※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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L-3 『美姫ナーベ』対『ナーベラル・ガンマ』

 次の試合の解説が入る。

 連戦するわけではないようで違う冒険者とモンスターが戦うことになった。

 ミスリル級の冒険者チームと妖巨人(トロール)五匹。

 持っている武器次第では苦戦する相手だが、再生力の強い妖巨人(トロール)は火や酸が弱点となっている。

 いくら再生力が高くてもダメージは蓄積する。

 生命力を失えば死ぬ。

 魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居れば負けない相手だ。

 戦闘のルールとして転移や飛行が厳禁となっているらしい。

 盛り上がりに欠けるから、だとか。

 それらの解説はクレマンティーヌがしている。

 潜入捜査の都合で得た知識らしい。

「私の……前のスティレットに仕込んだ『火球(ファイアボール)』とかを発動すれば倒せない相手じゃないよ。確実にトドメに使わないとダメだけど」

 戦士系では相性はあまり良くない妖巨人(トロール)だが、戦うからには勝つ方法は身につけておいた方がいい。

 いくら妖巨人(トロール)とて頭を潰されれば動けなくなる。

 殺さなくても命令中枢を叩く事で勝利を得ることも可能だ。

 粘体(スライム)系はまた違う戦いになるだろう。こちらは戦士には分が悪い。

 ケガ人は全て病院に運ばれて治療を受けられることになっている。

 定期的に皇帝が慰問にやってくるとか。

 一国の主は行事がたくさんあって仕事が山積みだ。

「あーもう。今のは武技で避けられるところだよ」

 と、少しずつ興奮してきたクレマンティーヌ。

 自分だったらこう攻める、みたいな想像が頭の中に浮かんでいるのだろう。

「……ったく、受け流しも出来ないのか」

 白熱する試合に観客は大盛り上がりだ。

 闘技場の規模から高位モンスターとの試合では観客に被害が出るかもしれない。

 弱いモンスターとはいえ白熱差はあまり変わらない。

 普通に考えてたっち・みーなどの試合であれば国が吹き飛ぶほどになるのかもしれない。

 超位魔法とか飛び交うだろうし。

 何度世界が滅びることになるんだろうな。

「やっと勝った……」

 二人ほど重傷者を出したようだが、妖巨人(トロール)は全滅。

 楽な試合ではなかったようだが、ミスリル級は意外と弱いのかな、と思った。

 妖巨人(トロール)が五匹では苦戦しても仕方が無いか。

 遠めだから何妖巨人(トロール)か分からないが魔法は使っていないので普通の妖巨人(トロール)かもしれない。

「白熱した試合でした。続きまして、次の試合は異色の組み合わせとなっております! まずはアインズ・ウール・ゴウン魔導国より来て下さいました……。えー、役職が……、戦闘メイドで合って……。あ、はい。了解しました。戦闘メイド『プレイアデス』の一人『ナーベラル・ガンマ』様でございます」

 ヤントラは思わず吹き出した。

 紹介された後で片付けの終わった闘技場に戦闘メイドのナーベラルが現れる。

 その姿を見た観客たちが『美姫ナーベにそっくり』や『ナーベ本人?』と言い出している。

 どよめきは広がっていく。

「対するはアダマンタイト級冒険者『漆黒』の美姫ナーベ!」

 紹介が終わった後で選手の出入り口からは粗末なローブをまとう美姫ナーベと思われる人物が出て来た。

 遠目では両人共に本物に見える。

 顔はそっくりだ。というか本人なのだろう。

 珍しいことがあるものだと他人事のように思った。

「お二人は姉妹ではなく、別人ということです。いやー、本当によく似ていますね」

 と、城内に響き渡る進行係の声。

 大きな声はマジックアイテムによるものらしい。

「これは見物だわ。ナーベとナーベラル。名前が似ていると思ったら顔までとは」

 クレマンティーヌは楽しそうに言った。

 対するルリマリスは顔を青くする。見つかってはいけない人が居る、というような感じだ。

 ただ、ルリマリスは別にナザリックから逃げ出したわけではなく、合法的に外に出ても良い許可を得ている。

 ヤントラと行動をしているので、バハルス帝国に居ても咎められる筋合いは無い。

 それでもナザリックの者はトラウマのように怖いのかもしれない。

 実際には暴力に類する拷問などは受けていないのだが、生来の性格かもしれない。

 お互い一礼した後、鐘が鳴らされる。

「〈雷撃(ライトニング)〉」

「〈雷撃(ライトニング)〉」

 互いに魔法を放つが激突後に消えてしまう。

 第三位階の魔法の打ち合い。それはなかなかお目にかかれないものだ。

「〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉」

 剣を抜き放ち、魔法を唱えるナーベ。対するナーベラルは直立不動。

 卑怯な攻撃方法で無ければ魔法やマジックアイテムの使用は許可させている。

 ナーベはスクロールを出して、燃やす。

 ナーベラルは持ち武器である笏を地面に突き刺し、手を合わせるように叩く。

「〈魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)・連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)〉」

 両手に電撃を纏わせる。

 『連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)』は第七位階の魔力系の魔法だ。

 人間を遥かに超越したものが扱える領域の魔法。

「〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉」

 冷静にナーベは魔法を唱える。

 第三位階の『次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)』は簡易的な転移魔法で逃亡用に使われたりする。

 それはあくまで一例。

 使い方次第で相手との距離をつめることも可能。

 移動先はナーベラルの真後ろ。相手が行動を起こす前に右腕の間接部分に剣を突きたて、再度移動する。

 とにかく刺されば良かった。

「!?」

 両手が塞がっていたナーベラルに剣を引き抜くことは出来ず、魔法の片方が剣に反応して爆発。同時にもう片方はナーベに襲い掛かる。

 『龍雷(ドラゴン・ライトニング)』のように貫通力と追尾が備わっているので閉じられた闘技場で逃げ切るのは不可能だ。

 それでもナーベは慌てずに手甲を前に出した。

 それはアダマンタイト製のガントレット。それも一回り大きなものだ。

 襲い掛かってくる電撃の龍を掴むように捉えた瞬間に『次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)』を唱える。

 次に現れたのはナーベラルの懐だった。それも『連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)』ごと。

 帯電したままのガントレットでナーベラルの腹に一撃を入れると爆発が起こった。

 双方爆発に巻き込まれ、壁まで吹き飛ばされる。

 ナーベは片腕を損壊。

 ナーベラルは上半身の三分一が砕け散っていた。それだけではなく、中央付近には倒れこむナーベラルの下半身が置き去りにされている。

 双方スクロールを出して治癒を始めるが酷い戦いになっていて、観客は静まり返っていた。

 人間の戦いではない。

 誰もがそう思った。

「相打ち覚悟で望むなら……。今の戦いは悪くは無いか……」

 その前に転移禁止ではなかっだろうか、と他の観客が言い出した。

 『無効試合じゃない?』など聞こえてくる。しかし、試合は中止にならないようなので続行のようだ。

 止められる雰囲気ではないのかもしれない。

 ようは面白ければいいのだろう。

 離脱が早ければ損傷も少なく済む気もするが出来ない場合もある。

 装備を残して転移が出来なければ仕方がない、とも言える。

 ナーベは自分の剣を探したが今の爆発で砕け散ったらしく、地面に柄が転がっていた。

 仕方が無いので相手の笏(しゃく)を引き抜き、駆け出す。

 力任せにナーベラルの頭を何度も強打する。

 五回目でひっくり返ったり、回転などを加えて避けていく。

 損傷が大きいので治癒に時間はかかっていたがナーベラルは健在だった。

「あれだけの攻撃を受けて戦うとは……。やるねー。私ならとっくに死んでるかもー」

 特に下半身が吹き飛んでたら人生あきらめてるかもしれない、と思った。

 治癒する方法が無ければ戦闘継続はとても困難だ。

 二人の攻防に観客席から歓声が上がり始める。

 ある程度の再生が終わったナーベラルは倒れている下半身に向かって飛ぶ。そして、ナーベの攻撃を避けつつ防具を取り外していく。

 治癒された下半身は裸状態なので早く着替えなければみっともないからだ。

 合間に『雷撃(ライトニング)』で牽制していく事は忘れない。

 打ち捨てられる残骸は壁際に投げ捨てられ、魔法で焼かれていく。

 再生が終わったとはいえ出来たての足では素早い動きは出来ないのか、すぐに転んでしまう。

 膝を着いても戦意は無くさない。

 戦闘メイドの意地にかけて。

 対するナーベも戦士として目つきを鋭くしていた。

 先ほどの攻撃でもガントレットは無事だった。中身を引きずり出して投げ捨てる。

 ナーベラルと同様に魔法で黒焦げにする。

 二人の戦乙女が見つめ合う。

 ナーベラルは地面に手を着いて、反動を利用し『飛行(フライ)』で体当たりを敢行(かんこう)する。

 それを迎撃するナーベ。

 ガントレットの一撃を受けて吹き飛ばされるナーベラル。だが、それで相手に時間を与えてしまったことに気付き、軽く舌打ちする。

 すぐに駆け出すがスクロールを使われた後だった。

 ナーベは魔法を発動し、駆け出す。

「……この下等生物(プラナリア)がぁ!」

「ほざけ、下等生物(ホタルイカ)!」

 ナーベラルの手甲とナーベのガントレットが交錯し、互いの顔に当たる。

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)・雷撃(ライトニング)〉!」

 一呼吸早く叫んだのはナーベだった。

 打ち込んだガントレットから魔法がほとばしる。

 咄嗟に顔をずらそうとしたが魔法の方が早く、頭部が砕けていくナーベラル。

 そんなことで死ぬような戦闘メイドではない。

 後方に吹き飛ばされる勢いを利用し、地面に落ちている笏(しゃく)を拾い上げる。

 平気ではないが戦えないわけではない。

「頭が吹き飛んでも戦うの、あの人? すごいねー。……というよりどっちが本物?」

「肉体的にはどちらも本物だろう。これは見分けるのが難しいね」

 双方共に性格付けがされている。

 それはつまり両方偽物という線が無難な答えとなるだろう。

 無理して危険な手段をとるよりは安全策を選ぶのが最善だからだ。

 そして、彼女たちが別人である演出としては打ってつけとも言える。

 問題としてはどう決着をつけるかだ。

 片方を殺しても、両方相打ちでも不味い。

 ナーベラルを降参に追い込めば無難な解決といえるだろう。

 ヤントラの予想を裏切るようにナーベラルは笏(しゃく)をナーベに投げつけた。

「〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉」

 ナーベが笏(しゃく)を避けるのと同時にナーベラルの魔法は発動する。

 姿が掻き消え、現れる頃には投げた笏(しゃく)を自分で受け取り、思いっきり横殴りする。

 ボキボキと色んな骨が砕ける音共に身体が折れ曲がる。

「〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉!」

 ナーベが苦悶の声を上げるのと同時に魔法も飛んできた。

 避けようがない。至近距離で攻撃をまともに受けてはひとたまりも無いだろう。

「んー、勝負あったかな」

「どうかな」

 自らの腕を犠牲にし、魔法を封じる。

 ナーベは主の為に死ねる存在だ。敗北など露(つゆ)ほども思っていない。それは当然、ナーベラルも一緒。

 ガントレットは雷に耐性を持っているようだが、完全には相殺できなかったようで、中身である腕はボロボロに砕け散った。

 最後の一撃としてナーベラルの拳がナーベの顔に再度打ち込まれる。

 拳での攻撃にお互い特化していないので、この攻撃で頭を砕くことは出来なかった。

 自然と客席から拍手が起こる。

 人体を損壊するような戦いなのに。

 それは強い戦士に向けられた祝福のようだ。

「いいぞ、二人共ー!」

「すげー!」

 一気に興奮する観衆。

 先ほどまでの静寂が嘘のようだ。

 第三位階のナーベと第十位階のナーベラルでは圧倒的な差があるはずなのだが、互角を演じている。

 それは少し茶番じみていた。

 物理攻撃を無効化するスキルはお互い持っていないのか、使っていないのかは分からないが、どう決着を見るのだろう。

 お互い治癒魔法をかけて体勢を整える。

「……ねえねえ、あの二人は魔法詠唱者(マジック・キャスター)なの?」

「そうだよ」

 というよりナーベラルの複製を渡した覚えがあったのか、どうかが思い出せない。

 強引に入手したのか、警備の穴をついたのか。

 ナザリックの複製は一の宝物庫に大切に保管されているので七の宝物庫には置いていない。

 メイドの見回りの隙をついたのなら、誰かが飛ばされている可能性もあるかもしれない。

 黒髪ということは未設定の献体だ。

 あるいは本物とパンドラズ・アクターという線もある。ただ、それにしても凄惨な戦い方をさせるだろうか。

 後で確認しなければならないだろう。

「武技をどうして使わないのかと思ってさー」

「……使えないんだよ、きっとね」

「あららー」

 武技を使えばもう少し戦闘が白熱したものになるのに魔法による攻撃が主体で破壊力に欠ける。

 クレマンティーヌの目には魔法だけが特化した歯がゆい試合だった。

「あのナーベラルってもしかして弱い?」

「……んー、そんなことはないけど……。周りに被害が出来るから気を使っているんだよ」

 レベルは既に七十を超える戦闘メイドが弱い訳がない。

 NPCなので超位魔法は使えない。

 周りの目があるので大技はなかなか使いにくいのかもしれない。

 手の内は試合ごときで明かすほど単純ではないだろう。

 同時にナーベも同じはずだ。

「乱入しようか?」

「面白そう。でも、怒られるよ、絶対」

 笑いながらクレマンティーヌは答えた。

 お互い身体の修復が終わり、ナーベ達は戦闘態勢に入る。

 ナーベラルは笏(しゃく)を消し、代わりに一本の剣を出現させた。

 赤い刀身。うっすらと炎がまとっているように輝いている。

 対するナーベはボロボロになった外套に手を入れて新たな武器を取り出す。

 鞘から抜き出したのは漆黒のチーム名に相応しい黒い刀身の両刃の剣だ。

「〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉」

「〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉」

 共に同じ魔法を唱えていく。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)らしく様々な魔法を駆使するのは一つの醍醐味だ。

 派手な魔法といえども観客席まで届くような大規模魔法は危険極まりない。

 試合形式に乗っ取らなければ両者の敗退もありえる。というか、すぐに中止しないと客に犠牲が出る。

 ナーベは軽く息を吐く。そして、駆け出す。

 迎えるナーベラルはその場から動かない。

 相手の動きを読み、剣を奮う。

 ナーベは相手との打ち合わせはせず、直接胴体を狙った。

 だが、相手の攻撃はそれで止まるわけが無い。

 肉を切らせて骨を絶つ、という言葉があるように犠牲をいとわない攻撃が繰り出される。

 ナーベの肩口に深く剣は沈みこみ、確実に腕は断ち切れる。だが、同時にナーベラルの肉体は下から上に斜めに切り裂かれていった。

 武器が良いのかナーベラルの防具を切り裂く剣。

「……良い武器だ」

「……黙れ、下等生物(オオヒラタクワガタ)……」

 誉めたのはナーベラル。軽口はナーベだ。

 ナーベラルの上半身が地面に落ちるのとナーベの腕が落ちるのは同時だった。

 とはいえ、ナーベラルにはまだ剣を持つ無事な腕がある。

 勝負がついたように見せかけて一閃を加え、ナーベの両膝を切り裂く。

「……ぐ」

 倒れる前に地面に手を着き、何とか相手から離れるナーベ。

 万全の勝利は簡単ではない。

 手足が転がる残酷な戦いだが、観客の殆どは悲鳴を上げつつも釘付けになっていた。

 戦いを諦めない戦士の姿を焼き付けるように。

「……これでは勝負がつかないな」

 両方共に負けず嫌い。

 再生を繰り返すことになれば手段を失うまで続けるしかなくなるだろう。

 それこそ頭を潰すまで。

「……えー、これ以上の戦闘はお客様には酷だと判断し、引き分けとさせていただきます」

 という進行係の声が聞こえた。

 双方に係りの者が近づき戦闘の終了に同意するか尋ねる。

「……異論は無い」

「また遭いまみえよう」

「冗談じゃない」

 と、色々と言い合いながら担架で運ばれていく。

「……少し乱入するよ」

「了解」

 ヤントラの言葉にクレマンティーヌは即座に頷いた。

 客席から試合会場に一足飛びで降り立ち、周りを見回す。

 散らばる肉片。

 ナーベラルがまとっていた防具の残骸。それは鑑定で正体が判明する。

「ふむ」

 得体の知れない人間が何をしているのか、観客は混乱し、どよめく。

 ヤントラが客席に向かって合図を送ると控えていたメイドが軽く頷き、手を掲げる。

 その合間に防具類を集めて中身は地面に落としていく。

 係員を呼びつけて防具と『大治癒(ヒール)』のスクロールを数枚、双方に引き渡すと同時にヤントラの側に青色の粘体が現れる。

「粘体(スライム)!?」

「どうしてこんなところに」

 と、見ている客が驚くが青色の『蒼玉の粘体(サファイア・スライム)』は会場に散らばる肉片類を取り込んで掃除していく。

 綺麗になったところでヤントラが合図すると粘体(スライム)は消えた。

「失礼した」

「い、いえ……」

 ヤントラは『飛行(フライ)』で客席に戻る。それからメイドに色々と命令を与えておく。

 数分間の沈黙。

「……えー、失礼しました。で、では、気を取り直して……。本日最後の試合は闘技場の覇者『武王』との一戦です! 準備に少々お時間を頂きますが……」

 進行と同時に会場に係りの者が現れて整地作業を始めていく。

 ヤントラのお陰で肉片類が落ちていないので壁にかかった血などを拭く程度で済んだ。

 壊れた箇所はどうしようもないので放置されていく。

「準備が終わったようですね。では、改めまして。我らの英雄『武王』の入場です!」

 紹介が終わった後で選手の出入り口から現れたのは丸い図体の戦士。

 屈強な防具で身を包み、中身は分からないが人型だ。

 人食い大鬼(オーガ)が全身鎧を着ているようなイメージ。

 背も高く、武器は丈夫そうな金属の棍棒。

 ただし、武具は金をかけて作られたと思われる優秀な一品ばかりだろう。

 粗末な要素は皆無だ。

 重厚な鎧に包まれているが中身は当然、鍛え上げた肉体が詰まっていることだろう。

 太い武器を片手で振り回す腕力からは人食い大鬼(オーガ)を凌駕するのではないだろうか。

「そういえば、見ただけで相手の強さとか分かる?」

「いや。実際に戦わないことには分からないな。あるいは戦っているところを見るとか」

 ユグドラシルというゲームではエネミーの名前の色などで大体の強さが分かったりしたものだ。

 今は調べる手段が限られていてすぐには判明できない。

 名前にワールドを冠(かん)していればだいたい最強というイメージはあった。

 ワールドチャンピオン。

 ワールドエネミーなど。

「対する挑戦者は~! 噂に名高い御仁が来てくれました~! 魔導国国王アインズ・ウール・ゴウン陛下です!」

 会場が一気に静まり返る。

 熱気が一気に冷めると滑稽なのだが、ヤントラは闘技場の様子は殆ど知らないので首を傾げるだけだった。

 紹介を受けた後で対面から骸骨の頭の挑戦者アインズが現れる。

 いつもの重々しいローブ姿ではなく簡素な服装に杖を持った状態だった。

「国王も参加出来るのか?」

「……さあ?」

 城内がどよめきだし、ルリマリスも顔が真っ青だった。

「ルリマリス……。君は何が出ても顔を青くするんだな。血行が悪くなるぞ」

「……あわわ……」

 ヤントラはルリマリスの頬に手を当てると冷たくなっていた。

 軽くさすりながら温める。

 保温効果のある仮面をルリマリスに被せる。

「敵の親玉が出て来たようだけど、ご主人は戦うの?」

「今はメイドさんを借りているから……、それは無いな。腕試し程度なら……」

「そっかー。私達、観光に来てるもんね」

 一応、クレマンティーヌは武器の具合を確かめる。

 命令があれば戦うなり、逃げるなりの準備は整えておく。

 ルリマリスの側に居るメイドは微動だにしない。

「もったいぶった戦い方をするのか、スキルで速攻撃破か」

「戦士には戦士でぶつけてほしいな」

 世紀の一戦。

 魔導王自ら一対一の戦いを選ぶのは支配者としてはありえないことだ。

 一人の冒険者としてなら強敵と戦うのもやぶさかではないだろう。

 アインズも冒険者の端くれだ。

 命令だけでは退屈なのかもしれない。

「アンデッドは刺突攻撃に耐性があるから……」

 身振り手振りでクレマンティーヌは相手をどう倒そうか考え始めた。

 苦手とするモンスターは居るけれど戦えないわけではない。

 漆黒聖典時代は数々の亜人を倒してきたし、モンスターとの戦闘経験もある。

 秘密結社時代でも同様に。

 会場が盛り上がる中で試合開始の鐘が鳴る。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 正々堂々とした試合が展開される。

 観客たちは武王の攻撃に興奮し、魔導王の攻防にも興奮する。

 魔法は使用せず、攻撃を受けているところからスキルも使用せず。

「武王の攻撃が効いているの?」

「スキルを使っていないからだろう。というか解除できるものなんだな……」

「ふーん。ということは発動すれば無効化されるんだ」

「だいたいはね」

 冷静な感想にクレマンティーヌはヤントラの真剣な顔を覗きこむ。

 心配しているのか、納得がいっていないのか、嬉しそうではない事は分かった。

 アインズの攻撃にヤントラは一つ一つ解説していく。

 ただ、ルリマリスは完全にメイドにしがみついているだけだった。

 物凄い魔法を警戒しているのか、惨劇の予感でも感じているのかは分からない。

 臆病なところはどうしようない。

「……弱い者いじめか……」

 この言葉が聞こえたのか、アインズが観客席に顔を向けてきた。

 ヤントラは素早く別の観客の陰に隠れる。ただ、今の発言はクレマンティーヌだ。

 よそ見したアインズの腹に武王の棍棒が当たる。

「……自分の悪口は地獄耳だな……」

「ご主人、どうしたの?」

「ただの条件反射だ」

 試合は一進一退。

 ヤントラの目には手加減以外の何者でもない。

 負けず嫌いなアインズがすんなりと敗北を選ぶはずが無い。

 何らかの目的があって試合に臨んでいるのだろう。

 暇つぶしで試合に出るには相手が弱すぎる。

 武王は武技などを使う戦士のようで色々と手数を持っているようだ。

 力任せの単細胞と言うわけではなく、駆け引きも出来る賢い戦士だ。

 聞こえた範囲では戦闘妖巨人(ウォートロール)という種族。

 口ぶりからは丁寧な口調で野蛮さは無い。

「こら、武王! ちゃんと動きを見ろ!」

 と、クレマンティーヌが叫ぶ。

 武技が使えるせいか、使い方をどうにかしろと色々と叫びだした。

「そこは『流水加速』から『剛撃』! すぐに『超回避』! 超回避できないの!」

 興奮するクレマンティーヌに連動したのか、観客も武王を応援し始める。

 巨体に似合わず牽制もできる武王だが、アインズに攻撃は当てられても大したダメージが与えられていない気がする。

 当たればよく飛ぶのだが、アンデッドの身体では効いているのかが分かりにくい。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)とはいえレベルは百。

 単純な物理攻撃は結構強い。もちろん、この世界基準だが。

「あーもう、何なの、あの骸骨」

 ヤントラは苦笑する。

 普段は隠密型の殺人者も好きな分野では人間的になれるようだ。

 身振り手振りからも試合形式は大好きなのだろう。

「こら武王! 手加減している内にぶったたけ! そこで武技っ! 違っ! 『不落要塞』! 出来るでしょ!」

 クレマンティーヌが興奮している間にメイドは与えられた命令を実行に移す。

 ナーベラルの正体。

 イビルアイの要請に従い、ナーベラル型が持ち出されたようだ。

 命令の隙を突かれたのかもしれない。

 誓いの儀式でも利用されて混乱したのか、調べないことには正確なことは分からない。

 施設内で起こったことは正確に伝えてられて、それにヤントラは一つ一つ頷いていく。

 逆手の逆手を取られたのかもしれない。

 だとすれば他の検体も奪われている可能性はあるだろう。

 数分後にもう一人のメイドが調査結果を持ってくる。

 献体の数はナーベラル型のみ減っている。

 内容的には安心できるのだが、献体を勝手に使われるのは面白くない。

 既に追っ手が向かっているかもしれないが、それらは帰還させるように命令するとメイドはすぐに『伝言(メッセージ)』を使う。

 使うなら髪の毛の違う個体を使うべきだ。

 黒髪の個体は見分けにくいから過信できない。

 仕返しのつもりかもしれないけれど、使用は慎重にしてほしいものだ。

 見た目ではレベルは判明しないのだが高レベルはオリジナルを殺せるほどに強い。

 クレマンティーヌに少しの間、ルリマリスの面倒を頼み移動することにした。

 メイドに転移魔法を使わせて施設に戻る。

 案の定、イビルアイと本(・)物(・)の(・)ナーベラルが取り押さえられていた。

「無許可は悲劇しか生まないぞ」

 イビルアイは仕方ないかもしれないがナーベラルはそのままにしておいた。

 施設内は複数のメイドに異常がないか調べさせ、執務室に向かう。

 稼動献体は二。

 色の変更を確認し、地下に戻り、ナーベラルの元に向かう。

「取り返しがつかなくなったらどうする気なんだ?」

「それはきっと……、アインズ様が制御なさるはずだ」

「出来なかったら……、オリジナルを殺しに来るぞ」

「その時は倒すまでだ」

 少し呆れはしたが屈強なメイド達にナーベラルを拘束させておく。

「イビルアイ。何か言いたい事はあるか?」

「……無い。罰は甘んじて受けよう」

「可愛い服を着る刑にしよう」

「……おぅ……、ごめんなさい……」

 呻きつつその場にうずくまるイビルアイ。

「素直でよろしい。色々と違う服装の姿も見たかったところだ。……大勢に見せなければいいだろう」

「……それはとてもありがたい……」

 罰としてコツンと二人の頭を叩いて、クレマンティーヌの元に戻る。

 試合は既に決着していた。

「……なんかスキル使ったらしくてー。あっさり終わったー。つまんなーい」

 唸るクレマンティーヌから試合会場を見ると武王が倒れている姿が見えた。

 結果は分かっていたが、きっと面白くない試合だったのだろう。

 というよりはアインズの姿が無かった。

「一方的だったか」

「うん。一撃だったと思うよ。普通に歩いてドスって……。あと、骸骨が何か言ってたみたいだけど……。どうでもいいや」

 お冠(かんむり)のクレマンティーヌ。

 戦士の戦いをけがされるのは彼女にとっては面白くない事だったのだろう。

 敗北した武王は死んだのかと思いきや、何かのアイテムで復活させたらしい。

 今は己の未熟さに蹲(うずくま)っているだけのようにクレマンティーヌには見えているのだとか。

「あー、あと武王のやつ、骸骨(魔導王)の部下になるらしいよ。強い奴に従う理論で」

「そうか。慈悲か……」

「戦士には戦士としての戦い方があるのに……。つまんないなー」

「君ならどうする?」

 その言葉を待っていたかのように仮面を少しずらしてヤントラにだけ顔が見えるようにする。

 口が裂けるほどに口角が上がっている邪悪な笑み。

「武王を鍛える。充分な技術は持っているけれど、私達のように強者と戦う機会が少ないだけで、まだまだ伸びると思うよ。見込みはあるもん」

「……武王は人気者のようだな」

「闘技場の覇者はみんなの英雄だからね」

 つまり隠れファン、みたいなものだろうか。

 武技を使いこなすところからも弱くは無いのだろう。

 ヤントラはメイドと共にクレマンティーヌとルリマリスを抱えて会場に乱入する。

「……ん? な、なんですか、貴方達は!?」

 武王の様子を見に来ていた係りの者達は急な侵入者に驚いた。

「……つまらん試合だった、みたいだな」

 ヤントラの言葉に武王は軽く身体を動かす。

「スキルが無ければ充分、いい戦いだったよ、武王。だけど武技の使い方がまだまだだね」

「お客様を失望させて申し訳ない」

 武王は恥じることなく素直に言った。

「魔導王陛下は俺などよりも遥かな高みに居るようだ。そして、俺はただ弱かっただけだ」

「そうだな。大して戦闘経験も無さそうだ。えり好みで試合をしているだけでは何も伸びないだろう」

「えり好み? 強い相手と試合をしていないという意味か?」

「クレ……」

「……クラレンス……」

 クレマンティーヌはそっと耳打ちする。

「このクラレンスと戦ってみるといい。殺し合いではなく、自分の高みと言うのが分かるかもしれないぞ。ただ、自分は弱い、だけでは何も解決しない」

「普通の試合だったら文句なく武王は強いと思うよ。全盛期の私でも苦戦してたと思うな。……もちろん、何の対策も無い場合に限るけど……」

 妖巨人(トロール)相手に普通の武器では勝つのが難しい。

 再生力を防ぐ手立ては基本だ。

 ヤントラは武王に治癒魔法をかける。

「飛び入り参加だが、こちらは純然たる戦士だ。攻撃が通じない卑怯なスキルは無い」

「えへへ。私も強敵と戦うのは好きな方だよ」

「敗北した俺に……」

「一回負けた程度で折れる心か? ならもっと絶望を与えても良いんだぞ。もう少し足掻いてみろ」

 武王は魔導王に敗北するまで無類の強さを誇っていた。

 それに対して人間であるヤントラの発言は係りの者を驚かせる。

「弱い敵しか居ない世界は退屈かもしれない。強者が辺りにゾロゾロ現れては国民が不安になるだろう」

「一理ありそうで無茶苦茶な論理だな」

 武王は賢いようだ。

 妖巨人(トロール)ということだが、物事はちゃんと考えられる冷静さを持っているようだ。

「闇討ち専門なんで、試合はどこでもいいよ。……お色直しはするけど」

 クレマンティーヌは外套を取り出し、身体を覆う。

 戦闘用の装備を整える。

「一対一だ。……武器を使う戦士として君にはもっと強くあってほしいんだろう」

「……それはすまない。応援してくれる皆には無様な姿を晒したようだな」

 数分後に装備を変えたクレマンティーヌは顔には視界確保の仮面に変え、防御を捨てた簡素な姿となった。

 敏捷性を重視した軽量型。

 武器は愛用のスティレットが二本だけ。

 身体は若返ったとはいえ引き締まった筋肉は硬質的。割れた腹筋。柔軟で長い手足。

「勝敗は私がやめたくなったら終わり。殺し合いってわけじゃないから。もし死んでも大丈夫。蘇生方法は確保してるから」

「……あなたは……強そうだ」

 武王は係りに退避するように言った。

 目の前の戦士は危険な雰囲気をかもし出している。

 それは死を振り撒く暗殺者、殺人狂とも取れる。

 ヤントラはルリマリス達とともに観客席に戻る。

 

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