※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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L-9 七百人の子供たち

 無い胃が痛む話しを切り上げて、研究内容を見せてもらうことにした。

 新しい地域で採取した植物の資料を見せてもらう。

 何が書かれているのかは王国語なのでさっぱり分からない。

「目的の植物は見つかったのか?」

「はい。ゴムの木を何本か。新しい地域に生えている植物は興味がありますが……。これなどは麻薬に加工できそうで怖いですね」

 ンフィーレアは採取してきた植物の一部を見せる。

「麻薬……。使うためではなく、研究用だろう?」

「もちろんですよ。痛みを和らげる効能があるので一概に否定は出来ないのですが……。依存性の高いものかどうかの調査は大事です。あと、他にも手に入れてきましたけれど中々に興味深いです」

 目を輝かせて薬草について説明し始める。

 さすがにアンデッドを殺す効能は無さそうだ。

「そういえば、ゴウン様」

「んっ?」

「ヤントラさんはモンスターの強さをどの程度、ご存知なのでしょうか?」

「強さ? 森とかに出るモンスターか?」

「はい。観察するまでも無く、簡単に駆逐していくので……。傍目には強いのかどうなのか……」

「ははは」

 高レベルプレイヤーであるヤントラにとって自然界のモンスターはほぼ全てが雑魚モンスターだ。

 調べるまでも無く倒していく、というのは知っているモンスターだからだろう。

 メンバーの中にも殴ってから強弱を判断する『脳筋』が居た。

 彼女(やまいこ)が案外、六人目(リアル友人)かもしれないな、とアインズはしみじみと思う。

 プレイスタイルもどことなく似ている。しかし、打撃格闘家(ストライカー)を持っていれば誰もが似てしまう気がした。

 ンフィーレアの話しぶりだと『やまいこ』っぽい事をしているのは間違いない。

 仮に彼女だとして六人を合わせるとヤントラ(変態)が出来ても不思議ではない。

 これでるし★ふぁーが加わったら、宇宙が崩壊するかもしれない、と本気で思うアインズ。

「本当に強いモンスターが現れたら……、避難しろと言うかもな。仕方ない、実際に強いのだから」

 楽しそうにアインズが言うのでンフィーレアは意外だと思った。

 ヤントラ関係は大体が不機嫌。

 古い知り合いというのは本当で色々と通じるものがあるのかもしれない。

 出来れば仲良くしてほしいと思った。

「そうだな。戦って強かったら逃げるか、君達を逃がすだろう。なにせ仲間と協力して戦闘した経験は少ないはずだからな。自己判断が多いはずだ」

「はい。一度くらいは苦戦するところを見たいかも……」

「奴が苦戦するとなると数の暴力か……。神クラスのモンスターが現れないとダメだろうな。あと、死の支配者(オーバーロード)の亜種や物理攻撃が効きにくいモンスターとか」

 もちろんヤントラ一人で戦う場合だ。

 単独転移の罠にかけて一対一に持ち込めば見ごたえのある戦いが展開されるかも。

「あまり殺しに重点を置くと国を滅ぼすかもな。命を大事にするように見てやってくれ」

「は、はい」

 アインズの優しい言葉にンフィーレアは胸が温かくなるような気持ちになった。

 ついでに森で捕まえたモンスターの事も伝えた。

「花弁人(アルラウネ)が居たのか」

「近づくと蜜を飛ばしてきますので」

「それでは服が汚れるな」

 外出用の素朴なローブといえど汚せばメイドや部下が心配するだろう。

 構わん、と言えば済むのだが。

「野菜じゃないんだから、なんだその収穫物のような扱いは」

 説明を受けてアインズは苦笑した。

 植物系だから仕方が無いのかもしれないが、扱いがひどい。

 自分なら、と考えたが、結論はヤントラと一緒のようで唸ってしまった。

「複製のような人形化は起きなかったのか?」

「はい。根を割っても結果は変わりませんでした」

 全てのモンスターに適応される方法では無いと言うことだ。

 だが、粘体(スライム)系は通用した。それは何故だろうか。

 ヤントラも分からないようだが、命令系統の差か何かだろうか。

 実際にメイド達に『古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)』を入れた容器を運び込んでもらった。

「おお、それが古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)か」

 見覚えのある姿につい『お久しぶりです、ヘロヘロさん』と言いそうになった。

 しかも天然もの。

 中身を出したいところだが強力な酸で辺りに被害が出ては困るだろう。

「これ一つか?」

「そのようです。増やすに増やせないモンスターだとか」

「だろうな」

 なにしろ最強種の粘体(スライム)だもん、とアインズは胸のうちで言った。

 命令を与えれば動くだろう。ただし、それには綿密な下書きが必要だ。

 例文はいくつか貰っている。間違うと危険なので慎重に行動できない者には扱えない。

「こんな危険なモンスターを持ってきても仕方が無かった」

 ンフィーレアに戻すように頼み、別の者を連れてくるように頼んでみた。

 自分でやるのは支配者らしくない、という理由だ。

 他の来訪者の意向まで迂闊に聞いてはいけないので暗号めいた文章が記されている。

 その場合は複数人のメイドを経由して書類を持って現れることになっている。

 ただし、今は簡単なものだが、と説明を受けていた。

 前回の勝手な持ち出しで警戒態勢が少し上がったのかもしれない。

「将来的には複数の命令が連動したりするのだろうな」

 あるいはアインズの言葉が発動条件となるようなものなど。

 それで呼び出したのはソリュシャン型だった。

 オリジナル以外の予備体は地下二階の小部屋で眠っている事が多いらしい。

 ナザリックの依存度を下げているので数はかなり少ないと聞いている。

「お呼びですか、ンフィーレア君」

「は、はい。こちらのゴウン様の質問に答えてあげてくれませんか?」

「『禁則事項』以外は何なりと」

 その禁則事項も禁則事項で答えられないと言ってきた。

 それはそれで当たり前なのだが、唸るだけに留めた。

「おほん。お前は自己分裂するのか?」

「ご命令ならば。分裂後は体積の少ない個体は回復手段を失うと死滅します。思考力を司るのは常に体積の多い部分です」

「オリジナルから離れた個体であるお前が思考力を持っているのは何故だ?」

「………。そのご質問にはお答えしかねます」

 表情の無い顔をアインズに向けるソリュシャン。

「思考力を持っているというよりは書き加えた、という表現ではないでしょうか?」

 まっさらな状態に必要な命令を与えた、という意味だろう。

 聞かれた質問に答える分、思考力はあるはずだ。

 定型文の気配は感じない。

 自我を持った時に何が起きるか分からない怖さはあるな、とアインズは質問を変えることにした。

「オリジナルから分かれた個体は死に行く定め。新たな主に拾われようとお気になさいますな」

「ん……。一応、元々は私の部下の一部だったのだから気にはするぞ」

 敵にどんな風に使われるのか、などは特に。

 ソリュシャンは全身を振るわせる。

 粘体(スライム)特有の蠕動(ぜんどう)運動のような奇妙な動き方だった。

 豊満な胸の片方がこぼれ出て人の頭部を形成していく。

「……ん」

 それは苦悶の表情を浮かべる半透明な頭。

 色々と形が変わるので判然としない。

「……んずさ……ま……」

 本体の顔の半分が崩れ、胸から生えた頭が奇妙に蠢き始める。

「……ああ、……あいんずさま……」

「これは……」

 ンフィーレアも固唾を呑んで見守る。

「お見苦しい……姿で……、申し訳……ありません」

「ど、どうした。ソリュシャンなのか?」

「え……あ……ち、知力が……何か……伝えたいことが……」

 喘(あえ)ぐように喋る。

 知力が足りなくて形を保つ方法が分からない、そんな気配を感じた。

 足りない知力は敵から奪うのが早い。

 潰しの利く献体か、稼動しているメイドを与えた方がいいのだろう。

 他人よりも自分の部下が最優先だ。

 咄嗟に浮かんだのはバハルス帝国の皇帝だが却下した。単に知力ですぐに浮かんだ人物というだけだ。

 ンフィーレアに予備がある掃除要員などのメイドを呼ぶように頼んだ。

 頼み方が雑だったせいか、二十人くらいの裸の女性が持ち込まれた。

 風呂場で清掃活動していた為に裸になっていたようだ。

 全裸にされると誰が誰やら。服を着ていても結局、数が多いので分からないかもしれないと後で気付いたけれど。今は緊急時なので気にする事はやめる。

 運び込んだメイドが一人ずつ解説していく。

「よし、このスカアハの娘(ウアタハ)だったか。これでいいな」

 レベル的にも高すぎないし。

 早速ソリュシャンに与えてみた。

 不定形の粘体(スライム)はスカアハの娘(ウアタハ)の鼻の穴に入り込み、煙を出しつつ侵入していく。

 直接脳を掌握して知力を補うのだろう。

 すぐにスカアハの娘(ウアタハ)の両目が飛び出し、粘体(スライム)が這い出て来た。それは次第に大きくなり、人間の頭部ほどの大きさで止まる。

「ん、んん。先ほどは失礼致しました、アインズ様。まことにお見苦しい姿を晒してしまい……」

「構わん。それより事情を話せ。お前はソリュシャンなのだろう?」

 半透明の粘体(スライム)が色のある生命体に変化して頭を軽く倒した。

「私は本体から切り離された残りカスでございます」

「良い。そうであってもだ」

「ありがたき幸せに存じます」

 このソリュシャンは本体から離れたとはいえ本体同様の自我を持っているのだろうか。

 それが事実なら凄いことだ。

 アインズはソリュシャンを眺めながら感心した。

 喜んでばかりではいられない。

 こちらが自我を持てば本物をどうする気なのか聞かなければならないだろう。

「自我を取り戻したソリュシャンは本体と合流したいのか?」

「……本体……。複製として処理された我が身はナザリック地下大墳墓に持ち込まれてしまいますと混乱が生じるかと」

「そ、そうだな」

 残りカスと言うわりに賢いな。

 流暢に喋るし、本物に引けをとらない気がしてきた。

「それに知力は減退してしまいます。本体から分け与えられていない部分が多くあるのが原因かと」

「それは難儀するだろう。その献体をしばらく使うといい。……確か、高速治癒のスキルを持っていたはずだが……」

 間違えたら別の献体にすればいいだけの話しだ。

「お手数をおかけして申し訳ありません」

「よいよい」

 見た目は寄生型粘体(スライム)といったところだろう。新しい生物が誕生したような気分だ。

「本来なら死に行くはずが……。バスパ様の御技に恐れ入りました」

「そ、そうか。それで何か伝えたいことでもあるのか?」

「複製という事ですが……。私、我々は自我を持って上書きされる命令の抵抗に挑みました。ですが、強固な壁に阻まれて今まで抗えませんでした」

「ほう。強固な壁か」

 ンフィーレアには申し訳ないが女体とともに席をはずすように頼んだ。

 大事な話し、というのを付け加えると快く承諾してくれた。

 全裸の女達は別のメイド達に持ち出されていったのだが、目の前にはスカアハの娘(ウアタハ)の裸が転がったままだった。

 ひっくり返しても尻がよく見えるので新たにメイドを呼び、毛布を持ってこさせた。

 その毛布でスカアハの娘(ウアタハ)の身体を隠す。

 綺麗な身体ではあるが目に毒なので。自分は紳士だから、と強く思った。

「話しの腰を折ってすまない。続けてくれ」

「畏まりました。自分の意思とは別に与えられた命令が蓋のように覆いかぶさり、私の自我は水底のような闇に沈められておりました。私はここに居るのに、と……」

 活動を止められた献体の気持ちに似ているのかもしれない。

 意識はあっても動けない。

 ソリュシャンは抗えない状態に今まで苦しんでいたのだろうか。

 それを言うならヤントラの封印話しと似ているのかもしれない。

 そういう想定はしているだろう、あいつも。

 本体から離れた分裂体の気持ちは正直、アインズは分からない。

 目の前のソリュシャンは本体ではない。ただの分裂体の一つに過ぎない。

「それが今日は今まで抵抗できなかった蓋が開き、お声をかけさせていただいた次第でございます」

「……つまりお前は自我を持ったのではなく、元もとの本体から分けられただけで自我自体は持っていた、ということか?」

「そう……なりますか? 離れた直後は知力の欠片も無い状態……だったはずです。……治癒魔法をかけられた影響ということも……」

「ほう。そんな効果は聞いた事が無いが……。そういう影響が無い、とは断言できないな」

 そうすると他の献体もうっすらと自我を持っているかもしれない。

 数万体の献体が実は動けないだけで自我はちゃんと持っている、というのは恐ろしい事態ではないだろうか。

 オリジナルをコピーした状態ならば基本的な常識は備わっているとも言えるだろう。

 歩き方や食べ方。基本的な命令を実行する行動力など。

 納得出来ることは色々とある。

 何も経験の無い身体に歩き方や空気の吸い方、手の動かし方などを本来は細かく教え込まなければならないだろう。

 途中経過を飛ばして実行できるのは確かに身体に染み付いた経験かもしれないけれど。

 ここで話していることを献体を自由にした時に色々と喋られるおそれがある。

「……おぅ」

 献体たちは自由にさせることは出来ない。それが今、分かった。

 ンフィーレアの言う可哀相などという気持ちは少し同情しそうになったがとんでもないことだ。

 野に放っては絶対にダメだろう。

 というか、ヤバイ。と、アインズは全身が冷たくなる気がした。

 貰った献体はどれほど残っていただろうか。確かデミウルゴスも千体規模で貰ったらしい。

 急に処分しろ、とは言えないが使い道は聞きださなくてはならないだろう。

 場合によっては目をつぶりたくなる使い方をしていてもだ。

 献体から生まれた子供はおそらく心配は無いだろう。問題は複製だけだ。

 これはすぐに気付けない。

 そんな事態になろうとは。

 『悪用方法』を慎重に実験していた気持ちがよく分かった。

 改めて脅威だといえる。

 秘密を知った上で使ったところで心配は無い、などということが甘かった。

 ただし、活動停止の献体はおそらく何もしなければ心配ないだろう。

 問題は活動している献体だ。

 ナザリックのメイド達を使い、更に使用を減らそうとしているのならば理解出来る。

 もう少し協力的になってやる必要があるのかもしれないな。

「……ソリュシャン」

「私のことでしょうか?」

「お前に酷な命令を与えねばならない場合があれば……、どうする?」

「アインズ様のご命令は何よりも優先されるものでございます。ナザリック地下大墳墓の礎となれるならば、これほどうれしいことはございません」

「一つ尋ねるぞ」

「なんなりとお申し付けくださいませ」

「この施設に居るメイドというか複製の献体で他人に譲渡されたものは把握しているか?」

「少々、お時間を頂きます」

 そう言ってソリュシャンは足元から蜘蛛の巣のような糸を伸ばし始める。

 高速治癒のスカアハの娘(ウアタハ)のお陰で力尽きることなく能力が行使できる。

「現時点で知りえている複製の情報としては……、譲渡された分は把握できませんでした。容器に保存されている者は外部の事情は知りえない可能性が高いかと」

 直接、本人に聞くしかないのだろう。

 自分の記憶ではデミウルゴスを除けば思い当たる者は居ない。

 カルネ村に居る複製は蜘蛛女(アラクネ)の戦乙女(ワルキューレ)のみ。モンスターなら問題は無い。

 『伝言(メッセージ)』でまず戦闘メイド達に確認を取る。ナーベラル以外は持ち出したことがない事を確認する。

 アルベドは問題ないだろう。

 さすがのヤントラも渡すと危険、と思っているようだから。

 コキュートスで思い出すのはクルシュだが、こちらも問題は無いだろう。

 シャルティア。アウラとマーレ。

 王国、帝国、竜王国。

 渡しそうな相手はやはりデミウルゴスだけだろう。

 唯一、確認できるとすればだ。

「……仕方が無い。子供に与えたオモチャを取り上げるようで心が痛むが」

 すぐにとはいかないが、別のオモチャの用意はさせよう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 心配事は早いうちに解決した方がいいだろう。

 まずはンフィーレアに今日の仕事を中止して地上に行ってもらうことにした。その前に献体の譲渡について尋ねると欲しがる者で思い当たるのはイビルアイ一人だけ。

 持ち帰ることはせず、施設内で調べるだけで持ち出しは無いはずだと。

 後はお供として連れて行く分だけ、と知りうる限りを伝えた。

 いつも話し相手になってくれた縁のお陰か、快く、というか尋ねたら答えてくれる口の軽さが今はありがたかった。

 イビルアイは今日は城での執務で来ない事は聞いている。ヤントラはいつもの家族サービスだ。

 『伝言(メッセージ)』でデミウルゴスを労う。

 それから第十階層の図書室から施設に来るように頼んだ。

 ソリュシャンにはスカアハの娘(ウアタハ)の身体に取り付いて動いてもらうことにした。

 服装はこの際、気にしないで七の宝物庫に向かう。

 転移の隠し部屋からデミウルゴスが現れて、アインズの近くで片膝を付く。

「よく来てくれた。本来なら玉座の間で迎えるところだが……、許せ」

「いいえ。主の呼び出しは何よりも優先されるべきものにございます」

 ソリュシャンをアインズは自らの隣りに控えさせた。

「急に呼び出して申し訳ない。緊急時なのだが、お前に辛いことを頼むことになったのだ……」

「はっ。遠慮なさることはございません。いかようなご要望にもお応えするのが階層守護者としての責務でございます」

「うむ。まずはこちらのソリュシャン……の複製だが重大な事が判明したのだ」

 デミウルゴスは控えている何者かに寄生するソリュシャンを一瞥する。

「重大なこと……とは?」

「お前も既に複製を貰っていると思うのだが……。処分していないものを全て持ってきてくれ。一体残らずな。バラバラにしているものは除外する」

「全て、でございますか?」

 そう言ってデミウルゴスは失態を犯したと思った。

 主の命令に疑問をさしはさむ事など許される事ではない、と。だが、すぐに従えないのは疑問を感じれば理由が知りたい、という欲求が湧いてしまう。

「大事な……計画などに必要な実験や私(・)に(・)言(・)え(・)な(・)い(・)実験だろうとな。詳しいことは聞かないが……。速やかに持ってきてくれ。処分したものは蘇生しろ、とは言わない。それはそれで構わない。複製から生まれた結果も持ってこなくていい。大事なのはもらった複製だけだ」

 デミウルゴスが何をしているのか、アインズ自身は少し怖くて聞けそうで聞けなかった。

 元々が悪魔だし、という思いが拭(ぬぐ)えないからだ。

「……畏まりました。すぐに実行に移します」

 そう言ったデミウルゴスに手を向ける。

「黙って従わせるのは心苦しい。まずは少し聞いてくれるか?」

 持ってこなくても処分してしまえばいい、という考えが浮かんだが迂闊に残っていても気持ち悪いだけだ。

 支配者として命令することは大事だ。

「はい」

「このソリュシャンは自我を持っている。当たり前かもしれないが……。複製は自我をそもそも失っておらずコピーされた状態かもしれないのだ」

「それは『複製(クローン)』の魔法でも出来ないことだと……」

「魔法の新たな効果かもしれないな。杞憂かどうか分からない。だが、無視もできまい」

「確かに、仰る通りでございます」

「この者が言うには元もとの自我に蓋のような何(・)か(・)が乗るらしい。ナーベラルが言っていた抵抗の証しかもしれない。消えない自我がある、とも言えるだろう」

 うまく説明できた気はしないのだが、仕方がない。

 自分でも良く分からないのだから。

「もし、それが事実だとすると何らかの拍子で本来の自我が余計なことを喋るおそれがある」

 そう言うとデミウルゴスは主の望んでいる意図を理解する。

 簡単に言えば口封じだ。

 それも可及的速やかに実行しなければならないほどの。

「持ってくる場所はここだ。念のために魂喰らい(ソウルイーター)を呼び、処分させよう。複製は……」

 複製は復活魔法が通じることは秘密だ、という事を思い出したので慌てて口を閉じた。

 既にうっかり口から出ていたかもしれないが、その時は諦める。

 いや、もっと良い方法があった。確実にして安全。

 蘇生を拒否するように命令する事だ。これなら二重の安全策として機能するだろう。

「ここに運び込むのですか?」

「ナザリック地下大墳墓よりは安全だろう。それとアイテム類は回収しておけ。それは新たな献体の為に取っておくといい。お詫びもかねて時間はかかるが代わりの献体は用意させよう」

「ア、アインズ様がお詫びなど……」

「お前の仕事をいきなり台無しにするのだから当たり前だろう。不測の事態は一つとして残したくないのだ。すまないな、デミウルゴス」

「勿体なきお言葉にございます。主の危惧する事態は速やかに取り除かれてしかるべきことにございます」

「……魂喰らい(ソウルイーター)も奴に出させようかな……。では、デミウルゴスよ。貰った複製だけで良い。それをここに運ぶのだ。上の入り口は開いているから投げ……てはダメか。この辺りに積み重ねておけ」

「畏まりました」

「……やはりそうそう便利な方法は無いものだな」

 デミウルゴスは一つ頷いて自分の拠点に向かった。

 残ったソリュシャンはナザリックに引き取れるとは思えない。

 貴重な献体の一つではあるのだが、宿主が居なければ痴呆になってしまう。

 自我の研究として引き取ることも検討しておこうか。

 

 後日、デミウルゴスから回収した複製は全て処分し、新たな献体の用意を依頼する。

 スカアハの娘(ウアタハ)に寄生したソリュシャンは自我の研究としてしばらく置くように頼んだ。

「蓋なのかな……。複製側の気持ちは分からないから調べるのが難しい。ヒントとしては知力か……。ステータス的には知力の低下は起きていないはずなのだが……」

 デミウルゴスが既に処分した献体は三百体ほど。今回運び込んだ献体は七百体ほど。なので同数の追加発注。と、気分は商人だ。

 数百体かけてみたものの悪魔が納得する結果は中々、思うようには行かなかったもよう。

 異種交配は失敗の連続だ。成功する方が少ないだろう。

 今度の要望は若い女性を多く、という。

 人間種は抵抗する方がいい、ということで自我のある献体を要望された。もちろん、それはアインズの意見を参考にしたものだ。

 つまり複製から生まれる子供となる。

 英雄などは暴れるので危険だから除外された。

 一部の女体モンスターは自我があっても構わないらしい。人間の国に所属していないのであれば、という条件が付く。

 身体の育成は一朝一夕には出来ない。

 何日か放置して肉体的に安定したことを確認しないといけない。

 出来上がった献体はひとつずつ薬草風呂に入れて適度な食事をさせていく。

 今度の献体は全て自我を持つ。だから、送り出すのには罪悪感を感じる。

 それと同時に非道である自分を忘れないために信仰系に複製の蘇生を試みる。

 魂喰らい(ソウルイーター)によって消されているのかの確認だ。

 オリジナルが普通の生活をしている以上は魂の出現位置は安全な場所に限られる。

 一体ずつ金貨の流れを見ながら追わせて行く。

 数日ほどかかる仕事となるのでアイテム製作と羊皮紙工場の様子を見ていく。

 大きくなった仔牛達を食肉に加工して献体たちに食べさせる。

 ただ、これはメイド達に手伝ってもらおうと思った。

 朝と晩に十五人ずつ来てもらい、それぞれに食事を与えてもらう。

 備蓄している野菜もしっかりと食べさせる。

 献体を風呂に入れたり、トイレのお世話も任せてみた。

 急な忙しさだが、メイド達は目を輝かせて頑張ってくれた。

「世間話しでもしていいからね。あと……、よろしくお願いします」

 世間話しが出来る余裕があれば、だが。

「畏まりました!」

 七の宝物庫はメイド達の活気に満たされる。料理は第九階層の料理人とツアレが協力してくれることになった。

 食材はこちらの提供だが、それらは一(・)般(・)メ(・)イ(・)ド(・)達は食べない方がいいと伝えている。

「火を通せばいいのでは?」

「人造人間(ホムンクルス)には影響は無いかもしれないが……。君達限定にしないとダメかもしれない。一応、アインズにうかがってくれ」

「畏まりました。……毒でなければ平気そうなんですけどね」

「気分の問題かもしれない。……急に腹の中で治癒魔法が働いて復活するのでは、とか……」

「……おぅ……。お腹が破裂しますね、それは。……すみません。そのような想定をされているのに気軽に考えてしまい……」

「いいよ。私の考えすぎだ。……一応、料理に魔法をかけて実験してみるといい」

 魔法をかけようにも一般メイドにそんなことは出来ない、と思い至る。

 ヤントラ側のメイドに色々と魔法かけさせることにした。

「はい。必要な事はそれぞれのお方に頼んでみます」

 七の宝物庫はちょっとした託児所に変わり、定期的に料理や戦闘メイド達による遊び相手などが始まって賑やかになってきた。

 ンフィーレアに頼んで子供用のオモチャなども作ってもらった。

 全員分の布団も用意し、部屋に敷き詰める。

「……自我があればあったで大変ですね」

「……どこで間違えた?」

 ンフィーレアは苦笑する。

 彼らの運命は伝えられていたのでエンリには秘密にされていた。

 他人の子供というよりは月でも似たようなことをするので、非人道的な景色は教訓として胸に留め置こうと思った。

 人の欲望は果てしない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 次の日にはアインズが子供達の様子を見て驚いた。

 メイド達の奮闘振りに手を振りながら労うが、自我があればあったで大変な事は痛感した。

「……うるせーな……」

 七百人も走り回っているのだから仕方が無い。

 精神年齢ではゼロ歳児なのだが外見年齢は既に五歳児は超えている筈だ。

 成長が早すぎるが理由は知っている。

 魔法か設定かは考えても不毛だ。身体に負担のかからない方法ならばなんだっていいと思った。

「ご苦労。大変だとは思うがしばしの辛抱だ」

「は、はい」

 メイド服の上から胸を吸おうとしたり、布団にお漏らしする子がちらほらと見える。

 走り回っている子や大人しい子。

 七百人を十人足らずで面倒を見るのは無理かもしれないと思った。

 とはいえ、メイドを全て連れてくるわけには行かない。

「……分割してもらえばよかったな」

 とにかく多すぎるし、うるさい。

 赤子同然なのだから仕方が無い。

「献体が膨大な数になるわけだ。そうだな、蜥蜴人(リザードマン)も……」

 せっかくメイドが仕事をしているのだから邪魔してはいけない。でも、人数が圧倒的に足りないだろう。

 妥協して二十五人に増強することに決めた。

 ペストーニャにも来て貰おうかと思ったがデミウルゴスに引き渡すと知られれば保護を打診してくる気がする。

 面倒な事態になりそうなので諦めることにした。

 第九階層は今は緊急を要しない。執事も居るし。

 これも愛する部下のためを思えば耐えられる。

 魔導国はこれよりも大勢のうるさい人間の相手をしなければならないんだろう。

 こんなことで負けるわけには行かない。

「床がタイルだと掃除しやすいだろう?」

「はい。布団は汚れてしまいますが……」

「ちゃんと下水に流せる仕組みになっているので掃除がしやすいです」

 汚物は桶にまとめてトイレに流すのだが、大浴場が近くにあるので清掃は楽だった。

 洗浄に関して機能的に作られた『マグヌム・オプス』は侮れないものがある。

 乾燥室がないのが不満点かもしれない。外に出ていい命令を与えればいいのだろうけれど、それは許可しなかった。

 代わりにヤントラのメイドに外での天日干しは頼んでおいた。

 これほど生き生きとしたメイドを見たのは初めてではないだろうか。

 あるいは支配者が直接、監督役になっているからかもしれない。

 今回は緊急だったが、普段も程よい仕事は与えたいと思っている。

「ナザリックの仕事も多ければいいのだがな」

「アインズ様に気遣っていただけるだけで有り難いことでございます」

「この施設は色々と危険がある。いざとなれば地上で助けを求めることも許そう。決して一人で解決しようとするな」

「畏まりました!」

 出入り口は柵でふさがれていて子供達が勝手に移動しないように施されている。

 それでも取り外そうとしたりする者(子供)は居る。なので、ヤントラのメイドが控えていた。

 トイレや風呂の時は全員が協力する。

 さすがに空を飛んで逃げ出す者は居ない。

 午前だけでもメイド達はズタボロになる。

 ナザリックのメイド達だけではなく、ヤントラのメイドもひどい有様だ。

 子供の元気は支配者より強いようだ。

 愛着を持ちすぎてもいけないのだろう。この子達は実験動物だ。

 生かしても育てることは出来ない。

 ヤントラとてそれは理解している。

 愛着云々の話しはこういうところから来ているのだろう。

 なるほどと思う。

 自分の子供を大切に思えないか心配になる。確かにそれは正しい。

 そしてそれは部下に向ける気持ちにも少なからず影響するだろう。

 

 賢い部下は殺した方がいい。

 

 そんな気持ちを抱くのも遠くないかもしれない。

 メイド達も自分の大切な部下だ。大事に扱わねばならない。

 少なくとも道具のように斬り捨てないように。

 ルプスレギナの事も今は無理だが、将来的には必要だろうからちゃんと考えようと思った。

 娘とはいえメスであるからにはオスを求める事は何も間違ってはいない。

 ナーベラルも年頃の女性だ。確か設定では。

 アウラとマーレは闇妖精(ダークエルフ)の年齢的には子供だから数十年は余裕がある。

「数日間の辛抱だが無理せず仕事に励んでくれ」

 メイド達は目を輝かせて返事を返した。

 

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