ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
呼び出したメイドを下着姿にしてみた。
文句一つ言わない従順なメイド。
触られた感覚や痛み。くすぐったいところ。
種族的な弱点。それらを質問していく。
指を数本切断しても表情は変わらない。
「……治癒を始めてくれ」
「畏まりました」
呼び出せるメイドには制限があるらしく、誰でもいいわけではないらしい。
呼び出しリストに載っていても出て来ないのは補充されていない場合がある。
ラキュースの複製を頼んだ場合は『禁則事項』という言葉が壁から発せられる。
国王の場合は無反応だがラナーだと『禁則事項』という返答になる。
つまり返答があるという事は
複製の存在を知っていなければ気づかないことだろう。
メイドではない複製は出せない、と記載されているので男性としてンフィーレアを呼ぶと『禁則事項』と答えてくる。
やたらと『禁則事項』と答えるのでンフィーレアが心配するかもしれない。
事前に断りを入れておくのを忘れていた。
声は小さいが研究の邪魔かと思ったが、大丈夫です、と返答があった。
ンフィーレアと同時に同じ命令を下した場合はちゃんと二人分のメイドが現れる。
現在、ンフィーレアの作業テーブルには五人ほどメイドが待機した。
メイドというか、メイド服を着た女性だが。
服装は統一されているからメイドとつい呼んでいるけれど、特別な名称があるのか、尋ねてみた。
「面倒くさいから全部メイドだそうですよ」
「愚問だった」
「執事さんも実は居るらしいです」
「居るのか?」
「堅物なのと裸にしても面白くない、という理由で使わないのだとか」
ヤントラは男性側だから女性ばかり使うと聞いた覚えがある。
イビルアイとしては可愛い男の子や凛々しい成人男性はむしろ大好きだ。
汗臭いだけの筋肉は勘弁願いたいが、クライムなどは好きな方だと思っている。
呼び出し方法が無いのでヤントラに用意してもらわなければならないようだ。
「イビルアイさんも下心がおありな方なのですね」
「人生を楽しまなくてはな。命を懸ける冒険者であったから……。私も子孫を残したいと思う乙女なんだからな!」
仮面を外して叫ぶ。
顔は見せられないが声はちょくちょく聞かせている。
「……執事が居るのか……」
若い男なら良いのに。
そんなことを思い浮かべつつ実験を再開する。
メイドの身体に無数の杭を打ち込もうかという物騒なことが浮かんだが却下した。
痛みに対してメイドは無反応。
眼球を引きずり出しても平然としている。
人形とはかくも恐ろしいものだ。
拷問が通じない。命令次第では鉄壁の人材だ。
殺すわけには行かないので胸などを揉んでみる。
他人の身体は不思議なほど柔らかく感じる。
肛門を覗いても怒られない。というか抵抗されない。
エロい人にはたまらないだろう。
「……これは人間をダメにするな……」
解説書を読み直し、男性のメイドというか誰か呼べないか探してみた。
呼んでいた三人のメイドにも尋ねてみる。
「『男性化』を申請してはいかがでしょう?」
「そんなことが出来るのか?」
「
そういえば
それが魔法だとしても魔法書には性転換させるものは無かったと記憶する。
「性転換の魔法はあるのか?」
「ございません」
簡潔明瞭にメイドは答えた。
『
系統や位階によって答えられる部分などがあり、秘密の部分を探っては困るのかもしれない。
メイドを男性化しても顔つきはそれほど変化しないので面白くは無い。せいぜい男性器をじっくり調べることくらいしか浮かばない。
「便利な魔法は堕落の温床だ」
メイドの服装を整えた後、呼んだメイド達は退去させて魔法の詳しいメイドを新たに呼びつける。
見た目の変化は分からないが第十位階まで習得しているはずだ。
魔力系は攻撃主体だから便利なものは開発しにくい。
便利であればあるほどリスクも高い。
経験値消費。これは弱体化。
媒介消費。特定のアイテムを必要とする魔法。
高い位階魔法になれば希少なアイテムが必要になったりする。
ヤントラから譲り受けた『
消費一辺倒は資源の枯渇を招くので宝物庫にある秘密の一つは守られた方がいいだろう。
自前でアイテムを用意するのは将来を見据える意味でも重要なことだ。
ヤントラが帰宅すると施設内の点検が始まる。
荷物の保管庫としてンフィーレア達用の部屋をいくつか選ばせた。
シズ型を複数体警備の為に徘徊させる。
天井には
地下一階部分はほぼ全て移動を楽にできるようにしておいた。
二の宝物庫は素材資源が散らばる場所で作業風景はイビルアイ達にも見せられない事になっている。
せめてアイテム回収の風景は見せておこうと思った。
「アイテムはこんな風に散らばるものか?」
「そのようです。細かい作業が始まるので入らないように。統一感が無くて毎回、回収が大変です」
十人程度のメイドが回収の箱を抱えて集めていく。
分かり易い大きなものから小さな宝石に至るまで。
特定のアイテムも壁に作られた棚にどんどん入れられていく。
過剰供給にならないようによく溜まるアイテムは金貨に換えていく。
「金貨も綺麗だが……、魔法金属も綺麗だな」
「はい」
回収作業が終われば鑑定の為にイビルアイ達に入室を許可する。
二人共手袋を着用し、一つずつ確認していく。
一部の宝石は粉末にして触媒に使われる。
金属はアイテム製作に必要不可欠。
書物やデータクリスタルは鍛冶職に渡されるものだという。
「ンフィーレア君は金属類か」
「はい」
「私は宝石類だな。大量の金属はフィア殿に任せるとして……。書物などは使う予定はあるのか?」
「どんなモンスターが出るのか気になりますが、製作には使わないので」
冒険者用のアイテムがあれば帝国側に売ることも出来るだろう。
もちろん王国側にも販売出来ればいいのだが冒険者チームを組まないヤントラは自分以外のことは
使わないアイテムは不用という。
「残りは我々で活用方法を決めてもよいのだな」
「過剰供給にならないように願いますよ」
「はい」
儲けるためだと後々接収されたり、襲撃を受ける危険性が高まる。
アインズが制作方法を看破してなお襲わないのにも理由があるという。
それが『金の卵』という格言だった。
「これらのアイテムの真価を一番理解しているのはナザリックかもしれないな」
「そうかもしれませんね」
金儲けではなく、利用価値として熟知している。
王国の貴族ならば金貨に換算することばかりで新たなアイテムの価値は考えない。
冒険者にとっては便利な物も争奪戦となってしまうともったいないことだと思う。
『金の卵』を生む鳥を狙って争いが起きるのは火を見るより明らかだ。
匙加減に注意しているヤントラの迷惑をかけないようにしなければならないだろう。あのナザリックが慎重になっているほどなのだ。
ここを失わせれば大きな争いが起きてしまうかもしれない。
本来は敵であるはずなのにアインズは大切にしている。
「我々には秘密にされているが、アインズはどれだけ熟知しているのだ?」
「殆どだと思いますよ」
「うぇ!? ええっ? この施設の殆どをゴウン様は理解しているんですか?」
「知らない振りをしていても気付く時は気付きますからね。複製の技術以外は教える事が無いくらいです」
「……それは凄いですね……」
まだ気付かれていない部分はあるだろうけれど、九割九部は看破しているだろう。
「複製は中々出来そうで出来ない。専用のクラスを持っている者がバラバラですから。こちらから何人か人材を貸さないとうまくいかないかもしれません」
「そういうものか。ただ剣術に優れているだけではダメだと」
「絶対に不可能と言うわけではありませんよ。練習あるのみです」
人体を切断する練習。それはイビルアイ達には顔をしかめることになるだろう。
異形種ならば平気かもしれないが。
「戦士職と信仰系
「アンデッドが多いから信仰系が少なくて、思いつかなかったと……。そう考えれば納得するものがあるな」
イビルアイはンフィーレアの顔を見て、詳細な話題には不向きな人物に気付き、部屋から追い出す。
一応、極秘の話しだからと言い含めて納得させた。
「……ご主人。玉座に秘密があるとラナー王女は言っていたのだが……、本当か?」
「勘のよい人は気づきますか……」
「仮にだ。それは世界を根底から覆すことになるのか?」
「なるかもしれませんね。争うことがバカらしくなるほどに……。ナザリックは対処されているので無理ですよ。……それもあるし、まあ……。世界が潰れなければ良いのかもしれない」
退屈なのか、つまらないことなのか。
これは聞きたくても聞けない話題かもしれない。
秘密を聞き出しても自分達にはどうすることもできないかもしれない。それでもヤントラの役には立ちたい。
秘密の保護がそうかもしれないけれど。
クレマンティーヌや自分の身体の成長具合からいって悪用すれば人を自在に老衰に導ける、とも言えるだろう。
それは確かに人には言えないだろう。
ラナーが方法を手に入れてしまったのなら王国は確実に崩壊しそうだ。
玉座を破壊すれば良いのか。
長く座っている王が気付かないのだから、普通では出来ない方法があるのだろう。
確実な方法は
ここで引き下がれば何者にもどうすることはできない。
アイテムを回収した後、別の場所に移動した。
世界を潰すわけには行かないから。
ヤントラの言う世界をつぶす方法は無限増殖するモンスターの増加くらいしか浮かばない。それも対処できないほどの。
星を飲み込めば月にも影響が出るだろう。
アインズもそれは望まないからヤントラに手は出さない。というか、世界を潰そうとは思っていない。
世界征服を
手違いが起きてはいけないから慎重に情報を集めているのだろう。
何事にも対処する為に。
支配者としての欲望を膨らませない間は平和が維持されるのだろう。
長い時を歩む者にとっては性急さは時には危険な行為かもしれない。
イビルアイは玉座の件は打ち切り、研究に専念することにした。
次の日は戦闘メイドのナーベラルが七の宝物庫から現れる。
「冒険者としての仕事を休むので施設内の身回りに来た」
「今、稼動しているメイドは一般人が多い。隠し部屋にナザリックの者が防衛任務についている、という具合だ。以前のような混乱は無いと思うけど、一の宝物庫は気をつけろ」
「うむ。了解した」
カツンカツンと硬い靴の音を響かせてナーベラルは歩き出す。
タイルの上だから仕方がないのだが、まずは六の宝物庫の地下二階にある羊皮紙生産現場を見回る。
作業中の者はナーベラルなど見えていないかのように自分の仕事に集中していた。
テントには
そのまま五の宝物庫に行こうとしたが地下一階に登るように進入禁止の張り紙が扉に貼られている。
開けば金貨がなだれ込むのだろう。
『
地下二階にある扉を半分ほど隠すほど金貨が敷き詰められていた。
作業する者は居ないようなので七の宝物庫に移動する。
地下一階部分は敷き布団が並べられている以外は特にめぼしいものはない。
地下二階はかなりの数の複製の献体が並べられていた。
大型の容器には
六の宝物庫の片隅には
容器の保管庫には十人近くのメイドが巡回していた。
通路が狭いのでメイドの頭上を飛び越えなければならない。
メイド同士だと互いに起用に避け合うのだが、ナーベラルには平然とぶつかってくる。
想定していないようだ。
迷路というわけではないが次の部屋に向かう。
屠殺場には誰もおらず、魔法の光りだけが満ちていた。
頭上にはンフィーレアが設置させたのか、金属板が無数に浮かんでいて『
次の大浴場に向かうと献体を洗うメイドが数人居た。
タイルの上に転がる死体のように動かないのは見慣れない女性達だ。
それらを無視して大浴場の上の階に移動する。
普段は来られなかったが今は自由に出入りが出来るようだ。
培養液の入った容器がたくさん並んでいて、再生作業が
完成した肉体は取り出され、下に運ばれていくらしい。
ナザリックのメイド達とは違い、与えられた仕事以外で無駄口を叩く者は存在しない。
休憩と言うものも無いのか、話し声が全く無かった。
人形だからなのか。
冷たい雰囲気を感じる。
主の為に働く上では当たり前の事かもしれない。
一概に判断は出来ないので次の場所に移動する。
元金貨の保管庫の扉はメイド達によって塞がれ、進入禁止となっていた。
無理に通ろうとすると背後から現れたメイドによって別の場所に転移させられた。
「むっ!?」
白い膜が視界一杯に広がっている。
風を強く感じるし、空気が冷たい。
足元の床は金属板。
周りには誰も居ない。
「……しまった。罠か……」
出入り口も無く、骨組みだけの空間。
所々に板の無い場所があり、覗き込むと無数の板が浮いているのが見えた。
『
あるのは板にコップが乗っているだけの物が無数というか、まばらに浮いていた。
魔法の持続時間の都合もあり、手近な板に乗る。
しっかりとした感触があり、落ちることは無さそうだった。
周りを見ると白い幕に覆われているだけで未完成の施設のように見えた。
空中の宝物庫かもしれない。
それならば地上から五千メートルもの高さにあるという、話しに出ていた『
長時間の滞在は肉体的に負担となる。
真下は海。
助けを呼ぶか、誰かが来るまで待つか。
稚拙な罠にかかるのは恥ずべきことだが今は言い訳を考えている暇は無い。
もう一度、広い床に戻り観察を続ける必要がある。
呼吸が辛くなってきたので長居は出来ないかもしれない。
せっかく来たのだから調査はしておこうと思い、行けるだけ歩いた。
天井に当たる部分は無く、最下層も存在しない。
見た目の印象から球体状に包まれているようだ。
シーツは棒の組み合わせで結ばれているようだが、強い風にもびくともしないようだ。
「切れ目は最初からなのか……。後から裂けたのか」
空気の逃げ道だとすれば納得はするが膨らんだ状態をしっかりと維持しているようで感心した。
地上の浮遊物とは違い、完成する姿は興味をそそられる。
天空城のようなものはナザリックにも欲しいところだ。
地下は地下で荘厳な雰囲気があるが支配者は天から下界を見下ろすべきもの。
神を超える至高の存在はどちらが相応しいだろうか。
それは少し悩みどころだ。
物思いに耽っていると数人のメイドが転移してきた。
「お客様ー。お迎えに上がりましたー」
「居られますかー」
ナーベラルは思考を切り替えてメイド達の元に向かった。
「勝手な行動は
「……うむ」
「ここはまだ工事の着工が
ナーベラルに注意を促しつつ『
文句一つ、というか言い訳せずにナーベラルは『
出た先は六の宝物庫だった。
すぐにヤントラが近づいて肩口に手を置かれ、治癒魔法がかけられる。
「軽く深呼吸しろ。呼吸は苦しくないか?」
言われた通りに呼吸しようとすると胸が少し圧迫されるような感覚になった。
ゲップに似た音が鳴る。
「そのまま少しずつ吸い込め。慌てるなよ」
お腹を軽く押されたりした。
数分かけて呼吸が楽になってくる。
「空気の薄い場所に長く居ると危ないからな。というか飛ばされたようだな。まあ、無事で良かった」
話しに聞き耳を立てつつ呼吸を整えるナーベラル。
「あそこが空中……の宝物庫『
「場所の選定だけ、な。変なモンスターとか出なかったな?」
「誰も居なかった」
「神や英雄、
ナーベラルが無事だったことが分かり、それだけでヤントラは咎めることは無かった。
二の宝物庫は立ち入り禁止中で一の宝物庫はイビルアイ達が使用する関係で一部は封印中と教えておいた。
それ以外は見回ってもいいと言い含めて開放する。
未完成の施設は報告するほど建設は進んでいない事を伝えておいた。
各階層の配置などは設計中。
ンフィーレアに作成途中の書類を見せてもらう。
「普通の建設とは違うので膨大な資材に膨大な魔法を施す必要があります。まとめて楽が出来ればいいのですが、それはそれで結構なリスクが伴います」
「解呪されやすいのだな」
「はい。部分的に解呪出来ないほど細かい部品で組み上げる方法を取ろうと思っています。現段階では月までは行かず、天空に浮かべるだけに留めます。何事も一気に進めませんので」
ちなみに施設の外にある小さな浮遊する建物には入ることは可能で、メイドに頼むと転移で運ばれる。
「転移が基本なのか?」
「扉が開けにくいんです。転移の方が楽ですよ。乗ると転移する専用の魔法があるらしいですけど。侵入者対策でそれは設置せずに検討段階だとか」
「確かに……」
「中には椅子が置いてあるくらいで狭いです。居住空間としては使いにくいですね。あくまでも浮遊する建物だけの役目しかないので」
外から見る以外の役目が無いと言う。
「それより二の宝物庫は入れないのか?」
「先日、入れたんですが……。稼働中なのかな」
「中の様子は……」
「特に変わったものはありませんよ。素材アイテムが棚にたくさん詰められてました」
作成作業が秘密なのだろう。
それに関しては無理に暴いてはならないとアインズに言い含められていた事を思い出す。
何が
一の宝物庫も尋ねてみた。
「地下二階は物置のようですね。大半がまだ空室らしいです。大規模な異種交配用だったらしいですが部屋の多さを利用して各素材の保管が始められました。地下一階は大切な複製を保管するのと武器庫があるようです」
聞けばベラベラと喋るな、この男は。と、ナーベラルは少しだけ眉根を寄せる。
聞いた自分が悪いのだが、答える方もとんでもない奴だった。
言える段階に仕上がっているのならば仕方が無いのだが。
「『
ンフィーレアは大体の方角に身体を向けようとしたが地下なのでよく分からなかった。
「ここと城を結んだ延長線上の海のかなり上の位置にあります。
やはり海上か、と小さくナーベラルは呟いた。
「いろいろ教えてくれて感謝する」
「僕はよく喋りますけど、本当に凄いんですよ。夢を形にするヤントラさんが羨ましいです。ゴウン様はこういう発明はされないんですか?」
「都市造りで忙しい。多くの人材を招いて規模を大きくしている」
魔導国は何もない草原を開発しているので下水工事に時間がかかっていた。
建物は一般市民のものなら時間はかからないのだが商店や専用施設は数ヶ月がかりとなる。まして異形種の身体に合わせなければならないものもあるので試行錯誤が続いている。
国家を樹立したにも関わらず手間取っているのは初めてのことだから。
元々あったエ・ランテルを運用する何十、何百倍も大変だった。
アンデッドを使役していてもだ。
法律の制定もあり、真面目に仕事をしていて、合間の息抜きに冒険者モモンとして活動する。
帝国側の後ろ盾があるのでバハルス帝国領内での活動も認められて、広範囲にモモンは移動していた。
資金調達は大事なのだがユグドラシル金貨と比べて使用量の違いが激しいので稼いだ資金は使わずに溜めていた。
現地通貨は買い物に役立つし、通行料の支払いにも必要だ。
次の日は別の戦闘メイドが姿を見せた。
ンフィーレアは六人の戦闘メイドの複製は見た事があるので、驚きは無かった。
現在、戦闘メイドの複製は停止中なので本物だろう。
「ようこそ」
「すぐ帰るんで」
「……現地調査」
「ごはんはありますかぁ?」
シズ・デルタ。
ソリュシャン・イプシロン。
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。
「ご飯は宿舎の方ですが……。建て替え中でしたね」
「この子のご飯は
「……人間の食材は僕には用意できません」
「だから気にしないでって」
「……真面目人間。……私は
表情の乏しい三人にンフィーレアは苦笑を浮かべる。
スキルで作り上げたシズ専用の飲み物を渡すと受け取ってくれた。
「地上は向こうの階段で上がれるの?」
「はい。出入りは自由ですよ」
ソリュシャンとエントマは地上に上がり、シズはテーブルに広がる羊皮紙を眺めた。
「……中の構造計画はあらかた出来ているんだ」
「まだ決定していないけれど、作るものはだいたい決まっています」
アイテム製作に欠かせない金貨貯蔵庫。
複製の保管庫。
羊皮紙などを生産する工場。
様々な洗浄作業に必要な洗い場と風呂とトイレ。
就寝や食事処も作られるだろう。
執務室やンフィーレア達がいる作業室もいくつか作られる予定だ。
屠殺場のようなものも必要になってくるだろう。ただ、移動だけなら月にあれば良いので無理に作る必要は無いのだが。
「……宇宙空間は真空。……密閉空間だから大気や水、食料の確保は大事」
原住民は宇宙に出たことが無いのでいまいち理解できない分野だった。
上空は空気が薄く、扉の開閉に困る程度の認識しか出来なかった。
高山病の存在はもちろん知っている。
「大気が無い、というのがよく分からなくて……」
「……水中で呼吸が出来なくなることと一緒。……空気を取り込むことが出来ない」
「そんな認識でいいんですか?」
「……呼吸を必要としない種族にはどちらも同じ」
「そ、そうですか」
無表情で平坦に喋るシズ。
感心しているのか、呆れているのか分からない。
興味はあるようで羊皮紙を一枚ずつ確認していた。
「……
「
「……金属系の
全体の大きさを賄うには素材が圧倒的に足りない。
シズは耐熱に適した素材が何かを脳内で検索する。
強固な金属では熱膨張のおそれがあるし、継ぎ目の問題もある。
「……『シリカ』は試した?」
「しりか? どんなものですか?」
「……珪素を主体とするありふれた素材。……砂漠の砂や石英のこと。……断熱効果に優れている。……外壁素材はオリハルコンなどの金属板を使う予定のようだけど、間に『フェルト』を挟むと良い」
シズは羊皮紙に必要な事柄を記入していく。ただし、文字は日本語なのでンフィーレアには読めなかった。
「……フェルトの原材料は動物の体毛だから、羊の毛などで作ることが出来る。……山羊の毛でも大丈夫かも」
細かい事柄をどんどん書き込んでいく。
正確で綺麗な文字。
後で翻訳してもらうが色々と知識が豊富で、勉強になる。
「……接着には……、これは?」
シズは散らばる羊皮紙の一枚を発見する。
「樹液を手に入れる為に
他の羊皮紙をシズに見せる。
それはンフィーレアではなくヤントラが書いたもので日本語で書かれていた。
最近、説明を受けていたので日本語でもンフィーレアには覚えがあった。
その書類をざっと眺めた後でシズは少し驚いた。
外壁部分に必要な素材はヤントラも既に検討していたことを。
自分の複製が居るならば知りえていてもおかしくないのかもしれないが、ちゃんと検討しているのは感心する。
入手方法は色々と抜けがあるので忙しくて調べられないこともあるのだろう。
シリカとフェルトは改めて見回したがどこにも記載されていない。
断熱方法はあるにはあった。素材の選定がまだのようだった。
「……天然のゴムなどを接着剤として有用なので手に入れておくといい」
喋りながら必要な事柄を書いていく。
空中宝物庫はアインズも製作に関わりたいと呟いていたのを聞いていた。
立場が違うので残念そうにしていたのを思い出す。
必要な魔法さえあれば魔導国のどこかに城とまでは言わないが一軒屋程度を浮かべてみたい、と。
家を直接浮かべれば良いのでは、とシズは疑問を投げかけたが、それでは夢が無いと一蹴される。
男のロマンは難しい。
書き終えたシズは軽く一礼して地上に上がっていく。
シズが書いた羊皮紙は無くさないように分けて保管しておく。
別の日に七の宝物庫から来客が来るようになったのでンフィーレアは敷き布団を撤去した方が良いのか尋ねてみた。
今日はナーベラルが来た。
「固定できるなら絨毯がよいだろう。床の事は承知している。アインズ様も無理に変えなくて良いとおっしゃっていた」
「そうですか。誰かが転がり込んでもケガしないように、と……」
「うむ。今はこちらでも対策は取られている」
敷き布団は並んでいるが寝るためには使っていない。
来客は想定していなかったのでヤントラもどうしていいか分からなかった。
液体を使うからタイルの方が助かる。
次の日にはルプスレギナがやってきた。
「連続で来客とは……」
「近隣の都市の構造を参考にするためっす。必要な施設とか」
「魔導国は他の都市と造りは一緒にするんですか?」
「中心部以外は。下水工事って大変なんすね。あれだけで半年近くはかかったんじゃないかな」
「大規模なものは数ヶ月もかかりますよ。この施設はヤントラさんが直接掘ったから工期が早かったらしいですけど」
普通なら数年もかかる工期だと工事関係者から聞いた覚えがある。
安全管理しながら、とはいえ数ヶ月で終えられるのは普通では不可能だと。
「……あ、こっちの業者に任せっきりだったっす。そういうことがあったんすねー。そりゃあ早く終わるわけだ」
健康志向の影響を受けたせいか、朝の点呼と体操と食事はしっかり取っていた。
大雑把な仕事はアンデッドにやらせたのだが、身体が大きいので建物の建設には向かなかった。
単純な命令は出来ても職人には及ばない。
「ンフィーちゃんは我々の複製って見せてもらったっすか?」
「動いているメイドさんは見た事がありますけど……。保管されたものは……」
「私の大きな尻尾とかあるんすけどね。意外と見せないんすねー。なんでだろう?」
「皆さんが秘密主義だからではないかと。強引なところのある人ですが、ヤントラさんは相手の事を尊重できる人ですから」
遠まわしに脅迫する人でもあるけれど。
目的遂行の為に強引な方法も色々と考えているけれど、出来るだけ協力してほしいとは思っているようだ。
自分の煩悩と戦っているのかもしれない。
「異種交配は楽しい実験だと思ったんすけど……。ンフィーちゃんとしては恥ずかしいと」
「好きな人は好きなんでしょう」
「見るのは大好きっすからねー。生物としては興味あるっす。自制ばかりしているのも精神的に辛いっすよ」
恥ずかしがりながらもエンリを孕ませたくせに、と言いそうになった。
純情な男の子も嫌いではないし、破滅させたいとまでは行かないが、いじり倒したくなる。
裸の献体がたくさんあるのだから、それらを取り出して欲望の捌け口にすればいいのに、などということは浮かぶ。
「それよりポーションの研究もやってるっすか?」
「はい。全く同じものは出来ませんが……。以前よりも効果の高いポーションが出来つつあります」
「そうっすかー。カルネ村に居る
「分かりません。……ただ、
「
「異種交配で生み出したのではないかと……。ただ、神や英雄は敵対行動に出るらしく、扱いに気をつけなければなりません」
聞けば答えてくれる。
ナーベラルは顔をしかめていたようだが、ルプスレギナは声に出して笑いそうになる。
極秘事項をペラペラと言う人だなと。
ナザリックに協力や教えても良いと言われているのであれば文句は無い。
「そういえば、バスパ様は奥さんのところっすか」
「このところ家族のところに行っているみたいですね。イビルアイさんも城の仕事で忙しいようだし」
「ンフィーちゃんはお留守番と……」
「おばあちゃんの様子を見たり、手伝ったりしますからね。……暇というわけではないですよ」
子育てもしないといけないし。
「てっきり
「空中宝物庫は少しずつ進めるそうです」
「了解っす。ついでに……」
と、申し訳無さそうな顔になり、ルプスレギナは羊皮紙を胸元から取り出す。
「帰ってきたらでいいんで、これをバスパ様に渡してもらえるっすか?」
「分かりました」
「中は見学してもいいんすよね?」
「扉を塞いでいるメイドさんには気をつけてくださいね」
「あれはどうしても
「聞く耳を持たないというか、ダメみたいです」
「了解っす」
そう言って地下二階の羊皮紙生産の部屋に向かう。
注意事項さえ守れば施設の中の殆どは見学できるようで、メイドが塞いでいる場所だけ危険という仕様になっていた。
肩を掴むと転移させられるとか。