※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

161 / 213
L-8 花弁人が現れた

 火山帯の発見は難しくない。

 せっかくなので調査を終えた地域にイビルアイとンフィーレア、クレマンティーヌにルリマリスを連れて行った。

 モンスター退治ではなく、旅行のようなものになっている。

 砂漠地帯は暑くて長居は出来そうにない。

「……暑い……」

「……溶けそう……」

 外気が高温の為に長時間、メイドは活動できない。

 氷の精霊(アイス・エレメンタル)などを召喚しながら地域の調査を続けていた。

 次に向かったのは東の彼方。

 岩石と深い森に覆われた世界。

 様々な種族による文明も存在しているのだが、亜人が圧倒的に多い。

 人間の国と交易したり敵対したりするのは王国周辺と変わらないだろう。

 海に出て漁を営むものもいる、とか。

「世界はまだまだ知らない事だらけだ。王国周辺よりも強いモンスターがはびこっていたりする」

「結構強い?」

「獣人(ビーストマン)の亜種がこちらにも進軍していて独自の国を持っていたりする。もちろん牛頭人(ミノタウロス)も居る。猿(エイプ)系や恐竜(ディノサウルス)系もいずれ見えてくるだろう」

「野生の王国だねー。弱い者は駆逐されそうだ」

「王国で忙しいが、それらのモンスターは凶暴と聞く。獣人(ビーストマン)達の相手としては申し分ないだろう」

 ンフィーレアは色々と植物や小さな虫などを観察していく。

 熱帯雨林でもあるのでゴムの木が見つかるかもしれない。

 モンスターばかりに気を取られている場合ではなく、ンフィーレアは今まで散策できなかった地域の植物の宝庫に目を輝かせていた。

「この辺りではどんなものが食べられているのでしょうか?」

「それこそ小さな動植物だろうね。木の実とかもあるだろうけれど……。穀物は育てにくそうだ」

 穀物に代わる果物の栽培というのもあるだろう。

 食べる事はどこでも大事だ。

「……それにしても暑いのに厚着しないとダメとは……」

「病気対策。毒をもつ動物とか虫が居るかもしれないから」

 転移用のメイドは二名ずつ。色々な献体を採集しつつヤントラ達の後ろを守っていた。

 こういう深い森に緑竜(グリーンドラゴン)などが生息している。

 山間部には黒竜(ブラックドラゴン)。

 一部の洞窟に金竜(ゴールドドラゴン)が居たりする。

 凶暴な赤竜(レッドドラゴン)は都市部を襲う事もあるが乾燥地帯に居る事が多い。

 それぞれ生き物なので絶対に居るとは限らない。

 砂漠地帯に青竜(ブルードラゴン)が居たりするし。

 竜王(ドラゴンロード)以外の竜(ドラゴン)がどれだけ居るのかは分からないが、並べて綺麗なら充分だ。

「ゾンビは要らないな……」

 そんな事を呟きつつ散策を続ける。

 案内役のメイドの後をついていくと小型の恐竜の姿が見えた。

 女体以外興味の無いヤントラはどんなモンスターか分からなかった。ただ、邪魔なら倒すだけだ。

 肉食系ならすぐ襲い掛かってくるのだが、目の前の恐竜は草食系のようだ。とても大人しい。

 だが、それでも体当たりされると大ダメージを受ける。

 警戒しつつ通り過ぎることにした。

「おっと、なんか居た……」

 と、クレマンティーヌが指差す先には明るい緑色が見えた。

 木々を分けて進んだ先には森林に生息するモンスター『花弁人(アルラウネ)』が生えていた。

 足元が植物の根になっているので移動はほぼしない。出来ないかもしれない。

 全身が植物の緑色。頭に一輪の花が咲いている。

 その花が種となって遠くに運ばれて新しい土地に根付いていくのだろう。

 見た目には人間の女性に似た形なのだが、けっこう背が高かった。

 そんな恐竜が居るようなところに場違いな華やかさのあるモンスターが居るのはシュールかもしれない。

「花弁人(アルラウネ)だ。近づくと掴まるので気をつけて」

「はーい」

「足元はしっかり根を張っているようですね。普段は何を食べるんでしょうか?」

「蜜で虫とか小さな動物とかを捕食して栄養分を取る。そんなモンスターだったはずだ。植物系だから土と雨がないとダメ」

 この辺りで生活しているのなら充分に生き残れるほど強いのだろう。

 大量に生息しているわけではないようだ。それはそれで見てみたい。

 花弁人(アルラウネ)同士の殴り合いとか。

「光合成とかで必要になるか……」

 『次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)』で距離を詰めるヤントラ。

 サクっと足元の部分を切断。すると花弁人(アルラウネ)は暴れだし、蜜をまき始めた。

 蔓なども駆使したがヤントラには通用せず。

 治癒魔法をかけられた後で女体部分はメイドに運ばれていった。

「……容赦なくバッサリ行ったな……、ご主人」

「あはは」

 何のためらいも無く刈り取る様子は職人のようだ。

 笑い事ではないはずだが、笑ってしまうほど面白かった。

 不謹慎だと思ってはいる、とクレマンティーヌ達は思った。

 程なく別のメイドが入れ替わりで訪れる。

「ンフィーレア君。あれに迂闊に掴まると大変だぞ」

「そうですか?」

 ヤントラに見つかる方がモンスターにとって危険なんだろうな、とンフィーレアは思った。

「媚薬効果のある蜜を出すから。夜は大人しくなるけど。この根の部分も来年あたりまた生え変わるんじゃないかな」

 と、魔法をかけると根が蠢き、新たな花弁人(アルラウネ)が生まれようとした。

「こんな感じで」

「……魔法は夢を壊すこともあるようですね」

 イビルアイとルリマリスは苦笑した。

 クレマンティーヌは復活しつつある花弁人(アルラウネ)に顔を近づける。

 匂いは危険な媚薬という事は無かったけれど、材料特有の怪しさは感じた。

 虫を呼び寄せるなら充分だろう。

 この花弁人(アルラウネ)は複製と違い、復活すると自発的に動き出すようだ。

 全てのモンスターが動かない人形になるという事は無いと証明された。

 十体ほど刈り取って植えるのだがエンリ達には会わせられない。

「人間も襲うからね。その辺りはンフィーレア君に任せるよ」

 動物の養分も取る、ということなので消化液は極端に強力ではないけれど長時間浸されると人間でも溶けるおそれがある。

 媚薬で絡め取られると命を落す危険性があると説明を受けた。

 モンスターを支配下に置くスキルや魔法などがあるにはあるが、ヤントラは習得していない。というか、たぶん使えないはずだと思った。

 テイマー系のアウラが得意だったと思い出す。

「殺して動死体(ゾンビ)として使役する方法ならあるんだけど……」

「アンデッドは支配下に置く上では便利だろうな」

 と、イビルアイは頷いた。

 すぐ殺す事に繋がってしまうのは人生経験のせいだろうか。

 新たな花弁人(アルラウネ)が完成した後で移動を開始する。

 離れて行動すると迷子になるので出来る限り固まって移動する。ただし、メイド達は転移できるので独自に活動する者が居た。

「クレマンティーヌとルリマリスには退屈だったか」

「小旅行は嫌いじゃないよ」

「モンスターだけならなんとか」

 極端に巨大なモンスターでも無い限り、森妖精(エルフ)であるルリマリスにとっては過ごし易い雰囲気かもしれない。

 高い位置に上って獲物を仕留めていた日々が思い出される。

 ンフィーレアの為に移動はゆっくりとなり、クレマンティーヌ達は周りを警戒していた。

 森林の中は視界が意外と狭いので毒を持つモンスターが襲ってくることもある。

 治癒できるとしても警戒は必要だ。

 少なくとも手段を持たない者は特に。

 高い木々に囲まれているので大型モンスターも充分、潜めそうだ。

 一時間ほど進むと建物が見えてきた。

 そこはメイド達が拠点として製作した建物だった。

 周りの木々を切り倒さず、生かすように空中に作られている。

 入る時は階段を使う。

 木々の間を壁で繋ぎ、水平の床がしっかりと張られている。

 秘密基地のような拠点は各地に作られている。主に転移と帰還用。

 謎のモンスターに大量の召喚で逃げ場を塞がれない為の措置とも言える。

 ヤントラ達はその建物に入り、腰を落ち着ける。

 就寝用のベッドが二つ。着替えなどが置かれている。

 トイレと風呂完備。ただし、水源は『マグヌム・オプス』から持ってくる。

 川などがあればいいのだが、水源の無い場所での活動も大事だ。

「作らせているのだが、直接来るのは初めてだ」

「しっかり作られている」

 雨漏りもしないし、材料は現地で調達するようだ。

「こういうところでのんびりと調査したいですね。……モンスターは怖いですけど」

「あっ!」

「!?」

 ヤントラが叫んだのでイビルアイ達は驚いた。

「完全に『マグヌム・オプス』が留守になってる……」

「……うん。そのようだな」

 つまり今ならアインズあたりが本気で調査に向かってくるかもしれない、という事かもしれない。

 強いメイドが控えているし、それほど破壊活動を行(おこな)うとも思えなかった。

「メイド達が異常を知らせていないのであれば大丈夫なのではないか?」

「帰ったら火の手とか、大きな穴とか空いてたらヤダな……」

「自分の家みたいなものだから心配する気持ちは分かるよ、ご主人。やり直しが利かない宝とかあるの?」

「特に一の宝物庫はね。裸でガード。尿漏れ……」

「ご主人! メイドに変なことは仕込まない。……なんだか可哀相だ。女性としても」

「あっはは。いいじゃん、相手が怯むなら。意表を突くのは大事なことだよ」

「……うむ。魔法を連発して大崩壊に陥っては困るな。私の研究資料も置いてあるから」

 ルリマリスは難しい話しには参加せずに建物の中を探検していた。

 複数の部屋に分かれているらしく、見張り台がたくさんあった。

 飲料水は『無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)』で得られるようになっている。

 建物に置いてある物は少なく、すぐに持ち出せるものばかりだという。

 壊されてもいいように。

「夜が深くなるとモンスターの鳴き声しか聞こえない。一人で居る冒険者には必須だろう」

「そうですね。こんなに深く入り込んだら生きて帰れる保証がありませんものね」

「訓練で夜目の利かない森の中を延々と歩かされたなー」

 周りの目に晒されて強くなろうと足掻いたっけ、とクレマンティーヌが頷きながら過去を思い出す。

 良い思いでは少ないけれど身につけた技術には感謝している。

 人間を凌駕する殺人術とでもいうのか。

 今はもっと強くなっているので第一席次に遅れは取らないかもしれない。

 それでも『神人』という化け物は侮らない。

 技術をもっと磨かなくては最強とは名乗れない。

 

 小休止した後、調査を再開する。

 暗くなってきたら帰ることにした。

 ンフィーレアにとにかく様々な物を調べさせ、ヤントラは女体モンスターを捜索。

 恐竜系は要らない。だが、食料として必要になるかもしれないのだが、保存は個人的にしたくないなと思った。

 色々と作られてからでも遅くはないだろう。

 森の番人(トレント)や森精霊(ドライアード)がなかなか見つからない。

 森の中だとルリマリスは植物系モンスターや森の歩き方などの警戒方法をンフィーレアに伝えていく。

「……ところで、なんでゴムが要るんだっけ?」

 素朴な疑問をクレマンティーヌは口にした。

「接着剤の材料にするんだよ」

「へー」

「……蜘蛛女(アラクネ)の糸は粘着力があるような気がするのですが……」

 と、ルリマリスが言った。

「火に弱い。仮に熱に強くても水溶性は無いだろう。出来る限り塗り込めたいからね」

「すみません」

「普通に空を飛んで行けたら楽だろう。実際は色々な面倒くさい問題が立ち塞がるものだよ」

 言いながらも辺りを散策する。

 花弁人(アルラウネ)が居るなら他の植物系のモンスターも居るような気がした。

 特に嘆きの小人(マンドレイク)。

 木を叩きつつ森精霊(ドライアード)に呼びかけてみる。

 他の花弁人(アルラウネ)が居れば当然のように刈り取っていく。

 熱帯特有の植物もメイド達に採取させていた。

「植物はどんな効能があるの?」

「酸素を出してくれる。この大気は植物が作り出した、ということだ。途方もなく長い時間をかけてね。水分も蒸発して雨になり、森を通って海に行く、を繰り返す」

「へー」

 周りにモンスターが居ないことを確認して『飛行(フライ)』で上空に移動する。

 完全に森に囲まれていた。

 モンスターらしき姿は見当たらないが鳥などの動物はみかけた。

 広い森なのでダンジョンもあるかもしれないし、埋もれた遺跡があるかもしれない。

 忘れないうちに土も採集する。

 地域特有の土によって植物の育成にも関わる。

「居ない女体は自分で作れってことかな」

「……おぅ、空気が冷たくなったぞ、ご主人」

 体温が低いはずのイビルアイは血の気が引くような気がした。

 その後で違う花弁人(アルラウネ)を見つけて採集した。

 肝心のゴムの木はなかなか見つからない。代わりに様々な植物や薬草類が見つかった。

「様々なモンスターは必要なんだろうけれど……。欲しくないのも居る。恐竜とか。毒性を持つ者」

「……吸血鬼は嫌いか?」

「それほど肉体が崩れていなければ、です。死霊系では嘆きの妖精(バンシー)とか色々と居るようですけど」

「……王国からお払い箱にでもなったら……、ご主人の好きにしてくれ。それまでは現状維持で国の行く末を見守りたい」

「分かった」

 拠点を囲むように移動しつつ散策したがめぼしいものが見つからない。

 同時に凶悪なモンスターとも出会わなかった。

 集めた素材はンフィーレアとメイドと共に転移して持っていってもらった。

 新たなメイドと共に別の拠点に転移する。

「……ここは?」

「もう数キロメートル進んだ森の中、らしいです」

 拠点は部屋の間取りが違う程度で造りは似ていた。

 こういう拠点が未完成を含めて五つほどある。

 外に出ると一層、辺りが暗くなっていた。

 地面に降り立つと何人かのメイド達が建築資材をまとめている所だった。

「こんなところまで移動しているんだな」

「安全に少しずつ。戻る時は資材は捨てていくように。回収できるものは回収して証拠隠滅」

「未知の領域は危険がいっぱいだからな」

 ルリマリスが薄闇の世界を見回す。

 獰猛なモンスターの気配は無いけれど深い位置にまで来たことに感心した。

 森妖精(エルフ)の国などが見えてくるかもしれない。

 あるいは闇妖精(ダークエルフ)。

 匂い等を嗅ぎつつルリマリスは慎重に進む。

「おっ、生き生きとしているリリー。仕事人って感じだ」

「まあ、森での活動は好きですから。それと……、お探しのゴムの木、近くにあると思います」

「それはモンスターじゃないよね?」

「森精霊(ドライアード)などが寄生していなければ、ですが。この先です」

 ルリマリスの案内でヤントラは進む。クレマンティーヌもモンスターの気配を探りながら進んだ。

 開けた場所というのは無さそうで、亜人などの集落も見当たらない。

 人が住むには適さないのか、前人未到なのか。

 匂いを確認しながら案内されたのは他の木と区別ができないのではないかと思われる丈の長い木だった。

「……たぶん、これです」

 ルリマリスが幹にナイフで軽く傷をつける。

 すぐに乳白色の樹液が出て来た。

「これですね」

「お見事だ。実物は見た事がなかったのだが、これがゴムの木か……」

 後からンフィーレア達も合流する。

 鑑定の結果は間違いなく、ゴムの木だった。

 他にもいくつかゴムの木が見つかった。

 持ち帰ったとしても気候の違う土地では発育が危ぶまれるので土ごと持ち帰ることにした。

 後は森祭司(ドルイド)系に任せよう。

 あるだけ、といっても七本くらいしか無い。

 それらは構わず切り倒したり、根ごと引っこ抜いたりして持ち帰らせた。

 根の一部を切り離し、回復魔法をかけて植え直していく。

 ルリマリスは自然に対するヤントラの対応に驚きつつ手を合わせて自然に感謝した。

「よし。これで一つの目的は達したな。後は女体か……」

 ンフィーレアは薬草類。

 クレマンティーヌは手持ち無沙汰だった。

 小旅行についてきただけだから仕方がない。

 スティレットで目に付く木を刺していく。

 反応があればモンスターだ。

 森の番人(トレント)は移動できる植物モンスターで樹木羊(バロメッツ)は見たらすぐ分かると説明された。

 本当に羊が成る木らしい。

 言葉では全く想像が出来ないのだが、花の代わりに羊が咲く、頭ではなく身体全体が。

「そうそう、施設は無事のようです。メイド達も特に報告が無いようです」

「そうですか。安心しました」

 静かに散策した辺りでクレマンティーヌはゴムの木が見つかったから植物系モンスターは必要なくなったかもしれないと思い、武器を収めて警戒任務につく。

 より闇が深くなる頃に明るい光りが見えてきた。

 『静寂(サイレンス)』や感知妨害などで慎重に近づくと白い馬が居た。それも額から角の生えた『一角獣(ユニコーン)』だ。

 『双角獣(バイコーン)』というモンスターもユグドラシルには居た。

 『天馬(ペガサス)』と勘違いしそうだが、一角獣(ユニコーン)は空は飛ばないのだとか。

 支配下に置くのではなく、刈り取るのがヤントラの手法。

 隠密に長けたクラスは瞬く間に一角獣(ユニコーン)をバラバラにする。

 イビルアイは相手の力を分析しないヤントラにただただ呆れつつも苦笑を向ける。

 本当の強敵が現れたらどうするのだろうか。

 影の国の女王(スカアハ)のように慎重な態度を見せるのだろうか。

 それは知っているモンスターなら理解出来る。未知のモンスターはどうなのだろうか。

 『黒い仔山羊』より強そうなモンスターはナザリックにしか居ないかもしれないけれど。

 人の趣味にケチをつけても仕方がない。

 戦い方は人それぞれだ。

 止め処も無く妖巨人(トロール)が現れたりせず、大人しい恐竜型以外は見当たらなかったので拠点に引き返すことにした。

 野ざらしのまま置いていかれる一角獣(ユニコーン)も再生が終われば逃げ帰るだろう。

 というか、そこがねぐらなら追いかけないのだろうか。

 気付いていないのか。

 深い森で深追いするのは危険かもしれないので黙っている事にした。

 イビルアイが言わずとも誰かが言うかもしれないし。

 拠点に戻る道中、上から巨大モンスターが現れる。

 暗がりでよく見えないのだが『闇視(ダークヴィジョン)』が使える者は敵の正体がよく見えているだろう。

 巨大に見えたのは脚。それもたくさん。

 糸を出して降りて来るのは太い脚をたくさん持つ蜘蛛女(アラクネ)種。

 剛毛といっていい毛深さだが上半身は凶悪な印象を与える女性だ。

 ほぼ黒い肌を持つ悪魔のような『牛鬼(ギュウキ)』。

 牛の角が生えているから、この名前がつけられたのかもしれない。

 性格は獰猛でレベル60半ば。

 ただし、それも数分後にはバラバラに解体されるという。

 再生するのを待つ方法と大きな培養槽を作って、そこに入れることも検討している。どちらが効率的かを現場で考えるのは時間の無駄な気がした。

「もしかして戦いたかった?」

「私は殺し専門だから残そうとは思わないよ」

「……相手の事を知る前に倒してしまうとは……」

 説明を改めて聞いた時は倒すしかないとイビルアイは疲れたようにため息をつく。

 単発で出てくるから仕方が無いがアーグランド評議国周辺ならば自分たちはまだ働けそう、とイビルアイは思った。

 女体のせいか、解体風景は苦手だった。

 殺しきるのは処分する時かもしれないけれど。ただ、戦いの中で優しさを見せるのは危険なことだ。それが油断を生み、大きな失敗を引き起こすことになってはいけない。

 時折見せるヤントラの非情さは戦いの場では必要な事かもしれない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 新たな襲撃がない事を確認し、拠点に入る。

 収穫物は無くさないうちに持ち変える事にして帰宅する。

 クレマンティーヌとルリマリスは宿舎に泊まる為に移動した。

 食材は豊富だが料理人が居ないので自炊となる。

 イビルアイとンフィーレアは手に入れた動植物の選定。

 ヤントラは施設内の点検。今日はメイドは呼んで居ないので自分で検査する。

 その後で花弁人(アルラウネ)用の鉢植えを調達し、植えておく。

 一部の根は分割して保存液につけておく。

 ゴムの木などもそれぞれ鉢植えに植えておく。

「本当なら現地で栽培する方がいいんだろうね」

「そうですね。もし転移できるようになるなら。しっかりした施設を作った方が良いでしょう。ただし、他国の領内でしょうから、権利関係は調べておく必要が……」

「あの辺りは未開拓地のようで権利はまだ及んでいないだろう。今の内に集落を作って建国宣言すれば勝ちだ」

「それは……、なんか凄いですね」

「後々面倒臭い事になるんだろうな。……先に調査だけ済ませてしまおう。文句を言われる前に」

 黙って聞いていたイビルアイは頷いていた。

 どの道、うるさくなるなら魔導国が手に入れれば話しが早くなるだろう。

 ただ、位置的には飛び地となってしまうので中間に位置する国は面白くない顔をするだろう。

 国としての威信をかけて覇動を阻むのか。我冠せずを貫くのか。

 王国からかなり離れているし、急な侵略戦争は起きないだろうと予想はしているが少し心配ではある。

「覇動は小さな冒険者には鬱陶しい問題だな」

「そうですね。モンスター退治だけが冒険ではありませんよ」

「うむ」

 モンスター退治はしても見知らぬ都市や村落を襲撃しているわけではない。

 未調査の動植物はンフィーレア用の保存容器にそれぞれ入れられる。

 まだ名前が付けられていない未知の薬草。毒草もあるし、麻薬の原料になるかも知れないものもある。

 危険なものの調査も薬学では大事なことだ。

 世間一般には他人を安易に治癒してはいけないことになっている。

 神殿に行き、治癒を受けるのが一般的だからだ。

 その神殿こそスレイン法国から派遣される神官達だ。

 彼らの収入源であり、信仰を広める手段にもしている。

 高い位階魔法には高額の資金が必要だ。なので度々トラブルになってしまう。

「魔法が使えない人の為に薬学は無駄ではないと思います」

「そうだね。未知の病気とか怖いもんね」

 第六位階を扱う人間はそうそう居ない、普通は。

 使える人にとっては当たり前かもしれないけれど、だからといって妬んではいけないのだろう。

 多くの人間が第六位階に到達すれば今までの文化が崩壊しそうで怖い。

「こういう研究結果は秘匿する方が権利を独占し易いと思うんですが、ヤントラさんはどう思っているんですか?」

 これはアインズからそれとなく聞いてほしいと言われた事柄だった。

「程度の悪いアイテムばかり氾濫するより、新しい発見に繋がればいいと思ってね。ンフィーレア君以外の視点から全く新しいアイテムを作り出すものが現れるかもしれないよ。それが良い方か悪い方かは分からないけれど」

「ポーション以外の未知のアイテム……。それはそれで魅力的ですね」

「全員が万能のクラスを持てるわけではない。適材適所に文明が発達すればいいんじゃないか。私は……停滞が苦手なだけだ。時が止まったような思考することを止めた文明とか」

「……世の権力者は富は囲い込みたいと思うのでは?」

「自慢する相手の居ない世界の支配者か……」

 黙って聞いていたイビルアイは背筋に冷たいものを感じた。

 時が止まったように自分だけが取り残される感覚。

 富を独占しても心は満たされない。それはとても虚しい気がした。

 それが寿命のあるものはいずれ死ぬから問題は無い。

 アンデッドや不死は永劫に生き続ける。

 退屈な世界は嫌だ。

「……なるほど。富も自慢できるうちが華……、というわけだな」

 イビルアイの言葉にヤントラは頷く。

 ンフィーレア達は寿命から逃れない限りはいずれ死ぬ。

 後世に残せるものがあるのは幸せなことかもしれない。

 不死は滅びない限り、時だけが無情に過ぎていく。

 支配は一時的なものだ。生身の者は生まれて死んでいく。

「今居る人材のみで子孫繁栄を禁止すればいいんじゃないか。不必要な数の生命体は居るだけ邪魔だし、厄介ごとが起き易いから」

「……むぅ、それは一理あるな」

 生物が多ければ必要な食材も富みも多く必要になってくる。

 住む土地が無くなれば他国に行くしかない。そして、戦乱が起きはじめたりするのだろう。

「秘匿して得かどうかは本人次第だろう。厄介ごとがある方が退屈しなくていい」

「実力がある人の意見……、とも聞こえますね」

 それが悪い事とは言わない。

 エンリも様々なスキルを得て、新しいことを始めている。それは夫として嬉しい事のはずだ。

 カルネ村だけ幸せになればいい、とは思わない。

 顧客が居るから商売が成り立つ。

 新しいことに挑戦することも嫌いではない。

 もっと色んな事を知りたい、という知識の欲求はある。

「では、もし……。王国や第三者がここを襲撃しに来たらどうするのですか? 例えば……、留守中に徹底的に破壊されたとしたら……」

 迎撃はするだろうから、壊された後を尋ねてみた。

「大人しく死んでやるさ。女体いじりは好き放題やってしまったからね」

 ンフィーレア達は苦笑した。

「報復とかしないのか?」

「……特別なアイテムというほどのものはありませんからね。身体一つあれば再現できますよ」

 全てを破壊されるのは面白くない。けれども、数々の技術の大本はヤントラ自身の技術だ。

 市民一人から復興させることも不可能ではないかもしれない。下手をすればモンスター一匹からでも、と言える。

「……途方もない時間はかかるだろうし、それはきっと退屈しないな」

「飽きてやめる確率は高いと思うけど」

「それはそうだな」

 と、イビルアイは頷きながら納得した。

 イビルアイやンフィーレアが無事なら失って困ることは実際には無いのかもしれない。

「秘匿しないのはなんとなく分かりましたが……。いや、あまり分かっていないと思いますけど、周りに広めないのは……、面倒くさいからですか?」

「自分から言うほどの事もないから」

「……なるほど。そういう答えもあるな」

「君たちは私に協力しているから情報を開示している。例えば竜王国などは迷惑をかけたお詫びとしてだ。そんな理由だよ。……本来ならもっと広めた方がら(・)し(・)い(・)のかもしれないけれど……」

「広めようにも物資が無ければいけませんよね」

 技術だけでは何も出て来ない。

 現在の『マグヌム・オプス』が所有する在庫は時間をかけて増やしたものだ。

 他国に提供できるほど実はそれほど大量には存在しない。

 魔法の触媒となる金貨も高い位階ほど途方も無い量が遠慮なく消費されてしまう。

 あれらを見てしまうと国の財政は数ヶ月で枯渇するだろう。

 便利なものと引き換えに。

 自分たちが思っているほど実は秘密は開示されていないのかもしれない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あくる日、時間の空いたアインズは『マグヌム・オプス』に訪れてンフィーレアと語らう。

 堅苦しい魔導国やエ・ランテルの仕事から解放されて一人の男として来るようになってしまった気がした。

 アルベドが居ると退屈させてしまうおそれがあるので『マグヌム・オプス』には連れて来ていない。

「無闇に情報公開は実はしていないと」

「触媒の消費が激しいですからね。この施設の運営は誰もやりたがらないと気付きますよ」

「それをヤントラにやらせて働かせるかもしれないぞ」

 実際にやっているのがンフィーレア自身でもある。

 『懸架(サスペンション)』の実験で『永続化(パーマネンシー)』用に使った金貨は自分の知らない単位くらいは消費しただろう。

「言葉が悪くて申し訳ありませんが、富の独占をゴウン様は行(おこな)っているとお見受けします……」

「……うむ。否定はしない」

「面倒ごとが苦手ということですが……、それはそれで退屈なさったりはしないものですか?」

「少し漠然としているな」

 ンフィーレアは純然とした疑問を口にし、アインズを責めるような意図はないようだ。

 自分たちも好き放題施設を使っているのだから一方的な非難はしないだろう、とは思う。

「敵の襲撃があった方が……という意味で……」

 不謹慎な言葉にアインズは少し怒りを覚える。だが、それはきっと大事なことなのだろう。

「民を危険に晒すわけには行かないから……、退屈などとは言えないな、統治者としてはな」

「はい。ですが、統治者ではないヤントラさんは退屈は苦手なようです」

「……それはそうだな。立場の違いもあるだろう」

 よくよく考えたら一冒険者とギルドマスターの立場の違いがあるのだから意見の相違は当たり前かもしれない。

 同じ立場であればまた違ったことになっていただろう。

「適度な興味は必要だろう。それがモンスター……というか女体モンスターか。あと、未知の世界の探索か……」

「はい」

 平穏にのんびり暮らすのも大事だが刺激のある日々も大事だろう。

 飽きやすいと聞いた事があるから色々と試行錯誤しているのかもしれない。

 その点ではアインズは現状維持にばかり拘っているような気がする。

 波風立てないように慎重に行動して静かに進行する地味な戦い。

 モモンとして時には派手に振舞うこともある。

 定期的なアップデートや情報サイトめぐりは楽しみだった。

 確かにアンデッドの身体とはいえ刺激は欲しくなるものだ。

 だからといって知らない者に情報を流すような真似は面白くない、というかやりたくない。

 何でも開示しろ、とは言われていないけれど。

 むしろ、自分がヤントラに言っている気がするし、定期的に探りを入れている。

「平和な世界は否定しないと思いますが、ヤントラさんは混沌とした世界が好きらしいですね」

「うむ。モンスターがはびこる冒険者好みの世界、と言う意味だな。……確かに生粋の冒険者だ、あれは。よく死ぬが常に戦い続けていた」

 途中でゲームから離れていた時代があったが長期入院とか現実での生活で色々とあったことは理解した。

 というか、ゲームどころではない事態だったとは驚きだ。

「ヤントラさんの夢はモンスターがはびこる世界なのですか?」

「それは当人に聞くしかないな」

「すみません。お知り合いの意見として」

 知り合ってしまったのは仕方が無い。今更覆せない。

「夢という点では一つ思い当たることがある」

「アイテムとか?」

「……ま、まあ、それも無いとは言い切れないが……」

 ユグドラシルのプレイヤーなら世界級(ワールド)アイテムは避けては通れない。

 それが真の目的かと言われると違うと思う。

 そもそもソロプレイヤーはチームプレイヤーとは違って色々と制限を受ける。

 規定人数を用意しないと受けられないクエストなど。

 ギルド特典とか受けられない。

「おそらく一人で超級……、超ど級モンスターを倒すことだろう」

「……なんだか、想像したくない規模のような……」

「そうだろう。我々が全盛期立ち向かって全滅した事があるくらいのモンスターが居たのだ」

「ええっ!? ゴウン様でも勝てないほどですか!?」

「結局は倒してしまったがな。負けたまま引き下がったりはしないぞ。私だって弱い時代はあったんだ」

 仲間を集めて素材を整えたりして強くなっていった。

「その超ど級モンスターは条件を整えないと戦えない。ヤントラはその条件を満たせなかった。戦士職として強いモンスターと戦って勝ちたいと思うのは不思議ではない」

「そのモンスターは黒くて大きいモンスターよりも強いんですか?」

「ああ、……強い。優遇された能力を持っているからな。単純な攻撃しかしない『黒い仔山羊』とは比べ物にならない。あれは一人で倒せるような生優しいモンスターではない」

「今のヤントラさんでもですか?」

「一人では無理だろう。……メイドを総動員しても戦略を立てなければ簡単に蹴散らされる。アンデッドの完全耐性が通じない攻撃と言う……、おっと……つい興奮してしまった」

 完全耐性が通じない攻撃を仕掛けるモンスター。

 ンフィーレアはそんなモンスターは聞いた事が無いし、おそらく想像絶する強さなのだろう。

 小さな人間には計り知れないモンスターとはどんなものなのだろうか。

 その超級モンスターはワールドエネミーといい、世界級(ワールド)アイテムと互角の能力を備えている。

 夢としては申し分のない相手だろう。

 むしろ、アインズ・ウール・ゴウンの抹殺だったら恐ろしいことだ。

「それはそれで男のロマンだ。……いや、冒険者としてのロマンだな」

「冒険者といえど富に興味が湧くと思うのですけどね」

「財宝じみたものは既に持っているからな。芸術品と言えるのが……、女体……。とことん変態だな」

 芸術品のように愛しているのだろう。

 得体の知れない国の調度品よりも。

 置き場所に困る役に立たないガラクタを集めても仕方が無いし。

「金銀財宝よりもヤントラさんは女体に興味が行くんですね」

「人の趣味だから仕方が無い。金銀財宝より魔法が好き、という奴も居るし」

 というか、それは自分だ。

「なんとなく分かります」

「話しを戻そう。統治者として部下を心配するから面倒ごとは極力避けたい。自分の仲間を大切にするという点では独占欲が強くて周りから敵視される事態を生みやすい」

 悪のロールプレイをしている時点でそれなりに覚悟はしている。

 かといって好き放題に殺戮しているわけではない。

 文化を持つ国を滅ぼしては面白くない。

 支配者でも色々なことを学びたい欲求はある。それはンフィーレアのような研究者に通じる気持ちかもしれない。

 だが、部下達は支配者の気持ちをあまり汲み取ってくれず、暴走する事があるのが目下の悩み事でもある。言い訳で誤魔化すのもアンデッドではあるけれど疲れる。

 新しいアイテム。

 新しい魔法。

 それは心躍る未知への探究。

「世界を征服する支配者になろうとしているのだから、それは仕方が無いだろう。仲間を第一に考える性格だからな」

「仮に世界を統一したとすると情報などはどうなるのですか? 仲間内だけで秘匿されると?」

「そうなるだろうな。余計な敵を出さないための手段にするかもしれない」

 自由に研究が出来なくなる事については未定。

 アインズとてンフィーレアの研究を邪魔するつもりは無い。

 内容によっては秘匿させるかもしれない、という事は伝えた。

「それが統治者としての責務でもある。不自由させることになるのは素直に申し訳ないと思っている」

「発展が無ければ……、研究する意味を失うかもしれません」

「その辺りは……、色々と妥協することがあるかもしれない。今すぐ全てを隠せ、という話しにはならないから、簡単に絶望はしないでくれ」

 言った後で問題点が湧き出てくるので修正が大変だった。

 いい案だと思ってもデメリットが出てくると無い胸が痛む。

 頭脳労働は苦手だ。

 こういう事を一人で考えてはいけないだろう。

 多くの意見とすり合わせることはとても大事だ。

 支配者の鶴の一声は簡単だが、後で大きな失態に気付いた時は計り知れない絶望を味わうんだろう。

 ヤントラはその辺りには敏感なようだし。

 これが自分の部下ならアインズ様の言う通り、で終わるんだろうな。

 誉められるだけではダメなんだろう。

 たっち・みーとウルベルトの関係のように。

 相反する思想は自分の気付かない弱点を教えてくれる。同時に知りたくない事も知ってしまうのだが。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。