※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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L-11 断熱効果実験

 定期的にラキュースと会食し、子供達の様子を見るのだが冒険者をやめるべきか迷っていることを告げる。

 自分で判断できるけれど妻の意見も無視は出来ない。

 というよりは誰かに聞いてほしい時がある。

「月の支配者になるのだからやめてもいいんじゃない?」

 名声に興味を持たない者にアダマンタイト級は無意味だろう。

 将軍のような特別な役職の方がヤントラには合っている気がする。

 国や貴族のお抱え騎士のような。

 変態暗殺者。

 エロい超越者。

「……うふふ」

 ラキュースは破顔してしまうほどにかっこいい名前が浮かばなかった。あと、似合わない。

 お世辞で騎士を許容してみても中身は女体まみれ。

 擁護は出来そうにない。

 我が子の顔を見ると自慢できない親だなと呆れてしまう。

「自堕落な父みたいになってはいけないぞ。ダメな親を見ている方が立派な大人物になれるかもしれない」

「そうだといいわね」

 物心のつかない子供達をあやしながら食事を与えたり、遊んだり、風呂に入ってベッドで一緒に寝たりする。

 続けてきた家族サービスも少しは慣れてきた。

 狂った世界で生まれたヤントラにとってはバスディオ達はとても恵まれているのかもしれない。少なくとも世界はまだ子供達に優しく微笑みかけている。

 当初のラキュースは子供達の目の前で性行為の実演を見せて、お前達はこうして生まれた、という予定があったらしい。

 今は悪魔にも完全とはいえないが平然としていられるようになり、戦士としての鍛錬も健康のためを思って続けている。

 完全装備の姿を子供達に披露し、痴態をさらそうと子供達の為に戦うことを誓った。

 思いのほか月に行く計画が遅いので意外だと思っていた。

 イビルアイからの報告でも時間がかかっているけれど製作計画は進んでいる、と。

 飛んでいけばいい話しではないらしい。

 こっちはこっちで貴族の戦いが待ち受けている。

 戦争を終えても人の気持ちは簡単には変わらないし、手に入れた権利は簡単には手放したくない。

 第一王子はいつも通りだが第二王子は着々と勢力を拡大している。ラナーも第二王子を利用して様々な情報を手中に収めている。

 おどろおどろしさでは『マグヌム・オプス』に負けていないかもしれない。

 最初は討伐隊を編成しようとしていたカルネ村の処遇は村長エンリの活躍が広まってからは自分の部下にしようと画策する始末だ。

 バレアレ家の処遇も上げようとするのだが、若返ったリイジーは中身が年寄りのままなので意外と融通が利かない。

 富みの殆どはヤントラが与えてしまったので味方に引き込むのは至難の業かもしれない。

 助手は孫以上に役に立つ人材が少ない。

 クライムは今も鍛錬を続けているのだが実力は遅々として上がらない。だが、決して弱くはない。

 今のクライムは以前よりも強いのだから、更なる上昇が難しくなってしまっただけだ。

 国と都市は小康状態。

 情報戦は繰り広げられている。

 大義名分を失った今、帝国と王国は戦いたくても出来ない状態になっている。

 もうすぐ完成するというアインズ・ウール・ゴウン魔導国の存在によって。

 建国宣言から国として活動するのかと思っていたが下水工事や都市機能、法整備に時間がかかっているようで本格的な活動は城塞都市エ・ランテルが代行して行(おこな)っていた。

 他国から様々な人材を招いているようだが、建設途中の建物が多く目立っていた。

 ナザリック地下大墳墓の拠点は問題ないのだが周りの水周りの整備などは一から作らなければ成らないほど未整備状態が多かった。

 魔法ですぐに建国が終わると誰もが思っていたらしく、地味な作業に手間取っているという事態は意外だった。

 王国と帝国から建築業者を招き、様々な意見が交わされた。

 アンデッド兵は無数に徘徊していたけれど大きな混乱は無かった。

 エ・ランテルも同様だ。

 元々住んでいた住人を追い出す事無く、以前と同じように住むことを許可した。

 アンデッドの支配者という事で誰もが恐れた。だが、時が過ぎていくと治安のよさに安心したのか、少しずつではあるが人の営みが増えていった。

 ただ、他の都市に移り住む者も少なくない。

 現に多くの冒険者は出て行ってしまっていた。

 国が支援できなければヤントラが支援するだけだ。

 それほど多くは無いが備蓄されている食糧を開放することもあるという。

 戦争は戦争として割り切るところは嫌いではない。

 だからといって好き放題に子供を産むことは出来ない。

 そもそも子供を育てたり教育するのは物凄く大変だからだ。それはヤントラも自覚しているようだ。

 性行為は気持ちが良くて困るのだが、妊娠することは別の話しだ。

 孕まないが行為は大好きだ、とは言っている。

 メスは結局、強いオスが好きなのだ。

 そういう風に身体が出来ている。

 亜人だったらもう少し愚かでいられただろうか。

 強いメスであれば弱いオスの男根を食いちぎり、腹の足しにしたことだろう。

 同族食いで病気になると困るけど。

 将来的には誰かの妻となり、子育てに集中するメスとなるのだろう。

 それが自然の流れだと思えば今の暮らしは悪い事だろうか。

 自問自答しても答えはきっと出ないのだろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 気温が温かくなる下水月(六月)。

 雨が降りしきる中でも『マグヌム・オプス』は強固だった。

 高い天井なので雨漏りの確認は意外と大変だ。

 メイド達による見回りで壁の亀裂は発見次第、補修していく。

 人の手で作られた施設なので完璧ではない。

 平原に穴を空けたので山から土砂崩れなどは魔法でもない限り起きない。

 普通の補修では水が溜まって決壊するおそれがある。当然、水を抜く穴が空けられている。

「粘体(スライム)を使ってゴムをしっかり浸透させる方法を取ってみましょう」

 せっかく集めた素材は試して研究するのが一番だ。

 施設に居る粘体(スライム)はとても器用で、細かい作業に打ってつけだ。

 亀裂の発見はメイドに任せた。

 仕事を与えられたメイドは外の天気を消し去るくらいの笑顔の輝きを見せてくれた。

「魔法で天候をコロコロいじると年間を通した天候が狂ってしまう。自然は自然のままがいい」

「そうなんですけど、ここは常識をよく覆しますよね」

「はっはっはっ」

 施設の中はとんでもない。ただし、それは外まで影響を延ばそうとは思っていない。

 奇想天外な出来事が多いけれど王都は平穏だった。

 一角獣(ユニコーン)の大群が攻めてきたりしない。

 女淫魔(サキュバス)の大群に城を制圧されたりもしていない。

 エンリの大群にンフィーレアは精子を搾り取られたりしていない。

「……最後の例えは酷いですね」

「人口増加は食糧事情が逼迫(ひっぱく)するものだ。備蓄は大切だぞ」

「はい。……というか僕の子供が大量に生まれる想定は怖いですよ。精々、五人から十人くらいが……」

 産ませる事は出来ても育てて教育しなければならない。

 大人数は夫婦では手が足りないだろう。

 小鬼(ゴブリン)達は苦手そうだし。

 過剰供給は良くないのだろう。

 ンフィーレアから別れて地上の施設の点検を行(おこな)う。

 執務室以下、特に目立った異常は無い。

 宿舎は農民たちが使用しているけれどこちらも自分たちで補修するようだから任せておいた。

 リイジーの店は既に独自の対策を講じていたので雨漏りは無いと報告を受けた。

 大型倉庫は木造ではあるけれど雨漏りはしていないが屋根にぶつかる雨音は聞こえていた。

 資材置き場は大型倉庫と同じように作っているので問題は無い。

 空中に作った施設は密閉型なので雨漏りしては困る。

 転移で中を確認したが問題は無し。

 海上の方はシーツが濡れていたが内側に張り巡らせた蜘蛛女(アラクネ)の糸のお陰かしぼむことは無かった。

 隙間から水漏れはしていた。

 外壁が無いので床に水玉が出来ていたが風で流れ落ちていく。

 多少の雨漏りも想定内ではある。

 野ざらしをそろそろ中止した方がいいだろう。

 施設に戻って改良型の小型の金属床タイルを並べた時、シリカが到着していないことに気付いた。

 ゴムは保存容器に入れて準備は出来ている。

 フェルトもメイド達とナザリック地下大墳墓のとある階層の協力で製作が始められていた。

 既に試作品がンフィーレアに選定され、図面が書き加えられていく。

 定期的に設計士を呼んで検討会を開いている。

「床は問題ないと思います。外壁の方はまだまだ素材が必要です。今のままでは一面の三分の一程度が限界かもしれません」

「……充分だ。巨大な施設が相手なのだから一年二年は当たり前」

「はい。先に床を一面やったとしても雨露(あめつゆ)はどうしようもありませんよ」

「そうだね。花弁人(アルラウネ)を配置して吸う、というのは無理そうだし」

「無理ですね。いくら植物でも無限に水分は取れません」

 メイド達に水分を好き放題吸い取らせる、というバカな案が浮かんだ。

 無限に吸える、という点でだが。

 とても可哀想な使い方だ。しかも、仕事として与えたら喜びそうで怖い。

 

 雨漏りの補修が終わる頃に天気が回復していた。

 試作したシリカを板状に加工し、出来栄えを確かめる。

 シリカ。フェルト。オリハルコンという順番でゴムの接着剤で貼り付ける。

 後はシリカを下に向けて火の精霊(ファイア・エレメンタル)で焼いていく。

 オリハルコンの上には氷を乗せる。すぐに外気温で溶けると気付き、水を入れたコップを乗せる。

 少しずつ温度を上げていく。

 伝え聞いた情報が正しければ大気圏再突入でもシリカはびくともしないはずだ。

 フェルトを挟むことで金属板の熱膨張もおさえられる、とかなんとか。

 暑くなってきたので少し離れておく。そして、千度を超える命令を与えてみる。

 白熱した熱が加えられていく。それも出来る限り一点集中するように。

 三十分も経たない内に精霊(エレメンタル)は消えてしまう。

 二時間ほど召喚し続けてもらった。

 結果としてはコップの水は沸騰して半分ほど蒸発していた。

 もっと広い板なら良かったかもしれない。とはいえ、コップは溶けなかった。

「……これは成功なのか、失敗なのか……」

「横から熱気が舞い上がったら、分からなくなりますね」

 少しずつ水をかけていくと蒸気が発生する。

 風呂場から水を取り寄せてゆっくりと冷ましていく。ついでに氷の精霊(アイス・エレメンタル)にも協力してもらう。

 三十分ほどかけて触れるくらいまで冷やした。

 ガントレットを装備してオリハルコンだけ持って持ち上げてみる。

「おお、接着している」

 一点に集中していたシリカは少し色は変わっていたが溶融は確認出来ない。

 間に挟めたフェルトは端だけ炭化していた。

「完全に接着剤は硬化しているようですね。うん、しっかり接着している」

 今度はオリハルコンを十枚以上並べて五メートル四方の大きな正方形にして実験を再現する。

 火耐性のデータクリスタルでも組み込めばいいのかもしれないけれど、それはそれで膨大な数が必要となる。

 床材の金属板は小型だが外壁は普通の大きさで検討していた。

 再度の高火力を再現。

「……しかし、あの精霊(エレメンタル)はすごいですね」

「そうだね。溶岩のモンスターが居るくらいだから、まだまだ凄いモンスターが居るかもしれない」

 危険なモンスターがそこかしこに居ては世界にとって脅威でしかない。

 火を司るといっても力を出し尽くせば弱ってしまうので、そこはモンスターとしての弱点なのかもしれない。

 普段は千度を超える火力は出さない大人しいモンスターだ。氷が弱点。

 四大精霊以外にも精霊系は存在する。

 高火力の力を精霊は簡単に出せるわけが無く、それなりに強い精霊でなければ無理だ。

 精霊(エレメンタル)は小型のものから上位種まで居る。姿は鉱石、人型、モンスター型、不定形といろいろ居る。

 実験を眺めていたら『熱素石(カロリックストーン)』という世界級(ワールド)アイテムの存在を思い出した。

 うっすら過ぎる物騒な世界級(ワールド)アイテム。

 便利なアイテムより替えの利く有り触れた材料の方が安心度は高い。

 二時間後に火を止めて冷却していく。

 無理矢理それぞれ引き剥がして調査する。

 シリカは溶融せず。

 事前に熱さごとに赤熱具合は確認していた。厚すぎず薄すぎず。

 重量の関係もあるので、重くなれば魔法のコストがかかる。

 一般化はおそらく出来ないだろうとンフィーレアは予想する。

 天空に浮かぶ城や岩などの仕組みを調査しない限りは莫大なコストがかかり続ける。

 仮に浮遊する物質があったとしても素材して使える保証は無い。

 より上空で滞空できるのか、強度や耐性はどの程度なのか、など。

 ヤントラはコストはかかるけれど確実な方法を取っている。

 無いものを望むよりはあるもので工夫する。

 それは技術者としては尊敬に値するだろう。

「オリハルコンは加工できる素材としては優秀なのだろうか?」

「理想としては溶けにくい金属がいいんですよね?」

「うん」

 高火力に出来るだけ負けない金属。

 金属板だけでは決して高火力には勝てない。そもそも、鍛冶師が加工できないような金属は聞いた事が無いけれど、あればあったで大量に用意するのが困難だろう。

 アダマンタイトも充分に希少金属なのだが、アポイタカラとヒヒイロカネ。ウーツ鋼やガルヴォルンなどの金属も見せてもらった。

 希少な魔法金属を大量消費すること自体、荒唐無稽だ。それこそ金がいくらあっても不可能だろう。

 それらを魔法で生み出せたとしても絶望的とさえ言える。

「常識的に言わせて貰えば溶岩に負けない金属なんて存在しない筈です。石ですら溶けるんですよ」

 というかどうやって加工するんだろう。

 スキルで簡単にアイテムが出来る、みたいなことだとバカらしくなる。

「魔法金属でも加工できないと困ります。そもそもそんな物質は存在しないと考えた方が自然です」

「はい」

 ヤントラは生徒のように素直に返事をした。

「溶岩に負けない場合は耐性付与するしかない。金属としては不可能でも魔法の加護であれば溶岩に打ち勝てる。仮にそうであっても膨大なコストはかかるでしょう」

「楽して大作は出来ないという事だね」

 『懸架(サスペンション)』と『永続化(パーマネンシー)』は共に第五位階魔法。

 今の段階ではまだ手の届かない魔法ではあるけれど、術者の育成が出来れば将来的には不可能が可能となる可能性がとても高い。

「浮遊の永続化は貴族の娯楽としてなら使い道はありそうです。一般的に使うにはコストがかかりすぎますね」

 ポーションも割高なので冒険者くらいにしか買ってもらえない。

 大量購入するのはだいたい貴族や国だ。

 錬金術は材料も高額になってくるので儲けられるほど稼げるわけはなく、研究費に費やされることが多い。

 危険な仕事も伴うので冒険者に謝礼を払えば利益は自然と少なくなる。

 生活するうえでは一般家庭よりは裕福な部類かもしれない。

「シリカといえど一枚板の限界はあるでしょう」

 超高熱の巨大な素材を生み出す。と、言うだけなら簡単だが、それを可能にする場所はそこら辺には無い。

 荒野にバカデカイ鍋を用意して大量の砂を投入して煮る。

 言葉としてはこんな感じだろうか。

 鍋でなくとも窯であろうと規模は巨大にならざるをえない。

 人工的に火口を作るようなものだ。

 鍛冶師を数百人動員しての作業となれば膨大な金貨が消費されるだろう。

 そもそもヤントラの作ろうとするものは国の予算を遥かに越えている。というか貨幣でどうにかなるようなものではないだろう。

 普通に考えて金持ちの道楽でも無理な話しだ。

 規模を小さくすれば可能となる事はあるけれど。

 無理して宙に浮く建築物を作る必要は無いのだが、原理などは調べたくなる。

「ヤントラさんが個人的に使う中で、凄く良いアイテムってあるんですか? 僕達よりも良いものという意味で」

「ん~? 触媒は……君達に渡しているし、一部の消費アイテムは処分したり、飾ったりするだけだね。多くは君達に提供していて自分ではせいぜい魔法とメイドだよ」

「そ、そうなんですか!?」

「金貨を生み出す秘密が知りたいと見た」

「うっ……。さすがに鋭いですね、ヤントラさんは」

「うっふっふ。花弁人(アルラウネ)に射精するなら……。いや、失敬……」

 すぐエロいことを言うのはどうしようもないが、ンフィーレアは苦笑だけした。

 秘密はたくさんありそうだが、言葉を濁すことは意外と少ない人だった。

 それはそれで不思議だと思う。

「あのエクスチェンジ・ボックスは慎重に扱うならアインズに頼んで作ってもらうといい。子供が入ったら困るぞ」

「は、はい」

 金貨に変換するので逆にアイテムには還元されない。

 使い方を側で見ていれば恐ろしさが痛感できる。

 あくまでも物質的なもの限定で非実体のモンスターには通用しないのだとか。そうでなければ大気も金貨にされてしまう。

 海に投げ込めば深刻な事態になるだろう。

 弱点としては箱にダメージを与えて破壊できる。あと、アイテム破壊の魔法も通用する。それはアインズが習得しているので詳しいことは尋ねた方がいいと教えられた。

「何事にも説明は重要だ。欲に駆られた人間には触らせない方がいい」

「はい」

 うっかり祖母が足を滑らせて、とか。

「いずれンフィーレア君に乗っ取られるかもしれないな」

「いやいや、施設の運営は……。メイドさんの扱いは上手ではないですよ」

 一キロメートル四方もある、意外と広い施設を縦横無尽に駆け巡る体力もそれほどあるとは思えない。

「何事にも永久は危険だ。命令の解除は絶対に必要だ」

「永遠はどうしてダメなのですか?」

「世界どころか宇宙が潰れる。無限の恐ろしさだ。じわじわと広がる恐怖というのは思っているほどに恐ろしいものだ」

「生命は無限に生まれ続けている気がします」

「そうなんだけどね。消費できるうちはいいけれど、消費できないものは無限に増やすべきではないと思っているよ。私の施設では『絶対量』が必要以上に増えないように心がけている」

 実験をメイド達に監視させてンフィーレアを六の宝物庫に連れて行く。

 

 執務室となっている地下一階のテーブルに羊皮紙を並べる。

 魔法で生み出した水。増やした複製達。

 アイテム類。処分方法と処分した後の方法と色々書かれていた。

「限りなく無に近づける。そうすれば世界が持つ量は増えないだろう?」

「はい」

「水を必要以上に増やすと海面上昇が起きて街が水没する」

 分かり易い例えで説明していく。

 極端な結果だが、納得は出来る。

 遠い未来かもしれないけれどヤントラは少し気にしているのだと理解した。

 『黒い仔山羊』が増えてしまうと人の住む場所が少なくなる、どころか対処できなければ様々な生命が危機にさらされる。

 建物が増えすぎれば畑に割く土地が無くなり食糧生産をどこですればいいのか分からなくなる。

 食べ過ぎれば食料は無くなる。そんな簡単なことでも人々の生活には深刻な被害を与える。

 魔法で生み出すとしても無限に唱え続けられない。

 味のよくなる魔法があれば違う結果になるかもしれないけれど、今のところ魔法で作る食料の味は悪い。

 栄養たっぷりの鼻水。

 建築素材を美味しく調理したような味。

 良い印象の意見はほぼ皆無だ。

「なにしろ不死のモンスターが居るからね。そういう輩に自制の意味で色々と考えているのさ。ンフィーレア君の知り合いにも居るだろう?」

「はい。遠い未来のことでも心配になりますか?」

「なにで復活するか分からないから。数千年後に復活させられた時に潰れかかった世界を見せられるの、イヤだよ」

「……あー……なんとなく分かります。そういう事もありますね」

 ンフィーレアのイメージでは息の詰まるほどの小鬼(ゴブリン)に囲まれる世界。

 これだけ増えてしまったからどうしよう、というエンリの泣き顔が浮かぶ。

 金貨の増殖のし過ぎで埋もれてしまう。

 時間が経てば色々と思い浮かんでくる。

「ゴウン様はどうなんでしょうか?」

「本人に聞くと……、話すといい。先の事なんか知るか、と言うかもしれないけど。それを言うと身もふたも無い。だけど、不死のアンデッドは避けては通れない問題になる。まあ……、ナザリックの彼らの未来も少しは心配なのかもしれない。意外と自分は彼らの事を大事に思っていないところがあるから罪悪感かな?」

 メイドとエロい事したくてたまらなくなるし。

 女体だから色々といじりたくなる。

 イビルアイ達は逃げるし、うるさいし、と。

 ンフィーレアも嫌がる。

 原住民にお願いするのはなかなか出来ないことだ。

 帝国側なら拉致して無理に実験できるかもしれないけれど。

「メイドさんを裸にしようとしますものね」

「可愛い女の子は大好きなのさ。あまりに従順すぎると飽きるというか、面白くないからうちのメイドは放ったらかし。反応がある方がいい」

「身体を触るだけではダメだと?」

「全部裸では面白くない。容器に入ってる人を見るだけで済んでしまう」

 変態談義は呆れてしまうのだが、聞かされている身にもなれ、と言いたいが言えない。

 ンフィーレアは女性の痴態にはまだ慣れないのか、前のめりになったり股間を押さえたりする。

 エンリという妻が居ても女性の裸は不思議と性的興奮を与えてくるようだ。

 異種交配以外では女性の裸の洗浄やら調査はほぼしない。代わりにイビルアイがメイドに色々と命令しているらしい。

 恥ずかしいので見学は断っている。

 手に入れた花弁人(アルラウネ)は飾るだけで特に調査らしいことはしていない。

 枯れていないか、元気そうか見る程度だ。

 メイドと呼んでいるけれど、メイド服を着ているからだが他に呼びようがないらしい。

 身の回りを世話する女性は全てメイドと統一している。

 執事が居る筈だが、男は動かす気が無いらしく容器に入ったままとか。

「煩悩のおもむくままに。活動的な女性の胸は揉みたい。ただ、それだけだ」

「……清々しいほどの変態ですね」

「はっはっは」

 胸を揉んだ後は身体を引き裂いて内臓を引きずり出したりはしない。

 眼球なども取り出していたはずだが、それらの使い道は聞きそびれていた気がする。

 食べはしないのだろうけれど、色が綺麗だから、という理由だったりして、と思った。

 人間の女性以外の献体は食べたりしないのだろうか。

 同種だと病気になりやすくなったり、女性であれば障害のある子供が生まれやすくなると聞いた事があった。

 化け物にはならないけれど生まれてくる子供には影響があるから共食いのようなことはしない。

 ただ単に嫌いだからではなく、理由があって拒否しているのだろう。

 理由はどれも聞くに堪えない深刻なものが多い気がする。

「研究というから女性の眼球とかも僕に調べさせると思っていたのですが……」

「培養専用だからね、実際は。色は綺麗だけど……。ンフィーレア君は薬草方面で活躍してほしいな。異種交配で怖気ずくのだから無理はさせない方がいいだろうと……」

「半ば強引なくせに……」

 そう言うとヤントラは苦笑する。

 無難な実験ならばやらせてくれるのだろう。

 危険なことは避ける傾向にある。

 複製を使えば早いのではないだろうか、と思った事は何度かある。

 それも何か理由があるのだろう。

 反応を見るためとか。

「……なんでも思い通りだと実験すること自体、無意味に感じる」

「何故ですか? 仕事が簡単になると思いますけど」

「簡単では困る。努力の結果が欲しい。今を生きているのだから時間は有意義に使いたい。未知の冒険がしたいのだよ、私は」

 余命幾許も無いような人間の言い分に聞こえるかもしれない。

 実際、ヤントラはいつまで生きられるのか、いつまで冒険できるのか分からなくて不安だった。

 仲間でもないアインズ・ウール・ゴウンが厄介者として処分しに来るのではないかと思っていた時期があるにはあった。

 似た知識を持つプレイヤーなのだから秘密主義なら消しに来るだろう。

 今はだいぶ事情も変わったようだけど、そのお陰で色々と無くしたものがあるような気がする。

 のんびりと平穏に過ごした事が無いヤントラに終わりの見えない平和は脅威だ。

 混沌としていた方が生きやすいかもしれない。

 アーグランド評議国の国境での戦い。

 単独で帝国と戦った時など。

 生きているから女が抱ける。男らしい気持ちに憧れがあった。

「試行錯誤して日々を過ごし、たまに裸を弄り回したいのさ。無差別に襲うのは控えているよ。それはモンスターに向けている」

「……無差別に襲っていたら捕縛されるか、手配されていますね」

 というか国中が大混乱しているだろう。

 どう考えても容器の数からいって王国、帝国が一致団結しないのが不思議なくらいとんでもないことが起こっているはずだ。

 痛みを感じない搾取方法は恐ろしい。

 仮に強引だったら国が滅びているだろう。

 脅威論を考えても仕方が無い。ヤントラは攻めるよりかは身を引く方だ。

 だから、様々な秘匿情報を教えてくれる。

 聞く方も興味本位なのだが、答える方も只者ではない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ンフィーレアに必要以上の事を話した気はしていたが気にしても仕方が無い。

 あくる日に実験を再開する。

 いずれ施設を譲渡するのかな、とぼんやりしているとナーベラルの真面目な顔が近くに寄ってきた。

「何か問題でも起きたのか?」

「いやいや。私の変態ぶりを人々に分かり易く説明するのが難しいなと思って」

「……そんなことは知りたくないな……」

 嫌そうな顔をナーベラルはした。

 シリカと金属板により外壁の耐熱実験の書類をナーベラルも興味深げに眺める。

 熱による溶解は起きていないのだが出来るだけ金属板に熱を伝えたくない厚さの調整に取り掛かっていた。

 フェルトの厚さや圧縮加減など。

 細かい数字が並んでいる。

「ソリュシャン・ダストは忠誠心がなせる業で抗ってきた。はたまた粘体(スライム)種だからこそ出来た。いろんな理由はあるだろうけれど、やはり短期間で抵抗することは無理だな」

「ん……」

「精神の奥底の言葉が聞こえたらいいな」

 様々な命令を与えてみたがソリュシャン・ダストのような例は他には現れなかった。

 ナーベラルは抵抗はしているらしいが命令ではどうにもならないようだ。

 脳をたくさん与えてみたりした。ついでに一般人にも。

 結果としては何も起きなかった。

 粘体(スライム)種として何かの条件を満たしたのかもしれない。それは目に見えない何か。

 長い調査は必要だろう。

 オリジナルのソリュシャンは普通に活動しているようだし。

「そう簡単に結論は出ないんだろう。それはそれとして……」

 実験の合間に色々と書き溜めた資料を入れた封筒をナーベラルに渡す。

「執務室の壁にでも貼って頑張ってくれ、と」

「了解した」

「個人的なものだが、危ないものではないぞ」

 持ち帰る時はアルベドに見つからないように、と小声で伝えておく。

 アインズに優先的に届けると誉められる。

 今のところアルベドに渡せるような資料は無い。殆ど伝えるべき事柄は提示した。

 諜報活動はナーベラル達に任せているのでヤントラは定期的に資材を届けるくらいしかない。

 ナーベラルが忘れないうちに資料を持ち帰った後で見回りをしているメイド達に会いに行った。

 怖がらせたメイドも定期的に訪れている。

 来るたびに恥ずかしいことをさせているわけではないので黙って見守った。

 たまにメイドの裸が見たくなる。

 他人のものは欲しくなる、という気持ちと同じかもしれない。

 首から下はどれも似たような形なのに、ついつい尻を揉みたくなってしまうのは変態だからだろう。

 さすがに接吻癖は無いのでラキュース以外とはしない。いや、子供達の頬には良くするか。

 モモンの鎧の事をすっかり忘れていた。

 一の宝物庫にある武具の保管室に入る。

 武器はゲイ・ボルグなどが立てかけられているが防具類は色々と見せられない秘密がいっぱいある。

 他人の防具が並んでいるので不都合な部分があるかもしれない。

 その中の一つがモモンの装備一式だ。

 防具だけではなく、武器も置いてあったりする。

 メイド用の武器もあるにはあるのだが数は少ない。

 制服は下着を含めてかなりたくさん用意してある。

 メイド服の清掃も頼んでみようかな。

「それはもう是非!」

 力いっぱいの返事が返ってきた。

 仕事が無ければ死ぬんじゃないかというくらいだ。

 せっかく働いているお抱えのメイドには綺麗な服で動いてほしい。

 急がなくていいので、と伝えて任せてみた。

 製作はナザリックなので勝手は分かるだろう。

 製服用の部屋は解放する事を伝えた。あまりにも急ぐと仕事がなくなるので間断なく出来るようにそれぞれ調整するように伝えた。

 七の宝物庫の地下一階部分に仮設テントを用意してメイド服をこちらに並べることにした。

 処分一辺倒だった施設も人に任せるようになり、随分と様相が変わってきたような気がする。

 一人で運営するはずの『マグヌム・オプス』だったのに。

 考えても仕方が無いので耐熱実験を続ける。

 研究結果はンフィーレア達に渡す。

 暇な時間に大浴場の上の方に上がり易いように浮遊する足場を用意した。

 手すり付きで。

「花弁人(アルラウネ)に射精すると絞首台の小人(ガルゲンメンライン)が生まれるかもしれない、という」

 『絞首台の小人(ガルゲンメンライン)』は罪人の体液から生まれる、という伝承を持つ花弁人(アルラウネ)や嘆きの小人(マンドレイク)の近親種である。

 実際にゲームで射精など出来るわけも無いのだが。

「もう、どっばーとかけてみてくれ」

「出来ませんよっ!」

 何のことか分からず、小首を傾げる花弁人(アルラウネ)の一体。

 見た目は可愛い女性だが立派なモンスターだ。

 普通なら頭の花から種を飛ばして子孫を残す。

 花粉の受粉のように精子などを受粉すると絞首台の小人(ガルゲンメンライン)が生まれるかもしれない、という予想を立てていた、ヤントラが。

 エロいモンスターばかりでンフィーレアは困ってしまう。

 異種交配が出来る時点でどうかしているのだろう。

「あくまでも研究ですからね。……もう。植物モンスターの葉は取ってもいいものなんでしょうか?」

「腐葉土にする事もあるから大丈夫だろう。根を極端に痛めない限りは」

 ためらうンフィーレアの為に色々な部分をそぎ取る。

 女性的な姿だから可哀想に思えてしまうが立派な異形種だ。

 弱肉強食の世界に生きているので獲物を殺す事も出来る非情なモンスターだ。

「僕もいずれ容赦の無い人間になるんでしょうか……」

「優しい心は無くさない方がいい。子供を実験に使わないように心を鍛えてくれ」

「為になるような、ならないような……」

 植物もモンスターならためらうというのは変な話になるのかもしれない。

 見た目が可愛い女の子だから、と言っていたら命を落とすことにも繋がりかねない。

 非情さよりかは割り切り方なのだろうか。

 モンスターと付き合うのは並大抵ではないだろう。

 

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