※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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K-13 寒空の下で海水浴

 月二回。週一。定期的な予定を組むのは意外と苦手だとヤントラは気付く。

 出来る事が少ないので頭を悩ませる問題だ。

 本来なら毎日でも仕事がしたい彼女達に与えられることは少ない。

 食事処がない事も大きな問題だろう。

 あと、地上に上げられない。

 監督役はナーベラル。ルプスレギナは辞退したらしい。

 毎日でも出来そうなことは見回りくらいだ。それはそれで立派な仕事だが。

 別の日に来た三人の一般メイドに色々と行動させてみる。

 外敵を排除する力が無いので不測の事態には逃げるしかないのだが、意外と広大な一の宝物庫は飛び出しが怖い。

 隠し部屋もあるし。

 一般メイドは人造人間(ホムンクルス)なので人間と恐怖の感じ方は異なる。

 人間の死体が転がっていればゴミだと思うのだが、生きているモンスターであれば驚く。

 壁から非実体のモンスターが出ると少し驚くがナザリックでは平気。

「隠し部屋に誰かが潜んでいるんですよね?」

「普通はな。君たちの為に警備を甘くしてある。驚かせるようなことはしない」

「そ、そんな警備は甘くしてはいけませんよ~」

「別の部屋で外敵に対処させている。入り組んだここが平気なら他でも大丈夫だろう」

「一の宝物庫は宿泊施設ではないのですね?」

「そうだよ」

「宝物庫だから保管庫なんだよ」

「そ、そうですよね……」

 三人のメイドの後ろにはヤントラともう一人、厳(いかめ)しい顔のナーベラルが居た。

「見回りで無駄口を叩くのは良いのか?」

「いいよ。別に会話してはいけない決まりは無い。私のメイド達は自作自演っぽいから黙らせているだけだ。喋らないわけじゃないけど……」

 トラップは無いがメイド達はどんなことで驚くのか興味があった。

 後ろからナーベラルが一喝すれば当たり前のように驚くのだろう。

「転移を使うのはメイドだけだから隠し部屋に入っても閉じ込められたりしないよ」

「メイド服を着ていない人が歩いていたりするものですか?」

「稼動しているメイド全員に服は着せてある」

 話しつつ移動を続ける。

 前方。左右。天井に分けて点検しつつ決められた道順に沿って歩いていく。

 その間にナーベラルの胸を揉んだりはしない。

 装備しているのが硬そうな鎧なので上からでは無理だろう。

 前方を歩くメイド達の尻を撫で回すのも悪くは無いが仕事中だ。

「部屋の扉が開いている所は何なんですか?」

 分からない事があれば遠慮なく質問するようにと言いつけているのでメイド達は気がついたことを尋ねていく。

「空き室の目印。閉じているよりは安全と言う意味合いがある。部屋の構造を知らせる上でも見やすいからね」

「床は水を撒いた場合はどうなるのでしょうか?」

「排水溝に流れるようになっている。全ての部屋も同じようにね。道具を使ったり、自然乾燥になったりすることもある。羊皮紙の作業や屠殺には使わないから浄化の必要は無いだろう」

「……さすが、色々と考えて作られているのですね」

「ということは……、排水溝が詰まらなければ水没はしないのですね」

「膨大な水量でも流れない限りは。下水が逆流するような事態にならない限りは大丈夫だろう」

「えっ? では、下水が溢れたら……」

 羊皮紙生産がダメになる。

 浴場が混沌と化す。

 二の宝物庫がひどいことになる。

 色々な不安要素がメイド達に浮かんでいく。

「下水への道を塞ぐしかないだろうね。それはもちろん魔導国も似たような対処を取るだろう。屈強なアンデッドの力があれば人間に出来ない事も出来る」

「……詳しくは知らないが下水対策は取られている筈だ」

 人間に作らせているのだから不安ではある。

 改めて自分の目と耳で確認しておく必要があるとナーベラルは思った。

 その後はタイルのヒビなどを見つけたりしながら順路を問題なく進んでいく。

 地下一階の次は地下二階だが、こちらは通路が狭いし、個室が多い。上の階も個室なのだが部屋の中の広さが違う。

 適当な進み方をすると迷いそうになるのだが、メイド達は決められた道を踏み外さない。

 平衡(へいこう)感覚に優れているのかもしれない。

 驚異的な計算力も持っているようだし、感心する。

 一時間かけて見回りを終えた後は屠殺場を抜けて七の宝物庫に向かう。

 後は地下一階に上がれば終了だ。

「今日は見るだけだから楽だっただろう」

「掃除しなくていい、というのが気になってしまいましたが……」

「様子見だけだから仕方が無いだろう」

 と、真面目な顔でナーベラルは言った。

「三人で全部やれ、とは言わないよ。やはり十人単位は欲しいところだ。問題は戦う力が無いところだな」

「戦闘面ではお役に立てそうにありません」

「襲撃される時は盾にならなくていいから、ここに頑張って逃げなさい」

「……はい」

「お前達はお前達の仕事をすればいい。敵に関しては専用の者が相手をする」

 一般メイドに出来ること。

 掃除と見回りと食事を食べること。

 戦闘は無理。

 軽いものなら荷物運びが出来るかもしれない。

「……後は楽しい会話かな……」

 一日一杯滞在させることは出来ないので短い時間で毎日でも出来そうなのが見回りだ。

 細かい一の宝物庫は時間もかかるし、大事な保管庫の一つでもある。

 次の日に十人、別のメンバーで同じように見回りをさせてみる。

 最終的に全員まとめて、とはいかない。

 効率的にかつ定期的に仕事が出来る最低限の方がお互いいいだろう、ということで人数の調整も考える。

 半分は多すぎるだろう。広い施設ではあるけれど。

「朝昼晩と入れ替えで全員に渡したいところだが、一番の労働である培養後の洗浄はそんなに数は無いし。見回りが中心かな」

「羊皮紙生産ではたくさんのゴミが出る気がするのですが……」

「ただ、君たちの目や口に細かいゴミが入って大変なことになるんじゃないかな」

 働いているメイドは処分すればいいのだが、ナザリックのメイドは迂闊に処分できない。傷物にしようものなら大激怒だ。

 金貨の部屋は掃除しようが無いし、天井は高い。

 屠殺場は休業状態。

 仕事を与えるのはヤントラでも頭の痛い問題のようだ。

 外に連れ出せないのも頭痛の種となっている。

 武器を持たせてモンスター退治が出来るわけもなく。

「……仕事用に良く汚すモンスターを用意した方が良いだろうか?」

「それは……」

「なんかダメです」

「仕事を与えて下ったり、考えてくださるのは嬉しいのですが……」

「……バスパ様は私達の為に考えて下さっているのよ」

「掃除しがいのある場所なのに色々と不便なのですね」

「……こちらの施設とナザリックの架け橋にならなきゃ、バスパ様の悩みは解決出来ないわ」

「……かといって性奴隷というわけにも……」

「一つ一つ試していこう」

 一人だけ残して残りは一の宝物庫の見回りに行かせた。

 簡易的なマニュアルだが、それらが終われば大浴場の掃除。ただし、床と浴槽のみ。

 壁は天井までだと高いので保留。

 残したメイドの一人は羊皮紙生産の現場に連れて行った。

 顔や身体をしっかりと守る服装に着替えさせた完全防備で。

「この子で良いかな。見よう見まねで皮をはいでごらん」

 専用の道具を渡されてメイドは周りに居る作業員の様子を窺う。

 鮮やかな手並みで血だらけになりながら黙々と大きな皮を剥いでいる。仔牛達は鳴き声一つ出さずにされるがままだった。

「ゆっくりやるより、勢いを付けて一気にやるのがコツだよ」

 最初に刃を入れた後、思うように刃が動かない。

 一人の作業員がメイドの背後に回り手を添えてくる。

 無表情で無言。

 手を重ねて皮を剥ぐ作業を体験させていく。

「……ええ~、これは大変ですね……。あれ、どうしてそんなに簡単に出来るんですか」

 仔牛が血だらけになるだけで、作業は一向に進まない。

 苦手なものがあるようだ。

「武器に類するものは不得手かも」

「こちらのメイドはそれなりに武器に精通させているからね。できない事もあるだろう。棒でかき混ぜるのは一日に数回程度だから、暇になる」

 粉だらけになるテントの中の作業はさせられないし、羊皮紙の生産で出来そうな仕事は無いかもしれない。

 次に培養の部屋に連れて行く。

 見る分には平気そうなので保存している七の宝物庫に向かう。

 ここも見回りが中心だ。

「……見回りしか出来そうにないな」

「そうですか。バスパ様が我々に仕事を与えてくださるお気持ちだけで嬉しいです」

「本当に性奴隷しかない、と困ったものだと呆れてしまう」

「あはは……。裸になったり触られるくらいは平気ですけど……。我々は妊娠しますか?」

「特殊な命令を与えれば可能だろう。ただ、成長しないのが弱点だな。女神たちも寿命というものが無い上に一足飛びで大人になってしまう」

「……ちなみにどんな子供なんでしょうか? 肉の塊とか?」

「それぞれの胎児の姿を取るようだ。全ての種族の掛け合わせはしていないけどね。豚鬼(オーク)とか妖巨人(トロール)とか好きじゃないんで。私は面食いのようだから」

「人造人間(ホムンクルス)は動像(ゴーレム)などの人造物ですもんね。生物的な生命は生み出しにくいのでしょう。……調査した人造人間(ホムンクルス)は我々ではなく、複製の方なんですよね?」

 オリジナルではないところはヤントラの優しさなのかも、とメイドは思った。

 自分たちは至高の存在の役に立つためだけに生み出された存在。だから、どんな実験であろうとも使ってくれることは喜びである。

 暴行されたり解剖されたり、人体破壊も覚悟はしているが主たちに捨てられるのは何より苦痛だ。

 仕事を与えてくれるアインズも素晴らしいのだが、労働力であるメイド達を貴重な財産だと思っているヤントラも同じくらい素晴らしいと思った。

「潰しの利く素体での実験は有用だ。取り返しがつく方がいいだろう」

「はい」

 物騒な話題を切り上げて大浴場に向かう。

「洗い場だが、普通に風呂としても使える。温泉施設と違うのだが、人間世界では使用方法を聞くと使うのを躊躇われる」

 複製を洗ったり、返り血を洗い流すことに特化しているので、知られると抵抗を感じられてしまう。

 イビルアイでもいい顔はしない。彼女は人間側の思考が出来るから。

 ナザリックのメイド達は気にしない。極端に汚れていなければ、という条件がつくけど。

「既に先客が居るようですが、皆さんは眠っていらっしゃるのですか?」

「複製だから活動を止めているだけだ。小一時間、外気に慣れさせた後は保存液に漬けられる」

「そういうものなんですか」

「出来立ての肉体がボロボロに滅びないように、という考えでだが。杞憂かもしれないけど……」

「いえ、慎重な配慮は必要でしょう」

「人間の素体は充分にそろったとはいえ、長期間は放置できない。必要の無いものはどんどん活動停止の処理に入る。魔法は万能だが、時には意外な効果を見せることもある。人間の次は適度にモンスターも用意する予定だ」

「この施設を満たすとすれば、どれほどの数が必要となるのでしょうか?」

「七の宝物庫だけで一千万体は溜められそうだ。普通サイズなら一千五百万体かな」

「それが戦力なら凄いですね」

「武具を用意するだけで力尽きそうだ。数でどうにかなるならどの国もそうしているだろう」

「あっ、そうですね。……では、人間は何故、そうしないのでしょうか?」

「色々と必要な物をそろえるのが大変だろう。武具に食料。遠征に必要な動物。寝泊りする住居。あとは寿命かな。病気に必要な魔法とか」

 権力者が市民から力を奪っている、ということもあるだろう。

 後は出生率の低さ。出産と成長の遅さなど。

「人間はそう簡単に死にたくないって思う生き物だから、大規模破壊の魔法を誰も食らいたくないだろう。無駄死にしたくない、とか」

「なるほど」

 複製体の洗浄は数に限りがある。

 浴槽の掃除。

 使う分にはナザリックの温泉施設の方がいいだろう。

「……今は見回りしかさせてやれないな……」

「無理に仕事を増やしていただかなくても……」

 とてもありがたいのだが、力仕事が出来そうにないのは胸の痛い問題だった。

 掃除が出来ないところが多い。

「最初の頃は死体処理とかたくさんやってたんだけど……。タイミングが悪いな。数年ごとに屠殺場を使うような事も考えないといけないな。毎年だと世界がおかしくなりそうだが……」

「後片付けなどですか?」

「肉片の回収に床掃除だ。飲食不要だから食堂が無い。君達に料理人(コック)の職を付ければ料理でも作らせるのだが……」

 NPCは成長しない。

 それが通説だ。

 ナーベラル達が成長したのであれば不可能なことはないかもしれない。

 ゲームの設定が混ざって混乱してしまうのだが、今まで出来なかったことができるのであれば不可能を可能に出来ても不思議は無い。

「一つ実験してみようか」

「はい?」

 メイドを屠殺場に連れて行く。

 見回りをさせていた他のメイドも呼びつけておく。

「まずは武器だ」

「は、はぁ……」

「そこのメイド達を殺しなさい、という命令はしないから安心するように」

「ひぃ……。……それはご勘弁くださいね」

 冗談でも聞きたくない言葉だった。

 主の命令ならば実行に移さなければならないのかもしれないが。

 レベルが1のメイドに倒せそうなのは小鬼(ゴブリン)くらいだ。

 まず五匹ほど用意する。

「まず、儀式だ」

 ヤントラの弟子になる事を誓わせる。

 この手法だと相手の本来の拠点に行く手間が省ける。

 忠誠心を持っているのですんなりとは行かない。

 数分ほどかけて誓わせた後でステータスの確認をしておく。

 人造人間(ホムンクルス)のレベルは実際には1以下。

 クラスレベルを足して1という。

 とても貧弱な存在が四十一人居る。

 ペストーニャは高位の神官職なのでアダマンタイト級の冒険者よりも少し強い。

 シズよりも強いかもしれない。

 他のメイド達は椅子に座らせておく。

「まず、頑張って小鬼(ゴブリン)を倒しなさい。首を落すなり、胸を刺すなりして。服は汚れてはいけないから、脱いでおくことを勧めるよ」

「は、はい」

「小鬼(ゴブリン)は無抵抗だから」

 服を脱いで、きちんと畳んだ後でいくつかの武器を選ぶ。

 初心者が武器を選ぶように時間がかかる。

 最初は誰でもそんなものだろう。

「まずは……」

 敏捷と筋力を増強させる。

 弱いメイドも多少は強くなるだろう。

 攻撃力が1から3くらいには。

 武器を持った素っ裸のメイドが小鬼(ゴブリン)に立ち向かう。

 転ばないように様子は見ているのだが、危なっかしい。

 低レベルとはいえ序盤の敵なのだから倒さないことには始まらない。

 普通は攻撃を食らうものだが、無抵抗なら心配は無いだろう。

 武器はメイドでも持てそうなナイフや包丁類。とにかく、装備して攻撃するところからだ。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)と違い、硬い敵ではないはずだ。

「えい、えい」

 可愛い声のメイドさん。

 人間と違い、失禁することは無い。

 ガツ、ガツと叩くのだがダメージ的には『1』がいっぱいかもしれない。

 それでも減っていればいずれは倒せる。

 異形種なので人間種の三倍は強くなる、単純計算では。

 数十分かけて一体目を倒し、二体目に取り掛かる。

 レベルを2にするのに二時間はかかるのではないだろうか。

 待機しているメイド達は見学のみにとどめた。

 回復役のメイドを一人用意し、ヤントラは執務室に向かった。

 数分後に戻り、見学を続けるメイドには帰ってもらおうかと思った。

 仲間の裸を観賞させるのも悪い気がした。

「ナザリックのように仕事をあげられなくて申し訳ないな」

「お気遣い感謝します」

「ベッドメイキングと掃除が出来ないだけで我々がこんなに役立たずだと分かっただけで……」

「ただの大食いではないところをお見せしたかったです」

 二人だけ残ってもらい、後は来てくれたことに感謝してナザリックに戻ってもらった。

「よし、邪魔者は居なくなった。エロいことし放題だな」

「まあ」

「あらら」

「それは冗談として……。一人だけ残すのも可哀相だから」

「あ、そうですね。そちらのメイドさんは戦闘メイドの方でしょうか?」

「それなりに実力がないと困るからね。回復役だ。モンスターを退治すると経験値は得られる様だ。帰ったらメイドに必要なスキル獲得が得られるのかアインズ達に進言してみてくれ。無理なら諦める。仕事効率が上がって暇になるメイドが増えては困るだろうけれど……」

 一辺に来られても困るけれど。

「成長しますか、我々でも」

「経験値を積むのは成長とはまた違う概念かもしれない。返答は充分検討した上で構わない、と伝えてくれ」

「畏まりました」

「召喚モンスターは成長も経験値も得られない。上限がはっきりしている。本来ならNPCも増えないはずだが、自我の獲得で色々と最適化された、みたいなことがあるのかもしれないな」

 レベルの上限は100のままだろう。

 経験値自体は無限に得られる(未知数だけど)が割り振れる値には限界があるだろう。

 経験値消費の魔法やスキルを使えば減るし。

 精神支配され易い種族をレベル百にするのは色々と怖い。

 パワーバランスというのも大事だ。

 欲望は果てしない。

 その調整を誤ることも世界の危機だ。

「君たちの仕事の為に意味も無くモンスターをバラバラにして片付けろ、という仕事は虚しいだろうな」

「意味も無く、という部分が……」

「本当にお気遣いは感謝しますが、無理はしないで下さいね」

 返事があるのは嬉しい。

 自我の芽生えを気にしなくて良いからかもしれない。

 それにしても今日は監視が居ない。

 そのことを尋ねるとルプスレギナはどこかに行ってしまったのだとか。

 シズ達は魔導国での仕事が増えた為に来られないという。

「点呼をしても仕方が無いのだが、一度に来てもらう数は二十人が限度だろう。十五人足らずが理想か……」

「ナザリックを無人にするわけにはいきませんものね」

「見張りと言っても外敵より容器や部屋の異常などだ。後片付けが出来る仕事は月に一回あるか無いか、という程度だからな……。折角だから金貨を持っていくか?」

「量にもよりますが」

「数百枚ずつだ。よくよく考えたら万魔殿(パンデモニウム)は中継基地のようなものだから宝物庫にする必要ないよね」

 空中に都市を建設する上では今からの変更も遅くは無い。

 総埋蔵量を凌駕しそうな資源を消費することになりそうだから天然資源は使えないだろう。

 じっくりと生産を続けていくしかない。

 砂漠があるからシリカについては問題ないだろう。

 消費した分を堆肥にすれば緑地化も可能かもしれない。

 美女の尻から吹き出す絵面が浮かんだが、それはとても残念な場面だろう。

 規定の小鬼(ゴブリン)を倒させ、後片付けと返り血などを拭(ぬぐ)ってもらう。

 それから卒業の儀式を行(おこな)うが、いい文言(もんごん)が浮かばなかった為と説明しておく。

 それから金貨をそれぞれ持たせて出口に送った。

 弁当持参と言いながら追い返すのは少しかわいそうだと思ったが、色々と考えることがあるので失念していた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 イビルアイの魔法実験用の的(まと)となる区画を地上に用意した。

 物理的な攻撃に強い金属板を数枚配置。

 藁人形や木の棒。石などを置いておく。

「メイドを立たせるわけにはいかないだろうな」

 立たせたら後片付けが出来ると喜ぶかもしれない。ただし、仲間以外に限る。

 四方に金属の棒を差し込み、蜘蛛女(アラクネ)の糸で網を張り、シーツで包む。

「徹底的だな、ご主人」

「糸の強度もわかるでしょう」

「うむ」

 水や掃除用具。雨対策も整えてイビルアイは魔法の実験を始める。

 施設の大地は様々な植物が植えられ、一部は季節によっては綺麗な緑に染まる。

 樹木も植えられてはいるが根による侵食は今のところ確認されていない。

 移動基地とはいえ居住空間の確保は大切だろう。特に空気圧の関係で内部収縮など怖いことだ。

 建物内での野菜作りも出来るようにしなければ。

 あれもこれも必要になってくると自然と手が足りなくなる。

 生簀とか。

 果樹園とか。

 先日見つけたダンジョンで色々と実験するのも悪くないだろう。

 場所が山奥だから大変だが、近場のダンジョンは他には無いのだろうか。

 野盗のねぐらくらいか。

 メイド達の仕事は少しの間、休止させる旨を伝え、家族と共に海に行こうと思ったがラキュースは忙しいので子供達だけ連れて行くことにした。

 食料はメイドに運ばせ、リ・ロベル近郊の砂浜に拠点を構える。

 小さな子供達は無邪気に動き回る。

 それぞれ遠くに行かないようにメイド達に見張らせて砂浜を回収する。

 回収しすぎて穴だらけになっては困る。

 人魚(マーメイド)系のメイドを用意し、海中を探らせる。

 同種が居れば捕まえてくるように。

 水圧の関係で限界まで進ませる。時間になれば転移で戻るように指示しておけば色々と何かを持ち帰ってくる。

 海底神殿があるかもしれないが、それらはもっと沖合いの深い場所に行かなければならないだろう。

 そう簡単に見つかってはありがたみがない。

 船でも使うところなのだろうけれど、今回は海水浴程度に留めておく。

「砂浜でお城を作ってごらん」

「あい」

「……本格的じゃなくていいからねー。トゥーレアは水は苦手か?」

 誰も居ない砂浜だから寂しいと感じているのかもしれない。

 というより、季節柄、寒風吹きすさぶ海で遊ぶ家族は普通は居ないだろう。

 火属性のモンスターを召喚し、温暖な状態にすれば冷たい海水でも泳げそうだ。ある意味では贅沢な事をしている。

 ヤントラの住んでいた世界は汚染されていたので海水浴の仕方はあまり分からなかった。だから、こんな状態になってしまった。

 薄々違うような気はしているけれど、子供達は笑顔だったので安心した。

 夥(おびただ)しいモンスターを並べるわけには行かないし、海水浴と言う文化があるとも思えない。

 生まれた子供は母方に似ている。能力的にはヤントラの力は何も引き継いでいないように感じる。

 種族は人間種。

 父方の魔法を習得しているわけでもクラスを既に得ているわけでもない。

 ごく普通の子供だ。

 遺伝子的な疑問もあるのだが、きっとお酒には弱い、ような気がする。

 母方が酒に強ければ、それはそれで結構な事だ。

 相手の飲酒を禁じることはしない。

 簡易テントに寝袋などを敷き詰めてトゥーレアを入れておく。

「ちょっとだけ待っていなさい」

「うん」

 監視はメイドに任せて辺りの植物などを観察していく。

 モンスターは特に見当たらないが、この辺りに生息していそうなのは獣系だ。

 海からも現れる可能性はあるのだが今のところは異常なし。

 トゥーレアを背負って海の上を歩くような真似をしたり、人魚(マーメイド)達が持ち帰った様々な物を眺めたりする。

「そうだ。お前達、向こうの空に何か浮かんでいるのが見えるかな~」

「んー、しろいたま?」

「ほし?」

「見えるか?」

 そう言うと二人共頷いた。

 地上から数キロメートルに直径が一キロメートル以上の玉。

 偽装はしていないが地上からは結構な大きさだった。

 落下したら相当な地震が発生するだろう。今はまだ未完成だが。

「空中に浮かぶ宝物庫。未完成だけどな。高い場所は空気が薄くて暮らすのが大変だ。お前達にも見せたいところなのだが……。今は下から眺めるのが精一杯だ」

「えー」

「形は単純だから、あまり面白くない。父さんの施設と大して変わらないからな」

 難しい言葉を言ったところで子供達にはピンと来ないだろう。

 それでも話す行為は大事だと思うので、そのまま伝えた。

 絵空事を現実にしても信じなければ幻想のままだ。

 自分の目や耳で確認することの大切を少しでも身につけてくれれば充分だ。

 いくつかの魔法を行使して子供達を楽しませることも忘れない。

 大規模破壊魔法より、少し浮く程度でも喜んでくれる。

 戦士と魔法詠唱者(マジック・キャスター)。

 はたまた学者や商人になるのか。それは子供達が決めていけばいい。

 ラキュースが家督を継がせるというのなら、それはそれで文句は無い。

「お母さんの側に居てあげてくれ。私は色々と苦手なものがある」

「うん」

「出来るだけ月と往復できるように頑張るけど……。ちゃんと作れるのか心配だ」

 安全第一。

 無茶はせずにじっくりと工事に取り組むことを子供達に約束する。

 その間に人魚型は色々なものを運んでくる。

 海水魚に類するものは後回しにして海底に沈んでいる土砂などを優先する。

 海のモンスターといえば海妖精(ネレイス)や水精霊(ウンディーネ)。

 魔獣の子(スキュラ)や巨大烏賊(クラーケン)が有名だ。

 ファンタジー世界の場合は深海まで行かないし、海の隅々まで調査しない。

 まだ見ぬモンスターが色々と眠っている筈だ。しかし、現実には数千メートルも潜れないだろうから、ほどほどで引き上げさせる。

 広大な海を捜索するには人数が足りないかもしれない。

 海は逃げないので日を改めて捜索しようと思い、子供達と遊ぶ。

 人魚は下半身が魚ではあるが陸上でも呼吸が出来る種が居る。もちろん全部ではないけれど。

 深海生物なら目玉が飛び出しても不思議ではないのだが、うまく水圧を調節しているようだ。ただ単にヤントラが知らないだけ、ということもあるかもしれない。

 移動には苦労するだろうから転移で浴槽に入れておくように命令する。

 

 ンフィーレアに宝物庫の他に基地としての居住空間の設計も依頼しておいた。

 月に運ぶのだから浮かぶ宝物庫である必要はないと言うと納得してくれた。

 試行錯誤しながら完成形を模索するのは楽しい作業だと言ってくれた。

 今日は非番のメイドが三人やってきた。

 ルプスレギナはアインズの目の届かない仕事は手を抜くらしいので、ナーベラルが監視要員として訪れた。

 地上に出ないのであればシズでも構わないのだが、所要の為に来られない。

「一と三と七。主に三つの部屋が見回り対象だ。三の宝物庫の地下二階の大浴場は午後の者に任せるとして、定期的に見てもらえると助かるのは以上の三つだ」

「畏まりました」

「折角ナーベラルが来てくれたのだから、みんなの服装もナーベラルと一緒にしてみようか」

「む……。こちらの服なら汚れても構わないか……」

「ナーベラル先輩の……、この装備のことですよね?」

 スカート部分が膨らんだ形状の金属鎧を指差してメイドは言った。

「一通り揃っている。防御力はあるから。せっかく作ってもらったんだが、着てもらう相手が居ない。イビルアイも一回だけだし」

 用意された防具をナーベラルが調べていく。

 全くの同一と言うわけではなく、同じなのは形だけ。

 質は落ちるが劣悪なものというわけではなかった。

 というか専用の職業(クラス)を持っていないと鎧は装備できないのでは、とナーベラルが言うとヤントラは少しだけ黙った。失念していたからだろう。

「鎧でなければ大丈夫だろう」

 ナーベラルが重厚な鎧を装備しているのは装甲魔法使い(アーマード・メイジ)の職業(クラス)を持っているからだ。

 とはいえ、似せた服はいくつか用意している。色々とまずは試してもらおう。

「武器は無し。施設の中には戦うようなモンスターは配置していないから。四十一人分は無いよ。各五人分くらいだ。……帰りはちゃんと置いてってもらうよ」

 やはり鎧は無理だった。それはそれで残念な結果だ。

「はい」

「献体が明らかに動いて暴れそうだったりしたら、すぐ連絡するように。または逃げる」

「畏まりました。掃除はしないのですね?」

「午後の部でやればいいだろう。朝の部は見回りとして昼は……、未定だ」

 朝昼晩と仕事を与えても出来る事は少ない。

 何らかの作業が出来るのであれば羊皮紙やアイテム拾いなどをさせるのだが、今は見回りしかさせられない。

 ンフィーレア達の助手は無理だろう。

「屠殺場が今は休止中だからな……。あれが動いていれば片づけを頼める。……帝国側にまた数人ほど来てもらおうかな。それよりは作業を手伝ってもらった方がいいのか……」

 唸りながらヤントラが物思いに耽る。

 その間にメイドの三人はナーベラルに促されて着替えを始める。

 装備は汚れてもいいもので統一。

 新たに色々と用意してあげるべきだろう。折角、働いてもらうのだから。

 椅子を出して色々と書き込みをする間にナーベラルも手伝って着替えはすぐに終わった。

「いつものメイド服と違うのは新鮮ですね」

「戦闘メイドの皆さんは重い鎧を着て戦うのですね」

「戦士職を得たなら慣れてくるだろう。極端に重いわけではないのだが……」

 三人に軽く歩行訓練をさせておく。問題があれば意見を貰う。

 音の出る小物を服につけておくと静寂で満たされた空間に音が大きく響いていく。

「……うむ。お前達の場合はあえて大きな音が出ていた方がいいだろう。低位のモンスターなら威嚇にもなる」

「すみません……」

 服は三人の身体に違和感無く合ったようだ。

 メモを書き終えた後、三人はマニュアルを渡されて一の宝物庫に向かった。

 ナーベラルも数メートル後ろから彼女達の様子を窺う。

 地下一階は通路の幅が広いが地下二階は縦一列にならなければ狭く感じる。

 七の宝物庫の地下二階も入れ違いが出来ないほどに通路が狭い。

 見張りが居るとはいえ、三人のメイドの見回りは心許ないな、と思う。

 小鬼(ゴブリン)に苦戦するような力しかないから、とても心配だ。

 ナーベラルは真面目だから心配は無いのだろうけれど、見張りが居ない時はちゃんと戻ってくるのかな、と。

 他人に任せるのがこんなに不安になるものとは。

 

 高レベルのメイドも控えているので不測の事態は軽減できるだろう。

 見回りの意味がなくなってしまうが仕方が無い。とても心配だから。

 一般メイドよりナーベラルが封印されている部屋に入ろうとしてどこかに飛ばされないかも心配だ。

 人の家の秘密を覗こうとするクセに自分たちは鉄壁の防りで固めている。

 次は全員妊娠かな。

 そんな事を考えつつ培養の様子と羊皮紙生産の様子をうかがう。

 羊皮紙とは別に羊を買い入れ、羊毛を集めている風景を眺める。

 フェルトは毛を圧縮して作るのだが、こちらは成長を気にしなくていいし、長く採取できる。

 牛と山羊は毛の長さが短くて加工が大変だ。

 箱詰めしたものは七の宝物庫の地下一階に並べていく。

 二十箱まで行(い)ったら製作の思案に入る予定になっている。

 丁度いい重しとして霜の竜(フロスト・ドラゴン)が居るのだが、もう少し大型も使いたい。

 近隣都市から抗議が来そうなので実行に移せないけれど。

「……人の住む施設じゃないから困ったな……」

 都市を作りたいわけではないから、メイドの仕事が与えにくい。

 大勢の研究者を集めた方がいいのだろうけれど。

 貴族が大きな態度を取るところは思い浮かぶ。

 竜王国は賑やかそうだ。

 メイドの仕事と今後の予定を考えていると規定の時刻を知らせる音が鳴る。

 時計を多数配置しているとはいえ、耳障りにならない程度には抑えられている。

 ナーベラルがついてて迷うことは無いだろうけれど、連絡役のメイドに確認を取らせる。

 メイド間なら『伝言(メッセージ)』のやり取りは出来るようだ。

 既に七の宝物庫に到着し、着替えて小休止しているという。

 ただ歩くだけならそれほど手間も時間もかからない。

 現場に向かうと敷き布団の上で弁当を食べていた。

「椅子とテーブルも用意しておこう」

「お気遣いなく」

 小物は色々と揃っているのでヤントラのメイドはすぐに行動に移していく。

 開いたスペースはかなり存在する。色々な道具をしまう物置も無数に点在している。

 椅子の形は様々で座りやすいものを自由に選べるようにした。

 問題はナーベラルが椅子にどう座るのか。

 見た目は椅子に座りにくそうなふっくら鋼鉄スカートだが、柔軟性があるらしく、というか魔法の防具だからかもしれないが普通にグニャリと歪んでいた。

 シズも同じタイプだろう。

 戦闘メイドの防具は見た目以上に強固で、アダマンタイト製に引けを取らない。

 一般メイドは見た目どおり、普通の服なので問題は無い。

「……魔法の武具は不思議だ」

 じーっとナーベラルの尻を見つめるヤントラ。

 それに関してメイド達やナーベラルは恥じらいは感じていないようで、気にしたそぶりは見せなかった。

 ヤントラの所有する同じナーベラル用の武具でも同じ現象は起こせる。

 そのナーベラルは弁当を食べる前に必要事項を書いていく。

 メイド達の様子や仕事内容だろう。

 監督役以外は食事に専念する。

 問題は彼女達の食事量は種族の特性なのか、一般人よりも多い。

 満腹感はあるようで一度に無限には食べられない。だからといってすぐに飢えたりはしないようだ。

 農園があるとしても毎日彼女達の腹を満たせるほどの量は用意できない。

 それは諦めてナザリックの食堂で続きは食べてもらうことにした。

 数日分は用意できる。

「……解決策が浮かぶまでは見回り程度しか仕事が無いな……」

 と、ナーベラルの尻に言うヤントラ。

 放屁で返事をしたら楽しいだろうな。

 ナザリック側のメイドの数を減らせば戻ったときに仕事が少し増えているかもしれない。

 普段は休ませるほど仕事が無いらしいし。

 無人の部屋を毎日清掃するのも大変だろう。

 ヤントラの施設は使用目的の都合で清掃できないところが色々とある。

 タイミングのズレとも言うべきものだが、仕方が無い。

 来てくれるだけで本来はありがたいことだ。

 食事を終えた後で敷き布団を持ち帰っていくメイド達。

 監督役は見張るだけで行動に移さないので暇をもてあましそうだが、自分の与えられた仕事には誇りを持っているようだ。

 全員に中の様子を見せるまで朝昼晩と来てもらう事になっている。

 三人の時もあれば十人の時もある。

 食事の都合もあるけれど、体調不良が現れないのが一番の強みかもしれない。

 清掃に関しては保留にし、戦闘も保留。

 ンフィーレアとイビルアイの二人とは面通しできる日は会わせておく。

 人間に見られてはいけない規則は無いのだが、知らない人間が居ては困る。

 急な来客の時は避難の為にヤントラのメイド達が一の宝物庫の部屋にかくまう事を約束する。

 地下一階部分の空き部屋に専用の名札を用意して扉を閉じておく。

 部屋は広く、何も置かなければ五人は寝泊りできるほどの広さがある。

 天井も高いので浮遊する金属板を使えばもう少しかくまうことも可能だ。

 メイドばかりに構っているわけにもいかず、空中宝物庫も同時進行で考えなければならないだろう。

 長期的な計画と言うのは何かと下準備が大変だ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 下土月(三年目の三月)。

 カルネ村は冒険者の休憩所として機能し始め、未だに高額だがポーションの販売も始められた。もちろん、一般の薬草類も取り扱っている。

 安定的に材料が得られれば国全体で価格を下げる事が出来るのだが、そのめどは遅々として進まない。

 ヤントラの保有するポーションは真蒼の薔薇に分け与え、残りはンフィーレアの研究用として渡すことにした。

 ンフィーレアはアインズにも打診はしたようだ。

 アイテム使いがアイテムを失うことは致命的なのだが、手持ちの魔法とスクロールのみでやりくりすることにしたようだ。

 週に一度。というかアイテム生産をした週に限るが一般のメイド達に拾わせてみた。

 部屋自体は色々な人間に見せているまま様子は変わっていない。

 手袋などを装備させておく。

「種類ごとに床に並べておくだけでいい」

 与えられた仕事にそれぞれ笑顔で了解の返事をする。

 働くことこそが至上の喜び。これがンフィーレアや一般人なら不満や恐れを抱く表情になっているだろう。

 メイドはあくまで至高の存在の為に働くことが喜びなのだから。

「箱に入れないのですね」

「これはこれで見栄えが良いから。いかにも宝物庫、という雰囲気が味わえるからね」

「芸術品は置かれないのですか?」

 愚問に対し、同僚に小突かれるメイド。

 素材として役に立たないものを置いても仕方が無い。

 一週間かけて生産したアイテムの数は全体的には微々たる物だ。

 数ヶ月以上かけた方が気分的には結果に満足するだろう。

 ナーベラルにはあまり秘密を探られると効率が悪くなるので自重(じちょう)や自制をしてもらいたいと伝えておいた。

 当然、ナーベラルは不満の為に唸っていた。

「一回で得られる金属、ありふれたものだと拳大が一つだ。箱を満たすのに時間がかかるものだ」

「金貨も一枚ずつとかですか?」

「あっちの方が多いかもな。貴重なアイテムをたくさんくれと言われても難しい」

「本の場合は一ページだけとか?」

「本は一冊単位だ。バラバラでは困る」

 当たり前だが、当たり前ではない事もありえる。

 スクロールの場合は材料は出てくる。

 たぶんポーションも出てきそうだが、床に落ちて割れそう。

 小一時間ほどかけて並べ終えた後は『飛行(フライ)』の使えるメイドが棚に納めていく。

 下の棚は一般メイドに任せた。

 梯子(はしご)や脚立(きゃたつ)があれば全部任せられるのだろう。

「……過保護なのかな……」

 ナーベラルの厳(いかめ)しい視線も場を緊張させているのかもしれない。

 心配しすぎて仕事が手につかない。

 人形とは別物の扱いに自分でも驚いている。

 こういう自我をもつ部下を得ていた方が良いのだろう。

 忠誠心の欠片もない者は困るけれど。

 単純作業が平気な人材は意外と少ない。

 イビルアイは精神的には人間よりも強固だがゲシュタルト崩壊は避けられないようだ。

 魔力の枯渇は魔法詠唱者(マジック・キャスター)にとっては飢餓状態と同義らしく、判断力が鈍るとか。

 もちろん、個人差はあるだろう。

 ナーベラルの場合は魔力が枯渇すると飢餓には陥らないがめまいは感じるらしい。

 魔力を持たないものには分からない感覚だろう。

 ヤントラの場合は空腹と眠気を感じるのだが今は割りと平気になっている。

 危機的状況でも戦えるように特訓してきたから。

 休めば回復するのだから逃走も手段の一つとしている。

 

 ナザリックの為にアイテムを懐にしのばせるメイドは居なかったが、気にする者は多いようだ。

 これだけあれば、などという小言が聞こえる。

「集めたアイテムの数量は調査しないのか?」

「棚に一杯になってきたら箱に入れるだけだな。希少なものは専用の小さな箱に入れる。そんな程度だ。たくさんあっても意味の無さそうなものは少し処分して金貨の足しにする」

「転職アイテムなどか?」

「そうだね。いっぱいあっても仕方ないだろう」

 ナザリックにも充分な数は送っているし。

「ここにあるアイテムで世界級(ワールド)アイテムは作れるものか?」

「一部のアーティファクトは生産できない。だから、無理だろう。神器級が作れるか、というのならば可能性はあるだろう」

「ん……。了解した」

 世界級(ワールド)アイテムは無理でも神器級は少し希望が持てる。

 ナーベラルの知識では世界級(ワールド)アイテムのことはあまり知らない事になっていた。

 ナザリックが保有している以上の知識も持っていない。

 ウサギ耳を出して色々と訪ねてみる。外部との連絡は出来たのだが、ヤントラは指摘しなかった。

 複製の『伝言(メッセージ)』の事を思い出し、その場に片膝を付いてアインズに謝罪する。

 今回は危険を感じるような複製による実験は無いとは言え、失念していた事を何度か詫びた。

 世界級(ワールド)アイテムについては秘匿したまま。

 調べるべきはデータクリスタル。後の希少金属については保留となった。

 適当な理由をつけて棚にあるアイテムを鑑定してもいい許可を得る。

 意外とあっさり許可が出たのでナーベラルは驚いたが仕事を優先させる。

 一つ一つ鑑定魔法を使っている間に仕事を終えた一般メイド達に移動を命じた。だがすぐに待機に命令を変更する。

 監督役のナーベラルを置いていくわけにはいかないことを思い出したから。

 彼女の仕事が終わるまで、点呼などを取って壁際に並んでいてもらった。

 棚にあるアイテム類の情報をメモし終わった後で次の部屋に移動させる。

 目を離すとアイテムを奪われたり、色々と部屋を荒らし回ったりしそうで気になって仕方が無い。

 冒険も開発も出来ないのではメイドに任せる意味は無い。

 監督役が居ないとアインズは不安に思うのだろう。実際はどう思っているのかは分からないけれど。

 こちらはこちらで将来が不安だ。

 アイテムの部屋以外は特に問題は無いだろう。

 仔牛を生きたまま食べようなどというメイドは居ない。

 培養液に入っている部位が食べたい、と言う者も居ない。

 途中経過の献体を取り出したいとも言わない。

 完成した後は培養液をエクスチェンジ・ボックスに捨てていく。

 元もとの絶対量は増やすべきではないだろう。

 世界が水没してしまうかもしれないから。

 下に降りて、浴槽や献体を洗うべきか考える。

 本来ならアイテム生産を終えた者の処分などをさせたいところだ。

 生きたままよりバラバラにして捨てる方が運び易い。身投げよりは殺した方が精神的にも楽かもしれない。

 気持ちを割り切る上では。

 洗浄作業は献体の数は無限ではないので出来上がった分しか出来ない。

 とりあえず、浴場は保留のまま。

 最後は七の宝物庫の見回りだ。

 以前まで居たメイドは別の場所に待機させて、一般メイドに任せた。

 一日いっぱいは居ないのだから一通りの作業には限界がある。

 ずっと居てもらうことは今は無理。

 泊り込みを許すのはもうしばらく先の事になるだろう。

「作業らしいことはさせられなかったが、感想があればどうぞ」

「で、では、僭越(せんえつ)ながら……。お部屋というか階層全ては回らなくていいのですか?」

「貯蔵庫は掃除するようなところじゃないからね」

「お風呂は贅沢は言いませんが、洗浄ではなく湯浴(ゆあ)みは出来るものなのですか?」

「出来るよ。君たちなら平気かもしれないが、こちら(原住民)の人達は使用方法を聞くと怖気ずく」

「あのあの……。私達の為に無理をされなくてよろしいのですよ。自分達の出来ることと出来ない事は覚えていきますから」

 優しいメイドの言葉。

 自分で命令したものであれば何も感じないだろう。

 ナザリックのメイドはオリジナル体だ。身体は同一でもやはり感情がこもっているように聞こえてしまう。

 それは細かな命令を与えたヘロヘロ達の尽力によるものだろう。

「優しいメイドさん達が欲しいぜ。……と、言いつつも手に入れるとろくに使うことが出来ない事が多々ある」

 ヤントラは腕を組んで唸る。

 欲しい欲しいと思う内は色々と期待するのに、いざ手に入ると何も出来ないことばかり。

 最終的には一人で全部やってしまうという。

 ナーベラルも一時的とはいえ自分の部下にしたのに。

「我々はナザリックに属するもの……。アインズ様のご命令がない限りはバスパ様の所有物にはなりえません」

 メイド全員が頷いた。

「背中を預けられる部下が欲しいのは事実だ。あわよくばくれ、という話しにはならないだろう」

「それは複製をお持ちだから?」

 この言葉にヤントラは首を横に振る。

「人様のものは欲しくなる。でも、自分のものはあまり愛着を感じない。君たちはナザリックに属したままの方が愛着が維持されるような気がする」

「それはまた……」

「さすがは至高の御方々に連なる者……」

「我々のような下っ端には想像もつかない境地でございますね」

「境地と言うか……、変な感じ、というところなのだがな」

 適切な言葉は浮かばないけれど、目の前のメイド達にはまだ愛着があるらしい。それが分かっただけで充分かもしれない。

 延々と感想を聞いているわけにはいかないだろう。

「長居していると裸にしたり交尾実験しそうだから、戻って良いよ」

 ヤントラが喋るたびに唸るナーベラル。

 んっ、んっ、とうるさくなってきた。

「アインズを斬ったり叩いたりしないから、彼女達を連れて行きなさい」

「むう……。そういえば複製をけしかけたりしないのだな」

「あれは本物と偽物の実験だからね。今は作業に集中するだけだ。自我の芽生えの実験は月と往復できるようになってから、……かも」

「了解した」

「最後に皆の尻でも触ろうかな」

 ナーベラルは眉根だけ寄せた。

 女性としての怒りなのか、所属としてなのか、とりあえず不快なのか、判断は出来なかった。

 尻はやめて各メイドの脇や背中を軽く押すような感じて触っていった。

 一人は軽く持ち上げてみる。

 大食漢なのに体重は軽い。

 胃で消えているためかもしれない。

 ナーベラルは鎧がなければ他のメイドと大差ない重さだ。

 戦闘メイドの武具は個性的ではあるが等しく丈夫で、様々な効果が付与されている。

 それから彼女たちを見送り、午後に備える。

 良い案はなかなか浮かばないものだと軽くため息をついた。

 と、その前に一般メイド達に着せられる戦闘メイドっぽい服を考えておかなければ、と楽しみが一つ出来た。

 

『第十二章 新しい冒険の旅』へ続く

 

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