※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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L-10 ソリュシャン・ダストと命名

 六の宝物庫には七の宝物庫の喧騒は聞こえない。

 ンフィーレアは子供達を気にしつつも書類と格闘していた。

 ヤントラの方はラキュースの住まいと往復するようにスカアハの娘(ウアタハ)・ソリュシャンに色々と質問をしていた。

 アインズはヤントラが書く文字は理解しているようだが、暗号と言われている。

 魔導国の言葉ではなく、理解出来る人間が少ないので秘密だとか。

 この文字を他に理解出来る人間が居れば敵かもしれないし、仲間かもしれない。

 悪用されては困るので、迂闊には教えられない。

 言語としては通じないような言葉ではないので会話に不都合は無い。

「異邦人は自分の国の言葉しか知らないこともある。そこは察してくださいな」

「了解しました」

「余計に仕事が増えて何を優先すればいいのか、分からなくなってきた。ンフィーレア君もエンリと休日は過ごしているかい?」

「はい。……こっそり転移のお陰で。たまに森からモンスターが出るくらいで平和ですよ」

 いくつかの村と協力して大農園を作り上げて食糧生産を引き上げているらしい。

 税収はもちろん、国力も回復してきて都市が活気付いているとか。

 お抱え貴族は鼻高々で幾許かの報奨金が出た。

 それらは各農村でケンカしないように分配していく。

「花弁人(アルラウネ)達は大浴場に置いてて大丈夫ですか?」

 高温多湿と言えば大浴場。

 浮遊する金属板に植木鉢を乗せている。

 それほど気温は高くないので生育には邪魔にならないだろう。

 蜜が落ちても洗い流せるし。

 地上に置いておけばのこのこ引っかかりそうな人間が現れそうだから。

 カルネ村に植えるわけにもいかない。

 ゴムの木は株分けなどして半分は保存している。

「すっかり忘れていたがリイジーは元気かな?」

「はい。独自に研究する姿勢は凄まじいですからね。冒険に必要な道具は共同で作っていますし」

 子供達のオモチャ造りも手伝ってもらった。いつもタダで利用しているので見返りは無し。

「暇な時は異種交配か……」

「あー……、退屈されたら性的興奮に行こうとするんですね」

「性的は除いても興奮はしたいね。わくわくするようなこととか。どうして他人の様子は興奮するのか。謎だねー」

「……自分より他人がいいんですか?」

「色んな他人がね。浮気性なのかな」

 変態らしい言葉だなと呆れつつ苦笑する。

 それはそれでヤントラの憎めないところなのかもしれない。

 最近ではイビルアイも変態に染まりつつあるので心配になっている。

 ヤントラほどではないけれど何の研究なのか首を傾げたくなることがある。

 尻を触ることが魔法の研究に繋がるのか、と。

 研究者が少なくて良かった。これで帝国からたくさん招いていたらどんなおぞましい施設になった事か。もちろん、エロい意味で。

 三人程度で済んでいると思えば気が楽かもしれない。

 それから数日後に七の宝物庫は本当の意味で静かになった。

 短い期間だったがメイド達は激しい戦いを終えて第九階層で交代しながら眠りについた。

 起きている者は後始末の為に部屋の掃除などを行(おこな)っている。

 最終日は自分達と同じくらいの大きさに成長した子供達を取り押さえなくてはならず、ハムスケとセバスが動員された。

 運び出す時は全員を眠らせて。

 ソリュシャンを除けば厄介ごとの一つは消えたのかもしれない。

 清掃が終われば研究の続きだ。

 一日の休暇を挟んだ後で、メイド達が見回りと清掃の為に訪れる。

 スカアハの娘(ウアタハ)に寄生するソリュシャンは『ソリュシャン・ダスト』と名付け、監督役の一人であるナーベラルと共に地上の執務室に移動する。

 他のメイド達はルプスレギナに任される事になった。

 執務室ではたくさんの羊皮紙とインクとペンを用意し、色々と書き加えさせる。

「精神的な事柄は表現は難しいだろうけれど。それと裏切りというか部下の扱い方にも関わるからな」

「了解した」

「自分の記憶が正しければ献体を渡したのはアインズとデミウルゴスだけだ。後は食料とかになったのではないかな。人間の国で複製の使い方を考えられそうなのは……、ラナー王女くらいしか出て来ないだろう。後はおぞましいと言うから。例外としてはイビルアイかな」

「ふむ」

 ナーベラルとソリュシャンの間に仕切り壁を置く。

 意味があるのかは置いておく。

「いつもの儀式を交えて身体の力は抜いておいた方がいい。外部からの攻撃はさすがに想定したくないけどな」

 それぞれ質問を繰り返し、儀式も交互に行(おこな)ったりして様々な情報を書かせていく。

 一日で終わる仕事ではないので定期的に様子を見ながら調べていく事にした。

 他の献体は自我について反応があった者はほぼ居ない。

 種族によるものなど色々と条件があるのだろう。

 杞憂という言葉で片付けるのは怖いけれど、調査は大事だろう。

 さすがにナーベラルの胸が意思を持って喋りだすことは無かった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 目標となる項目が多いので混乱してくることを様子を見に来たアインズに告げるンフィーレア。

 睡眠不要のアンデッドは常に仕事を続けられるので人間の疲労はたまに理解できなくなる。

 日本語に訳された羊皮紙を読みつつ大変だな、と呟いた。

 もちろん、これを魔導国でも出来るのか、と言われればやってられるか、と答えてしまうかも知れない。

 素材集めくらいなら出来そうだが。

 必要な物が多いと楽をしようとして失敗しそうだ。

「それよりエンリは凄い女に成長したようだな」

「ありがとうございます。それもこれも屠殺場の特訓のお陰です」

 それにしても凄すぎやしないだろうか、とアインズは苦笑する。

 本人の努力もあるのだろう。ヤントラは特に助言などはしていないようだ。

「クラスを得る、という仕組みが分かればもっとすごい事が出来るのでしょう。エンリが言うには毎日数万体のモンスターを用意したヤントラさんが凄まじくて誰でも出来るとは思えないのだとか」

 仕組みをある程度理解しているアインズも人材さえあれば出来なくはないと思っている。

 ただ、命令を与えるのが面倒くさい。

 入力用のメイドでも用意すればいいのかもしれない。

 というか、無理してナザリック地下大墳墓に作る必要はないのだが、人工的に作ると色々と気がかりが生じてしまう。

 地盤沈下とか、ンフィーレア達が危惧していたことなど。

 クラスを得る仕組みが判明すると厄介な人材が増えてしまう。

 そこかしこにレベル百の村人が徘徊して世界が大混乱しそうだ。

 帝国であれば瞬く間に世界を制圧し、有り余る力を持て余して混沌とした世界が形成されるだろう。

 極端な例ではあるけれど。

 混沌とした世界を望んでいるようだが、壊したいわけではない。

 実力の底上げと言う奴だろう。

 低位から中位に引き上げる。そうすることで歯ごたえのある世界が形成される。

 今の世界はいわば初心者コースだ。

 ハイレベルプレイヤーには簡単すぎる世界とも言える。

 それだと経験値が少なくて退屈してしまうだろう。

 あまりにも弱すぎるので部下が思いっきり運動が出来ない。

 小さな不満はたまると怖い。

 難しい采配を振るわねばならない。

「良い事ばかりではないぞ。悪事に利用されれば厄介だ」

「はい」

 百レベルが増えるとユグドラシルプレイヤーかどうか分からなくなるし。

 自分の知りえる範囲の人材は今のところ問題は無い。

 他の国の情報も得なければならないだろうし。

 そういえば、スレイン法国はヤントラも未調査のようだ。

 信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)なのに行っていないのはクレマンティーヌという女の存在があるからだろうか。

 こちらもプレイヤーを警戒して乗り込んだりはしていないのだが、いずれはあいまみえるのだろう。

 各地に残る伝承の調査も。

 自分たちが居る国は実はものすごく小さいのではないのか、という疑問がある。

 世界は広いはずだ。

 未開拓地を制圧しても管理する人材が居なければ意味が無いだろう。

 都市作りも簡単ではないし。

 自分で自由に出来る拠点を作るヤントラのような方法は割りと理にかなっているのかもしれない。

 不便なことは王国の領内なので他の都市の目がある事だ。

 得たいの知れないモンスターを外に出せないので、隠れて怪しげな研究に没頭するような精神的に不健康な事態になっているのだろう。

 だからこそ時々、ラキュースのところで家族サービスしているのかもしれない

 自分も生き抜きにンフィーレアに会いに来ているし。というかここに来る時はアルベドを忘れてしまう。

 埋め合わせに魔導国の様子を見る時は連れて行くようにしている。

 そういえば不必要なデータクリスタルを返すの忘れていた。

 緊急性が無いから集めているだけで放っているのだろう。ナザリックの宝物庫も似たようなものだし。

 長期的には各素材の在庫はあればあった方がいい。

「項目が多いと優先度の選定が難しいだろう?」

「はい。砂漠地帯に作っている建物とか森林の拠点も追加されていますからね。世界規模で飛び回る事態ですよ」

 国を作る以上に忙しいかもしれない。

 近くに都合のいい気候を揃えることは出来ない。

「冒険者らしくていいことじゃないか」

 モモンとしても遠くに行ってみたいところだ。どうして世界征服なんて目標を掲げてしまったのやら。

 上位ギルドのように世界を飛び回ることも悪くないだろう。

 ここには順位は無いのだから。

 遠征の仕事はエ・ランテルや帝国と王国には無く、あっても国境までだ。

 冒険もいいのだが国を制定しなければならない。

 支配者やめたい。そう思うこともある。

 ギルドのまとめ役は辛いな、とアインズは思った。

「やはり……、領土を広げるには戦争しか無いのか?」

「普通に考えたら相手国を脅して奪い取るんでしょうね。土地を購入したとしても領土まで売るわけではありませんから」

 逆に独立は領土は広くならないけれど自国領として使うことができる。

 土地を買うような平和的な方法は実際問題として無い、ことになる。もちろん、範囲拡大という意味でだ。

 他人の土地を自分の土地の色に染めること。

 平和的な侵略は地味で大変だ。なんでこんな方法を選んだんだろう。

 賢い支配者にはもっと頑張ってもらいたいものだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 平和が続いているので冒険者の依頼は貴族の護衛が多くなっている。

 驚異的なモンスターが出現した、という噂は無く、犯罪者が出てくる程度だ。

 互いの弱点を補い合う冒険者チームと違い、一人で完結しているヤントラは少し浮いていた。

 依頼書を眺めつつ続けるか、やめるか。

 人生の選択に頭を痛める。

 不便さを求めるなら人材全てを捨てればいい。あと、極端なクラスに変更する。

 そうすれば思い通りに行かない不便な冒険ができる。

 ギルド内にあるテーブルに座り、突っ伏す。

 一国に留まらず、次の国に移動して活動するのが基本なのに何をしているのだろうか。

 煩悩という自我が別にあって邪魔をしているのか。

 仲間を引き連れても目的が無い。

 世界とか気にしないで遊べたらいいのに。

 これもまた世界の強制力かもしれない。

 長期的に冬眠でもして時代を進めたら新たなスタートが始められるだろうか。

 それをするにはラキュース達をどうにかする必要がある。

 結局は月に行き着くのだろう。

 月というか『万魔殿(パンデモニウム)』に。

 気分が重いので施設に戻り、砂漠地帯に向かう。

 水分補給しているとはいえ長時間の作業は大変そうだ。

 木造建築の大型施設。氷の精霊(アイス・エレメンタル)を多数配置させているけれど、多すぎると寒い。

 砂とレンガで作り上げた大型の窯(かま)。

 洞窟の石壁などを掘削し、適度に焼入れを行(おこな)った。

 後は砂を溶かして型に流し込むだけだが高火力を生み出すには火の精霊(ファイア・エレメンタル)を駆使するのがいいだろう。

 灼熱の作業は簡単ではないな。

 別の日にはルリマリスを伴い、樹液探しに出かける。

 もちろん、転移要員のメイドとンフィーレアを伴う。

 窓に使うものや色々な素材に適した樹木があるのかの調査だ。

 物騒なことが無い分、ルリマリスは自然を満喫していた。

 設置した拠点はどんどん遠くにも作られ始めて未開地を進行していた。

「樹液を良く出す木はどんなものがあるのかな?」

「樹液より素直にガラス製品を作ってはいかがでしょう?」

 柔軟性が欲しいから樹液を探すつもりだったのだがスキルで作り出せそうで面白くない。

 どんな素材が最適かは実際のところは手探りだ。

「絶対に壊れないガラスというのはおそらく……」

「そういえば保存容器のガラスを使えばいいじゃん。使えるものなら」

「あはは……」

 身近に丁度いい素材があった。

 ンフィーレアは苦笑する。

 ヤントラはそれほど深く物事は考えていないようで、理由は分からないけれど安心した。

 失敗を恐れずに色々なことに挑戦する人で。

 並みの溶解にもびくともしないアイテムなので加工できるのかは挑戦しない事には始まらない。

 溶かしたら金貨に戻ったりするのか、そういえばやった事が無いと思い至る。

「獣系のモンスターばかりだな」

 当たり前だが、森の中には様々な動物が徘徊している。

 魔獣という凶悪な顔は見当たらないが虎などは居るようだ。

 熊に野生の牛。鹿。色とりどりの羽を持つ鳥。

 猿も居るかもしれない。

「特定の植物となると見つけるのも一苦労ですね。トブの大森林とは違う植物が多いようですが……」

 距離的に王国から冒険者を向かわせるのは難しそうだった。

 木々が生い茂る場所に居そうな女体は花弁人(アルラウネ)と森精霊(ドライアード)の他は思いつかない。

 森妖精(エルフ)達は除外する。

 東の方なので東洋風のモンスターが現れてもいいはずだ。

「面倒くさいから、ここに一時的に王国を築きましょうか。おぞましい実験が自由な国を」

「わー!」

「ひー!」

 とんでもない発言にンフィーレアとルリマリスは驚いた。

 周りは確かに誰にも邪魔されない気がする。

 広大な森を先に開発してしまえばしばらくは自由だ。文句も来ないだろう。

 その発想は危険ではあるのだが面白い。

「ラキュースさんを置いて勝手に作るのは難しいと思いますよ」

「殺すしかないか」

「こらこら」

「広大な土地は欲しいし、自由も欲しい。黙って女体が降(ふ)ってくる世界が作れないものか」

「そんな世界はありませんし、落下して来たらみんな死にますよ」

「……ちぇ」

 子供っぽいところは可愛いのに、とンフィーレアは苦笑する。

 頭がいいのか、悪いのか。

 発想が自由なところは嫌いではない。

 この辺りなら黒くて丸いモンスターを放し飼いに出来そうだし。

 森林を大量に伐採しなければ問題は起こりにくいだろう。

「仮にモンスターを増やすと竜王国などが迷惑を被りそうですね、将来的に」

 反対側に国があれば、そちらにも迷惑がかかるだろう。

 モンスターが居れば冒険者の仕事は増えるかもしれない。そこら辺の匙加減は難しいものだ。

 バカな話しをやめてしばらく木々の調査を続ける。

 ルリマリスは時折、木に登り辺りを見渡す。

 余裕があれば木の実の存在も確認する。

 植物系モンスターに注意を払いつつ移動する。

 日の光りが届きにくい場所柄、花が見当たらない。

 花弁人(アルラウネ)は居るようだが、華やかさに欠ける。

 進むごとに地面がぬかるんでくる。

「そろそろ蛙(トード)系も出てくるかもね」

 ぬめる身体を持つモンスター。

 蛙人(トードマン)は二足歩行する亜人。

「……戻りましょうか。段々、暗くなってきましたし」

「そうだね」

 無理せず少しずつ。

 転移により拠点に戻ると一息つく。

 ルリマリスは汚れた身体を洗う為に風呂場に向かう。

「ンフィーレア君も子育てに集中した方がいいのかな」

「面倒は見ていますけどね。……前よりは楽な移動ですけど……、側に居ることも大事ですよね。今度、連れて……はこれないか……」

 裸の女性が現れたりするから。

 『マグヌム・オプス』で働く多くのメイド達はほぼ服が与えられている。ただし、七の宝物庫は裸の献体が多く、丸見えだ。

 執務室代わりの六の宝物庫はまだ無難だが、子供を案内するには勇気が居るかもしれない。

 メイドは『伝言(メッセージ)』でもう一人のメイドを呼びつけた。

 採取した植物類を保管する為にンフィーレアを送るのだが、そのまま研究の為に今日は引き上げることにした。

 ルリマリスも風呂から上がったところで施設に戻ってもらう。

 後はヤントラとメイドで探索の再開だ。

 既に新たな拠点作りが始められ、そこに転移する。

 周りは闇が支配するほど暗く、視界が利かない。

 『闇視(ダークヴィジョン)』が無ければ移動が困難なほどだ。

 漆黒そのものでもメイド達が拠点を造れるのは『闇視(ダークヴィジョン)』などを持っているお陰だ。

 木々の間に板を渡して家を作る。

 足元は既に沼地のようにぬかるんでいる。

 ただ、上空は晴れ渡っているので移動するなら上からの方が楽だと言う結果。

 潜むには打ってつけの場所ではある。

 『永続光(コンティニュアル・ライト)』の光りも漏れてしまうと目立ってしまう。

 こんな暗い世界に居るモンスターはどんなものだろうか。

 確実に花弁人(アルラウネ)は生息できないと思う。光合成できなくとも得物の養分があればいい、という事もあるかもしれない。

 アンデッドの姿は無いが地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)などが走り回っている。

 悪魔系が居る。

 あるいはダンジョンがあってそこから出てきている、などが考えられる。

 普通に考えて悪魔が居るのはおかしな話しだ。

 そういう世界だとしても。

 ユグドラシルのゲームから連れて来たモンスターが数百年をかけて大繁殖したのか、独自の進化を遂げたのか。

 交配具合によっては未知のモンスターも居ないとは言い切れない。

 建設途中の拠点のようだがメイドはモンスターを気にせずに足場を組んで道具を奮い続ける。

 専門のクラスを持つ者を数人呼び寄せて作るのではた目からは見事なチームプレイだった。

 メイドに出来て、ヤントラに出来ない。

 リーダーの素質も無いかもしれないな、と自己嫌悪に陥る。

 悪魔系の女体モンスターは綺麗どころは居るのだがバッドステータスが怖い。

 女淫魔(サキュバス)は言うに及ばず。

 夜の魔女(リリス)。夜の魔女の娘(リリン)。三相の悪魔(ヘカテー)。嘆きの妖精(バンシー)。

 精霊も居る筈だが心が汚れているのか、出会わない。

 召喚すれば早い、というのもあるけど。天然物がいい。

 現れるモンスターの情報は記載させているが危険と判断すれば拠点は放棄して撤退を命じている。

 今のところ森の中では撤退は無し。

 竜(ドラゴン)などは撤退していく。

 自分からは戦いを挑まない。

 しばらくメイド達の作業を見た後、漆黒の世界に降り立つ。ただし、地面はほぼ水なので木の幹を利用する。

 大抵は最初の街から離れれば強敵が出てくるものだ。

 事実、竜王(ドラゴンロード)は近くに住んでいなかった。

 最初から隣りに竜王(ドラゴンロード)が居たらどうなっていただろうか。

 少なくとも戦う前に話し合いだろうな、と思う。

 転移直後にブレスで消し炭という結果も無くはないだろう。

 森の中は音が反響しにくいのか、数メートル離れただけで静かになる。

 闇が深いので漏れた光りもすぐに分からなくなる。

 子供が迷子になったら見つけられそうにない難所かもしれない。

 メイド達は単独行動はさせないようにしているし、点呼も取らせているので欠員は今のところ出ていない。

 闇に浮かぶ赤い光り。

 モンスターが徘徊しているのだろう。

 東洋系が居るなら忍者(ニンジャ)なども出てきていいはずだ。

 人間型のモンスターは確かに存在する。

 不思議なのは彼らの装備品だ。

 一式揃っているということ。誰がどのように与えたのだろうか。

 生まれた時から自動的に着ています、という理由だろうか。

 人食い大鬼(オーガ)が棍棒ではなく伝説の剣を持って襲ってきたりしない。

 暗殺者(アサシン)の上位職の敵は居ないものかな。集落があればいいのだが、上空から見た限りではもっと遠くまで行かないとダメな様だ。

 深い森が広大だ。

 どこかの国が領地として持っているのは考えにくい。

 下が沼地だから建築は難しそうだ。木を利用すれば不可能ではないけれど。

「単独行動すると見失うな」

 無理に行く事もないだろう。

 急ぐ理由はない。

 せっかくなので木の葉と枝と根を何本か切り取る。

 暗い世界に生きる植物は逞(たくま)しい。

 拠点に戻り、毒性を調べる。

 それから沼地の水や土などを採取しておく。人が調べるのに都合がいいのか悪いのか。

 毒の沼地というのは珍しくない。

 葉が生い茂っているけれど毒に耐性のある樹木という事も考えられる。

 メイド達には建設を続けさせて帰還する。

 ンフィーレアに取った献体を引き渡しておく。

 毒性があっても対処できるのが専門家だ。調べる時は万全の体制で望んでくれる。

「あの辺りで育つ植物は毒にかなり耐性があるようですね。水も多少の毒性はあるようですが、毒だけ排除して水分を吸い上げているのかもしれません」

「即死系かな?」

「そこまで強くはありません。ただ、生物が暮らすのは厳しいでしょう」

 毒と共生する植物かもしれない。

「土は毒に汚染されているので浄化してから捨てないと危険です」

 的確に意見を述べていくンフィーレア。

 研究している時の彼の目は輝いていた。

 調査はンフィーレアに任せて風呂場に向かう。

 大浴場には水を浄化するマジックアイテムの棒がたくさん置かれている。

 上を見れば大人しい花弁人(アルラウネ)達が天井から落ちてくる水滴と戦っている。

 浄化の棒を持っていけばメイド達も風呂に入れるだろう。なので指示を与えておく。

 疲れはそれほど感じていないのだが、精神的な疲労はあるのかもしれない。

「……裸のまま施設の中を走り回ったら気持ちいいかな?」

 変態らしく。

 確実に精神的ダメージは受けるだろう。特に自分が。

 これが父の姿だ、と教えるのはさすがに抵抗があるな。

 子供達の為に自重しよう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 一日はとても短い。

 様々な作業を並行して行(おこな)っていると痛感する。

 再生するのに時間がかかる。

 羊皮紙も一通りの作業に半月かかる。

 一日の時間が長ければいいのか、と聞かれれば結局は同じと答えるだろう。

 一日に使える回数が限定されているスキルは特に。

 六と七の宝物庫にトイレや風呂を作り忘れていた。

 あと、手洗い場も。

 それと羊皮紙生産も止めた方がいいだろうか。

 羊毛はこれから必要となるので残した方がいいだろう。

 時間は無情に過ぎていく。

 一ヶ月を有意義に過ごすようなイベントは無いだろうな。

 あればあったで賑やかなことになるだろう。

 暇つぶしにメイドの尻を撫でてみる。感触としてはとても柔らかい。

 こんな変態が居る『マグヌム・オプス』はかなりどうかしているんだろう。

「……ご主人。それはメイドではなく私の尻だぞ」

「おっ、イビルアイ。居たのか?」

「居た、というか来たのだが。下半身については腹を壊しそうなので下着だけで我慢してくれ」

 本当に壊すのかはイビルアイも分からないが、気分的な問題だった。

「残念」

 苦笑しつつイビルアイはヤントラの頭を軽く叩く。

 浴衣のまま六の宝物庫を歩き回っていたので近づいたイビルアイはいきなり尻を撫でられてしまった。

 モンスター同様、ヤントラに掴まってはいけないのかもしれない。

「めぼしいモンスターは居なかったようだな」

「毒性の強い植物はあった。調査は遅々として進まないものだ」

 本命は樹液なのだが、欲しい素材はまずどこにあるのか分からない。

 地道な調査には物凄い時間がかかるものだ。

 楽して魔法で生み出すと実もふたも無いし、張り合いが無い。

「そうそう。トイレや風呂。洗面所を作ろうと思うけど意見はあるか?」

「んっ? この階に作るのか?」

「手洗い場が近い方がいいだろう」

「……うむ。そうだな。フィア殿と相談して場所の選定を模索しよう」

 浴槽や部屋の概観(がいかん)などをメモしていく。

 改築も色々と勉強になる。

 どこに穴を開けて排水の仕方や水の浄化方法。

 男女の意見は違うものだから色々とお互いの事がわかってくる。

 別の日にはエンリも交えて意見を集めていく。

 

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