ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
持ち帰った
滋養強壮効果もあるようだ。
良い効能ほど危険な場所や危険な植物モンスターが持っているものだ。
危険すぎて毒物になってしまうのは困るけれど。
「なかなか期待通りの植物は見つかりませんね」
先日向かった森は奥に行けば行くほど毒性の強い草が見つかる。
危険すぎて毒草しか生えなくなった、ということもあるのかもしれない。
ヤントラに頼み、護衛のメイドを三人付けてもらい、入り口に近い拠点を使わせてもらうことになった。
頼む時
意地悪目的があるのか、本当に研究熱心なのか、なかなか判断がつかない。
施設で寝泊りする時、布団の直しくらいはあっても裸に剥かれることはなかった。
イビルアイも同様らしい。
要望を出すことはあまりないのだとか。
エンリも胸は揉み終わったのか、特訓以降は変な要求はされなかったようだし、結婚後も特に変わったことは無かった。
どういう基準なのか分かれば対処も出来ると思うけれど、掴みどころの無い所は強敵だと思う。
話しぶりでは
死体の体液から生まれるのであればアンデッドという事もあるかもしれない。
ンフィーレアが拠点で
既に新たな仔牛の用意をし、残りはメイド達と共に処分方法を考える。
いつもならすぐ捨てる。
「異形種には健康被害は無さそうなので数頭ほど頂きたく存じます」
「もちろん、許可は得ておりますのでメイドの判断のみということはございません」
「そうか。首輪を外して欲しいだけ持っていきなさい」
「では、十頭、いただきます」
十頭はナザリックへ。残りは解体処理をして廃棄されていく。
仔牛なので気にしなかったが大きくなると肉牛になるようだ。
新しい仔牛達を指定の位置に配置すれば完了だ。
当初は設定などだが今は無理の無い魔法行使に切り替えている。
どこと無く不安だった。設定は特に魔法よりも危険な気配を生む。
二の宝物庫に散らばるアイテムもそれぞれ並べていく。
データクリスタルの減りが早いのだがメイド達は脂汗を流すのみだ。
仕事を任せて地上の執務室に向かう。
自我を得たソリュシャン・ダストが静かに床に敷いてある布団で横になっていた。
これといって命令することは無いけれど、側に執筆できる道具は揃えておいた。
今日は新たなナーベラル型で実験を開始する。
忠誠心の高い献体に出来ることと出来ない事の繰り返し。
一通りの質問に対する答えの変化。
見えない経験値の蓄積具合など。思いつく限りは色々と試したが自我を得るほどではない。
ソリュシャン・ダストだけが特別だったのか。
アインズが側に来た影響なのか。
地道な作業が続く。
「
死滅する前に治癒魔法をかけるわけだが、ソリュシャンは未知の方法に首を傾げる。
聞いた事の無い方法は答えようが無い。
NPCである自覚はあるが分裂は許可されていない。
不必要に増えることは創造主の意向によって禁じられていたはずだからだ。
その禁が破られた事による不測の事態と考えれば納得は出来る。
「そもそも意思が宿るのは想定外」
宿るというより、宿った、が正しいのだろう。
本来は精神の無い
多くの献体を処分したうちの一体の魂が偶然、身体に入り込んだ、ということだろうか。
ヤントラが疑問に思ったのは元々命令を与えた部分がどうなったか、だ。
胸から湧き出て元もとの頭の部分は飲み込まれたらしい。
形成された姿が決まっている彼女達にとっては少なからず大事なことかもしれない。
左右の違いがあるように。現れた部分に意味があるかもしれない。
命令が有効かは命令すれば分かる。
「ナーベラルの頭部を再現しろ」
いくら取り込んだとはいえ
ソリュシャン・ダストの背中からナーベラルの頭が湧き出てきた。
「こ、これは……」
「やはり……」
ありえない話しではない。
元々ソリュシャンは不定形のモンスターだ。
一部とはいえ自我がこびりついた部分があっても不思議ではないのだろう。
ただ、問題は自我の部分の今後だ。
自我が分かれた以上は統合は難しいかもしれない。既に違う記憶を持っている。
強い方の自我に取り込まれるのが自然だろう。
「……奇跡の一つや二つ、あってもいいだろう」
ソリュシャンの立ち位置は双子の妹という事にする。名前については保護者が決めていけばいい。
与えていた命令を駆使してソリュシャンより強引に分離してもらう。
分離しきった元もとの複製は処分しておく。
命令による弊害が無くなった事を確認してから開放する。
必要な書類は清書して紐で縛っておく。
「巡回しているナーベラルに渡し、後はナザリックに任せるよ」
「畏まりました。色々とお取り計らいくださいましてありがとうございます」
「安心するのは早いけどね。髪と目の色は変えておこうか」
一つ頷いたソリュシャンは地下に向かって行った。
厄介ごとが解決した、はずだが安心は出来ないだろう。
大人しいナーベラル型の頭を撫でて地下に戻ってもらった。
「……そう簡単に奇跡は起きないものだな……」
期待した結果ではない。
短期間で自我など得られるわけが無い。
それは少し残念な結果だと言える。
あくる日に森の探索を開始し、とあるモンスターを発見する。
度々噂が聞かれる『
今までの発見数からいって絶滅危惧種並みなのだろう。それは少しもったいない。かといって数を増やせば都市を襲うかもしれない。
それぞれの種族が仲良く暮らす事はとても難しい。
ヤントラは女体が優先なので全てを平等に扱う事はしない。
モンスター退治をする上では殺す時は殺す。
平和な世界は望んでいない。それを望むものの手助けはするけれど。
理由は単純だ。
退屈でつまらないことが大嫌いだからだ。
二時間後には作業を終えて撤退していくのだが、モンスターを殺したままにしない分、甘いのかもしれない。
復活する
次に向かうのは森に生息にするモンスターの討伐。
薄闇の中を漂うのはアンデッドばかりではない。
樹木系モンスター『
キノコ系は胞子を飛ばしてあちこちに生えるので施設では使えない。
焼いたら美味しいんだろうな。
ぼんやりしているとメイドが前に出て警戒し始める。
拠点を作っているとはいえ未調査の地域は広く、全容把握にはまだまだ時間がかかる。
入り口付近は弱いモンスターが居るけれど奥に行けば植物系モンスター以外は数を減らしていた。
ナザリックに何匹か居るらしい。
簡単な命令を与えると喋る。
食べられるのか、という疑問はあるのだが可愛いモンスターは愛でるに限る。
「ふむ」
音も無く飛来する武器を素手で受ける。
それは『手裏剣』という投擲武器。
「やはり居たな」
メイド達が散開して警戒態勢を取る。
攻撃の強さから『
元もとの
強い者になると不可視化で襲ってくる。
『分身の術』を使ってきた場合、分身を倒しても経験値は得られず、煙と共に消えるだけ。それは
モンスターとしての
刀を装備し、隠密行動に優れている。
隠れ里のような集落でもあれば話しが通じるかもしれないけれど、そうでなければただのモンスターだ。
音も無く木々を移動する姿無きモンスター、と姿が見えるモンスター。
一にも二にも捕まえてみないことには始まらない。
メイド達には辺りに散らばる
敵が一人なら襲い掛かってくるのが基本。
単独行動は意味の無い事ではなく、モンスターを引き寄せるのに好都合だった。
相手より多いと警戒されて逃げられてしまう可能性がある。
後はただ立っているだけで襲ってきたらモンスターだ。
まずは姿が見えている
忍者装束という専用の装備の特性なのか表情は影で判然としない。
感触はあるのだから肉体は確実に存在する。
蹴りを放ってきたので剣で叩き斬る。
「やはりモンスターか……」
うめき声を上げないし、抵抗は続いていた。
分身ではないようだ。なら遠慮は要らないだろう。
ザク、ザクと解体されてメイドの方に投げ込まれる。
続いて襲ってきたのは不可視化した敵。
見えなくても攻撃は通る。
丈夫な装備で間接部分も守られているのだろう。だが、ヤントラの武器はそこらの市販品とは違う。
飛び道具を主体に牽制しながらチームワークで攻めてきたのだが早さではまだまだヤントラの方が上だったようで数十分後には解体された肉体がメイド達に回収される。
人間型とはいえどうやって種を増やしているのだろうか。
十三英雄が居た時代は確実にモンスターが居る。
つまりは繁殖できるという事だ。
繁殖方法がとても気になる。そこかしこで強姦されている女体モンスター。
子孫繁栄に手段は選んでいられない。
自然と湧き出るようなものは面白くない。
規制が取り払われた世界なら何があっても不思議は無いだろう。
生まれた後は自然に成長し、暗殺技術を勝手に覚えたりする、というバカなことがあったら笑ってしまう。
妄想でしか無いので回収作業を終えたのを確認し、進んでいく。
恐竜系の死骸が多いので
彼らは何を食べているのだろうか。
生物であるなら何かは食べていなければならない。
モンスターはモンスターで生活するのが大変なんだろうな。
オスの
モンスターとしての『
隠密に向かない。
案の定、次に現れた
妊婦以外は解体だ。
思いっきり腹を殴れば凄いことになるだろう。感性が人間と異形は違うから堕胎したからといって気にはしないかもしれない。
というよりは捕まえた後でお産が始まってしまった。
身体はメイド達に押さえつけさせて観察することにする。
残りのモンスターは別のメイドに任せた。
腹を破って
生まれたら捨てていくのだろうか。
唸り声を上げつつ破水する。ゲームの世界では決して表現されない部分だ。
それから装備一式は誰が与えているのだろうか。
生まれたら一緒についてくる仕様なのか。
それからこれから出てくる胎児を見て判断しよう。
お腹の大きさから双子かもしれない。
生命の神秘は今更見ても仕方が無いのでさっさと生まれてもらおう。
「ほ~ら、頑張れー。もう少しだぞー」
「ふぅああ!」
一つ大きくほえた後で一人目がゆっくりと出て来た。
手を洗ったメイドが手際よく頭をひっぱり、引き抜いていく。そのすぐ後で二人目が勢いを付けるように出て来た。
見た目は人間の胎児と変わらない。それが数分後に成人に成長するのがモンスターの不思議なところだ。
生まれた子を抱かせようとするが受け取らない。
もはや他人、という感じだった。
モンスターにあるのは種族としての役目だけ。それ以外は備わっていない、ということだろうか。
五分後には成人にまで成長した
傭兵モンスターなどのように最初から、そういう生物という役目を背負わされているのかもしれない。
あるのは本能だけ。
その中で知性のあるものは色々なことを学ぶのだろう。
敵を多く倒して強くなり、上位種に昇っていく。
感慨深げに物思いに耽ってもモンスターは解体されていく。
敵が来るまでどういう生活をしていたのだろうか。
闇雲に殺戮だけする生活は可哀相だ。
そういう風にしか生きられないのは呪いのような気がする。
命令に従う事しか出来ないメイドを使っている身としては頭の痛いところだろう。
カルネ村に居るモンスターは本来は森で平和に過ごしていたというし、文化は一応あるらしい。
虚しさを感じてきたので撤退する事にしたヤントラは王国に行き『真蒼の薔薇』の拠点『蒼薔薇の園』に久しぶりに訪れた。
出迎えてくれたのは
「どしたの?」
「ちょっと
立ち話しは居間の方で聞くことにした。
ルリマリスは広場で踊りを披露して子供達を喜ばせる仕事についている。
卑猥な踊りではなく、王国に伝わる様々な舞踊の一つを担当しているとか。
クレマンティーヌはガガーランと共に城で兵士達の訓練に付き合っているらしい。
「ほう。
「イジャニーヤじゃないよね?」
「モンスターの方だよ」
「……モンスターみたいなものだけどね」
無駄な話しをしない分、ティア達は話しやすいところがある。
殺しを生業としていただけあってイビルアイより深刻な話しに免疫があるようだ。
「人型モンスター。モンスターだからなのか子供時代が無いようだが……、それは普通なのか?」
「子供を生み育てるって意味?」
「うん」
「……人間は赤子時代があって教育を受けて成長する」
「モンスターはそういう文化が無くてがっかりしたと」
「妊娠した
「おーおー、それはまた稀有な光景に……」
ティアは顔を輝かせた。
ティナは温かい紅茶を人数分、用意してくれた。
「五分後に成人になる。装備一式も自動的に装備されるのは普通なのか?」
「普通」
「旦那さんの言いたい気持ちは理解している。だけど、モンスターの世界はそういうのが常識。気にしたら負け」
気にしているのでヤントラは負けなのだろう。
ティアは気の毒な心境に陥っているヤントラの肩を揉んだ。
「私達の場合は訓練を受けて
「モンスターはモンスターとして割り切った方がいい」
「子育てする文化を持つモンスターの方が多いから、たまに非常識な奴らが現れると混乱する」
「でも、慣れだよ。冒険者としての関門」
「相談できる相手が居てよかった」
ティア達は微笑する。
だいたいの予想は頭に浮かぶが、非常識の権化たるヤントラにも色々と悩む事態があったのは意外だと思った。
そういう事も知っていると思っていたから。
完全に常識外れでもないところは嫌いではない。
「モンスターは本能で動く。やる時はやる」
「もともとモンスター達はどこから来たんだろうか。傭兵として召喚されたものが主を失ったことで目的を失い、本能のまま今に至るとか?」
「うーむ。長い年月で生存本能のみで生きている事も……」
「文化を持たないで敵と戦い続ける……。それは呪いだね」
「旦那さんの嫌いな未来だよね」
永遠に変わらない平坦な未来。
それは確かに嫌いな未来の一つだ。
封印されたまま地中に埋められる事もあるけれど。
「……解放するためにも皆殺しにしておくべきだったかな」
「弱肉強食の世界なら旦那さんがやらなくてもいいこと」
「優しいところは嫌いじゃない」
「数百年も変わらぬ行動なら可哀相かも」
「世代交代しているのであれば……。モンスターとして植えつけられた行動原理に逆らえないのは悲しいことかも」
永遠に解放されない
ティア達はまだ人並みの生活ができるから恵まれているのかもしれないと思った。
命令があれば誰でも殺す。けれども命令が無くなっても仕事をやり続けるのは辛いかもしれない。
解放することも救いの一つだろう。
「旦那さんがやりたいと思ったらやればいいよ」
「うん」
「ありがとう、二人共」
「複製の処分もまた……」
「旦那さんなりの優しさかもしれない」
「オリジナルではない、という点からの配慮なのだが」
「永遠の檻に入れない方法としては、あり」
と、ティア達は揃って親指を上に向ける仕草を見せた。
息の合った双子にヤントラは深く頭を下げた。
それから紅茶を飲みつつ冒険の話しを聞かせる。
現在、攻略している森の様子など。
一通りの
イエローとか中間色がまだ居なければいいのだが。
クリスタルや金属の
アンデッドの
七種類の
人の身となり子孫を増やす事もある、らしい。見た事が無いのが残念だ。
成長する
「……天井に漂う
イビルアイは随分と増えた
保管の都合で宙に浮かせた浴槽に入れているとはいえ、異様な景色だ。
「どうしようもないのは分かるのだが……。安易に討伐ばかりしていた罰なのかな……」
死んだモンスターのことなど考えたことも無かった。
まして今回は研究目的だ。
後始末のことまでは関知してこなかったので、とにかくどうするんだろう、という気持ちでいっぱいだった。
新たなモンスターも追加されているようだし、一斉に容器を破壊して暴れだしたら地獄絵図の出来上がりだ。
掃除に来るメイド達は感心し、ナーベラルも顔がほころんでいた。
恐れているのは人間側ばかりだ。
「王国には専門の機関がほとんどありません。帝国の方が喜ばれるのではないかと」
「それは一理あるのだがな……。厄介者は処分するのが王国風だ。それは私とてもったいないことだと思う」
王に進言したとしてもモンスターの研究機関を作れるとは思えない。
貴族としてはモンスターは
モンスターは恐ろしい存在だという認識だから。
「……そもそもモンスターを捕まえてくる人間が今まで居なかった」
強大な
数年で世界の常識は
停滞した文明よりは新しい挑戦に挑み続ける方がいい。だが、変わりすぎだと思う。
時代はもう少しゆっくりと変わればいい。
そんなことを思っているのは王国と帝国だけ。周りの多くの国々は時代の変化にまだ気付いていない、ということも考えられる。
それでもいずれは変化する時代の波に飲み込まれてしまうだろう。
「……頭が固くなったのかな……」
イビルアイは柔軟な思考も大事だと思っているのだが気持ちは中々前に進んでくれない。
モンスター以外ならまだ耐えられそうだ。
拳大のオリハルコンから十枚くらいの床用のタイルを作って並べる、とか。
上に乗ってもびくともしない。総重量50トンでも、とか。
「床タイルは小さすぎるとコストが膨大になります。大きいと一枚にかかる重さが増えてしまいます。その辺りの匙加減が難しいですね。気にせず大理石とかを敷き詰めたいところですよ」
「硬い床だと
土などにすると掃除がしにくいのと埃が出来やすい。
絨毯を敷く、という手もあるのだがそれは結局、人間の都合だ。
種族によっては不便な部分もある。
カルネ村は土が基本なので
大理石よりは引っかかりのあるタイル張りのヤントラの施設は機能的で、掃除がしやすいだけではなかった。
モンスターの身体にも優しい設計だと異形種が言っている。
各
イビルアイも興味があって付き合うことにした。
それぞれ三十センチメートル四方の板だが、防具に加工すれば良い値段で売れるだろう。
どれも高熱に耐えられず炭化してボロボロになった。
防具が無事でも中身が耐えられなければ結局は無意味になる。
「期待していたより弱いようですね」
若い
溶岩に耐えられると熱での加工が出来ない可能性が高くなる。
見た目の美しさからアクセサリーにするのが無難だ。
床材にするには贅沢品かもしれない。
オリハルコン並みの強度はあるけれど。
「外壁は理解出来るが床板がオリハルコンなのは何故だ?」
「石材だと調達するのが難しい、と」
「難しいのか?」
「雷属性に弱い気もしますけど……。空に石が無いから」
「調達方法が無いからか……」
「そうとも言います。とにかく、ある物でやりくりするのが目的ですから。無い者は諦める」
「うむ」
竜の鱗は防具の加工に向いている。それは間違いないのだが極端な実験には向かないのかもしれない。
年齢別に調査したいけれど、そこまで贅沢は言わない。
我がままを言うと
全体的に強化されていく中でブレス攻撃は特に上がり方が激しい。
エンシャント級は都市を一息で壊滅させるほどだという。
超知覚を持つモンスターを被害を出さずに倒すのは至難の技だ。
だが、結果が出ている以上は今更な話しだ。
普通なら怒り狂うところだが、方法が凄まじく
イビルアイは気の毒に思う反面、ヤントラの苦戦する相手はどんな存在なのか興味がわいてきた。
ただし、アインズ以外という条件がつく。
普通はお互いダメージを受けるもの。
相手の攻撃を適度に防御、これを期待しているのかもしれない。
実際にイビルアイが望む戦いを披露したらすぐに敗退しそうだ。
防御力が無いから避ける。当たればおしまいだ。
クライム達の訓練を見ていると攻撃を食らいすぎで避けろと言いたくなる。
あまりにも攻撃を受けない相手は逆に強いのか疑わしくなる。ちょっとは食らってほしい、と。
本当に強い人間は無駄な攻撃は食らわないし、的確に相手を倒す。
それが理想だ。
それでいいんだ。
あくる日にイビルアイはヤントラと戦ってみることにした。
今まで直接、戦うことが無かった。戦士職だし。
屠殺場に向かうと壁一面に無数のシーツが貼り付けられていた。穴でも隠しているような感じだったが気にしても仕方がないだろう。
「ご主人の実力を今一度、見てみたい」
「構わないよ」
装備を外した無防備な状態と戦う完全装備のイビルアイ。
魔法職なので無防備の戦士に負けることは普通では考えられない。しかも、攻撃の手を緩めるように頼んでもいる。
まずは魔力を乗せた打撃から。
極端に避けないように言っている。
「はっ! たっ!」
本気で攻撃しているのだが的確に受け流されている。
ナイフでの攻撃。
手数を増やしても通用しない。
オリハルコン級の冒険者でもここまでは出来ない。
「おかしいな。特訓で強くなったはずなのに」
今の自分は第十位階まで使えるほどのはずなのに。
というか戦士としてはそれほど強くない、ということだろうか。
「
そこらの戦士よりかは強いだろう。
「では、次は魔法だ」
メイド達に色々と標的を用意される。
打ち漏らしの為に背後に様々なモンスターが並べられた。
「では……」
第三位階から施設を少し破壊する程度で。
「〈
放った魔法は炎剣キリネイラムで防がれる。
「〈
こちらは雷剣キリネイラムで防がれる。
ただ防御してもらうだけなので面白みは無い。ただし、一般に今の魔法を普通に防御する人間は居ない。というか第五位階を人間に使う奴も居ないのだが。
「〈
第五位階の
位階は高いが可愛い魔法で人間相手なら割りと当たりやすい。
新しい魔法は事前に見せてもらいながら決めた。
「……ムーン……」
見栄えはいいのだが強力に見えない。
三回時間差で放てるらしい。
第八位階に足元の砂を溶かして敵を落とし、砂を溶かす熱でダメージを与えるというものがあるがこの場所で使うと地面が陥没するので諦めた。
シリカを作る時に役立ちそうとは言われた。
もう少し高い位階には自然の岩を溶岩に変えるものもある。
攻撃ばかりが魔法ではない。派手な攻撃魔法は意外と少ないようだ。
後は大規模破壊とか施設に悪影響のあるものが多いのでイビルアイは唸る。
「〈
第二から第十位階まで適当なモンスターを呼び出して襲わせてみる。
雑魚はすぐ倒されるのだが、第十位階ともなると大型で凶暴な面構えが出て来た。
様々なモンスターが呼べるけれど自然界でお目にかからないものは感動してしまう。
施設に気を使っていると意外と使えない魔法がある。
特定の特訓には最適な場所だけどあらゆる特訓には向かないようだ。
「……モンスターが全く歯が立たないとは……。単独では強いのだな」
特化した能力のチームで挑んでこそ戦いがいがあるのかもしれない。
一人で大群を相手にする人間だ。
これでもヤントラの世界では弱い方だという。
遠距離に秀でたクラスや高火力の魔法に特化したもの。
戦士の中でも驚異的なスキルを持つ者などが強者だと言われている。
それから強者の装備品はどれも一級品。
ヤントラは強い。それは分かった。
自分たちもより強くなればいいのか、という問題に対して戦う相手が居なくなるという問題が出てくる。
必要以上の強さは色々と脅威だ。
人の欲望は増長しがちだ。悪い方に使う確率が高いだろう。
情報を秘匿するアインズのように弱者は弱者のまま強者の言いなりにされ続けてしまう。
立場が変わってもすることは一緒。
それがもどかしいところだ。
別の日にはブレイン・アングラウスが腕試しの為に訪れた。
武技の試しには丁度いい相手だ。
連続で来客とは意外だったのでヤントラは驚いた。
「吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールンを目標として研鑽していたが自分の実力が今ひとつ分からない」
同じく吸血鬼『ホニョペニョコ』というモンスターが居たらしい。
どこのバカが名づけたのだろうか。
詮索しても仕方が無いのだろう。
シャルティアを知っている事についてはヤントラは関知しない立場だから気にしないでおく。
二人に何があろうと知ったことではない。
「強くしてもらって悪いが殺す気で行かせてもらう」
ヤントラは苦笑する。
「皆さんを強くするのも難しいですね」
「そうか?」
無防備になるヤントラに対し、愛用の武器を抜き放つブレイン。
「力の使い方まで教えられないので」
「う……うむ」
それは確かに納得出来るものがあった。
反論は出来ないが抜いた武器はどこかで収めたいとは思っている。
ヤントラは合図も無く普通にブレインに向かって歩いていった。
戦いは合図が無ければ始まらないわけではなく、いつでもどこでも攻撃は飛んでくるものだ。
相手の都合を考える敵は居ない。
ブレインは慌てずに武技を発動する。
まずは〈領域〉を発動し、半径三メートル内の全てを認識し知覚する。
この武技の中に入る獲物は二つ目の〈瞬閃〉で切り伏せる。
居合い斬りを武技に昇華させたような技だ。
この〈瞬閃〉を鍛えに鍛えて開発したのが〈神閃〉だ。
相手は知覚することすら不可能。
絶対必中と神速の一刀。
二つの武技を使う必殺技は『
そして、この必殺技はシャルティアに簡単につままれて敗れ去った。
ヤントラが射程内に入った時、同じ現象が起きるのか正直、怖かった。
並大抵の人間ではない事は理解している。
だが、過去の訓練において武技を駆使して勝てたことは無かった。
「……シャルティアは……、強かったかい?」
「……ああ、とんでもなく強かった。……果てしない領域に立つ化け物……。人間があの化け物に……、知り合いならば口が悪い事は謝ろう」
「いやいや、構わないよ」
「うむ。ああいう化け物に人間は勝てるのか、またはその領域に立てるものなのか」
戦って生き延びたブレインは人間の中では運がいい方なんだろう。
ナザリックであれば正体を知る厄介な敵として葬るかもしれない。
口ぶりからは剣技で立ち向かって負けた印象があるので憎しみを生むほどではないだろう。
むしろ精神支配をした相手に怒りを覚えるはずだ。
とはいえ化け物だから倒す、という図式は成り立っているのだろう。
今は目標と捉えているのかもしれない。
これが自分なら問題にしないのだが。
困った性格の知り合いが居ると頭が痛い。
「どうした?」
ヤントラが頭を抱えたのでブレインは尋ねた。
「どちらの味方にもつけなくて困りました。……友達は居た方がいいですか?」
「友達か? 居た方がいい時もあるだろう」
「……私はあまり協調性が無いようだ」
「おいおい、しょんぼりされると調子が狂うから。それより、あんたから見てシャルティアは強いのか?」
「ん……。そうだね。単純な能力では向こうが上だね。力比べでも魔法でも」
「うおぉ……、そうなのか!?」
「圧倒的かと言われると微妙だけど……。こっちは装備に恵まれていないから本当の真剣勝負では苦戦するだろう」
ブレインの知るシャルティアは武器らしいものは殆ど持っていない。
肉体武器だと思っていた。
「装備?」
「あまり言うとあちこちから怒られると思うから秘密ね。それなりに強いモンスターは一撃では死なない。その一撃にかけすぎてはダメだよ。人間相手なら別だけど」
「……それは絶望的な話しだな。まだ相手は手の内は見せていないということか」
つい口を滑らせたヤントラは軽く苦笑する。
どこかで自慢癖があるのか、教えたくなるクセでもあるのか。
敵に情報を流す辺りはスパイと変わらないなと思った。
モンスターの攻略は誰もが情報公開したくなるもの、という風潮があるかもしれない。
真っ向勝負でシャルティアと戦う場合は色々と武具を用意しなければならないし、第十位階魔法と
気を取り直してブレインは足場を確認する。
タイルが張られているけれど踏ん張れない事は無い。いざとなれば踏み砕くまでだ。
改めて〈領域〉を使う。
「……いざ」
「はい」
ヤントラが一歩進んだ瞬間に〈神閃〉が放たれる。それも一度だけではない。
新たに磨き上げて四連続の斬撃を叩き込む『四光連斬』だ。
ガゼフの『六光連斬』より少ないが四つの同時斬撃はシャルティア戦より磨き上げたもの。
ヤルダバオトの襲撃時点では最強の攻撃だった。
ヤントラは弾き返す事無く、腕で受けきった。
つまり知覚されているという事になる。
切り裂かれる腕は治癒魔法により時間を巻き戻すように治っていく。
切れ味がいいので直りが早い。
「……普通に見えていたようだな」
「世界最強の攻撃も見えないことは無い。ただ、防御方法があるかどうかの世界になってくる。分かっていても避けられない。そういう攻撃も世の中にはある。一流同士ともなれば最終的には読み合いに尽きる」
特訓のお陰で斬撃耐性のある敵にもかなり効果があるだろう。
技だけでは武器が持たないのだが。
「斬撃耐性のアンデッド相手ではもっといい武器が必要だろうね。もっと硬い敵が現れたら、どんなに優れた技でも壊れてしまう」
「そうなんだがな。これ以上ともなると……、存在するのかどうかが……」
愛用の武器はかなり高額な代物だ。これより良いものは買えるかどうか怪しい。
「素材に余裕があれば作れなくは無いが……、相手がシャルティアとなると……」
「あんたの立場から不味いことになるなら無理にとは言わない。その吸血鬼も街で暴れているって噂は聞かないし」
というか人をさらうような組織を壊滅した吸血鬼が責められる理由は無い。
国に迷惑をかけるような報告も上がってこない。
王国の貴族達は怪しいものはすぐ討伐と言いたがるようだ。
戦争を終えた後の貴族達は戦々恐々としていた。
魔導国と和平を結ぶように進言するラキュースの立場は微妙だ。
「まあ……、今の武器で吸血鬼を倒してももっと強いモンスターに歯が立たないのでは意味がないな」
確実に黒い仔山羊というモンスターには自分の武器は通用しないと思う。
仮に『
人間とは違うのだから仕方が無い。
強固な敵ばかりでは武器が傷むのも事実。
技術だけでは厳しいだろう。