ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
アインズが準備を整えている間にヤントラはアイテム生産の様子をうかがい、羊皮紙生産の様子も見ていく。
施設外のことは関知しないので世間の流行や情報は意外とうとくなっている。
ラキュースの元に行く時は冒険者ギルドで噂話の収集も
イビルアイは城勤めが多いし、貴族の話しは正直、興味が無かった。
第一王子と第二王子がヤントラの施設を狙っている、と言われても気にならないほどだ。
屠殺場に掲げられた地図も随分と埋まってきた。
生息というか発見したモンスターの一覧も貼り付けられている。
ユグドラシル時代には異形以外にも人間型のモンスターが存在する。それらは人の文化は形成せず、モンスターという分類だ。
傭兵のような召喚モンスターではなく、天然モンスターの方が色々と実験しがいがある。
高レベルモンスターは今のところ周辺の国には見当たらないようだ。
明らかに居てはならない強さを持っているので目立つことこの上ないだろう。
天然モンスターはユグドラシルよりも低レベルになって徘徊しているという事もあるかもしれない。
八欲王の時代で多くの高レベルモンスターが駆逐された可能性もある。
今のところ世界最強種が
評議国周辺には
厄介な
時々、他のモンスターを取り込んでケンカが起きるくらいだ。
そういうこともあって、国境周辺はモンスターの戦闘がよく起きるのだとか。
めぼしい女体モンスターは発見時には既に餓死していたり、殺された後だったりする。
特に砂漠は食料や水が手に入りにくい。モンスターも生息しにくい。
南方は亜熱帯。恐竜のようなモンスターも多数生息している。その強さは
身体も大きいし、女体は期待できない。
帝国側を更に突き進めば東洋系のモンスターが増えてくる。
天然の天使は現れていないようだが、居そうな気がする。
極端に巨大なモンスターは見当たらないようだ。
怪鳥とかも居そうで見当たらない。
インド神話系。これは確実に居る筈だ。しかも破壊神が多いから争いの絶えない地域に生息していそうだ。
だが、あまり厄介なモンスターは居てほしくないな。
人型だとモンスターなのか原住民なのか分からない奴も居るんだろうな。
クルシュの姿から亜人のメスに多大な期待は持てないだろう。
「人の国家は出て来ないか……」
帝国から離れた場所には少し強いモンスターが生息しているようで人間の国は見当たらない。
亜人の国の冒険者が頑張っているのかもしれない。
それぞれの地域で暮らしやすい生態というものがあるのだろう。
砂漠を越えたところに人間の国が出てくるようなのだが、詳しい調査は継続中だ。
広大な世界であるのだから細かく調べるのには時間がかかる。
もう五百人くらい追加すればかなりの速度で調査が進むのだが、性急過ぎてはつまらないだろう。
地図の位置を高い場所に移して培養の部屋に向かう。
追加が無い分、減る一方なのだが数万人分は集まっただろう。
後はモンスターの分も挑戦してみたいところだが、こちらは殺しているので復活した途端に暴れそうだ。
オリジナル体は適度に必要なのだから仕方が無い。
無尽蔵に漂う魂は厄介なモンスターを生み出すような気はする。
生命はどんどん生まれるものだから。
次に七の宝物庫の様子をうかがう。
地下二階は相当な数の容器に占拠されている。
壮観と言えるだろう。
段々と積み重なっている景色はコールドスリープ状態で宇宙旅行する人々のようだ。
寿命のある献体が多いので活動を止めていないと成長が進んでいずれは腐って死んでしまう。
床ずれなどで血行が悪くなる可能性があるから。
人間種だけ残すのは差別的かもしれない。しかし、厄介な特殊能力を持つ者まで収容するのは嫌だ。
匙加減はさせてもらう。世界の危機に陥っては困るから。
続いて上の階にあがる。
複数の
フェルト用の材料が詰まった箱やナザリックに送る資材の入った箱などがたくさん並んでいる。
せっかくの
イエローとかオレンジとかピンクとか。
アンデッドは要らないな。
そういえば
胎児なのか卵なのか。
そういうエロい情報は無いからな、普通のファンタジーには。
地面をこれ以上掘るより、空中に作った方が健康的気がする。
やはり建設を一つ進めた方が良いだろう。
色々と考えているとルプスレギナが姿を見せた。
「ちーっす、バスパ様。様子見に来ました~」
「そうか。献体の勝手な持ち出しはダメだぞ」
「了解っす。ほわー、
軽くジャンプして浴槽の中を覗き込む。
保存液に漬けているとはいえ巨体を多くは置けない。
「
「やらんぞ」
「えー、ちょっと欲しいっす」
「欲を出すとエロい要望を出すぞ~」
「ひゃー」
ヤントラは真面目な顔になりため息をつく。それは別にルプスレギナの態度に呆れたわけではない。
「……メイドの扱いが悪いのは煩悩のせいかな」
「人体損壊でなければ大丈夫っすよ。ちゃんと食事と休養は取って……、取らせているので」
全員を確認したわけではないので少しだけ疑問に思ってしまった。
「可愛いメイドさんは大事にしなければな」
「……治癒してくれるなら、こっそりエロい事してもいいんじゃないっすかね。……殴ったり、とか本当にイジメたりしなければ……」
「それは願ったりだな、煩悩としては」
正直なヤントラが大好きだと思った。
「ところで、ルプーは私のエロい行為は見たいか?」
「バスパ様の? えー……、オスの行動は確かに興味はあるっすけど……、見るだけとなると……。なんとも言えないっすね。見た目では判断出来ない、かな……」
エロい事とは無縁に生きてきたので急に聞かれても答え難い。しかし、オスには興味がある。
ルプスレギナの一番は相手の絶望に歪む顔であり、エロい事は少し下に位置している。
性欲の無い主だから難儀している、ということもあるかもしれない。
ヤントラはアインズとは真逆の性欲まみれ。むしろ好感が持てるほどではあるけれど、極端すぎて意見が出しにくいところがある。
少しずつ慣れてきたこともあるけれど、まだまだエロさでは勝てないかもしれない。
「実際問題、一般メイドの子宮に射精したらどうなるんすか? 中で乾いて張り付くだけとか?」
「妊娠しないならそうなるかもな。あるいは異次元に吸い込まれるか。非処女なら洗浄も容易いだろう」
「……やっぱ破った方が……。私も結構エロい煩悩に支配されているようっす」
「ようこそ、エロい世界へ」
「お邪魔するっす。……後でとんでもなく説教を食らいそうっすね」
それはまるでぶくぶく茶釜に説教されるペロロンチーノのようだと思った。
「快楽を感じるようだからついつい……。もっと優しく接したいのにエロが
「メイド達は個人的にどうなんすかね。気に入らない部分とかあるっすか?」
「素晴らしい肉体と精神を持っていて感心している。こちらが申し訳ないと思うくらいだな。レベルが低い以外は特に無いかな。全員をちゃんと優しく扱いたい」
「そうっすかー。それとなく伝えておくっす。あっと、妊娠した後、一気に大きくなるのは英雄や女神系っすか?」
「今のところは。
「了解っす」
メモ用紙を取り出して色々と書き込んでいく。
「……性転換は秘密だと思うっすけど……。やりようによっては自分のもので妊娠も可能とか?」
「生物的に妊娠できるなら可能だろう」
「……うわぁ……。それは夢が崩れそうっす」
「近親相姦という言葉があるくらいだ。……この話題はやめておこうか、可愛いルプーのイメージがどんどん崩れていくかもしれないから」
ルプスレギナは顔を赤くして苦笑するのみだった。
嫌いな話題ではないのだけど、性的興奮の為に股間が少しむずがゆい。
「えっと……、ド、
「ンフィーレア君の研究が済んでから考えてやろう」
禁欲生活が続くナザリックは実は色々と危ないのでは、とルプスレギナは思い始める。
自由な子孫繁栄も進言したくなってきた。
アンデッドは平気でも生身の部下のことも考えてほしい。
そんなことをヤントラの胸をつつきつつ小声で呟いていたようだ。
アインズなら声を荒げてとんでもないことだ、と言う話題もエロいヤントラは温かく受け止めてくれる。
「エロ無しで国を繁栄させようとするのが……。これは、悪口になるな……。最終的に私が
「ぜひ、
と、力強く赤い髪のルプスレギナは言った。
ナザリック側にとっての悪者にされることは特に問題ではないだろう。
若い娘が男が欲しい。エロいの大好きと言うなら主は叶えてやろうとしたり考えたりはするべきだろう。
「相手は都合が悪くなると棚上げしようとする支配者だぞ。相当な強敵だ。あと、この手の話題が出たら……」
「この施設を破壊する可能性大っすね」
「……かといって妊娠しました~、と言おうものなら」
「超位魔法……くらい簡単に落ちて来そうっすね」
「それは時間をかけての交渉か……」
「……それが無難っすね……。勇気を出すのも一苦労っす。……はぁ、辛抱できるっすかね、私の性欲は」
「焦らしの女殺しだな、アインズは」
「ははは。……ナザリックの階層でえもいわれぬ喘ぎ、いえ、うめき声が聞こえるのも遠い未来ではないかもっす」
そこかしこで男を求める女の嬌声が漏れたら支配者の責任だ。と、面と向かっては言えないがうめき声は少なくとも流れ続ける結果になるかもしれない。
獣の発情期は簡単には収まらない。
「危ない話になりそうだから、保留にするぞ。
「そこは適度に手足を落すなりすれば……。それでも入り口は通らないっすかね」
『
今日は色々と解禁された部屋があるらしいので様子を見に行く。というか移動しないと桃色の空気に汚染されそうだった。
気分は変えないといけない。いろんな意味で。
二の宝物庫がどんな状態なのか。
新しいアイテムなどがあるのか、どうなのか。
持ち出そうとすればメイド達に取り押さえられるはずなので、調べるだけで我慢しなければならない。
入れてくれるだけでありがたいと思わなければならないだろう。
いざとなれば泣き落としという必殺技も出さざるを得ないかもしれない。
最終的に妊娠という結果は避けたいところだ。
送り込まれているメイド達の話しでは全裸での活動はほぼ無い、ということだった。
大浴場で献体を洗う時や風呂としての利用の時は裸になったという意見があった。
色んな風呂用具を提供されて楽しかったと聞いている。
具体的には湯船に浮かべたり、香りの良い石鹸や髪に付ける香料などだ。
「……お邪魔しますよ~……」
と、裸足になって大浴場を視察するルプスレギナ。
基本的に浴槽には湯が張ってある。
何度か沸かし、一定時間になると浄化していく。最初は薪だったが今は
普通に使う浴槽は定期的に洗うそうだが利用しない時は棒だけ入れられている場合がある。
一般メイドにどう掃除させれば良いのか、決めかねているらしい。
使わない浴槽は完全に湯は抜いている。
トイレも利用者が居なければ綺麗なものだ。
色々と決められない状態の時は『
複数の浴槽に洗浄を終えた献体が入れられているが一定時間、身体を外気に慣らせる為に薬草を入れた湯船に入れられる。
空気に触れて肉体が崩壊しないように、という理由で。
本当に崩壊するのかは不明だが、ゲン担ぎのように行われている。
作業に従事するメイドは仕事以外は
そのまま通り過ぎて屠殺場に行こうと思ったが出入り口はメイド達に封じられていた。つまり通行禁止と言う意味だ。
代わりに二の宝物庫は誰もいなかった。
近づいたら急にメイドが出現する意地悪はされない。
「……失礼するっす」
と、言いつつ二の宝物庫の扉を開ける。
以前なら金貨の山が出迎えてくれるのだが、今は床に散らばるアイテムが見えるのみだ。
「おや? 誰も居ない……」
靴を履いて中に入ると様々な鉱物資源や書物、データクリスタルなどが散乱している。それらは棚からこぼれたものではない。
「足の踏み場がある程度っすか。それでも凄い眺めっすね」
事前に触ってはいけないアイテムの情報は得ているので手袋を装備する。
触れた程度では使用されたことにはならないけれど注意するようには言われている。
「アダマンタイトの塊がそこかしこに……」
そういえば、このアイテムの回収は一般メイド達にさせることになっていたことを思い出す。
手を出すと仕事を奪うことになるかもしれないので、邪魔なる物だけどかすことにした。
「あったあった。これっすね、データクリスタル。……あと黒い本には手は出してはいけないと……」
自分に与えられた指令書を確認してアイテムを調査していく。
膨大な資源の一部がナザリックに運ばれているのは知っているけれど泥棒みたいなことをするのは少し気の毒に思った。
献体とは違い、棚に収められているアイテムは頼めば貰えそうなものだ。
金貨の足しにする分もあるかもしれないけれど。
「たくさんあるっすけど、分類はされていないようっすね。……分類できる場所が無いからか……」
床に散らばるアイテムを蹴散らしつつデータクリスタルを並べていく。
最初から乱雑に散らばっていたので今更丁寧に扱っても仕方が無いだろう、壊さなければいいんだ、と自分に言い聞かせる。
新たなデータクリスタルを得る手段が無い今は『マグヌム・オプス』だけが頼りだった。だが、自分達の主は秘密裏に行動させたがるので気の毒だとか罪悪感は少しは感じている。
こそこそしないで堂々と頼んだ方がたくさんもらえそうな気がする。
というより必要なアイテムを要望した方が手間がかからない。
至高の御方の命令なので従うのが部下の務めだ。
「……これどうやって見分けるんすかね。普通に並べると全部同じに見えてしまう……」
データクリスタルは触れれば効果が判明するのだが、アインズは伝え忘れていたようだ。あと、触ったくらいではどうにもならない比較的、安全なアイテムだ。
色も微妙に違うものが混じっている。
明るい色に暗い色。
数十分ほど格闘し、面倒くさいという結論に至った。
「……うん、適当に持ち帰ろう」
用意していた『
後で要らない物は返せばいいや、という事にした。
用件が済んだ後は次の部屋に移動する。
一の宝物庫の地下二階。
メイドが立ち塞がっているところは入れないけれど、それ以外は自由。ただし、何も無い部屋があるので面白みにかける。
地下一階は重要施設の一つでナーベラルの複製が安置されているのは確認済みだ。
ルプスレギナの部屋もメイドは警備していないので入る事は可能のようだ。
複数の容器が置かれているがレベル毎に注意書きが張られていた。
一部の容器類にはシーツがかけられている。
上を見上げると浮遊する金属板によって更に容器が置かれていた。
「綺麗に整頓されていると安心するっす。……なんかありがたいっすねー。愛っすかねー」
気持ち悪い改造はされておらず、溶液も綺麗だった。
勝手に持ち出して使われるのは気持ち悪い。
この階にあるものは迂闊には持ち出されないものなんだろう。
他の入れる部屋も覗いてみたが綺麗に整頓されていた。
問題はソリュシャンだが、こちらは何故か人型と
エントマは部位の大部分が外された素の状態だった。
イビルアイやラキュース。
どれも丁寧な扱いだった。
「余計なことをすると危険そうっすから、退散しますか。……んー、でも、秘密は……。あー、武器庫をまだ見てなかったっすねー」
かなり奥まった場所にあるメイドが立ち塞がっている部屋が問題の武器庫らしい。
戦闘メイドの武具などが収められている、というのは聞いた事がある。
持ち出されて悪用されるわけにはいかないのだろう。
守るべきところはちゃんと守っているようで安心したが見たい気持ちもある。
ダメもとで尋ねると腕をつかまれてしまった。
「……おぉ……」
左右から逃げられないようにメイドがルプスレギナを拘束する。
その状態で扉が開けられる。
扉の中には以前見たことのあるヤントラの武器が立てかけられていた。一部はシーツなどで隠されている。
長くて赤いハルバードもあった。これは
武器類が多く、防具が見当たらない。
ナーベラルの
ルプスレギナは自分の武器はちゃんと持っているので似せたものだろう。
同じように防具も拘束を条件とすると中の様子を見せてもらえることになった。
ただし、武器と違い、半分近くがシーツで隠されていた。
それはどう頼んでも取ってもらえないようだ。つまり相当の秘密が隠されているのだろう。
一応、自分達の防具に似たものが綺麗に並べられていたのは確認した。
武具以外の秘密は頼んでもダメだった。
あまり抵抗すると後で来るメイド達に迷惑がかかるかもしれないので引き下がることにした。
いずれ公開してほしいところだ。
ただし、それはナザリック側の譲歩も必要になってくるかもしれない。
目的は達成したので後は退散するだけだ。
部屋を出る事を伝えるとメイドは解放してくれた。
感知できるだけで十人は取り囲んでいる。素直に帰った方がお互いのためだろう。
屠殺場への道は塞がれているので大浴場を通って七の宝物庫に向かう。
一定距離、離れるとメイドは自分の仕事に向かったようで追ってこなかった。
六の宝物庫に顔を出すとヤントラは書類と格闘していた。
軽く挨拶してナザリックに帰還する。
アイテムを取り返しに追う者の気配は無かった。そして、大きく息を吐き出す。
「あー、これはきついっすわー。黙ってアイテムを持ち出すの、やめた方がいいっすね」
戦利品をアインズに渡すと鑑定を専門のシモベに依頼する。
「頭は下げたくなかったのでな。ご苦労だったルプスレギナ」
「……素直に頼んだ方が捗りませんか?」
「お前の気持ちは分からないでもない。何かあれば迎えに行こう」
「出来れば穏便に……」
「うむ。善処しよう。今後もちゃんと! 仕事をするならな」
「……はい……」
深く平伏して了解の意を表すルプスレギナ。
武具については力なく説明したがアインズは何度か頷くだけだった。
「……子孫繁栄について進言してもいいでしょうか?」
「んっ? それは大事なことか?」
「メスとしては大事な事でございます」
アインズとしては聞きたくない話題であるのはすぐに理解した。
内容としては発情期を迎えたので同種のオスが欲しい、ということから始まった。
生身の身体を持つメスは今後どうすればいいのか、考えてほしいと伝えてみた。
「……確かにメスには大事なことだな」
「気が変になってからでは遅いので、なにとぞ……」
「う、うむ……」
保留や棚上げばかりするとエロいヤントラに頼りそうで怖い。いや、現にヤントラに相談している気がする。
頼めば叶えようとするだろう。ナーベラルを陵辱したとかしないとか聞いたのだから。
というよりも『本来のヤントラ』が何故、女体モンスターを狙うのか、アインズは実はまだ理解できていなかった。
そういう趣味の人と斬り捨てることは出来るのだが。
部下の将来を考える必要はあるだろう。アウラやマーレと違い、ルプスレギナ達は年頃の女性だ。
異性を求めたくなるのだろう。
自分はアンデッドの身体だから気にならないのかもしれない。けれども一応、性欲はある。
良し、交尾自由。と簡単に言えない。
ただ、ハムスケのように鼠算式に増える心配は無いだろう。気持ち的には清いままで居てほしい。
だが、それは支配者のわがままだ。
生身であるのだから欲求はいずれは発散しなければならないだろう。いつまでも自慰だけでは気が変になって暴走するかもしれない。特にアルベドは一番、危険な気配を感じる。
ナーベラルが前に言った卵巣を摘出する、という事態は避けなければならないだろう。
女性の尊厳は守られるべきだと思う。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国は避妊処置が義務付けられた禁欲にまみれた国。ということになってしまえば、大混乱となるだろう。というか、そんな国に住みたいと思うだろうか。
あらゆることを禁じようとする支配者。よくよく考えれば酷い事だ。
いずれ飲食店も禁止。言葉も呼吸も動くことも禁止。破れば面倒ごとが起きるかもしれない、とか言い出す。
抑圧的な宗教国家みたいだなと呆れてしまう。
自分は逃げるけれどヤントラは逃げない。それがまた腹が立つ問題ではある。
部下の意見に耳を貸さない愚かな支配者が一番の原因なのは理解している。
清いまま数十年も発情期と戦うのは辛いだろう。どこかで発散させなければ。
上司として部下になんと言えばいいのだろう。
結婚したいんです。ダメだ。仲間の娘が他人に
上司の命令で永遠に処女を保て、と言えば。無理ですぅ、となるだろうな。
何がしたいんだ、このバカ支配者は。アインズは本気でそう思った。
部下の気持ちに応えてこそ良き支配者だろうに。
全く、その通りです、アインズ様。と、自画自賛だ、この野郎。
「急ぎでなければ……、熟考させてもらおう」
と、言うと太陽が輝くような笑顔を向けられる。
「あ、ありがとうございます! ……できれば……、数百年後というのはご勘弁を……」
「う、うむ。お前の美貌が保つ間には……、なんとかな」
「……子宮が化石化したり、……中身が石になると排泄行為も……」
「……わ、分かっている。あー、泣くな、ルプスレギナ」
女性にとっては大事なことなのだろう。
あくる日にはシズ・デルタが一人で訪れた。
金貨が見たいというのでヤントラは五の宝物庫に案内する。
平たく並べられた金貨。
推定枚数は途方も無いので数えられない。
一階部分が埋まるほどの量なのは理解した。
いくつかの金属板を仕込むことで重さを軽減し、壁にかかる圧力も減らせるだけ減らしていた。
「……ここは話し合いに適している?」
「今は二人だな。秘密の話し合いなら移動しても良いぞ」
「……では、お願い」
五の宝物庫から二の宝物庫を通って一の宝物庫の地下二階へと移動した。
現場に着いた後、複数体のメイドを呼び出して警護に当たらせる。
狭い一室に入り、椅子を出してシズを座らせる。
エロいことをする命令は未だに有効という事を思い出したが保留にする。
「用件はなんだい?」
「……私の複製は今も顕在か?」
「大事に保管しているよ」
隠すほどのことでもないので普通に答えた。
自分の身に起きていることくらい分からないバカではない。
「……今後の情報を模索する為に大規模な改造を献言する。……複数の頭脳を連結し、演算能力を高めれば必要な結果が得られる確率が高まる、はず」
「シズ自ら許可してくれるのか?」
「……宇宙は科学者のロマン。……だけどここは西洋風ファンタジー。……私の活躍は場違い。……やはり宇宙が関わらないと……」
シズは用意してきた羊皮紙の束をヤントラに渡す。
それは様々な活用方法なのだが、シズを解体して組み立て直すような事柄ばかり。
複製が無ければ出来ない方法の検討が記されている。
当然、そんなことはナザリックでは出来そうにない。
「……一般化までとは言わない。……小型化が成功出来れば欲しい」
「色々とありがとう。すぐに取り掛かれないけれど、頑張るよ」
「……それとは別に、地上にあった施設が減っている。……移動させたの?」
「床材の為に解体した。あれこれ同時に進めるのは大変だ」
「……了解した。……ただ、一つは魔導国にも欲しいとアインズ様がおっしゃられた。……検討を希望する」
「検討しておこう。それより頭脳を並べるという事はシズの頭を並べるようなことになると思うのだが……」
「……科学の発展は失敗の連続。……バージョンアップは必定。……可能性の追求は大事」
「心強いな。分かった。それで要望は以上か?」
「……うん」
シズの頭を撫でたり、軽く抱きしめる。
科学者のロマンということで『自爆ボタン』も入るらしいが我慢すると言ってきた。
後日、改めて訪れると言い出した。
「……複製の複製は心許ないと判断する」
壊れっぱなしではパスワード管理に支障が出る。
それから真っ直ぐに七の宝物庫に移動してナザリックに送り返す。
用意してくれた様々な案は広い空間を必要とする。
色々と物を置くようになった今は新たに作る必要が出始めている。
単純にシズの頭を百個並べればいい、というわけにはいかない。
それを解決する方法はあるんだろう。
メカに強いクラスを動員すればいい。
下手をすれば世界観が崩れ去る。
二百年前に現れたという
物は知っているけれど再現できない。
シズが喜べるものは作ってやりたい。その為には広大な敷地が必要だ。
色々と仕事が増えた気がする。しかも無収入。
ある程度の資金を提供してくれたラキュースに深く感謝しよう。
金銭的なお礼は出来ないのだが。
用意だけは整えておこう。そして、期待には応えなければ。
後は専用のクラスを用意するだけだが、本格的に計画が進んでいるのだなと感慨深くなる。
次の日にシズが訪れ、一の宝物庫の地下二階部分に案内する。
停止命令を与えた後で隣の部屋に装備類を仕舞い、複数のメイドを配置しておく。
いくつかの回復手段を確認して作業を始める。
細かい部位の搾取なのだが人海戦術は恐ろしい。
本来なら複製が出来れば、それを搾取すればいいだけだ。
今日はせっかくオリジナルが来てくれたので遠慮はしない。
大きな容器に入れていくのだが、腕や脚を細かく十から三十等分したり、女の子なので顔に傷が付かないように気をつけたりする。
まずは首から離して作業を進める。そうしないと総ダメージ量が加算されてしまう。あと、オリジナルから取れる部位は限られてくる。
予備の予備の個体をいくつか用意して搾取する。
オリジナルから取れる部位は限定的にした方が管理がしやすい。
後で一個ずつ分けるのだが、眼球は相当な数が溜まるだろう。
耳ほどの大きさでもいいので細分化してしまうと相当量がすぐに溜まる。
日が暮れる頃には数えるのがバカらしくなるほどの部位が溜まる。念のために男性化による搾取も
射精はするのか、という疑問に対しては出せるが得体の知れない液体で、効果は不明。
シズが良く飲んでいる専用の飲み物の廃液に似たものらしい。聞いた事の無い成分でどうしようもない。少なくとも放射性物質ではない事は確認出来た。
ろ過すればまた飲めるのではないかとさえ思う。
機械は機械らしい方がいいだろう。
妊娠するとも思えないので擬似的な行為で終わるのだろう。
ナーベラル達も人並みの快楽を感じるようだし。
不定形は無意味だろう。そもそも交尾する必要が無い。
何日もかけたいところかもしれないが、長居はさせられない。
感覚的には首から下は一回の再生で済む程度のダメージだろう。
完全再生した後はシズ専用の飲み物を与えておく。
他の
部屋を掃除したり、服を着せたり、念のためにマッサージや歩行訓練。
スキルの確認などをしてから礼を言い、大量の金貨と飲み物を渡して送り返した。
集めた容器はシーツで包み、保管しておく。
それよりも作らなければならないものが多くあるので一つずつ片付けていく。
魔導国に浮遊する建築物を作ることだが、どんなものがいいんだろうか。
簡単なのは立方体だろう。
後日に訪れたメイドが多かったので培養室の容器の洗浄を頼んだ。
一日で終わる数ではないので一人ずつ目標を与えた。
使用済みの容器を改めて洗浄すると結構な時間がかかる。
見回りと並行する場合は五つくらいが限界かもしれない。
その間に書類と格闘する。
予定表を書き並べてみた。
子育てや王国、帝国、竜王国も抜けていた。
羊皮紙は充分な量は確保している。
『
すごい機械的な発明。
魔導国に浮遊する建物。
月に行った時にすること。
他の未知のモンスターやダンジョン。
エロいこと。
植物系モンスターの入手。
『シリカ』と『フェルト』の作成。
献体は充分過ぎるほど集まった。
後はメイド達の仕事を除けば何があるだろうか。
「全部やめようかな」
「やることがたくさん残っていますからね。少し休息を取るのも大事かもしれませんよ」
「……っていうか、これいっぺんにやんの無理……」
ンフィーレアは苦笑しながらヤントラの肩をもんだ。
普通に考えても無理な目標が並んでいる。
王国に居る者や帝国に居る者でも一生をかけて出来る事は少ないだろう。
『マグヌム・オプス』を製作すること。というか、これほど非常識な施設は出来そうでできない。
「地上の農園もすっかり忘れていた」
「そんなに変わらないですよ」
植物の育成のための区画が必要な事も思い出した。こちらはンフィーレアが独自にエンリ達に任せていた。
自動で作業する者の様子も見ておかなければならない。
羊皮紙と平行して羊毛の採取は続けられている。
それらの洗浄もメイドに頼んでみるか。細かい作業だし、時間がかかっても問題は無いだろう。
食糧の備蓄は新しい宿舎に詰め込まれているようだから、こちらもエンリ達に任せておけばいいだろう。
一部の販売もイビルアイとンフィーレア任せだな。
一般メイド達は見た目と性格は違うが性別は同じ。誰か一人だけ特別なエロい能力がある、という者は居ない。
「……素材が出来るまで待ってられるか」
忍耐力は時として好奇心に負けるらしい。
ンフィーレアは何となく気持ちが理解できて嬉しくなってきた。
設計図をいつまでも見ているだけでは前に進めない。
それはそうなのだが、今出来ることはきっと床を敷き詰めることだけだろう。
試作品は床材だけ。外壁部分は魔法や衝撃に強い材料で無ければダメだろう。
硬すぎるより少し柔軟性を持って修理し易いもの。
空気が漏れては困るのだが、呼吸を必要としないモンスターに補修が出来る程がいいのだが、これがなかなか難しい。
アダマンタイト以上の金属や材料に触れる機会が少なかったから。
熱を加えたり、メイド達に雷や氷などで膨張率などを調べている。
水につけて錆びないかとか。
地道な調査は新しいマジックアイテムの製作にも役立つ。
渡される素材の多くが人体に優しいものだとか。
危険な物質もあるにはある。それらは取り扱いに注意して調べている。その為にメイド達の協力を得ている。それはもちろんイビルアイも同様だ。
「……ンフィーレア君」
「はい?」
「この項目は普通は何年もかけるような研究だよね?」
「はぁ、そうですね。普通は一生をかけても出来るかどうか……」
短期間で出来そうなのは混じっているけれど。
空中の建築物は易々とは出来ない。
エロい事はすぐ出来そうだ。
「今年中にやらないと破壊されそうな気がする……。それとなく、急かさないでくれ、と多方面に言ってくれ」
「ははは。出来る限り、伝えましょう」
急かされるのは苦手か、とンフィーレアはまた一つヤントラの苦手とするものを見つけたような気がした。
急かしてはいないだろうけれど、予定を並べると殆どが無茶なことばかりだ。
空中に浮かぶ施設というだけでバカげている。ポーション一つで浮かれていたのに。
全ての規模が桁違いにも程がある。そしてそれは激痛並みに痛感している。
だいたいおばあちゃんが今は外見的には二十歳になっているのだから。
エンリと結婚して子供が生まれることの、なんと普通なことか。
地道に農園で作業している人達の様子は癒しだ。
それはおそらくヤントラも同じなのだろう。
時間をかけた努力を否定しない。むしろ効率的な方法に嫌気が差しているように思える。
苦労が無駄になる事は少なくともヤントラは嫌いなはずだ。
出なければ牛を量産して、その肉を食べればいい。だが、その複製の肉はンフィーレアが知る限り食べたことは無いはずだ。
効率的に作り出した食物の何がダメなのか、じっくり聞く必要はあるだろう。
頭の中に入れると忘れそうなのでメモ用紙に書いておく。
それとエロい事と言っても毎日のように
やりたい、という欲求は早めに済ませたら大人しくなるのかもしれない。
それは絶対にやらなければならない、という覚悟が要る。
恥ずかしいことを観察するのが好きなのは理解した。
自分でやらないのか、という疑問はあったけれど面白くないからしないのだろう。
同じ階で研究するイビルアイも
毒物や自己増殖を持つモンスターは危険以外の何者でもない。けれども研究は必要だろう。
専用の施設は王国には作れない。ナザリック地下大墳墓は危険なモンスターも問題なく配置できる。
敵を迎撃する様々な創意工夫が施されている。
毒や麻痺、病気などの完全耐性を有するモンスターが多いからこそ平気でいられる。
「モンスターをじっくりと観察できるところって……、他に無いですよね」
ナザリック地下大墳墓以外、と少し経ってから付け加えた。
どれも色だけ違う、という訳ではなく、住処としている地形に馴染んだ特色があった。
翼の大きさも違うし、角や筋肉の付き方。
動かないけれどブレス攻撃の種類も違うだろう。
体内の構造は切り裂かないとダメだろうけれど、爆発したり変な効果のガスが発生しては困るので鱗などの調査に留めている。
年齢を重ねるごとに大型化し、様々な特殊能力を得ていくらしい。
防具の素材としてはとても優秀である事が判明する。
「普通は殺して採取が基本。まさか生きた状態で搾取して癒すバカは居なかっただろうな」
「抵抗されますよ、普通は」
ヤントラのクラスは戦闘用。
アイテム製作には向いていない。
それぞれ特化した能力を持つ場合は様々なものを苦手とする。
「まずは……、床材の量産を始めようか。もっと広大な部屋が必要になってきた」
「壁材はまだ……」
「それと骨組みも必要だろう。出来るだけ中身は後回しにできるようにするよ」
正八面体の外壁部分は断熱材とかがまだ用意できていなかった。
フェルト用の羊毛なども集めただけで洗浄はされていない。
必要な石鹸類もまだ少ししか集まっていなかった。
「『シリカ』はどうするんです? 砂漠地帯に専用施設を作っている最中だったのでは?」
「……手詰まりか」
「高温を扱うのに砂の土台は必要です。あと、レンガなども」
千度を超える熱を扱うには大掛かりな施設が必要だろう。
一番いいのが火山帯かもしれない。
第七階層を借りるか、火山帯を見つけるか。
材料はある。後は作るだけだ。