ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
次の日は屠殺場の用意の後でエ・ランテルに向かう。
魔導国の都市だが通行料は普通だった。
貨幣は王国貨幣で通じる。
魔導国貨幣は作るのと管理が面倒くさいという理由で保留にされているようだ。
帝国貨幣でも扱えるらしい。
ナザリックの都市になったとしても誰が管理しているんだろうか。
久しぶりに見る風景で変わったことはアンデッド兵が歩いている事を除けば人々の暮らしに変化があるようには見えない。
店の商品は王国と帝国から輸入されているものが多く、ナザリック地下大墳墓で生産されている野菜もあった。
領土の観点から見ても土地が少ないし、抱えている村も少ないだろう。
帝国の支援が今は強いのかもしれない。
支配者の居城は無く、都市長が暫定的に管理している。
冒険者ギルドに向かうと巨大ハムスターのハムスケが居た。しかも武装している。
特注品だろう
「随分とかっこよくなったな」
「おおっ! これはこれは訓練の主殿。その節はお世話になったでござる」
「強くなっても敵が居ないのであれば退屈だろう」
「ふふん。今はとんでもない化け物が居るでござるから、訓練には事欠かないでござる」
「
ふふんと鼻を鳴らすハムスケから別れて冒険者ギルドの扉を開ける。
建物の雰囲気から以前と違う様相は感じなかった。中も比較的たくさんの冒険者が詰め掛けていて情報のやり取りをしていた。
その中に椅子に座ってくつろぐ漆黒の全身鎧の戦士が居た。
側に剣士風の質素な服装の美姫ナーベが居て、こちらはいつも通りのきつい表情だったが剣は抜かなかった。
学習したのか。入る前に注意を受けたのかは分からない。
微妙な変化だが、それも経験のなせる
ざっと辺りを見渡して変化らしいところがないことを確認した後は受付に行かずに建物から出た。
その後は店を回り、適度に品物を確認したり食事をしたりして宿屋に入る。
懐かしい古臭さが
帝国との戦争の為に三重の防壁で囲まれていた都市は今は強大な魔導国の支配下に入っていた。
兵士たちの徴兵は無く、帝国からの侵攻に恐れる必要もない。
人々の暮らしは最大限尊重されている。それが数ヶ月も続いたのだから人々に笑顔が浮かぶのも自然な事だろう。
考察は後にして早めに眠る事にした。
そして、日が暮れる頃に目が覚める。
闇夜にまぎれて何処まで行動できるかが問題だ。
最初はやはり広大な墓地だろう。
迷彩柄の外套をまとい、宿泊している冒険者を狩り取る。
続いて墓地に向かう。監視要員は当然居るだろうが上空から墓地内の木々に紛れるように忍び込む。
整地された形跡は無く、数匹の
それらを静かに打ち砕いて霊廟まで進む。
霊廟は確認だけして通り過ぎ、反対側から墓地を脱出する。
それからハムスケの位置を確認しようとするが見当たらない。宿屋は全て確認したが居ないようだ。
深夜でも夜間営業の店があり、賑わっていた。
身体の搾取は大変ので眼球か耳だけにしておく事にした。とりあえず女性中心で。
指針が決まれば行動するだけだ。
まずは都市長の元に向かい、後は民間の家を回るだけだ。
明け方近くになる頃に都市長の元に戻ってから宿屋に戻れば終了だ。
都市を出てナザリックの第十階層で注文のついでに製作系に必要な職を聞いておく。
鍛冶師にも同様に。
淡々としていると無駄が無いが感情もそぎ落ちている気がする。
第九階層に行き、食事のついでに職も聞いておく。
戦闘系に特化しすぎているから色々と不勉強なところがある。
メイド達のことを人形だとは思いたくない。けれども元々は複雑な命令を与えられた人形なのだ。
NPCはそういう存在だから、無理して人間的に扱う必要は無い。
最適化されただけの人形だ。
それでも丹精込めた人形であるからこその愛着と言うものはあるだろう。
何も生み出さない自分が無理をしているだけとも言える。
ナザリックから自分の宝物庫に戻り、準備を整える。
屠殺場は未だに戦闘中だが追加を与えておく。
不可視化のメイドを数十人引き連れて本格的な狩りを
ここからはもはや遠慮は無用で狩り尽くすのように。
まずは手近なエ・レエブル。
一日おきに各都市を回っていく。それは主に深夜帯の活動が多いから。
そうして十日ほどかけて王都を除く都市を攻略。アーグランド評議国付近に行く場合は屠殺場は休止して休ませておく。
身体とは違い、桁違いの数の部位が手に入る。
ついでに妻の様子を見る事も出来た。
子供達と軽い食事をするが裏では血生臭い事が進んでいる。効率を重んじているけれど、子供達には見せられない。
次の日の晩には王都の貧民外を移動した後はギルドの職員を搾取しておく。
その後は屠殺場の用意と金貨や物品の移動を交えてカルネ村以外の農村を回る。
それらが終わる頃には月も変わる。
人海戦術と数の暴力とは恐ろしいものだ。
合間に討伐させていた者も充分な経験を積んだようだ。
割り振る前に切り分けておく。それはもはや粘土のような扱いだ。
しばらく留守にしていたがンフィーレアは若い祖母と共に商売に専念していたようで、エンリも時々、手伝うようだ。
カルネ村にある工房は独自の研究施設と化していて様々な実験が繰り返されている。
薬師ならではの薬品類だが、麻薬の製造にならないように気をつけている。
魔法が便利とはいえ高位の治癒魔法はそれほど普及していないし、まだまだポーション類の需要はある。
村の様子を見に来たアインズに相談したところ秘匿すべき、と言われたらしい。
ヤントラはンフィーレアの判断に任せる事にしていた。
アイテム製作に特化した者達を数百人集めて容器を作ってもらう。顔は同じでも体毛の色が違うとカラフルで綺麗だ。
一つにつき数時間かかるらしいが人海戦術にかかれば見ごたえのある風景が広がる。
溶けた金貨がアイテムへと変貌する様は黄金の海のうねりのようだ。
完成素材を参考にしているので寸分たがわぬ出来栄えとなっている。
運ぶ手間が省けるがナザリックが不要になるのももったいない気もする。元々はナザリックに属していたわけではないので彼らを気にする必要は無い。
守る義務も無い。
感情が抜け落ちる前に色々と利用できて良かったのかも知れない。
帝国と王国。それぞれでアイテム製作すれば効率的だろう。
夜中に届く物資も運び込む。
屠殺場の方は引き続き続けられる。同じ種族では物足りなくなるだろうから場所を取らない種族に変更する。
多種多様な方が見栄えはいいのかもしれないが人海戦術において邪魔になっては困る。
尻尾とか羽とか。
その前に素材の補充をしておこう、と思った。
思考を切り替えないと新しい発想は育たない。
二日かけて増産した後は地上に上がる。時間は朝方だが飲食不要の指輪で食事も忘れるほどだ。
イビルアイとンフィーレアの姿があり、漆黒の全身鎧が視界に移った。側には美姫ナーベとハムスケ。
もう詰んだ、と胸の内で呟きつつ来た道を引き返そうとした。
とりあえず『
「ご主人!? 今のは……、警報か?」
「施設を壊しに来たのかと……」
「壊さないから、落ち着け」
と、手を前に出して漆黒のモモンは言った。
「マジで?」
「マジだ。……おほん。久しぶりだな、ヤントラ」
少し慌てたモモンは改めて挨拶してきた。
「先日にも会ったと思うが?」
数日前にエ・ランテルに居たのは
「そ、そうだったな」
イビルアイはモモンと
滅多に二人が揃う機会がないので少し疑っていた。
一時はモモンの装備をまとっていたと聞いたので。
「ゴ……、モモンさんとヤントラさんのお二人が揃う事が無いようですが……。ご友人なんですよね?」
ンフィーレアはモモンの正体がアインズであることは知っているのですぐに訂正した。
あえて話しを合わせた方が何かと厄介な事態を避けられると感じた。
「腐れ縁だ。避けているわけではないが……、一緒に居る理由がそもそも無い」
「うむ。……まあそうだな」
「そうなんですか?」
と、ンフィーレアは意外そうな顔で首をかしげた。
「モモンとは約束していないが……、見物か? 見たとおり地上は殺風景だ」
「それは……、知っている。色々と驚く事があってな。……まだ信じられないのだが……」
「私はお前の事なんか知りたくないけどな。個人情報の話しはやめようぜ」
「うむ。了解した」
マナー違反でもあるし、とモモンは納得して了承する。
それにしても驚いた、と何度も呟くモモン。
イビルアイとンフィーレアは暇になったので手伝いに来ただけで、モモンとは通りすがりで出会っただけのようだ。
ヤントラは椅子を複数取り出し、近くに置いた。
施設の中に案内しないところを見るとモモン達を入れたくないのかな、とイビルアイは思った。
モモンは無造作に椅子に座ったのでナーベも彼の隣りに座る。イビルアイは反対側に座るのだが、本来はヤントラの側に居た方がいいのでは、とモモンは疑問に思った。
ンフィーレアはそれぞれの中間と思われる位置に座る。
「地下は手探りで改造というか改装などをしている。今は大浴場を壊して広い培養槽にしようと考えていたところだ」
モモンに対して普通に話すことにイビルアイは驚く。
「培養?」
そうモモンが言うとヤントラは懐からガラス容器を取り出した。その中には耳や眼球がたくさん漂っているおぞましい光景が広がっていた。
「……すごいな。じっくり見たことは無いが……」
顎に手を当ててモモンは感心する。
ゲームではないのだが、一つのアイテムのようにしか見えないし思えない。
死体を見慣れているせいか、種族的な特性か。特に顔を
「まとめて放り込んだ方が早そうでな」
「なるほど。適切な処置をすれば……。培養中に
普通に会話に参加するモモン。
「そこが問題なんだよな。だから個別に容器に入れるか迷っている最中だ」
「待て待て、ご主人。あとモモン様! これ見て、よく普通に会話出来ますね」
「いやまあ、死体を媒介にするスキルは見慣れているので」
イビルアイはモモンの正体は知ってはいるのだが、戦士としてのモモンのイメージでは声を荒げるところだと思っていたのでびっくりした。
ンフィーレアは苦笑した。
自分も眼球の詰まった容器はわりと平気な事に少し驚いている。
「ええっ!?」
慌てるイビルアイを無理やり座らせるナーベ。
「この複製にも弱点があるわけだが……。モモンは分かるか?」
「一体にしか精神が宿らない事か?」
「本体が寿命を迎えると精神を宿らせる複製が作れない事だ」
オリジナルが寿命を迎えて死んだ後、複製は完成しない。作成途中の場合でも培養が止まり、腐って滅びていく。
『
途中で殺された場合は問題無し。そこが魔法のおかしなところだ。
問題は『
『
一つ判明している事は魔法による老衰でオリジナルが死んだ場合、魔法による『
『
オリジナルの精神は失われるかもしれないけれど与えることは可能だ。とはいえ、研究は必要だ。
モモンは手のひらに拳を落として納得する仕草をした。
「それがあったか~! そういえばリスクがあると思ってたんだよ」
「一部のモンスターは蘇生に同意できるものが多い。自然界のモンスターはアンデッドを除けば生存本能が働いている。自然界の方は
一般的に
だから、オリジナルが寿命を迎えれば複製も同じく死んでしまう。
不死の存在なら問題は無いだろうし、オリジナルに若返りの魔法を使えば少しは延命になるかもしれない。
オリジナルが若返ったからといって複製も連動するのかはみだ未調査だ。予想としては若返らない、と思っている。
複製を作りすぎると劣化した肉体が出来るリスクもある、はずなのだが未確認だ。
後々、暴走や厄介な
『
あくまで『
『
もちろん、他の高位の治癒魔法も存在するので調べることは色々と残っている。
「……えげつないな、お前は。……人間の方も謎が解けたぞ。だが、急に惜しくなった。しばらく残る気はないのか?」
「……精神が
「……そうか。孤高の戦士だもんな、お前は」
人間相手なら永遠の牢獄に近いがモンスター相手なら心は痛まない。ある意味、最悪の方法ともいえる。
「まだまだ秘密が……。モモン……」
「んっ?」
「……とっておきのアイテムの事を今でも知りたいと思っているのなら諦めてくれ」
「……ん」
『とっておきのアイテム』
その言葉で思い浮かぶのは
それは
知りたいと思って調べた事は事実だし、その存在は今でも謎だ。
「手に入らないから? それとも呪いのアイテムの
「私専用だからだ。誰にも教えられないし、伝えられない。その点で言えば呪いに近いな。たっちお兄ちゃんにかなり説明したが無理だったほどだ」
「何だと!?」
つい好奇心でモモンは立ち上がってしまった。
未知のアイテムの情報はとても気になってしまう。
「手に入れるとかはどうでもいいんだ」
「このアイテムは……、相手というか他者に認識できないものだ。どんな名前なのか、理解した時点で記憶から消すような……。暗示のようなものがかかる。名前が言いたいのに言えない、感じだ」
「はっ!? そんなことが……。いや、確かに……。どうしても説明できないと……。嘘だ」
モモンの慌てふためく姿にイビルアイは戸惑った。当然、ナーベも剣に手をかけようとしていた。
「……運営の仕様か……」
「そうだろうな。だいたいの事は言えるが、つまらないぞ」
「つまらなくていい! 知ることが大事なんだ」
モモンの強い口調の言葉にンフィーレアも手に力が入る。
知りたい事を知る喜びは研究者と似ているのかもしれない。
「端的に言えば……、自殺アイテムだ。存在抹消系。モモンなら分かると思うが……、いざとなったら楽になれ、と親切な運営からのプレゼントだ」
「……はぁ!? あ……、いやいや、あの狂った運営なら……。それは二百の中に入るのか?」
「いや、私専用の仕様だから二百には入らないようだ。どこにもそれらしい文章は無かった」
二人にだけ分かる暗号のやり取りのようにンフィーレア達には聞こえていた。
少なくともモモンは理解している。そして、とても驚いているのは分かった。
「見た目が凄いぞ。ほぼ点だ。普通に旅してたら絶対に見つからないんじゃないかと思うほどだ」
たっち・みーから概要だけは聞いた覚えがある。
その謎アイテムは一ドットの点。点以外に例えようがないふざけたアイテムだと。
しかも誰にも譲渡できないものとも聞いている。
奪えないタイプのアイテム。
「名前が知りてー……」
「認識すると名前が消される。だから、教えられない。ヒントとしては先頭が『無』だ。あとは……、知らなくてもいいだろう。先頭だけ分かればいい」
『無』で思いつくのは一つくらいしかない。
それは『ヴォイド』だ。
「……その後を思いつくと名前が言えなくなると……」
それはそれで恐ろしいアイテムだ。
名称が言えなくなると会話が成立しなくなるおそれがある。
話しからは認識した時点でアウトのようだ。
ヴォイドに拘っていると全てを失いそうだ。
ちなみにヴォイドと付くアイテム類は他にも存在する。
「だからかもしれない。私が無茶な事をしていても平気なのは。案外、精神ごと抹消されるかもな」
「……エロいプレーを許容している事や複製の件か……。納得できそうで出来ないな」
「ナザリックを攻める、という手もあるかもしれない。だが、問題と言うか……、気になっていることがある」
「なんだ?」
「旅に出る時、第十階層から出たんだよな? なんで逆戻りで攻めなければならないんだ? 攻めてほしいなら膨大な数の暴力を見せるぞ」
「逆? ……第十……」
ヤントラが旅に出る時は玉座の間だった。確かにそこから自分でヤントラを地上に送り出した。
言われてみればナザリックを攻める、という状況はおかしい。
いつからそんな考えになったんだろうか。
世界を知るためにモモンとして近くの都市に行き、冒険者となった。その後はヤントラよりも敵対プレイヤーの存在に気をつけつつ慎重に行動していたはずだ。
その敵対プレイヤーの代表格がヤントラだ。だから、ナザリックに攻めてくる、という話しに自然となってしまったと。