※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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J-13 浮遊する建築物

 食料の備蓄作業の為に森祭司(ドルイド)系の魔法を充実させていく。

 一系統に特化した者を十人以上用意する。

 あとは畑で大量生産、とは言いがたいが食糧生産も意外と大切だ。

 天日干しの羊皮紙も流れ作業となると安心感が増す。

 折角作った羊皮紙だから今まで滞っていた魔法の一覧表や必要な書類を製作していく。

 インク類は充分な数があるので問題なし。

 全自動にすると侵入者が現れない限りは生産の手は止まらない。

 王国と竜王国の分の羊皮紙と様々な資源の準備が整ったのは下風月(十二月)になるころだ。

 短時間で出来る作業ではないので時間は物凄い勢いで過ぎていく。

 同時進行で作っていた金属板が全て完成するほどに。ついでに容器類も必要数は揃った。

 備蓄の食糧も総て埋まる。

 後はアイテム生産くらいだ。

 培養の部屋も最初の容器には全体的な身体が出来上がりつつあった。

 あまり密に並べると動き出す個体が分からなくなるので充分な空間は確保している。

 ラキュースに何度か送った手紙の返事も執務室に保管はしているが、毎回どこかしら間違った表現になるのは勉強不足なのだろう。それを指摘してくれる彼女には感謝している。

 城にも手紙を出し、献上しに行くのだが、自分の冒険に行き詰ってしまった事を改めて実感する。

 冒険者から大錬金術師となってきたヤントラはリ・エスティーゼ王国のヴァランシア宮殿に向かった。

 イビルアイを毎回、お供に引き連れなければならない規則はなく、一人でも行ける。

 事前の連絡により問題なく玉座の間に向かう。

 この世界に来て二年が経とうとしている。

 大きな市場の変化は起きていないけれど、世界は常に成長している。

 儀礼的な挨拶を終えて箱を出す。

「それが羊皮紙か……」

「人間の皮ではないのか?」

 王の側にいる貴族の一人が言った。

「大丈夫ですよ。仔牛と山羊です。人間の皮がご所望なら用意しますよ。肌の色によって色は様々ですが……」

「では……、人間の皮はこの羊皮紙とどのような違いがあるのでしょうか?」

 王の隣りに座るラナー王女が尋ねた。

「素材元の違い以外は皮なので大した違いはありません。悲鳴の高さでしょうか? 魔力を持つ者の皮ならよい魔法のスクロールが出来るかもしれないのですが……。とある者に渡したところ、それらの報告が来ないので失敗なのか成功なのか……」

 一部の者はおぞましいと口に出して感想を述べるがラナーは微笑みを絶やさない。

「ちなみに身体の中身を使う加工品はございますか?」

「無いですね。あるとすれば異種交配でしょうか?」

「そういうものなのですか? 豚や牛、鳥の卵とは違うのですね」

「亜人の国なら食材加工などをするのかもしれませんが……」

「……それは失念しておりました。すみません。人間の国では使えませんものね」

 薄く笑うラナー。

 答えに満足したのか、大人しくなった。

 従者にそれぞれの羊皮紙を一枚ずつ取らせて王は自ら手触りなどを確認する。

「良い出来であるな。これに治癒魔法をかけると肉が出てくる、ということはあるのか?」

「製品として出来たアイテムに治癒魔法は効きません。安心して紙としてお使いいただけますよ」

「仔牛と山羊ということだが、何故大人の牛ではないのだ?」

「子供の方が肌のキメが細かくて毛穴が目立たないからでしょう。育ちすぎた牛は加工が大変だと聞きます」

「勉強されたのだな」

「倫理の勉強はおろそかになってしまいましたが……。少なくとも王様にお出しする品はできるだけおぞましくないものを心がけております。便利な魔法があると悪用し易くなりますから」

「ははは。うむ、確かにそのようだな」

「ラキュースから聞いたのですが、これを販売する気はあるのですか?」

「量産できるものですから王や王女様が許可してくれるならば……」

「無限に生産できるものに金を払うのか?」

 と、貴族の一人が言った。

「食糧生産と一緒ですよ。適正価格を設定して支払ってあげればよろしいかと」

「アインドラ卿は便利な魔法で生産できるから販売に躊躇しておるそうだな。それはそなたの良心と思っている」

 と、王は優しく言った。

「誰もが都合の良い魔法で生産すれば経済は破綻するかもしれません。ですが、今までそのような方法が行(おこな)われたことがございません」

「方法を知られれば誰もが出来る、とも聞こえますが?」

「出来るでしょうか? 少なくとも第六位階の信仰系魔法は必要なのですよ。おそらく魔法以外にも剣の腕や良い武器も必要かもしれません」

「だ、第六位階!?」

「たった一人で国を滅ぼせる人間を量産するようなものですね。商売より征服した方が早いかもしれません」

 だからこそ販売に躊躇しているのかもしれない。

 それは良心ではなく、面白くない方法だからだろう。

 だが、必要な商品は流通してこそだと思う。

 余程のおぞましい品物でも無い限りは。

「……失礼しました。ヤントラ様は欲の無いお方……。ですが、我々は欲深い人間なのです。色んな物を欲しがります。……金銀財宝とは申しませんが、羊皮紙でも提供してくれるのはありがたいことでございます」

 金貨を量産する人間だ。

 金儲けはしないだろう。そして、結果が見えている。

 ヤントラは商売はしない。足りないものは買うかもしれないが、それらもいずれ自前で生産する。

 とても勉強熱心だからこそ出来ることだろう。

 領地の没収は無意味。確立された方法さえあれば帝国でも施設を作り上げられる。

 無から有を生み出す究極の錬金術だ。

 生み出せないものは現地通貨かもしれない。

「そうですわ」

 と、手を叩くラナー。

「箱一つ……。もちろん中身が詰まった状態ですが、一個につき金貨百枚で買い取らせていただきます。無料にするのは経済的にも不健康です」

「不健康……。それは確かにそうなのですが……」

 申し訳無さそうにヤントラは言う。

 タダであげることがあまり良い方法ではないことは分かっているのだろう。ただ、他の方法が思いつかない、そうラナーには見えた。

 物事をちゃんと分かっている。

 ヤントラは経済まで混乱させたいとは思っていないと。

「ラナー王女。この羊皮紙を金貨百枚で買い取るのですか?」

 数万枚の価値はあるように見える。

 安く買い叩きすぎると他の従者たちも思った。

「ヤントラ様にとって現地通貨は作り出せない貴重品です。そうですよね?」

「税金以外で使いそうに無い貴重なお金です」

「あら、外食や検問の通行料にも使えるんですよ。交金貨も侮れません」

 ヤントラは苦笑した。

「それから疑問だったのですが……。ヤントラ様はもしかして……。あまり重いものを持ち歩けないのですか?」

 無限に箱を出しそうなのにいつも箱を満たすほどの品は持ってこない。

 そもそも保管庫を必要とする理由は無い気もした。

「察しの通りです。アイテムボックスには限界があります。重量制限というものです」

 ヤントラは皮袋を一つ置いた。

「この『無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)』は五百キログラムが限界です。それをたくさん用意すると管理が大変になります。スクロール類は軽いので多く持てますけど。この箱もあまり入れると何が起きるか分からないので自分で制限しているんです」

「限界は知らないのですか?」

「限界はあるはずです。確か、種類の数が数百ほどだったかと……。中身が違うとそれぞれ一種類ずつになるはずです」

 数百個の箱を保有できるのはラナーも予想外で驚いた。

「重すぎても種類が多すぎてもダメ。冒険者として色々と知恵を働かせます。あと、巨大なものは入りません、たぶん。城とか家とかは……」

 重量を零にした物体なら入りそうな気はするのだが、試したくない。

 アイテム名が城とか星とか。もはや征服のレベルが神の所業だ。

「あらあら。それが可能なら見物でしょうに」

「……でしょうね」

「おほん。失礼しました。それで、いかがですか、ヤントラ様。あなたの善意一つを金貨百枚で提供するというのは?」

「……悪い王女様だ」

 安定供給するには施設の中をもっと整理しなければならない。だが、それには様々な有識者の助けが必要だ。

 一人で試行錯誤するのは楽しいのだが、時間がかかると顧客が困るだろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 冒険の最初は資金稼ぎが基本。

 攻略が進めば自前でアイテムを揃えられる様になる。気がつけば金は不要になっていたりする。

 拠点維持費として必要な事もあるだろう。

 一部のコストとしても。

 今のヤントラは物欲が無い、というか少ない。

 珍しいモンスターに遭遇したり、上位クエストを攻略する以外は楽しみが無い。

 アイテム製作においては渡す相手のためならば頑張れるだろう。それが居なければ不毛な作業で終わる。

「ヤントラ様の肉体は物欲を消費するようですね。残っているのは『死』だけとか?」

「仲間と行動するスキルでもあればいいのですが……。一人で強くなってしまいました。期待していた冒険も出来ない。何もせずに地下にこもり続けるのも良いかも知れません。千年後とは言いませんが百年後の未来でも行かないとダメだったりして」

「ヤントラ様にとってはあっという間かもしれませんね」

「全てをやり直すか……。いっそ死に続けるか……。モンスターを大量に放して冒険者の仕事を増やすか……。何をすれば良いのか……。迷走しています」

 アイテム全てを捨てる。そういう事も選択肢のひとつではある。

 ゲームはいずれ飽きる。

 ユグドラシルも終了する数年前から入院生活で満足に遊ばなくなった。

 他のゲームも出来そうに無いし。

 無いものは作れ。

 そういう気持ちになったこともあるのだが、長続きしない。

「金貨十枚に致しましょう」

「ラナー様!? 逆に減らしてどうするのですか!?」

「では、生産しやすいように土地を更に提供しますか?」

 大貴族になったばかりの者達は唸った。

 おぞましい実験施設を作っているヤントラの噂は聞いているので、自分達の土地には作らせたくなかった。

 地上に夥しいモンスターや斬りおとされた手足が捨てられる事態は無く、建設に携わった職人たちにはおぞましさが伝わっていないようだった。

 作られた後で改造されるからだろう。

「食糧生産や植物や家畜の育成には広い土地が必要です。けれども……、また家族や仲間と離れて孤独な作業が続きます。私はどうも人の使い方が下手です」

「あのバレアレさんは助手ではないのですか?」

「意見を聞く相手としては良いのですが……。人間ですので血なまぐさいことはやはり苦手のようですし、女体に抵抗があるので……。良い青年ではありますよ。祖母の方は自分の仕事に集中しているので手伝いには向かないようです」

「イビルアイさんはダメなのですか?」

「……意外と人間的で……。抵抗があるようです」

 ヤントラを手伝えるのはナザリックの者達以外に適任者が居ない。そうラナーは思った。

 異形種なみの存在でなければ付き合えないのかもしれない。

 人間でありながら化け物と言われるヤントラは人間の世界では暮らしにくい存在なのでは、と思うと気の毒に思う。

 楽しみを分かち合える仲間。そんな存在をリ・エスティーゼ王国は提供できない。

 金貨を何万枚も積み重ねても手に入らない宝。

 そこら辺が無欲の正体なのかもしれない。

「居ない人材は作れば良い。そういう発想ならば何も要らなくなりますね。……ですが、それはとても寂しいことだと思います。そして、我々はそれらを提供できない……」

 仲間が欲しい。

 そういう望みがあるのかもしれない。ラキュースや蒼の薔薇を欲したのも仲間が欲しかったから、かもしれない。そして、手に入れて期待はずれに終わってしまった。

 思い通りになる人形でも満足しない辺り、無欲と真逆の強欲かもしれない。

 いっそ自分がヤントラの助手になれればいいのだが、立場的には無理だろう。

 クライムは当然、戦士なので提供できない。

 アインズの部下ですら自害に追い込む施設だ。並みの存在では務まらないだろう。

「お父様。やはり金貨百枚で買い取り、大切に使わせていただきましょう」

「そうか? アインドラ卿はそれで良いのか?」

「……何が良いのでしょうね」

「それは分かりませんが……。これからヤントラ様が作ろうとするもので新たな楽しみが出来るかもしれません。もちろん、楽しみが出来ないかもしれません。挑戦しないよりは挑戦し続けた方が良いと私は思いますわ」

「家一件分から始めます」

「その調子ですわ」

 ヤントラが何を始めるのかは貴族や従者には分からないのだが、話しは終わった。

 箱一つにつき金貨百枚。それを素直に受け取るヤントラ。

「不器用な性格で申し訳ございません」

「うむ。この羊皮紙は大切に使わせてもらおう」

「これに懲りず、また貢物を持って来て下さいな。少なくとも……、それも楽しみの内としましょう」

「……仰せのままに、ラナー王女」

 恭しくヤントラは礼を述べて退出した。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あくる日には竜王国に向かい、同じく二箱分の羊皮紙を届けた。

 ドラウディロンは大層驚いていたが受け取ってくれた。

 ついでに獣人(ビーストマン)の侵攻について話しを聞き、こっそり妖巨人(トロール)や牛頭人(ミノタウロス)の混成部隊を撃退する。

 後日、数百人規模の信仰系を引き連れて竜王国周辺の動植物の採集を行(おこな)う。

 採集したものはンフィーレアに鑑定と調査を任せて量産の調子を見ていく。

 エンリとの婚姻はどうなったのか、つい聞き忘れていた。

「結婚してはいけない規則は無いし、私に気を使うこともない」

「えへへ~。ついつい報告が遅れて……。既に結婚しているんですよ~」

 と、顔をほころばせながら言うンフィーレア。

「おめでとう。申し訳ないが私はだいぶ感動することも忘れるほどだ。喜んでやれなくて悪いな」

 一応、お祝いとしてンフィーレアを抱きしめておく。

「はい。あ、アインドラさん達は喜んで下さいました」

 無感動な人間になってしまったなとヤントラは苦笑する。

 妬む気持ちは無い。

 このアバターの特性なのかもしれない。

 嬉しいときに嬉しいと思える気持ち。自分はいつから無くしてしまったのだろうか。

 持っているアイテムのせいだろうか。

 無を司るアイテムは選択肢は見せるが特殊な効果は無い。

「家庭を優先するんだよ」

「はい」

 現在、ンフィーレアには設計士のような仕事をさせている。

 羊皮紙の調子を見るついでだが、筆の乗りは悪くないようだ。

「無茶なことはさせないが、お幸せに」

 お祝いとして何があげられるだろうかと考えてみたが思いつかない。

 好きな魔法を渡せたらいいのだが、そういう方法は無いらしい。

「月には連れて行けないぞ。エンリが物凄く心配するから」

「エンリを心配させない男になりますよ」

 それ以前に髪型を変えた方が良い気がする。

 それは個人の自由だから仕方が無いのかもしれない。

 次の日にはイビルアイがヤントラの様子を見る為に訪れた。

 六の宝物庫の様子を見せつつ待望の宝をイビルアイに渡す。

「こ、これに魔法の全てが!?」

「調べられるかぎりの事を書きました。色々と条件などがあって使えないのもありますが……」

 第一から第十まで。

 魔力系。信仰系。精神系。その他。

 細かい系統に分かれた数冊の書物。

 総数としては四千は超えているはずの魔法の数々。アインズの顔色が曇らない程度、だと思うけれど。

 超位魔法を載せようか迷ったが今回は辞退することにした。ただし、書類自体は残している。

「生活魔法に関することはまだ未調査で……。クラスにより独自の魔法もあるらしい」

「それでも圧巻だ」

 どうやって使うのかは疑問でもあるし、使いたい魔法もある。

 高い位階魔法は特に。

「スクロールを使えるクラスだと威力は半分ほどになるそうだが、君の魔法を使う事も不可能ではない」

「信仰系と魔力系の両方に載っている魔法もあるのだな」

「どちらでも使えると言う事だ。譲渡用にいくつか用意しているのだが、羊皮紙を作って良かった」

「こ、これは譲っていただけるのかな?」

 金貨の換算などできようもない。ただ、タダでもらおうとする辺り、罪悪感はある。

 書き損じを考慮に入れても何かしらの対価は支払わねばならないかもしれない。

 孕めないが性行為くらいは、などといかがわしい思考が頭を過ぎる。

 『無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)』というアイテムも気にはなるが、中身を容易に確認できるものはありがたい。

「もちろん。全ての魔法ではないのが残念ですが……。悪用すると危ない魔法もありますが……。しばらくは大丈夫でしょう」

 中には低位の魔法なのに聞いた事も無いものも混じっている。

「こういうのは特別な羊皮紙を使うものだと聞いた気がします。火とか酸の耐性を持たせたり……」

「読むと字が消えるものもあるようだが、それらはこちらで用意するぞ」

「耐性無しで悪い。作り直そうか?」

「大丈夫だ。耐性が必要なら手伝おう」

 そう言うと奥からまだ数十冊の書物が出て来た。

 帝国語。竜王国語。

 魔法以外に職業に関する解説書も複数の言語版が用意されていた。

 これだけでも物凄い価値がある。

「……ご主人は根は優しい人なのだな。それらもまとめて面倒を見よう」

 中身をそれぞれ見せてもらったが詳細が多く、スキルなども載っている。

 複製から情報を得たのかもしれないが、後世に残すべき資料だと思った。

 新しい魔法を研究するには既存の魔法を熟知する必要がある。その点では非常に重宝するだろう。

 媒介を必要とする魔法の存在もあり、使用には勇気が要るが目安があれば立ち向かえそうになる。

 全ての魔法を習得することは不可能。それを成し得る方法は見つかっていない。

 方法が無いわけではないのだが、それは研究中だった。

 膨大な数があるので読み物として我慢した方が無難かもしれない。

 一般に流通させるほどの数は無く、王国側は王への献上品とイビルアイ、クライムに渡される。

 レエブン侯とガゼフには職業関連の書物を個人的に渡されることになった。

 帝国には皇帝への献上品として一式渡されるが、魔法に関してはナザリックの許可が必要かもしれないと判断し、アインズにも一式が渡される。こちらは日本語版だ。

 余計な知識を得て侵攻されることを恐れるが、ヤントラというもっと恐ろしい人間が居るのですぐにどうこうなるわけではないだろう。

 読んだら魔法が使えるわけではなく、耐性付与されているがただの書物だ。

 フールーダに渡せば国を売るほど喜ぶだろう。

「ただの資料だが、アインズにとっては秘匿したくなるんだろうな」

「読んだからといって強くなるわけではないのは分かっているが……。不安の種をばら撒くな、お前は」

 アインズは怒らずに唸った。

 書物としてまとまった資料はアインズにとってもありがたいことだった。

「人間スクロールはどうなったのかな? お前は結果は教えてくれないよな」

「ふん。秘密だ。……書物に関しては……、一般に流通させずに資料として渡す分には構わないだろう。魔法開発の分野は興味があるからな」

 亜人とスレイン法国には渡す気は無いらしい。

 知らない国までは面倒を見ない、という関知しない立場を取るからだろう。

 竜王国はアインズも懇意(こんい)にする国などで渡す分には文句を言わない事を約束した。

「流通するほど羊皮紙があるとも思えないし。パワーレベリングは原住民が思うほど簡単ではないだろう」

 市民に膨大なモンスターはそもそも倒せない。

 羊皮紙は意外と高額だ。

「羊皮紙はまだ生産するのか?」

「料理やモンスター。動植物の資料と残っている。……飽きたら止めるさ。倒しがいのあるモンスターを倒してゲームクリアできるまで、かもな。エンディングがあれば、それまで好きにやりたい」

 アインズは唸る。

 ヤントラのエンディングは『無』しかないだろう。元の世界に戻って感動することは、おそらくは無い。

 そういう影響もあって飽きやすい性格、というか性質になってきているのかもしれない。

 ゲーム時代のヤントラは何事にも一生懸命な勉強家だった。

 この資料もその一環だろう。

「帝国への資料は……、学校と魔法省とフールーダ用として三部ほど渡してよい。三部ずつではないぞ。皇帝には既に渡しているようだが……。それはいい」

 ボロボロにされそうだから複写用も必要かもしれない。

「ふむ。複写用として後二部ほど追加か……」

「そうだ、こちらの秘密書類第二部も渡しておこう。思い出したり、気がついたりとまちまちなのだが……」

「後で目を通しておく」

 謝礼は無し。

 紳士なアインズに女体モンスターは縁遠いようだ。

 居たとしてもアンデッド系だ。

 施設に戻った後で帝国側用の部数は新たに作らないといけないので、先に竜王国に行き書物を渡しておく。

 数日かけて複写と耐性付与が済めば完成だ。

 それらを引き渡した後で羊皮紙生産の現場を視察する。

 水の浄化や清掃具合に問題は無く、動物達も異常が無い様だった。

 複製体も綺麗に並んでいるし、培養の方も順調だ。

 蜘蛛女(アラクネ)などの図体の大きいモンスター用の容器も並べると迫力がある。

 久しぶりにヤントラはカルネ村に赴く。大量のメイドが不可視化で控えていていつでも襲撃できる準備が整えられた、ように見える配置になっていた。

 襲撃する予定は無いが、周りの動植物の採取は行(おこな)われている。

 村の青年の一人が村長に代わってヤントラを中に招き入れる。

 現在、エンリは身重で自宅で静養している。

 新しい住人により人口も増えているし、笑顔が多かった。その中には小鬼(ゴブリン)達も居る。

 ンフィーレアは村では薬草を街に卸(おろ)す作業と研究を行(おこな)っていて、ヤントラのところでは設計などの仕事に従事している。

 見慣れないモンスターに触れられるし、祖母の手伝いも出来る。

「今日は村に御用ですか?」

 と、村長代理のンフィーレアが尋ねてきた。

 少し大きくなったネムの姿もあった。

「散歩。しかも大群で」

「あらら。施設は大丈夫なんですか?」

「メイド達に出入り口は固めてもらっているし、羊皮紙の作業は続けてもらっている。モモンが来ても大丈夫だろう」

 村の様子を聞いた後はエンリの顔は見ずにエ・ランテルに向かうことにした。

「結婚のお祝いとか何が欲しい? 女体モンスター?」

「い、いえ。モンスターは相談しますが……。村では扱いかねる部分があります」

 貰ったとしても今は使い道に困るので保留にしてもらった。

 

 カルネ村を出た後エ・ランテルに一時間ほどで到着し、宿屋に向かう。

 通い慣れた宿だが、懐かしい雰囲気を感じる。

 それほど久しぶりという訳ではないのだが、居心地は悪くなかった。

 日が暮れた後で墓地に向かうが変装し、不可視化してから突入する。

 回収できる植物や土を採集して出てくるアンデッドは控えているメイド達が駆逐する。

 墓地の中央付近にある霊廟に向かう。

 悪の組織が隠れるのにうってつけの雰囲気があるのだが、モンスターは居なかった。

 霊廟周りをメイドが囲み、ヤントラは中に入る。

 中央に石窟があるが、それは強引に蹴り飛ばす。

 地下へと続く階段が現れるがヤントラは躊躇せず降りていく。

 彼の後をメイド達もついていく。

 自然に出来た洞窟の壁をメイドが削り取り、降りた先に溜まっている水も回収していく。

 何らかの儀式の跡があるが破壊の限りを尽くされたような残骸だけが広がる。そして、それらも回収されていく。

 目ぼしいものが無いようなので撤収していく。

 地上に戻った後で欠員が居ないか確認し、蹴り飛ばした石窟を戻した後で墓地を後にする。

 不可視化した後でエ・ランテル全域に散らばり採集を始めていく。

 一時間で終わらせてメイド達は外部へと撤収していく。

 翌朝には何事も無く街を行き交う人で賑わっていく。

 食材をいくつか買い込んだ後でカッツェ平野に向かう。

 帝国兵士の詰め所近くまでの土などを回収し、一気に『転移門(ゲート)』で帰還する。

 鉱石。水。動植物は六の宝物庫に並べて、それ以外は大浴場にて洗浄作業が行われる。

 それらを終えたメイドの一部は隠し部屋にて施設の警備に当たる。

 空の容器に培養液を入れて洗浄した部位を一つずつ入れる作業を続ける。

 この作業のデメリットは部位の観賞ができないことだ。特に眼球好きには勿体ないことだろう。

 手足を並べるのが趣味の者が居るかもしれない。

 保存用は欲しいと思うはずだ。

 目がたくさんあるモンスターならば数個で充分と思うかもしれない。

 実際には同じ色や似たような色ばかりあっても困るわけだが。全部使ってしまうと、なんか勿体ないと思ってしまうのは貧乏性だからだろうか。

 培養ばかりに気を取られている場合ではないので次の作業に移る。

 空中邸宅の製作。

 基本形は正八面体。

 鍛冶や大工に特化した者達で大雑把な材料の生産を始める。

 三角形の壁が多くなり、強度的にも頂点部分が気になるところだ。

 空中での作業の為に必要なものは足場だ。

 階段と手すりを用意する。

 地味な作業の割りにコストが甚大だ。

 普通の階段。螺旋階段。踊り場付きなどを作っていく。

 それだけで物体一つに金貨二万枚。足場が出来上がる頃には金貨一億枚は無くなっているかもしれない。

 ヤントラの動きを完璧に真似る三人の従者で作業を行えば四方から登れる綺麗な階段が作り上げられる。失敗すれば他の三人も同様になるけれど。

 そうやって地上から五十メートルの高さまで到達。中心の作業用の床は二十メートル四方の広さを確保。

 透明な素材などで作れば綺麗だろう。

 光りを収束して火災が起きるかもしれないので強度のある金属で作り上げる。

 角度にも注意しないと上りにくくなる。その辺りも大工のスキルというか技が大事になる。

 故意に壊そうとしない限りは決して落下しない空中作業場。

 強風や雨などの気象対策も必要。

 空中だと広い空間が確保できるが壁は必要だろう。光りを通すシーツを壁代わりにし、雨対策の為に天井は塞がなくてはならないので瓦(かわら)屋根の要領で鱗(うろこ)状に金属板を置いていく。最後に中心に大き目の金属板を乗せた後は複数の蜘蛛女(アラクネ)達による強固な糸で包んでいく。

 柔軟で強靭な糸は床下の支えや手すりなどにも使っていく。

 物などの落下防止に床底には網の目状に張っていく。

 登るときは雨風の影響を受けてしまうかもしれないが、それは後で考えることにする。

 雨と風に守られれば一先ずの完成だ。

 『飛行(フライ)』が使えない者だと登るだけで大変だろう。まして高い位置で作業するとなると高山病のおそれがある。いくら魔法で治癒出来ても辛いだろう。

 今は五十メートルほどで影響は無いかもしれないけれど。忘れてはいけない問題だ。

 新鮮な空気に関連する魔法やアイテムの製作も必要だろうし、重力や水中呼吸も必要になるかもしれない。

 毒耐性も必須。

 後は少し野ざらしにして容器類の増産と培養液の用意をしておく。

 金属の量産をしつつ大気圏再突入などに耐えうるのか不安になる。

 宇宙船よりかは『転移門(ゲート)』の為の拠点作りが無難かもしれない。

 下に降りて空中の作業場を見ると家にしか見えない。あと蜘蛛女(アラクネ)の糸で補強しているので見栄えは少しだけ悪いが仕方ない。

 屋根を付けてみたものの外さないといけないだろう。

 開閉式の部屋にすれば良かったと気付いたときは遅かった。

 今日はこのままにして就寝することにした。

 起きっぱなしは精神的に不健康なので眠るように心がけているが、忘れる事が多い。

 

 翌朝、五十メートルの浮遊する作業室から出来るだけ水平に『飛行(フライ)』で百メートルほどまで移動し、板を並べていく。

 冬真っ盛りのせいか、上空の気温はとても低い。メイド達も厚着されているとはいえ凍傷にかからないか心配ではある。

 広さは十メートル四方ほど。

 地上に降りて影がどれほど影響しているのか確認する。

 日陰で迷惑をかけてはいけないので。

 更に十メートル間隔で適当に板を置いて地上の様子を調べていく。

 五十キログラム。百キログラムの塊を地上に落としてみる。念のために百メートルごとに塊を落とし、五百メートルまでを調査しておく。

 被害の範囲を調べ終われば穴は塞いでいく。

 鏡を使って地上に光りを落としてみる。

 金属の反射光による弊害も調査。

 十メートル規模の物体も落としてみたいがデミウルゴスが泣くかもしれないので、中止にしておく。

 それから迷惑のかからない海沿いまで移動してみる。

 宝物庫と王国を一直線で結んだ線の更に延長線。海岸から五キロメートルまで行けば広大な海が広がる。

 下には海しかなく、大地は見当たらない。

 メイド達を先行させ、百メートルごとに板を設置しつつ上昇していき、地上から数千メートル程の高さまで板を設置させていく。

 空気が薄く、一般の人間が長時間滞在出来ないような高い位置にある。

 自分でやるより正確だが、人間種ではさすがに身体に負担がかかるだろうから異形種に任せた。

 最終的な作業場所が決まったところで一部のメイド達に帰還を命じる。帰り際にここまでの道のりで設置した板は全て回収させておく。

 宝物庫に作った空中の作業場はとりあえず、残しておくことにする。

 足場を作った後は『転移門(ゲート)』で戻る。

 空気の薄い場所での作業は人間種には色々ときつい。

 到着早々に『大治癒(ヒール)』を使っておく。

 資材の回収を終えた一団とこれから作業に当たる一団を選定する。

 高い位置での作業なので蜘蛛女(アラクネ)種による蜘蛛の巣状の網を造り、落下に備える。

 空気圧の関係で地上に戻った途端に身体が破裂しないように信仰系を控えさせる。

 いくら処分するといっても長く扱いたい。

 建築に詳しい人材を大量に投入し、必要な素材や図面なども作ってもらう。

 体調管理は必要だろうから記録のついでに帰還は定期的に行(おこな)う。

 転移による侵入だけにすると完成時の対策で入れなくなってしまうかもしれないので出入り口は必ず作らなければならないし、空気の逃げ道も必要だろう。

 浄化設備は必須。

 水源については循環できるように工夫しなければならない。

 金貨は一定数で妥協しなければならないが、作業に必要な数は用意しておきたい。

 傾いたらお仕舞い、では困るので。重力の基点は必要だろう。

 金貨。容器。人員。様々な限界重量などを計算し、必要な構造など、材質などを調べさせる。

 急に建築など無理なので安全対策を取りながら一日を終えさせる。

 二日目は取り寄せた書類の精査だが、重さを分散しなければ天文学的数字が叩き出される。

 兆を超える単位を扱うとなれば全体を支える重量は計り知れない。

 薄い板を鱗状に編みこんだ形が望ましい。特に竜(ドラゴン)のように。

 身体を自在にくねらせても強靭な身体や鱗には損傷がない。

 本格的に竜(ドラゴン)を実際に手に入れるか会うかして調べないとダメかもしれない。

 蜥蜴人(リザードマン)では心許ない。

 すぐ浮かぶのはアーグランド評議国にケンカを売ることだ。すぐ竜王(ドラゴンロード)が出てきそうだ。

 ケンカを売るのは短絡的だが。

 まずは大勢で作業し易いように詰め所を作らせておく。

 足場は後でいかようにも出来る。

 遠い方はしばらく任せて、施設の空中作業場も作り始めなければならない。

 こちらは重量はあまり気にせず正八面体の宝物庫の試作型を作る。

 執務室程度の部屋はあった方が良いだろう。

 外壁は丈夫な積層構造。柔軟性も大事。

 オリハルコンやミスリルをふんだんに使わせる。

 セメントなどを使ったり、窓や出入り口を配置していく。

 乾かす都合で数日はかかるが人海戦術を使えば作業はものすごく早く感じる。

 数日後にンフィーレアが来る頃には完成してしまうほどだ。

「うわぁ~。なんかもう出来てる」

 空高く浮かぶ正八面体の物体。

 それも驚くがそこまで行く浮かぶ階段も見事な出来栄えだった。

「数の暴力って恐ろしいね」

 上に行くたびに風は強くなるが物体は微動だにしない。

 空気圧の関係なのか扉が開けにくかった。

 転移の方が楽なのだが空気圧が乱れないかの調査も行(おこな)われている。

 五十メートルでも多少は空気の薄さを感じる程度のようで肌寒い風が吹き付けてくる。

「人間は高いところで作業するのが困難なようだ」

 転移による空気の流入も考慮に入れなければならないが、ひとまず強引に中に入る。

 中には既にメイドが数人ほど待機していた。

 丈夫な扉を作ったお陰で歪んだり、壊れたりはしなかった。

 室内は家一件分ほどの広さがあり、上と下にも部屋がある。

「中は簡素な執務室だ。地上や地下と違って空気の壁は意外と厚い」

「そのようですね」

「おそらく転移での移動しか手段が取れない可能性が高い。水中でも同じだと思う」

 外での作業は色々と困難が待ち構えているようだ。

「呼吸を必要としない種族なら外での作業も容易いだろう。人間は中で命令するのが精一杯かもしれない」

「それは……、残念と言うかもったいないというか……。でも、よく作りましたね」

「扉での出入りが困難なことを除けば中での作業は問題ないだろう。ただ、地上に戻ったときにめまいを感じるかもしれない。あと、全身を覆って外の気圧に耐えられるような服を着るとかな」

「大変そう……」

「大変だよ。蜘蛛女(アラクネ)種も地上に戻った途端に潰れかけるほどだ」

「……うわぁ……」

 五十メートルくらいの高さでは人間は潰れない、と聞いてンフィーレアは少しだけ安心して内部を調査していく。

 部屋そのものは特に地上の家と変わらない。

 通気性が悪いというか密閉状態に近い。

 一通り見学した後でメイド達と共に『転移門(ゲート)』で地上に戻る。

 長居はしなかったが、長く居たメイド達は既に嘔吐しようとたり、頭を押さえて転げまわったり、呼吸困難に陥ったりしていた。

 だが、それは演技だったようですぐに素に戻る。

「今のが高山病というものだ。分かり易い感じで演じてもらっただけだから。高いところでの作業は覚悟が居る」

「分かりました」

「暮らせば快適だが、地上に戻るのは一苦労だ。あまり高いところもいいものじゃないよ」

「少し残念です」

「今の調子では月はまだまだ遠い」

 ンフィーレアを六の宝物庫の地下一階に連れて行く。

 研究施設であり、執務も出来るように机や作業台も整えられていた。

「机が増えてる……」

「あの空中施設の設計図や課題などを書類として残してあるから、こちらで我慢しようか。我々は地上で図面を見ていた方がいいだろう」

「今はそうかもしれませんね。エンリも心配するだろうし」

 個人で作ったのではなく、個別のクラスとスキルを有する大勢の仲間で作り上げている。ヤントラに出来ることは増やすこと。

 ンフィーレアも発想では負けないように努力しようと思った。

 

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