※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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M-3 チームを組む理由

 内装を除いて外観が完成する頃にはヤントラは『万魔殿(パンデモニウム)』の製作の準備を整えていた。

 シリカとフェルトもだいぶ溜まってきたので。

 床一面を作るだけでも相当な時間がかかっていたが、骨組みは今年中には完成させたい。

 『懸架(サスペンション)』による床は人海戦術でも遅々として進まないほどの規模だ。

 シズから成層圏までは五十キロメートルと教えられているので、無闇に高い位置に行かなくて良かったと少しだけ安心した。

 キロメートルとメートルを間違えそうになった。

 適度に貼られたロープが最大の長さになっているので、それを目標にひたすら床板を並べ続ける。

 階層構造だが階段などは後回しだ。

 測量に関してはメイド達に既に行(おこな)わせているので大体は終わっている。

 指定された地点に棒を立てて柱を設置する目印とする。

 材料を一度に用意できないのが難点だ。

 所々に断熱効果のある素材を挟み込んだりしなければならないし、外が真空である事も想定しなければならない。

 空気の入れ替えも考えなければならない。

 大雑把な区画整理や階段予定地点。

 中心となる位置の確保などを決めていく。

 全体的な形はロープによって出来ているので、それを基準に考えて設置していけばいいようになっている。

 作りつつも月に逃げるようなマネはもはやする必要も意味も無い気がしてきた。

 大々的にエロい実験をする施設だと思えば利用価値がありそうに思われるが、つまらない冒険が続いたので何も考えずに日々を暮らす事も考えていた。

 惰眠を貪るダメ人間。

 子供達の印象は確実に悪くなるだろう。

 立派な人間に今更なれるわけもない。

 作るだけ作って、少しずつ将来のことを考えればいいだろう。

 外壁の一面の工事も始める。

 骨組みを組み上げていくのだが、大きな面は強度的に弱い。

 適度に支えが必要だ。その部分はオリハルコン以上に強固な金属が必要だろう。

 大きな城を建設する技術なども勉強しているのだが自重に負けない造りは難しい。

 膨大な資源と魔法使用回数が必要なのだが、一筋縄ではいかないようだ。

 一番広い床をとにかく並べ終えて、上下二段分の床も今回は並べ終える予定だ。

 外部は正三角形で内部では正方形になる。

 外と内で手が入らない細かいな場所も出てくるだろうから縁(ふち)部分は特に慎重に進めなければならない。

 角は個室の予定だが蒸し風呂にならないように窓と遮光の蓋等も忘れないようにしなければならない。

 床下は空間を確保し、断熱や空気と水などの循環装置も設置していく。

 配管設備も職人に任せたいところだが、ここは素直にメイド達に頑張ってもらう。

 地上で作れるものは近くの都市の職人に任せる。

 一通りの作業を終えて施設に戻る頃には日は暮れていた。

 メイド達も引き上げさせて七の宝物庫の地下一階に布団を敷き詰め、寝かせる。

 普段はすぐ処分してきた人材も少しは大切に扱わなければならないだろう。

 魔導国に浮遊する建築物を収めて、気がつけば半月は過ぎている。

 淡々とした作業なので口数も減ってしまう。

 魔導国の建物はさすがに杭(くい)を一本抜いたら瓦解するような事は無いと思うけれど、少し心配だ。

 ちゃんと建物として使えるのかどうか、使ってみなければ分からない。

 メイド以外は誰もいないような施設を一通り点検して地上の宿泊施設に向かう。

 明日、せっかく作った場所が竜(ドラゴン)や飛竜(ワイバーン)に荒らされていない事を祈りつつ眠りにつく。

 

 便利なアイテムのせいで睡眠がおろそかになりがちだが、ちゃんと眠って食事と体操は心がけなければならない。

 風呂の湯を沸かして『永続光(コンティニュアル・ライト)』の確認作業を終える頃には一般メイド達が訪れる。

 朝のメンバーに風呂掃除を頼み、自分の食事を作る。

 この施設で育てた野菜を使った料理だ。

 寝ているメイド達のお世話も頼んでおこう。

 羊皮紙生産に従事していたメイド達は随分と汚くなっている気がするので晩のメンバーにお世話を頼むことにした。

 そういえば石鹸類も用意しなければいけなかった。というより、フェルトの圧縮作業はナザリックに任せたんだったか。

 ヤントラは様々な羊皮紙を確認していく。

 指令書や計画書。設計図も書き残すことにしている。

 用意するものが多いと混乱してくる。特に他人に任せたものは。

 メイド達が来た時に尋ねて、確認後は資材確認。

 冒険者としての仕事を一切しなくなっている現状に脱力感というか無力感というか。

 治安の良い国だからモンスターの出現頻度が少ないのかなと。

 スレイン法国は亜人狩りをしているようだから仕事は多いだろう。あと、森妖精(エルフ)の国と戦争しているようだし。

 帝国は王国以外にもアンデッドなどの問題があるから仕事自体はあるのだろう。

 例年なら既に戦争準備段階をしている頃だ。だが、今はカッツェ平野を魔導国に譲渡することになっているので、この地域での戦争は起こせない。

 竜王国とは同盟関係だし、反対側の地域に兵を送るのが次なる目標だろうか。

 その日の午後にはナザリックから出来上がったフェルトを紐で縛った程度のものをメイド達が運び込む。

 箱だと通るのに大変だから、という理由でロープなどで縛ることを許可した。

 第四階層にて専用の浴槽を設置し、シモベが作業に当たる。

 ほぼ誰も利用しないので見回りと兼用で使用が許されている。

 乾燥は第七階層で時間を短縮する。

 大量に必要なので地上ではンフィーレア監修で水辺の近くに拠点を作り、メイドによる召喚魔法を駆使しながらフェルト作りが行(おこな)われている。

 洗浄した羊毛を石鹸水に浸し、土精霊(アース・エレメンタル)などの重いモンスターで圧縮する。

 石鹸水を使うことで強い結びつきが生まれるのだとか。

 水質汚染対策もしっかり整えられている。

 ずっとンフィーレアが見ているわけには行かないので最初だけだが。

 完成したものは施設の方で確認作業が行(おこな)われる。

 充分な圧力をかけるので消えない黒い仔山羊の方が適任だ。

 大量に復活させるわけには行かないので一体だけで我慢しておく。

 一体だけでは非効率的なのだが仕方が無い。

 本来はそのために復活させる予定だった。イビルアイの怯えなどを見ているうちに忘れてしまっていた。

 申し分の無い重さを持っているし、知能もあるのでンフィーレアの命令も聞いてくれる。

 竜(ドラゴン)は竜(ドラゴン)で目立つ。どの道、巨大モンスターを使うのだから警戒されるのは仕方が無いだろう。

「言うことをちゃんと聞くモンスターって……、可愛いですよね」

「はぁ!?」

 あからさまにイビルアイは難色を示した。

「ま、まあ私が召喚者の立場ならっ! 可愛いと思えたかも知れない。だが! ……心の傷は深い……」

「凄惨な現場を見た方の気持ちは僕には分からないかもしれません。ですが、戦争で利用するようなモンスターを平和利用するのは間違っていないかもしれませんよ」

「……う、うむ……。フィア殿はなかなかに肝が据わっていてびっくりするぞ。もう、尊敬に値する」

「ありがとうございます」

「フィア殿ならやましい……、なんと言えばいいのか。正しく使ってくれそうだ」

「迂闊な命令も聞くらしいので気を付けますよ。……あれはさすがにカルネ村には置けませんね」

 飲食不要のモンスターだとしても。

 まず旅人などが寄り付かなくなるだろう。

 あと、柵よりも高い身体なので遠目からでも目立つ。

「国よりも世界から狙われる村になっては困るな」

「面白い村として有名になるかもしれませんね」

 いずれは『バレアレモンスター園』とか名前が付くかもしれない。

「悪い方のな」

 蜘蛛女(アラクネ)・戦乙女(ワルキューレ)が居るだけでも一般冒険者に驚かれる。

 その上で巨大モンスターまで現れればカルネ村とはどんな村なのだろうか、とか。

 王国は他の国々から恐れられるか、面白い国として有名になるのか。

 不安と期待が入り混じる。

 ラナー王女ならおぞましいモンスターもペットとして飼うのではと納得されてしまうかもしれない。

 ありえそうで怖い。

「元もとの召喚モンスターは命令がなければ人を踏み潰したりはしないそうですよ」

「それはそうなんだがな……。数万人を蹴散らす姿は凄かったぞ」

 形が残っていない死体の道。

 大部分は蘇生させられたとはいえ、戦争は互いに大きな傷を残したようだ。

 帝国側も多くの騎士達が退役願いを出したと聞いている。

「怨恨ならばまだ納得できそうだが……。魔法の試し撃ちにしては殺しすぎだ」

「僕は人殺しの為に研究はしていませんよ」

「お、おお。すまない。物騒な事ばかりで。フィア殿は冒険者の命を守る仕事をしているんだったな」

 ポーション作りにおいてヤントラの持っていたアイテムは未知の部分が多い。

 本人も作り方は知らないようなので仕方が無い。

 新たに手に入れた薬草類は毒草ばかり。麻薬加工のできそうなものも多く、難儀している。

 物騒な草ほど危険地帯で生き延びてきたとも言える。

 迂闊にモンスターに食べられたりしないし。

 大浴場に居る花弁人(アルラウネ)達は水滴だけで生きているわけではなく、定期的に土の入れ替え作業を行(おこな)っている。

 暴れるだろうからメイド達に取り押さえてもらい、植木鉢から外す。

 定期的に行(おこな)うようにしているので今は少し従順になっている。

 土といっても適当ではダメで地域ごとの好みがあるようだ。

 慣れ親しんだ故郷の土はもちろん拒否しない。

 ヤントラが土を採取していた理由はただの採集癖ではない事は分かった。

 植物を育てる上で適した土質というものを考えてのことだった。

 それを踏まえて花弁人(アルラウネ)の好みに合う栄養価の高い鉱石などを混ぜるのだが、意思疎通ができればモンスターに確認させたかった。だからこそ森精霊(ドライアード)を探していたのだろう。

 モンスターを探さずとも森祭司(ドルイド)の魔法に植物と意思疎通が出来るものがあったはずだ。

 メイド達に尋ねると吟遊詩人(バード)や野伏(レンジャー)も扱えると答えてきた。

 メイド達は全ての魔法を扱えない代わりに書物に記された魔法の知識は与えられているらしい。

 定型分的な答え方しか返さないが知りたいことだけ答えてくれる所は意外と重宝する。

 全てのメイドが仕事に従事しているわけではなく、待機しているメイドも居る。こちらのメイドは受け答え用、とも言える。

 隠し部屋に居るのだが、ンフィーレアの助手としての待遇も検討されている。

 本来なら複製ではない人間が良いのだが、その辺りの判断はンフィーレアに一任されている。

 ナザリックのメイド達は魔法やアイテムには精通しておらず、聞きたい事もほとんど答えてくれない。

 戦闘メイドのナーベラルとルプスレギナ、シズも興味のない事はさっぱり役に立たない。

「はっはっは。ンフィーちゃん。私らは記憶力には自身があるっすけど百科事典のようなことは出来ないっすよ」

 後日、珍しく監督役として訪れたルプスレギナは言った。他にもナーベラルとシズの姿もある。

 ユリ以外の五人が施設に来ていた。

「……聞きたいことを尋ねるのは不思議ではないし、それに応えるのもメイドの仕事としては普通」

「人間である事を抜きにすれば知識を持つ者に尋ねることはどんな種族でも変わらないのでは?」

「戦闘メイドは戦って役に立つ存在だと思うって話しっす」

「戦闘メイドに質問する人間はぁ、殆ど居ないからぁ。ナザリックぅでもぉ、私達に尋ねてくる者はぁ居なかったよねぇ」

「居ないというか……、質問できそうなシモベが一般メイドくらいではないかと」

 たまたま五人の仕事が空いた、というだけで五人とも監督役として訪れた。

 ルプスレギナ以外はただの見物目的のようだが。

 戦闘メイドは一般メイドと違って人間を恐れない。なので地上に出ることも人間と会話することも問題にしない。

「話しは変わるのだが、件(くだん)の『万魔殿(パンデモニウム)』の製作状況はどうなっている?」

「少しずつ進んでいるのではないかと。用意した資材を持っていっているようなので」

 気圧の関係でンフィーレアは立ち会えていない。

 無理に行く事は可能だが、作業はおそらくまだ手伝えないだろう。せいぜい地上で材料製作だ。

「よくよく考えると大気圏に突入しないで転移で移動すればいいのでは?」

「……それをアインズ様に尋ねたら夢が無いとおっしゃられた」

 ルプスレギナの言葉は真理を突いている。

 だが、問題は巨大な施設を丸ごと転移出来るのか、というものだ。

 まだ『万魔殿(パンデモニウム)』は完成していない。

 家を丸ごと転移させるのは得策ではないらしい。

 地面にしっかり杭を打ち込んだ家や城は転移自体、出来ないはずだ。

 特に『マグヌム・オプス』は地面を掘りぬいて製作されている。

「バカな発想だけど有効だと思うわ」

「転移先をはっきりとイメージ出来ないとぉ、転移はできないはずですよぉ」

「地面に触れている部分ごととなると地面を削ったりして大変なことになると思うわ」

 ナーベラルは転移魔法が使える。今のところ、自分の魔法で大規模な弊害は確認されていない。

 『転移門(ゲート)』のように大人数の大移動や『上位転移(グレーター・テレポーテーション)』でも施設丸ごとの移動は見たことも聞いた事も無い。

 自分だけ大気の外などに転移してしまうこともあるかもしれない。

 それこそバカな発想による弊害だろう。

「……施設を置き去りにした転移……。バカっすねー」

「大バカよね」

「バーカ、バーカ」

「前提条件として施設丸ごと効果を及ぼせなければなりません。それらしい魔法があるそうですが、前代未聞の大規模な施設ですからね。実験はしないと……」

「偉い。無闇に一か八かで魔法を使うなんて愚か者の所業よ」

「うむ」

 都合のいい魔法の効果はヤントラも首を傾げるものなので実際に実験で確かめる予定になっている。

 効果の説明が今ひとつ理解しにくい魔法というものが多数存在する。

 それらの調査もしたいところだが、使うのを躊躇う危険な魔法もあるので慎重に事を進めている。

 低位の魔法はまだ効果が切れ易いからいいが、高位の魔法は永続的な効果を持つものがあるので解呪などの方法は絶対に不可欠だった。

 宇宙は真空だという。真空の世界で音は鳴らせない、と言われている。

 音声が必要な魔法は使えない事になる。

 どうしても使う場合は大気を確保した兜等をかぶっている必要がある。

 宇宙を移動するのは簡単なことではない。

 呼吸を必要としない種族は様々な制限に引っかからないかもしれない。それでも無謀な事は出来ないし、するべきではない。

 ンフィーレアにとっては行ったことが無い宇宙と言う世界がまだよく分かっていない。

 

 真空。

 

 空気の無い世界。

 

 無重力の世界であれば『懸架(サスペンション)』の魔法は必要ない、気がする。ただ、それは重力のある世界に入り込むと瓦解するおそれがある。

「……宇宙ステーションだけなら『懸架(サスペンション)』は必要ないし、永続化(パーマネンシー)のコストもかからない。……ただし、それらの組み立て作業は宇宙で行(おこな)わなければならない。……どの道、星から出ないことには話しが始まらない」

「シズちゃんが珍しく長台詞を」

「……私も喋る時は喋る」

「月にはやはり『月光の狼(ムーン・ウルフ)』とか居るんすかね?」

「……実際の月には生物は居ない、ことになっている」

 月からモンスターが襲来するようなら世界はもう少し慌しいはずだ。

 天使や悪魔は月ではなく異次元の世界からの襲来者、異邦人のような扱いだ。

 召喚モンスターという魔法に誰も疑問を抱かない。

 都合の良い最適化が行(おこな)われているのかもしれない。

「……新天地といえど星の周りを回る天体。……近づくのも降り立つのも大変」

「下手をすれば激突もあるっすか」

「……姿勢制御は大事」

 小難しい宇宙談義はシズ以外よく分からないようだった。

 未知の分野なのはンフィーレアも分かったのだが、それらを理解するヤントラは改めて凄いと思った。

 飛べば行ける、わけではなく。

 危機意識はちゃんと持っている。作らせている素材の役割も理解しているようだ。

 素材の中で油が必要だということだが、その役割がンフィーレアには分からなかった。

 空気で腐食しないように油で封入するためではないかとシズは言った。

 樹脂で固めたり、空気の漏れを防ぐのも大事だと。

 バカバカしい夢物語ではない。

 現実に可能な方法で宇宙に出ようとしている。

 それもただ行くだけではない。月を人の住める星にする。

 壮大な夢。だが、それを数年で現実に可能としてしまいそうな勢いがある。

 おぞましい、とか。人としての倫理観を持つンフィーレア達がおそれるから急いでいるのかもしれない。

 少なくとも『万魔殿(パンデモニウム)』は邪魔されにくい。

 更にそのまま宇宙に出てしまえば誰にも文句は言われない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 メイドがメイドにお世話される施設と化している『マグヌム・オプス』の備蓄倉庫からいくつかの食料を持ち出し、様々な料理に興じるヤントラ。

 溜める一方では宿舎などがいっぱいになってしまう。

 大抵の作物は育てられることに問題はなく、必要な数の種となる作物は確保できた。

 好き嫌いの都合で集めそこなったものもある。そちらはエンリ達に任せているので必要数は別に用意されているだろう。

 無心に行動。

 雑念を取り払ったような状態で日々を過ごすと悩み事がどうでもよくなる。

 悟りの境地だろうか。

 意味も無く壁に頭を打ちつけたり、街を散策しながら首を掻っ切ったり。

 血まみれ要素が多かった日々が懐かしい。

 フェルト製作の為に用意した黒い仔山羊のこともうっすら忘れそうになる。

 料理は出来ても味の向上は今ひとつ。庶民的と言えば充分なのかもしれない。

 贅沢を言わなければ。

 貴族の料理としては落第点のような気がする。

 先駆者(パイオニア)なのに、と小首を傾げる事態だ。

 定期的にラキュースと過ごしていても夫婦としての生活に限界は感じている。

 元々がまったく異質な存在だ。相容れないはずだ。

 それでも構わないという原住民の心の広さに感謝すら覚える。

 もう少し寛容になるべきなのか。アインズのように完全によそ者は切り捨てるべきなのか。

 便利な魔法は都合のいい時は発動しないものだ。

 ある日には屠殺場に巨大な地図を掲げて様々な地点を眺める。

 めぼしい遺跡はいくつか見つけているけれど深そうなダンジョンが見当たらない。というか高レベルモンスターが居るところが見つからない、とも言える。

 砂漠地帯を南下した辺りには東洋系の都市があるらしい。刀に代表される武具も作られているとか。

 人の往来は危険が伴う。なかなか往復するような状態にはならないようだ。

 屈強な冒険者でもない限り。

 近場での探索には限界がある。もっと遠くも行ってみたい。

 月は遠すぎるけど。

 贅沢を言わずに中位程度のモンスターでも居そうなダンジョンに潜ってみる必要があるだろう。

 トブの大森林に小鬼(ゴブリン)が根城にしている洞窟がある事は分かっている。

 さすがに平原にあるのはナザリック以外では見当たらない。

 野盗が作り上げたところは問題外。

 近場よりはかなり離れた地域の方が期待が持てる。

 問題なのは鉱山と区別がしにくいところだ。

 獣人(ビーストマン)辺りに狙いを絞ろうか。

 バハルス帝国の近くには飛竜(ワイバーン)を使役する部族が住んでいるらしい。

 山間部では飛竜(ワイバーン)は珍しくない、ということだろうか。

 鷲獅子(グリフォン)が居るくらいだ。飛翔系もそれなりに居るだろう。

 妖精とか精霊とか。

「……どこで間違えたんだろうか……」

 ひっそりとナザリックの第九階層で永眠していれば良かったのか。

 でも、王国が褒賞を与えるからと言っていたような気がする。

 身も蓋も無いけれど、この世界に来たくて来たわけではない。

 複製が無くとも便利な魔法の実験は暇になればやっていたかもしれない。

 あと、他のプレイヤーが全然居ないのもつまらない。

 居たら居たで殺し合いにしかならない気もする。

 森妖精(エルフ)と闇妖精(ダークエルフ)の二人以外、知り合いはナザリック勢しか居ない。

 もう少し友人の幅を広げるべきだっただろうか。

 控えているメイド達に地図の片づけを頼み、アイテム類の確認を行(おこな)う。

 居ない者は仕方が無い。

 考えがまとまらない時は冒険者の仕事だ。

 数日かけて各都市の依頼書を確認しておく。

 護衛任務が多い。

 凶悪なモンスターの出現が無い。

 険しい山での探索というのもあった。

 そもそもチームを組む冒険者はどういう出会いがあったのだろうか。

 ソロで完結しているヤントラには集団の気持ちが分からない。

 仕事の前にギルドで日常の話しをしているチームなどに声をかけていく。

 攻撃してきたら殺すだけだ。と、うっかり豚鬼(オーク)のような対応をとりそうになる。

 ギルドの中で挨拶して襲ってくるのはナーベくらいだろう。

「チームを組む理由かい?」

 十年ほど冒険者として活躍してきたような屈強そうな顔立ちの男性が言った。

 プレートはヤントラと同じ銀(シルバー)。

 四人チームで全員が男性。

「それぞれ役割分担が決まっているからな」

「戦士と魔力系、信仰系。後は補助だ」

「人数が多ければ様々な用途にも対応できるだろう」

 別のチームは女性のみで構成された鉄プレート。

「異性を入れるとトラブルになりやすいからね」

 現地の言葉が色々と翻訳されてもカタカナ英語が混じるようだ。

 厠からトイレに最適化されているし。混乱はトラブル。

 どういう基準なのかは分からない。

 いずれは性行為などの言葉も英語へと変わっていったりするのだろうか。

 様々な神話のモンスターが現れているのだから言語も色々と変わるのかもしれない。

「それぞれ得意分野があるから、足りないものを補う形で集まっていくんだと思うよ」

「……羨ましい限りだ」

 冒険者への憧れは最初だけで数をこなすと打算的になっていく。

 危ないことはしない、など。

 ランクが上がれば報酬も多くなる。けれども、仕事は必然的に危険なものになったり、最悪は仕事自体が無くなる。

 金払いのいい依頼人が居なければ冒険者は仕事として成り立たない。

「皆さんは夢があって冒険者になったんですか?」

「それなりに」

「新しい魔法や武器に興味がある連中ばかりだと思うよ」

 格好いい武具目当て、というものが多かった。

 帝国は魔法に力を入れている分、病気を治す事にこだわりがあるものが信仰系を修めたりする。

 敵である王国を滅ぼすため、という理由は意外にも少ない。

 騎士が多く居る、という理由もあるだろう。

 今の段階ではヤントラ一人でアダマンタイト級になれば自動的に真蒼の薔薇がついてくる。

 それ以外では自前の仲間候補を見つけるほか無い。

 実力の落差が激しすぎる。

「仲間が欲しいのかい?」

 顔に傷のある冒険者が話しかけてきた。

「チームを組める性格ではない、という現実に愕然としていただけです」

「それは大変だな」

「統率したり、指示に従う仲間の気持ちなど。考えれば考えるほど自分には不向きな部分があると……」

 上司の気持ちは分からない。

 何も考えず指示だけ従う部下というのもよく分からない。

 一人で悩み、考える方が自分には合っている気がする。

 それでもチームが必要な場合がある。

 メイド達の使い方も少しはうまくなりたい。

 最も手っ取り早い方法は他の冒険者並みに弱くなることだ。

 おそらくは巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)にも勝てなくなるだろう。

 急激な弱体化は老化現象のように全てが弱く遅くなる。そうなると身体が反応しなくなるので感覚的には連続死のようになってしまう。

 魔法も当然、使えなくなる。

 アイテム類を奪われれば一からやり直しだ。

 モンスターがたくさん居れば、それでも我慢できる。

 この世界のモンスターはそれほど多くない。

 長い時間の弱体化は予想以上に退屈なものとなるだろう。

 金銭での揉め事は起こさないと思うけれどチームプレイの楽しさは未だに分からないところがある。

 そもそも友達を危険に晒す冒険は好きなのか、嫌いなのか。

 命がかかっているなら連れて歩くことはしない。普通なら。

 クレマンティーヌを連れてもケガしないか気になってしまう辺り、仲間を引き連れて冒険の旅に出る度胸は意外と無いのかもしれない。

 ソロプレイヤーのジレンマだろうか。

 他の都市の冒険者ギルドにも行って色々と意見を聞いてみる。

 共通の目的がある者同士がチームになる事が多いようだ。

 モンスター退治や女体モンスター探しの目的は見当たらない。

 近場にまともなダンジョンが無いのも問題だろう。

 レアアイテム探しがしにくい。

 後は国を襲うくらいしかないのかな、という物騒な発想が出てくる。

「冒険者に向かない気がします」

 受付嬢にチームで冒険できない今の気持ちを吐露してみた。

 そんなことを聞かれても答えに困る受付嬢は苦笑を浮かべていた。

 一人で活動しても悪い事ではない。ただ、普通はチームを組んで様々な難題に取り組むのが一般的だった。

「無理にチームを組まなくても大丈夫ですよ」

 戦士職で信仰系。

 単独行動向きである事は確かだ。

 ラキュースも武装に恵まれている点を除いても一人で強敵と戦えるだけの実力がある。

 広範囲の任務には適さないかもしれない。

「モンスター討伐以外のお仕事には他の方を頼る、という選択肢があると思います」

 広範囲に及ぶような仕事はリ・エスティーゼ王国の領内では少ない方かもしれない。

 ヤントラのランクで受けられる仕事は単独で請けにくいものがあるけれど受けてはいけない罰則は無い。ただ、恥ずかしい。ただ、冷たい目で見られるだけだ。

「仕事優先ならばどの仕事も必要だと思われますが?」

「協調性の無い人間から脱したい、という希望が……」

「人材確保も冒険者としての仕事だと思って頑張って下さい」

「吸血鬼退治に行けばよかったかな……」

 ホニョペニョコとかいう凶悪な吸血鬼(ヴァンパイア)。

 エ・ランテルには夥しいアンデッドが徘徊しているけれど、そちらは今は討伐できなくなっている。

 カッツェ平野と違ってモンスターの脅威は人里離れた部分に発生しやすいようだ。

「銀プレートは森での薬草採取が多いのですが……。アイテム調達の仕事はいかが……、お一人だと依頼が達成されにくいですよね」

 複数人で当たる仕事こそチームプレイが役に立つ。

 強いヤントラも一人で出来ないことはある。

「他国にケンカを売る仕事はありませんよね?」

「ありませんよ」

 受付嬢は微笑みながら答えた。

 戦争しない、という覚書を書いたことを薄っすら忘れかけた。

 

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