※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

137 / 213
J-12 空から落ちてくるもの

 今度の『転移門(ゲート)』からは蜥蜴人(リザードマン)の大群が出て来た。

 白い蜥蜴人(リザードマン)は居ないが身体の丈夫な敵が出てきて兵士達はどよめく。

 それらを殲滅した後、急に『転移門(ゲート)』は静かになった。

 終了だろうかと思いつつ、兵士達は休息を取る。

 ただ、詰め所近くに『転移門(ゲート)』が現れて差し入れが配られる。

「まだ死人は居ないっすね?」

「居ないようだ」

「魔力切れの人はそこに並んで下さいっす」

 メイドに言われるまま魔法詠唱者(マジック・キャスター)達は一列に並んだ。

 新たに現れたメイド達に魔力を譲渡されていく。

「ちゃんと程よく倒しているっすか? どんどん強くなるからしっかり倒さないと命を落すっすよ」

 そう言って消えていった。

 休息してから三十分後に『転移門(ゲート)』が開く。

 それぞれ兵士達は武器を握るが現れたのは仔牛と山羊の大群だった。

「……はっ?」

「これも倒すのかな?」

 セバスは可哀相だと思ったがコキュートスは容赦しなかった。

 次に八足馬(スレイプニール)の大群が出て来た。

「おっさん、兵士達に倒させないとダメっすよ。そんな悪い子には罰が必要っすね」

 背後でメイドの言葉が聞こえた後、コキュートスの近くに『転移門(ゲート)』が開き、小さな裸の女の子がたくさん出て来た。

 それは全て『ネム・エモット』だった。

 同じ顔が数百と現れると不気味だった。

「えへへ。悪い子にはバツなのよ」

 と、同時に喋るネム。

「喋った!?」

 と背後に控えていた兵士達が驚く。

 メイドが喋るのだからおかしなことはないのに、つい驚いてしまった。

 ネム達はコキュートスに手を向けた。

「『魔法の矢(マジック・アロー)』」

 低い位階魔法だが数百人規模の魔法の洗礼はコキュートスを驚かせる。

 スドドドという連続音が響く。

 普通なら通用しないはずの魔法がコキュートスの身体に打ち込まれていく。

 低いレベルでは無効化するはずなのに通る、ということは見た目は子供でも高レベルモンスターである可能性が高い。

「ムウ!?」

 パワーレベリングの恐ろしいところは見た目には分からない事だ。

 子供でもやりようによっては最強のモンスターに出来る。

「おやおや、子供相手に油断っすか?」

 不可視化したメイドが背中に張り付いた。

「『大治癒(ヒール)』」

 メイドはコキュートスに治癒魔法をかける。

「ン!?」

「間違って本物を殺してはダメっすよ」

 そう言った後でメイドは不可視化した。

 コキュートスは魔法をかいくぐりながらネムを殲滅する。

 意外なモンスターの出現に驚いてしまった。

 次に現れたのは魔将。それも数体。

 それらは同時に召喚魔法を使い、別の悪魔を呼び出す。

「ナント!?」

「これは厄介ですね」

 兵士達もどんどん強くなるモンスターに恐れを抱く。

 ただ、殆どコキュートス一人で倒してしまう。

 倒し損ねた分はセバスが倒し、兵士達は楽をさせてもらっていた。

 続いて現れたのはメイド服を着たメイドが数十人。

「ゴミを片付けるので攻撃はしないで下さいっす。停戦っす」

 メイド達は兵士に向かって腕を交差させる合図を送った。

「そうですね。死体の山ですから掃除は大切です」

 流れ作業のように死体の山を片付けていく。

 残りカスも粘体(スライム)状のモンスターが回収していくと戦場はとても綺麗になった。

 三十分ほどで凄惨な現場が何事も無い平地へと変わる。

 最後に全員がお辞儀して『転移門(ゲート)』を通って帰っていった。

「早ぇ……」

「もう片付いたのか」

 と、感心している間もなく新たな『転移門(ゲート)』が開く。

 今度は獣人(ビーストマン)と人馬(ケンタウロス)と牛頭人(ミノタウロス)が猛烈な勢いで兵士に向かって行き、一人ひとり蹴っていく。

 割りと地味な攻撃だが、けっこう痛い。

 あと、割りと陰湿だった。

「ちゃんと戦え!」

 その後で魔将がまた現れて大量の召喚を行う。

 間(あいだ)を縫(ぬ)うように森妖精(エルフ)達が裸で走りより、兵士達に往復ビンタしていく。

 恋人に引っ叩かれるような攻撃に苦笑が漏れる。

 闇妖精(ダークエルフ)も出てきたがセバス達に放尿で牽制して逃げていくというひどい攻撃をしてきた。

 戦いにくい相手にセバスも拳が緩んでしまう。

 それでも怒涛に襲ってくるモンスターには違いが無い。

 武器を持っていないのだから変な戦いになるのは仕方が無い。

 また仔牛や山羊が出て来たが、今度のは体当たりが強かった。

 身体は小さいが兵士達の鎧や盾をへこませて行く。

 鍛えられた兵士が簡単に吹き飛ばされる。

「やばいやばい!」

「あいつら強いぞ!」

 混成部隊とはいえなかなかの強敵に帝国の最強四騎士も姿を現していく。

 その後で『転移門(ゲート)』の後ろから巨大ハムスターに跨(またが)った漆黒の戦士がやってくる。

 空からは青いローブをまとい仮面をかぶったイビルアイが敵性モンスターに魔法を打ち込む。

「助太刀する」

「なんでござるか、この者達は!?」

「複製部隊だ。全て蹴散らして良いぞ。向こうの帝国兵は攻撃するなよ」

「了解でござる」

 漆黒の戦士『モモン』は背中の二本のグレートソードを持って切り伏せていく。

「本物か?」

「ああ、我々も協力しよう」

「……ご主人を怒らせたのか、帝国は?」

 というか仔牛が兵士を襲っているのは笑いそうになる。

 新たに『転移門(ゲート)』が開き、大人の牛が大量に出て来た。

 それらは突撃するでもなく、ゆっくりと歩いていた。

「……シュールな戦法を取ってくるとは……。……そういえば、そういうのが好きな奴だったな」

 攻撃して来ない牛にモモンは容赦なく武器を奮う。

「見た目に騙されるな! 転移してくるものは全て敵だと思え!」

「牛も攻撃対象か?」

「牛もだ。イビルアイ」

 詰め所に新たな『転移門(ゲート)』が開き、メイド達が差し入れを用意する。

「ご苦労様っす。おや、モモンさん。いくらあなたでもダメっすよ。兵士達に倒させなきゃ」

「兵士でなければダメなのか?」

「これは帝国との戦争なので。でないと女体モンスターが出てくることになるっすよ」

 メイドが去った後には赤帽子の小鬼(レッドキャップ)と拷問の悪魔(トーチャー)の大群が現れる。

 兵士達は戦慄する。どれだけ自分たちは倒しているんだろうと。

 終わりの見えない兵力に逃げ出したくなる。

 その恐怖心に反応したのか、一気に数十の『転移門(ゲート)』が開き、夥(おびただ)しい女体モンスターが攻めてきた。

 更に数分後にも小鬼(ゴブリン)などのモンスターが溢れるほど。

 次は遥か後方全てを埋め尽くす獣人(ビーストマン)が湧き出てきた。

「あの野郎……。コキュートス! 先に飛び込んでスキルを駆使しろ」

 というモモンの命令に従い、コキュートスは武器をふるって突入する。

 もてる力を発揮しつつ数百の敵を粉砕していく。

「イビルアイ。魔法の出し惜しみをしている場合ではないようだ。覚悟は良いか?」

「……ちょっと怖いです……。でも、頑張ります」

「魔力が尽きたら補給するから遠慮なく頑張って下さい」

 と後方からメイドが声をかけてきた。

「……ご主人はこれだけの事が出来るのだな」

「出来るようになった、が正しいだろう。本来はこんな事はしないのだが……。仲間はずれにされた恨みかな?」

「日頃の疲れが形となったのかも」

 二人が迎撃していると遥か後方から奇声を上げながら敵を蹴散らす者が現れた。

 それはモモンと同じく漆黒の全身鎧をまといバルディッシュを振り回す戦士だった。

「どりゃああ!」

 一振りでモンスターが肉片となって散っていく。

 その戦士を手助けするように魔法で打ち漏らしを片付けるのは美姫ナーベだった。

 帝国兵も前進してモンスターを蹴散らしていく。

 両者が半分ほど倒した後で豚鬼(オーク)と蜥蜴人(リザードマン)の大群が出現する。

 無限に湧き出る軍勢に帝国側は恐怖してきた。

 それにはお構い無しにモモンは剣を振るう。

「終わりが見えない戦いか……」

 かつて悪魔が無限召喚される事件があったが、その時に少し似ている。

 収拾がつかなくなって運営が事態を収めたはずだが、今回はヤントラ個人が調整しているはずだ。それにしても用意するのが早い。

「セバスは兵士達の援護に回れ」

「畏まりました」

「綺麗な戦争は無いっすよ。この程度で根を上げるようでは困るっすね」

 今度は空を覆いつくすほどの『転移門(ゲート)』が現れる。

 鳥形モンスターというか有翼人(ハルピュイア)種の大群。

 ただ、一斉に糞を落とすという嫌がらせ。

「うわっ!」

「くせー!」

「あの野郎! 絶対殺す!」

 容赦の無い攻撃に兵士達とモモンは憤慨する。

 攻撃としてはとても有効的だが、メイドも糞まみれになってしまった。

「これ、鳥の糞じゃないっすね。人糞そのものっす」

 この攻撃にナザリック勢はほぼ無傷。というか落下物を回避する魔法と魔法が付与された装備のお陰だろう。ただし、ナーベとイビルアイは酷い有様になった。

 モモンに落ちてきた糞が自ら軌道を変えてイビルアイの顔や身体に当たることが多々あった。

 ハムスケも糞まみれになってしょんぼりしていた。

「……うわ……、精神的なダメージは甚大だな」

 詰め所にまた『転移門(ゲート)』が開いて青い粘体(スライム)がたくさん現れ、現場に散らばる糞を回収していく。

 モモンは小さく『私の三吉君が……』と呟いた。

 攻撃はせず、辺りを掃除しているようだ。

 ヤントラはどうやらやりすぎたと思ったらしい、とモモンは思った。その証拠に攻撃が止んでいる。

 ナーベは空のモンスターを魔法で打ち落としていく。

 

 低位モンスターの侵攻は二時間も続いたのだが、戦闘の連続に兵士達の疲労は限界に来ていた。

 一人も犠牲は出していないが一生分は働いた気がした。

 汚物は綺麗に掃除され、死体もメイド達が片付けていった。

「帝国はご主人を怒らせるようなことでもしたのか?」

 粘体(スライム)によって綺麗になった事を確認して安心したイビルアイは尋ねた。

「そんなことはないはずなのですが……」

 皇帝は戦闘の様子を複数の水晶の画面(クリスタル・モニター)で観戦していて満足気だった。

 一人も逃げ出さずに戦い続けたからだろう。

「最初の小鬼(ゴブリン)軍団は来る前に飢えで撤退したと聞いた時は笑ったんですがね」

「……はっ?」

 モモンはつい言った。

「アインドラ卿の施設からカッツェ平野まで遠いから、ここまで来れずに力尽きたらしいんです」

「……バカだな」

 確かに全てに『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』を付けることはできないから仕方がない。

 最初に躓(つまず)くところは懐かしさを覚える。

「この戦い……。一週間も続くんでしょうか?」

「続いてほしくないな」

 この戦いの最大の問題は敵の戦力が未知数であること。

 数千から数万体をすぐさま送り込んでくること。

 無限とも思える兵力は軍事国家といえども脅威だ。

「無限に増殖する敵が苦手だというご主人の不安を現実にしたような有様だな」

 次は『黒い仔山羊』の大群だったら嫌だな、とモモンは戦慄する。

 側に控える黒い鎧の戦士『アルベド』は黙って周りに注意を向けていた。

「地下にこもり続けるのは精神的にきついはずだから三日がせいぜいのはず……」

「それにしても膨大なモンスターには恐れ入る」

 モモンとしては魔法を使えばもっと楽に殲滅できたと思っている。

 冒険者モモンで来たのは失敗だったかなと後悔した。

 失念していたが冒険者として関わってはいけない事案かも知れない事を思い出したがイビルアイも参加しているので一緒に言い訳を考えてもらおうと思った。

 新たな『転移門(ゲート)』がモモン達の近くで開き、それぞれ身構えたが出て来たのはメイドだった。

「兵士の皆さんはたくさんのモンスター、倒せたっすか?」

 そう呼びかけるとそれぞれ力なく頷いた。

「助っ人してもいいけど、兵士達にモンスターを割り振るように。とのことっす」

「モンスター討伐はまだ続くのか?」

「次は助っ人無しで頑張って下さいっす。疲れたら手伝ってもいいっすよ。次の相手で最後……」

「最後?」

「魔法は使っても大丈夫っす。では……」

 そう言ってメイドは『転移門(ゲート)』の中に消えた。

 イビルアイは兵士達の後ろに控えることにしたし、モモンも異存は無かった。

 それから数分後に先ほどと同じくかなりの数の『転移門(ゲート)』が開き、出て来たのは赤帽子の小鬼(レッドキャップ)と女淫魔(サキュバス)の大部隊だった。

 それらが一斉に走ってきて襲いかかってくる。

 特に赤帽子の小鬼(レッドキャップ)は素早くて倒しにくい。

 打撃しかやってこないが邪魔で仕方が無い。

 手間取っていると獣人(ビーストマン)も追加されたようだ。

 数万人の兵士と魔法援護によりモンスターは押し留められているが数が多すぎる。

 ある程度撃退したと思ったら女体モンスターが追加される。それも容赦の無い数だ。

 モモンは魔法なら一発で一掃できそうな気がして仕方が無い。

 戦士化を解けば楽だと思った。

 数十分後には魔力切れを起こす者が現れる。

 イビルアイも手助けに入り、モモン達も仕方なく討伐に参加する。

 追加のモンスターは現れず、後は一気に殲滅された。

 何故か、人魚(マーメイド)系が数匹ほど居たが身動きが取れなかったようだ。

 動くものが居なくなった後でメイド達が現れて死体を片付けていく。

「お疲れ様でした。特に伝言は無いっすけど、皇帝陛下から労(ねぎら)われて下さいっす」

「終了で良いのか?」

「いいっすよ。この後のモンスターは関知しないんで。では……」

 片づけが終わったメイド達は『転移門(ゲート)』の中に消えていった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 綺麗になった戦場では夥しいモンスターの気配など無かったかのように静まり返っていた。

 敵勢力が消滅したとはいえ警戒は怠れない。

 一部の兵士を残して帝都に引き上げていく。

 イビルアイ達は皇帝が直接、礼が言いたいという事で城に招かれることになった。

 既に城までの道のりを行く馬車が用意され、それぞれ乗り込んでいく。

 帝城に向かい、イビルアイ達はそのまま皇帝の玉座の間に通された。

 帝国四騎士もそれぞれ所定の位置に立ち尽くす。

「確か真蒼の薔薇のイビルアイだな。そちらはモモンだったな」

 美姫ナーベと黒い戦士のアルベドは少し後ろで片膝をついていた。

 ハムスケは城内の控え室で待機する事になった。

 セバスとコキュートスは既に『転移門(ゲート)』にてナザリックに帰還していた。

「この度は助っ人に来てくれて助かった。だが、急なことゆえ褒美などは用意できないのだが……。何か希望でもあるのか?」

「おそれながら」

 と、イビルアイはその場に平伏する。

「私共のご主人がご迷惑をお掛けした。まずはそのことを……」

「良い」

「はっ?」

「事前に報告を受けた上での戦いだ。それに殺し合いという訳ではないし、アインドラ卿はそれを守ったようだ。ならば咎めたりはせん」

「では、あの戦いは訓練という事か?」

「そうかもしれん。何かしていないと死にたくなるくらい退屈していたのかもな。あまり元気そうな雰囲気でもなかった」

 助っ人に来たイビルアイ達に僅かばかりの報酬を与えたいところだが、金貨でいいのか尋ねてみた。

 モモンは受け取ることにしたがイビルアイは辞退した。

「そうだ。この度の戦いでそなたたちが冒険者として不利な立場になるのであれば報告してくれ。演習と言う名目にしてやろう。王国と戦争したわけではないからな。手紙ではそう報告してあるが……。万が一の時は冒険者ギルドに話しを通しておこう」

 モモンは軽く頭を下げた。これは冒険者モモンだからこその感謝だ。

 ナーベ達も同様に感謝の意を表す。

「ご主人を喜ばせることが分かれば手伝うのだが……。どうしたらよいのか……」

「日頃できない鬱憤が晴らせてすっきりしたかもしれん。やることが無くなれば元気を無くすんだろうが……。攻撃方法は……一部はふざけていたが、良心的だったな。そこは奴のやさしい所なのかもしれんが」

「報告にあった差し入れは……、近くの街で買ってきたのか?」

 そう疑問を口にすると『転移門(ゲート)』が現れて『警報(アラーム)』が鳴った。

 現れたのは先ほどから現れていたメイドだった。

 そのすぐ後で数人の従者が入ってくるがジルクニフは待機を命じた。

「お初にお目にかかります。ジルクニフ皇帝陛下」

「うむ。そなたが兵士達に差し入れを持ってきているメイドだな」

「兵糧は全て我が主のお手製です。大したものではありませんが、お詫びもかねてのものでございます」

「……兵士達全ての兵糧をアインドラ卿が作ったのか?」

 そう言うとメイドは頷いた。

 イビルアイはすぐさまメイドの胸倉を掴む。

「ご主人は一人だぞ。あれだけの兵士の食事を用意できるのか!?」

「用意しておりましたよ。材料は今まで蓄えた食糧を総動員しております。意外かと思われますが都市ひとつ分を賄える食糧の備蓄を持っているのです」

「……そんな話しは聞いた事がない……」

「私も聞いた事は無いな。伝え聞いた施設の中に食料を備蓄している場所は無いはずだ」

「保存食をメインにしているので宿舎と地下の空き室の部屋を有効利用すれば不可能ではありません」

 『マグヌム・オプス』の宿舎は大勢の職人たちが暮らせるほど大きいし、地下の空き室は一部、天井が高く広い。

 それらを動員すれば確かに結構な数の食事を用意できるだろう。

 そうであっても数万人規模は無理だとイビルアイは思ったが想像できなかっただけかもしれない。

「開発当初から実験農園の作物もありましたし。ただ、複製ではないので身体の負担は無いかと。意外な保存方法としては『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』ですね。大量に購入しておりましたから」

 腐らないようにする上ではうってつけのアイテムだ。

 後は冷凍保存できるような部屋が作られている可能性だ。

 問題は今の話しが真実である保証が無い。そういう命令で言っているだけで人員を総動員しているとも取れる。

 『用意したのがヤントラ一人』ではなく『用意させた』という微妙な表現の違いかもしれない。

「謎解きは後にして。何用かな?」

「殲滅目的で用意したモンスターはあまり面白くなかった、と。自然界に居るモンスターの方が歯ごたえがあるから失敗したかも、とのことです」

「……それはつまり今回の戦いはつまらなかったと」

「自分で用意すると面白くない。ということでございます。魔法詠唱者(マジック・キャスター)の観点からは大規模殲滅魔法数発で終わる程度なので、期待はずれな気がする、とも言っておられました」

「……なかなか分かっているじゃないか」

 と、腕を組んで頷くモモン。

「本当の大規模戦闘はこんなお遊戯とは桁違いです。……らしいです」

「お遊戯……。あれほどの数のモンスターが……」

「今回のモンスターは全て無防備だった。もしちゃんとした装備と訓練を受けていれば真の戦いが拝めたかもしれないな」

「そうか。我が軍はお遊戯程度で苦戦するのか」

 実際、そうなのだろう。

 たった一人が作り出した軍勢に翻弄されたのだから。

 それも誰も死なないように配慮された。

 国を取り囲むような方法も取られなかった。

「そうであっても冒険者としては多くのモンスターを倒せるから仕事には事欠かないな」

「皇帝陛下。ご主人はモンスター退治が好きなお方……。国の事にまで干渉するとは思いませんでした」

「凶悪なモンスターは他にも居る。正攻法で攻めてきたが未知の敵は脅威だと分かった。軍事力をつけても油断はするな、ということだろう」

「……いえ、命を大事にしてください。ということだと思います」

「はっ? あれだけの戦いでか!?」

 誰も死なない戦いではあったが、命の大切さにしては敵方は粗末にしすぎな気がする。

「戦争とはきれいごとではないのだろう。その点で言えば理にかなっていると言えよう。皇帝陛下。やつなりの表現かもしれない」

「そ、そうなのか?」

「命を粗末にする奴は敵だが、生きようとする者には最大限の手伝いをする。奴が始末しているのは全て人形だ。そのメイドを含めてな」

 メイドはイビルアイから離れて宙を一回転する。その後で開いていた『転移門(ゲート)』が消滅する。

「人形じゃないよ。自我の無い肉の塊だよ」

「ま、まあそうだな」

「『転移門(ゲート)』が開かないと帰れない……。以降、命令があるまで待機いたします」

 直立不動の姿勢を取り、笑顔が無くなる。

 イビルアイの呼びかけにも答えなくなった。

「連れて帰らないといけないのか?」

「そのようだな」

 モモンがアルベドに顔を向けると頷いた。ただ、バルディッシュを構えたので真意を汲み取ったわけではないと分かり、慌てて武器を下ろすように命令する。

「始末せよ、というご命令では?」

「違う! 奴の施設に送ってやれ、ということだ。この部屋を血で汚すのは控えた方がいいだろう」

 ナーベが頷き、兎の耳を出して連絡を取る。

 程なく『転移門(ゲート)』が現れて、止まっているメイドに顔が瓜二つで赤い髪を三つ編みにしたルプスレギナが素早く回収していった。

「……ふ~。お騒がせした」

「うむ」

「重ねがさね申し訳ありません、ジルクニフ陛下」

「よい。兵士達には良い刺激になったことであろう。……ところで『水晶の画面(クリスタル・モニター)』などで確認していたのだが、女体モンスターというものは何故、服を着ていなかったのだ?」

「あ、あれは倒されることが前提ならば着せてももったいないと考えたからでございましょう」

「なるほど。趣味ではなく実益の方か」

「先ほどのメイドのように仕事についている者はちゃんと服は着せています。残りの多くは眠らせて保管されておりました」

「ああいうのは自動的に着せられるものではないのだな」

「そのようです」

 目の前で複製の製作現場を見た時は確かに裸になっていた。

「男の兵士には強敵だな」

 ジルクニフは大きく笑い、場は和んだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 戦闘が終わった後でヤントラは食材の買出しに向かい、適度に集めた後で備蓄していく。

 怒涛の戦闘続きで少し疲れたがもう少し敵の配分を増やせたらよかったな、と思った。

 手持ちの戦力を半分ほど使ったような気もするが、死人が出なかっただけで安心した。

 戦争を止めても準備は怠らない。ならばどこかで発散してやらないといけないだろう。

 思いつく限りの戦闘だったが、武器が無いのは苦労したな。

 あまり強敵と呼べるモンスターが出せなかった。それが反省点かもしれない。

 あと、個人で長続きできるほどは用意できないようだ。

 食事を作りながらは無茶だったかもしれない。などと色々と思いながらヤントラは施設内を点検する。

 一の宝物庫の地下二階部分はこまごまとした物置で良いだろう。

 元金貨生産の場所にはアイテムが散らばっていた。片付けるのを忘れていたのでメイド達に棚に片付けるように命令する。

 大浴場は一部のメイドが身体を洗っていた。上の階は無視して屠殺場は既に清掃が終わっていた。

 『魂喰らい(ソウルイーター)』という後始末にうってつけのモンスターの存在に気付き、使用後は数百体で対応するようにした。それでは足りないかもしれないので最終的には数百万体も覚悟しておく。

 色んな人材を処分した後は重宝する。だが、そこまではさすがに無理だろうと自分で自嘲気味に苦笑する。数週間がかりなら無理ではない数、かもしれないけれど。

 五の宝物庫を通り過ぎて六の宝物庫の地下一階は平和だった。

 ここが一番人間らしいところかもしれない。

 地下二階の羊皮紙生産は滞り無く続けられていた。

 一日で出来る仕事ではないけれど作業に当たるものの肌荒れや呼吸困難になっていないか調べていく。

 水の浄化や汚れを落す素材類の備蓄も確認する。

 七の宝物庫の地下二階は無数の容器が規則正しく並べられている。

 全体的には空きが目立つが積み重なる姿は圧巻だろう。

 シズ用のアイテムも用意しないと寂しがるかな、と思いつつ新たな量産体制を始める。

 ナザリック勢に依存しない新生『マグヌム・オプス』が始動する。

 数日経ったが王国側から抗議の声明は出されず、リ・アインドルにも沙汰は下されなかった。

 近隣都市に迷惑をかけなかった点が考慮されたのかもしれない。

 ルプスレギナによって返却されたメイドは既に無く。

 与えられた命令が尽きれば停止してしまう。

 人生経験が無い者達だから。

 真蒼の薔薇に恒久的な仕事はさせられない。

 ヤントラは伝え忘れた事を思い出し、帝国にメイドを送る。

 客人対応していたジルクニフは突然の『転移門(ゲート)』に驚いた。

「ど、どうしたのだ」

 先日とは違う髪の色のメイドが片膝を付いた。

「事前通告したモンスターは以上です。通告無しのモンスターは送りませんので、ということを伝え忘れたことをお詫び申し上げます」

「わざわざ伝えてくるとは。うむ、分かったとアインドラ卿に伝えてくれ」

「畏まりました。それから……、カッツェ平野に大量の魂喰らい(ソウルイーター)を連れて参りますが、後始末なので決して近づかないように願います。というか近くに人が居たら伝えますけど……」

「了解した」

「では、失礼しました」

 開いている『転移門(ゲート)』にメイドは飛び込み、消えていった。

 戦闘が終わった後に大量のモンスターがやってきて、また演習と勘違いしたら命を落す危険がある、ということだろうとジルクニフは思った。

 ちゃんと報告してくる辺り、優しい人間なのだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。