※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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L-5 必要な素材の製作

 治安が悪いかと思っていたが、通りを走り回る子供達の表情は比較的明るかった。

 冒険者を引退か、何らかの事情で辞退した請負人(ワーカー)達が多く利用しているらしい。

 軍事国家と言えど貧富の差はある。

 『鮮血帝』と呼ばれるジルクニフの行動で粛清された貴族達の成れの果ても住んでいる。

 一部は借金をしてまで高級住宅街に住み続ける者も居る。

 貴族としての誇りにすがる者は少なくない。

「珍しいモンスターはさすがに帝都内には居ないか」

「バハルス帝国は特に治安が悪い噂は聞かないね。平民を大事にする皇帝と言うのは聞いたことがあるよ」

「……そんな皇帝も魔導国には頭を痛めているだろうな」

「何か世界に恨みがあって世界征服しようとするの?」

「世界征服は男のロマン。それだけだと思うよ。無用な虐殺をしないところは恐怖政治は得意ではない、というところなのかもしれないね。見た目はアンデッドだけど……」

「アンデッドは生者を憎むというのが通説なのに」

「敵は憎むだろうけれど、ただ生きているだけで憎いとは思わないだろう」

「スレイン法国ではアンデッドはそんな感じなんだけどな」

 自然発生するアンデッドはだいたい生者に向かって襲い掛かっていくし、とクレマンティーヌは自分の人生で出会ったアンデッドたちを思い浮かべた。

「国民が平穏に暮らせれば誰が統治者でも構わないか……」

 魔導国に居る国民は平常どおりに暮らしていて、奴隷にされたりはしていない。

 出て行く者は多いけれど引き止められることはない。

 自由意志が認められている。

 国の指標が決まって居ない事もあるし、今後どうなるのかは未知数だった。

 どうなろうと仕事が出来れば文句は無い。

 改めて戦争を起こして殺し合いになってもいいし、それは国を統治する貴族達が判断することだ。

 ラキュースは交戦的にはならないかもしれないが、戦争時には参戦しなければならない義務が発生する。

 その時、ヤントラも必然的に参加させられるかもしれない。

 魔導国とヤントラが戦う事態になった時、どんな結果が現れるのか。

 見たいようで見たくない。

「……やっぱり自分で歩きます……」

 足を広げて背負われていると振動で尿漏れとかしそうで恥ずかしい。

 奴隷時代は股間に力が入らなくなり、垂れ流し状態が続いたものだ、という余計なことが思い出される。

 ヤントラから降りて周りを見回す。

 森の中や洞窟の中ではないけれど、角から襲撃者が出てきそうで怖かった。

「じゃあ、次は高級住宅街に行こうか」

「……はい」

 のんびりと散策する上では普通の旅行者だが無表情のメイドが一人ついてくる。

 転移要因なのだが何も喋らないのは確かに寂しい。

 言う事を聞く下僕は何かと便利と思っていたが人間的ではないのは面白くない。

 胸や尻を触ったところで微動だにしない。

 攻撃しようとすると避ける。

 スティレットで肛門を狙っても避ける。

「替えの下着がもったいないからやめなさい」

「ご主人、やっぱり自我のある奴がいいね。イビルアイとか」

「人生を捧げられるなら問題は無いのだが、これらは自分の意思がないままだから」

 主の役に立つ為に生まれてきた、というナザリックの下僕とは違う。だからこそ自我が芽生えれば反抗するという。

 理屈としては理解出来る。

 自分は何の為に生まれてきたのかを疑問に思えば不安だろう。

 

 自我について考えている内に高級住宅街に入る。

 家並みは綺麗だが人の気配が希薄だ。

 誰かは住んでいるだろうし、兵士や騎士達が見回りしているので治安もいいだろう。

 やはりここにもモンスターは居ないようだ。

 どうしてここに来たのか、特に意味はないのだが自然と足が向いてしまう。おそらくタレントの能力でも発動しているのかもしれない。

 それは自分の意思なのか、タレントによるものなのか、判断は出来ない。

 世界に喧嘩を売り続けているはずだが、勝っているのか負けているのか。

「……特に何も無さそうだね。カッツェ平野にでも行こうか?」

「そうだね。特に目的は無かったの?」

「観光」

「そうだったね。……こんなところは観光にはならないと思うけど……」

 特に変わったことは無かったので検問所を通ってカッツェ平野を目指す。

 闘技場で白熱しすぎたせいもあるだろう。

 冒険者ギルドに行っても仕方ないし、魔法学院は後でいいやと思った。

 王国との休戦から二年が経とうとしているけれど常駐する兵士達は今も居るらしく、湧き出るアンデッドの討伐を続けていた。

 魔導国の支配地域になる予定らしいが国づくりが一段落つくまでは帝国領だ。

 黒くて丸い巨大モンスターは特殊召喚で呼び出すので自然界には現れない、はずだ。

 肉塊からの治癒でもない限り。

 あと、遠目からも巨体モンスターは目立つ。

 霧が立ち込めているカッツェ平野。本来は視界が狭いのが普通だという。

「戦闘準備」

「はーい」

「分かりました」

 クレマンティーヌとルリマリスが武器を携帯する。

 弱いアンデッドならルリマリスも怖がらずに対処できる。

 骸骨(スケルトン)や動死体(ゾンビ)が中心で空からも鳥型のアンデッドやコウモリ型のモンスターが現れたりする。

 動死体(ゾンビ)は普通に叩き潰し、骸骨(スケルトン)も一撃で吹き飛ばされていく。

 疲労しないアンデッドだから粉々にしないといつまでも追ってくる、と言われているのだが圧倒的な力の前に屈している。

 極端に高レベルのモンスターは居ないようで死の大魔法使い(エルダーリッチ)が強敵と呼べるものかもしれない。

「強いモンスターが現れたら帝国もただではすまないか……」

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)一体でも背走する国だ。

 ヤントラが欲しているのは高レベルモンスター。しかも女体だ。

 低レベルでも女体であれば構わないのだが、なかなか現れてくれない。

 最初の地点に居るモンスターはどれも弱い者かもしれない。

 最初から魔王が居ても困るか。

「……帰ろうかな……」

「冒険の旅って雰囲気ではないもんね。リリーはどうする?」

「すみません、臆病で……」

 ある程度のアンデッドモンスターを倒した後、王都に戻ることにした。

 色々とダンジョンを見つけてから誘い直した方がいいかもしれない。

 転移でクレマンティーヌとルリマリスを置いて施設に戻る。

 拘束していたナーベラルは既に居なくなっていた。

 おそらく『伝言(メッセージ)』で迎えを呼んだのかもしれない。

 拘束役のメイド達が立ち尽くしていた。

 観光に連れて行ったメイドと共に控えを命じて退出させる。

「やはり一人で管理しなければダメなのかな」

 人任せに出来ないのは色々と大変だ。

 持ち出せないように性行為した状態で保管するという意地悪もありうるかもしれない。

 女性の裸に免疫の無い相手には有効だろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 イビルアイに恥ずかしい格好というよりは他の戦闘メイドの服を着てもらった。

 再現としてはラキュースの装備も入る。

 街中を歩かせる事はしなかった。

 戦士職をもっているお陰か、色々と装備できるので見た目以外にも着てもらいたくなってきた。

「露出の多い服装が苦手と……。そうなるとクレマンティーヌの服はダメだな」

「外套なしではきついな」

「かっこいい姿は見たいな」

「戦闘メイドのような……。手甲足甲くらいは許容しよう」

 多少の防御は装備に頼りたい。

 騎士のように重装備したまま歩き回るわけにもいかないだろう。

 施設に居る時は色々と着替えてもらいたいものだ。女の子らしく。

「事務作業に冒険者のような装備は過剰かもしれないが、肌になじんだ装備だからな」

「ガガーランに可愛い服を着せる刑に……」

「……なんて恐ろしい事を」

「それはそれとして……。複製の勝手な持ち出しはとても危険だ。過信してはダメ」

「……はい」

 持ち出したのはナーベラルではあるのだが、イビルアイは自分の失態として謝った。

「オリジナルを殺せる複製が混じっているのだから慎重に扱わないといけない。しかも、見分ける方法を取っていない危険なことになっていた」

「……それは危険だな、確かに」

「自分のところの闘技場で実験すればいいのに……。何があったんだか……。それともアインズの命令ではないとか……」

 ここで考えても仕方がないのかもしれない。

 あまり干渉するのも嫌だろうから大人しくしておくことにした。

 代わりに作業工程を早めようと判断し、アイテム製作を行(おこな)う。

 地図作りの様子もうかがう。

 身動きの取れない地域は無理に調査させないように言ってあるが、だいぶ出来ていた。

 海上や深海。砂漠のダンジョンなどは見つけにくいだろう。

 遺跡もちゃんとあるようだが人跡未踏が多い。

 というより地図が床まで伸びているところから縮尺の関係でもっと広大な世界だと判明する。

 今居る場所は全体的に小さい範囲という事になる。

「実際はもっと広大だったか……」

 人の営みのある地域は亜人や異形の存在で少ないのかもしれない。

 王国周辺が人類最後の楽園であることも不思議ではないだろう。

 南方にあるという砂漠地帯に拠点を一つ作るように命じておく。二十人ほど居れば大丈夫だろう。

 火の精霊(ファイア・エレメンタル)か火蜥蜴(サラマンダー)を召喚できる者にシリカの加工を頼んでおく。

 重い土の精霊(アース・エレメンタル)などでフェルトの圧縮作業を担当してもらう。

 その前に周辺地域が何の国の領土なのかの調査もしないといけない。

 必要なのは献体であり、領土ではない。

 

 あくる日、床材として試作した金属板を並べていく。

 材質と形がそれぞれ異なる。

「……その前にナーベラルさん、縛られているようですが……」

「気にするな。三十分ほどの罰だ」

 口を尖らせて椅子に括(くく)り付けられる戦闘メイドのナーベラル・ガンマ。

 解こうと思えば簡単に出来る程度の鎖だ。

 あえて従うのはアインズの命令があったからだ。

 独断先行による混乱の発生という危険を犯した罰で。

 罰が終わればメイド達の監督に戻る。あくまで屈辱がメインだ。

「それぞれの金属板をつなぎ合わせ、三層か五層ほど敷き詰めようかと思う」

 相当量の金属板を使うとなれば金貨の消費は凄まじい。

 柔軟性も必要だし、耐水性も大事だ。

 本物の天空の城でもあれば調査するところだが、南方はまだ未調査だ。周りはだいぶ固めて来ている。

 総重量の軽減は必須なのだが、乗り込む人間の重量は減らせない。

 ならばやることは一つだ。

 基地を増やす。あるいは技術革新による大規模な宇宙船を本当に建造する。

 数百キロから数千キロメートルの宇宙船。

 それは近場では作れない。落下すれば間違いなく、周辺国家は滅びるだろう、物理的に。

 アインズの脅威など生易しいと思うほどに。

 そんな危険な物はおいそれと作れない。

 いきなり大規模建造は到底不可能なので月に行って改めて検討する。

「あと、問題は基地を固定することが出来ないという……」

 星は自転しているし、月も星の周りを回る天体だ。基地を中間に置いても一日でおいていかれてしまう。

 魔法で作った施設は自転や公転しないはずだ。と、思った後で作った浮遊施設が浮いたまま移動しないのは何故だろう、ということに気がついた。

 それも研究が必要かもしれない。

 一番楽なのは月と星を転移で結べばいい。

 中継基地の建造も楽ではない、気がしてきた。

 ンフィーレアの机には色々な模型が並んでいる。

 それは本来、地面に生きる者達には想像もつかない世界の理だ。

 天体の動きを読むクラスがあるにはあるけれど。

「……積層構造にすると排水の問題が出てきます。外が低温だと凍りつく可能性があります」

 熱による膨張などで壁に亀裂が走れば空気が抜ける。

 圧力の関係で一気に爆縮、とまではいかないかもしれないが危険な状態にはなるだろう。

「機密性の高い加工は必須です。内部はどうにかなるかもしれませんが……」

「専用のクラスを大量に用意した方がいいか……」

 機械に関しては『ヴァルキュリアの失墜』で追加されている。それらが使えれば色々と解決することもあるだろう。

 問題はどうやって作るかだ。

 それは後でも出来ることなので優先度は低い。

「ゴムと油か……。森祭司(ドルイド)に頼りたくないな……」

 天然ものの方が安全な気がする。

「植物生産の土地も居るか」

 地上部分はまだ未使用地域に余裕があるから、それはエンリに任せてみよう。

 ゴムを作り出す植物は亜熱帯地域に生息している。

 高温多湿が条件らしいので育成は難しいと後で知った。

 一般的には輸入などに頼る。

 大気圏再突入に耐えられる金属は用意できそうだが継ぎ目は色々と大変だろう。

「遠くの土地を得る必要があるのかもしれないな」

「普通に飛んでいけたらいいんですけどね」

「簡単そうで簡単じゃないところが問題だ。本当に天空に浮かぶ城はどうやって作るんだろうか。収容人数に限界はないのか、調度品だって無限に置けないだろう」

「そうですね。常識的に考えれば……」

 作った金属板を床に並べて実際に乗ってみる。

 足の感触としては弾力がありそうな不思議さがあった。

 重量軽減のデータクリスタルというものがあるのだが、それで重さを零(ゼロ)に出来るかと言われると出来ないと答える。

 無限に入れることが出来ないから。

 もし、出来るなら誰もが最初にやっている。

 タイルの板は三角形と四角、六角を用意。

 加工で言えば当然、四角形が一般的だが。六角形も敷き詰めれば見栄えはいい。

 積層構造にすると溝に入り込んだ汚れが取れにくくなる。

 そこはゴムで詰めたいところだが、ゴムは劣化する物質だから長くは使えない。

 劣化を防ぐ物質を混ぜればいいのだが、それはまだ未調査だ。

 永続的に使うなら柔軟さは採用できない。

 この世界はそもそも宇宙を想定していない。出来なくても不思議はない。

 どこかのバカが世界征服を標榜(ひょうぼう)しなければ苦労はしないのだが。

 というか、その未来を見せるタレントも悪い。

 他人に監視されるような世界は好きではない。

 何をするにも支配者の許可が居るとか、ふざけている。

 ヤントラは隠蔽体質が嫌いだ。独占も嫌いだ。

 施設の存亡に関わるから一部は秘匿しているが、協力的なら公開していく。

 『悪用方法』の公開はこういう事があってアインズに提供したのだから。

「……ナーベラルが非処女ならもっと恥ずかしい格好にできるのに……」

「ヤントラさん、その辺でやめてあげて下さい」

「そうそう、ナーベラルはンフィーレア君は襲わないよな?」

 猿ぐつわはしていないので喋ることは出来る。

「そういう命令は受けていない」

 と言っているのに命令を受けていない事をしたのは何故だ、とは言わなかった。

 鎖や縄は自力で外せるし、ンフィーレアの判断に委ねることにした。

「献体にレベルも記載しておこうか。まさか高レベルを持ち出されるとは思わなかった」

「それぞれ強さが違うんですか?」

「違うのが混ざっている。同じ強さだと冷静な複製の方が意外と強かったりする。見分けにくいと尚混乱するだろう」

 とはいえよく起動させたものだ。

 許可を得たものとしてアインズが動かしたのならば理解出来るが、アルベドの命令ならば少し怖い。

 動かし方はアインズと二人でする予定だったのに。

 どういう意図があったのだろうか。

 命令遵守の部下は時に何をしでかすか分からないものだ。

 解呪は容易いようにしているから問題は無い。

 解呪しにくいと封印と変わらなくなる。

 

 本来は大理石などをふんだんに使うところだが、移動する施設には色んな力が加わるだろう。

 柔軟性のある物質。

 多少の湾曲でも損壊しないもの。

 金属は冷たいので保温効果のある素材も必要となってくる。

 ンフィーレアには関係の無い研究になってくるが、保温性の高い発明は必要となるだろう。

 武器の製造というわけではないにしても、頭脳労働を担当してくれるのはありがたい。

 カルネ村で育てている人蛇(ラミア)と人馬(ケンタウロス)は病気で死んでも構わないが、育て方は一任している。

「それぞれ好き嫌いはあるだろう。馬のような食事とか」

「はい。体温もそれぞれ違うようで大変ですね。毒性は無いようなので人蛇(ラミア)は平気そうですが」

「種族の特徴としては嫉妬深い、ことになっている。大人になって本性を現すかもしれないぞ」

「はい」

 見た目には二歳児くらいの子供。今は安全でも亜人や異形は成長により凶暴になったりする。教育は大切だ。

 全ての亜人が人を食べるわけではない。

「……あとは緩衝材とかゴムくらいか。空中も楽じゃないな」

「そのようですね」

「いつまでも野ざらしにも出来ないし、一つは早めに作ってしまおう」

 中はどうにでも出来るので外観だけでも完成させておかないと包んでいるシーツが飛ばされてしまうかもしれない。

 ただでさえ飛竜(ワイバーン)がうろうろしているのだから、早めに行かないと強風に晒されてしまう。

 『次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)』用の目印となる金属の立方体をたくさん用意しておく。

 日光や風雨に晒されても丈夫な金属板も選定しておく。

 強固なガラス。こちらは樹脂製で積層構造にする。そうすることで柔軟性を生み、衝撃にも強いものとなる、はずだ。

 高度な知識を持つヤントラにンフィーレアは驚くのだが、再現が不得手。

 だからこそ助手が必要だ。

 一部の技術を提示するが使い方はンフィーレアに一任しておく。

 将来的に争わないように気をつけるように言いつけて。

 後日、様子を見に来たアインズにンフィーレアは色々と説明する。当然、アインズは面白くない顔をする。

 アインズとしては高度な知識は自分たちで独占したいと思っている。

 将来的な敵を恐れるから。

 技術革新が無ければ平坦な時しか流れない。それは痴呆(ちほう)の世界とも言える。

 頭の悪い世界に君臨する支配者。

 言い分が理解出来るアインズは怒りを覚えてしまうのだが、解決策が浮かばない。

 人任せにする事も出来ないし。

 口の軽いンフィーレアと称していたが助手が彼一人しか居ない。

 リイジーはほぼ手伝わない、というか自分の仕事で忙しい。

 イビルアイは人間的な倫理観を持っているのでヤントラの助手には抵抗を感じている。

「人望が無いな、あいつは」

 人様のことは言えないのだが、仲間が居ないのだから仕方が無い。

 ナーベラルが手伝うわけでも一般メイド達が手伝うわけでもない。

 デミウルゴスが手伝う可能性も少し過ぎったが、彼は彼で仕事がたくさん山積している。

 何でもかんでも技術を公開しようとは思っていないだろう。特に世界に危険だと思われるものは。

 城に色々な発明を披露しているわけではないようだし。

「今、必要なのはゴムとシリカか……」

 シリカは砂浜とか砂漠にたくさんあるから問題は無い。

 要は使い道だ。あと、加工方法。

 溶岩を使うと聞いて驚いた。製品を作る上では溶かして固める必要があるのだろう。それも数千度の高温が。

 保温や断熱は必須だ。

「様々なクラスを得ていたとはいえ、あいつの知識は多岐に渡るな」

 もちろん複製からの情報もあるだろう。

 色々なクラスを経験している事はユグドラシル時代から知っていたので不思議は無い。

「秘密の発明とかは無さそうだな」

「素材についての研究が中心ですね。魔法についてはメイドさんがやってくれますが、自分で使えたら使えたで大変でしょうね」

「うむ。アイテム製作は私も部下に頼るところがある。適材適所だ」

 魔導王アインズ・ウール・ゴウンとて料理は作れない。

「……それにしても竜(ドラゴン)が増えたな……」

 赤竜(レッドドラゴン)は驚いた。

 若い世代と聞いていたので倒せないわけではない。

 エンシャントなどの年寄りは身体も大きく冒険者一人では倒しにくい、というより倒せないほどに強い。

 乱獲しているわけではなく、身体だけ貰って帰しているのであればどこかで見つかる可能性はあるだろう。

「大型モンスターは保管に困りますね。相当の重量がありますし」

 ナザリック地下大墳墓であれば重量はあまり気にしない。

 『マグヌム・オプス』は人の手で作られた施設だから重量の問題はどうしても避けられない。

 地盤沈下は軽微だとしても階層は潰れるかも知れない。

 『懸架(サスペンション)』の研究は必須だ。

 職人系に渡せば色々な素材に加工できるはずだが研究用として置いているだけで使い道は決められていなかった。

 複製とはいえ、食肉加工もおそらく出来るだろう。

 単純な複製ならば食肉加工でも安全そうだが、健康志向のヤントラは難色を示すだろう。

 その気持ちはアインズは理解出来る。だが、ンフィーレアは理解できない。

「大きさはどれも一緒のようだが……」

「そのくらいしか居なかったそうです。竜王(ドラゴンロード)はまだ会ったことがないので、もっと大きい竜(ドラゴン)も居るかもしれませんね」

 マーレが保有する竜(ドラゴン)よりは大きいかもしれない。

 天然の竜(ドラゴン)にアインズはしばし見蕩れた。

 ゲームのモンスターはたくさん引き連れてきたのだが、この世界固有のモンスターは気になってしまう。

 間違いなくユグドラシル由来のモンスターが多数はびこっている。

 ユグドラシルというか、それぞれの神話に出てくるモンスターが。

「生きた竜(ドラゴン)は魅力的だが、乱獲しては困るな……。多数の個体が確認できれば私も持ち帰りたいくらいだ」

 支配下におけるかが問題だ。

 竜使い(ドラゴンテイマー)という専門職なら可能かもしれない。そういうピンポイントな要望に応えられる人材も都合良く居ないものだ。

 月に行くまでの計画書のようなものを眺める。

 時間が空いていてヤントラが居ない日や時間を狙って様子見に来るのだが、計画は遅々として進んでいないのは分かった。

 用意するものや必要な事柄などがたくさん必要なのは理解している。

「大急ぎで作るものと思っていたのだが……。海上にある施設は放置したままか」

「確かにお一人で作る気でいたようですけど、僕が止めてしまったからかもしれません」

「設計案は綿密さが大事だからな。それは仕方あるまい。素人が作れるほど甘くは無いだろう」

 下手すればそのまま簡単に作って行く気だったのかもしれない。

 長期滞在する前に基地が壊れて戻れなくなる可能性もあるだろうに。

 うまくタレントなどが発動して押し留まったのだろうか。

「移動するだけなら宝物庫にする必要は無いな。なら、最終的にはもっと簡素なものになるのではないか」

「そうですね。基地としてなら宝物庫にする必要は無いと言ってました」

 複数建造する案も書かれている。

 床に試作品の金属板が浮かんでいた。

 それらはしっかりとアインズの体重を支えた。

「綺麗な幾何学模様だな」

 小さな板一枚一枚に『懸架(サスペンション)』が施されていて重さが分散されている。

 天空城のように良く分からない技術よりかは目に見えた技術の方が安心する。

 あと、日本語と王国語で書かれているのでアインズも安心して文章を読むことが出来ていた。

 本来なら自分も勉強して現地の言葉を覚えたいのだが、色々と忙しくて単語がいくつか分かる程度だ。

 残念ながらそれぞれの辞書は未完成らしい。

 フールーダに偉そうに翻訳作業をしろとか言ってしまったが自分も帝国語を勉強しなければならないだろう。

 見栄だけではいずれボロが出る。すでに出ている気がするけれど。

 部下に示しがつかない。という言い逃れも段々と苦しい。

 正体を明かした時の様な勇気が欲しい。

 文字が読めない事で部下が失望するのか。ただの被害妄想ということもありえる。

 支配者は何でも承知している、と部下は思っている。その期待に応えようと無理や無茶な論理を展開してしまう。

 自分では情けないと自覚はしている。

 ヤントラはもちろん、そんなアインズの性格を見抜いているだろう。

 性格的に嫌い、ということは本性を知られているということでもあるのだから。

 代わりにヤントラの性格は段々と分からなくなってきた。というか、ヤントラ自身もタレントの影響などで混乱しているようだが。

 エロくて変態なのははっきりしている。

「……ゴウン様。勝手に持ち帰るとメイドさん全員妊娠とか言われちゃいますよ」

「……見るだけだ。いや、読むだけだ」

 と、軽く咳き込んでみる。

 悪口の代わりにメイド達を孕ませようとする意見が聞かれる。

 言ってるだけで実行には移されていない。それは監督役のナーベラルが監視しているからだ。

「メイドさん達は言われるまま服を脱ぎますよね。羞恥心はあるんでしょうか?」

「あるぞ。種族の違いで人間に見せることは気にしない、という事があるのかもな」

 支配者には簡単に見せないようだ。というよりは恥ずかしがる。

 ナーベラルの説明では風呂場のような場所ならば脱ぐ。

 それ以外は命令がない限り勝手に露出することはないとか。脱いだとしても下着姿か裸足。

 ンフィーレアも掃除している時の姿は見た事があるけれど全裸は見た事が無かった。

 イビルアイは女性という事で一緒に風呂に入った事はあるとか。

「いつも脱がしているわけじゃないよな?」

「下着姿で掃除している時に聞いた事があって……。僕の場合は特に恥ずかしくありません、と……」

 既婚者だからなのかな、とアインズは首を傾げる。

 それでも恥ずかしがるンフィーレアの気持ちは少し理解出来る。

 綺麗な女性の肌や裸は見るのが恥ずかしいものだ。

 人造人間(ホムンクルス)とはいえ精巧な身体を作り上げたメンバーも実は相当エロいのかもしれない。

 ユグドラシル時代なら決して見ることが出来ないはずの部分が再現されていると聞いた覚えがある。

 尻はまだ許せるが肛門がある。性器がしっかりあると。

 そんなデザインできたっけ、と首を傾げたくなる。あるというからには信じるしかないのだろう。

 マーレの裸は見た事があるから、女性もそれなりにあるんだろう。

 とんでもないことだ。いろんな意味で。

「裸抜きでメイド達の扱いはどうなっている?」

「監督役に任せているみたいですね。指令書を渡すだけのようです」

 ナーベラルや実際にメイド達からも聞いているので不毛な質問かもしれない。

 そのナーベラルが独断で調査をしようとするのは困ったことだった。

 余計なことはするな、と言い含めたはずなのだが。

 自我を持つと厄介なのはアインズ側でも同じのようだ。

 そういう時はとても共感する。

 どうして慎重に行動し、複製をすぐに処分するのか手に取るように理解出来た。

 先日も許可を得て持ってきたと思って、興味本位で性格を付けて指令を与えてみたらえらいことになってしまった。

 命令は素直に聞いたから安心していた。というか、油断しきっていたのかもしれない。自分の部下だから、とか。

 美姫ナーベは身体が損壊しても戦い続ける戦士だと思われてしまった。

 しかもいきなり規則を破り転移してしまうし。

 相手のナーベラルも周りに気を使ったのか、攻撃は受けきってしまった。

 後で気付いたが髪の色を変え忘れてしまったので、本物がズタズタにされたと思って心配した。

 無い心臓が破裂しそうだった。

 なんか失敗した、という感想だ。

 後で駆けつけたら二人共灰色の髪の毛に変化していて安心した。

 激しい戦いのせいで少し白髪になったと思われたようだ。

 後で問いただそうと思ってヤントラの施設に向かうと本物がメイド達に取り押さえられていた。

 イビルアイも側に居たが叱られた後だった。

 メイド達はンフィーレアによって簡単に行動を停止してくれたから事態は悪化せずに済んだ。

「見分けのつかない複製は危険だな。それは物凄く理解した」

「そのようですね。ヤントラさんは見分け方をご存知のようですが……。それは秘密みたいです」

 アインズも見分け方は報告書で受け取っているので知ってはいる。

 ただ、急なことには対処しにくい。

「オリジナルを殺せる複製……。確かに悪用されれば脅威だろうな」

「僕らに見せないようにしていたのも理解できます。僕もいずれ誰かに言ってしまうのでは、と尋ねましたが……」

「起動できなければ意味がないと言われたのだろう?」

「はい」

 性格付けは魔法では簡単には与えられない。そして、それが出来るのはヤントラを除けば現時点でアインズだけだ。

 アルベドでも出来はしない。

 アインズなら出来る、という言葉は決してバカにしたものではなかったことになる。

 もちろん、それにはまだ続きがあるわけだが。

「僕がメイドさんを呼ぶのとは違うようですね」

「ああ、手を叩くとかか?」

「はい」

「あれはあれで合図としては正しい方法だろう。イビルアイも出来るんだったな」

 というより、そのマニュアルがある。

 アインズも実際にやってみたら出て来た。

 命令の仕方が支配者らしくなく、少しだけ恥ずかしかった。

 敬語を使わないとダメ、という。というか、ユグドラシル時代のメイド達への命令によく似ていた。

 特定の命令にしか反応しない。アインズは本来はこちらの方が馴染みがある。

 マニュアルに書かれていないヤントラ独自の命令方法もあるようだ。そちらの方もアインズとしては知りたかった。

 『魔法の矢(マジック・アロー)』を撃つとかかっこいい気がしたので。

「命令を受けたメイドが処(・)分(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)と(・)出(・)て(・)来(・)な(・)い(・)という弱点がありますけどね」

「うむ」

 そのナーベラルはここ数日は来るたびに椅子に縛り付けられているらしい。

 短時間だけの罰のようで、本人も反省しているのか素直に従っている。

 非処女ならもっと恥ずかしい体勢にさせられる、という事も聞いている。

 そんなことで戦闘メイドは動じない。だが、アインズは慌てふためく。

 この野郎、と。

 今回持ち出したのはナーベラル型だけだが、他にもあればもっと酷いことになっていたかもしれない。

 自分の予想が正しければアルベドは居る。

 シャルティアも居るだろう。

 アウラとマーレも。そして、自分も。

 悪用するなら戦力にするところだ。だがそれはしていない。

 予想がついているのなら開き直るはずだが、それは何故だろう。

 聞いた話しではセバスとツアレも居るようだ。

「たくさんの複製を戦力以外に使うとすれば異種交配が浮かぶのだが……。それだけだろうか?」

「それは……、えっと……。これではないかと」

 と、ンフィーレアは与えられた無数の羊皮紙を収める棚から書籍を一冊アインズに渡す。

 題名は書かれていないが開くと日本語が目に入る。

 ンフィーレアがどうしてこれを選んだのか疑問だった。

「ンフィーレアはこれが何なのか知っているのか?」

「僕も色々と翻訳に挑戦してまして」

 天才薬師と言われているし、勉強家でもある。

 翻訳作業も出来ないわけではないだろう。

「各職業についての解説書だったかと」

 それはイビルアイや帝国、竜王国に渡された書物の中にもあるものだった。

 知りえている戦士(ファイター)などの職業、スキル、前提条件などが色々と書かれている。

 複製の利点は情報を得られること。その中の一つが得ているクラスが入っている。

 パワーレベリング次第では色々と都合のいいクラスの考察も出来る。

 この書物自体はアインズも要人に提供することを許可してしまった。

 一般には流通していないのだが、色々と情報が出るのは面白くない。

 それはただ独占欲が強いから、と言えなくもない。

 複写して周りに配りまくっているわけではないし、強さの秘密は誰もが知りたいことだろう。

 あと、自分の可能性など。

 自国民を強くする上では貴重な情報とも言える。

 いわゆる賢い部下はすぐ殺せ、という事も関係するのだろう。

 頭の悪い部下が増えるのは困るのだが、下手をすればバカの量産を自分はしようとしているのかもしれない。

 一枚一枚確認してみた。

 戦士は誰々が取得している、という個人情報は書かれていない。

 モンスターの情報が載っている書物は作られていないらしい。もちろん、ンフィーレアが知る限りは、だが。

 ドキリとさせる情報もあるにはある。

「面倒事の嫌いな私の敵だな」

 ここにある書物を全て燃やしたいぐらいだが、情報の価値は高いのでアインズも欲しいと思う。というか、貰っていた事を思い出す。

 自分の執務室に大切に保管していた事を忘れていた。

「……これらの書物を処分したら秘密の漏洩は止まるだろうか?」

「ええっ!? そ、それは世界の宝を失うようなことに匹敵しますよ~」

「面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。私なら秘匿するな」

 というか国家機密指定ものだ。

 魔法の一覧表というのもそうだ。

 自分なら情報を集めて外部に出さないようにするだろう。

 秘宝を最奥に隠すように。

 ヤントラの宝は間抜け野郎だと思って全部奪って破壊して逃げる事も可能だろう。

 では、世界を征服した後はどうなるのだろうか。

 敵が居ない状態になった場合は隠す理由はなんだろう。

 ただの姑息な支配者が残るだけだろうか。

 宝を独り占めにして世界に君臨する心の狭い支配者。

「……いや、まあ……なんというか……」

 ヤントラも危険な情報は秘匿する。それは自分も理解出来る。

 発展の無い世界はただ無為に時間が流れるだけで面白いとは言えないだろう。

 魔導国の都市となったエ・ランテルの冒険者は減る一方だ。余計な奴らが居なくなるなら大歓迎だが、人が少なくなると税収は減るだろう。

 アンデッドが働いても収入にならなければ意味が無い。

 いっそ全ての住人を追い出した方がいいのかもしれないけれど。

「……困ったな。私は隠し事が多いようで……」

「そうですか?」

「奴なら色々と教えてくれるだろう。というか私も色々と学んでいるのが恥ずかしいな」

 それなのに秘匿しろ、とか言っているのだから困ったものだ。

 自分にしか出来ない方法はちゃんと専用の書類として渡してくれたのに文句ばかり言うのはかっこ悪いだろう。

 顔を隠し、モモンというアンダーカバーを演じたり、色々と人に言えないことをしてきた弊害かもしれない。

 正体に関しては自分から明かしたのだが、それによってすっきりした事は多々あっただろう。

 イビルアイとも以前と変わらぬ付き合いが出来ている。

「しかし、月に行ったとして、あいつは支配者になれるのか?」

「ならないかもしれませんね。えーと、教育係を残して将来的には自然に文明を作らせる予定だとか」

 という事が羊皮紙に書かれているらしい。

「はっ? それで国が成り立つのか?」

「最初は誰にも文句が言われないような実験をするんだと思います。それから後は知的生物の自由にさせるみたいですね。基地作りで忙しいから国はまだ考えていないのかもしれませんね」

 行ってから考えよう理論かもしれない。

 出来ていない事を事細かく質問しても答えようがないよな、と思った。

「ふむ。それはそれで奴らしいな」

「国より基地が出来ないとどうしようもない、という……」

「一理あるな」

 国が出来る以前に空気が漏れて全滅という事もありうる。

 そうなれば泣くしかないだろう。というか自分だったら泣くな、確実に。

 秘密についてだが、王国や帝国の人間に広く説明しているわけではなく、主に施設内のンフィーレアとイビルアイに話しているくらいだろう。

 リイジーとは元気かどうかの様子見程度のようだし。

 気にしすぎなだけかもしれない。

 複製や変態は仕方がないとしても。

 それに秘密を一番知ろうとしているのは自分かもしれないとアインズは苦笑する。

 ナーベラルとルプスレギナに探りを入れさせたりしているし。

 さすがに一般メイドは得意分野ではないので特に命令はしていない。

 ンフィーレアはカルネ村では薬師の研究が中心で冒険者の依頼などはしているが施設の秘密については話題に上らないらしい。

 子育てに忙しい事もあるだろう。

「……ん」

 急に良い案が浮かんだ、気がした。だが、それが本当に良い案なのかは自身が無い。

 ここにナザリック地下大墳墓の面々が居ればどう答えるだろうか。

「えー、ごほん。ンフィーレア」

「はい?」

「ちょっとした事なのだが……、聞いてくれるか?」

 この場所は色々と都合がいい。

 ナーベラル達やアルベドの目が無い。だから、自然とンフィーレアとイビルアイとは話しやすい関係になっている。

 素の自分はまだ出せないけれど、意見はよく貰うようになった。ただし、ヤントラが居ない、という条件でだ。

「せっかく接収したエ・ランテルはとても寂しくなった。アインズ・ウール・ゴウン魔導国の周りの都市造りも佳境なのだが……。色々と法律だの作らねばならん」

「そうでしょうね。国を作るのは大変な作業だと思います」

「仮にエ・ランテルをヤントラの奴に任せると言ったら引き受けてくれるだろうか?」

「はっ? えっ? エ・ランテルをヤントラさんが支配するって事ですか?」

「支配というか都市長に据えるという意味で」

「あー……。僕に聞かれるよりは……。ああいえ、言いたい事は分かるんですが……。他人である僕には答えられないと思います。……もし、そうなれば……。どうでしょうか。人を使うのが下手だと言っている人ですよ」

「……そうだった……」

 変な統治はしないだろう。というかエロい法律を作る可能性は少しだけあるかもしれない。

「実験が出来なくなるか……」

 かといって階層守護者を都市長に据えるのは怖い。

 確実に人間が居なくなってしまう気がする。

 戦闘メイドは論外だろう。あれらは都市を導くような能力は持っていない。

 権力欲のある者ならすぐ飛びつきそうなものだが、それではダメな気がする。

 勝手に都市長に据えたらヤントラは全力で嫌がりそうだ。

 それはそれで見てみたい。個人的には興味がある。

 この施設が出来る前に頼んでいれば引き受けていた可能性はあっただろうな。そうすれば都市開発で今頃は王国の側ではなくエ・ランテルに『マグヌム・オプス』は作られていただろう。

 それにモモンより確実に人間の都市長を据えた方が人心掌握も容易く出来ただろう。

 過ぎたことだが。

 では、イビルアイはどうだろうか。

 モモンの頼みとしてなら受け入れる可能性はあるのだろうか。元々は王国の人間だ。こっそりと領土を返還するかもしれない。

 戦争を仕掛けられるという点から返還は無意味に終わるかもしれない。もっとひどいことになるような予感はするけど。

 ラキュースは子供が居る。

 将来的な話しではラキュースを据える事も考えられるかもしれないが、最低でも十五年くらいは先の事になりそうだ。

 勝手に国が繁栄して税が入る。ということにはならないよな。

 月に行く奴を都市長に据えるのは可哀想な事かも知れない。

 統治もろくに出来もしないのに世界征服とか言い出したバカな奴のせいで頭が痛い。

 誰だ、世界征服するのも面白いかも、とか言い出した奴は。

 天空城を作ろう、の方がまだ気楽な男のロマンだったかもしれない。

「メイドを孕ませていい、と言ったら受けるかな?」

「引き受けそうですね」

 ンフィーレアは苦笑する。

 おそらく二つ返事で。そういうイメージが浮かんでしまった。

「……ところで人造人間(ホムンクルス)も妊娠するものか?」

「するらしいです。色々な条件が必要で簡単ではない、と聞いた覚えがあります」

「……色んなエロいことしてるんだな」

「それこそ僕らに見せられない実験みたいです。異種交配はそれなりに見せてもらった気がするんですが……、何故秘密にしたんでしょうか?」

 ンフィーレアはエンリを孕ませたのだからエロい事は知っているのだろう。その上で秘密と言うのは確かに変な話しだ。

「精神的にきついとか。さすがに残酷な場面ではないと思いたいですが……」

 メイド達にもそれなりに聞いてくるように命令を与えた方がいいだろうか。

 人間とは違って平気な部分があるだろう。

 ナーベラルは単独行動を取りがちだし、ルプスレギナは信用ならない部分がある。

 今なら無報酬で色々と聞き出せるかもしれない。勝手に部屋に入らない限りは。

 持ち出しは命令していない。それを信じてもらえればチャンスはあるだろう。あと、一般メイドと話す機会も持てるし。

 

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