※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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K-5 魅了する顔が現れた

 詰め所に戻り、二人の死の大魔法使い(エルダーリッチ)から更に詳しく話しを聞くことにして三人目は兵士の邪魔にならない位置で待機してもらうことにした。

 アダマンタイト級が三人も居るから暴れられても対処は容易だ。

 元警備兵と思われる死の大魔法使い(エルダーリッチ)達はどういう敵と戦ったのか、色々と聞いておく。

 貴重な情報源だから。

 素直なアンデッドではあるが他の兵士達は近寄りがたい雰囲気だった。

「お前達の元同僚かもしれないんだぞ」

「す、すみません。アンデッドの知り合いが居ないので……」

 イビルアイはまさにアンデッドの一員なので平気なのだが、気持ちは分からないでもない。

 自分も他のアンデッドを恐れていたから。

 今は良いお付き合いが出来るまでに進展しているのは嬉しい限りだ。

 冒険者のモモンは真面目で紳士的で優しい。

 外に居る死の大魔法使い(エルダーリッチ)にヤントラは話しかける。

 魔法の系統などを聞き、今使える魔法も聞いていた。

 総合レベルは20台半ばなので大した魔法は使えないのだが、頑張り次第では上位種の死の支配者(オーバーロード)になれる、かもしれない。

 簡単になれるものから前提条件などがあるものもある。

「お前達はモンスター討伐の他にも特技があるのだな」

 というかモンスターに平気で話しかけているイビルアイ達にルイセンベルグ達は驚いていた。

「最近出来たアインズ・ウール・ゴウン魔導国には多くの異形種が居るので。色々な縁で知り合ったんだ。もちろん、様々なアンデッドとも」

「そういえば、そんな国が出来たんだったな」

 冒険者なので戦争には関われなかったが戦争の事は情報で知りえている。

 姪が王国から罪人扱いされたことも。

 魔導国と通じる身となった経緯(いきさつ)も聞いている。

 そして、戦争以降大きな争いにならないのは姪達の犠牲のおかげだと言う事も。

 ヤントラはメイドの一人に羊皮紙を渡し、死の大魔法使い(エルダーリッチ)と共に移動させた。

 アンデッドの面倒はヤントラには出来ない。その手に詳しいものに委ねることにした。

「こちらの資料はまとまったが、問題は復活に同意し、何があっても生きられるかだ」

「環境が変わっていれば困りますよね」

 死の大魔法使い(エルダーリッチ)として生きていくのは辛い。

 飲食不要は我慢できる。睡眠不要は長い時を生きるうえでは退屈を感じさせてしまう。

 魔法に関しては向上心は特に無い。

 冒険者に倒される恐怖がまだ薄いから人間的な思考が出来るのかもしれない。

 負の感情を集めていけば精神はモンスターへと変貌するだろう。

「ご主人。この場合はどうすればいいのだ? この状態で復活させることは可能なのか?」

「ちょっと待ってくださいね」

 と、どこからとも無く一冊の書物を取り出す。

 ヤントラ自身が書いた魔法の解説書だ。

「……あ~、アンデッドと人造モンスター。人造人間(ホムンクルス)などですが、それらは復活出来ないみたいですね。……イビルアイは死んだらお仕舞いになる可能性が高い……」

 最後の方を小声でイビルアイに言ってみた。

「……それは、ふむ。仕方ない。私は……、長く生きてきた。その時は……、楽になりたいな」

「そっか……。……あっ、でも、複製の魔法があるから復活できそうな気がするけどね」

 複製(クローン)の魔法にアンデッドは復活できない、とは書かれていない。

 『致死(リーサル)』や『大致死(グレーターリーサル)』で回復するのだから案外、復活は可能かもしれない。

「……可能性って怖いですね……」

 イビルアイは苦笑しながら言った。

「元の肉体を得るには君たちを倒す必要があるのだが……。覚悟を決めておくといい」

「このまま復活はしないのですか?」

「蘇生魔法はアンデッドには無効らしい」

 ルイセンベルグとアズスがヤントラの持つ書物に興味を持った。

「それは何だ?」

「これはご主人が製作した魔法の解説書だ。第十位階まで載っている優れものだ」

「はっ!? 第十……だと……」

 伝説にも出て来ない魔法の領域。それが書かれているなど聞いた事が無い、とアズスは驚いた。

 復活魔法は姪が使えるので第五位階の存在は疑わない。

 それにしても第十位階とは馬鹿げている。

 自分で書いた、というものならばいい加減な魔法が大半を占める気がする。

「新しく開発された魔法などは載ってませんよ。手作りですから」

 マジックアイテムではなく、手作業で普通に書かれた書物なので動的に新しい魔法は掲載されない。

「……お前は何なんだ?」

「ご主人は人智を超えた変態だ。その理解でいいだろう」

 イビルアイの言葉にヤントラは苦笑する。

「ああっ! また変態って……。ご主人、申し訳ない。いい例えが浮かばなくて……」

「今更ですが……。子供達の将来は君達に任せるよ」

「お、おう。任せてくれ。道を外れないように教育……。いや、私もご主人と共に歩むのだから他のメンバーに頼むよ」

「……ずっと気になっていたのだが……。イビルアイは随分とその者に執心しているのだな」

「いろいろあってな。今はご主人の理解者になろうとしている。……とある若者(ンフィーレア)に負けているのが悔しいところだ」

 ンフィーレアは全く怯まない。

 研究者としては一歩後れを取ってしまっている。

 おぞましい実験にも動じない探究心は見習いたいところだった。

「復活しても良いことばかりではないかもしれない」

「はい」

「……できれば同僚の顔は見ておきたいです。いえ、ストロノーフ様にまた会いたいです」

「下準備をさせよう。ただ、問題はどこに復活するかだ。最後の場面は思い出したくないだろうが、出来るだけ教えてくれ」

 カッツェ平野で死んだ者は死んだ場所で復活した。

 蘇生場所は四種類。

 一つ目はその場で復活。

 二つ目はダンジョンなどの入り口。

 三つ目は安全な街などで復活。

 四つ目はギルド本部などの指定された場所での復活。

 三番目がいまいちよく分からない。神殿なのか、内部のどこかなのか。

 二人の死の大魔法使い(エルダーリッチ)達は死ぬ前まで活動していた場所について言える範囲は伝えた。

「……あの~、この身体で人を襲うようになったりするんですか? 食欲とかはないのですが……」

「不死の存在になった。やったー、死ななくていい~、と喜ぶか。長い時を魔法の研究に費やせる、と思うか。脆弱な人間共め~って思うかのどれかかも。治癒魔法が限られてきますので、回復手段を知らないと生活するのは大変かもしれませんよ」

「……そうですか……」

「疲労しないと言われていますから、働く事には有効そうですね」

 冷静な死の大魔法使い(エルダーリッチ)の一人。

「知性の無いアンデッドになってたら、事情が聞けなくなってたかもしれません。大抵は人を襲うだけのアンデッドが多いんで」

「……うわぁ……。それはなんか嫌です」

 ルイセンベルグ達はアンデッドは倒すべきモンスターと言う意識が高かったので、相手の事情など考えもしなかった。

 ここに来て不思議な体験をしている気がする。

「五体居たようですが、チームだったんですか?」

「そうかもしれません」

「お互い知らない人ですから。冒険者ではなく、兵士の一人でしたよ。倒された人はお気の毒としか言えませんね」

 仲間と言うわけではなく、集められた兵士達でチームを組んで警戒任務に当たっていたんだろう。

 強いモンスターにでも殺されて、後に死の大魔法使い(エルダーリッチ)として蘇ってしまった。

 二人の書類が完成し、蘇生の同意も得た。

 ヤントラは外に行き、メイドを呼び出す。それから数分後に十人近くのメイドが集まってきた。

「お気の毒だが滅びてもらいます。他の仲間のことまでは関知しない。それで構いませんね?」

「はい」

「あと、ご家族のことは……、イビルアイ。君に任せてもいいだろうか?」

「城務めの兵士なら彼らの情報を持っているだろう。それと、お前達。過度の期待はしない方がいい」

 イビルアイの言葉に死の大魔法使い(エルダーリッチ)達は頷いた。

 それからヤントラはガントレットで死の大魔法使い(エルダーリッチ)達を素早く粉砕する。

「……よし。では、始めようか」

 メイドに羊皮紙を渡すと転移して消えた。

「どうなるかな。老衰の場合は復活出来ないようだ」

「……この野郎!」

 イビルアイに説明した後でルイセンベルグがヤントラに殴りかかってきた。

 今日は何度も殴られるな、とイビルアイは思ったし、ヤントラ自身も思った。

「アルベリオン殿。これは適切な方法なのだから間違ってはいない……はずだ」

「虫のいい事を言って結局は滅ぼすんじゃないか。なにが復活だ、バカ野郎」

 アズスの知る蘇生魔法は少なくとも保存された死体が必要だ。それと莫大な資金がかかる。

 弱い人間に使えば灰になることも聞いている。

「ご主人、アンデッドのまま復活させる魔法はあるのか?」

「んっ? ある、というか似た魔法なのかはっきりしないものが……。ただ、アンデッドのまま復活すると思うけど……」

「……まあ、当然だな……、それは……。すまない」

 第四位階の魔法で『幽霊復活(レイズ・ゴースト)』という魔法があり、こちらはアンデッドというか幽霊(ゴースト)として蘇生させる。

 死者復活(レイズ・デッド)の幽霊(ゴースト)版だ。

 説明文を読む限り、使いたくない結果しか浮かばないし、どんな利点があるのかヤントラは分からなかった。自分で書いたのに。

「死体を媒介にするアンデッド作成の方が早いだろうな。でも、自我とかどうなっているのやら」

「それもあったな、そういえば」

 ヤントラが殴られた箇所をイビルアイはハンカチで拭いていく。

 その後で異変が起こる。

 どこからともなく黄金の水のうねりが詰め所に集まってきた。

「……なるほど。復活する時は魂の位置で決まってくるのか……」

 死んで時が経てば魂は最も安住できる位置に移動する。というようなことが働くのかもしれない。

 魂をアイテム内に閉じ込める魔法などもあるので正確なことは分からない。

 術者の裁量も関わってくる事もありえる。

 メイドの一人がヤントラの元に駆け寄り、事態を報告する。

「『転移門(ゲート)』は終わるまで解放しておきなさい」

「畏まりました」

 命令を受けたメイドは詰め所の裏手に消えていく。

 途方も無い金貨は先ほど滅ぼした死の大魔法使い(エルダーリッチ)が座っていた椅子に集まっていく。

「アイテム作成の時に見せてもらったが、これはこれで圧巻だな」

「一千万枚近く、といったところですね。……つくづく冒険者で生計が立てられないわけだ」

「……ご主人の心遣いは感謝している」

 うねる金貨はそれぞれ人の形へと変わっていく。

 肉体的リスクは極力緩和されるが引き換えのコストは甚大だ。

「ああ、そういえば復活する時には数日間の記憶を失うとか……、あったっけ……」

 物騒な言葉が聞こえてきたがイビルアイは目の前で人間が復活する様子には目が離せなかった。

「魔法の中には実際に使ってみないと分からないリスクがあるようですよ。この本に書かれているのは目安に過ぎません。私でも使いたくない魔法が色々とあるので、イビルアイも気をつけて下さいね」

「うむ。一通り扱える魔法については確認作業をしている」

 十分後には二人の人間が出来上がる。

 裸ではあったが、すぐに服を取り寄せるように兵士に頼んだ。

 二人は共に男性だった。少し残念と呟くとイビルアイが苦笑した。

「……そういえば、闇に葬られた人とか居たら私、不味いかもしれませんね」

「んっ!? そういえばそうだな。都合の悪い情報を持った人間まで蘇ってしまうと王国としてはご主人の拘束も考えられるだろう」

 むしろ、今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ。いや、最近手にした力だから考えが及ばなかった、ということもありえる。

 そもそも蘇生魔法の使えるラキュースが真っ先に狙われてしまうだろう。

 莫大な資金で粛清(しゅくせい)した人間を復活させる、なんてことは都合が悪いはずだ。

 その場合はラキュースに知られないように処分し、隠蔽するのだろう。

 例えばガゼフの暗殺。

 懇意にしていれば後で復活させてしまうかもしれない。

「アルベリオン殿達は彼らの口封じの手伝いはされるのか?」

「するわけがないだろう」

「……言いたい事は理解している。国の決定に口出しはなかなか出来ないものだ」

「王国で面倒が見れないなら魔導国に亡命すれば良い。国づくりで忙しいだろうし」

「アインズは死者の国を作ろうとしているのではないのか? 人間を受け入れるだろうか?」

 エ・ランテルならば受け入れてもらえそうだ、とイビルアイは思った。

「話しだけでもしてみたらいい」

「……分かった」

 復活した元死の大魔法使い(エルダーリッチ)の二人はしばらくお互いの顔を見合わせた。

「生きてる……」

「死の大魔法使い(エルダーリッチ)から解放されたのか?」

「生前の顔は知らないのですが、歳相応に見えますよ。ところで、お二人は王国内の闇に関わった、とか怪しい情報を握ってたりしますか?」

「……まだ我々は新米兵士だったので、城のことは……」

「俺の出身はエ・アセナルなので。故郷に近いところで仕事が出来るとあって喜んだのを覚えております」

「後の人生まで責任は持ちませんよ」

 二人はその後、兵士達に予備の服を与えられて、安全な都市に移送されることになった。

 イビルアイは報告書だけ作成し、ヤントラと共に残る事にした。

 急な復活なので礼などは頭になかったのだろう。兵士達はすぐに姿を消す。

「見返りの要求はしないのか?」

 と、アズスは尋ねた。

「女体モンスター以外は要らないですね、今は」

「後で王に進言しておく。ンフィーレアの為にも研究しやすい環境づくりは必要だろう。……私も研究施設がほしい」

 多少の恩赦はもらっておきたいところだった。

 ンフィーレアは研究するにあたって邪魔ではないし、眼球などにも免疫を持っている。

 魔法の研究でも意見などを貰えるかもしれない。

「だだっ広い空間に一人で研究するのはもったいないだろうと思って……。半分とは言わないが……」

「モモンとか視察に来るらしいですよ。秘匿は難しいかも」

「その辺りは相談するよ。……アルベリオン殿。ふんぞり返っていないで、何か言わなければならないことがあるのではないのかな?」

「何がだ?」

 イビルアイは仮面をルイセンベルグに向けた。

 ヤントラを殴ったことだが、一流の冒険者はプライドが高いらしい。

「ケンカしない、ケンカしない」

 イビルアイの肩を軽くたたいて、メイド達を撤収させる。

 帰ろうとするメイドの一人にダンジョンなどの探索を頼むと山岳方面に駆け出して行った。

「先ほどの現象が蘇生魔法か……。あの水のようなものは何なんだ?」

 透明度が高ければ、とても色合いの悪いものを想像していただろう。

「金貨が液体化したものでしょう。一人に付き最低金貨数百万枚以上はかかるようですね」

 枚数を聞いてアズスは吹き出しつつ驚いた。

「はぁ!?」

 今日は何度驚いただろうか。

 得体の知れない人間の口から信じられないことばかり出てくる。

 姪は何と結婚したのだろうか。

「……アインドラ家の資産が今ので吹き飛んだのか……」

「アズス殿。復活に使う金貨は別に用意されているので王国金貨ではない。マジックアイテムや魔法の触媒用の金貨というものがあるので」

「そ、そうか……」

「こちらの金貨であれば一人五百……、一万二千枚とか聞いたっけ。どっちみち莫大な資金はかかるだろう」

 こちらの世界の復活費用はまだよく分からない。

 聞きたくない事を聞いてしまった気がする、とアズスは思った。

 復活魔法には膨大な資金が必要だと聞いたが途方も無かった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 先行していたメイドは一向に戻らないがモンスターは現れていた。

 ルイセンベルグからも謝罪などは無く、イビルアイは少しだけ呆れたがモンスター退治に集中することにした。

 当人であるヤントラが何も指摘しないのだから深追いしても仕方がないだろう。

 それにしても借り受けたゲイ・ボルグは凄まじい。

 再生力のある妖巨人(トロール)で色々と攻撃を試す。

 よく刺さるが致命傷というほどは無い。

 よく切れる武器だと再生し易い、という特性が働くのかもしれない。

 妖巨人(トロール)に有効なのは殴打武器や火属性の魔法と言われている。

 再生できるからといって倒せないわけではない。即死系魔法やスキルにも弱い。

 槍は刺すだけではなく、なぎ払うような殴打や斬撃も出来る。

 イビルアイが槍の扱い方を勉強している頃に別のモンスターが現れる。

 単発的な出現が多いが兵士達に立ち向かえるものが少ない。

 いつもは撤退などしているからモンスターをやり過ごし、大事には至っていないのだろう。

 モンスターは安全と判断すれば山深くへと戻っていくものらしい。

 今回は誰も戻らず、次々と討伐されているから様子見で来ているものも少なくない、のかもしれない。

 日が完全に落ちて周りに松明や『永続光(コンティニュアル・ライト)』の明かりが灯る。

 イビルアイは妖巨人(トロール)とまだ戦っていた。あまりモンスターを倒していなかったようで、次から次へと出てくる。

 兵士達と共に人食い大鬼(オーガ)や豚鬼(オーク)、悪霊犬(バーゲスト)などを倒していく。

 意外と出会わなかった犬小鬼(コボルト)という犬が直立で歩くモンスターも現れる。

 先行していたメイドが一向に戻ってこないのだが、それほど遠いのか、発見しにくいのか。強敵と遭遇しているのか。目的のものが見つかるまで探し続けているのか。

「今日はもう大物は出て来ないかもしれませんね」

「……そうそう出てこられても困るがな。ご主人のメイドは途中でやられてしまったのだろうか」

「送ったメイドは少なくとも古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)に負けはしないのだが……。落とし穴か、未知のトラップに引っかかったか……。影の国の女王(スカアハ)に遭遇したか……」

 武闘派だが武器は肉体のみ。

 魔法は扱える。

 道に迷うことはないのだが、少し心配になってきた。

 彼女達を撃退できるものは影の国の女王(スカアハ)などの神クラスや神器級でも装備している強敵か、敵対プレイヤーだけだろう。

 あるいは一定距離を離れて命令が途切れたか、未知の精神支配を受けたか。

 様々な事が考えられるが、単純に命令ミスということも実はありえる。

 見つかるまで戻ってこないことになれば永遠にさまよい続けるメイドと化すかもしれない。

 ヤントラは手を叩き、十人規模のメイドを呼び寄せる。

 一定の距離で詰め所を丸く取り囲み、外敵の侵入に対応する。

「では、ちょっと行ってきます」

「うむ。こちらは任せてくれ」

 イビルアイに後を任せてヤントラは暗い山岳地帯に向かった。

 森は無く、星々が煌(きらめ)く星空が広がる。

 岩があちこちにあり、平地ではあまり見晴らしは良くない。その中を『闇視(ダークヴィジョン)』で周りを気にしながらヤントラは突き進む。

 途中で妖巨人(トロール)や小鬼(ゴブリン)の一団と遭遇するがすれ違いざまに切り伏せる。

 調査に時間がかかりすぎる。

 勝手に探索をしているのだとすれば大問題だ。

 自我をもつのは早いだろうが、意外な強敵と出会っていると逃げるのは困難かもしれない。

 

 例えば上位モンスターに身体を縫い付けられている場合などが考えられる。

 モンスターはもちろん人間種も含まれる。

 神クラスは人間型が多く、武装も破格だ。

 この世界はモンスターを倒してもドロップ品は落さないようだが、装備品ははぎ取れるようだ。

 希少金属類が手に入らないのが残念なところだが、それらは『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』で補完されている可能性が高い。

 それにどれだけ手に入れてもユグドラシルというゲームは終了したのだ。

 後は我々がどう使うかだ。

 別のゲーム世界に行けてアイテム類を使う場面でもあれば違った楽しみが生まれるのかもしれない。

 とはいえ、そういう淡い期待は置いておこう。

 今はメイドを串刺しにしている敵モンスターの討伐が先だ。

 胸と口を封じられてはいるが相手の心臓は貫いているようだ。

 決して逃がさない体勢でお互いが抱き合う形になっていた。

 敵は一体。

 地面を見ればメイドの千切れた足が二本転がっている。

 まずは敵を沈黙させておこう。

 両足を滅多切りにして尻に剣を突き刺しておく。

 肩口を叩き切ってからメイドから引き離す。

 赤と黄色の槍で相手の正体は分かったが、まずはメイドを治癒しておく。

「一旦、帰還せよ」

 返答は無い。まだ声が出せないのだろう。あと、命令は待機に変更しておく。

 残った敵は神というか英雄クラスだった。

 『魅了する顔(ディルムッド・オディナ)』レベルは70台半ばほど。

 女性を魅了するスキルが強力なモンスターで剣と槍を二本ずつ持っている。

 こちらも伝説級の武器だ。神器級はほぼプレイヤーによるオリジナルかもしれない。というかモンスターが所持している噂は聞いたことが無い。

 『ゲイ・ジャルグ』

 『ゲイ・ボー』

 『モラルタ』

 『ベガルタ』

 例によって搾取を始めていく。

 野郎は欲しくないが資料として手に入れておく。

 後は眠らせて身体を縛り付けておけば肉の山が完成する。

 復活したメイドに散らばる肉片の回収を命じた。

 それから詰め所に戻り、施設に放り込むよう他のメイドに魅了する顔(ディルムッド・オディナ)を渡した。

「……収穫物に見えてきたぞ、ご主人。初めて見るのだが……、やはりモンスターなのか?」

 人間にしか見えない。

「英雄クラスのモンスターです。半神半人とか色々と居るんですよ。……正直、野郎は要らないけど」

「後で見せてほしいな……」

「仕事が終わったらね」

 試し切りはしないが集めているモンスターには興味がある。

 倒す一方ばかりではもったいない。

「そういえば、ご主人はモンスターにも詳しいのか?」

「有名どころは分かります。小鬼(ゴブリン)とか雑魚モンスターは分からないものも居るかもしれません。全部ではないけれど……」

 イビルアイはヤントラは説明する時、言葉が丁寧になることに気付いた。

 気軽に話す方が素だと思っていたが、丁寧な方が喋りやすいのだろうかと疑問に思う。

 どちらでも構わないが、喋り易い方でいいと思う。

 ヤントラはどこかで気を使っているのかもしれない。

「無闇やたらに倒しているわけではないのだな?」

「下位モンスターは無闇に倒してしまうかもしれませんね」

「モンスターの部位を提出すれば幾許(いくばく)かの収入になるのでは?」

「……いや、ほら。増やせることが分かってると後で怒られると思うから」

「ま、まあそうなんだが……。あー、ご主人は謙虚だな」

 一日で千体分の部位を持っていったら確実に疑われるだろう。

 メイドを数体残して撤退させたあと、兵士達も仮眠を取っていく。

 見張りも定期的に交代していく。

 ルイセンベルグ達も仮眠を取るのだが、ヤントラはまた難癖を付けられるかもしれないので起きている事にした。

 睡眠不要のイビルアイもヤントラと共に警備の任務につく。

 

 夜もふけていくと死の大魔法使い(エルダーリッチ)の上位種の死の支配者(オーバーロード)や死神に類するモンスターが現れる気がするのだが、意外とアンデッドが現れない。

 エ・ランテルの方が発生しやすいから、ということもあるのだろうかと疑問に思う。

 上位モンスターが立て続けに出ると言う事は他の地域にも出現してもおかしくない。

 それなのに都市はヤントラが知る限りは平和だった。ナザリック勢は無視するとして。

 魅了する顔(ディルムッド・オディナ)一人でも結構な被害が出るようなものだが、今まで現れたことが無かった、ということだろうか。

 聖剣を使う女騎士。出てきてと強く願ってみた。

 もう評議国なんかどうでもいいや、と思う。

 影の国の女王(スカアハ)の大群は勘弁願いたいところだが。

 『永続光(コンティニュアル・ライト)』の明かりを増やして広範囲を明るく見やすくしてみた。

 明かりにつられて虫が集まりそうだが、昆虫型は出て来ない。

 地域によって差があるのかもしれない。

 こんなところに人魚(マーメイド)が現れるとは到底思えない。海に近いけれど出てきたら凄い。

 一時間が経過すると散発的に大きな蛾のようなモンスターが集まってきた。

 光りに集まる習性に従ってはいるが、手を出さなければとても大人しくしている。

 人間の背丈の半分ほどはあるだろうか。

 蟷螂(マンティス)も現れ始めた。こちらも小さな人間の子供くらいの大きさだ。

 たっち・みーのように虫人間が居れば可愛いモンスターも出てくるだろう。

 表情がいまいち分からないのが難点だ。

 変な卵を産み落とされてはいけないので集まってきた虫達は退治しておく。

 女神が居て英雄がいる。

 当然、神も出てくるかもしれない。

 邪神系が居るくらいだから何が出てきてもおかしくはないだろう。

 天使が居て、悪魔が居ないはずはない。

 問題はどの程度の神話クラスが現れるかだ。

 ギリシア神話。ケルト神話。北欧神話。

 インド神話。その他。

 よく考えたら何でよその世界の神やら英雄がモンスターとして出てくるんだろうか。

 小鬼(ゴブリン)がこの世界の固有種ならいざ知らず。

「考えても仕方ないな」

 十匹ほど虫のモンスターを倒したころにイビルアイがやってきた。

「ご主人、そろそろ休んだらどうだ? 私が見張りをしているから」

「……朝が怖いですね」

「肉体的と言うよりは精神的な休息は必要だ。……厄介な敵が現れたら叫ぶよ」

「気をつけて。英雄級の人型モンスターが出てくるようだ。剣を持った女騎士風が居ればすぐ……」

「分かったから。やはり、女体が良いのか?」

「全体的に女性の身体は素敵です。イビルアイもラキュースも……。洗浄はメイド達に任せているので、取り出していかがわしいことを毎回しませんよ」

「う~む……。ずっと入れていて大丈夫なのか?」

「今は大丈夫です。初期の献体も全て洗浄は終わってますから。皆さんからすれば全部台無しになってくれた方が安心されるかもしれませんが……」

 それは確かに納得しそうなことだった。

 おぞましいものが無くなればヤントラを変態と呼ぶことも無くなるだろう。だが、それでは月に移転する理由もなくしてしまうのではないかと思う。

 自分の世界を作るために必要だと信じて今まで頑張ってきたのだから、殺人でもない限りは応援したい。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 翌朝になるとイビルアイが疲れきった状態で地面にへたり込んでいた。

 周りには英雄級のモンスターが二体ほど転がっている。

「おはようございます。あれからまた出たんですね」

 音が静かで気付かなかった。

 『静寂(サイレンス)』系の魔法でも使ったのだろうか。

「こ、こいつ強いな……。何者なんだ……」

「魅了する顔(ディルムッド・オディナ)。槍使いです。もう一人は……、誰でしたっけね……。名前が出て来ない」

 魅了する顔(ディルムッド・オディナ)の武具は回収し、死体もメイドに回収させた。死んだものは処分するしかない。

 もう一人は知らないおじさん。

 見覚えのある装備なのだが、貧相すぎて分からない。

「ああ、こっちは朝方来た兵士だ。ご主人が起きないように気絶させておいた」

「死体に見えましたよ」

「……たぶん生きているはずだ。強い敵が居たから邪魔で……」

 イビルアイは気絶させた兵士を詰め所に運び込む。

 戦闘は今しがた終わったばかりだったのだろう。

 槍使いの英雄によく勝てたものだ。

 三日目は朝から人の出入りが激しく、兵士達は新顔になっていく。

 昼ごろまでに飛竜(ワイバーン)と死の大魔法使い(エルダーリッチ)が出没するくらいで大物は現れなかった。

 近隣では英雄や神クラスのモンスターは現れず。また、被害も無いらしい。

 一定数のモンスターを倒すと天から制裁でも加えに来るのだろうか。

 死ぬまで続くのは厄介だし、それで終わらなければナザリックに任せて逃げようか。

 あるいは月まで追ってくる可能性もある。

 そういうしつこい敵は嫌いだ。

 居ても良いけど、インターバルは欲しい。

「英雄の女版だったらいいのに」

 性別の変更とか無いのかな。

 クー・フーリン子。

 この際、名前は望まない。

 人間種だと敵なのかどうなのか分からない。

 昼を過ぎると人食い大鬼(オーガ)達が姿を見せるのだが、数が少ない。

 普通はこんな程度なのだろう。

 夜間は夜行性の動物と虫系が現れる。

 そして、そのまま最終日の四日目に突入。

 最後だからと言って特別なことはなく、昼ごろまでは低位モンスターばかり現れた。

「終わったら散策しようかな。兵士の皆さん。人間型のモンスターが出るようですが、危険と判断したら撤退して下さいね」

「どう判断すれば良い?」

「話しかけて武器を向けてきたら敵でいいのでは? 神や英雄は好戦的のようですから」

 話の通じる者も居るので一概に敵だから倒す、という図式は取りにくい。

 敵対してもいいと覚悟を決めている場合は戦ってもいいだろう。それ以外は撤退か避難の用意をすべきだろう。

 銀プレートが仕切っても仕方がないのだが、犠牲者が出なかっただけで良かったとしておく。

 

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