※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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第二章 激動の幕開け
B-1 武具の売買


 エ・ペスペルという都市は王国とスレイン法国の中間に位置している。

 王都に近いこともあり、有事の再には王国兵士の到着も早い。

 基本的に他の都市同様の商業施設が整っており、兵士達の憩いの場もある。

 冒険者組合はリ・エスティーゼ王国のどの都市にも存在し、冒険者達が依頼を受けている。

 法国と帝国に比べたら待遇はわりとマシな方だ。

 力を持つ冒険者は時には国に脅威を与えるというので他の国家は危惧している。必然的に待遇も悪くなる。

 

 エ・ペスペルにようやくたどり着いた旅人『ヤントラ・サルヴァスパ』は二日ほどとはいえ揺れる馬車の中で疲れきっていた。

 モンスターと戦うよりも大変だったのかもしれない。

「着きましたが、これから手続きのため今しばらくお待ち下さい」

 王国戦士長と共に戦う戦士の男性が荷台で寝転んでいるヤントラに声をかけた。

 声は無かったが力なく手を振る姿は見えた。

 道中、揺れのせいで会話は少なかったが最初の恐ろしいイメージはだいぶ払拭された。

 旅人だと本人は言っていたが、そんなはずは無い。

 腰にかけた剣で騎士相当の人物の方が納得する。

 軽装である理由は冒険者にまだなってないのに武装したら笑い者になるから。

 それは戦士も納得する理由だったので苦笑した。

「中には食べ物を売っている店もありますから、もう少しの辛抱です」

「……は~い」

 戦士が都市の検問所に行っている間、ヤントラは自分の装備品を改めて見回した。

 冒険者になっていないのに上等な武器を携帯するのは不味いかな、と思い売る為に持ってきた適当なショートソードと取り替えた。

 ガルヴォルンはミスリルに劣らない優秀な黒い鉱石で出来ているが、この世界では目立つかもしれないと思った。

 というか、検問所の存在を今、思い出したから気付いただけで、気付かなかったら不審な目で見られていただろう。

 ガルヴォルンが比較的、普通に売られている鉱石なら問題は無いのだが、最初は少し慎重に行った方がいいと判断する。

 軽装過ぎる装備ではあるが、後は特に問題はないだろう。

 次は食料の確保。いくらアバターでも餓死で死ぬのは辛いだろう。

 ゲーム時代は適当に済ませていたからな。味覚がある分、この都市の料理も楽しまないといけない。

 検問はどの都市でも行われているが、ヤントラは身分がはっきりしていないので何を言われるのか心配になってきた。

 まず何所(どこ)から来たのか。日本です、とは答えられないだろう。

 西洋風ファンタジーみたいだし。

 アイテムの価値基準。

 スクロール一つでとんでもないぼったくり金額になるんだから、迂闊(うかつ)な事は言えない。

 後は武器を売ることが出来るのか、という点だ。

 この世界に最適化されていれば問題は無いはずだ。

 でなければ売った後に謎の消失とかになっては困る。

 エンリ達に渡した盾も特に消えていないらしいが、心配事の一つではある。

 無理なら報奨金でやりくりするだけだ。ただ、本当に貰えるのかは不明だが。

 

 それにしても馬車の移動は苦行の一言に尽きる。

 もう少しマシな移動手段がないものか。

 贅沢を言っても仕方が無いけれど、多く揺れる馬車の中は苦手だ。

 アバターのお陰か、吐かなくて済んでいるが普通なら吐いている。

「……とにかくお供が居るのは心強いな」

 ここには居ない王国戦士長に感謝する。

 アインズも町への移動に馬車とか使ったら大変だろうな。

 魔法でひとっ飛びしてもいいなら楽だろうな。

 のんびりと物思いに耽っていると検問の査察が始まった。

「出身は……不明です」

 旅人にいくつか質問する決まりがあり、ヤントラは普通に答えていく。

「風来坊っていうんですかね。字も読めないんで……」

「そうですか。では、都市に来た目的は?」

「冒険者になるため。後は色々と世界を知りたいな、と……」

 これはエ・ランテルでも同様に行われる事である。

「我々はヤントラ殿を王都まで案内する任務を受けています。ここで少しばかり逗留する予定なのです」

 と、戦士が詳細を伝える。

 王国戦士長の威光はリ・エスティーゼでは随分と高いようで、不審な目で見られはしたが質問は続けられている。

 もちろん、持ち物検査も受ける。

 戦士はヤントラが大人しいので逆に怖くなってきた。

 彼の実力を見ているし、得体の知れない部分もあるので怒らせないか心配だった。

「いやいや、丁寧な仕事している方に無礼は働きませんよ」

 心配している顔が気になったのか、ヤントラは優しく言った。

「規則ですので、いま少しお待ち下さい」

「どうぞどうぞ」

 優しい笑顔が逆に怖い。それはとても不気味なものに感じる。

 軽装すぎるほど軽装なので不審に思われても仕方が無いかもしれない。

 普通は多少なりとも身を守るのが一般的だから。

 軽装で都市に入るのは魔法詠唱者(マジック・キャスター)の疑いが強まるからだ。

「つかぬことを聞きますが……」

 検問の兵士にヤントラは尋ねた。

「なんだね?」

 不審な目で睨むようにヤントラを見た。横に居た兵士は少し生きた心地がしなかった。

「この都市でも冒険者の手続きはできるのですか?」

「どの都市にも冒険者組合はある」

「あと、さすがに裸になれ、とか言わないでしょうな? さすがに恥ずかしい。相手が女性なら考えますが……」

 バカかこいつは。と、兵士は言いそうになった。

 言葉を飲み込み、仕事に集中する。

 武器を携帯しているので一応、検めることにした。

 アイテムなどの鑑定には専門の魔法詠唱者(マジック・キャスター)にやってもらうことになっていた。

 調査に加わるのは老人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だった。ローブを羽織り、杖を持ったいかにもな格好をしていた。

「ヤントラ殿……、申し訳ありません」

「戦争中ですもんね。これくらいは普通かと存じますが」

 心の広い御仁で少しだけ良かったと思った。

 では、あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)であったら、という事が浮かんだ時、とても良くない雰囲気を感じた。

 仮面で正体を隠すような人間だ。ただではすまないかもしれない。

 そんなことを考えている内に老人の魔法が唱えられた。

 〈魔法探知(ディテクト・マジック)〉

 〈道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)〉

「ほあっ」

 ヤントラの全身を魔法で探知していた魔法詠唱者(マジック・キャスター)が奇妙な声を上げた。

 兵士は異常事態が起きたのか、と身構えてヤントラを見据える。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)は彼の僅かな装備品の内容を読み取り、驚いたのは他の者にも明らかだが、眺めているだけで喋りださない。

「ど、どうしたのだ? 危険なものでも?」

「あ、ああ。すまない。見事な代物であったので驚いていたのだ」

 はた目には地味な装備にしか見えない。

「魔法効果が付与された見事な防具だ。それもここいらでは手に入らないような……」

「魔法効果が付与されたものならばさほど珍しくはないと思うのだが……」

 自らの戦士長も所持しているし、と戦士は思った。

 王国戦士長は王国の秘宝を装備することを許された人である。

 今は殆どが貴族に剥ぎ取られているが、全てを装備したガゼフ・ストロノーフという人間は英雄級、またはそれ以上に匹敵する実力を持つという。

「……もしやミスリルか?」

 地味な色で選んだせいか、ヤントラも何で出来た防具だったかど忘れしていた。

 ミスリルであるとすれば相当、高価な部類になるとヤントラの周りに居た者達は思った。

「なんでしたかね。地味目を選んだので……」

 というか魔法で鑑定したのなら分かるんじゃないの、とヤントラは疑問に思った。

 別に魔法鑑定を阻害するような魔法はかかっていないはずだが。

「ミスリルにしては軽い、というのが……」

「ああ……」

 データクリスタルで重量軽減を組み込んでいるのだから当たり前である。

「そうです。軽いミスリルです。別にそれがどうかしました?」

「見事な一品だ。金貨にして……」

「値踏みはそこまでにしていただこうか」

 さすがに失礼だと悟ったのか、兵士は魔法詠唱者(マジック・キャスター)を睨みつけた。

 

 国の貧しさを露見するような気まずい雰囲気が広がった。

 戦士と兵士は互いに何度か頭を下げる。

 ミスリル製の防具はヤントラにとってみれば紙製の防具に匹敵する。

 最初の旅にはこの程度で充分だと思い選んだ。

 天使と戦った時に身に付けたものよりランクは少し下。

 では、何故低ランクの防具を所持しているのか。それはPK対策のため。

 その影響で一撃で倒されることも日常茶判事(にちじょうさはんじ)だったが。割りと役に立っている。

 今回は村人に見せても驚かれることも少なく、低ランクの武具とて侮れない。

 戦闘には全く役に立たないけれど。

 もちろん上級以上も今回は持ってきている。ナザリックにはまだ上のランクがある。

 上中下でランク分けするとガルヴォルンは中となる。

 ミスリルで大騒ぎするのであれば下のランクに落とさないといけないかもしれない。

 初心者が高いランクを装備するのはとても目立つからだ。

 正直、粗悪な装備でモンスター退治はしたくないのが本音だ。

 耐久性も考慮すると、仮に天使を倒すのにも時間がかかりそうだから。

「次回は皮製の防具にしますか」

「いやいや、ヤントラ殿。お気を悪くなさらないで下さい。こちら側の不手際ですので」

「防具が貧相だとモンスターにやられると思って……」

「それは重々分かっております」

 戦士は低姿勢で謝罪する。

 歴戦の戦士から見れば防具を侮るものは愚か者だけだ。

 ヤントラは少なくとも高価な防具を自慢するような人間ではない。

「た、大変失礼致しました」

 兵士も謝罪する。

「他に異常はありませんね?」

「あ、あるとすれば……、あなた自身から溢れる魔力、でしょうか……」

 こりない魔法詠唱者(マジック・キャスター)に兵士と戦士が一緒に睨みつける。

「強い魔力であってもいちいち恐れられたら旅なんか出来ません。それとも魔法を使う人間は入国禁止なのでしょうか?」

「そ、そんな法律はありませんが……」

「彼を王都に招くのが我々の仕事なのだ。ここで足止めをされると王国戦士長の顔にドロをぬることになりかねん。もう何も無ければ通してくれないか?」

「すみません。私がもっと名声のある人間であれば要らぬ混乱を招く必要も無かったのでしょうね。無名で申し訳ありません」

 とどめの一撃。ヤントラは三人に深く頭を下げた。

 これに驚いたのは戦士だった。

 何かとんでもない間違いを犯した気分になってしまった。

 ここまで低姿勢で対応するとは思わなかったからだ。

 王国戦士長にどう報告すればいいのか、ますます生きた心地がしない。

 そして、これがかのアインズ・ウール・ゴウンであったならば、と思うと想像も出来ない不安が広がる。

 兵士は一旦、魔法詠唱者(マジック・キャスター)をつまみ出す形で居なくなった。

「気を悪くされないで頂きたい」

「私は名声が欲しいわけではありません。モンスター退治がしたいだけです。他はその時その時に考えますので。そちらもお仕事とはいえ大変ですね」

「ありがとうございます」

「……私はチームプレイは無理そうですね……」

 周りの空気を読みながら行動するよりかは単独行動のほうが性にあっている。

 牽制や補佐は戦いに置いて必要な要素ではあるけれど、神経をすり減らすのはモンスター相手だけにしたい。

 改めて兵士が顔を出し、都市への入場を許可してくれた。

 これが毎回行われると思うとヤントラも他の都市に行きたくない気持ちになる。

「スレイン法国とかバハルス帝国は楽に入れるかな?」

「……すみません」

 正直に言えば戦士もうんざりした気持ちだった。

 時間的には一時間くらい無駄にした気持ちだったが、馬車は進んだ。

 エ・ペスペルの中はたくさんの人で賑わっているようだった。

 戦争中とはいえ、決戦地のカッツェ平野からは程遠く、遠い異国の出来事のように思われているのかもしれない。

 戦争とは無縁の人々の営(いとな)み。それは襲撃前のカルネ村を思い出させる。

「平和っすね」

 と、ついルプスレギナの喋り方で言ってしまった。

 少し影響されてしまったなと苦笑する。

「戦争になれば兵士でいっぱいになりますよ」

 ひとまずは休憩できる店に馬車を止める。

 ようやく地に足を下ろせることにヤントラは感謝した。

 馬車の旅は思っていた以上に過酷だった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 周りの景色は村とは違い、ゲーム時代でも見た事のある西洋風の佇まいだった。

 文化までは同じではないけれど、初めての異国は興味が湧く。

 建物は石造りで、木造建築とは違うが地震の時はたくさん倒壊しそうだな、と不謹慎ながら思った。

 レンガで積み上げたのか、独自のコンクリート製作技術で作ったのかは分からなかった。

 地面は石畳なのだが整備は雑に見えた。

 都市の地面なのだからもっとしっかり整備してほしいものだ。

 マンホールが見当たらないところを見ると下水処理も無いのかな、と心配になってくる。

 かの宮殿は汚物の巣窟。薔薇の匂いで誤魔化し、煌(きら)びやかなイメージで捏造(ねつぞう)する。

「……素直に喜べない都市……」

 難しい顔をするヤントラに戦士は首を傾げた。

 奇麗なのは空だけかもしれない。

 とはいえ過剰に期待しても他人の庭。

「もう少し市民生活に配慮した都市造りを考えて欲しいものです」

「は、はあ……」

 ヤントラが何を言っているのか、分からなかった。

 まずは食事。

 戦士の行きつけの料理店に入る。

「お金が無いんでしたね。でも、安心して下さい。資金はちゃんと頂いていますので」

「それは助かります。というか売り買いが出来るかが心配なのですが……」

「それはまあおいおい、ということで」

 二人が入ったのは低価格でお腹がいっぱいになる冒険者も御用達の料理店。

 客層の殆どが歴戦の冒険者に見えるくらい。もちろん一般市民も利用している。

「飲み物は……」

「お酒以外で」

 はっきりとヤントラは言った。

「分かりました。文字が読めないのでしたね」

「すみません」

 識字率(しきじりつ)が低いのは別に恥ではない。

 国よって差はあるがリ・エスティーゼ王国内の識字率は全体国民の内の半分ほどしかない。

 一般兵士は教育を受けているので文字が読めない事はないが、市民の大半は読めないかもしれない。

 代筆業などの商売もあるくらいだ。

「食べ物はお任せで。大量には食べられないと思いますので」

「はい」

 戦士は店員に色々と注文した。

 耳で聞いている分には全く想像できない料理名が出ていた。

 翻訳されているとはいえ、固有の名前で理解できない物もあるのだなとヤントラは思った。

 自分達の装備品でも意味の分からないものはある。

 アポイタカラ。ヒヒイロカネ。

 両者は実は同じ物質という説がある。

 そういう仕様なのだから、と思っていたが料理名が分からないくらいは普通なのだろう。

 少し考えていると料理が運ばれてきた。

 久しぶりの食料のようで良い匂いがした。

 空腹時は何を食べても美味しいと聞くが、あながち間違っていないのかもしれない。

 さすがに『これは奴隷少女の太ももをローストした料理です』とか言われたら困るが。

 人間を食べるモンスターが居るくらいだからありえない話しではないだろう。

「いきなり肉料理はお腹にもきついでしょうから。味付けしたオートミールから頂いてください」

 オートミールとは水や牛乳で煮た粥のことだ。

 この世界ではポピュラーな料理らしい。

 穀物類は比較的豊富のようだから栄養価も高いのかもしれない。

 硬い黒パン。炭ではない。

 これはオートミールにつけて食べる。

「おうっ!」

「!?」

 ヤントラは大事な事を思い出した。しかし、相席している戦士は料理に何かあったのかと驚いてしまった。

「ど、どうしました?」

「大事な事を……思い出しました……。あ~、今から戻るのは……無理だな……」

「そうですか。何か忘れ物とか?」

「しいて言うなら……、命ですかね。いや、しかし……。あ~、しまったな。全く思いも寄らなかったわ……」

 ヤントラが激しくうなだれてしまったので戦士もどうすればいいのか分からなかった。

「……まいっか……。戻れたら、その時に言えば……」

 オートミールの中身を木製のスプーンでかき混ぜながら、愚痴をこぼす。

 戦士にしてみれば彼にとって相当重要な事なのだろうと思った。

「……あ~、うめーわ。……ちくしょー」

 愚痴をこぼしつつオートミールを食べるヤントラ。

 美味しいのか不味いのか分からない表情に戦士は首を傾げた。

 まだ少しお腹に余裕を感じたのか、ヤントラは他の料理を頼んでみた。

「肉料理……でいいんですね?」

「はい。いや、すみません。急に変なこと言って」

「いえ、大丈夫ですよ」

 がっかりする姿は普通の人間に見えて安心した。

 食に関しては口に合わない、ということは無い様だった。

「『転移門(ゲート)』でも使えたら楽なのに……」

 それよりもウォー・ウィザードの存在価値が揺らぐ。攻撃魔法を全然覚えていない。いや、あるにはある、と思う。

 他にはスクロール無しでも『飛行(フライ)』は実は使える。第三位階相当で補助系は割りと使えることが判明していた。

 取得できなかった、というよりは取得し忘れていたのかもしれない。

 アウラ達に邪魔されていなければもう少ししっかりと調べられたのかも。とはいえ、見逃したのなら自分の責任だ。

 自分は未修得だが『次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)』という第三位階の魔法があるにはあるが、拠点への移動が出来る訳ではない。あくまで短距離の瞬間移動にしか使えない。

 あとまだ地図を手に入れていないし、そもそもナザリックの正確な位置が分からない。

 便利な魔法についつい頼ってしまいそうになる。

 レベル90とはいえ大規模戦闘になればMPの枯渇はあり得ない事ではない。

 アインズのような桁外れの高位階魔法を使うものだって同程度のレベルの敵と遭遇すれば苦戦する。それが一人ならば問題ないが三人以上になれば話しは変わってくる。

 アイテムであっても同じだが、有限な資源は無駄には出来ない。

 でも、派手に使いたくなる時がある。

 『魔法三重(トリプレット)最強位階上昇化(マキシマイズブーステッドマジック)』とか言ってみたい。

 今回、魔法の二重、三重化と最強化が使えるようだし、補助系のスクロールも節約しなければいけない。

「……そんな便利な魔法があったらスパイとか楽なんだろうな……」

「ゲートってなんですか?」

「便利な転移魔法です。そういうのがあったら移動も楽なのにな、と……」

 魔法については戦士職にはよく分からない世界なので聞き流し程度に聞いて料理の注文を頼む。

 先ほどからヤントラは元気を無くしているように見えるので心配になってきた。

「魔法を……使えるんですね?」

「あ、ああ、一応……。補助系が多いかな」

「世の中には凄い魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居ると聞きますが……。リ・エスティーゼでは魔法詠唱者(マジック・キャスター)の地位は低いんですよ」

 少し世間話しでもと軽い気持ちで話しかけた。

 ヤントラは少なくとも自分の目で見る限りは正体不明な点を除けば話しやすそうな印象を受ける。

「お抱えの魔法詠唱者(マジック・キャスター)とか居ないんですか?」

「居るとは思いますが……。胡散臭いという理由ではないかと。魔法詠唱者(マジック・キャスター)は帝国がたくさん抱えているので。魔法専門の学院があるとか」

「それは興味深い。でも、私は戦士職だしな……」

 アインズが知ったら飛びつきそうだなとヤントラは思った。

 知識欲のあるアインズは己の知らないことは学びたがるだろう。

 教える側が高圧的に出ない限り、アインズはとても素直な男だ。

「その帝国と戦争しているんですけどね」

「なんでまた帝国と戦争しているんですか?」

「領土拡大みたいです。今の皇帝は鮮血帝ジルクニフと呼ばれていますが、覇権欲が強い男らしいです」

「……それはまた厄介な男ですね」

 と、言った後で料理が運ばれてきた。

 この国特有の牛肉のステーキ、にヤントラには見えた。

 美味しそうな匂いが湯気となって立ち上る。

「このボリュームで銅貨四枚なんです。普通だったら銅貨十二枚ほどなんですが、この店の肉は安くて大盛り。兵士たちにも大人気なんです」

 食べる分には構わないのだが、ヤントラには一つ気がかりがあった。

 このアバターは排泄行為が出来るのか、ということ。

 今の今までトイレを実践利用した事が無い。

 アインズのような骸骨ならいざ知らず、ヤントラは人間種だ。

 メイド達に聞いておけば良かったかも知れない、と思いはしたが女の子に聞くのもちょっと抵抗がある。

 ソリュシャンとシズは問題外だしな。

 他の人造人間(ホムンクルス)のメイドに聞けばいいのかな。などと思いつつ肉を用意された切れ味の良くないナイフで切る。

 スパッとはいかず、ボロボロになってしまうのがイライラさせる。しかし、食べてしまえば同じだろう。

「うん。美味しい」

「でしょう」

 と、にっこりと戦士は言った。

「そのジルクニフは国民からは嫌われているのですか?」

「いえ。そういう噂は聞いたことがありません。圧政を敷いているような雰囲気も無いようです。なにしろ貴族を次々と潰しているようなので」

「なかなか思い切った皇帝ですね」

 貴族を潰すという事は自分に異見するものを粛清している、ということになる。

 権力を独占する邪魔者を消せば自分の見えないところで悪さする事を予防できる、というところだろうか。

 国民の様子を見なければ詳しいことは分からないが、支持があるなら大した男だろう。

 支持が無ければ圧政者。またはただの独裁者。

 それは国を背負う者としては簡単には出来ない事だろう。

「……難敵、かもしれませんね」

「そう思われますか?」

 戦士は今の話だけでバハルス帝国の皇帝がどんな人物なのか見抜けるとは思えない。というより自分は聞きかじった程度の事しか言っていない。

「そんな帝国に勝ってないのでしょう?」

「……はい」

 言われて見れば帝国との戦争は何年も続いているし、年々弱体化しているのはリ・エスティーゼ王国の方だ。

 兵士の質からして違う。

 バハルス帝国の兵士はどれもが訓練されたつわものたち。対して王国は農民などから徴兵した寄せ集め。

 数で押し切ろうという貴族の主張が毎回の行事になっている。

 平民だって生活がある。我が国の貴重な労働力だ。

 それを貴族どもは平然と徴兵し戦わせ、死なせていく。

 平民出身の自分たちですら怒りで文句も言いたくなる。

 

 肉を食べつつヤントラはバハルス帝国の事をぼんやりと考えていた。

 帝国は領土を拡大するだけが目的なのだろうかと。

 他人の土地を手に入れるのが好きなのだろうか。

「リ・エスティーゼ王国を倒すと帝国にはどんなメリットがあるのでしょうか?」

「領土が増えるのでは?」

「増えるだけなら他の土地もあると思いますが?」

 質問を質問で返す。ヤントラも本来はそういう方法は嫌いだったが、つい言い返してしまった。

「一兵卒の俺には分かりません」

「この国の王様はいい人ですか?」

「はい。お歳を召しておりますが、国民の人気も高いですし、ガゼフ殿も忠誠を誓うほどのお方です」

「……なるほど、王国内の権力闘争が疲弊の原因ですか」

 戦士は目を大きくしてヤントラを見た。

 今の会話の何所に権力闘争があったのだろうか、と。同時に確かに彼の言うとおりでもある。

「戦争しているクセに貴族は暢気なものですね。死ぬのは国民なのに」

「た、確かに……。それは一理あると思います」

 だからこそ自分たちは苦労しているし、王の側に居るガゼフが貴族たちの嫌がらせを受けて苦労しているのだ。

 王国の五宝物、一つは失われてしまったが四つの宝物を装備したガゼフならあらゆる難局も乗り切れるはずなのに。

 ヤントラはファンタジーによくある一般的な王国のよくある権力闘争というイメージが浮かんだ。

 戦争しているのに価値が無いのは権力の奪い合いを国内でやっているからに他ならない。

 自分にどれだけ利益が回ってくるのか、それは戦争中であっても考えてしまう貴族の病気のようなもの。

「一致団結するまでにどれだけの国民が死ぬのか楽しみですね。きっと減ったら増やせばいいと机の上で話し合っているんでしょう」

 恐ろしいことを平然と言うヤントラに一瞬、悪寒を覚えた。

 やはり目の前の男は危険だ、と戦士に告げている。

 今の段階でヤントラに何かできるわけもない。

 普通に話せば危険も感じない。

 けれども時折見える狂気が得体の知れない恐ろしさを運んでくる。

 だが、彼に反論できないのも事実だ。実際、貴族連中は国民の命など虫けら同然にか思っていないだろう。

 ヤントラを恐れるのは筋違いかもしれないが、今の我々の敵は彼ではない。

 天使との戦いで自分達の仲間の多くは彼に救われた。相手の被害は軽微とはいえ無為の殺戮はしなかった。

 その点だけでも彼は極悪人ではないのかもしれない。いや、そう思いたいだけかもしれない。

「美味しかったです。ご馳走様でした」

 気が付けば食べ終わっている。しかも、やたらと皿が奇麗に見えるほど。

「保存食とかも買えますかね?」

「ああ、ええ、大丈夫だと思いますよ」

 少し疲労を感じつつ会計を済ませ、馬車に戻る。

「で、この武器はあなたから見て売れますかね?」

 ふいにヤントラから鞘に入った剣を見せられた。

 今まで手ぶらだったはずなのに、と疑問に思う。

 鞘から抜き離れた剣は普通のブロードソード、にしか見えなかった。

 特に何も特徴らしいものはない。

「処分品ですけど」

「う~ん。いい値は期待できないと思いますけど……」

 高級品とかと思ってしまったが特徴の無いのは何度見ても変わらない。

「売れればいいです。無理なら捨てていくだけで……」

「損傷も無いから……。銀貨数枚ってところですか」

 さすがに銀貨数枚はひどい値かもしれない。

「まだありますけどね」

「……どこに?」

「内緒」

 いたずらっ子のような顔で言われてしまった。

 一瞬、女性に見えてしまった。

 確かにヤントラは女顔だが声は男の低音だった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 馬車で武器の売買が出来る店に行くことになった。

 ガタガタの路面はヤントラもうんざりしているので無口のまま店に到着する。

「ついでに身分を証明する方法とかはどうすればいいのでしょうか?」

「冒険者組合で登録すればリ・エスティーゼ国民とみなされるでしょう。当然、他の国も同様の手続きはあるかもしれません」

「では、最初に冒険者登録をした方がいいんでしょうね。なにやらあなたに色々と迷惑をかけている気がして申し訳ないです」

「いえいえ、これも仕事ですから。あ、でも、登録にはお金が必要なんです。武器の売買くらいはさっさと終わらせましょう」

 剣の一本くらいはすぐ終わる。そう戦士は思っていた。

 店の中に入ると店員の他に兵士や冒険者と思われる人が数人、売られている武器を眺めていた。

 防具も置いてあるようだが、箱につめられたり、わりと雑な部分が目立つ。

 高級品はさすがに壁にかけられているが、文字の読めないヤントラにはさっぱり値段が分からない。

 鑑定魔法とか覚えていたっけな、と売り物に魔法をかけようか悩んでいた。

「すみません。この剣を鑑定して頂きたいんですが。出来れば買取を希望します」

「分かりました。査定には銅貨五枚相当かかりますが?」

 自分の予想だと金額が返ってこない事になる。

 無理でもお願いすれば一枚くらいは戻ってくるかもしれない、と淡い思いを抱く。

「お願いします」

「分かりました」

 戦士は前金として銅貨五枚を渡す。

 横で聞いていたヤントラは鑑定しても価値までは分からないか、と残念に思った。

 自分で査定できたらタダなのに。

 鑑定結果は特別な武器ではなく一般的なブロードソードで間違いがなく、銀貨一枚という値がついた。

 思ったより高かったので自分のものではないけれど嬉しくなった。

「ヤントラ殿。銀貨一枚だって」

「おお」

 手を叩くヤントラ。

 満足したようだ。

 他の客からは銀貨一枚程度で何を喜んでいるんだろうという視線を送ってきた。

 査定から引いても銅貨十五枚。貰えれば文句は無い、と戦士は思った。

「売れるんですね?」

 ヤントラは店員に言った。

「はい。特に材質等に問題はありません」

「ならば、この調子で一気に鑑定してもらおうかな」

「はっ?」

 ヤントラは懐から大き目の袋を取り出す。

 どう見ても武器などは入りそうにない小さな皮袋だった。

「たくさんありますが、魔法の方は大丈夫ですか?」

「え、ええまあ。他の者もおりますので……」

 一度、皮袋を石畳の床に置く。その袋から次から次へと武器、防具が引き出される。

「何っ!?」

 どこからあれだけの大きさの武具が出てくるんだろう。

 戦士のみならず客たちも驚いていた。

「ちょ、こ、これは……」

 カウンターを占領するほどに並べられる武具の数々。

 ブロードソードの他にはナイフや棍棒。ラウンドシールドにブーツも出て来た。

 中にはバスタードソードも引き出された。

 総数は数え切れない。五十人分とも思えるほどだった。

「こんなに持ってたんですか!?」

「まだありますよ」

 戦士は改めてヤントラは只者ではないと確信した。

 さすがに多すぎたせいか、鑑定には時間がかかるらしい。当たり前だが、ヤントラは待つつもりでいた。

 一括査定でも出来ればいいのだが、魔法はそれほど万能ではないのだろう。

「当面の生活費にするんですから、これでも足りないくらいです」

「それにしても大量に出てくるとは……」

 気が付けば先ほどの袋が消えている。

 やはりあれはマジックアイテムというやつなのだろう。

 手ぶらに見えて武装は完璧なのかもしれない。

 今のが粗悪品なら彼の持ってきた戦闘用の武装も見てみたい気持ちになった。

 普通のブロードソードではないだろう。戦士として武器には興味がある。

 店内が騒然としているがヤントラは涼しい顔をしていた。

 買い物ではなく売りに来たわけだが、店内の武器は彼にとってはどの程度のものに見えているのだろうか。

 自分の持っている武器は城から配給されたものだが、世の中にはとんでもない高額の武具が存在する。

 その代表格がミスリルでありオリハルコン。そして、アダマンタイト級の武具。

 バハルス帝国の有名な騎士はアダマンタイトの武具で身を固めているという噂がある。

「気を悪くされないでほしいのだが……」

「?」

「ヤントラ殿の良い武器を見せてはもらえないだろうか? 戦士として興味があるもので」

 検問で下半身の防具がミスリルであることを思い出す。

 ミスリルくらいは持っているだろう。

「武器は私も大好きですよ。ただ、見せると周りが奪いにくるかもしれない。私はよく狙われるのでね」

 まるでいつものことのようにヤントラは言った。ただ、そこにはふざけた笑いは無かった。

「その時は俺が守ります。王国戦士の名にかけて」

 とは言うものの戦士の名前はヤントラは知らないし、聞いていない。

「伝説の武器みたいなものは持っていないので面白みはないですけどね」

 ヤントラの基準で人に見せても大丈夫そうなショートソードを取り出す。それは鞘に納まっていた。

 おもむろに渡された戦士は武器の軽さに驚く。

 そして、ゆっくりと抜き出すと見覚えのある光沢が顔を出す。

 ミスリル製であることはすぐに分かった。

「……やはりミスリル……。奇麗ですね~」

「武器がよくても使い手が悪いと意味がないです。伝説の武器を持ったからといってモンスターは倒せません」

「……?」

「ほら、モンスターだって武器くらい避けるでしょう?」

「ああ、なるほど。確かに……」

 良い武器を持ったらどんなモンスターも倒せる、と今の今まで思っていた自分の愚かさに苦笑をせざるを得ない。

 ミスリルの武器を持っても王国戦士長は倒せないだろうし。

「良い武器というか、普通の武器ですね。それ以上は……、周りの視線が痛いですね」

 戦士が見回すと客たちと奥の店員の視線が集まっていた。

 査定の方は複数人で取り掛かっている。まだ終わりそうにない。

 名残惜しいが武器はヤントラに返した。

 金貨で買うほどの値打ちはあるだろうな、と漠然と思った。

 少し元気を無くす戦士にもう一本の武器をヤントラは見せた。

「? これは?」

 首を傾げる戦士はヤントラから武器を受け取る。

 先ほどよりは少し重いが、形はブロードソード。

 鞘から抜き放つと、漆黒に似た黒い刀身が現れる。初めて見るかもしれない不思議な剣だった。

「そうそう。魔剣とか呪われそうな武器も持ってないので安心して下さい」

「は、はあ……。これは……なんですか? ミスリルではないですよね」

 アダマンタイトでも無さそうだ。オリハルコンは黄金よりも輝くと聞いたことがある。

「ちょっといい剣です」

「これでちょっとですか?」

 自分の記憶にあるどの剣にも無い代物。

 他の国に行けばあるのかもしれないが、ミスリル以上となると想像も出来ない。

「黒いので観賞用としてはつまらない代物ですが、武器としてはわりと優秀です」

 手になじむ感じからして確かに凄い武器かもしれない。

 それでもまだランクが下だと思うと恐ろしくなる。

 いや、確かにこれだけの武器を持っているなら狙われても不思議ではない。

 自分はとても大きな失態を犯しているような気がする。

「………」

 黙って剣をヤントラに返した。

 ずっと持っていると良くない事が起きそうだと全身が訴えているようだ。

「武器が良くても使いこなさないとガラクタ同然ですからね。売り買いにされるだけの武器なら宝石で作った方が余程値打ちものになります」

「……そうですよね……」

 今の自分の実力では良い武器を持っても宝の持ち腐れにしかならないだろう。

 下手をすると盗賊に襲われて奪われるかもしれない。

 剣に見合う実力を付けなければ、と戦士は思った。

 いつかブロードソードからオリハルコンくらいの武器が持てればいいな。

 さすがに戦士に見せるのは早まったかな、と武器をしまいつつヤントラは思い、懐の袋の中に手を入れた。

 今回持ってきた中ではガルヴォルンをメインにするつもりだったが、戦士の様子から王国の武装は貧相だと分かった。

 武器に頼らず己の力で切り開け、とでも言われているのだろうか。

 残念ながら棍棒だけでドラゴンは倒せない。

 それが出来るのはワールドアイテムだけだ。

 

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