナルに着せて、虫系でもげた手足が無いか確認したあと、シモベ達は主の下に帰っていった。
地下一階に転がる女体の山。数えてはいないが数千体は確実に居るだろう。
数千体というか部位を含めて数千体分を超える数、かもしれない。
全てに指輪と首輪をつけて並べておく。
それらの作業していて
「あっ! 全部返しちゃった!」
貰ったはずなのに、と。
少しの間、残念に思いつつ思考を切り替える。
どの道、自我のある者は扱いに困るだろう。今は活用方法が浮かばないので諦める事にした。
複製だけの方がいい、と気が付くかもしれないし。でも、少しもったいない事をしたなと思った。それから、複製体を置く七の宝物庫は手付かずだった事を思い出す。
一応、仕切り壁で囲んでおいて、タイル貼りをメイドと共に
広大な敷地も大勢で取り掛かれば翌朝には地下二階の半分は終わる。
注文していたタイルの山が一気に目減りするのは凄いなと素直に感心した。
四日目は地上に出て新鮮な空気を味わう。
ラキュースと離れた生活をしていると愛情が消えそうになる。それは妻に限った話しではないのだろうけれど、違う仕事をする上では仕方が無いのかもしれない。
周りに協力を仰げば、それぞれ必要な情報などが集まるのだろう。
それが本来は正しい事なのだが、ヤントラは命令するのが意外と苦手だった。
頼む事はできるが、頻繁に頼るようなマネが出来ない。
今日はエンリとンフィーレアが訪れた。牛を運ぶのに数日かかるのだが、まだまだ残っている。
三日ほど餌を与えていない気がした。
牛の様子を見ていくとまだ元気そうだった。
「数日おきに見ていますから。あと餌も充分用意しているので」
と、頼れる村長が答えた。
食料は事前に荷馬車に積み込んで居るらしい。
「それと山羊を十頭ほど頂いてきました。今日は半分だけですが」
「おお、それは凄い。ありがとう」
牛と入れ違いに山羊を柵に繋いでおく。
「残りは食肉として王都かエ・ランテルに売った方がいいのかな」
「他の農村の方に声をかけたので午後には取りに来られると思います」
「……ちょっとエンリを強くしすぎたかな」
「農業の発展の為になっているのですから、感謝していますよ」
「私は……、目標を失いかけている。元々、冒険者だから凄いダンジョンとか遺跡とか行きたい」
「遠慮しすぎですよ。……遠慮してほしくないところは容赦しないのに……」
エンリは苦笑する。
「そういえば……、毎回女体……というか、裸の観賞はしないのですね? ずっと裸で歩かされるかと思っていたのに……」
「飽きやすいんだろう。あと、女性の身体は美しい芸術品だ。一年経ったら見たくなるかもしれない。そんな感じだよ。美形の男でも構わないが……」
「そこは素直なんですね」
祖母の様子を見たンフィーレアとエンリを地下に案内する。
早速、床に転がる裸に気がついた。
「なんか増えてる」
「あれは……、新しいモンスター、ですか?」
人間の女性のようで身体の一部はモンスターとなっている。
亜人とも違うのは異形種かもしれない。
角の生えている者。腰から翼が生えている者。
「大浴場にも居るよ。親切な人から頂いた。
「死体に見えてしまうのですが……。生きているんですよね?」
「種族によってはアンデッドも居るよ」
女体が多いせいか、ンフィーレアは前のめりになってきた。
「健全な男子で安心した。これらは徹底的に洗った後は容器に入れる。中はどこも温暖だし、清潔だから置いても問題は無い」
「ンフィーはここに居る女性の身体とか触る事あるの?」
「無いよ。メイドさんのマッサージは受けた事あるけど」
「普通の人間は長く居るのが辛いからね。作業はメイド達がやっている事が多い」
「如何わしい練習でもしているのかと思いました」
エンリの言葉にンフィーレアは顔を真っ赤にする。
エンリ一筋のンフィーレアは知らない女性と裸の付き合いはしない。特訓の時は見られたり、触られたりしたけれど。
「異種交配の実験は出来るけれど、ンフィーレア君には植物や魔法に関連したことをさせている。……何か問題が起きる前に二人で話し合ったらどうだ? モンスターの処理はンフィーレア君にもさせていない」
二人で何を話せというのだろうとエンリは顔を赤くした。
いや、ここはヤントラの言う通り、二人で先に話し合うべきなのだろう。
如何わしい光景を前にするとンフィーレアでなくとも股間が熱くなる。
「ただモンスターを見たいなら見せてあげるよ。今回は女性型が多く来てしまったけど……」
「そ、それは後で。ンフィー、外でちょっと……。ほら、宿舎で話さない?」
「行っておいでンフィーレア君。あと、風呂を使うなら沸かしておくように。食料は一階の貯蔵庫にあるから適当に作って食べてくれ」
「は、はい」
エンリは強引にンフィーレアを引っ張って連れて行ってしまった。
二人が居なくなった後でメイド達を呼びつけて転がる女性達の身体にタオルを巻かせていった。
予備の容器と保存液は充分な数があるのだが、七の宝物庫の地下二階部分だけでも完成させた方がいいだろう。
魔法が通用するものは眠ってもらい、睡眠の完全耐性を有すものは擬似的に眠ってもらう。
他の者も同様に再確認しておく。
その確認作業で午後になった。
地上では何台か荷馬車がやってきていた。
「……エンリ達は……、来られそうにないな……」
遠目から宿舎が揺れるような事が無かったので、しっかりと建てられている事が分かり安心した。
防音もしっかりしているようだ。
激しい愛し合い、というものはヤントラも興奮しそうになるのだが大人として応援だけはしようとおもった。
生物として正しい
それよりも牛の商談をエンリに代わってやらなければならないのだろうか。
各地の農村からやって来たと思われる農民連中が放牧されている牛の元に集まる。
「この牛を売ってくれるそうだが、何頭でも構わないのか?」
「山羊以外は。労働に食肉、種付けくらいしか浮かばないが……。それぞれに当たるように持って行ってほしい」
一度に運べるのは荷馬車の様子では四頭か六頭が限界だろう。
「これだけの牛を何に使っていたんだ?」
「羊皮紙用です。次はこの山羊を使う予定です」
皮だけの為に大量の家畜を使うのは農家にとっては贅沢以外のなにものでも無いだろう。
乳牛も混じっているようだが農家の見立てでは健康的に見えた。
仔牛を生ませて親は不要になったのでは、と思った。
「元気なうちに農家に売るのは悪くないが……。もったいない使い方をするね」
「無駄に処分するより売れるところに売った方がいいかと思いまして」
「……それにしても綺麗な
普通の牛は尻回りがとても汚れているし、独特の匂いがある。
ヤントラの牛は最近汚れてきたばかりで、新品のような状態に近かった。
「施設の中は清潔にしないと変なモンスターが湧くかもしれないので」
「金持ちの考える事は分からんけど、状態の良い牛で安心したよ」
面構えも立派。健康そうだった。
「暴れられるのが気になるのでしたら、眠らせて運びましょうか?」
「運ぶ? 人に運べるほど軽いようには見えねーけど」
それぞれ欲しい頭数を聞いた後は鮮やかな手並みで牛を眠らせていく。
「うへー、なんだね、それは」
「ほほう、マジックアイテムちゅうやつか」
「叩けば起きます。ダメージを与えないといけないところは魔法の欠点かもしれません。万能すぎても困りますし」
運ぶときは直接、ヤントラが牛を抱えたので男たちは驚いた。
「見た目は細いのに力持ちなんだね、あんた」
「ありがとうございます」
荷馬車にそれぞれ運び込み、魔法を解呪していく。
数人での作業とは違い、ヤントラ個人で
それよりも値段について言及しないのだが、話しを聞くはずだったカルネ村の村長が居ないのが気になったようだ。
「若い二人は恋の真っ最中ではないかと。それと相場では……、食肉を避けるなら銀貨十三枚ほどでしょうか」
的確な値段に一堂がどよめく。もちろん世話にかかる費用も上乗せされるので結果的には安くはならない。
食肉用ならまだ儲ける手段はあるが、種付け用としても世話はかかるだろう。
「一頭銀貨四枚。私の目的は羊皮紙なので牛を増やして商売する気はありません。大量生産する上で……、牛の数が増えてしまっただけです」
「それはありがたいが……。羊皮紙はどうなるんだ?」
「地下に既に仔牛達を並べています。まだ少し作業場が整っていないだけで」
「でも、いいのかい、親牛を売っちまって? また居るんじゃないのか?」
「いえ、充分な数は手に入ったので。それに始めてもいないうちに大失敗してはいけないので、様子見も兼ねています。この山羊が二番手候補、と思って下さい」
それぞれ感心していく。
閑散としたところに牛を大量に放牧する変人だな、とは思っていたが地下施設があるのであれば色々と納得してしまう。
「エンリは怒るかもしれませんが、質の良し悪しは皆さんの方が詳しいでしょう」
そう言うと男たちはヤントラの見立てもなかなか侮れないと言って来た。
一度に運べる牛には限界があるが三分の一は積み込まれた。
それぞれ規定の金額を入れた皮袋を用意するが領収書のようなものが必要なのか分からなかったので尋ねた。
「必要ないけど、エンリちゃんに報告するから」
「カルネ村の村長さんは俺たちの希望の星だよ」
ヤントラは彼らに頭を下げた。
商談がちゃんとまとまったのかは分からないが、それはエンリが戻ってからでもいいだろう。
スキルで探知するのは
牛を乗せた荷馬車を見送れば日が暮れるところだった。
メイド達にそれぞれ無事に村に着くか見張るように命令しておく。
山羊を地下に運び、空いている柵に結び付けておく。
「乳牛が居るなら……、牛乳を飲んでおくんだったな」
頭数が少なく、一緒に売ってしまった。
あれは金貨の価値がある。
乳製品は必需品だから。
食にこだわりがないと損得も分からなくなるようだ。
稼動しているメイド達に施設の見回りを命じた後は控え室で眠りにつかせる。
一部のメイドと共にタイル貼りを続けてみた。
ある程度進めた後でヤントラも宿舎で眠る事にした。
無理に宿舎でなくとも地上一階でも寝泊りは出来るのだが、気付かなかった。
翌朝になり、外に出ればエンリ達と別の農村からやって来た農民たちの姿が見えた。
「おはようございます」
ヤントラの挨拶に少しだけ顔を赤くしたエンリが頷いた。
怒っているわけではなく恥らっているような印象だった。
「牛の数が減ってますけど……、売りましたか?」
「うん。銀貨四枚ずつで」
「……あ~、もったいない。七枚は固いですよ」
「食肉に向かないと思うからさ。それより売買契約の書類とか必要無くていいのか?」
「本当は要るんでしょうけど……、労働力としてなら問題はないかと。確かに食肉にするには書類は必要になってくると思いますが……」
色々と難しい事はあるだろうけれど、今はエンリが商談をまとめて、運ぶのはヤントラが
軽々と大人の牛を運ぶヤントラにそれぞれ驚いていた。
少し値切られて銀貨五枚にされたりしたが牛はどんどん減っていった。
家畜類は病気や
農家にとっては大切な家族となり、稼ぎ頭となるのだから扱いは雑には出来ない。
二十頭ほどを残して売られていく牛たち。
「残りは都市の飲食店に売ろうかと思います」
「食肉はやはりオススメできないな。労働力の方がいい」
とヤントラが言うとエンリは慌てた。
「そ、そうですか。肉牛でなくても家畜の肉は貴重な栄養源ですよ」
種付けとしても価値はあるけれど。
ヤントラが勧めないのは理由があるからなのだろう。
「火をちゃんと通すなら文句は言わない」
「干し肉加工とかにも使えますし」
「生食は意外と身体に悪い。火は通した方がいいぞ。おいしくてもだ」
生で肉を食べると命の危険がある、ということだろうか。
健康にこだわりのあるヤントラの事だから意味も無く駄目だとは言わないはずだ。
「分かりました。……ちなみに生で食べるとどうなりますか?」
「食中毒を起こす危険性がある。腹痛。吐き気。最悪の場合は命を落とす。あまく見ないようにな。充分に火を通す事は生水と同じく殺菌効果があるからだ」
「……胸に仕舞っておきます」
「料理に詳しいわけではないが、すまない」
「いえいえ。私たちも健康は大事だと思っていますよ」
牛乳も軽く暖める方が良いらしい。
話しが一段落した後でンフィーレアが姿を現す。
「男になったか、青年」
「え……、ま、まあ」
「だからと言って裸に免疫がつくわけじゃないぞ。生物として
「それより裸のまま床に置いといていいんですか?」
「下は温暖だし、適度に湯をかけるから大丈夫だ。七の宝物庫が出来ていないから、一時保管と言う形だ」
改めてエンリ達を地下一階に下ろし、ンフィーレアだけ目隠しさせる事になった。
もちろんエンリがやった。
「健全な男子なんだから」
「……なんか嫌です」
エンリは顔を赤くして口を尖らせる。
「放置して平気なのは指輪によるものだ。餓死はしない。触っても大丈夫だ」
下半身が蛇の女性型モンスターにエンリは触れた。
近くでは見たことの無いモンスターだ。
上半身だけなら人間と大差ないだろう。
他には下半身が
「死体みたいで怖いです」
「観賞用のような扱いだからね。動かない方がいい。アンデッドも居るには居るよ」
「……うわ……」
「
「……いや、それはやめてください」
牛なら
「この人達を食用にしないであげてください」
「それは手遅れかな。異形種にとっては人間型の食料は重宝される。亜人も人間を食べるんだよ。奥にあるけど
「……そうでした。そういう種族も居ましたね」
「私は観賞用かな。この指輪で飲食不要にしているから食のこだわりが無くなって妻ともしばらく食事していない気がする」
「便利すぎても駄目って事ですね」
エンリは目隠ししているンフィーレアの頭を撫でた。
「下に降りてもいいですか?」
「すごいことになってるよ」
ンフィーレアの目隠しを解いて地下二階に下りる。
そこには大量の仔牛の死体が、と思ってしまうような光景が広がっていた。
「な、なんですか、これは!?」
ほぼ全ての仔牛が倒れこんでいた。というよりも膨大な数に驚いた。
「起きてるとうるさいから眠ってもらっている」
「……すごい」
千頭以上の仔牛。
いつの間に用意したのだろうと、エンリ達は驚愕していた。
「僕の見ていないところですごい事が起きているとは……。これも秘密なんですよね?」
「見せたいが君は口が軽そうだ」
「自慢しますからね」
「エンリの解体風景を見たい、と言っているような感じだが……。悪しき錬金術のようなものだ」
良くないことなのはンフィーレアも何となく感じ取っている。
知識欲は性欲並みにあるので仕方が無い。
「便利なものには裏がある。デメリットも研究しているよ」
「はい」
「君たちが目の前で性行為を見せてくれたら見せる、くらいの秘密かもしれない」
「……例えがエロいです、ヤントラさん」
確かにそれくらいしないと見せたくない秘密はあるだろう。
互いに殺しあえ、よりはましなんだろうけれど。
ンフィーレアなら探究心が強いから見せてしまう恐れをエンリは感じる。
「錬金術の技能ではリイジーや君の方が私より高い。健全な方法で色々と発見してくれ」
ヤントラとて努力して様々な方法を見つけてきたのだろう。それがたまたまおぞましい実験になっているというだけだ。
互いに未知の探究心は等しく高い。
「転がっている女性達もそうだが、食べないぞ、私は」
「は、はい……」
「仔牛達は起こしていてもうるさいから寝かせているだけだ。浴槽の準備とか道具類とか、作業する人材とか足りてないから」
エンリ達は仔牛以外に目を向けると造りかけの浴槽に気付いた。
知ると恐ろしい秘密というものは確かに存在するのだろう。
知りたい欲求があり、ヤントラはそれを叶えてくれた。それを怖がるのはアインズの素顔を見るのと変わらないだろう。
少なくとも怖がるかもしれないから仮面で隠していたようだし。
ネムも骸骨の顔に少しだけ驚いたが優しい態度は変わらず、すぐに慣れてしまった。
「女性達を保管するようですが、なんて言えばいいのか分からないのですが……。保管して大丈夫なんですか?」
「大丈夫。全て複製だから。オリジナルの記憶を維持したまま分裂する事は専用のモンスターでもない限り起こらない。起きたとしてもオリジナルが無事であれば問題は無い」
普通に考えて人間を丸々保存して観賞するのは誘拐と大差ない。
色々と問題が起きそうな気がしてならなかった。
「腕を切断した後、治癒魔法で復活したら、切断した腕はどうすればいい?」
「埋める。アンデッドにならないように燃やして供養とか、
「所有権としては拾った人の物、というのが通説ですね」
「綺麗な身体は保存して観賞。大勢に見せたりはしないが……。エンリは美男子の方がいいのかもしれないな」
そう言われて思い出すのは魔将だろう。
「容器の都合で人間大が精一杯だ」
「一度は見たいな……」
そう言うンフィーレアの背中をエンリは叩いた。
レベルが高いので結構な痛みになる。
「強くなったね、エンリ……」
「もう!」
「一緒に見ようよ。それならいいだろう?」
エンリが村に戻れば見放題だ。
それはそれでエンリにとっては顔をしかめる問題なのだが、仕方が無い。性欲のある男子なのだから。
しかも意外と、と余計な事を想像し、股間部分がむず痒くなってきたエンリ。
かなり長時間、愛し合ったはずなのにまだ足りないというのだろうか、自分の性欲は。
「……夫婦で来たらよさそうな施設ですよね」
と、エンリは呟くとヤントラは苦笑する。
「色んなモンスターを観察するのは大事なのだが……。エロい身体が多くて困るね。君たちが良ければ安全なものを持ってくるよ」
「モンスターというか亜人と異形ですよね?」
「人間以外は大抵モンスターという位置づけみたいだよ、特にスレイン法国では」
モンスターというか敵だが。