ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
急遽始まる試合に関係者は大混乱しているようだ。
新たな挑戦者を迎え、二人は対峙する。
連絡を受けた進行係が叫ぶ。
「武王と戦う勇者が現れた! 先ほどの敗北はどうした~! 彼はまだ戦う意欲を捨てていなかった~!」
帰ろうとしていた一部の観客が急いで戻り始める。既に出て行った者も。
急な事なので入場料は取らなかった。
「相手のことは不明ですが、相当なてだれか、はたまたただのバカか!」
「いいねー、いいねー」
柔軟体操を始めるクレマンティーヌ。
「軽量級と重量級の戦いかー」
「相手は何者だ?」
「見たこと無い人だな」
「……えー、情報が錯綜しております。相手の情報は……ありません。何者なのでしょうか」
「んー、ただの人殺しだよ。スレイン法国に見つかるとヤバイんだけどね」
危機感の無い言葉に聞こえた係りの者達は苦笑する。
「世界は広いよ、武王。とんでもないモンスターは結構居るみたい」
「そのようだな」
「じゃあ、ご主人。鐘の代わりのもの鳴らしてくれる?」
「分かった」
ヤントラはメイドに合図する。
それは会場に響くほどの音だった。
「さて、始めましょうか。手加減したら許さないよ」
そう言いながらスタスタと武王に近づくクレマンティーヌ。
魔導王との戦いの後とはいえ、すでに疲労は無く、体力も回復していた。
相手は気軽に近づくが気迫は本物だ。
静かな殺気が近づいてくる。
スティレットを一本引き抜き、軽く振る相手。
軽量級は攻撃を避けて懐に飛び込む戦法を取るのが普通だ。
重量級は力任せな部分はあるが武器をうまく使い、隙を作らなければいい。その為に武技がある。
魔導王のような変な能力があるとは思えないが油断はしない。
「じゃあ、こっちから攻撃するねー」
にこやかなクレマンティーヌ。
喋り終わった途端にスティレットをまっすぐ突いてくる。
「〈流水加速〉、〈剛撃〉」
相手の動きをしっかり見た上で武王は武技を発動する。
がら空きになった腹目掛けて大きな棍棒を横殴りに叩き込む。
「……普通はそう来るだろうねー。〈不落要塞〉」
クレマンティーヌのにこやかな口元が武王には見えた気がした。
ドゴっという音はしたが棍棒は彼女の腹で止められた。
「!?」
「おっとと、おーおー、強い強い」
硬い壁を殴ったにしては硬すぎる。
アダマンタイトで出来た壁のようだ。
「か弱い女の子に武器を止められて不思議そうだねー」
「……あなたは……、こんなに強い人間がまだ居たんだな」
「もっと強い人はゴロゴロ居るよ。んじゃ〈流水加速〉」
目の前のクレマンティーヌが消えたように見えた。
いや、辛うじて見えてはいる。それも物凄い速さで動く物体として。
ガン、ガン、ガンと鎧を叩く音が続く。
間接部分ではなく、鎧そのものに武器をぶつけてくる。
無駄なことのように思われるが、クレマンティーヌの攻撃は並みではない。
確実に打撃として伝えてくる。
「どしたの、武王。もっと身体を動かして。ほらほら、ちゃんと武技を使って」
「くっ」
見た目にそぐわない。
軽量級のはずが真っ向から攻撃を仕掛けてくる。
観客たちは信じられないものを見せられていた。
魔導王との一戦もすごかったが、クレマンティーヌもまた凄かった。
固唾を呑む静けさが広がる。
それは決してただの殺戮ショーではない。
戦士と戦士の純粋な戦いだ。
「あっと、炎とか酸は使わないから、安心してね」
「それはどうも」
クレマンティーヌは武器だけではなく体術でも攻撃してくる。
しかも素手で鎧を殴ったりする。
アダマンタイト製の鎧がへこむのではないかという一撃。
「……痛たた……。やっぱりアダマンタイトともなると素手じゃ無理か……」
「無茶をする」
相手と距離を置いて、手甲を装備する。それに関して武王は攻撃を仕掛けなかった。
感心してつい忘れてしまった。
「一つ尋ねたい」
「なーに?」
「魔導王は俺が弱いと言った。あなたは俺がまだまだ強くなれると思うか?」
「なれるんじゃない? かく言う私もガゼフ並みとか思ってた時代があったよ。結果は散々だったけどね。もっと強い奴は思っていたほど……、多かった」
両手を広げてクレマンティーヌは言った。
自分は強者だと信じて疑わなかった自負が打ち砕かれた感じだ。
武王は今の自分に似た雰囲気を感じる。
「強いといっても人それぞれだからね。あの魔導王よりも強い人って居るらしいよ」
「なんと!」
「それぞれに極めた強さの一つが魔導王ってだけで、他にも極めた人が居ても不思議は無いよ。スレイン法国に居る人外とか、その当たりの化け物とかね」
漆黒聖典第一席次『漆黒聖典』と番外席次『絶死絶命』。
彼らは魔導王より強いかと問われれば分からないと答える。
実際に戦ってもらわないと分からないが、負ける気がする。
見たことも無い化け物を召喚する相手でもあるし、分は悪すぎるほどに悪い。
「一回くらい負けたからって諦めちゃダメだよ」
「そうだな」
武器を構えなおし、クレマンティーヌは上体だけ倒す体勢をとる。
柔軟な肉体がなせるわざ。
猫科の動物を思わせる獲物を狙う体勢。
「〈疾風走破〉、〈超回避〉、〈能力向上〉、〈能力超向上〉」
相手を仕留める連続武技。
鍛えてきた技は自然と彼女の身体に染み付いている。
「いっくよー」
「おう!」
ドン。という音とともにクレマンティーヌの姿が掻き消える。
「〈流水加速〉!」
一拍遅れた武王も武技を発動する。
真っ直ぐ飛び掛る獣の姿が見えた。それも既に目の前まで移動している。
驚異的な跳躍力に武王はただ驚いた。
スティレットで鎧に攻撃を加えるのだが、今度は鎧がへこむように打撃が打ち込まれる。
相当な腕力と丈夫な武器でなければ出来ない芸当だ。
「まだまだー」
同じ武技のはずがクレマンティーヌの方が早くて強い。
急所はあえて避けられているようだが、次々と攻撃を受けてしまう。
小回りの聞かない重量級にはなすすべが無い。
「武王って小回りの利く武技って使えないの?」
「攻撃が中心だからな」
棍棒を振り回し、牽制しようとするが柔軟なクレマンティーヌに簡単に避けられてしまう。
武器による攻撃だけではなく、手技、足技にも優れている。
攻撃の捌き方は目を見張るものがある。
「そこらの冒険者なら勝てるかも、だけど。一流には遠く及ばないね。漆黒聖典の中じゃあ中の中ってところだよ。……いわゆる盾役かな?」
「厳しいな」
「さっき『外皮強化』とかいう武技を使ってたけど、防御系が中心なの?」
「……
「もう少し小技を絡める練習した方がいいよ。そんなバカでかい棍棒持ってたら振り回すだけで疲れるでしょう」
戦いながらもクレマンティーヌは色々と喋っていく。
「試合は派手な方が客受けする」
「ごもっとも。あんたの雇い主、戦士をなめてるね。見世物だから仕方が無いのかもしれないけれど……」
「いやいや、あれはあれで俺の事をちゃんと考えてくれる人間だ。尊敬はするがバカにしたものではないよ」
「ふーん」
『不落要塞』で棍棒の一撃を受け止めるクレマンティーヌ。
並みの戦士では棍棒は受け止められない。
見た目は細いが強靭な肉体を持つクレマンティーヌに武王は感嘆の吐息を漏らす。
とにかく、強い、と。
「私もまだまだ弱いけれど、武王も伸びる可能性があるかもよ」
「ありがとう」
少なくとも普通の
ヤントラに出会う前のクレマンティーヌとしてなら軽口は言えないほどだったかもしれない。
『不落要塞』を使った時の衝撃から、決定打に欠けて背走も視野に入れていてもおかしくない。
もちろん、細工なしでの話しだ。
『
「〈超回避〉」
「む……」
武王は数十の打撃を受けているが未だに攻撃が通らない。
当てることは当てている。武技で防がれているが。
体格差もあるのに勝てない。
強者は様々な差をものともしないものらしい。
「強いな、あなたは」
「武王こそ。あんな骸骨にころっと負けないくらい強くなってよ」
「期待に沿えるよう精進するよ」
クレマンティーヌは後方に宙返りしながら距離を取る。
先ほどと同じ態勢を取る。
「武王。自分の防具をちゃんと確認しておくんだね」
「ん……」
軽く下を見ると防具がヒビ割れているのが見える。
全体的にヒビが広がり、いずれは壊れるのだろう。それはそれで構わない。
与えてくれた人間には悪いと思うが、身軽になれる機会でもある。
「
クレマンティーヌは『流水加速』の武技を発動する。
そして、駆け出した。
「……〈
軽く前転しつつ蹴りを食らわす。それで武王の防具は壊れた。
それに驚かず冷静に棍棒を振る武王。
「〈神技一閃〉」
「〈超回避〉……これ必須だから覚えた方がいいよ」
「うむ。こちらから質問だ。その武器に魔法は仕込まれているのか?」
「仕込めるけれど、使わないよ。ただ……、これアダマンタイトより丈夫な素材だけどね」
戦っている最中に聞こえるクレマンティーヌの笑い声。
戦闘を楽しんでいる。それも嫌な笑い方ではないと武王は感じた。
正体があらわになった武王の動きはより機敏となり、棍棒が振るわれる。
魔導王のスキルで動きが鈍かったが今はそういうペナルティなく戦える。
純粋な戦士同士の真っ向勝負。
これはこれで気持ちのよい戦いだった。
静かに見守る観客たちも手に汗握る攻防に興奮していく。
「あっ、言い忘れていたけれど……。一撃で葬るような凄い必殺技とかないから。基本的に急所をドスっと刺して殺すのが私の本来の戦い方なんで」
「特殊能力は武技だけか」
「そういうこと。……それに特化して鍛えてきたからねー」
単純な攻撃のみに特化した攻撃は洗練されればされるほどに脅威となる。
鎧から伝わる衝撃は小さなものではなかったから。
一撃を食らえば肉体がけっこう吹き飛ばされる破壊力を秘めている。
細工無しでの攻撃ならばとんでもない腕力だろう。
「スッと行ってドス」
武王はあえて力を抜いてクレマンティーヌの攻撃を受けた。
脱力した事でスティレットによる攻撃は思いのほか深く沈みこむ結果になる。
「捕まえた」
「おっ!」
腕が武王の身体に埋まったクレマンティーヌはそのまま抱きしめられる。
そのまま締め上げて殺すことも出来る。
「いたた……」
腕が悲鳴を上げる。
強引に曲げられるクレマンティーヌの腕は軋み、そして、程なくボキっと折れる音が響く。
「勝負あったな、挑戦者」
普通の戦士であれば腕が埋まるような攻撃までには至らない。
明らかに貫通しているので、実力は自分が知る戦士の中では一番に匹敵するだろう。
あれだけ軽口を叩いたのだから途中で終わらせるわけには行かない。
武技でも使って脱出できれば大したものだ。
力を込めていくと更なる骨折音が聞こえてくる。
そのすぐ後でクレマンティーヌは大量の血を吐く。
普通ならそれで終わりだ。
「意外にあっけないな」
軽量級だから掴まれば簡単に負けてしまうこともあるだろう。
攻撃を避けるのが仕事のようなものだから。
ただ、並みの戦士ではないのがクレマンティーヌだ。
沈黙の後で頭突きをする。ただ、それでも武王は離さない。
「昔の私ならここで死んでたんだろうけれど……。意外や意外……。案外、簡単に死なないもんだね、人間って」
口から血を出しながら喋るクレマンティーヌ。ダメージは嘘ではないようだ。
「闘技場の覇者に相手してもらうの夢だったんだー。こちらこそ、ありがとうだよー」
「どういたしまして」
「んじゃま、抵抗をはじめましょうかねー」
血を流し、瀕死とはいかないまでも重症を負った状態の今、色々な肉体的強化を得て、より凶暴性が増す。
戦士系クラスの『
「〈能力向上〉、……〈能力超向上〉っ!」
足技だけで無数の打撃を繰り出すが、鎧を失っている事と攻撃力が上がったことで武王は怯んだ。
クレマンティーヌは武器以外でも攻撃できる人間だ。甘く見てはいけない。
無理な体勢にも関わらず、色々な攻撃が出来るのは柔軟性に優れた彼女ならではだろう。
無事な腕でも驚異的な握力で
それはまさに
「ぐっ……」
「〈流水加速〉」
それは肉体的な乱打に近い。
半狂乱の獣は性質が悪い。
膝蹴りでようやく腕から解放されたクレマンティーヌ。
咆哮をあげつつも折れた腕を一瞥する。
「生の戦闘はいいねー。殺し合いはこうでなくちゃ」
「……恐ろしい御仁だな」
武王の言葉に野獣は猫科の笑みを浮かべる。
地面に折れた腕を置き、足を乗せて一気に引っ張る。
ブチブチっという音ともにクレマンティーヌの腕は千切れた。
この行為に観客から悲鳴が上がる。
「生粋の戦士の実力を見せてあげるよ」
「分かった。受けて立とう」
普通の
クレマンティーヌは武王の実力はかなり高いことを認めた。だからこそ、あっさり敗北した事で諦めてほしくなかった。
魔導王はけっこう卑怯だ。戦士の戦いはもっと苛烈であるべきだ。
実力差がありすぎるのはただの苛めに過ぎない。それでは何も面白くは無い。
ヤントラがそうであるように。
弱者には弱者なりの矜持がある。
先ほどと同じ体勢を取るクレマンティーヌ。
「〈能力向上〉、〈能力超向上〉、それじゃあ……、いっきますよー」
『疾風走破』という武技で駆け出す。
一気に距離を詰めて大股開きになりつつ、武王の近くに足を落とし、もう片方の足で思いっきり相手を蹴り飛ばす。
「!?」
わき腹から様々な骨が砕ける音が聞こえてくる。
大きな体格の武王を壁際まで吹き飛ばす脚力は人間業ではない。
それで攻撃は終わらない。
『即応反射』で体勢を無理やり攻撃前に戻すのだが、普通ならば体力を大きく損なう武技も苦にしない。
「〈外皮強化〉、〈外皮超強化〉」
武王は武技を発動する。これによりクレマンティーヌの攻撃は途端に通じなくなる、はずだった。だが、レベル的には彼女が上なので無傷とはならず。
尋常ではない重い攻撃の嵐が降り注ぐ。そして、『疾風走破』と『即応反射』の繰り返しに武王は滅多打ちにあう。
繰り出される足を掴んだとしてもスティレットの餌食にされていく。
『外皮強化』などは持続時間が短いのですぐに使いなおす必要がある。
彼女の一撃は鎧の無い肉体をいとも簡単に吹き飛ばしてくる。
柔軟な身体が生み出す乱打。
一発でも攻撃を受ければ防御を捨てているクレマンティーヌにはひとたまりもない。それでも構わず、正確に攻撃を与えている。
反撃の糸口が見えないほど苛烈な攻撃に驚きを禁じえない。
再生力に助けられているが、それが無ければもう既に敗北している。
懐に深く沈みこむクレマンティーヌは頭突きに膝蹴りを武王に与えて、とどめに身体を捻って踵で馬のように真上に蹴り上げる。
女性の柔軟な肉体による攻撃は見る者を
それからクレマンティーヌは追撃しようとしたところで地面に倒れこんだ。
上から落ちてくる武王と激突するのは誰の目にも明らかだ。
地面に叩きつけられる武王。舞い上がる土ぼこり。
勝敗が決したとはいえ、二人の戦士の無事は誰もが気になるところで、誰一人として立ち去るものも喋る者も居ない。
煙が晴れると二人の姿が見えてくる。
位置がずれていた為にクレマンティーヌは下敷きにならずに済んだようだ。
武王も倒れたまま起きて来ない。
「……クレマンさん……」
「……ご主人……、ごめん。貧血……」
倒れたクレマンティーヌが喋ったので無事であることが分かった。
それから客席から大歓声が上がる。
武王は数分後には立ち上がってきた。驚異的な再生力のお陰とはいえ、身体が一時は腫れ上がっていた。それほど苛烈な攻撃を受けたのだろう。
会場に降りたヤントラは千切れたクレマンティーヌの腕の防具を外してメイドに預けて、本体を治癒する。
「思いっきり運動するのはいいものだね、ご主人」
「なかなか白熱した試合だったよ」
「魔法が使えたら、すぐに勝負はついてたよ。さすが
「そうだな。弱点を突く属性攻撃があればもっと早く勝負がついていただろう」
と、武王が言った。
「刺突武器だしねー、こっち。体術の訓練を受けてて良かったよ」
「最後はどうする予定だったんだ?」
「んっ? あの貴賓席に蹴り飛ばそうかと……」
「それは……。後で弁償しなければならないから、それは勘弁してもらいたいな」
「そうお? それより武王。もっと強くなってよ」
「期待に応えられるように精進するよ」
クレマンティーヌは握手しようと思ったが腕はまだ再生中だったので体勢を崩して倒れこんでしまった。
名乗りたいところなのだが、追われる身なので秘密と武王に伝えると黙って頷いてくれた。ただ、真蒼の薔薇の一員であることは伝えた。
「あのアダマンタイト級の冒険者チームか」
噂でしか聞いた事が無いけれど、勇名は闘技場にも轟いていた。
クレマンティーヌの強さは武王よりも強いはずだが、肉体的なことや武器などの不利により互角程度の実力となっているようだ。
それはそれでヤントラは不満には思わない。
良い戦いだったと素直に思う。
一撃で武王を粉砕するのかと少し思っていたが、正攻法で戦ったのは感心する。
手加減はしていないだろう。いや、小細工をしなかった時点で倒す気は無かったのかもしれない。
相手に合わせるように微調整していた、とも言える。
クレマンティーヌには大技がいくつか存在する。それらを使えば間違いなく、武王は木っ端微塵となっていたかもしれない。
油断については問題は無い。それはクレマンティーヌの問題だから。
そんなことより施設に居るナーベラルの処遇はどうしたらいいだろうか。
しばらく拘束したままでいいか。
勝負としてはクレマンティーヌの勝利なのだが、先に倒れてしまったのだからどういうことになるのか。
飛び入り参加で正式な試合ではないから無効試合にも出来る。
武王はそれでも良い戦いを演じた戦士に敬意を表する。
「正式な試合なら俺の勝ちだ」
「……だよねー」
相手を殺すまでは止まらない。もちろん、敗北宣言をすれば追撃はしない。
「いい試合だったぞ」
「武王! もっと強くなってくれ」
応援を受けた武王は静かに廻りに向かって頭を下げた。
「皆様方の期待に応えられるよう精進いたします」
紳士的な武王の態度に帝国の民は一層の声援を送った。
周りに被害は出さなかったとはいえ、飛び入り参加は不味かったのかなとヤントラは少し思った。
会場を出ても特に引き止められなかったので、このまま走って逃げようかなと思った。
「ごめんね、ご主人」
「いいよ。会場を破壊しに来たわけじゃないし」
物陰に移動し、クレマンティーヌの返り血を
ルリマリスもタオルをもって拭いていく。
「白熱した試合は私も好きだよ。あの程度のモンスターに遅れを取るとは、とか意地悪は言わない」
「言ってるようなものだけどね。でも、ありがとう」
実際のところは思っていたよりも手ごわい印象を受けた。
無数の武技を使ったのに倒せる気がしなかった。
頭を吹き飛ばせばいい、という単純なものでもない。
対
大勢の
「武技を使う
「『六光連斬』とか使ったら倒せそうだけど」
「細かく切り刻むって意味だと思うけど……。再生力をどうにかしないと難しいかも。ガガーランのウォーピックならもう少し楽に戦えそうだけどね。スティレットじゃあ分が悪いわ」
それでも武王と戦えたのは嬉しかった。
久しぶりに血の通った戦闘のような気がする。それから闘技場を後にし、観光を続ける。
せっかくルリマリスを連れてきたのに何を怖がっているのやら、とヤントラは心配になってきた。
信仰系ということで手に入れたはずなのに、気弱と言うか臆病と言うか。
「森妖精だから森に放り込めば元気になるのかな?」
「ほら、リリー。ただの観光なんだから。スリとか強盗は私が殺すから」
物騒な単語をクレマンティーヌが言うと顔ははっきりと青くなる。
「いきなり来て、お前やっぱり殺す、という話しにはならないと思うぞ」
「うーん。それとも奴隷として掴まることでも考えているの?」
「……色々です……。すみません、臆病な
「過剰なほどでびっくりだよー。家に居る時や踊ってる時は笑顔なのに……」
普段のルリマリスは過剰な怯えは見せないらしい。
城にも行って料理やダンスを披露しているという。
「……知らない土地に放り出された猫みたいだな……。いずれ慣れるだろう。背負ってやろうか?」
「結構です」
震える
観光ついでに貧民街のような場所を巡る。
道中、おどおどするのでクレマンティーヌはルリマリスに素直にヤントラに背負われればいいのにと告げた。
同じような特訓を受けてきたはずなのに何に怯えているのか、さっぱり分からない。
当の本人も理由が分からないらしい。
「じゃあナザリックに帰る?」
「うえーん、ごめんなさい」
信仰系
作る料理は美味しいし、血生臭いメンバーの中では清純派だ。
ラキュースの代理として申し分の無い能力を持っているのにもったいない。
「
「向かないかもね。
「頑張ります~。見捨てないで下さい」
子供ではないのだが、泣き出すルリマリスをヤントラは背負うことにした。
防具で彼女の胸の感触が味わえないのは残念だ、と言いたい気持ちを押し殺して我慢した。