※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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M-2 魔導国に浮遊する建造物を製作

 イビルアイは身体全体を眺め、ンフィーレアはこと細かく調べていく。

 言う事を聞いている間は黒い仔山羊も大人しくて可愛く感じるのだから不思議なものだ。

 大きな口は何でも噛み砕きそうだ。

 目に当たる部分は無いけれど敵を感知する能力は高く、知性も高い。

 細かい指示にも応えられる。

 単純な思考しかしないモンスターに比べれば強敵だろう。

 確実に命令を遂行しようとするモンスターなのだから。

「こんなモンスターが増え続けたら世界は簡単に潰れてしまうな」

 一撃で倒せないし、弱点も無く強固な身体を持つ。

 寿命も無いに等しい邪神だ。

 身体も大きいから百年というより、数年もあれば世界は滅ぶだろう。

 立方体の浮遊実験で触手に上から押してもらったりしながら資料をまとめていく。

 叩きつけると簡単にひしゃげて地面に落下していく。

「問題はちゃんと倒せるか、だな」

「魔法の特訓には最適なモンスターですよね」

 数百人規模でも耐え切りそうな重量級のモンスター。

 一匹だけでも脅威だ。

 それを数十人のメイドによる殴打と槍攻撃、空中からの魔法爆撃。

 ついでにイビルアイとンフィーレアも参加。

「メエエエェェェ!」

 叫びつつも圧倒的な火力の前になすすべが無い、というか無抵抗なのだから当たり前だ。

 無表情で攻撃するメイドの方が怖いくらいだ。

 一部のメイドが見慣れない魔法を叩き込んで行く。

 第十位階魔法『現断(リアリティ・スラッシュ)』。

 それが数十と叩き込まれていく。

 ザクっザクっと音が聞こえてくる。

 それでも傷は浅い。

 見たことも無い高い位階魔法による様々な攻撃弾幕は見ごたえのある美しさがあった。だが、そのどれもが凶悪な攻撃魔法である事をイビルアイは感じた。

 一芸に秀でたクラスというのは凄いと素直に賞賛する。

 怒涛の攻撃にもかかわらず倒しきれない黒い仔山羊。

 これが数千匹も現れれば対処は出来ないかもしれない。

 かもしれないというよりは出来ない、と断言できそうだ。

「確実に倒さなければ危険だな」

 不用意にたくさん復活させない理由が良く分かった。

 イビルアイは自らも魔法を唱えて援護していく。

 第十位階をもってしても一時間以上はかかったかもしれない。途中でメイド達が転移で消えていく。

 巨大な的ではあるけれど強固な身体は凄まじい。

 新たに現れたメイドは戦士職に秀でた者達らしく、どんどん切り刻んでいく。

 一斉攻撃で足をもぎ取る。当然、強固な肉体なので時間はかかっていた。

「もっと簡単に倒せたりはしないのか?」

「方法はあるにはある、かもしれない。試したところを見た事が無いので。自分の存在と引き換えに相手を滅ぼすという……」

「すみません」

 イビルアイはすぐに謝罪する。

 ンフィーレアは傷が空いた部分を観察していく。

「飛び道具が無いので竜(ドラゴン)の的にされるかもしれないし、時間になると消えるので逃げ切る方が得策かと」

「そうだな。正攻法で打ち勝つのが難しいモンスターも居るんだろう」

 見る見るうちに身体に穴が開いていく。

 外が硬いなら中は柔らかい。ということはなく、強靭な筋肉はなかなか断ち切れない。

 奥にある内蔵も強固なゴムのようだった。

 弱点の無いモンスターというのは倒しにくいものだと改めて思い知らされる。

 攻撃を通す武器も充分に揃えておく必要がある。

 更に十分ほど経って内部を焼いていく。

 酸も効果が見込めない。

 無抵抗でも時間がかかるのだから反撃する普通の状態はもっと大変だ。

「決戦に使うのに相応しい召喚魔法だな」

 人間は小さな存在だが数で攻めるしかない。

 攻撃しているメイド達は決して弱くない。竜(ドラゴン)すら屠れる者達だ。それでも倒せないのだから、呆れてしまう。

 集中して肉体を切り離していくしかない。

 どんどん賽の目状に切り裂かれる仔山羊。

 体液対策で仮面を被り始めたのでンフィーレアも倣う。

 湧き出る体液を調べると得体の知れない毒物と言う以外は分からなかった。

 確実に健康に悪いだろう。

 メイドの一人が肌に体液をつけても溶けはしなかったが匂いが酷い。

 更に攻撃を加えていって、七割方を粉砕したところで消滅する。

 塗った体液やコップに入れたものも煙となって消えていく。

 気がつくと六人ほどのメイドが死んでいた。それらは先行して体液を浴び、後方の者達を守っていたメイドだ。

 体内に入り込むと深刻な事態に陥るようだ。

「調べるものも調べたから黒い仔山羊の出番は終わりかな」

「処分するのが大変なようですから安易に使えないでしょう」

 処分されると分かっているがイビルアイは死んだメイド達に手を合わせて『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』に入れた。

 勇敢な戦士に敬意を表する。

「イビルアイは優しいんだな」

「仲間は大事な財産だ。人としての優しさを忘れないようにしたいだけだ」

 非道な実験を繰り返すヤントラの代わりとしても。

 イビルアイは生き残った者の責務として死者を弔(とむら)う。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 黒い仔山羊用の実験施設はあっさりと役目を終えた。

 あまりにも強固なモンスターなので多用は出来ない。

 現時点で的(まと)以外の活用方法が浮かばない。

 モンスター一体に驚いてばかりでは国は守れない。生き延びる方法を模索するしかない。

 普段の黒い仔山羊は大量の犠牲が必要で姿を現すのに時間もかかる。

 無理に倒そうとするよりは背走を選ぶのが無難だろう。盾となって防ぐことは現時点で人間には出来そうに無い。

 後片付けを済ませて施設に戻ると空気が新鮮な気がした。

「フィア殿としては実験は続けたかったのだろうな」

「もう少し安全なモンスターなら続けたかもしれません。あれが敵だと思うと戦いたくは無いですね」

「その意見には同意する」

 イビルアイが疲れたように答えるので黒い仔山羊は相当な強敵である事が感じられた。

 本来の戦うモンスターはもっと過激なのだろう。

「広い場所だったのでもう少し規模の大きな実験などが出来るかもしれませんね」

「見たところ草原のようだったが……。辺りを破壊するのは抵抗があるな」

「そうならない実験はしたいですけど……」

 空気の薄い数千メートルの空より地上がいい。

 広大な土地を使うには賃貸や土地の取得に莫大な資金が必要だ。

 近隣の土地だと周りの都市に迷惑がかかる。

 『マグヌム・オプス』は色々と不自由な土地かもしれない。

 バカな実験は早々やらないだろうから、今すぐ危機が訪れるとは思えない。

 イビルアイはどうにも得体の知れない巨大モンスターが苦手となってしまったようだ。

 強大なモンスターが出て来た時、戦えない状態では仲間に迷惑がかかる。

 少なくとも竜(ドラゴン)には慣れておこう。

 邪神系はそうそう自然界に居るようなモンスターではないようだし。

 ヤントラに頼み、英雄級のモンスターで鍛錬を積ませてもらおうと思った。

 屠殺場は使用中なので地上で戦うこととなる。

「了解した。どこでも構わない」

「剣を使う英雄が居ないので槍ばかりですが、弓も居た方がいいですか?」

「飛び道具系が見当たらなかったな、そういえば。うむ、そちらも頼もうか」

 大量のモンスターではなく、個人でも充分に強い魅了する顔(ディルムッド・オディナ)と月の女神(アルテミス)を用意した。

「そこに居るのは忍者(ニンジャ)か?」

「下級モンスターですけど、一体を倒すと参戦します」

 強さ的には中位モンスターだが、忍者(ニンジャ)の中では下級だ。

「人型のモンスター……。本当にモンスターなのか?」

「悪魔も人型が居ますからね」

「……なるほど。愚問だった」

 戦闘を開始するがモンスターはイビルアイの動きについていくように攻撃をしてくる。

 強さ的にはイビルアイの方が上だ。

 低位の魔法で牽制しつつ相手の動きを読む。

 巨大モンスターの後なので不思議と安心した。

 悪夢ではないなと。

 更に背の高い悪魔三相の悪魔(ヘカテー)を追加する。

「回復役のメイドを置いておきますね」

「おう」

 イビルアイを地上に残してンフィーレアには『万魔殿(パンデモニウム)』の内装を依頼しておく。

 製作した素材は部屋の片隅に保管し、魔導国用は七の宝物庫地下一階にまとめておく。

 

 モンスターと国同士の争い渦巻く世界が平和になったものだ。

 各地に情報収集に出かけていたとしても強いモンスターはそれほど居なかっただろう。

 竜王国と争う獣人(ビーストマン)。

 評議国の竜王(ドラゴンロード)。

 倒すべきイベントボスが居るならまだしも。

 貴族以外で人々はそれほど困っていない。

 世界を支配しようとする魔王がモンスターを放って街を破壊しているわけでもない。

 そんな世界を強大なモンスターで埋め尽くすのは酷だろう。

 ユグドラシル時代は弱者だった自分はこの世界ではとんでもない強者となっているのは不思議な気分だ。

 急な世界転換はヤントラにとって馴染みにくいものだった。

 勝手が分からない。

 試行錯誤の殆どが虚しく終わっている。

 ならば得るものを得て次の世界に行くしかないだろう。

 

 次の世界。

 

 月。そして、更に遠くへ。

 便利な魔法があるお陰で世界をいち早く崩壊させてしまった気がする。

 遅かれ早かれゲームは終わる運命だ。いや、正確には終わった後の過ごし方を模索しているとも言える。

 これもまた一つの結末なのだろう。

 とにもかくにも必要な素材を早めにそろえておくことにしよう。

 寝る間を惜しんで用意した資材を地上のンフィーレアの店に運び込む。重量軽減の魔法はこういう時に役に立つ。

 百年分とはいかないが結構な分量になっている筈だ。後は冒険者に依頼でも出して手に入れてもらおう。

 予備の道具類も用意しておく。

 使う金属は大型倉庫に移し、残りはナザリックのメイド達に数日かけて集めさせた。

 消(・)え(・)て(・)い(・)た(・)データクリスタルが戻(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)が気にしない事にした。

 壊した武器もあるようだが、それは特に問題は無い。

「宝物庫は掃除には向かないな。意見があればどうぞ」

「はい。では、僭越ながら……。保存のみの献体を洗うのはいかがでしょう?」

「溶液が劣化すれば出来なくはないな」

「稼動しているメイドの制服を我々で着付け、洗濯をさせてもらうのはどうでしょうか?」

「それだと晩に服を回収した後は?」

「朝まで裸で待機してもらう」

「寝巻きくらいは着ていただかないと……」

 交代制なら問題は無い。

 第九階層のように様々な娯楽施設でもあればいいのだが、未知の技術が使われている為に現地の人間には再現できない者が多数存在する。

 たくさんの人間が利用するわけではないから食堂もたくさんの風呂場も無い。

 利用者を増やすべきなのか。

「人を使うのは難しいな」

 見回りも心配で仕方が無い。

 自前のメイドは急な敵の対応には不向きなところがあるし。

 支配者の居るナザリックとは根本的に違うのだろう。

 外交をする必要は無いし、諜報活動も必要ない。

 ただ、作り続けるだけだ。後は適度にモンスター退治。

 ダンジョンが極端に無いのと攻略すべき場所がほとんど無い。

 戦闘に特化しているので料理もアイテム製作も不得手。

 発想だけでは世渡りは出来ない。

 大人しく床を作る方がいいのかもしれない。

 メイド達にはこれまで通り、見回りと容器類や室内の異常がないかの確認作業。服と浴槽の掃除を任せた。

 王国と帝国の辞書作りだが一通りの単語と会話くらいしか出来そうにない。

 伝説、伝承や法律の日本語との対訳など。

 それらをコツコツと作成するだけで数ヶ月は過ぎ去ってしまうだろう。

 魔法による製作は即効性がそれほど無い。だから時間がどうしてもかかってしまう。

 即効性がなければ上位の敵の猛攻には耐えられない。

「もう三十五年も過ぎたか……」

「まだ一週間ほどですよ」

 と、ンフィーレアが言った。

 物思いに耽ると一日が数十年単位で過ぎるような気がする。

「寝て起きて、レアアイテムやレアモンスター探しが殆どだったような……」

 単純作業も広大な世界だからこそ耐えられたところはあるだろう。

 様々なモンスターやイベントがあったし。

 八欲王の時代や十三英雄の居た時代であればもう少し楽しい冒険ができたかもしれない。

 過ぎ去った歴史に干渉しても仕方がないのは分かっている。

 今更弱体化しても遅いだろう。

「ンフィーレア君。今までありがとう」

「うぇ!? ヤントラさん、どうしたんですか!?」

「楽しみが無くて……」

「ま、まあ、人生に張り合いが無くなる事はありますが……。諦めるの早いですよ」

 俯くヤントラの両肩を揉むンフィーレア。

 ここ数日、元気が無いなとは思っていた。そうとう重症なのかもしれない。

「あまり人のせいにしてはかっこ悪い。人の営みはただ黙って見ている方がいいのかもしれない」

 帝国に行って侵略する必要性は無い。

 せいぜい帝国四騎士を強くすることくらいだろうか。

 クレマンティーヌの為に武王を強くすることもあるかもしれない。

 便利なパワーレベリングもかなり強敵が居るからこそ成り立つ。それが居ない世界では強さは虚しいだけだ。

 竜王(ドラゴンロード)以上の敵でも居るならまだしも。

 あと誰を倒せばいいのやら。

 エロ以外の欲が無い。それが一番、致命的かもしれない。

「じゃあ、これから世界征服してこようかな」

「重症ですね、ヤントラさん」

「来年当たり、こういうことがよくある病気の発作になるんだろうな」

「なりそうですねー」

 長い研究において結果が現れないと定期的に全てを投げ出したくなる。

 それはンフィーレアにも経験がある。

 気晴らしは必要だ。だから、定期的に子育てに専念するし、森の中に入って散歩もする。

 村では農作業も手伝う。

 ヤントラも一日いっぱいの睡眠を取るなどして精神的な休息は取った方がいいとンフィーレアは思う。

 日がな一日エロいことばかり考える人ではない。

 モンスター退治も気晴らしの一環かもしれない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 次の日に地上の農作業の様子を眺め、ヤントラも何か育てようかと考える。

 花弁人(アルラウネ)はしばらくは枯れそうにないので放っておいても大丈夫だろう。

 備蓄用の食糧も蓄えられているのだが、飲食不要のアイテムを使うと何の為に集めていたのか分からなくなる。

 月で育てる用だと後になって思い出す。

 全ての献体に都合のいいアイテムを使うと文化が育たなくなる。

 程よい不便さは必要だろう。

 空を飛ぶ鷲獅子(グリフォン)の存在をすっかり忘れていた。

 手に入れたあとのことはかなりおろそかになっている。

「……元々、ここまで管理したこと無いからな……」

 王国では色々と制限があり、帝国側に拠点を作る方がいいのだろうか。

 悩みどころだが、軍事国家も秘密が多いだろう。

 外を歩けば勝手にモンスターが襲ってくる、そんな世界ならまだ退屈しなくて済んだ、と言えるのかは分からないけれど。

 武器を持った戦士にとって平和は強敵だ。

 モンスター退治以外で何が出来るのだろうか。

 考えても仕方のないことは諦めて素材の用意を整える方がいいだろう。

 どこに置いておくのか分からなくなるので『万魔殿(パンデモニウム)』用は大型倉庫にも置こうと思った。

 床材のタイルはどれも小さいのだが敷き詰めれば綺麗な幾何学模様となる。

 既に建設は再開されているし、今更止めるのはンフィーレアが泣くだろう。

 アインズによる解呪の実験も行(おこな)われ、どういう風に瓦解するのかンフィーレアは色々と資料をまとめてくれた。

 解呪されてもすぐに復帰できればいい。

 魔導国に作る予定の空中宝物庫は専用の空き地が作られ、その上空に浮かべられることになっている。

 さすがにナザリック地下大墳墓の直上では都合が悪いだろう。

 落下の影響も考えて二十メートル程度の大きさが予定されている。

 百メートル規模だと落下が怖い。それはナザリック勢であっても。

 下火月(九月)に入る頃には多くの金属板が揃えられる。というより建国したはずの魔導国は法律の制定に時間がかかっているようだ。

 エ・ランテルから市民の意見を吸い上げてアインズ・ウール・ゴウン魔導国で検討が行(おこな)われる。

 ある程度の法律は王国と帝国を参考にしているようだ。ただ、最も重要な魔導国ならではの法律に関しては未だに発布されていない。

 よい国を作るためとして国王が市民に猶予を求めたからだ。

 法律を自分たちで作った事が無いのだから仕方がない。

 意見の取りまとめは簡単な仕事ではない。

 そんな未完成な部分のあるアインズ・ウール・ゴウン魔導国にヤントラは入国する。

 草原にログハウスだけしかなかった寂しく、また自然豊かな場所は都市国家としての形を形成しつつある。

 下水施設は既に完成し、店や住居、必要な施設などがいくつか作られている。

 他の都市では未完成が多かった道路はほぼ完璧に舗装が施されている。

 アンデッド兵による巡回。

 帝国や王国から招いた人間の住人たち。

 亜人や異形も通りを歩いている。

 建国宣言からだいぶ経つが良くない噂というのは意外と聞かれず、エ・ランテルも人の流出以外は殺戮などの血生臭いことは聞かれない。

 物資の搬入があるくらいで大きな動きは無いらしい。

 中心部はナザリック地下大墳墓の霊廟のような建築物が建っていて周りを建物が取り囲んだ状態だ。

 城などの居城ではないので首都としては異様だろう。

 アンデッドの国王の住処としては相応しいかもしれない。

 外交をする上でログハウスでは格好がつかないので新たに魔導国に相応しい建物が作られる。

 ナザリック地下大墳墓から入るのは敵だけで通常は一般人に入れられるような施設ではない。

 十層からなる階層は敵の迎撃のためのトラップが満載だ。だから、そこに普通は入れたりしない。

 

 ヤントラは空中建築の予定地に向かった。

 現場は空き地となっていて柵で仕切られていた。

 資材搬入は転移の方が楽なのだが、その辺りを相談するのを忘れていた。

 アンデッド兵が一人立っている程度で作業に支障がありそうな雰囲気は無さそうだった。

 建設予定の形は立方体。

 単純な造形から作られることになった。

 壁に金属板を使うと太陽の光りを辺りに反射させてしまうおそれがあるので壁材は漆喰(しっくい)などを塗る予定だ。

 大理石なども見ごたえがあるだろうけれど。

 アンデッド兵に手で合図を送り、空き地に入る。

 中心部から周りを見たり、飛行(フライ)により辺りの被害などを想像する。

 それらの情報を羊皮紙に書いていく。

「……みんなが居ないと寂しいな……」

 孤独には慣れていると自負していたが、それは甘かったようだ。

 少なくとも誰かは居た。

 正直に言えば自分より強い存在が居てくれた方がいい。

 強者と言う立場はモンスター相手なら有用だが、それ以外には大して意味が無い。

 たっち・みーとは言わない。

 ザリチェでもいい。

 せめて二人くらい。

 ユグドラシルの知り合いが欲しかった。

「無いものねだりするくらい寂しくなってきた」

 こういう時は街に破壊魔法を叩き込んで火の海にするところだ。

「……うっかり攻撃魔法を使うところだった……」

 『魔法の矢(マジック・アロー)』程度だけど。

 漆喰より石壁がいいか。

 通気性はよくしたいし、手直しがしやすい方がいいだろう。

 結局は専門職に意見を貰うのが早い。

 独り言を呟くようになったら休息が必要な合図ではないだろうか。

 ひとまず用意できている物資の搬入からだ。

 そういえば位置的にどの辺りになるんだろうか。

 予定地が他にもあるとは聞いていないけれど、この場所しか空いていなかったのか、対称となる位置にも空き地があるのか。

 確かめに行ってみると空き地はあるにはあったが柵は無いし、他の建築用資材が置かれているので無関係そうだった。

 『マグヌム・オプス』から魔導国まで馬車移動だと数日かかるほどの距離がある。

 他国と戦争するのも大変だ。

 まずは帰宅し、リイジーや農園の様子を眺めておく。

 七の宝物庫の地下一階ではメイド達がお弁当を食べていた。

 敷き布団から椅子とテーブルに変更したが飲み食いできる施設ではないので色々と不都合が無いか心配になる。

 今日の監督はナーベラルのようだが罰は済んでいるので縛られてはいない。

「つまらない時は何かを作っている方がいいんだろうな」

「あっ、バスパ様~」

「魔導国に資材を搬入したい場合は転移で構わないのか?」

 ナーベラルは虚空から羊皮紙を取り出して文章を眺める。

「予定地の空き地の近辺なら構わない、とのことだ」

「そこには何か意味があるのか?」

「……特に何も言われていない」

 適当ということか。

「どんな役割で使うのか、決まっていたりするか?」

 役割次第では内装も変えた方が良くなる。

 トイレや風呂に使うには不便だ。

 植物園として配置すると根が建物を侵食するだろう。

 美術館としてもあまり外部からの攻撃には強いとはいえない。

 恒久的な防御はそれほど得意ではない。

「象徴的なものであれば中身は後で……、う~む。おそらく、完成した後でこちら側で決めていくのだろう」

「都市の中に浮かべるのに倉庫は無いな……。せいぜい展望室だ。なら、窓も居るだろう」

「窓無しだとどうなる?」

「暗い個室が浮かぶだけだな……。メイド達に監視は……無理そうだな」

 転移が出来ないし、食事処が無い。

 扉の開閉に少し難儀する程度かもしれない。

「……転移できないから」

「……下から登るのが大変だったり、落下のことでは?」

 と、メイド達がそれぞれ小声で話し始める。

「実際に羊皮紙などをあちこちに置いて風圧実験をしてみるとしよう」

「了解した」

「……後は……、そちらで色々と決めてくれ」

「分かった」

「メイド達はいつも通りかな。連絡が来ないから飛ばされたりすると気づかないことがある。点呼で行方不明者が居るなら早めに教えてね」

「大丈夫です」

「分かりました~」

「ナーベラルは地上に出られるなら農作業の邪魔さえしなければ別に見学していっても構わないぞ」

 メイド達の監督の仕事が終わらないうちは勝手なことはしないだろう。

 持っていく資材の準備を始めなければいけない。

 窓が要るなら容器で作った窓の出番だ。

 保管している資材で出来るのは大雑把な概観と床一面程度だろうか。

 さっそく転移、と言いたいところだが転移役のメイドをまず現場まで案内しないといけない。

 転移魔法は都合がいいけれど現場の様子を知っておかなければならない。

 他の星に急に行けたりはしない。

 上位の転移魔法ともなれば現場を『水晶の画面(クリスタル・モニター)』で見ておけば簡単に行けてしまう。

 まずは資材の搬入から始める。

 後は足場作りだ。

 それほど広くは無いので四角く描くような螺旋階段を作る。

 落下防止に手すりや複数の棒で檻のような壁を形成していく。

 足場だけでも実際は結構な出費だ。永続化(パーマネンシー)という魔法を建築で使うのは贅沢だろう。

 一つ金貨二枚なら余程の金持ちでもないかぎりやりたがらないだろう。

 足場だけで破産する可能性だってある。

 実際は経費削減で『飛行(フライ)』などを駆使するのかもしれない。

 まずは三十メートル付近まで階段を築き、二十メートル四方の金属板の床を並べていく。

 水平かどうかはメイド達に任せる。

 それらが終われば仮設のテントを作り、資材を運び込む。それで最初の仕事は終了だ。

 階段などに使われる金属は解呪しないと奪えないが現場近くに待機しているアンデッド兵が昼夜問わずに警備しているので地上からの盗難は無いだろう。

 ただの立方体だと強度の関係から潰れ易くなるので補強は必須。

 どんな壁も中心部分が弱いので骨組みをしっかり組まないといけない。

 魔法による風の魔法でもない限り自然の天候による突風などには強いはずだが、周りはどうなるのか。

 空中の建物に強い風を当てると地上への影響についてはアインズがなんとかするだろう。

 風や雨水を吸い取るような器用な真似は出来ない。

 雪が降り積もり、氷柱が出来て地上へ落下。

 これも対策を考え貰おう。

 ヤントラは注意点に気付くたびに羊皮紙に書き込んでいく。

 せっかく作ったのに配水管が地上まで延びたマヌケな姿では可哀相だし、かといってダラダラ地上に零れ落ちるのは不味いだろう。

 地上に噴水とか池を作る方が見栄えも少しは改善されるかもしれない。

 『万魔殿(パンデモニウム)』は海上にあるので気にしなかったけれど。

 完全な密閉空間では転移に支障が出るかもしれない。

 密になった空間に無理矢理物体を押し込めるかもしれないのだから空気の循環装置は必要だろう。

 次の日には扉も持ち込んでおく。

 循環装置はンフィーレアに案として考えもらうことにした。都合が良い事にリイジーも居る。

 扉はモンスターの方が安心できそうな気もする。

 床とか擬態するモンスターもナザリックには居るので、こちらを使った方が安全なのではないだろうか。強度に問題があるけど。

 モンスターに頼るのも心許ないが、作業は進める。

 床はまだ一枚なのでとても薄い。

 厚さを一メートルほどにするので棒などを駆使し空間を作って行く。

 底は別の板や壁を貼り付けていくから問題なし。

 四季のある世界なので湿気や寒暖の激しさにも対応しなければならない。

 フェルトの失敗作などを断熱材として敷き詰めていく。

 床下収納も出来るようにしておく。

 窓も用意したが床下にははめ込まないことにした。あと、天井も。

 夏は蒸し暑く、冬は極寒、とならないように無い知恵を絞りつつ製作していく。

 トイレと風呂は要らないだろう。念のために専用の部屋くらいは確保しておこうと思った。

 淡々とメイドと共に作業を始める。同時に外は蜘蛛女(アラクネ)型によって丸く建物を覆ってもらう。

 落下物や風雨対策として。

「……六面を竜(ドラゴン)の鱗で覆うか」

 白竜(ホワイトドラゴン)が居ないけれど覆うだけの数は揃っている。

 いざとなれば人蛇(ラミア)や蝮の女(エキドナ)の鱗も使えばいいだけだ。

 扉の位置で思い出したが東西南北にこだわりとかあるのだろうか。

 指定は無いようだから適当でいいか、などと思いつつ作業を進める。

 ほぼ立方体で構成される予定だが、ハリボテでいいならもっと簡単に出来上がる。

 簡単なつくりだとすぐ強風で吹き飛ばされるだろう。

 二日目を終えて施設に戻る。

 金貨は一階層分を用意しているがあまり減ったようには見えない。

 三日目は休日に当ててラキュースのところで惰眠を貪る。

 事務仕事が多く、厄介なモンスターの出現や凶悪な犯罪組織の暗躍も無い。

 治安維持が重労働という程度だ。

 戦争が無ければ貴族の収入は意外と入るものだ。

 余計な出費をしなければ、それほど国は荒れないのではないかと思うほどだ。

 『マグヌム・オプス』はまだ少し税が免除されるのだがイビルアイが資金を管理しているはずなのに報告が入ってこない。

 忘れているのか、研究に夢中なのか。

 無駄遣いはしないだろうけれど、このところ何をしているのか分からない時がある、とラキュースは思う。

 一緒に活動する事は少なくなってしまったのが原因かもしれない。

 ヤントラの様子を見る限り、施設でイビルアイが不測の事態に陥っているとは考えにくい。

 気になるなら直接本人に聞けばいいんだろう。それは自分でも分かっている。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ヤントラが魔導国に行った後でラキュースは子供達を連れて『マグヌム・オプス』に向かった。

 馬車移動では一日近くかかる距離にある。

 そこからカルネ村へは『こっそり転移』と呼ばれる方法で向かう。

 長距離を子供を連れて移動するのは精神的にも肉体的にも大変だからだ。

 現場に着いたのは二日目の朝。ちゃんと子供達にご飯を食べさせなければならないのでエ・レエブルでしっかり食事を取った。

 施設に到着し、リイジーの店に子供達を一旦預けておく。

 六の宝物庫から入るとイビルアイが様々な媒介物質を眺めていた。

「来たのか」

「イビルアイ、ちょっといいかしら?」

「構わないぞ」

 イビルアイはラキュースに椅子を勧めた。

「最近、報告が来ないから心配になってきちゃった」

「おっ? そうだったか。特に報告するような事は無かったのでな」

 とんでもないモンスターの実験は目撃したが、とは言わなかった。

「ちゃんと資金の管理はしているのよね?」

「もちろんだ。城への報告もちゃんとしているぞ」

「……それならいいわ」

 ラキュースに税金に関する報告義務は無く、エ・レエブルにするのが筋だ。

「極端な浪費は無いのだが、宿泊施設を作ろうか迷っているようだ。利便性が無さそうだから諦めて貰った。収入についてご主人も考えてはいるようだ」

 王都とエ・レエブルの中間地点にあるし、それほど距離は離れておらず、見所は施設くらいしかない。

 こんな物騒なところに寝泊りする冒険者が居るとも思えない。

 エ・ランテルとの中間地点なら利便性がある可能性が高い。

 村々の農場が広がっていて邪魔になるかもしれないけれど。

「モンスターの研究所でも作れば収入が得られるかもしれないな」

「あるいは帝国のような魔法の研究施設。孤児院とか教育施設とか」

「……ここは子供達には相応しくない施設だ……」

「……そうね……」

 大人としては子供達には健全な教育を受けてもらいたいと思うものだ。だが、ここは不健全の権化。

 地上の農園での作業ならば問題は無いだろうが地下はとってもおぞましい。

「外敵の排除ばかり考えていないで魔法や武具などの研究施設に王国は少し金を出すべきだな」

「偉そうに命令するのが貴族の仕事ですもの」

 国の防衛についてヤントラも肯定している。

 帝国との戦争ではなく自衛の為の武力は犯罪抑止という観点からも有効だ。

 まだスレイン法国という潜在的な敵が残っている。

 クレマンティーヌの説明では様々な国に諜報員を向かわせ、時には要人暗殺も行(おこな)うらしい。

 公(おおやけ)には存在しない事になっている『六色聖典』という秘密部隊が各地に向かっているとか。

 ヤントラが撃破した『陽光聖典』の隊長格は殺していないので王国に幽閉されている筈だ。処刑されていなければ。

 最強と名高い、秘密部隊『漆黒聖典』は意外と冒険者の間では知られた部隊らしい。

 どうして広まっているのかはクレマンティーヌにも分からないとか。

「地下は羊皮紙から羊毛採取に切り替わっている。容器類を除けばそれほど気持ち悪い事は無い」

 イビルアイは『飛行(フライ)』で五の宝物庫を突破できるので入室は許可されている。

 ンフィーレアの場合は金貨に埋まるかもしれないので入室はできない事になっている。

「事務仕事が多くて色々と心配事が出来てしまったみたいね」

「私は基本的にはここと城のどちらかに居る。たまにご主人とフィア殿と知らないところに行く事はあるが……。短期間で戻る」

 砂漠地帯や薄暗い森の中。

 報告するほどの発見と言うのは花弁人(アルラウネ)くらいだろうか。

 ルリマリスが森の中では元気になる事も伝えた。

「森妖精(エルフ)は森の中が落ち着くのだろう」

「意外な発見なのかしら」

 資金管理については今まで通りイビルアイに任せても大丈夫そうだった。

 極端な出費計画も無さそうで安心した。

 新たな建物については必要であれば作ってもいいのだが、立地条件が悪い。

 離れた場所に今更施設を移せないし、ヤントラも移そうとは思っていないようだ。

 施設ごと転移させる魔法でもあれば話しは変わるだろう。そんな魔法はさすがに無いらしい。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ラキュースの不安が解消される頃には魔導国の工事も終盤に差し掛かっていた。

 メイド達を駆使しているので作業が早い。

 現地の職人を招いて補強の抜けを補う。

 基礎的な部分は短時間で出来るけれど、しっかりした部分は熟練の職人に任せた方がいいだろう。

 ンフィーレアに依頼した空気の循環装置も設置していく。

 日光の反射を考慮した外壁、オマケ程度ではあるけれど大量の竜(ドラゴン)の鱗の各色を用意した。

 窓は特製の分厚い積層構造。ハメ殺しタイプなので日差しの強い日は遮光素材で塞げるようにする。

 中には補強用の柱を何本か設置している程度で階層にするかは未定になっている。

 重量は中を金貨で半分ほど埋めても落ちない程度は支えられる。

 立方体だけど横に倒したり、引っくり返したりするようには設計されていない。

 トイレなどを設置して引っくり返せば酷いことになるだろう。

 数日後にはユリ・アルファが現場監督として訪れ、内装についての指令書を読み上げる。

「……国王自ら確認しなくていいのか?」

「おそらく後で視察されるかと」

 室内はだいぶ出来上がっていた。

 壁の中に断熱材を入れて石壁にしようか、木材にしようか思案中だった。

「中は後でアウラ様に見てもらい、壁などはこちらで手配する、とのことでございます」

「空気の循環は大事だから、あちこちにある配管は取らない方がいい。圧力で軋むかもしれないからな」

「はい」

 侵入するには身体の小さなネズミ型のモンスターでも使わないと無理。

 盗聴防止などは魔導国に任せようと思った。

 完璧な立方体にするのは簡単だが、排水とか考慮しないで作ると後悔する。

 見栄えも大事だが安全も大事だ。

 都合のいい魔法があるなら、テメーでやれ、と言いたくなった。しかし、今回はアインズからこと細かい指示は受けていないので改造は任せることにした。

 アインズだからといって手抜き工事はしない。手抜きっぽく見えてしまったら素直に謝る気持ちはある。

「扉は付けておくが……。後は個人的に変えるといい」

 最終的には足場や階段は撤去することになっている。

 早めに室内に入る手段を確立させた方がいいと伝えておいた。

 竜(ドラゴン)の鱗が気に入らないなら魔導国が好きに装飾すればいい。

 雨水が溜まらないようにしたり、雪や氷柱の落下防止も検討されていく。

 立方体の弱点として上にものが溜まり易い。適度な掃除は必要だ。

 正八面体といえど雪質によっては積もる時は積もる。

 雨漏りの実験もしなければならない。

 作ってお仕舞いだとユリは思っていたようだが、アウラ達は建物を作っているので色々と納得する事があったようだ。

 自然乾燥の都合で完成するのは一週間後だという。もちろん、実験込みで。

 本来なら一ヶ月以上はかかる。だが、まず前提として基礎作りが無いのとメイド達の人海戦術で工期が短く済んでいる。

 今回雇った職人の手当は金貨十枚程度。

 現地の職人の仕事は殆ど無かったのだから仕方ない。

「金貨十枚……ですか?」

「あまり工事に参加しなかったからね。材料はこちら持ちだし」

 実際の建設費用は数万枚ではないだろうか。もちろん現地通貨で。

 どうせ、払う気は無いだろう。女体モンスターも期待できそうに無い。

 せっかく協力してくれたリイジーとンフィーレアに外観や内部は公開しておいた。

 二人はとても興味深げに喜んでいた。

 もっと機能的な形にしたい意欲がリイジーに芽生えたが依頼人が立方体を望んでいるので仕方が無い。

 さすがに球体はヤントラも作れそうに無かった。微妙な曲線の設計は意外と難しいものだ。

 完成式典があるならばンフィーレアにヤントラの代理として出席してもらう。

 設計などの細かい部分はバレアレ家に一任しているので権利はある。

 

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