ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
詰め所に戻ると
一匹だけなので大して苦戦はしなかったようだ。最初に落ちた
「気の毒な女性の声が聞こえてきたぞ」
「戦いとは非情なのです。聖剣を持った女騎士は出て来ないですかね?」
飛び道具よりは近接武器がいい、とヤントラは呟いた。
山岳地帯はモンスターが現れやすいのか、倒しすぎると強敵が出るようになっているのか。
不可解な点はあるのだが数千体の
アンデッドが出て来ないけれど、
モンスターの襲撃が収まるころ、様々な荷物がエ・アセナルから届く。
他の街には物騒なモンスターの出現は無いらしく、ヤントラは安心した。
黒い仔山羊のように強固な皮膚は持っていないが破壊力はある。
今の真蒼の薔薇なら倒せなくとも追い払えるところまでは出来るだろう。
クライムはもう少し強くしないと危ないかもしれないが。
「女体モンスターと言っていたが人間とは違うのか?」
「種族的なものです。ナザリックに居る一般メイド達が
イビルアイは個人的には研究したいところだが、人間以外の身体を調べるとヤントラを責める事は出来ないなと思ってしまう。
人間以外なら殺して良いのか、という議論はきっと不毛なのだろう。
実際には殺しているのとは違うようなのだが、表現の難しい戦い方をするヤントラには敵わないようだ。
「な、なんか黒いものが近づいてきます!」
見張りをしていた兵士が叫ぶ。
数は不明。とにかく黒い、としか表現できない。
ヤントラは見張り台に向かい、様子を窺う。
「あれは……、何なんでしょうか?」
兵士の指差す先には広い範囲を多い尽くす、ような事はなく、黒い水溜りのようなものが動いている、というか移動している様子が見えた。
大きさ、というか広さは二メートルほど。
数はおそらく一つ。
「これは珍しい。あれは……、上位モンスターかもしれませんね」
それはとても見覚えのある姿をしていた。
『
どうやら高難易度のダンジョンがどこかにあるらしい。
先ほどからレベルの高いモンスターが現れているので、山岳のどこかに入り口があるのかもしれない。
「……知り合いかもしれない。とにかく、あれが別のモンスターでも逃げた方がいい。強力な酸で人間は簡単に融かされてしまいますから」
「は、はい!」
兵士達を避難させている合間にイビルアイがヤントラに近づく。
「あんなのが知り合いに居るのか?」
「居るんですよ。
堂々と姿を見せて
ヤントラに会いに来た、ならまだ可愛い方だろう。
そんなことはお構いなしのヤントラはモンスターの近くまで移動する。
本当に知り合いならば人型を形成する。
ひ弱そうな外見だがアインズ・ウール・ゴウンのメンバーだ。それなりの修羅場は潜っている。
一般メイド達のプログラムも担当している。
「こんにちは」
「………」
どう見ても黒い水溜りにしか見えないのだが、返答は無かった。
武器で攻撃すると融かされてしまうし、魔法で戦うにしても信仰系が中心だ。
物攻撃はそもそも期待できない。
都合よく知り合いが居るわけが無いだろう。
仮に知り合いだとすれば反撃の仕方で分かる。
それが『ヘロヘロ』ならば何か言うだろう。色もなんか違う気がする。
応答無しなら敵だ。
無数の『
ある程度、動きが鈍れば武器で身体を分割していく。
酸に耐性を持つ武器は重宝するのだが相手は上位モンスターなので数撃ももたない可能性がある。
分裂する個体もあるが上位モンスターは簡単には増えない。増えていれば世界は終わっている。
「返事しないなら消滅で良いか」
寿命さえ迎えなければ途中で殺したところで問題は無いか。
無理して本体を生かしておく必要も無いだろう。
『
一定の大きさに分割したものは容器に入れて保存しておく。
知り合いでなかった事は残念だ。
切り離された身体は活動をやめて、しばらくすると悪臭を放って消えていく。
分裂する場合は体力を分割していく。一定以上のダメージを与えると分裂しなくなる。
無敵のモンスターではなく、限りある命を持っている。
回収し終えたら魔法で消滅させる。
これも動かないように処理をしておくようにメイドに命令して運ばせる。
詰め所に戻り、一休みする。
「ご主人は簡単に接しているようだが、あれらは強いのだな?」
「はい。近くにああいうのがたくさん住んでいる洞窟とかありそうな気がしますね。先ほどから強いモンスターばかり現れていますから。気をつけてください」
イビルアイはヤントラの身体を眺めていく。
ケガをしていたり、穴が開いていたり。
防具を付けているが一部が溶けたりしている。それでも平気そうに振舞うので、どれだけ大変なのかが分からない。
戦闘に参加して大怪我したらヤントラはきっと心配するんだろうな、とぼんやり思った。
数十分後には野生動物が数匹来る程度で脅威は無い。その間にヤントラにケガの治癒を勧めた。
「警備に来たのか、モンスターを狩りに来たのか分からないな」
「貴重なモンスターは仕事より優先ですよ。まさか立て続けに珍しいモンスターが現れるとは思わなかったので」
「メイドを控えてさせている時点で下心は見え見えなのだが……」
雑魚モンスターばかり相手にさせられるので先ほどから出てくる強敵とどのくらいの実力差があるのか尋ねてみた。
兵士とイビルアイくらいの差と言われてしまった。
つまりかなり開きがあって手を出せば甚大な被害を被る、ということだろう。
三人同時に放とうとしたのが超位魔法だと聞かされ、戦士ではひとたまりもない。
「ご主人は我々が手伝うことに否定的なようだが……。一体だけなら戦わせてくれないか?」
イビルアイは良くてもルイセンベルグ達は秒殺のような気がする。
「では、こちらが指定する防具を身につけてくれますか? 猫耳とか水着ではなく実用的なやつですよ」
「お、おう」
「家では可愛い服を着てほしいですけど、戦場で心許ない防具は装備させたくない」
「……はい。いつもご心配をおかけして申し訳ない」
イビルアイは魔力系
重い剣も装備できない。だが、
「丁度良い武器が手に入ったっけ。あれを装備してもらいましょう」
念のために鑑定しておく。
天然の伝説級の槍。攻撃、強度は申し分がない。
「無くさないで下さいね。これで……、国が買えるくらい……?」
「うおっ! つ、つまりご主人が言うところの……、すごくいい武器なのか!?」
「最上位の次にいい武器です。……ちなみにそれよりも上の上も実はあります。ですが、それは武器として使えないほどの秘中の秘。聞いたかもしれないけど『強欲と無欲』などがそれに当たります。それくらい凄いと思ってください」
「う、うむ。これが……、れじぇんど?」
「伝説級。私が使ってきたのが
上から三番目、という意味にイビルアイは解釈した。
「遺産級の下が最上級、上級と続いていきます。詳しいことはモモンに尋ねたら良い。あと、個人的に鑑定してくださいね」
「分かった」
メイドに用意させた防具類を渡す。
アダマンタイトやそれ以上の金属。様々な属性などを付与された少し不恰好な
イビルアイ専用に『
「君の防具類しか入っていないから。使い方は分かるかな?」
「ああ。……しかしこれでは
ここまでしないと危ないモンスターなのだろう。
ヤントラが軽装なのは治癒の手段を持っているのと敏捷をあげなければならないほどのつわもの達が相手だからだろう。
イビルアイは邪魔にならない場所で槍の素振りを始める。
傷つけた相手には追加のダメージを与える。
武器専用のスキルは即死系。ただし、一日に一回しか使えない。などという鑑定結果が得られた。
専用超位魔法とはいえ習得しないとダメ。あと、普通の武器では真の力は引き出せない。
即死できるのが一人だけなのでギルドとの抗争では使い勝手が悪い。
ゲイ・ボルグが無い場合は槍か棒を装備している必要がある。
この魔法はゲイ・ボルグを装備している場合は発動して投げた後に持ち主の下に武器が瞬間移動で戻ってくる。
他の棒や槍は飛んでいったまま戻ってこないので取りに行く必要がある。
大抵は二次被害目的で適当な槍を使う事が多いらしい。
ちなみに普通の槍の場合、標的にダメージを与えらるけれど即死効果は発揮しない。
必中と書かれているが、効果が見込めないこともゲームでは珍しくない。
そういう、期待していたものと違う的なものを『微妙系』と呼ぶ。
「相手が居た方がいいでしょう」
イビルアイの為に複数の天使を召喚する。
それらがイビルアイに襲い掛かる。
冷静に攻撃を見極め、槍を奮う。
伝説級なのだが、どれくらい凄いのかは手の感触ではわかりにくい。
鑑定では素晴らしい結果が出ているけれど、実際に使って判断しない事には始まらない。
何のスキルも武技もなく、強固な身体を持つ天使を簡単に突き刺せる。
本当に冗談かと思うほどに面白いように刺さっていく。
「魔法主体の君には扱いにくいかもしれないが……。それより
持ち帰ったものは今のところ封印作業に問題がないようだ。
ゲーム時代のドロップ品は倒してしまうと装備ごと消える事が多い。だからこそレアアイテムの価値は高い。
盗賊スキルというものがあって頑張れば盗めない事は無いが、相手によるだろう。
天然の伝説級。
まだ本格的に調査していないのでデータクリスタルを入れられるのかは未知数だ。
噂や何かの映像、資料などで存在を知っている程度だ。
レアには縁遠いプレイが続いたから知らないことが多い。
「おう!」
『
ほぼ素通りしているようにしか見えない。
「……は~、これは……、凄いな」
こんな凄い槍を三本も相手にしていたヤントラも凄いのだろう。
貫通力のある槍の攻防をよく捌けたなと改めて感心した。
むしろ、戦いに参加しなくて良かったのかもしれない。
この武器は危険だ。
「イビルアイ。私にも使わせてくれないか?」
親切なイビルアイはルイセンベルグにゲイ・ボルグを渡した。
ヤントラはメイドに魔力の補充を受けて、様子を窺う。
「ふむ。見事な槍だ」
「折角の武器だ。上位モンスターを呼ぼうか?」
ヤントラの言葉に悪寒をすぐに感じるイビルアイ。
「あ~、ダメだ、ご主人! えっと……、あの魔将とか
どうしても黒くて丸いモンスターが浮かんでしまう。
あれは硬いだろう。ただ、大きすぎる。
ルイセンベルグが首を傾げる。
「とにかく、得体の知れない巨大なものはダメだぞ」
「……もったいないな。今なら無抵抗なのに……」
「ヤダ~! ……お願いします。……裸になるから許してください」
仮面を被ったイビルアイがその場に平伏する。
声の感じからは涙声のようになっていた。
「人間型はどれもサクサク刺さってしまうし……。大型魔獣とかは……。
イビルアイを立たせて土ぼこりがついてないか確かめる。
現地の人間には刺激の強い光景だったのだろう。
死体や殺害現場に動じない自分もアバターなどの影響があるのかもしれない。
現実世界では決して人間型の生首など持ちたいとは思わない。モンスターだから、という理由でもない気がする。
ルイセンベルグが槍の感触を確かめている間、ヤントラは一旦、メイドと共に施設へ転移で戻った。そして、数十分後に二体のモンスターと共に戻る。
一人はタオルを全身に巻いた青白い肌の女性で、もう一体は
半実体の身体を持つ馬型アンデッド。
骨で出来た身体に様々な色で輝く
「な、なんだ、そいつらは!?」
兵士達が驚き、それぞれ武器を構える。
「この人は
「えっ? ……ええっ!?」
「このモンスターで槍を……」
「……ご主人。人型で試すのはモンスターと言えど……、ためらいが出るぞ」
「倒しやすいモンスターばかり集めていたので、硬いのは処分が大変なんだよ」
屠殺場で使うモンスターが強固なものばかりでは量産がはかどらない。
出来るだけ人型を使うのは利便性を考えてのことだった。
女体は見た目の癒しだ。
「では、無抵抗では気が引けるだろう」
「結構、本気で攻撃してきます。あなたは槍だけで倒して下さい」
タオルを巻いた
拳と蹴りのみだが、軽い身のこなしでルイセンベルグに打ち込んでくる。
彼らの戦いも気なるが他の兵士は
見たことも無い化け物に戦々恐々だった。
冒険者が連れてくるにはおぞましいアンデッドだ。
アズスは兵士達の前に立ち、杖を構える。
「あのモンスターは何をしているんだ?」
「倒したモンスターの魂を食べている、はずです。現場の掃除役ですね」
「……魂……。名前からしてそうなのだろうけれど……」
ただ歩いているようにしか見えない。
「三十分くらいで消えると思うので、あれは放っておいていいです」
「お、おい。なんなんだ、この女は!」
半裸の女性に苦戦するルイセンベルグ。
一撃が重い。
「雪山に生息する上位モンスターです。確か、アンデッドの仲間でしたね」
雪山で凍死する女性の霊が集まって出来た、とか。
軽く言っているが槍から伝わる衝撃は尋常ではない。
一撃でも受けたら骨折するんじゃないかとさえ思う。
鎧に守られているとはいえ、こんな女性は真蒼の薔薇のガガーラン級かもしれない。
「強くて可愛くて丈夫なのが思いつかなくてすみません」
「ご、ご主人。
「触るときは気をつけて下さいね」
「分かった」
イビルアイが近づいても暴れず、黙々と現場を歩き回る。
観察してくる彼女に嫌がらせもせず、大人しくしていた。
攻撃に転じられないルイセンベルグは苦戦していた。これほど戦いにくい相手とは思っていなかった。
ヤントラは
「……ぬう」
「こちらの攻撃を全てさばくので遠慮なく打ち込んでいいですよ。倒しても構いませんので」
「格好をどうにかせんか!」
「倒す相手に服は不要でしょう。タオル程度で充分です。
「い、いや。そういうことではなくてだな」
「文句ばかりですね。使わないなら槍を返してください」
少し唸ったルイセンベルグは槍を返す代わりにヤントラに勝負を挑む。
「お前さんの実力を見せてもらおうか。本当に強いのかどうか。今ひとつ分からないからな」
「しようがないですね」
人間相手に本気を出さない、というよりは素の状態の方が相手の実力も自分の実力も測れると考えた。
「銀プレートが調子に乗ると飛び級させられてしまうかも……」
「飛び級は困るのか?」
「……つまらなくなるから。面白くない事はしたくないです」
ヤントラは普通のブロードソードと軽装鎧という格好になった。
これは明らかにアダマンタイト級をなめている、ようにも見えるし、この程度の装備しかない、とも取れる。
一概に武装すれば良いというわけにはいかないので文句は出なかった。
「いつでもどうぞ」
「それはこちらの台詞だ」
ルイセンベルグは槍を持つ手に力をこめる。
正直に言えば、ヤントラは強いのだろう。武器のさばき方や身体の動きで弱者ではないと確信している。だが、それでも直接手合わせしたことが無いので本当の強さは自分で身を持って知る必要があるだろう。
仕事柄、槍も使えるルイセンベルグは実力でアダマンタイト級に上り詰めた古参の冒険者だ。
ラキュースが冒険者になる前から活躍してきた。
経験ではヤントラに負けていないはずだ。
「でい!」
隙だらけのヤントラに槍を放つ。
ヤントラは全く避けずに攻撃を受けた。
武器で防御するでもなく、身体をひねるでもなく。
心臓一突き。というか貫通した。
「!?」
幻影ではない。手ごたえはある。
「終わりですか? アンデッドなら次の攻撃が来ると思うのですが」
「……何故、生きている?」
「生きているから生きている。あと、私はアンデッドというわけではありませんよ」
槍を引き抜き、一歩下がるとヤントラの胸から血が噴き出す。それらはすぐに治癒魔法で塞がっていく。
「こういう風に汚れるから女性達を裸にしているんです。裸体だけが目的ではありませんよ。……それで、もう攻撃は終わりですか?」
「……信仰系
治癒魔法を扱えるから無茶なことが出来る。そのことを失念していた。
だが、それでも心臓をむざむざ貫かせる人間はそうは居ないだろう。
「アルベリオン殿。ご主人は並大抵の人間ではない。完全に身体を潰さない限り脅威は消えないと思っていた方が良い」
イビルアイの助言が飛んできた。
「つまり……。こいつに勝つには殺しきる必要があるということか?」
「詰まるところ、そうなるだろう。これが試合ならばそれで済むのだが……」
「……蘇生魔法か……」
ルイセンベルグの言葉にイビルアイは頷く。
妻は蘇生魔法を扱える。それは死んでも襲ってくる敵ということを意味する。
「姪がこいつを復活させるのか?」
「ラキュースに出来なくともメイド達が
「……今なら私を殺しきるチャンスかもしれませんよ」
殺すに殺せない敵。
実力とはまた違う意味で恐ろしいとルイセンベルグ達は戦慄する。
銀プレートに甘んじているのが不思議なくらいだ。
「……ならば、死ね!」
ヤントラの頭部に槍を突き出す。
剣でさばくでも避けるでもなく。まして攻撃を黙って受けるでもない。
ただ、普通に槍を掴んだ。それだけで攻撃が止まる。
「!?」
殺す気で突き出したのに止められてしまった。しかも微動だにしない。
強引に槍を動かしてくるヤントラにルイセンベルグは抵抗できない。
力業で押し負けている。
「……ふむ。兵士と私……という実力差か……」
イビルアイは
見た目では推し量れない部分もあるだろう。
それでもやはり実際に目にすると驚かされる。
「アルベリオン殿。殺し合いではないのだから、やめないか?」
イビルアイの提案にルイセンベルグは諦めに似たため息をつく。
意固地になって抵抗し続けるのも不毛。
警備の仕事をつい忘れてしまっていたことを恥じる。
槍はヤントラの方から離した。
「普通に戦えばお前は強いんだろうな」
「戦争でも無い限りはモンスター相手がいいです」
ルイセンベルグの言葉にヤントラは謙虚な答えを返す。
人同士の殺し合いよりはましかもしれないとルイセンベルグは思った。
数十分後に
結局、モンスターは辺りを歩き回っただけだった。
姿は恐ろしいが大人しくしていると飼っている馬のような気分になってくる。
槍はイビルアイに返し、ヤントラは軽めの食事を取った。
それから夕暮れ時にモンスターが現れ始める。
数は少なく、普段は
警備していて疑問に思ったのは国境を亜人が通ってはいけないのか、どうかだ。
正式な手続きを取れば別に問題がないようにも思える。
もちろん、亜人の中には人間を食べる者が居るから警戒しているのだろうけれど。
「物々しいのは相手が強い亜人の場合に備えてのものだからだ」
「冒険者も居るならギルドの規定を破ったりはしないのでは?」
「確かに亜人の冒険者とはいえギルドの規定は破りにくいだろう。真っ当な亜人ならな」
「……亜人の犯罪者対策ですか」
「それもあるだろう。というか、ご主人はどんな依頼でここに来たんだ?」
「名指しでここを警備するように。だけです」
イビルアイは依頼書の内容や説明などを思い浮かべる。
それほど詳細な情報は伝えられなかったと予想する。そして、それは間違っていないのだろう。
「国に関わるようなことは説明しないか……。銀プレートだし」
プレートの都合もあるので別におかしな点は認められない。
ランクの低い冒険者の扱いは雑なものだ。
「
という叫び声に兵士達は慌てるのだが、ヤントラは苦笑した。
何が出ても不思議ではないのだが、そんなものまで来たか、と呆れてしまった。
「ご、五体も居るぞ!」
普通の兵士の反応では撤退なのだろう。
ルイセンベルグも撤退はしないが、数が多いなと呟いていた。
アダマンタイト級では割と苦戦する相手のようだ。
「イビルアイ。君一人で倒してみるといい」
「ん……。そうだな。私も運動しないと身体がなまってしまう」
それに良い武器を試す機会でもある。
今のイビルアイならば天然の
本当の
レベル差でいえば苦戦は必至。だが、おいそれと負けはしないだろう。即死魔法が通用しない分は人間より優遇とも言える。
「アルベリオン殿。アズス殿。お先に失礼する」
「本当に一人でいいのか?」
「ご主人に与えられた力……。それが本物か確認したい。では」
イビルアイは『
見張り台からの報告なので詰め所からはかなり離れていた。
一般的な
魔法は第三位階の魔力系が主体である。
レベルは二十台からで、そこそこの冒険者が相手に出来るほどの強さがある。
それが五体も連れ立っているのは普通ではありえない。
「人間っ!?」
「お前達はどこへ行こうとしている?」
「〈
問いかけに魔法で返答する。
それをゲイ・ボルグで軌道をずらす。
横道にそれた魔法は大地に着弾し、小石などを撒き散らす。
イビルアイは飛んでくる小石などをローブで防御する。
「おのれ、人間!」
「……人間と言ってくれるのは素直に嬉しく思う。それはそれとして……、まずお前ら落ち着け。話し合いをしようとは思わないのか?」
手を突き出してイビルアイは説得を試みようとするのだが、半数と言うか二体の
「俺たちはアンデッドになったばかりで……」
「人間は全て敵だ! 殺せ!」
「殺される前に殺してしまおう!」
「話の通じる人間が居るかもしれないじゃないか」
半々の意見が飛び交う。
知性あるモンスターの中には敵対よりも今の自分にとって何が益になるのか模索する者もいる。ただ、次第に種族の特性により魂を
アンデッド系は特に生者に対しての憎しみが強く、また被害者意識も強い。
彼らもいずれは憎しみにとらわれるかもしれない。
「……まずは……」
うるさい敵対者には消えてもらおう。
ゲイ・ボルグを頭に叩きつける。それだけで頭蓋骨が砕け散り、二体の
「うわっ」
「それでお前達は生前はどんな人間だったんだ? ここの警備兵か?」
「いつ死んだかは……、ちょっと思い出せません」
「警備兵というか
二人にイビルアイは色々と質問し、羊皮紙にメモしていく。
三人目は
「数年前ってところか……。しかも新しい魂のようだな。それで、お前は何者だ?」
「……我は魔法を極める為に自らアンデッドになった。無用な争いは望んでいない」
「話しが早くて助かる。なら、三人目は保留だな。お前達二人は復活を望むか? 灰になるリスクはあるが……」
「王国の為にまた働けるなら嬉しいですが……」
「故郷に残した家族がまだ生きているかどうか……」
いつ死んだのか曖昧であるし、今の時代で生きていけるのかどうか不安が一杯だった。
あと、復活させる場合は倒す必要があるので、これは覚悟してもらわなければならない。
三人目は正直、扱いかねている。
この手のタイプは珍しくなく、途中で人を襲う場合が多い。
とりあえず、三人には詰め所まで移動してもらうことにした。
話しに夢中になっていたが
普通なら魔法を使うところが使わずに簡単に倒してしまった。
強すぎる力は笑ってしまうくらいだ。これが努力の結果なのか、武器の強さなのか。
複雑な気分になってきた。