※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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第十二章 新しい冒険の旅
L-1 個人情報


 一般メイド達全員が『マグヌム・オプス』の見回りを終える頃、アイテム生産に集中する。

 箱詰めされたものは地上の大型倉庫に置かれたり、七の宝物庫の地下一階部分の片隅に並べられたりする。

 地下から移動できるようになったので地上の方はリイジー達専用にすることにした。

 いつもはナーベラルだが、たまにソリュシャンが見張りとして現れる。

 気だるげでやる気の無い雰囲気をかもし出すが仕事は真面目だ。

 メイド達を急かしたりせず、淡々と様子を見ていく。

 さすがに階層守護者は来ない。

 充分な献体は揃ったので後は保存していくだけだ。

 モンスターも無難なものは集めていく。

 まだ未調査の地域があるので、そちらにも行ってみたいところだ。

 スフィンクス型。

 和風モンスター。

 未知の種族。

 一番はやはり女体モンスターに行き着くだろう。

 強さ度外視。

 どうしようもない煩悩にまみれたコレクションとも言える。

 アンデッドにも魅力的なモンスターは居るのだが、保存に難あり。

 悪霊とか精霊も居るようだし、一筋縄ではいかない。

 触れることは触れるが。

 

 ある日、浴槽に入っている人魚(マーメイド)型の下半身の鱗をンフィーレアに調査させた。

 やましい実験ではない。

「普通の魚と変わらないようですが……」

 相対的なのか、鱗は大きい。

 生え変わりも出来るようだが、治癒魔法で復活したりするので見も蓋もない事もある。

「人魚(マーメイド)は果たして食べられるのか」

「食べませんよ、さすがに……」

 基本的に調理すれば食べられない事は無い。

「あまり欲望が過ぎると人間まで食べそうで怖いです」

「家畜は平気なのに……」

「……そうですね」

「人間の姿が残っているからダメなんだろう。飛竜(ワイバーン)の丸焼きは平気かな?」

 恐らくは平気だろう。

 毒性が無ければ人間的の無い生き物は食べられるかもしれない。

 抵抗のあるものと無いものは自分の倫理観を疑う。

「じゃあ、食べます」

「無理しなくて良いぞ。その心意気は嫌いじゃないけど」

 鳥型で人(・)間(・)の(・)姿(・)で(・)は(・)な(・)い(・)モンスターを調理してンフィーレアに与えた。

「亜人は人間を食べるようだが、我々はいろいろと食べられないものがある。それは我がままなのか、毒があると本能的に知っているのか……」

「パンだけで生きることは出来ません。野菜も必要です。……きっと我がままなんですよ、人間は」

 食べることにこだわりが無ければ我が子も食料と見なすかもしれない。

 それはとても恐ろしいことだと思う。

 カルネ村で養っている人蛇(ラミア)と人馬(ケンタウロス)も非常時には食べてしまうのだろうか。

 

 鳥や魚は卵を産む。

 人魚(マーメイド)も無性卵を生むことができる。

 出てくる様子は少し恥ずかしいが観察してみる。

 エンリの出産の現場もしっかり見たような気がするが、それはそれとして置いておく。

「卵も食材になるわけだが……。大きいな」

「僕たちは意外と残酷なことをしているようですね」

「食べることをやめるかい?」

 都合のいいアイテムはあるけれど。

 ンフィーレアはちゃんと考え、悩んで自分で答えを出そうとする。

 意地悪な質問が続くが原住民に考えさせる事は決して無駄ではないだろう。

「この卵はそのままだとどうなりますか?」

「このまま腐っていく。無性卵とはそういうものだ。時には栄養補給の為に自分で食べることもあるらしい」

 自分で産んだ卵を自分で食べる。それは残酷ではあるのだが、生き残ろうとする本能かもしれない。

「飢餓は辛いぞ、ンフィーレア君」

「はい」

「せっかく産んでもらったけど、牛に食べさせるか」

 栄養満点の人魚(マーメイド)の卵。

 いかんせんヤントラはそれほど料理が得意ではない。料理が出来るだけだ。

 オートミールと一緒に食べると美味しいんだろう。

 炊飯器で炊き立てのご飯が食べられるはずだが、そういう文化は無さそうだ。

 土鍋釜はあるのでご飯は作れる。

 人魚(マーメイド)が家畜となる日がくるのも遠くないような気がする。

「……こういう研究は精神的に強靭じゃないと続けるのは大変そうですね」

「いやならやめてもいい。ンフィーレア君には酷なこともあるだろう。エロい事は無理矢理が多いけど……」

「……ははは。この人魚(マーメイド)さんは卵生産に使われるのですか?」

「卵が食べられるか、以外はンフィーレア君の好きにするといい。語弊のある言い方だが……」

「はい。では、他の方も調べさせていただきます。……ところで……」

「んっ?」

「モンスターという呼び方ですが、他に言いようは無いものでしょうか?」

 異形種。亜人種。

 女神型。蜘蛛女(アラクネ)型。

 呼び方は様々だが、個人名を付けないのは数が多いからだ。

 元の名前が無いのはオリジナルの存在があるから。

「実験生物に愛着を持つと大変だぞ」

「はい」

 個人名は付けられないが種族名で呼ぼうか、検討する事にした。

 首筋を触っても口の中に指を入れても抵抗しない。

 こちらの命令には従順。

 股間が反応することもあるけれど、真面目に研究することは忘れていない。

 人魚(マーメイド)のほかにも色々な種族は居る。

 女体以外も居る事は居る。飛竜(ワイバーン)と竜蛇(ワーム)。

 ワームは二種類。

 竜(ドラゴン)種とミミズに似た生き物。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あくる日。

「ンフィーレア君。剣を持って」

「はい」

「一体ずつ手足を斬りおとしてみようか」

「分かりました」

 言われた通りの言葉をンフィーレアは言っていく。

「血なまぐさい手伝いをさせる気はないけれど、いずれはこうなる予想はしているのかな?」

「そうですね。言われた通り、人間の素体を切り刻む日も遠くない気がします」

 切り刻むくらいなら異種交配の方がマシかもしれない。

 生まれた子供を処分する事になれば結局は同じか、と色々とンフィーレアは考える。

「研究とは時に残酷な場合があるものですね」

 祖母なら割り切るだろう。

 根っからの研究者だ。

 人生経験も豊富だし、ヤントラのやっていることにいちいち嫌悪感は抱かないだろう。

 危ない境地に陥らないようにヤントラは色々と教えてくれている気がする。それにはちゃんと応えたい。

「そういえば、ヤントラさんはご自分で異種交配はされないのですか?」

「出来なくは無いけど……。他人の行為は大好きだ」

 ンフィーレアは苦笑した。

 ヤントラの趣味はなかなか理解出来そうに無い。

「精神支配しない状態がいいし、拷問は敵にやるのがいい。敵意むき出しの女神はうってつけだろう」

「……そこは容赦ないですよね」

 手心を加えていては発展は無い。

 己の欲望に忠実で決して善人ではない。

 逆らうものには容赦が無いかといえば、そうではない部分もある。

 複製で憂さ晴らし、とも思った事はあるのだが、見ている分には分からない。

 処分するのは仕方がないと心を痛めているような風にも見える。

「性行為と言うか……、性欲にこだわりがあるのは何故なのでしょうか?」

「元から好きだから。端的に言えば、それに尽きる。ただ毎日、朝から晩までとなると飽きるよ。延々と同じ作業を見るのは……。人を変え、種族を変えているってことだ」

 ンフィーレアは苦笑する。

 掛け値なしの変態だと。

「性別を変える方法があるなら、ご自分で体験されたりするのでは?」

「最初はやった。やはり胎児生産がきつかった。嫌がる青年を唆(そそのか)すのが……」

「こら!」

 さすがに、ンフィーレアは今の言葉には怒らなければ、と思い叫んだ。

「もどかしい人間は嫌いだ。私の世界ではそういうタイプが多くてな。やるならやれ」

「強引すぎやしませんか?」

「精神支配しないだけましだろう。まあ、もっとも失望したのは治癒魔法で処女性が復活するところだがな」

「……はは」

「恋愛は否定しないが手ぐらい握れ、と。大人はついついう(・)ぶ(・)な(・)子供に意地悪したいのさ」

 結婚しているから、というわけではないのだが、ヤントラにも人を好きになった時に慌てふためく時代はあった。

 声をかけるのも、触れ合うのも、恥ずかしがる。

 それらは全てエロゲーの存在でぶち壊しになっているけれど。

 冴えない地味な主人公ばかり。

 定型分的なセリフ回し。

 頭の悪そうな女の群れ。

 好きになる要素が全く理解できないのだが、シナリオの都合による強引な展開。

 エロいシーン以外は全く印象に残っていないだろう。

 規制だらけのゲーム。

 フラストレーションは常に溜まる一方だ。

 それらから解放されれば変態も頷けるというものだろう。

 生を謳歌する、ということはどういうことか。ヤントラはただ、それを実践しているだけだ。

 生きる事とは本能に従うことだ。

「程よい頃合だろうから重大な秘密を告げておこうか」

「んっ……」

「エンリには教えたんだったな……。じゃあ、まずは狭い個室に行こうか青年」

「……ひぃ」

 ンフィーレアを半ば強引に引っ張り、手近な隠し部屋に入る。

 隠し部屋の中は穴が空いている椅子と桶が置かれていた。

 主にトイレ用。

 メイド達はずっと待機しているわけではなく、定期的に交代させている。

 身体が硬直しないように、という配慮だ。

 寝床は一の宝物庫の一室。ベッドと替えの制服がサイズ毎に用意されている。

 今は転移での移動を可能にしているので瞬時に部屋に戻っていく。

 一人で待機するほど広くも無い部屋に連れ込んだ後、ヤントラは自らの生い立ちや正体などをゆっくりと告げていった。

 驚かれたり、泣きそうな顔にはなるが聞いてもらった。

 残るは真蒼の薔薇だけかもしれない。

 秘密が無くなれば楽しみが無くなるものだ。

 それで離れてもいいし、これまで通りの付き合いをしてもいい。

 決めるのはンフィーレアだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 また別の日に『真蒼の薔薇』全員を招いた。

 総合的な実力では王国一。

 個人戦闘力も高く、正しくアダマンタイト級に相応しい実力者たちだ。

 だが、それでもヤントラ個人を倒すのは大変だろう。

 対人において殺すことに特化した厄介な敵だから。

「今日は複製以外は君たちしか居ない。徹底的な情報統制も施してある。いよいよ、君たちを口封じする時が来たな」

 と言うとティア達とクレマンティーヌは笑った。

「ご主人……。時と場所を選んではどうなのだ?」

「……発表する場は苦手でな。悪役っぽい方がいいかと……」

「……もう」

 ラキュースは呆れた。

 ヤントラの言葉が冗談なのは月に連れて行くメンバーが居るからだ。

「まずは……。既に見えている包みからだ」

 発表する上でいくつか用意した物を紹介していく。

「これで私の秘密は出し尽くすが……。だからといって私は今まで通りだ」

 この言葉に頷いたのはラキュースだけだ。

 それから包みにかけられている布を取ったりしながらヤントラは解説するように自分の事を伝えていく。

 そこに冗談は無い。

 遺書というわけではないのだが、いずれ伝えたいと思った自分の事を言えるだけ説明する。

 それはアインズに伝えたことと変わらない。

「……なるほどねー。真蒼の薔薇のメンバーに相応しいね」

「……色々と驚いているぞ、ご主人。……それは何で出来ているんだ?」

「石。浮いているのは『懸架(サスペンション)』をかけた金属板を仕込んでいる為だ」

 メイド達に道具を持たせて正確に削りだしてもらった。

 雰囲気のためだけに複製を使うのは嘘っぽいからやめた。

「旦那さん、というのも変なのかな?」

「今まで通りで良いよ」

「……いや、まあ……。なんだ。……魔法って便利だな」

 ガガーランは懸命に考えたが魔法しか出てこなかった。

 生い立ちは過酷だったかもしれないが、同情してほしい為に伝えたわけではない事は理解出来た。

 己の不幸を自慢しようとは思っていないだろう。

 ただ、仲間として教えたかっただけだと。

「そんな人間なのに強いのが不思議ー」

 クレマンティーヌの疑問に誰もが頷く。

 ヤントラはなぜ強いのか。

 鍛錬を積んだ自分たちを軽く凌駕しているのだから、強さの秘密は是非にも知りたいところだった。

 それがパワーレベリングと呼ばれるような大量のモンスターを倒すことなのかもしれないのだが、ふに落ちない。

「経験値はクラスに割り振らないといけない。君たちは積んだ経験値をクラスに割り振って強くなっている。溜まるだけでは強くはなれないさ」

「うー……」

 どうやって割り振るのかが彼女達の疑問だ。

 魔法の習得も簡単に出来るわけがない、というのが今までの常識だった。

「君たちが獲得した知識まで否定しようとは思わない。戦い方次第では、と言いたいところだが越えられない壁と言うものがある。一定の強さはやはり必要だろう」

 無効化系のスキルというか特性だ。

 圧倒的な敵と戦うには一定以上の強さが最低限必要だ。

 良い武器を持っていても持ち主が弱いと効果は期待できない。

「イビルアイがどうして強いのか……。そこに至るまでの研鑽(けんさん)は無駄ではない。私のは効率的な方法に過ぎないさ。クレマンティーヌも実力が拮抗(きっこう)する相手が千人ほど襲ってきたら困るだろう」

「全員が強者だと仕事がやりづらいよねー。なるほどー」

 安易に人が殺せなくなる。

「旦那さんは私達を強くしてくれたけれど、何か期待することとかあったの?」

「仲間を引き連れて冒険の旅。……と思ったんだけどね」

「……強いモンスターが居なくてごめんねー」

 ティナは王国に変わって頭を下げた。

 竜(ドラゴン)級が多数徘徊するような地獄絵図でも想像していたのかもしれない。

 村を帝国兵士が襲うような混沌とした世界など。

 だが、実際は戦争を抜きにすれば脅威と呼べるようなモンスターは殆ど居ない。

 実力を発揮(はっき)できないから棒で叩く程度のような簡単な討伐になってしまう。

 巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)をかなり倒したとイビルアイから聞いていたが、ヤントラから見れば雑魚モンスターだったのだろう。

 槍使いの女の方が驚異的だったというし。

 イビルアイが苦戦するほどなら自分たちは更に苦戦する。というか勝てるのか不明。

「竜(ドラゴン)も雑魚モンスターとは……」

「究極的に強いモンスターは居ました。三十体ほど。そのどれとも戦う資格はありませんでしたが……。私でも苦戦するかもしれませんね」

 ワールドエネミーは通常のモンスターとは段違いに強化されている。

 一人で戦えるほどには甘くない、らしい。

 戦う資格はパーティを組むこと。だからヤントラは不適合だ。

 あえて、他に浮かぶとすれば『レイドボス』と呼ばれる驚異的な能力を持つボスモンスターたちだ。

 

 一通り話し終えて質問にも答えれば終了だ。

 ラキュースには聞いていた以上のことは無く。

 それぞれ複雑な表情を浮かべていた。

 変態は元々だったらしく、人生とは関係が無くてむしろ安心した部分だった。

「私の気持ちは変わらないから」

 と、ラキュースは言った。

「……ルリマリスは期待を裏切らないな……」

 ずっと顔を青ざめさせている。

 ちょっとでも怖い雰囲気でもルリマリスは顔を青ざめるんじゃないかとさえ思う。

 人間を食べる。実は変身できる異形。などという事は無かったのに。

 秘密を知ったから殺す、という事でもないだろう。

「君は私が農業が大好き、と言っても顔を青くしそうだね」

「い、いいえ。そんなことはありませんよ。色々とびっくりしているだけです」

「君に無茶な要求を出した覚えは無いのだが……。元々、苦手なのか? 暗い話しとか」

「そ、そうかもしれません」

「躍ってる時は笑ってるのにな」

「世界を滅ぼすのは本意ではないから、それらに関連しそうなことは秘密のままにさせてもらうよ」

 クレマンティーヌは少し不満げだったが他のメンバーと共に頷いた。

「気になる事は答えよう。代わりにこちらは何も聞かない」

 それは対等ではない、という意味になる。

 それぞれ人には言えない秘密を抱えているものだ。

 それに配慮しているのかもしれないし、対等ではない事を理由に秘密を保持する理由にするつもりかもしれない。

 個人個人なら秘密も暴露するけれど、メンバー全員に言うのは恥ずかしい、ということもあるだろう。

 それぞれ疑問は出なかった。ただ、ヤントラは少し意外だと思った。

 多少の差はあるけれど、それぞれ覚悟を決めたような顔つきだ。

「目的というか、月に行く予定だが……。未来の発展という望みも悪くは無いだろう」

「文明を発達させる……。元の世界に戻りたい……、あ、いや……」

 愚問をつい口にしたイビルアイ。

 聞いている側から失敗してしまった。

 ヤントラは元の世界には戻らないし、戻れないだろう。

 既に死人も同然なのだから。

 この世界で楽しく生きることこそが目的と言っても過言ではない。

 精神が消滅する時まで。

「百年くらい眠っていれば自然と世界征服が終わって平和になっているかもよ」

「未来世界がひどいことになっているのは見たくないな……。特に手の施しようがない場合とか」

「我々の子孫たちが頑張るでしょう。または子孫たちが世界を滅ぼすか……。それはきついわね」

「生きている限りは国を守るよ」

「左に同じ」

「前に同じ」

「背後に同じ」

 と、メンバーはそれぞれ言った。

「それは頼もしいな」

「旦那さんは子孫についてこだわりはないの? エロいことばかりに見えるけど」

「元気に健康的に育てば良いよ」

 健康へのこだわり。

 それも話しには出ていたが色々と納得することがある。

 どうして酒が苦手なのか。

 子供へのこだわりがないのは子育て経験が無いからだ。

 謎が解明して人となりが判明する。それでも疑問がある。

 強靭な精神力など。

 生まれながら身に付いたものではなく、自分たち同様に鍛錬してきたことかもしれない。

 楽して強くなれるわけが無い。

 ただ、楽なように見えるだけだ。

 

 自分の生い立ちを話し終えて数日が経過したがティア達やイビルアイ、クレマンティーヌの態度はいつもと変わらない。それはそれでありがたかった。

 ただ、信じられない事を聞いてすぐに納得は出来ないだろう。

 アインズでさえ出来なかったのだから。

「肩の荷が下りたな」

「軽くなった後は何かを始めるのか?」

 イビルアイは尋ねた。

「いつも通りです」

「そうか。こちらもそれぞれ考えていたみたいだが、すぐに自分達の仕事に集中していた」

「そうですか。……ルリマリスは?」

「リリーはいつも通りだ。顔が青くなりやすい体質かもしれない。色白だし」

 透き通るような白い肌の森妖精(エルフ)。

 顔立ちは美人なのに性格が気弱で心配になってくる。

 長い奴隷生活と言うのは大変なようだ。

「他の竜(ドラゴン)を探してこようかな。女体ばかりでンフィーレア君を悩ませて申し訳ないが……」

「健全な青年はイジメがいがある」

 気持ち悪いモンスターはイビルアイも苦手だ。敵は倒すけれど。

 呼べば出てくる多種多様な女体モンスターのメイド。

 必ず揃っている、というわけではなく、処分されていれば出て来ない。

 今日は人蛇(ラミア)型が現れた。

 人魚(マーメイド)だと床を這うように現れるらしい。水辺の生物なので陸上での活動が苦手。

 メイドという仕事に慣れていないのか、理解できないのか、扉に尻尾を挟んだりする。

「器用に動くが腹筋の発達が良いのだろうな」

 上体を起こしたまま移動するのは大変だろう。

 蛇ならば腹ばいで移動するものだ。

 モンスターとしては醜い種が居てもおかしくない。

「他人の身体は魔性だな」

 呼び出したメイドを魔法の標的にしたりはしないが、自由に触れられるのは魅力的だ。

 鼻を削いだりしそうなので危険な行動に出ないようには気をつけている。

 ナザリックから来るメイドも面通しは終わっているが、こちらは素直に言う事を聞かない。

 当たり前なのだが、それはそれで新鮮な気持ちになる。

 ヤントラがオリジナルにこだわる理由が感覚的には理解出来た。

 複製だけではダメだと。

 そのメイドは胸は触っても良いが服は安易に脱いではいけないと命令を受けているらしく、拒否してきた。

 風呂の場合は個人で判断するように言われている。

 命令だけではなく、個人でも判断できる。

 イビルアイの命令は聞けないがヤントラの命令は聞いてしまうという。

 至高の存在の立ち位置は彼女達にとっては物凄く大事な問題なのだろう。

「一緒に風呂に入る時はお互い裸ですよ」

「それはそうだが……。命令遵守だけではないのだな」

「自我を持つ者は思考が柔軟なんですよ。こちらはまだどうなるのか分からないので心配なんですけどね」

 自我を与えることは基本的には不可能である。

 そもそもNPC達が自我を持って行動するのは想定外だ。

 反乱に類する事柄が無いのが今のところ救いだろう。

 主へ反旗を翻すことも本来は想定されるべき危惧だ。

「命令を受け付けない所はドキリとさせるな」

「所属の違いもありますし。適度に本物に触れ合う大切さが分かってくれたかな?」

「ああ。確かに、これは……。精神的に落ち着く方法としては正しいだろう」

 複製だけではダメな理由。それは培養目的以外にもあった。

 想定外の行動もまた思考の手助けになる。

 全てが自分の思い通りでは、自分の想像を超えた事に対処しにくい。

 その為には思い通りにいかない事も許容する必要がある。

 今回来てくれたメイドは三人。

 仕事の都合で人数はまばらになっていた。

「変な命令は聞かないと思うけど……。手を使わずにご飯を食べろとか」

「……あー、はしたない食べ方をしろ、ということですね」

「……ご命令ならば従うのみ」

「いいっすよ」

 と、気前のいいメイドが最後に答えた。

 メイドはそれぞれ個性が与えられているので返答は色々と違っている。

「ならば主が死ねと言ったら死ぬのか?」

「それがナザリックの為になるのならば」

「……いきなりはちょっと……」

「アインズ様は安易にそんな命令はしないと思う」

 と、三人が答えている後ろから戦闘メイドの一人、ルプスレギナが姿を見せる。

「冗談かどうかは聞きなおすっすよ」

「本当か?」

「自害の命令をしないとしても甘えてはいけないことは分かっているっす。支配者は冷酷な判断を取らなければ部下に示しがつかないこともありますから」

「エロい命令はどうかな?」

「……内容によるっすね。ある意味、公開処刑並みな気が……」

「では、そこで両膝を着いて自分は人猫(ワーキャット)だ、と言う刑はどうかな?」

「……それ、前にやったやつっすね。異形種の尊厳を踏みにじるような事はさすがに……。追い詰められたらやるかも……」

 冗談でやる場合はヤントラと二人っきりの場合がいいとルプスレギナは言った。

 一般メイドが見ている前では抵抗を感じる。ただし、それがナザリックであれば命令を遵守しようとするかもしれない。

「このメイド達は四十人全て同じ種族なのか?」

「四十一人です、イビルアイ様」

「ん……、それは失礼した」

「全員同じっすよ。違う部分は顔や体つき。性格も微妙に違うみたいっす」

「人蛇(ラミア)とか居るのかと……」

「それはこの施設だけじゃないっすか。ナザリックは全てのモンスターを所有しているわけじゃないっすよ。数は多いけど」

「お前達は命令に従順な人形たちではないのだな」

 イビルアイの言葉にメイド達は苦笑する。

「こちらでのメイドの定義は詳しくは存じませんが、我々は与えられた命令を忠実に実行するのみでございます」

「無茶なご命令に反論することもあります」

「メイド達の扱いはナザリックでは丁寧な方だよ。小間使いに盆を投げつけたりしない」

「こちらでは躾けと称して扱いが酷いやからが居るというのに」

「アインズ様はじめ、我々に暴力を奮われる方は殆どいらっしゃいませんよ」

 無抵抗のメイドばかり相手にしてきたのでイビルアイは抵抗するメイドの扱いに困惑していた。

 腕に触れると顔を向けてくるのは変わらない。ただ、服を脱がそうとすると抵抗する。

 力は弱いのだが意志は強そうだ。

「面白くてもあげられないっすよ」

「いや、反応が新鮮で……」

「無抵抗はこちらも色んな反響があったっすけど……。自我の無い存在と言うのは時限爆弾みたいで怖いっす」

「爆発はしないけどな。そろそろメイドさん達は見回りに行ってもらおうか」

「畏まりました」

 三人揃って丁寧にお辞儀する。

 統制の取れた反応にはイビルアイも固唾を呑むほどだ。

「一人だけ下半身丸出しで行ってみようか?」

「……メイド苛めはダメっすよ。わりと酷いっすね、バスパ様は。時々、容赦の無いところは好きっすけど」

「一人だけ四つんばいで……」

「……シュールなことがお好きとうかがってましたが……、メイド達には普通の命令で。後で怒られるの嫌っすよ」

 ルプスレギナが頬を膨らませたのでヤントラは諦めることにした。

 可能ならばとことん突き進む分、ちゃんと断らないと危険だ。

 一度、狙われたら絶対に下半身丸出しで歩かされるだろう。

「……そういえば、この施設って裸で歩いてもいいように作ってるんすよね」

「煩悩を具現化しただけだよ」

 ルプスレギナは三人のメイドを素早く移動させていく。

 残っていたら何をさせられるか。

 今回はアインズからの命令があるので絶対に守らないと説教を食らってしまう。

 前回までのメイド達に裸になるような事は屠殺場と浴槽の掃除以外では起きていない、という報告があった。

 ナーベラルが厳しい目で見張っていたから、というのもあるだろう。

「煩悩っすか。裸の女を壁に飾ったりはしないんすね」

「生き物は長く放置すると腐るから」

 皮を飾る気は無いので剥製にしたりもしない。

 出来ない種族も居るので。

「並べるだけなら出来なくは無い。それは月に行った時にやろうかなと……。ここはまだ王国の領地だから無茶なことをすると抗議を受けてしまう」

「……ご主人、表に出して騒がれたら没収されるかもな」

「王国の領地だから自重してるんすね」

「……帝国の領地でも小言は言われると思うがな」

「別に人間標本を作る為に作ったわけじゃないからな。個人的に使える保管庫から始めた。……なのに個人的に使えていない……」

 気がつけば色んな人間が利用を始めている。

 イビルアイもンフィーレアも。

 一人だと寂しいから、という理由があったような気がするけれど。

 ルプスレギナはメイド達の監督も言いつけられていた事を思い出し、一礼して出て行った。

 残ったイビルアイ達は苦笑する。

 

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