ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
眼球などの小さい部位はメイド単体でも出来るので、身体の分断だけ細かく指示していく。
総数百体を少し超える名のあるモンスターも容器に詰められれば出荷される食材のように見えてしまう。
容器が足りるか心配だ。
人には見せられない解体現場だ。
裸状態だと誰が誰やら分からなくなる。多くは装備品を身に付けたまま入っていたのだが。
露出の多い女性は狙われやすいのか、男性モンスターの餌食になっていた。しかも、誰も助けない。
数多の武具があったが全て回収。
全ての女神が良い武具を持っているわけではない。
魔法に特化した者も居るし、女神枠に入っているだけの者も居るだろう。
回収した武具に
同じ個体が居ると大人数でも種類的には少ないんだなと残念に思う。
文句を言っても仕方がない。
本物から回収できるだけ取り終えたら眠らせたり、活動を止めるように命令しておく。
メイド数人に天然温泉の掃除でもしてもらう。その間に温泉の周りを調査する。
他の入り口や別の部屋の存在は無いのかと。
彼女たちはどこから来たのだろうか。
自然に湧いたのなら狩り場の可能性はある。
一通りの作業を終えたメイド達を連れて温泉を突っ切る。
温泉でくつろぐ、ということは奥に悪魔や化け物が居ない気がする。
いつから彼女たちは温泉を利用していたのか分からないし、性行為しているくらいだから胎児が転がっていてもおかしくない。まして、敵対行動に出て屍となっていてもおかしくない。
神や英雄だからといって同族食いはしそうにない。
飲食や睡眠不要なのかは分からない。餓死しない種族も居るようだし。
温泉の部屋を通り過ぎるとアンデッドモンスターと戦う神々の姿が見える。神達の神々しいオーラエフェクトのせいか、空間内は比較的、明るい。
所々から光りも漏れているので光源となる鉱石か、
食べ物の無い世界で彼らはどういう生活をしているのだろうか。
数は多くないが、魔法を受けたり剣で攻撃したりしている。
中位から高レベルモンスターの戦いのようで戦いは苛烈だ。
螺旋を描くように下方に伸びる道。
空間自体はとても広く、円は数百メートルの直径を持っている。
モンスターの数は見えている限りでは数十体程度と多くは無い。
メイドにいくつか命令し、駆け出す。
メイド達は道なりに走るがヤントラは螺旋の中央を目指し、一気に下降していく。
降りれば降りるほどモンスターは英雄から女神、悪魔、邪神へと変わっていく。
数十分かけて降りた先は暗い空間が広がる。メイド達が追いつくのに一時間はかかるかもしれない。
『
他に出入り口が見当たらないことから巨大なモンスターが居るとは思えない。
普通に考えて出られないか、居たとしても出たくないと考えるのが妥当だろう。
疑問点を探せばけっこう出てくるのだが、メイド達が合流してくるまでは待っていよう。
充分な空間を確保し、ここの拠点しようか考えつつ壁などを突き崩していく。
ミスリル鉱山より魔法金属や希少鉱物が埋蔵されている方がいい。
これだけ高難度なら期待したいところだ。
光源の用意を整え、降りて来るメイドを出迎える。
『
次の部屋に向かう前に感知スキルなどを使わせる。
二十体ほどの敵勢力が居るようだ。
まずは回復と物資の搬入と拠点防衛。
イビルアイ達は
厄介な英雄たちも現れていない。
ヤントラを狙っているのかもしれない。それはそれで結構な事だ。
『マグヌム・オプス』や『
こんな辺鄙な場所がラストダンジョンという気はしない。
何かが要るのは確実だ。それも巨大モンスターではないものが。
こんな前人未到の洞窟に彼らは何故居るんだろうか。
ヤントラが来なければ数十年はウロウロしているつもりだったのか。
眠ることはあるかもしれないが、飲食不要のまま数十年どころか数百年、数千年も洞窟暮らしをするとなると可哀相だ。
レベルの低い女性モンスターはすぐに組み伏せられるだろう。
妊娠するのかは分からないが、子孫が出来るとして彼らはどういう教育を受けるのだろうか。
自動的に知識が備わるなら便利なものだ。
ゲームの中のモンスターに同情しても仕方がない。
例えゲームではないとしても、こんな暗い世界で生き続けるのは精神が耐えられそうにない。出口はあるのだし、というか大半は持ち出しているが。
いや、外の世界に出しても容器の中で永遠に暮らすというのはもっと酷いな、そう言えば。
うん。こちらの方が最悪だな。
ヤントラは同情の仕方が間違っていたことを認める。
充分な数の用意が出来たところで突入だ。
下層に下りるたびに敵の属性は悪寄りになる。なら、次に待つのは悪魔と魔王。
そして、邪神だろう。
耐性付与の仮面や外套を身につけて慎重に進む。
溶岩地帯であれば厄介な敵ばかり。
大型モンスターは勘弁願いたいな。といっても居るものは仕方ない。
例えば最強の一角『
地下世界なら『
竜王国を作ったという『
ドラウディロン・オーリウクルスは『
レベルは十にも満たないが育てれば立派な
次の部屋、というか空間は赤く輝いていた。
だからといって熱いわけではなく、赤いオーラを出す敵が多かっただけだ。
悪魔系の上位モンスター。
あまり詳しくは無いのだが『マレブランケ』と呼ばれる十二体の悪魔かもしれない。
どれも気持ち悪いのだが数体は見覚えがある。
レベルは60台後半から85までだったはずだ。
他には七大悪魔王として有名な者が居るような気がするのだが遠くて分からない。
懸案だった
温泉の側なので溶岩地帯も現れていい頃だろう。
火属性の
ああいうのはどうやって持ち帰れば良いんだろうか。
二次被害が出そうな気がする。特に『
広間の壁際に玉座がある。つまりは最下層と言う事だ。
そこには本来なら凶悪なモンスターが居てしかるべきだが、誰も座っていない。
留守かもしれない。
だが、そこには何かがある。
玉座にはアイテムらしきものが宙に浮かぶように佇んでいる。
重量級の金槌型。
浮かんでいるアイテムはその
一日に何回とかコストとかは当然払うのだろう。
ユグドラシル時代のものならば、そのアイテムをこう呼ぶだろう。
ギルド武器。
伝説のアイテムとして残っているのか、天然物なのかは不明だが、破壊すれば洞窟は崩壊するだろう。おそらくはモンスター達も。
今更だが何かしらのクラスを得る条件が満たされるかもしれない。
ギルドマスターとなって世界をどうこうしようとは思わない。月に行くのだから。
拠点としては問題がいくつか残るが、それらは後で考えよう。
高レベルモンスターの住む洞窟を制圧。
というより、こんな辺鄙なところは余程の冒険者でもない限り来ないだろう。
見つけようと考えるのは高レベルプレイヤーくらいだ。
こういう洞窟が人知れず点在するとすれば探したいところだ。厄介なモンスターが居るし、国有地のような気もする。
開発は後で考えよう。数年後くらいに。
制圧するのに数時間かかったが数で押すと見もふたもない。特に巨大モンスターが居ない場合は。
数十メートル級の悪魔とか
メイド達に辺りを調査させて物資の搬出も行う。
ギルド武器は破壊される運命にあるのだが、多くのデータクリスタルを入れることが出来るので使用には重宝する、らしい。
作ったことが無いから調査しなければならないが、色々と能力は持っているはずだ。
それらも回収して玉座に座る。
洞窟は天然の要塞だが数百年は経過しているらしい。
NPCに類するモンスターは無し。傭兵というわけでもない。
天然モンスターにしては人型が多いのが気になるところだ。
ギルド武器が存在する以上は誰かが拠点として使っていたはずだ。その誰かが不明。
かつてのプレイヤーに連なる者が玉座を置いてギルド武器を神と崇めるために置いていった、ということも考えられる。
主無きギルド。
八欲王の一角。かもしれない。
得る情報は無いが自動的に湧き出るのは今日で一旦終了だ。
「お休み……『ヨトゥンヘイム』……」
全ての活動を止め、既に存在している洞窟内のモンスター以外は意図的以外で発生することはないだろう。
そして、かつて
ただ、名前だけ借りたのかもしれないが。
文句があるなら出て来い、と言いたい。
帰る前に他に何が出せるのか調べておこうと思った。
数百年。少なくともイビルアイも生まれていない時代だろう。
六大神の次が八欲王。それから空白期間があるが、その間にも語られない伝説などがあったのかもしれない。あるいは安定した世界だろうか。
「おはよう……『ヨトゥンヘイム』……」
シリアスモードぶち壊しだ。
メイド達には物資の搬入を改めて命令する。あと、出口付近の調査とイビルアイの様子も。
アイテム類は残っていない。
防衛の為に不死のモンスターを配置して放棄されたようだ。
表に出るのは勝手な性行為で生まれた子供達かもしれないが、武器はどこから仕入れたのだろうか。
メイドに運ばせたユグドラシル金貨で
呼び出す儀式などはメイドに任せた。
「お呼びでしょうか、マスター」
「ゲイ・ボルグを渡せ」
「はい」
命令すれば従順なるシモベは従う。ただし、人形と言うわけではなく自分の意思が宿っているようだ。
メイド達に
器としての武器で特別な力は無いようだ。
調べていないし、うろ覚えの知識だったから仕方が無い。
高レベルモンスターを召喚出来るとは便利なものだ。コストは高いけど。
メイドの一人にNPC管理データを開いてもらう。
消すべき事柄を命令していく。
それとは別に女体モンスターも回収していく。
傭兵としては存在しないところを見ると昔から生息していたのかもしれない。
忘れ去られた遺跡の守護者。
傭兵や高レベルモンスターなどは全て呼び出せるわけではない。
宝物庫があるのか調べさせた。
メイドが見取り図を呼び出し、眺めていく。
天然の洞窟を加工せずに使っていれば宝の安置場所は無いかもしれないし、全て持ち出されていてもおかしくない。
ギルド武器だけを守護するモンスター達だけの楽園かもしれない。
「データ削除を終了いたしました」
人間離れした指の動きで処理を終えるメイド。
というか、そんな動きに対応する方も凄い。
「宝物庫と思われる部屋は存在しない模様でございます」
放棄された本部に残存する資金は無いに等しい。それゆえにトラップなどが発動しないのだろう。
「図書館はどうだ? 書物に類するアイテム。媒介アイテムの貯蔵庫など」
メイドは改めてデータを見直す。
正確な命令の方が探しやすいだろう。
「玉座の裏手に部屋が存在するようです」
つまり背後の部屋にアイテムがある、かもしれない。
一見すると扉が無いように見える。または偽装されているのか。
傭兵を呼ぶには書籍のアイテムが必要だ。だから、アイテムが無ければ
探知系を動員して出入り口を探す。
掘った方が早そうだが。
罠感知も忘れずに。
数百年ぶりに解放されると風化する事もあるかもしれない。それはその時になってから考えればいい。
メイド達により安全が確保された後で扉と思われる場所にたどり着く。
厄介なモンスターが現れるかもしれないので、左右にメイドを控えさせ、召喚した天使に開けさせた。
精巧に偽装された扉が開くと中から黒い液体が現れる。
このモンスターは元もと洞窟に生息していたものの
十匹ほど倒した後で五人のメイドが中を確認する。
安全だと確認された後、ヤントラは中にあるアイテム類を全て持ち出すように命令する。
経年劣化するようなアイテムは無いはずだが、書物類は実際に手にとって確かめた。
総冊数は膨大のようだ。数えるのがバカらしくなってくる。
なので数えずに施設の方にどんどん運び込ませた。
それらが終わった後でヤントラが全ての確認作業に入る。その間にメイド達を休ませる。
女体モンスターらしきものの取りこぼしは無い。
隠し扉に行っていたメイド達の点呼も確認したので火を放ったりはせず、扉は閉めておいた。変わりに壁を適度に焼いておく。
停止作業を終えた後で玉座を回収し、床も焼いておく。
後は転移で戻り、地上までのメイド達を回収する。
拠点に使った資材も残らず回収する。
証拠は多少は残っても良い程度に。
大半のメイドを『マグヌム・オプス』に引き上げさせて、最後にイビルアイ達の元に訪れる。
「無事だったか」
「もちろんだ。モンスターの猛攻が激しくなったり、槍使いが現れたりと大変だったが……」
十本近い槍が壁に立てかけられていた。
「混ぜない方がいいな」
「うむ。ロープでまとめている。それらは持って帰るのか? もちろん借りた槍は返すぞ」
「戦利品はイビルアイの判断に任せよう。……良い武器は安易に与えると争いの火種になるので」
「それは心得ている」
ルイセンベルグ達は少し遠くでモンスターを倒しているらしく、兵士達の宿舎には居なかった。
「
「警戒は怠らない」
「……数百年も不死のモンスターはさまよい続けていたようだ。主も居ないのに……。そんなことがあったよ」
「……なるほど。私は色んな都市に行けるし、自由な意思もある」
「イビルアイのことではないけれど、君のように自分の意思を得て生活できるモンスターが居れば良かったのに、と……」
「心配してくれてありがとう。だが、同情はしない。それもまた運命だ。きっとな……」
仮面を外してイビルアイは言った。
ヤントラが何を見て、何を感じたのかは分からない。
けれども永劫の檻について考えてくれることはありがたかった。
出会いと別れはいつだって辛くて悲しい。もちろん、新しい出会いや発見があるから冒険は楽しいのだろう。
「それよりご主人。妻の様子を心配したらどうだ? 私に鞍替えは……、少し嬉しいがやはりリーダーをないがしろにするのは困るぞ」
「それはもちろん分かっているよ。事務作業は手伝えそうにないから……」
「子育てで良いだろう。良い父親を見せないと子供達に愛想をつかされるぞ」
「……子供達と一緒に女体モンスターをいじりまわすのか……」
「……それは教育上、良くない気がする」
子供達と一緒に女の裸の鑑賞会をする風景が浮かんでしまった。
もちろん、背後にラキュースの激怒する顔が浮かぶ。
数日後にイビルアイ達が都市に引き上げた頃にヤントラは牛の増産と廃棄を終えて、羊皮紙生産を再開した。
集めた献体のうちオリジナルと活動停止以外の複製の処理を済ませておく。
指輪から首輪へと変更する。
問題は
簡易的な水槽を作るしかないか。
一部のメイドを派遣して様子をうかがわせる。
寒くて空気の薄い場所なので厄介なモンスターは現れにくいはずだ。
戻ってきた
転移役を残して残りは処分していく。
増やしすぎたメイドも十人体制に戻す。もちろん、転移用は残さなければならない。
一度認識させなければならないのが難点だが、この問題も課題となるだろう。
水槽は『
「……やっべ。処分する前にやっておけばよかったかな……」
やってしまったものは仕方ない。
死体というわけではないのでメイド達に
半月が経過する頃には安定を取り戻す。
培養液に入れた献体のうち完成したものは処理を施していく。
保管庫に向かえば夥しい数の容器が浮かんでいる。
人体標本。
使用するもの以外が数万体。各都市を含めれば数百万体にものぼるかもしれない。
人間以外の標本も見ごたえはある。
天然モンスターかと思っていたが違うようだ。いや、天然ではあるかもしれない。
発生のメカニズムというものは良く分からないけど。
裸よりは装備品を身につけていた方がかっこいい。
服を着たまま保存液に漬け込むのは衛生上は良くない気がする。
それはさておき。
溜める一方では限界が来る。
しばらくは勉強が必要だろう。
羊皮紙とアイテム製作を続けさせて家族サービスや冒険者の仕事を優先させることにした。
中土月。
様々な設計士を招き、本格的な『
施設に浮かぶ試作品を見せて空想ではなく現実である事を認識した彼らに見せられるだけの技術を見せる。
高い位階魔法ばかりではあるけれど、アイデアの検討は出来る。
基本的な構造。骨組み。外観に素材。
宇宙に出るのに必要な知識はさすがに持ち合わせが無いので、そこまでは望まない。
ヤントラは作りたい部屋と規模を伝え、設計士達は様々な議論を重ねる。
彼らの側には中に浮く積み木を用意しておいた。材質はアダマンタイトなどの金属。
それを数百個ほど。形も様々で板から立方体まで。
側には魔法行使約のメイドを数人控えさせる。
ンフィーレアは
鱗の並び具合。生態も少し。
食糧の備蓄の為に地上の土地の一部を
寝泊りとトイレと風呂完備は以前よりも使いやすく。
リイジーの店の隣りに農耕器具やアイテム類の販売が出来る施設を用意。
人間的に利用しやすい場所の提案もしてもらった。
ついでに羊皮紙の販売も行う。
生産数の割合で値段を変動してもらう為に王国内の販売拠点に同数の羊皮紙を提供しておく。
ヤントラのところだけ極端に安くならないように、という案を提示した。
帝国側と竜王国側にも独自に手紙を送り、検討だけさせた。
一方的ではいけないので必要な数を聞いておく必要がある。
無限に生産できそうで出来ない。それは仔牛達が成長するからだ。
友好を深めた国々に富を分配する。その代わりヤントラはそれぞれの国に対して戦争に加担しない事を約束する。
成りすましもしない『
イビルアイは少し反対したがラキュースは賛成してくれた。
己を縛る行為にラナー王女は疑問に思われたが、侵略戦争以外で必要な時は力を貸してほしいと言って来た。
それは竜王国のドラウディロン女王も同様だった。
人を食う亜人の国に狙われているのだから助けてくれないと困る、という。
アインズと違って頼めば助けてくれそうと思われているのだろう。
確かに困っている人が居れば助けるのは当たり前だ。
ただ、それを当て込んでもらっては困る。
あと、ヤントラは己の欲望や煩悩に支配された変態であることも改めて伝えておく。
決して正義の使者などではない。
生産や製作などが一段落したころにラキュースと子供達を連れて施設内を散歩する。
大きくなった子供達の成長に異常は無く、特殊な能力を発揮することも無い。
謎の能力を受け継ぐようなことが無いだけ安心かもしれない。
戦士か魔法使いか生産系か普通の人間か。
それは子供達が自分で決めていけば良いだろう。
子供達をカルネ村に預けた後でラキュースを『マグヌム・オプス』の奥に連れて行った。
誰にも邪魔されない空間。
しばし夫婦の時を過ごした後、ラキュースは改めて夫の顔を見つめる。
自分の愛した狂人はたった数年で衰退したような疲れた顔をしているように見えていた。
超人的とも言える精神力を持つ人間にも限界があると理解した。
死に対する絶対耐性。
アンデッド並みだと思っていたが実際は違うのだろう。
「冒険も出来ず、仲間も作れず。いたずらに君の人生を壊してしまった」
「そうね」
「もし、人生をやり直せる魔法があるとすれば使いたいか?」
「……う~ん。王都が火の海になって国民が苦しむ事態は変わらなそうだから……。今の方が平和的よ。これから大きな戦いが起きるのかもしれないけれど……」
冒険者としての苦難は変わらないだろう。
平和な世界も良いのだが、それはそれで政治的な争いがうまれて結局は混乱してしまう。
「そうね……。私にお詫びがしたいなら欲しい物があるわ」
「お詫びか……。耳に痛いな」
ラキュースは笑顔を消して真面目な顔になる。
「今更文句は言わないし、陵辱の日々を蒸し返そうとは思わない。……私はただ選択を間違えただけ……」
正しい選択。
国の為に身を捧げる。
王の前で自害するべきだった。
それがもっとも最善な選択だっただろう。
気がつけば得体の知れない生物の子供を孕んでしまった。
生まれた子供達は化け物にならず、普通の人間の姿でいてくれている。
「あなたが多くの『死』を体験したのならば私にも頂戴。……蘇生魔法は拒否しないであげる。少なからず愛情はあるわよ、私にも」
結婚後の生活は大変だったけれど、都市を任されてからは充実している。
命を懸けた戦いばかりでは身が持たない。
いたずらに命を粗末にすることも無いだろう。
イビルアイも仲間や国民の命は大切だと考えている。
クレマンティーヌは逆に弱い奴は死ね、と思っている。
覚悟の無いものは武器を持つべきではない、という意味らしいが、分かりにくい。
それはそれで彼女らしい優しさの表れかもしれない。ただ、相手は死んでしまうのだが。
「……人は等しく死すべし……」
それは誰の言葉だっただろうか。
「……希望もまた災厄である……」
破滅に向かう一つの星の物語。
ヤントラは武器を出し、メイド達を呼ぶ。
無駄な議論は要らない。
死にたい奴は死ねば良い。
自分はただ人を殺すだけだ。
「命を大事だと思うのならば生き残ってみせろ」
「ええ。死もまた愛よ」
ラキュースに眠らせる理由を話し、納得してもらう。
それから眠らせる。
即死耐性のアイテムを装備させる。
身体はメイド達によって支えられ髪の毛などを持たさせる。
途中で失禁などで汚れるかもしれないので服は全て脱がしておく。
豊満な胸。
引退したとはいえ腹筋は割れており、鍛錬は続けられた。
得体の知れないモンスターが都市に現れるかもしれないので。
全ての準備が終わり、ヤントラは改めてラキュースを見据える。
ロールに巻いた金髪碧眼の女騎士。
手で触れられる女体にねぶりすぎたことは今でも後悔はしている。
どの道、エンリが犠牲になっていただろう。
悪のロールプレイは嫌いではないから。
それは『
目の前に胸があるのに触れない。そういう仕様だから。
規制の厳しいゲームではあるけれど、誰もが興味を持っていた。
この世界に転移してから解放された欲望が暴走しただけだ。
力あるプレイヤーならば色々と自由に動いたかもしれないし、アインズのような童貞や紳士を気取るものも居ないとは限らない。
改めて触りなれたラキュースの胸はやはり柔らかいものだった。
「他人の身体を自由に出来る欲望は果てしないな」
他人だからこそ良い。
それはさておき。
死を与えることは簡単だ。
「……便利な魔法が無ければ命をもっと大事に出来たかもしれないな……」
魔法が無くても陵辱はしていたかもしれないけれど。
必要な魔法を唱え、さっさと済ませる。
ヤントラに無駄なためらいは無い。
その手のゲームは飽き飽きしているからだ。特にアインズのようなタイプの主人公は大嫌いだ。
可愛いヒロインに感情移入しがちだ。
エロゲーにさえない主人公は必須というありさまにヤントラは辟易していたし、ペロロンチーノはもはや『没個性』と斬り捨てている。
ゲームのヒロインは民族の壁を越えて多彩だ。
どうみても日本人に見えないのに設定では日本人だと言い張っている。
美術的にも美しいと思うからヤントラもエロゲーは好きな方だ。
背徳感が好きなんだろう。どうせ変態だし。
「思考がエロに傾いてしまった。いかんな」
咳払いをひとつして意識を集中する。
剣を構えて、一突き。それで終わりだ。
音も無く肉体は切り裂かれるのだが鋭い武器のせいで非実体の武器のように見えるほどだ。
首を掴んで移動させれば胴体から離れていく。
先に胴体に再生魔法をかけて、首には『
首は胴体を再生させずに切り口だけ塞がる。
胴体は頭部の再生に入った。
ここで問題だ。
頭部の再生を止めて胴体の再生だけした場合はどちらに意識が宿るだろうか。
脳が眠っているならば『死』を受け入れない頭部が目覚めるだろう。
頭部が死んでも胴体からの再生が完了した場合はどうなるだろうか。
かつてヤントラはその状態で復活した。
その時は頭部は破壊されてしまった。
ならば頭部を破壊せずに胴体を優先させるような事をした場合はどうなるだろうか。
血の跡をふき取らせた後、
その者に頭部を持たせて声などをかけていくと目や口、鼻に耳から血が垂れてきた。
胴体の方は抱きしめても声をかけても無反応。
これもまた一つの答えなのだろう。
確認を終えた後で目覚めたのは首なのか、胴体なのか。
意識を回復したラキュースは辺りを見回し、自らの身体を見下ろす。
「……ふわぁ……、あら? 生きているの? 死ななかったのか、復活したのか……」
「どっちかな?」
微笑む笑顔はヤントラだった。
「どっちかしら……。鮮やか過ぎて気持ち悪いわ。まだ痛みがあった方が現実的よ」
素手で眼球を抉る行為は僅かな時間とはいえ激痛だった。
あと、子宮を抉る行為も。
今から考えればよく耐えられて生きていたなと不思議に思う。
眠らせることに意味があるのだろう。というか、聞いたのによく分からなかった。
「……なるほど。何もしていないわけじゃないのね」
ふと触れた自分の髪の毛が状況を物語っている。
普段は巻いている髪の毛がウェーブがかったままだ。
それは確実に頭部が失われた証し。
化粧の匂いも無い事にも気付いた。
「そこに置いてある包みの中が見たいわね」
ヤントラの側には『
それだけで状況は理解出来た。
「その前に後ろを見てごらん」
「?」
ヤントラの言葉にラキュースは後ろを振り返る。
「!?」
そこには数十人の
気配を感じさせない人形のようなたたずまい。
「さ、
「問題だ。
「はっ? それは……。………」
それは分からない。
言われて初めて気付いた。
今は何も感じない。気配が読み取れなかった事は別の意味で驚いた。
「ほんとだわ。……呼吸は苦しくない」
「では、これはどうかな?」
手を叩くと
「あ、アルベド様……」
「ラキュースさん、ごきげんよう」
「は、はい」
アルベドの穏やかな声を近くで聞いても何も起きない。不快な気配は何も見えない。
「ご気分はいかがですか?」
「と、特に問題は無いかと……」
本来なら何気ない会話だが、問題が無いわけはない。
アルベドの声をじかに聞くだけでも危険なのだ。
それが何故、
ラキュースは混乱する。
アルベドはそのままラキュースを抱擁する。
「ご無事で何よりです」
しばらく抱きしめられていると混乱も収まり、冷静さが戻ってくる。
どのような方法かは分からないが
それはつまり悪魔アレルギーが治ったということだろうか。
ヤントラが手を叩くなどの合図でアルベドはラキュースから離れる。
「いいよ、それを開けてごらん」
「………」
ラキュースは足元に置かれた『
そこにあったのは自分の頭部だ。
安らかに眠る顔。
胴体は見当たらない。
「人の心は頭と身体に宿るようだ。だから脳と心臓のどちらかが無事ならば……、精神も無事な方を優先して復活できる、かもしれない」
ヤントラの仮設では単純な話しではないと思っている。
頭部からの復活は従来どおりで問題は無い。だが、胴体からの復活にはペナルティがある、と。
理性と本能。
胴体から復活してから自分は本能によって行動している部分が多分にある。
人間の身体というか、生物は脳と心臓にそれぞれ宿るものがあるらしい。
どちらか一方が危機に陥れば片方が生存本能に従う。そのどちらかが身体の支配権を決めていくのだろう。
これもまた研究が始まったばかりだから、仮設に過ぎないけれど。
「……これも『死』の形なのね」
「複製の身体からの復活だから心配した。……いや、再生魔法は人形作りとは違うのだろう。本物から生まれた身体なのだから……」
「こっちは死んでいるのよね?」
「いきなり目覚めて愚痴をこぼすかもしれないよ」
それはそれで怖いわね、とラキュースは呟いた。
美しい死体。
放っておくとアンデッドになりそうなので包みに戻した。
「復讐を遂げることも可能だが……、殺したい相手が居るんだったな」
それはすぐに『ラナー』であると理解する。
「虚しくなるから、もういいわよ。ラナーは私を殺したのかしら?」
「自分殺しはしたよ」
自分殺し。
それは精神的にもきつい。
ラナーが望んだのならば恐ろしい娘だと思う。
内に秘める邪悪な炎はかつて友人であったラキュースでさえ理解が及ばない。
城に幽閉されたような生活を送る彼女にも色々と溜め込んでいる感情があるのだろう。
政略結婚もいとわない。
国のためなら獣姦すら喜んでやりそうだから。
「罪人ラキュースをプレゼントしたら喜ぶでしょうね」
「……私の居たところでは人の命は軽い扱いだ。世界を汚染する人の欲望は果てしない。だが、あまり殺しすぎるのもよくないだろう」
「どういう境遇ならあなたのような人間が出来上がるのかしら?」
「知らない方がいい。世界の為にならない」
ラキュースはしばらく黙り込んだ。
ヤントラはただ彼女の次の言葉を待つ。