※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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L-13 正直者はバカなんだろう

 午後にはガゼフとクライムが訪れた。ブレインは見物。

 暇なのかは分からないけれどヤントラの顔を見に来た、ということも考えられる。

 ここしばらくは実験続きで屠殺場は使用していないと聞いてガゼフ達は驚いたようだ。

「良い顔しない奴に破壊されそうなので」

「ゴウン殿か……。気持ちはなんとなく分かる」

 己の敵を生産する施設だ。危険と判断すれば処分するだろう。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国を滅ぼしたとしてもリ・エスティーゼ王国にはバハルス帝国という敵が居る。

 スレイン法国も大人しいだけで味方と言うわけではない。それにまだ現れない亜人の国などが控えている。

 小康状態の意味が良い具合なのだろう。

 少なくとも王国は戦力を整えてもどうにもならないほど人材が不足している。

 帝国も魔導国の存在に頭を痛めて戦力増強どころではない、という噂がある。

 スレイン法国はアンデッドの支配者を認めないとしても戦力差から無闇に戦いを挑もうとしないし、仲良くなろうともしない。

「竜(ドラゴン)を倒しておられたとか」

「鱗の調査でね。竜王(ドラゴンロード)が現れなかったのが残念です」

「仮に竜王(ドラゴンロード)を倒してしまうと残りはゴウン殿しか強者は居なくなるのでは?」

「他の仲間が居ればいいんですが……。今のところは見つかっておりません」

「ゴウン殿のかつての仲間達が現れた場合はどうなりますか?」

「未知の冒険が好きな連中ですから、色んなところでアイテム探しや拠点作りに没頭するのではないかと」

「支配ではなく?」

「はい。ナザリックの防りはアインズに任せて気の向くまま冒険する連中です。都市を火の海にするのが大好きっていうのは……、居ないとは思いますが……」

 能力的に都市を壊滅させそうなのは何人か浮かぶ。

 女性が三人しか居ないから女体モンスターを求めて奮闘するものも居るだろう。

「全員異形なんで、皆さんと仲良くなれそうにないですけどね」

「王国としては敵対しそうですね」

 他愛も無い話しをするために来たのではなく、特訓をしに来た事を思い出す。

 まだまだ強くなりたい青年の願いを聞き届けてあげたいけれど、標的が全てアインズだ。

 どういう匙加減をすればいいのだろうか。

 全てを強くすれば確実に戦乱の世になる。

 王国と帝国と魔導国が同盟関係であれば色々と考えただろう。

 せめて属国だ。

「……クライム。……魔導国対策は不味いぞ」

 ブレインはヤントラの立場などを小声で伝えていく。

 王国やラナーの為とはいえヤントラにも守りたいものがある。

 アインズはどうなってもいいのだが、色々と面倒くさい問題が残っている。

「ヤントラ殿。全てのものが正しき者とは言わん。それでも力を貸してほしい、というのは我がままだろう」

「徒党を組めばやりたい放題です。かつてそれでアインズ・ウール・ゴウンは千五百人のならず者を撃退しました。多くの犠牲を払って。つまり二度は無いわけですよ」

「犠牲……」

「巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)のような厄介なモンスターをきちんと倒すためなら問題は無いかもしれない。ちょっと離れた森には野生の忍者(ニンジャ)らしきモンスターが居ました」

「野生の忍者(ニンジャ)? 人間では無いと言うことか?」

「人型モンスター。モンスターとしての忍者(ニンジャ)ですね。ティア達のようなクラスとして取得しているのではない……。忍者(ニンジャ)という種族の生物です」

 分かりにくい。

 説明しにくい。

 ヤントラは眉根を寄せる。

「国作りで忙しい魔導国は数年は静かにしているかもしれません。その間に色々と交渉ごとを続けていけばいいのでは?」

「エ・ランテルを手に入れてから大きな動きは見せていないな。無理に突付く事もないのは理解している」

「アインドラ卿の強さは何のためにあるのでしょうか? 意地悪な質問であるのはご勘弁頂きたい」

 周りに中途半端な強さしか与えず、自分だけ一番強い事に納得などいくはずがないだろう。

 そのような疑念は至極当然だ。

「モンスター退治です。憎しみではなく、冒険者として必要なんですよ」

「国ではなく、ということか」

「物凄いモンスターが居るんです。竜(ドラゴン)程度は雑魚だと思えるくらいの。多くの冒険者がチームを組んで討伐していきます。もちろん、アインズ・ウール・ゴウンもチームを組まなければならないほどのね」

 ユグドラシルと言うゲームはストーリーに沿うだけではなく、さまざまなアイテムの捜索、製作、拠点作成などの遊び方がある。

 ストーリーのイベントボスよりも凶悪なエネミーだって居る。

 十年続けば新しいゲームが現れて移行していく事も珍しくない。

 様々なランクがあり、それを維持または上げる事だけを目的としている者も居るだろう。

 アインズことモモンガもその一人だ。

 全てのプレイヤーが最後まで残っていたわけではなく、引退する者も多く居た。

 ヤントラも最後の方は参加することが少なくなった一人だ。

 最終日だから寝正月気分で過ごしては、とタブラ・スマラグディナから誘われて円卓の間で寝かせてもらった。

「……また脱線思考が……。乱高下の激しい強さが今は安定しているだけですよ、私の強さは。一番にこだわりがあるわけではありません。楽しく冒険できればいいだけです」

「趣味の領域か……」

「魔導国以外のモンスター相手ならガゼフさん達は充分に強いはずです。それでもまだ足りないと言われれば……、困ってしまいますよ」

「そ、それは……、確かに……」

「いずれ貴殿に刃を向けるかも知れんな」

「また真っ二つか……。今度はプレートは外しておきますよ」

 ヤントラの言葉にガゼフは唸った。

「どの道、魔導王が難色を示せばこの施設の存亡は危ぶまれるかもな」

「……あと少しは付き合ってもいいです。厄介なモンスターも色々と見つけてきましたし。政治的な交渉は続けていただきたい」

「それとなく進言しておきます」

「こちらも依存はない」

 ヤントラは各国に戦争を仕掛けない覚書を交わした事を思い出し、それらを告げる。

 自分で交わした約束を忘れるのは困った事態だ。書類は残っているけれど。

「案外、記憶力は当てになりませんね。やはり書類として残しておかないと」

「こちらこそ、すみません。そのような覚書の存在を失念してしまって」

 嘘だと思われては困るので実物を見せておく。

 正直者であれ、とたっち・みーからも教えられていた。

 普段から嘘をついていた人間ではないけれど、悪い見本が近くに居たので自然と正直に生きようとしているだけだ。

「今から始めるとして……、たいした結果は得られないけれど……」

 急な予定なので今日は宿舎に泊まってもらおうと思った。

 屠殺場から六の宝物庫に移動する。

「……大浴場に居た植物のモンスターはいったい?」

「湿気などで育てているだけです。観葉植物だと思ってください」

「色んなモンスターが増えてきたな」

 色々なモンスターが居るのは知っているのだが、暴れだしたりしないのが不思議だ。

 管理を徹底すれば脅威度が低いという事だろう。

 それは普通の人間に出来ることではない。

 地上にモンスターの姿は無く、農業に従事している人も存在は聞かされている。

「ここは保管庫だから徘徊させるわけにはまいりません。地下に様々なモンスターが徘徊して人間をむさぼり食らう、ということは無いです」

「うむ」

 保管庫なので客人をもてなすようには出来て居ないからすぐに地上に移動し、宿舎に案内する。

 立て直した宿舎は大部分が食糧の備蓄に使われている。

 今は実験的に保管して調査しているので入れ替わりが激しい。

 風呂とトイレは完備しているが自炊が基本。

 リイジーの店は本人が良ければ話し相手にもなれるという。

 

 ガゼフ達を移動させた後で七の宝物庫に集まったメイド達に屠殺場での活動内容を告げる。

 基本的に数時間で撤退するので時間帯の調整が必要だ。

 個人で解体作業はできないことも考慮される。

「三の宝物庫である浴場は上の階に登る階段が無いのは何故ですか?」

「覗き防止のために作っていない。後は……、湿気で床が崩れないかの調査もあったような気がする」

 随分と経っているけれど使われた素材が良いのか、劣化が見当たらない。

 浮遊の板のお陰もあるだろう。

「保管庫の仕事は宿泊施設とは違い、ベッドの清掃とかなくてやりがいが無いだろう?」

「向こうは向こうです」

「能力的に出来ないことはありますけれど、与えられた仕事に文句はありません」

「保存容器の中身は定期的に洗わないものでしょうか?」

「出してしまうと効果が切れるおそれがあるからダメなの」

「最初は色々と試行錯誤していたから頻繁に出してたけどね。半年漬ける培養液もあるし。……迷走していて申し訳ない」

 あまり利用しない地上の宿舎の部屋の清掃も考慮した方がいいのかもしれない。

 今日は監督役が留守のようだ。

「ナーベラルが居ないなら全員全裸でいいな」

「ナーベラル・ガンマ先輩は所用で留守にしております」

「裸云々はおいといて。地上の宿舎の清掃もいずれやってもらおうかな。人間が居ない内に」

 問題は地上に上がった後、少し歩かなければならない点だ。

 野盗に襲われればメイド達はひとたまりもない。

 少しは外貨稼ぎも考えなければならないだろうか。

「他人に使わせることを考慮していないから、何が必要なのか分からない」

「あまり考え込まずに」

「私達に仕事を与える上では色々と必要なのよ」

「外敵や非常事態が発生しても私達にはどうすることも出来ないし。バスパ様はお優しいから……」

 外壁の痛みやヒビの報告ならできるが変なモンスターが現れた場合は退治できるとは思えない。

 ケガくらいなら治癒できるけれど、大怪我だと監督役からアインズの耳に入り、お叱りが届くかもしれない。

「建て替えたばかりだが、また建て替えないといけない気がする」

「そ、そんなに性急に事をお決めにならなくて結構ですよ」

「決めるのは早い方がいいだろう。あと、ちゃんと相談して決めていくから」

「人間に会うくらいは我慢して見せます」

「それはこちらも相談しますけどね」

 複製では味わえない新鮮な気持ち。

 自分の思い通りにいかない事も楽しまなければならないだろう。

「裸がお好きなようですが……、こちらのメイドをずっと裸にすればいいのでは?」

「目新しさが無い。色んな服装を着ているのも好きだけどね。かっこいい防具とか。仮に裸だとしたら、今度は戦乙女(ワルキューレ)の防具がいいと文句を言うようになると思うな」

「あらら。そういうものですか?」

「裸談義はやめて、仕事の内容を詰めて行こうか」

「はい!」

 ナーベラルが居ないので全員裸にして会議するのも悪くは無いかも、という考えが過ぎった。

 裸より水着。目新しさがあれば一つにこだわらずとも良いだろう。

 そんなことを思いつつメイドの仕事を考察していく。

 基本は後片付け。どこを通ってどんなことをするのか。

 仕切り壁や仮面などが必要なのか。

 男性版も増やしてみるか、と思い搾取を試みる。

 チームプレイは効率が良い。あと、楽が出来る。乱用は飽きやすいから困るけれど。

 記憶の改竄まで手を出しそうで怖い。それはさすがに危険だとタレントも言ってくるだろう。

 それらが終われば今後の宿舎の利用と備蓄の扱いだ。

 仕事は山積みだが終わりが中々見えてこない。

 見えたら見えたで暇になるだろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 特訓といっても膨大な数のモンスターを倒すだけだ。

 久しぶりの仕事だがちゃんとできるのか心配だ。

 翌朝から準備を整えているのだが千体目で飽きてきた。メイド達に任せてみる。

 役割分担がしっかりしていれば難しくない。

 出来上がったモンスター達に命令を与えるのも飽きている。

 今回は忍者(ニンジャ)などの新しいモンスターを追加。

 前回以上に多種多様になっているはずだ。というか、女体モンスターばかり持ち帰っているので偏っているけれど。

 人型以外で強いモンスターはだいたい大型になってしまう。

 竜(ドラゴン)を増やしても入りきらない事態になるのは明らかだろう。

 そういえば『マレブランケ』が居たことを思い出す。

 久しぶりだから色々と忘れている。

 『万魔殿(パンデモニウム)』の製作に奔走(ほんそう)していたせいかもしれない。

 悪魔たちはどれが強いのか良く分からないので適当に増やしておいた。たぶん、倒しても大丈夫だろう。

 討伐を終えた後で三人が休憩している間、メイド達に片づけを実行させる。

 十人単位の少数で時間はかかる。

 最後の部分は粘体系の仕事だが、それ以外は任せても問題は無さそうだ。

 死体を運ぶ時は顔色一つ変えない。ただのゴミという認識のようだ。

 これがイビルアイなら顔色を悪くしているかもしれない。

「蜥蜴人(リザードマン)の特訓だったら君達、殺されていたかもな」

「そうなんですか!?」

「もちろん、お世話をしようとする時だが。敵と認識してしまうようだ。単純作業は種族によって精神的に不安定にさせるようでね。こうやって移動させないと危険なんだ」

「あららー。そういうものなんですかー」

「あの方達も不安定になるんですか?」

「今はだいぶ慣れているから大丈夫だろう。とはいえ、人型のモンスターを相手にすると混乱しそうになるようだ」

 特訓中にメイドがうろうろしていれば邪魔になるだけだが。

 掃除道具を使い、現場が綺麗になっていく。

 血の匂い等は換気によって流されていく。

「密閉空間ではないけれど、ちゃんと流れるように作ってもらっているよ」

「ほー、機能的なんですね」

「ナザリック地下大墳墓も換気は大事だと思うぞ。どうなっているのか分からないのは怖いからね」

「あそこは……、謎ですよね」

 魔法による作用だとメイド達は認識している。

 空気がどのように流れているかまでは知らない。

 異次元という答えは夢が無い。

 休憩が終われば特訓の再開だが昼はメイド達は来ないのでヤントラのメイドが片付ける。

 夜に訪れるメイド達は人数が多い。

 ヤントラの効率は飽きているせいもあり、効率が落ちていた。なのでメイド達と共に作業を繰り返す。

 随分と単純作業を繰り返してきた疲れが出始めているのかもしれない。

 メイドの方は失敗例が多くなってしまう。それはそれでナザリックのメイドの仕事が増えるので問題は無い。

 命令を与えるのは他人任せにしてはいけないので頑張った。

 監督役が居ない時はついでに搾取とやましい気持ちでやる気を出す。

 三日間でメイド達全員が改めて終わるという。

 前回の様に大掛かりな方法は取らなかったので献血だと思うことにした。というより四十一人の部位が詰まった大きな容器が並ぶ様は圧倒される。

 徹底的ならこれぐらいしなければならないだろう。

 人造人間(ホムンクルス)ばかり多く集まっても仕方が無い。

 あと、胸の大きい小さいもあるので何でも搾取というわけにはいかない。

 メイドより特訓が大事だが、なかなか伸びは良くないので、日を改めて繰り返すことにした。

 それはひとえにヤントラが精神的に疲れているせいもある。

 ここしばらく研究続きだし、家族サービスと精神が休まる日が少なかったような気がする。

 丸々数日は寝て過ごすのも大事かもしれない。

 ガゼフ達には日を改めて来てもらう事にしてンフィーレアに空の容器を加工できないか尋ねてみた。

「使用方法が変わると効果が消えるとかあるのかな」

「それは調べてみないと……。鉱石を加工して板が作れたんですから不可能ではないと思います」

 魔法で破壊しようとすると飛び散るおそれかあるので完全防備にならないと危険だ。

 あと、飛散防止の方法などを考察していく。

 イビルアイも興味を持ってンフィーレアの手伝いをしていく。

「普通にガラスを作ればいい、というわけにはいかないか?」

「何事も調査は必要でしょう。スキルも万能すぎると研究の意味が無くなります」

「うむ」

 努力してこその発明は無駄にはならないだろう。

 魔法で破壊できるなら強度的に強いのかどうなのか怪しいものだ。

 身も蓋も無い事が浮かぶとやる気をなくす。

 便利な魔法が時々、憎くなる。

 普通に作っても魔法で作ってもダメじゃねーか、とイビルアイは後々になって思った。

 試作品として丸型と四角型を予定している。後は強度的な問題や破損時の修復方法など。

 寸法を正確に描き、角を丸めたり、二重や多重構造の案をまとめる。

 

 経年劣化の問題もあるので室温を保つ方法は難しい。

 火の精霊(ファイア・エレメンタル)と氷の精霊(アイス・エレメンタル)の力は必要かもしれない。

 あるいは火属性と氷属性を付与できるアイテムの存在。

 データクリスタルを用意するところから始める。

 その間に書類の作成。地上施設より地下の方を執務室代わりにしている。

 風呂場とトイレも場所を決めて色々と用意しておく。

 換気は大事だし、空気の浄化も必要だ。

 不穏な空気は溜めていると身体に悪影響だろうから。

 数が増えてくると色々と手狭に感じる。培養液の場合は使い終わると邪魔くさく感じる。

 丈夫さを考慮して二階層の中間はかなり分厚く丈夫に作ってあるけど、重さの分散は必要だろう。

 天然のダンジョンは意外と落盤を起こさない。その調査も必要なのだろうか。

 魔法を乱射しても壁が少し壊れる程度というのは凄いことなんだろう。

 『懸架(サスペンション)』は一人で行(おこな)うのであれば相当な時間がかかる。これらも数百人規模で行(おこな)えば一万枚は割と容易くなる。

 それだけの人数で行(おこな)う広い場所は必要だろう。

 砂漠地帯にこっそり作るとか、森林地帯にこっそり作るとか。

 秘密裏に作る施設は罪悪感が重くのしかかりそうだ。

 王様や貴族に頭を下げるべきだろう。

 近場で手ごろなダンジョンでもあればいいのだが、それらの報告はまだ無い。

 いかにも洞窟、というのは見つけにくい。

 野盗のねぐらは意外と狭いし。

 空に作る方が無難という事もある。

 屠殺場は天井まで高いので無駄空間は有効利用しないといけないだろう。

 金属板を階層構造に積み上げる案もンフィーレアに依頼しておく。素材は再利用の為にオリハルコン以上。

 二の宝物庫もそういえば同じくらいの広さがあったっけ、とど忘れてしていた。

 天井付近に設置していたエクスチェンジ・ボックスは既に移動しているので、ここにも浮遊する金属板を設置しようと思った。

 あれこれ進めているので気がつかないことがたくさんあるようだ。

 隠し部屋しか考慮していなかった事も原因だろう。

 作業はのんびりと行(おこな)ってもらうことにして魔導国用の浮遊する建築も準備しておかないといけないだろう。

 特に要望は無かったのだが、適当に作るなら卑猥な形にしてやろうかなと、つい思ってしまう。

 竜の形とか複雑怪奇なものは出来ない。というかデザインには自信が無い。

 そもそも魔導国の全体像は承知していない。

 丸投げは困るので図面は貰いたい。

 ガゼフ達の特訓と混ざりながら予定を昇華していく。その間にナーベラルへの依頼やメイド達の仕事なども見ていく。

 モンスターの死体にも動じないメイド達は安心して任せられる。

 床の血溜まりも平気なようだ。

 見回りや部屋掃除。ンフィーレアの作業の見学など。

 ヤントラと入れ替わるようにアインズが様子を見に来る場合は緊張が走る。

 部下の手前、ヤントラと話すのは恥ずかしいという思いがあった。

 ケンカが始まってもいけないし、息抜きの見学で済ませたかった。

 イビルアイの要望でモモンとして訪れることも考慮していたはずが、つい忘れてしまう。

 今日はアルベドも連れて来た。いつも素で忘れてしまう。

 研究成果の見学だけという事だがアインズと共に出かけられればアルベドは文句は無い様だった。

 汚れても良い簡素な服装にしている。

「保管容器を破壊して成形しなおしているのか」

「はい。強力な酸にも精霊(エレメンタル)の火にも溶けない優秀なガラスですからね」

 ただ、スキルで溶解するのが不思議だった。あと、衝撃にも無敵ではない。

 わざと壊そうとしない限りは強固だが、アイテム破壊のスキルは通用する。

 いくつか製作したガラスを観察する。

 分厚く熱に強そうだった。それらが数枚ごとにテーブルに乗せられている。

 ガラスの間には薄いフェルトが挟められている。

「……ちゃんと出来るものなんだな」

 スキルって便利~、とアインズは感心した。

「実際問題として『懸架(サスペンション)』の魔法が無ければ大変だろう」

「はい。色々と計算してみましたが、天文学的な数字ばかり出てきます。個人の娯楽や国の政策でも空中建造物は……、途方も無いものですね」

 全体的に浮遊させる便利なアイテムがあれば話しは変わる。

 元々浮遊する物質とかがあるなら見てみたい。

 仕様。というのが一番、夢の無い結果だろう。

 『永続化(パーマネンシー)』も現地通貨で金貨二枚。

 一般的に知られている浮遊建造物は未知の科学か無重力を生み出す資源の力かもしれない。

 魔法以外では飛行機に類する科学技術が必要だろう。それでも城を浮かせるほど巨大なものは夢物語だ。

 航空力学とか色々と勉強しないといけなくなる。

 宇宙は更に科学技術を発展させなければならないだろう。

 ちょっと魔法で飛べば良い、というわけにはいかない。

「耐熱タイルは順調か?」

「熱には強いようですが……。断熱効果に不安が残りますね。密閉空間なので蒸し焼きになります」

 空気の膨張が発生するので換気の問題が出て来た。

「諸問題は残っていますが、普通の空中建築は作れる事が分かっているので、頑張りますよ」

「……普通のでも充分、大変だろう」

「はい」

 アインズ達は地上に出て農園の様子を見学する。

 空いた土地に様々な作物を植えて色々なものを作っている。

 果樹園もあり、旬の果実が生っている木があった。

 それとゴムの木と思われるものもたくさん植えられて樹液が容器に流れ込んでいた。

「便利な魔法と地道な努力か……」

 放牧された牛と山羊に混じって八足馬(スレイプニール)と一角獣(ユニコーン)が居た。

 王国周辺で魔物が徘徊する施設にもかかわらず大きな混乱も無く、蜘蛛女(アラクネ)が建物の壁に張り付いても気にされない。

 警備体制を強化している魔導国と違い、柵の無い見晴らしのいい施設だ。

 一言で言えば平和なところ。

 喧騒も無く、静かに時間が流れている。

 慌しい人々の生活臭は感じない。

 とても長閑な田舎といった雰囲気があった。

 もし、睡眠できるのであれば静かに眠りたいくらいだ。

 大抵は平穏を破るような輩が現れるのがゲームらしいのだが、今回は何も起きないようだ。

 王国から討伐隊が攻めてくる気配も無いし。スレイン法国やバハルス帝国の騎士達が襲撃しにも来ない。

 怒涛の連続だったような日常は休息期間に入っているようだ。

 何も語らず黙って見ていたくなる。

 ずっと黙っていても作業は進まない。それはヤントラも分かっているだろう。

 息抜きとしては良い施設だ。アインズはそう評した。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 大量生産の為に一日があっと言う間に過ぎていく。それは製作に時間がかかるからだ。

 数秒で出来るのであればもっと早く済む。

 便利な魔法とて最詠唱時間と言うものが存在し、アイテム製作の場合は決まった時間が必要になってくる。

 作物も一日で収穫は出来ない。

 触媒があるとはいえンフィーレアのスキルでも限界がある。

 大きなものは時間がかかるのは当たり前だが。

 小さくとも一個ずつ製作するので、それなりに大変だ。

 カルネ村でポーションの研究や開発も行(おこな)っているので更に時間がかかる。

 休日も設けて子育てに励んだり、エンリの手伝いもする。

 身体を休ませることは大事だと言われているので無理をしないように心がけている。

 疲労しないアンデッドと違い、人間なので休まなければ精神的におかしくなる。

 ンフィーレア自身も助手を雇おうか検討しているくらいだ。

 大量生産にはヤントラのメイド達が総動員で当たるだろう。基本的な設計は任せてくれるのだが膨大な量を一人で製作することは精神的にも肉体的にも不可能と言える。

 不可能だから数の暴力の出番なのだろう。

 今回作っている『万魔殿(パンデモニウム)』は最大で一キロメートル四方。高さは二キロメートルに近い。

 本当はもっと巨大にする予定だったが物事は一気に進めることは出来ない。

 もう少し小型でもよかったような気がするが、それは魔導国用に検討する事にした。

 野ざらしにしているわけにはいかないので大まかな外観まで一気に製作していく。

 先に敷いていた床は全て剥がし、回収した後に潰して作り変える。

 普通なら木材を使うところだが全て金属や樹液を固めた素材を使用していく。

 本来なら一万トンや天文学的な重さに耐えられるような魔法をかけたいところだが、無いものは仕方がない。

 足りない部分は魔法的な防御で防衛していくしかないだろう。

 いくつかの施設を作った経験から外観さえ出来てしまえば全体的な移動は容易くなる。

 それはまた後で再確認しなければならないけれど。触れた部分が連動する仕組みになるらしい。

 用意が出来た床板をどんどん並べていく。

 支柱となる部分は分厚い板を組み込んで、円柱に見立てた折れ難い構造の積み重ね。

 補強もあちこちに入れることになっている。

 自重で潰れたりしないように。

 上下の階層移動も出来るようにしなければならず、所々は穴があけられた床が現れる。

 床下は収納や点検が出来るように。

 用意した材料と設計士達が書いた設計図。大工職による組み立てで作られていった。

 一日で出来るのは多くない。

 意外と広い空間は時間がかかるものだ。

 あまりに単純すぎると移動させた時に嫌な音が聞こえてきそうなので、ある程度の部屋は確保する必要がある。

 それでも一週間では完成しないだろう。

 アイテム製作と平行してガゼフ達の特訓もしなければならない。

 冒険者をやめようかな、そんなヤントラの呟きが多くなってきた。

 弱音を吐く父にバスディオ達は意味もわからず微笑むだけだ。

「お前達が大きくなる頃、世界はどうなっているのかな」

 剣を持って戦う騎士か魔法詠唱者(マジック・キャスター)。学者や商人などもありえる。

 地下施設なら子供達も連れて行けるのに。

 気圧の問題を解決する良い魔法は無いものか。

 都合のいい魔法がありすぎては人生に張り合いがなくなってしまう。

 多少の不便さは許容しなければいけない。

 良い未来になるかは支配者の裁量次第というのは面白くない。

 頭の悪い世界になるなら、要らないな。

「もっといい世界を作るのも悪くは無いのだが……。候補地が遠すぎる」

 転移を繰り返さないと無理かもしれないし、自給自足が出来るようにしなければならない。まして、大気の問題もあるし、ため続ける事も出来ない。

 気がつけばクライム達も充分に経験値を積んだので終了とする。最後まで強くするのは本人の為にならない気がする。

 残りは自分で強くなってほしいので余裕を与えた。

 それでも七十代半ばは行っただろう。

 適当なクラスを選ぶわけには行かないし、未知のクラスの存在もある。

 一人ひとり調査するのはとても面倒くさいのだが、大勢は特訓できないなと思った。

 この後、城詰めの兵士も面倒を見るのは勘弁してほしいところだ。

 自動的にモンスターを用意する方法があればいいが、それはそれでファンタジー観が台無しだ。

 

 面白くない事が続いたせいか、元気の無いヤントラにイビルアイは暇を見ては労うことにしていた。

 ラキュースも同様に気遣ってくれる。

 精神的な疲労はそう簡単には取れないようだ。

 働いて収入を得ているわけではないし、自給自足が出来ればヤントラは自己完結する。

 便利な魔法が無ければ今も地道に冒険者の仕事をしていたかもしれない。

 女体モンスターは探していただろう。それは変わらないはずだ。

 戦争を抜きにすれば自由に飛び回っていただろう。

 あるいは非道なプレイヤーとして暗躍していたかも。女体いじりは確実にしているだろうな。

「強いモンスターが居ないと実力があまり発揮できないものだな。ご主人が少しずつ強くする理由が今更だが、分かってきた」

「苦戦しすぎると本当の強敵にやられてしまいますから、油断は禁物です」

「うむ」

 イビルアイの横を金属板を運ぶメイド達が通り過ぎていく。

 羊皮紙生産は頭数を減らして今も続けられている。その代わり羊毛の生産が増えた。

 自然界で放牧している羊と違い、汚れがほぼ無い。

 食肉加工も出来るのだが複製なのでナザリックに一部は提供して様子を見させている。

「一面に敷き詰めるとなると途方も無い枚数になるものなのだな。空中はタイルなどではダメか?」

「今度のは穴が開いては困りますからね。あと、石だとヒビが入りやすい。金属だと溶かして再利用が出来ます」

「なるほど。床の厚さはどのくらいだ?」

「ここと似たようなもので一メートルかそれ以上か……」

「密にしないのは重さと資源量か……。当たり前だと分かっているのだが……」

 中が空洞だと普通なら強度的にも心許ない気がしていた。

 密にするほどの資源がそもそも無い。

 溜まるまで数十年、下手したら数百年はかかるかもしれない。

 イビルアイが良くても人間のヤントラは死んでしまう。

「少ない材料で期待以上の成果を出す。大事なことですよ」

「うむ。建設にこちらの職人は連れて行けないのだな?」

「長時間は耐えられないでしょう。魔法でどうにかするとしても……、居ますかね。危険とわかって働く無謀な職人さん」

「確実に私は大丈夫だ。呼吸を必要としないからな」

 手厚い看病がつくなら働いてくれそうな職人は居るだろう。

 問題は戻ってきた時のことだ。

 複製と違い、ヤントラはオリジナルを大事に思っている。

 複製は複製として割り切っているとも言えるし、それは間違いではない。

「地上付近で作って、それから上に上げればいいのではないか?」

「相当な大きさですよ。特にリ・ロベルは大騒ぎになるかも」

「……この施設がそのまま浮くとなると驚くのは仕方が無い。迷惑をかけるわけではないのだから、いや……。あまりにも巨大な建造物だと恐れられるか……」

 黒い仔山羊が空を飛ぶくらいびっくりするかもしれない。

 近隣都市の説得作業に時間がかかりそうだ。

 秘密兵器で王国に危害を加える、という噂が立てばひとたまりも無いだろう。

「秘密基地を公開するバカは居ないな。転移で行くしかないか。それでも、職人たちの協力は新しい技術の確立に繋がらないか? 見せてはいけない、という理由があるのなら無理に言わないぞ……」

 悪用できそうに無いけれど、建設技術は公開できないのだろうか。

 ンフィーレア達に設計させているのだからダメとは思えない。

 やはり健康のことが問題なのだろうか。

「新しい知識の獲得を良しとしないバカが……」

 アインズのバーカ、と繰り返し言い続けてみた。

 イビルアイは首を傾げていたが、悪口を言い続けている内に室内に転移する者が現れる。

「……二十一回か……」

 見ずとも分かるアインズ・ウール・ゴウン魔導王だ。

 いつもの神器級装備ではなく低位の装備で身を固めていた。

「私の悪口が聞こえたのでな」

「言ってみただけだよ」

 イビルアイに少しだけ離れるように言っておく。

「完全に秘密を暴かないと気がすまない性格だったか?」

「んっ? そんなことはいぞ。ナーベラルは主のためを思って行動しているだけだ」

「ならいい。作業の邪魔になるから使用中の部屋は立ち入り禁止だ。正直に言えばプライベート以外で、もう言う事が無くなってつまんなくなってきた」

「……それはすまなかったな。それで私の悪口を言っていたのはどういう意図があるんだ?」

 落ち着いた調子でお互いが話しているのでイビルアイは安心し、アインズに椅子を勧めた。

 アインズは軽く手を挙げて感謝の意を現し、椅子に座る。

「面倒ごとを避ける気持ちは分からないでもないが、お前の顔色をうかがっていては人にものも頼めない」

「戦略の基本だと思うのだがな」

 そうは言うが過剰な秘密主義はアインズもやり過ぎかも、と思うことはある。

 言い訳が苦しくなるという点で。

「強くなりたいと思う者に手を差し伸べてもアインズの面が浮かぶから困った」

「私に脅威を与える敵を作られては困るからな」

 アインズの言葉にイビルアイは軽く唸る。

 ヤントラが時々、消極的になる理由が理解出来た気がした。

 ガゼフ達が力をつけていけばアインズにいずれ剣を向ける。少なくとも戦闘メイドとの戦闘は避けられないだろう。

 傭兵や召喚モンスターとは違い、愛情を注ぐ部下に対しての報復は想像を絶するものとなるだろう。

 国を守るという大義名分で改めてナザリック勢との戦いが起きないとも限らない。

 早い話しがヤントラを亡き者にすれば不安要素は確実に取り除かれる。

「一方的に戦争を仕掛けるほど王国が愚かなら文句は言わない。少なくとも魔導……、ナザリック地下大墳墓は周りと戦争する理由が無い。向こうから来るなら迎え撃つだけでいい」

「戦争する理由が無い? そうだったか?」

「モンスターを抱えている以外で、思い当たる節は無いな。ナーベラルが先行して市民を虐殺した、なんて話しは聞かないから」

「うむ。部下が地上で活動する場合は事前に許可が必要だからな。あと、監視もしっかりしている」

「怪しい魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居るらしい。では、殺してしまえ。という頭の悪い貴族でもない限りは……、アインズ側が慌てる必要は無いと思うのだが」

「そうであっても敵が居る、というのは気分が悪い」

「……話し合いは苦手か?」

「……得意というほどではないな」

 ヤントラとアインズは自然と小声で話した。

 苦手な分野は声が小さくなる。

「せっかくお近づきになったから、色々と協力してほしいところだ。これから作る大きな建築物とか。だけど、アインズは余計な技術の獲得はいい顔しないんじゃないかなと……」

「……まあ、いい顔はしないな。それは正しい」

「そんなことを考えていればやる気も無くす。……なんで帝国に行っちゃったんだろう、この骸骨(アインズ……、いや、モモンガ)は」

「大きなお世話だ。ジルクニフのように直接友達になりに来たら王国側についたかもしれないぞ」

「国王はそれほど若々しくないよ。お年寄りは大切にしろ」

「王国側は六大貴族が色々と牛耳(ぎゅうじ)っているのだろう? 素直に協力関係になるとは思えない。その点で言えば厄介な敵を粛清するジルクニフの手腕は見事だと言える」

 生意気な貴族と会話しなくて済んでいるし。すぐ粛清してくれる。

 軍事国家ではあるけれど国民の人気は高い。

 兵士達の生活も考え、市民生活の向上にも努めている。文句を言うのは貴族くらいだ。

 自分が魔法詠唱者(マジック・キャスター)だから、という点もあるかもしれない。

 帝国の方が居心地がよかった。

「戦士職のお前は王国側が良いんだろう。水と油だ」

「それはお互いの相性もあるだろう。……一定の基準を設けるとかあればやりようはある、と思う。王国戦士長は部下を率いねばならないし」

「基準だと? 魔法で言うと第五位階まで目をつぶれ、とかか?」

 アインズの言葉にヤントラは頷く。

「人々の向上心には果てが無い。かといって権力だけ増えては面白くない。極端に市民だけ並べるのも……」

 国を作る上で様々な法律の策定が行われている。

 楽して出来るならアインズも苦労はしないし、自分が考えたこと(ユニフォーム案とか)はことごとく否定されているという事実に頭を痛めている。というか、何がダメなのか分からない。

 愚劣極まりない度を越して下等な発想、とアルベドにばっさりと斬り捨てられた。もちろん、匿名の案なのでアインズが書いたとは知られていない。

「世間一般では大魔法詠唱者(マジック・キャスター)たるアインズと対等に話す様子は凄い光景に見えるな」

 イビルアイは素直な感想を述べた。

「対等かな~……」

「今はお前の方が下だ」

 アインズはヤントラが余計な事を言う前に釘を刺す。

 今でこそ圧倒的な差はあるだろう。

 魔導王と聞けば一般人は誰もが恐れおののく。その中にあって動じない人間は少ない。

「懸念している事があるかもしれないが、私がアインズを倒してもメリットがあまりない」

「世界が平和になるかもしれないぞ」

 言った後で間違ったことに気付いた。

 ヤントラは平和な世界ではなく、モンスターが適度にはびこる混沌とした世界が好きな人間だ。

 冒険者として色々なモンスターを退治したり、未知の世界を探索するような。

「そんな話しをしていても仕方がない。それでアインズは技術革新は否定する方か? 独占する方を選ぶのか?」

「……難しい問題だな。あえて言うならナザリックの中で発展させて、共有する」

「独裁国家そのものだな。……主目的が征服なら究極的にはそこに落ち着くか……」

 発展する技術が最終的に誰に向けられるか、それを考えればアインズの言葉は納得出来る。

 支配者が支配者として君臨するうえでは至極当然の帰結と言える。

 ただ、それでも更に突き詰めていけばナザリック勢以外は敵である事に変わりはない、という意味になってしまう。

「情報は与えたから……、後はお前らで頑張れ」

 ヤントラの言葉にアインズは軽く唸る。

 自分の意見に否定的なところは相変わらずだが、直接聞いても苛々する。

「言われなくても」

「ご、ご主人。何もケンカ腰に言わなくても……」

「面白くない時は言い方も雑になる。そういう性格なのかもしれない」

「アインズも安易に怒らずに……」

「こんなことで怒ったりはしない。ただ、ムカついているだけだ」

 落ち着いた口調だが、イビルアイの耳には怒っているように聞こえていた。

「いずれじっくりと語り合おうか。今日、明日は……無理か……。近いうちに呼ぶから絶対に来い」

「え~、説教は勘弁してほしいな」

「説教というわけではないのだがな。こんなところで遊んでいるわけにいかなかった。イビルアイ、私の代わりに殴っておいてくれ」

「お、おう。それより、やはり忙しいのか?」

「忙しいな。目を通す書類が膨大なのだ。意味も無くハンコをポンポン押すわけにも行かない」

「それは確かに大変だな。引き止めて申し訳ない。良い国を作ってくれ」

「もちろんだ。……お前との決着はまた今度だな」

 と、言ってアインズは転移で消えていった。

 イビルアイは無言のままヤントラの頭をスコンと叩いた。

「アインズの命令だからな。文句があるなら今度、ちゃんと話し合ってほしい」

「そうですか。……面白くない時の私は……、かっこ悪いか」

「みっともないくらいに。アインズの気持ちも分からないではない。独裁国家とはいえ部下の安全を考えるなら独占も仕方が無いからな」

 市民を虐殺する噂は聞かないし、自国の民の将来も真剣に考えているのだろう。

 それは別にアインズだけの事ではない。

 スレイン法国も似たようなものだ。

 悪口を言ったら現れるということは監視されている可能性がある。

 というかヤントラ限定だと思うけれど。

 あんな悪口でも気にするのは心が狭い反面、それほど憎めないとも言える。

 昔からのケンカ友達らしい雰囲気を感じた。

 ヤントラにとっては居なくなっては困る心のよりどころなのかもしれない。それを我々は滅ぼそうとしている。

 良い解決策があれば未来は明るいものになるだろう。

 その解決策が無いから未だに未来は暗いままだ。

 

『第十三章 無限の檻を破壊する』へ続く

 

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