ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
エンリは村が気になるので帰ることにした。
一応、ンフィーレアに変なことしたら許さないと睨みつけてから帰っていった。
「大浴場に行ってみるかい?」
「け、研究のために?」
「君の祖母が居たらすごいだろうね」
「おうっ!」
「のぼせるといけないから何体か持ってくるよ。近くまで行こうか」
色々な想像をしてしまい、また前のめりになりかけてきた。
大浴場の隣りの部屋に移動し、ンフィーレアはメイド達にタオルや食事などを勧められた。
既に顔は隠していないがルプスレギナ型のメイドに驚いた。
ヤントラが運んできたのは
女性型が殆どだったが。
「エンリは居ないから服を脱いでおきなさい」
「ええっ!?」
「タオルで隠しておけばいいし、タイルの上だとお尻が痛いか……」
クッションを用意させた。
「恥ずかしいな……」
「動くときに痛いと困るだろうと思って。性行為しろとは言わないよ。自慰は自由にどうぞ」
男しか居ないから平気で言っているのだろうが聞いている分には顔が赤くなるほど恥ずかしい。
当然、言っているヤントラも恥ずかしいだろう。
「保管する時はあまりやましい事は考えていない」
メイドがスボンに手をかけたので自分で脱ぐ事に決めた。
外套を出してンフィーレアの身体を隠そうとするがメイドがめくろうとする。
「ルプーはだいたいこういう事をする。あまり気にするな」
「このメイドさん、喋りますか?」
「しゃべるっすよ。噂を広げたりはしないっす」
「ひっ!?」
自分の知るルプスレギナと同じ声が聞こえた。
「身体は同じだから不思議は無い。情報の共有は無いから、ここで見たこと聞いた事は本物には伝わらないよ」
秘密を知るという事は羞恥心との戦いかもしれない。
なんとか服を脱いだ後、タオルを腰に巻く。だが、興奮した状態なのか盛り上がりが目立つ。
「……見事に皮が……」
「余計な事は言わないで下さい」
「声変わりまでしてきたっすね」
真っ赤な顔で恥らうンフィーレア。
「意地悪はそこまでだ」
「畏まりました」
ヤントラの言葉を受けてルプスレギナ型から表情が無くなった。
「実際に触って確かめてごらん。なかなか触れられないモンスター達だ」
ヤントラは
下半身の馬の部分は筋肉が凄い盛り上がっていた。
四本の足で平原をかける種族だけあって引き締まった身体をしていた。
「普通はこうして身体を触りまくったりはしないんだが……。今回は特別だ」
次に触れたのは
下半身の蛇の部分はとても長く五メートルを超えているだろう。
鱗の肌触りは気持ちよい。
「兎型。虎型。羊型。どこから見つけてきたのか。圧巻だ」
寝ている
「胸くらい触ってもいいぞ。吸ったりしないように。毒液が出るのも居るかもしれないからな」
「い、いえ、いいですよ。寝ている女性の……」
言ってる側からヤントラは
「今のうちだぞ、青年。数をこなすと飽きてくるけどね」
「もう!」
「解剖はしないが、なかなか調べられないだろう?」
まして他人に触らせるような事は無いはずだ。
ヤントラは他にも何人か持って来たようだ。
「上半身が人間の女性というのは多いが逆は居ないのかな? 居たら居たでまぬけな姿と言うのは可哀相だが」
「居ないとは思いませんが……。それにしても……、エンリには悪いけど……興奮が治まりませんね」
どの女性達も身体が柔らかそうだ。
「青年にはきついか。人間の男性を魅了して食料にしたりする種族は恐ろしいな」
「……ちょっとトイレに……」
「ンフィーレア君は異種交配で生まれた子供を育てられるか?」
「えっ? それは……、難しいかと……。モンスターの生態はよく分かっていませんし。人間種が精一杯かと……」
エンリなら多少は育てそうだと思った。
「それぞれの種族の村でも作ったら面白そうだが……。人間を食べる奴は危ないな」
調べる分には興味深いが飼育に関することは苦手なンフィーレア。
あまり性奴隷のようなことにも詳しくないが、胸などを見ていると頭がおかしくなりそうだ。
「君には女体は耐えられないか。見知らぬ女性を抱けとは言わないが観察する分には他にも見せてあげよう。今なら大抵の種族が揃っているぞ」
「それは凄いですね。……でも、それはアイテム製作には関係ないような……」
異種交配なら新種の生物の開発とも言える。
ンフィーレアとしては生命の冒涜はまだ少し抵抗がある。
「儀式の生け贄のような使い方はしたくないが……。既に多くのメイドを処分したり可哀想な事をしている。この施設でどういう役目を与えたらいいかな、というのは考えている。この子達は先日来たばかりだが、服を着せてあちこち配置してみようか」
そう言われて近くに控えているルプスレギナ型に顔を向ける。
神出鬼没のメイドも寝ている彼女達の一員なのだと改めて気付いた。
「
異種交配くらいしか、という考えが頭を過ぎる。
おそらくかなりの人数が居るんだろう。
それら全てを施設の中で活用する事は不可能に近い。
月の住民にするのが今は精一杯かもしれない。その為には空中に宝物庫を作り上げる。
それから上を目指していく。
「異種交配と言ってますが……。僕が皆を種付けする役目とか?」
「君はエンリ専用でいいよ。それは別に考えてあるから。……興味があるならエンリと相談して決めるといい。別にンフィーレア君の子供という必要もないし、単純にそれぞれの種族の子供を育てたいなら用意するよ」
子供を用意するというのが少し不快な気分にさせるのだが、ここはそれを可能に出来る施設だ。
仔牛の膨大な数にしても常識はずれ。
亜人などの子供を育てたら
エロい事を抜きにすれば色々な種族と触れ合うのも大事な事だとは思う。すぐには無理だが将来的に新たな住人として受け入れてもいいかもしれない。
「人間以外を引き取るとスレイン法国に目を付けられるか……。
「色んな種族と触れ合えたら、それに越した事はありません」
「……掛け合わせすぎるのも良くないだろう」
ンフィーレアを軽く眠らせて女性達を大浴場に運び込んだ。
少し刺激が強かったかとヤントラは反省しつつンフィーレアを宿舎に運び込んだ。
そこで彼を起こした後、気持ちが落ち着いた所でタイル貼りを手伝ってもらうことにした。
七の宝物庫の前に六の宝物庫の地下二階にある浴槽の固定やタイル貼りはンフィーレアに任せてみた。
「ここに水を入れて排水は栓を引き抜くだけにしてある。問題は水をいちいち運ぶところだが、やはり配管は必要か?」
風呂場で気持ちを落ち着かせるのに時間がかかったせいか少し顔に疲れが見えるンフィーレアはメイド達が用意した食料を食べつつ解決策を考える。
「何度も入れ替えが必要なら常に水を供給できるようにした方がいいでしょう」
『
水を出す専用の魔法はあるにはある。
信仰系第四位階『
魔力系では第六位階と高い位階魔法になっている。
ただし、これは後で間違いだと気付く。
後で調べなおすと信仰系第一位階『
ただ、問題なのは一日経つと出て来た水が消えてしまう、という。
本当に消えるのかは未調査だが。
「見た
水の浄化も魔法で可能だ。
信仰系第一位階。
便利な魔法がゴロゴロ出てくる。
「ピュアリファイ・フード……アンド・ドリンク……でしたっけ」
「食料および水浄化……。そのままの名前だ」
この魔法か魔法を付与したアイテムを使えば下水を汚さずに済む、かもしれない。
「金貨と魔法と付与するアイテムがあれば作れるかと」
本来なら魔法のコストに金貨が溶けて発動とか非常識にも程がある、というのが頭にあってヤントラはスキルを思うように扱えない。
魔法は何度も使っているからまだマシな方なのだが、見ているだけでは武器は作れない。
本来のヤントラの常識では魔法は使えなくて当たり前だ。
ゲームじゃあるまいし、と思うところはある。
アイテムボックスに手がズリュっと入るけど。
「……不思議だ。ンフィーレア君」
「はい?」
「君に多くを見せているが、無理に管理を頼もうとは思わない。それと魔法については後になるかな。同時に色々と計画は進められないからね」
「魔法?」
「信仰系しか使えないはずなのに高位の魔力系魔法がそこかしこに出てくる理由だ。おいおい見せてあげよう」
全ての魔法をヤントラが扱っていると思っていた。
スクロール使いでもあるから疑問に思っていなかった。
ンフィーレアも
「秘密なら秘密のままでも……」
「寂しい大人に付き合ってくれているんだ。それに君は研究者だから金銭的な欲は少なそうだ」
今の雰囲気では
日を改めて説明することにした。ただし、覚えている自信は無いけれど、とンフィーレアは自分の事よりヤントラの話しに耳を傾ける。
「そう言われると少し嬉しいですけど。口は軽いかもしれませんが大々的に喧伝するような……、……つい言っちゃいますね……」
「この施設に居る間は色々と手伝ってほしい。助言とかね。肉体労働はさせられないけど」
「頑張りますよ」
「うっかり口外したら目の前で自慰行為してもらおうかな」
「ひゃあ! 頑張って口外しないように務めます」
口外してほしくない部分を色々と伝えておく。
もちろん内容はそこかしこに居る女性型モンスターや裸などだ。
複製体についても同様に秘匿される。ただし、アインズには色々とバレているので、ナザリックには言える範囲は特に制限しない旨を伝える。
「そういえば大浴場などに置いたままにしても大丈夫なんですか?」
「のぼせるほどの高い温度ではないし、適度に移動させるように伝えている。急にたくさん貰ったからね。その為には七の宝物庫のタイルを貼り終える必要がある。複製はそこに全て移す予定だ」
容器に入れてしまうと重くなる。だから、今は放置されているのだと理解した。
ンフィーレアは納得し、時間の許す限り手伝う事にした。
既に大勢のメイド達によりタイルはかなり張られていた。
「ちなみに上の階も貼るのだが、材料が少し足りない。膨大な数だから製作が追いつかないのだろう。それと仕切り壁が必要だね。何処に何を置いているのか分かるように」
「これは大変だ……。急いだ方が……、いいんでしょうね」
ずっと裸の女性をそこら辺に寝かせていてはいけない気がした。
「餓死はしないようにしてあるから放置していても問題は無い。我々が我慢すればいいだけだ」
メイド達に一人ずつ身体を洗えるものだけ洗ってもらっていた。
湯が通じそうに無いものは
地上の牛達はエンリに任せてンフィーレアには引き続き祖母の面倒を見てもらっていた。
時間があればタイルの材料や様子を見にくる冒険者などの相手をしてもらった。
牛は全て処分されて山羊の残りが追加された。
合間にエンリは地下で眠っている女性達を眺める。
「異種交配で生まれた子はカルネ村で面倒を見られるかな?」
「実験で生まされるのは抵抗がありますよ」
「そうか。子供が生まれて勝手に増えたりはしないか」
自然界のモンスターは次から次へと出てくるものだから生態に関しては分からない事が多い。
これらの子供の育て方は当然、知らない。
亜人の暮らしで知っているのはナザリックだけだろう。
「それよりこんな実験、みたいなことで何をしようとしているのですか?」
「早い話しが住人造りだ。数世代も経過すれば新たな種として文明を築くかもしれないな。よき隣人になるのか、敵対者になるのか……。それは分からない」
怖い人だと思っていたがますます恐ろしさが深まってきた気がする。
殺す人から神へ。
尊厳の敵とも言えるかもしれない。
住人にするには数々の問題を突破しなければならないのだろう。それを一つずつ自分たちが頭から否定しては前に進めない。
悪い事を分かっていて
エンリは驚くほど回る自分の頭に驚いた。
「あの女の人達はどうなるんですか?」
「母として生活は出来ないだろうから最終的には処分かな」
元々複製体だから処分する事自体はおかしくない。
だが、命ある生命体のはずだ。
素直に処分するのはもったいないし、かといって自分たちで面倒を見る事が出来るとも思えない。
命令が無い限り、動かないと聞いた覚えがある。
「どうして処分するのか、疑問に思うだろう。優しさだけでは扱えないんだ。君の優しさはありがたいが……」
「それは言えない事ですか?」
秘密は理解出来る。
ヤントラは正直な人だ。そんな人が秘密にするのだから理由がある。
言えば恐怖するようなことなのだろう。
「……後悔しろ、エンリ」
ヤントラは鋭い目つきで言い放つ。それは始めてみせる悪い人間の顔に見えた。
手で何らかの合図を送り、やってきたのはルプスレギナ型のメイドが二人。
「装備を全て外せ」
「畏まりました」
「喋った!?」
たまたま聞いていなかっただけなのか、初めての反応に驚いた。
見る見るうちに裸になっていくメイド達。
それぞれ装備品を離れた場所に置いてヤントラの側に駆け寄った。
「命令を失った複製の末路を見るといい。お前たち、互いに食い合え」
「畏まりました」
という返事の後でルプスレギナ型は獰猛な肉食獣のような獲物を求める顔になり、互いに噛み付き始めた。
ヤントラはエンリを現場から引き離す。
二匹の美しき獣が遊び無く、ただただお互いを食料として求めていく。
顔中血まみれにしながらも食い合う獣。
「慈悲を与え損ねれば複製の末路は生物の本能の一つ。食欲に満たされる。飢えた獣の末路だ」
「……はっ、はっ……」
エンリは側に崩れ落ち、骨を見せつつ食い合う二人を見続けた。
食べるものが無ければ互いを食い、それを失えば自分を食う。
そんな末路が浮かんだ。
止めたくても声は出ない。
片方が動きを止める。もう片方はしばらく食べ続けたが出血が多くて次第に動きが鈍り、程なく動かなくなった。
腹部に開いた穴から相手の肉片がこぼれ出る。
「私のタレントはこんなものを普通に見せる。もっと色々とあるが君達人間には酷だと思うがな」
涙が出てきて直視できない。
自分は軽はずみな事を言ってしまったと後悔する。
面倒を見る。処分方法が確立している。様々な準備を整えなければいけない。
もしこれが交配によって生まれた子供達ならば、なんて残酷なことだろうか。
極端な例なのだろうけれど、エンリはただ悲しかった。
新たに現れたメイドは裸になった後、残骸と化した仲間の
その光景は未来の世界に起きる悲劇なのだろう。
「自我を得た生命は生きるために何をすると思う?」
「……本能に従った行動を取ると思います」
食べること。子孫を残すこと。生きること。
生存本能次第では自らの肉体や胎児を食料とするかもしれない。
現に死体すら食べている。
飢えには勝てない。
飢饉に陥れば自分は妹を食べてしまうかもしれない。
あるいは妹に自分を食べさせるかもしれない。
ヤントラは無造作に仲間の死体を食べているメイドの首を切り落とした。
三つ分の死体は別のメイドが何処かに運び去っていった。
「今は色々な実験をしている最中だ。最悪の事態を避けられれば選びたいところだ。あっちもこっちも幸せにするのは難しい。エンリはこの施設の心配より自分たちの村や人々を心配した方がいい。ンフィーレア君とかな」
「……はい」
「結婚したらエンリ・バレアレとなるのかな? 私みたいな変態になるなよ」
「なりませんよ~」
涙声で反論する。
「極端な事例の方が身が引き締まるだろう? 命は大事なのだが、ここに居る者は理解できない真っ白な存在だ。それに元々が複製で本物とは違う。愛着を込めても虚しくなるだけだ」
「本物と同じようにはできないのですか?」
「本物が困る。エンリの複製がンフィーレア君を取ったらどうする?」
「……嫌です」
本物に成り代われるのだから本物の全てを奪う可能性がある。
複製に出来る事は実験と処分なのだろう。
そういう理解が不思議と自然と出来た。
「もったいないと思われるのだが、踏ん切りはつけなければならない」
一定の命令を与えると最適化が適用され、柔軟な対応を取り始める。
一字一句間違えないわけではない。
教えた以上の反応も見せる。
命令を自分のものにして独自の性格を獲得し、個として覚醒するかもしれない。
その時、何が起きるのかは未知数だ。
最悪の事態のひとつは複製の反乱だろう。
命令を受け付けない事態になれば目も当てられない。
防ぐ方法はすぐに処分する事だ。
エンリを泣かせつつも施設のタイル貼り、浴槽の設置などを
かき混ぜる棒と水を浄化する魔法を付与したアイテムを作ってもらい、水源は『
あまりに大量の水を使うような改良はせず、無難な方法で解決するように努めた。
一日に使用する水の量が決まっている方が管理がしやすい。
数々のマジックアイテムを使用するので見ようによっては金持ちの道楽に映るかもしれない。
羊皮紙生産の準備は整った。
あとは職人を用意するだけだ。
「手荒れなどが酷くなるらしいから治癒魔法が使えないと酷いことになるだろうね」
羊皮紙を四方八方に引き伸ばす木枠もたくさん用意した。
削る道具も。
自然乾燥を加味した製作期間は半月ほど。
粉が舞い散るのを防ぐためにカーテンを付けたいのだが天井が高くて困った。
この辺りが設計ミスとなるんだろう。
簡易テント型の作業室を作る必要があるだろう。
長い木を支柱として何本も打ち込み、シーツで全体的に覆う。それをいくつか作り上げる。
「だいぶ形になってきた」
「……それにしても大量に死んだ仔牛が並んでいるように見えて仕方がありません」
あと山羊も数百頭に増えてて、倒れていた。
見栄えがとても悪い。
「作業風景は過酷だから、これくらいで気にしてはきりが無い」
ンフィーレアは魔法のスクロール用に人間やモンスターの皮も実験として剥ぎ取ると聞いていたので見学はさすがに遠慮した。
「最高級のスクロールは
「魔術師ギルドの販売しているスクロールもそうなんでしょうか?」
鑑定の魔法では原材料までは分からなかった。
「真実は闇の中……。仮にそうだったとしても治癒すれば問題ないのでは? いちいち殺してたらきりが無いよ」
「そう……ですね」
「食べたりしないんだし」
「……世の中には知らない方が良い事もあるんですね。錬金術も人のことは言えませんけど……」
タイルを張りつつ
乾燥を終えた七の宝物庫の地下二階部分に仕切りが縦横無尽に走り、複製が並べられる。
地下一階部分は荷物置き場として培養液の入った容器や空の容器が置かれる。あと、余ったタイルなど。
数十万体はあるのではないかと言うほどだ。とはいえ、正確に数えていないので実際はもっと少ないかもしれない。
複数の採取を
容器類は一度に作られる数に限界があるらしく、アンデッド系を優先して一部は野ざらしになっていた。
最初の個体は全て洗浄されて保管されているけれど追加分は容器の完成待ちになっている。
渇きを防ぐためにたくさんのメイド達がお世話をしている。
一部は強固な壁で仕切られ、封印される。
一の宝物庫にはアイテム保管庫として再利用することにした。元々安置していた素体はそのまま残している。
貴重なものは地下二階の個室に置いておく。
金貨は五の宝物庫に移し、前の保管庫は儀式用に残しておいた。
残すものもあれば予備部屋として使うものもある。
更に倍の広さの宝物庫を作る計画は無い。というか無駄なスペースが多すぎて活用方法に迷っているくらいだ。
天井が高いので棚を作って資料室としても使いたいところだ。
それに規模の大きな空中の宝物庫も造らなければならない。
色々と移動したので大浴場の上の階は地上と行き来できるように改造。ついでに天窓も作った。後で封印するかもしれないけれど。
出来栄えをンフィーレアに見せて色々と意見を貰う。
天井が高いので部屋を有効活用するためのアイデアを練ってもらう事にする。
「金貨と魔法のスクロールでアイテムを作るというのが想像できない。そもそも魔法自体どうして使えるのか、原理が説明できない」
「生活の一部となっていて世界とのつながり、とか。念じたら使えた、みたいな感じですもんね」
「時々、そういう常識が私のスキル使用の障害になっているようでアイテム製作も思うようにいかない」
「おばあちゃんは普通に作ってますけど……。ヤントラさんも苦手なものがあるんですね」
そこだけ見ると凄い人ではなく、普通の人間に見えてしまう。
剣の腕は英雄級。信仰系の高い位階魔法も扱う。
それなのに苦手なものが色々とある不思議な人。
リイジーにアイテム製作の現場を見せてもらう。
媒介となる金貨と魔法を持ってアイテムを製作するのだが、手を金貨に向けると金貨がドロリと溶けて込めたい魔法と融合し、一つのアイテムへと変じる。
データクリスタルを込める方法もあるのだが、この世界にデータクリスタルが存在しているようには見えなかった。
集中すれば早くて三十分ほどで出来上がるのだとか。
ゲーム時代は完成までの時間経過が表示されるものだった気がする。
一時間もじっと動かない仕様ではゲームにならない。
難易度の差で仕上がる時間は変わるし、絶対に完成するとは限らない。
「……私にはアイテム製作の才能は無いようだ」
「ははは」
「簡単なものなら出来るんじゃが……。位階が上がれば難易度も高くなる。金貨の使う量も便利なものほど多くなるもんじゃ」
本来の金貨ならもっと少なく出来るのだが、使わせてもらっている金貨は消費が激しい。
道理で大量に必要なわけだ、とリイジーとンフィーレアは納得した。
単純計算で数万分の一から数十万分の一。
「
一万分の一の場合などもあるようだ。ふり幅が違うようだが、それはそれで凄いコストだ。
金貨二枚だと少なく感じるが銅貨だと800枚相当になる。
全ての魔法のコストを調べるのは物凄い労力だろう。まして六千個近くもあるらしいし。
「……流通は無理ですね」
「魔法といっても、わしが使える魔法でなければいかんがの」
無い魔法はスクロールを使う。
アイテム製作に必要なのは媒介となる魔法を術者が習得しているか、該当する魔法のスクロールを所持している必要がある。
コストは売値の半額が相場だとか。
「私はあなた方に血生臭い事をさせる気はありません。隠し事が多くて申し訳ないのだが」
「気にするでない。貴重なアイテムを使わせてもらっておるし、孫も新しい発見が出来て嬉しそうじゃしのう」
「地下の施設は僕でも手が出しにくいけど……」
「金貨は無限に湧きません。向こう数百年分は枯渇しない量を用意しておきます」
「はっ? そんな事ができるんですか?」
「ほほう。今度はどんな奇跡が起きるのかな」
リイジーは薄く笑った。
探求のためなら人をも殺す。そんな邪悪さがこもった顔をした。