ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
悩みを受付嬢に言いながらエ・アセナルまで来た。
アーグラント評議国が近いこともあり、亜人系モンスターの襲来が多い。というのは暴論のような気がする。
評議国が亜人の冒険者を送り込んで攻めてきた例は無い。亜人系モンスターが多く住んでいるだけだ。
当然のようにモンスター討伐の依頼が多い。
例によって冒険者達の意見を聞いていくのだがアダマンタイト級冒険者『朱の雫』が居た。
顔を見るたびに殴られそうなので帰ろうかなと思った。
「嫌そうな顔をしていないで、ここに座れ」
敵意の顔にしか見えない形相でアズスは言う。
ここしばらくラキュースとエロい事はしていないので怒られるようなことは無い筈だ。
イビルアイにメイド服を着せたりしたことなどを聞かれるのか、など。
「さっさと座れ、この変態野郎!」
と、机を強く叩きつつアズスは怒鳴る。
仕方が無いのでヤントラは彼らの近くに正座という形で座る。
椅子ではないことは気にしないことにしたのか、指摘してこなかった。
「う、うん……。少し言いすぎた。ところで、仕事をしに来たのか?」
「チームを……組んでいる理由などを聞いて回っていました」
「はっ? チーム?」
「冒険者は普通、数人のチームで活動しているようなので……。どういう出会いなのか、チームとしての活動内容とか」
『朱の雫』もチームで活動している。
厳つい顔で黙っているルイセンベルグ。その周りにはアダマンタイト級に視線を送る他の冒険者達がヤントラを見つめる。
「姪と活動していないのか?」
「ラキュースは既に仲間が居ますから。アダマンタイト級があちこちの冒険者ギルドに来ては困るでしょう」
下っ端に仕事が回らなくなる。
実際に『漆黒』のモモンは仕事を独占状態に請け負っていた時期があったらしい。
それこそ手当たり次第に。
「よそのチームを心配している場合か」
「……実力があるのに……。いや、そもそも冒険者になって有名になりたくはないのか?」
「変態として有名になっているので……」
「それは自業自得だ。だが、イビルアイが貴様を尊敬しているのは間違いが無い。
「一人で活動していると虚しくなるんです。かといって仲間を連れて行ってもケガとか心配になります」
「背中を預けられる仲間が居ないのか……」
強いからこその孤独感という奴だろう、とルイセンベルグは思った。
一人で完結している冒険者はとても珍しい。
頼りたいだけの実力を発揮するには現時点で
イビルアイですら足手まといになる可能性があると言っていた。
蒼の薔薇が勢ぞろいしていたなら不思議はない光景だろうけれど、ヤントラは蒼の薔薇を単独で撃破してしまうほどだとか。
逆に強くしてもらっているくらいだから計り知れない実力の持ち主だという。
本当の本気のヤントラの強さはイビルアイにとっても未知の領域だ。
当時は怒りで分からなかったが、普通の冒険者はそんなことは出来ない。
一体だけでも都市に甚大な被害をもたらすと言われているアンデッドだ。簡単に倒せる筈が無い。
「金と名声、未知のアイテムを求めるのが冒険者だ。国の一大事に駆けつけることもあるだろうが……」
「お前にも背中を預けたくなるような魅力があればいいが……。……銀プレートでは満足な仲間が居ないかもな」
銀プレートにしては強すぎる。
飛び級を受け入れた方がいいのではないかと思うほどだ。
のんびり仕事をする事も悪くはない。
数年がかりでもミスリルクラスに行けない者も居る。
アダマンタイト級は最高峰であると同時に国の重要な要でもある。気軽になれるクラスではない。
だが、ヤントラは気軽になれてしまうおそれがあるほどの実力を持っている。
上昇志向が無いだけだ。
「名声や金ではないなら……、冒険者なぞ、やめてしまえばいい」
そもそもモンスター退治がしたいだけなのか、よく分からない。
生活のためとも思えない。
冒険者だからモンスター退治が出来る、という理屈なのだろうか。
「冒険者でもない者がモンスターを倒しては仕事が減ってしまうな」
「仲間を欲する理由が無いなら一人で構わんだろう」
「一人だと色々と仕事の内容では不都合な部分があるんだろう。それは仕方が無い」
器用貧乏という言葉がある。
ヤントラに相応しい言葉だ。
先輩冒険者として助言の一つでも言わなければいけないのかもしれないが、かける言葉が見つからない。
あえて言えば、マヌケ野郎め、かもしれない。
「相棒が欲しいのかい?」
と、ギルドの階段から降りてきた者が言った。
声からして老婆。そして、決して弱々しくない力強さがあった。
ただ、ヤントラは聞こえてはいたが他人の話しだと思って聞き流した。
「んっ? お前さん達じゃないのかい? 仲間が欲しいとかなんとか言っていたのは」
顔を見せた老婆はルイセンベルグ達に顔を向けた。
「おお、カウラウ殿。お耳に入ってしまいましたか」
「耳はまだ遠くなっていないよ」
真っ白な髪の毛に皺だらけの顔。
身に付けるローブは一級品。腰には立派な剣が一振り下げられている。
見た感じでは
「弱い者イジメはよくないねー」
「こいつは変態だ。それに弱くはない」
軽く笑いながらカウラウという老婆は歩み寄ってきた。
初対面のはずだが、どこかであったことがあっただろうかとヤントラは記憶の中を探る。
「インベルンの嬢ちゃんが世話になっている変態はあんたかい?」
ヤントラは周りを見回して他の変態を探してみた。しかし、自分しか居ないようなので残念に思った。
「アインドラ卿と呼んだ方がいいかな?」
「ダメだ」
と、アズスが鼻息荒く言った。
「わしはリグリット。しがない
「ヤントラです、初めまして」
床に正座していたヤントラが言った。
「アダマンタイト級の冒険者が大人気ないねー。椅子に座らせたらどうだい?」
「こいつに甘えは必要ない。見た目にだまされてはいけない」
「人に嫌われる才能があるのかもしれませんね」
というヤントラの頭をアズスは拳で叩く。
周りの冒険者達もヤントラの扱いがひどいので戸惑いを見せていた。
銀プレートに対するイジメが酷いという声が出始める。
「素直な外見に騙されてはいけませんぞ、カウラウ殿」
「そうかい?」
どう見てもひ弱な人間にしか見えない。
イビルアイから色々と話しは聞いているのだが、直接見ていないのでヤントラという人間がどれほどの危険人物なのか計りかねる。
十三英雄の一人にして死者使い『リグリット・ベルスー・カウラウ』は優しそうな顔で正座しているヤントラを見据える。
周りの者達は十三英雄やリグリットの名前を口にして騒ぎ始めている。
有名人なのは理解した。
二百年前に活躍した十三英雄と呼ばれるようになった冒険者集団。
その一人が目の前の老婆リグリット。
人間に都合のいい部分が伝承として残されているので異形種などは数に入れられていないらしい。
イビルアイは居なかった事にされている。
いや、国堕としとして伝えられていた。
リーダーは誰もよりも弱かったが誰よりも強くなって伝説を残した、と言われる。
メンバーには
更に十三英雄の黒騎士の持つ四本の魔剣は現代に受け継がれている。
少なくとも魔剣キリネイラムは実在の武器だ。
過去の英雄は勉強の一環で読んだ程度で他にも調べものがあったので詳しい調査は
「おお、そうだったそうだった。アイン……、ヤントラ殿。ちょっと二人で話し合わないか?」
「嫌です」
素直な返答にリグリットは声に出して笑った。
「まあまあ、そう言わずに。ギルドの……二階の空き室を貸してもらえるか?」
リグリットの言葉に受付嬢は困惑し、階段を駆け上がっていく。
それから数分後に戻ってきて部屋を貸す許可が下りたことを告げる。
「すまんの。それと『朱の雫』の……。こやつを借りるぞ」
「ついでに殺しておいてくれ」
アズスの言葉にリグリットは苦笑し、ルイセンベルグはヤントラを睨むだけだった。
どれだけ恨まれているのだろうか、とリグリットは興味がわいてきた。
口をきつく結ぶヤントラの襟首を掴んで引きずるように二階へと向かう。
半ば強引だったがヤントラは大人しくしていた。
受付嬢に案内された部屋に連れて行かれた後、部屋の椅子に座るように言われた。
室内には誰もいない事はすぐ確認出来た。
今日も血まみれになるのだろうかと期待と不安が入り混じるヤントラ。
黙っていても殺される運命であるならば、もはや特技だ。
真蒼の薔薇が言うところの期待を裏切らない事態だろう。
「見世物になっておったようだが……、それはまあ置いておこうか。改めて自己紹介しておくかの」
「結構ですよ、リグリットさん」
リグリットは首を傾げたが、軽く咳払いする。
「初対面のはずだが……、何か私に文句とか変態についてとか、その
「確かに変態については気になるが……。わしの知り合いの面倒を見てくれた礼を
イビルアイとはごく最近になって出会い、軽く手合わせした程度だが尋常ではない増強に素直に驚いた。
位階魔法も驚くほど高いものまで習得していたし。
蒼の薔薇に放り込んでそれ程経っていない筈なのに、と。
成長しないはずの身体であることも知っている。それでも背が高くなり、より女らしい身体に変貌していたのは幻術でも使ったのかと思ったくらいだ。
どのような方法を用いたのか知らないが、全ての元凶が目の前に居るヤントラという人間なのは聞いていた。
少し前まで謎の
しかも、変態として有名を馳せたのにも驚いた。
「インベルンの……、そちらではイビルアイと名乗っている娘だが。仲間と仲良く過ごしておるそうだな」
「そのようですね。あまり真蒼の薔薇での活躍は関知していないものですから、詳しくは知りません」
「しんそうのばら。そなたが名付けたのだったな。新たな仲間も増えているようで……」
スレイン法国の元漆黒聖典が加わっていたのは驚いた。
普通なら殺し合いが起きてもおかしくないはずなのに、しっかりと仲間として打ち解けているという。
「……詮索しても詮無いことだな」
イビルアイの本来の名前は本人から聞きたいと思っているのでヤントラは名乗ってくるまで待つ予定にしていた。
偽名は珍しくなく、冒険者の多くが偽名で登録しているという。
ラキュースのように貴族として知れ渡っている者は偽名は名乗りづらいだろう。
ティア達も元の組織から追っ手を差し向けられれば困るだろうし。
クレマンティーヌはフルネームが嫌いだとか。
名前の数が多いほど高貴な生まれ、という。
クライムは名前しかないし。
三つだとスレイン法国風と言われてしまう。
ヤントラは半ば強引な四つの名前となっている。
「あの嬢ちゃんはヤントラ殿のところにお世話になっているそうだが、もう手篭めにでもしたのか?」
「手篭め……。色々ありましたが健全なお付き合いをしていると思います。モンスターの異種交配に驚かれてしまうので、いつも心配させています」
ある程度の情報は聞いているのだが、隠す気が無いのか。公開しても平気な人間なのか。
リグリットは少しヤントラという人間が分からなかった。
「イビルアイは私のおぞましい研究や実験などは抵抗を感じているようで……。本人の事より恐れられている気がします」
「ん……。そうかい」
「魔法に精通していなかったり、特殊技術に疎くて彼女の役に立てているかは分かりません」
少しの間、差しさわりの無い施設でのイビルアイとの生活を伝えていく。
夜は一緒の布団に寝たりしない。
泊まる事はあるけれど宿舎に用意した個室で、ヤントラは気の向くままの部屋で寝ている。
「話しだけ聞いていると変態的な研究者なのは間違いないのだろう。それがどうして他者を強く出来るのか……。不思議な事もあるものだ」
見た目には分からない世界があるのだろう。
それはそれとして本題に入らなければならない。
感知妨害の魔法を展開していく。
「わしの友人がそなたと交渉したいと言ってるのだが……、会ってみる気はないか?」
「会う気があるかと言われても……」
「いきなりそう言えば戸惑うのも道理。いかんせん、わし個人としてはヤントラ殿はとても危険な存在だと聞いておる」
特に
「武器を出さずに済ませてほしい相手がおるのだ」
「ツァインドルクス=ヴァイシオン……ですか?」
アーグランド評議国の永久評議員の一人で『
最強の
「そうじゃ」
辺に隠しても仕方がないとリグリットは思い、肯定する。
「……貴重な
「殺す気は無いかも知れんが……。話し合いだけにしてやってほしい」
殺すどころか肉体を奪い取る技術に優れているとか。
どんな技術でなら可能なのだろうか。
様々な冒険を経験したリグリットですら知りえない未知の領域。
確認の為にヤントラの施設に行けば済むような気がする。だが、行くのは躊躇われるような恐ろしさはあるだろう。
イビルアイが恐怖するほどなのだから。
アインズ・ウール・ゴウンが使用したとされる生け贄を必要とする召喚魔法で呼び出したモンスターを掌握した、という。
話しだけでは信憑性が無い。
自分の目で確かめる事は大事だとイビルアイから教えられた。
個人的見解ではヤントラのどこをどう見ても危険さが伝わってこない。
証拠を見せろ、と言った時が致命的な結果を生む、らしい。
「行ってもいいのですが、一方的な要求ばかり飲まされている気がします」
「……一方的なのは世界の危機とかなんとかで我慢してもらいたいのー」
おそらく
金銭では動かないだろう。
物品と権力などの欲が無いらしい。それはそれで頼みにくい相手とも言える。
老婆の裸が見たい、という特殊な趣味ならば見せてもいい覚悟はある。
罠など考慮せず、言われた通りに着いて行くヤントラ。
警戒ばかりしても仕方が無いし、むしゃくしゃする時は世界を破壊する時、とか思い浮かべる。
所詮ゲーム、というのがユグドラシルではあったかもしれない。
今はゲームのルールが多少あろうとも自分の意思は曲げない方がいいと思っている。
やりたいことをやる。ただ、それだけだ。
裸が見たいなら見ればいい。
適度に違う身体を見たくなる。メイド服に騎士の鎧など。
裸を通り越して内臓まで行くと顔をしかめる結果だ。
会話も無くアーグランド評議国の国境にある検問所を難なく通る。
戦争しているわけではないので手続きさえ済ませれば往来は出来る。ただ、王国側は厳しい審査を受ける必要がある。
往来できなければ相手の国の様子は知りえない。
亜人の冒険者が多い事も知られているし、アダマンタイト級というランクも存在している。
人間の数は少ないけれど住んでいるのは確認されている。
大多数は亜人。
国を統治しているのは
最強種たる
その中でもツァインドルクス=ヴァイシオンは最強の
かつては十三英雄のチームの一員だった事もあるとか。その時は遠隔操作の鎧を使用していたので正体は後々になってバレてしまった。
チームリーダーは既に故人で蘇生拒否の為に復活できない。
評議国に行くものだと思っていたが途中で寄り道する事になった。
目的地は別にあるらしい。
亜人の国では人間は食料か奴隷が相場らしいのだが、人間種が統治している国は実際にはとても小さいのかもしれない。
力関係で言えば脆弱な種族だ。
途中で目隠しされようとヤントラは文句一つ言わない。
素直すぎるところは疑り深い人間の多い国では脅威に映るかもしれない。
二つ返事で答えた弊害は後になって現れる。それが分からないリグリットではない。
イビルアイからも頼みごとをする時は身体を提供するくらいの覚悟が必要だと聞いている。それがたとえ国王だろうと
世間をにぎわすアインズ・ウール・ゴウンだろうと。
目隠しを外された時は見知らぬ場所だった。むしろ見知っていた方が凄いだろう。
薄暗いので洞窟だろうか。
闇が支配する世界といえばダンジョン。
それも広い空間のようだ。
「おやおや、今日は隠れんぼは無しか?」
空間全体に響く声は透き通った硬質ガラスのように繊細だった。
蠢くのは巨大生物のようだ。
「ああ、お前さんが会いたそうにしていた人間を連れて来たよ」
「おお!」
空間全体が振動しているが決して崩壊の兆しは見せない。
闇に慣れてくると全体像が見えるはずだが、それでも相手の大きさはなかなか測れない。
「〈
闇を照らす、というよりは闇の中でも光りが注がれたように見える魔法を唱えれば視界に映るのは白銀の輝き。
エンシャント級の
頭から尻尾までは三十メートル以上は確実に超えているだろう。
黒い仔山羊よりも身体は大きく見える。
頭から足元までとなると十五メートルは超えているかもしれない。
実際に計測しなければ正確な事は分からないけれど、意外と小さい事もありえなくはない。目算にはそれほど自身が無いから。
「お初にお目にかかる。ヤントラです」
「これはどうも。アーグランド評議国の永久評議委員をさせてもらっているツァインドルクス=ヴァイシオン。友はツアーと呼ぶ」
挨拶が終わり、ヤントラは身構える。
「あー、戦う為に呼んだのではないよ。……内容によっては交渉決裂もあるかもしれないけど」
「駆け引きは苦手でね」
「……うん。年寄りの小話しくらい聞いてほしいものだ」
普通の人間であれば
少なくとも怯えなどは無く、いつでも武器を抜こうと様子をうかがっているようにも見える。つまり戦う算段はついているのかもしれない。
そうであっても
目の前の小さな人間であっても油断はしない。
「五百年前の八欲王の事を聞きたいところだが……、ヤントラ殿には知りえない昔の事だろう」
話しが長くなりそうな予感がしたので椅子を出して座る。
リグリットの分も出して勧めた。
「これはありがたい」
「この世界は百年ごとに客人が呼ばれるようでな。その客人は敵であったり味方であったり……。戦いの歴史が形成され、今に至るわけだ。今回の客人はおそらくヤントラ殿、ということになるようだ」
「……客人の定義にもよるのでは?」
大きな頭を動かしてツアーはヤントラを見据える。
「見分け方は説明しにくいのだが……。とんでもない強さを持った存在……、というのが一番分かり易い。それは魔法であったり、力であったり……。未知の武具を所有していたりと……。突然、現れる強者は大体気にしておるよ」
穏やかな口調で話すツアー。
リグリットは黙って聞き耳を立てている。
「かつて友であった……、インベルン……。今はイビルアイと名乗っている娘が居るのだが……。面白い人間? 恐ろしい人間、かは忘れてしまったが……。不思議な人間にあったと聞いてな。リグリットに連れて来るように頼んだのさ」
「人に頼むとろくな事が無いと思いますが?」
ツアーは軽く笑った。
「そうだな。つい先日……。いや、もう一年以上も前か……、二年前か忘れてしまったが……」
物忘れの多い
自分も色々と忘れているので指摘はしなかった。
「未知の力を感じて……、そこの鎧を操り、会いに行ったら攻撃を受けてしまってな」
ツアーの近くに歩み寄る白銀の全身鎧。
何者かの攻撃を受けて肩口に穴が開けられている。
「とんでもない強さの
「……世間話しを聞かされても困ります」
「おお、これは失礼した。我らは八欲王のような者達から世界を守らねばならん。だから、味方を欲しておる」
そもそも八欲王とは何者なのか。
詳しい伝説は詳細な記録として残っていないので知りえない。
六大神。十三英雄。
一人歩きする神話は様々な装飾が付随するものだ。
「味方が無理ならアイテムに関する情報でもいい。自前で防衛策を講じるよ」
「ツアーよ。言葉に気をつけるが良い。一方的な要求ばかりでは……」
リグリットの言葉にツアーは唸り、ヤントラを見据える。
「そうであったな。見返りが今は用意できないが……。参考までに……」
と、ツアーが首を動かすと白銀の鎧が一振りの剣を運んできた。
それは武器としては使いにくそうな形状をした模造刀のようなものだった。
「こういう武器を探している。剣にこだわりがあるわけではない。八欲王が残した……、ギルティー武器だったかの?」
「ギルド武器じゃ」
「そうだったそうだった」
ヤントラの目の前に差し出される剣。
その剣を奪えば敵対なのだろう。だが、あえて見せる事で誠意を示す意味に捉えてほしい、という相手の思惑があるのかもしれない。
剣のギルド武器。
名称を他人から聞かされると感慨深いものがある。
見た目にそぐわない優遇された効果を持っている。当然、破壊すれば洞窟は崩壊する、かもしれない。またはどこかの拠点だ。
八欲王のギルド武器。
大抵の武器は伝説にちなんだ形状を取ろうとしたりするものだ。
オリジナルで作られる事もあるし、それほど詳しいわけではない。せいぜい
使い手に呪いを与える剣をギルド武器にはしないだろうが、鑑定はしておく。
いくら優遇された武器とはいえ最強の武器には足り得ない。
効果が狂っているものが多いだけで。
「強力な武器で敵に備えるのは理解出来るのだが……」
そもそも装備できるのか。
身体の大きさと合っていない武器は使いにくいだろう。
遠隔操作できる全身鎧に持たせる気なのか。
「……よし、
「こらこら。どうしてそうなる」
「……なんか面倒くさそう……。倒したい敵とか居るの?」
武器を集める上で必要なのは敵の存在だろう。
八欲王は既に倒されている筈だし、誰を倒す気なのか。
「抑止力として武器などが必要なのだ。世界を
ヤントラも欲望のまま蹂躙と言うか、陵辱というか。
煩悩のままに世界を制圧している気がする、という自覚はある。
九欲王目かなと。
「……はっきりしない敵に対する抑止力か……。まさか吸血鬼を倒そうとか?」
「あれほどの力を持った者を放置するわけにはいかない。今は大人しくしているようだが……」
何者なのか分からないし、味方になってくれそうな予感がしない。
ツアーはかつて強力な吸血鬼に遭い、渾身の一撃を与えて敗走している。
鎧の傷はその時につけられたものだった。
その吸血鬼は悪に傾いた敵以外の何者でもないと。
「我らは怖いのだ。新たな八欲王のような者達によって多くの犠牲を生む未来は見たくない。だからこそ、ギルド武器のような強力なアイテムを集めているのだ」
八欲王は瞬く間に世界を支配し、多くの力ある種族を倒し、最後には自分達の欲望の果てに互いに殺しあったとされる。
殺しても復活する彼らは死ぬたびに弱くなる事に気づいた先代の
現在の
ツアーも竜帝の子供と言われていた時代があった。
「八欲王は
「強かったようだ。八欲王一人に対して数十体の
つまり
今の
先制攻撃でもされない限り。
「今は居ない、はずの八欲王は復活する予定でもあるのですか?」
「ん……。あの吸血鬼が新たな八欲王……に匹敵する者と見ておる。後は
「強ければ八欲王だというのは根拠でもあるのですか? ……さっきから質問ばかりで申し訳ないが……」
「いやいや、要求ばかりでは申し訳ないだろう。こちらも疑問には答えようと思ってな。ふむ、八欲王という根拠は……。百年ごとに強い存在が現れる兆候があるのだ。正確な周期は不明だが……」
六百年前に六大神。
五百年前に八欲王。
「以降百年周期で世界に何らかの形で強者が出現する。つい二百年前は……、十三英雄のリーダーが現れ、ミノタウロスの国に強大な力を持つ勇者も出現した」
どこに誰が現れるのかは不明。
たまたま近い場所に現れたから、とも言えるかもしれない。
伝説の残らない戦いや事象が他にも無いとは言い切れない。
そして、今回はアインズ・ウール・ゴウンという魔導国の出現。
無理矢理のこじ付けかもしれない。だから、色々と調査の手を差し向けている。
「時には味方、時には敵として現れるから慎重になっておるのだ」
強い力を持つ者は世界を蹂躙したがるもの。
そういう傾向にある存在はいくつかヤントラにも覚えがあるし、実際、自分がそうなのだろうとも思う。
少なくとも
今のところ評議国と仲が悪いのはスレイン法国くらいだろうか。
王国とは亜人の関係で小さな小競り合いがあるくらいで戦争にまでは発展していない。というか、貴族の裁量次第とも言える。
「そして、八欲王達のように世界を瞬く間に支配し、蹂躙するものが怖いのだ」
「十三英雄と呼ばれるチームのリーダーが残してくれた様々な知識は新たな災厄を未然に防ぐ為に使われとる。魔神と呼ばれる者たちも復活するかもしれん」
十三英雄の主な敵が魔神で、様々な種族が居たらしい。
イビルアイも実際に戦った事があるという。
彼らで対処できるのであれば強さは大した事が無いのではないだろうか。
真の敵はレベル百のプレイヤー。その善悪によってツアー達は非常に困ってしまうのは理解した。
それほどの強者が敵となっては一大事。味方や武具を揃えたいと思うのは自然な事だろう。
その中でもギルド武器が最強の存在のように思われている。
確かに優遇された武器ではあるけれど最強ではない。
様々な特殊能力を持っているので破壊には手間取るだろう。
ツアーが求めるのはヤントラが所有する強い武具だろう。
冒険者から巻き上げる
優遇された種族でも太刀打ちできない敵が居る。それに対抗したい気持ちは分かる。
どの国もそうだが恐れるばかりで話し合いはしないのだなと。いや、今、話し合いをしている最中だとも言える。
その勇気をもう少し広める必要があるだろう。
「早い話しが評議国の為に全てを差し出せ、と言っているようなものだ」
「全てとは言っておらん」
「ツアーの言い方が悪いのかもしれんが、悪気は無い。犠牲を出さない方法が欲しいだけなのだ」
静かに唸るツアー。
自分の言葉を
「まずは……」
と言いつつヤントラは剣のギルド武器を手にとって消した。
「おぅわ!」
「ここにはもうギルド武器などありません。これで憂いは無くなったでしょう」
ツアーはギルド武器のあった場所とヤントラを何度も見比べる。
身体に隠せるような小さな武器ではない。
目の前から忽然と消滅してしまった。
「貴様っ!」
リグリットは素早く避難した。
怒りによってツアーは尻尾を振る。それをヤントラはガントレットで受けきった。
と、思ったが吹き飛ばされた。
遠心力のついた一撃はそう簡単には防ぎきれなかった。
追撃する
狭い洞窟にもかかわらず素早く移動する巨体。
「やめんか、ツアー!」
「うるさい! こいつはリーダーのギルド武器をっ!」
「落ち着け、ツアー。別に壊されてはおらんだろうに」
聞く耳を持たないツアーは無属性ブレスを放つ。
だが、それはすぐに治まり、代わりにツアーの下顎を殴りつけるヤントラの姿があった。
ゴーン。
洞窟全体に響く低い衝撃音。
それだけでツアーの意識が揺さぶられる。
とても重い一撃だった。
「やっぱり倒そうかな、ドラゴンロード」
「……お、おいおい……。
リグリットは驚愕した。
昏倒したのか、ツアーは静かになった。
魔法による麻痺や睡眠などに対して完全耐性を持つはずの
だが、それは一瞬だった。
一瞬でも気絶させられるとは信じられない出来事だ。
とはいえ、やはり最強種の
「し、舌が痺れる……」
後ずさりするツアー。
確実にダメージを受けたようだ。
「早めに倒された方がいいかもね。評議国にケンカを売る手間が省けるし」
「グゥ……」
「九人目の欲王かもしれないぞ、私は。戦うか、話し合いか。どちらでも構わない」
「……殺す。お前はこの場で殺す!」
言い終わった後でツアーの横っ面はヤントラの拳が打ち抜いた。
重い攻撃なのは音で伝わる。
リグリットは離れていたので攻撃方法がよく見えていた。
ヤントラは瞬間的に転移して攻撃している。
敏捷をあげるよりも早く、感知され難い。
分かっていても避けられない、かもしれない。
感知されずに近寄る隠密型ではなく、感知されてもいい攻撃方法だ。
相手の裏をかく戦法としては同じく転移を駆使しなければ対応が難しいだろう。
または転移を阻害するか、だ。
あとは全体攻撃でも無い限り。
「
強そうに見えるけれど大きなガントレットという以外には特徴が無さそうな代物だ。
普通なら戦士職の力技でも低い衝撃音すら聞こえてこない。
精々、
「降参を早くしないと解体作業に入るぞ」
「やめんか二人共。というか、ヤントラ殿! もうツアーは気絶しておる」
頭部ばかりに攻撃を受けたせいか、静かになっていた。
口から泡のようなものも見える。
久しく戦いから離れていたせいで体力が落ちていたのかもしれない。
あくまで見た目の印象ではあるけれど。
「せっかくだから解体しておこうかな」
攻撃回数から言って
それでもこの世界ではかなり強い部類に入るだろう。
ツアーはすぐに気絶から回復し、頭を何度か振った。
「おー、いたた……。ガンガンと……頭ばかり殴りおって……。ぱーになったらどうするんだ」
「まだまだ元気そうだな、
「とにかく、ツアーよ。静まれ。ギルド武器はおそらく無事じゃろう。異空間に収めるアイテムを使ったのであろう」
「むっ……。そ、そうか。無事か……。全く、驚かせおって」
余程大事なものなのはヤントラも理解した。
「話し合いならツアーの身体を渡せばギルド武器は返す、とか言うのではなかろうな?」
「それはそれで良い条件ですね」
イビルアイからそれとなくヤントラの事は聞いていた。
モンスターの身体を解体して複製を作り上げるという、おぞましい手法を。
それゆえに殺したモンスターが少なく、犠牲が無いように見える。
「戦う事ばかり選ばれるけれど、当時の八欲王とは話し合いは出来なかったのですか?」
「八欲王とか? おそらく……、出来なかっただろうな。強大な力を持つ者は弱者をいたぶるのが好きなようだった」
「犠牲の出る戦いを繰り返したくない気持ちは分かりますが……。ギルド武器は決戦には不向きですよ」
「なんだと? リーダーが使っていたギルド武器は最強だったぞ」
優遇された能力を持つ武器と言う点で言えば最強と呼んでも間違いではない。
一般的には神器級の武具の方が
ギルド武器も神器級アイテムで作れば、それなりに強いのだが破壊可能な点はどうしても覆せない。
壊れるからこそ専用職が得られる。
「新しい欲王が現れましたよ。感触では
唸るツアー。
その言葉はおそらく真実ではないかとさえ思う。
当時は子供で欲王達と戦った事はない。けれども、強さは分かる。
少数に対し、多くの
個人の戦闘力の高さは
「運が良い事に私は月へ、行ってしまいます。というか、予定です。確実に一人は居なくなる。それとも確実に倒しに来ますか? 選べる余裕があるうちに色々と考えていいですよ。待ってあげてもいい」
「うう……。わ、分かった。だが、その前に……」
「ギルド武器は私が持っていた方が安全かもしれませんよ」
ツアーの言わんとしている事を先に言うヤントラ。
「それでもだ。リーダーの持っていた武器を守るのは私の責務……」
ヤントラは天使を召喚し、ギルド武器『ワールドセイバー』を取り出す。
最強の
それにちなんだ武器名となっている。
軽く武器を奮って天使達を
『
本来ならばギルド武器はギルド長しか使えない。
ソロプレイヤーだからか。はたまた『真蒼の薔薇』のギルド長となっているとか、だろうか。
拠点を作ったりしているし、色々な条件が重なっているとも言える。
あと、このギルド武器は本来は八欲王のもの。それを十三英雄のリーダーが使えた、ということはそういうこと、とも言える。
変なところで最適化の弊害が出ている気がする。
「折ってしまおうかな、こんなバカみてーなアイテムは」
「おいおい!」
リグリットはギルド武器はとても強力な武器という感覚があり、リーダーしか使えないものだ。それが気に入らない理由が理解できない。
「ちなみに、これは本来、誰かが持っていたのか? どこかに安置されていたのか?」
「八欲王が持っていた、らしい。先代
その答えでは、ここに置いている理由にはならない。
ここが八欲王の拠点だからではないだろうか。
「これは普段、どこに置いてますか?」
折る様子を見せつつ脅迫するヤントラ。
ツアーは人質を取られた気分だった。
「……卑怯な……」
ツアーはそう言ったがリグリットは苦笑していた。
イビルアイが
大きな
最初の立場とは逆転しているような気がした。