※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

171 / 213
M-5 ミズガルズ

 洞窟内は広くツアーの巨体でも自由に動き回れるほど天井も高い。

 その中にあってギルド武器は白銀の鎧に普段は持たせている。

 玉座とは言いがたい椅子に座らせてギルド武器は安置されていた。

 ヤントラはギルド武器をリグリットに渡して椅子のところに向かった。

「おっ……」

 いとも簡単に手放したのでリグリットは驚いた。

 椅子の近くに立ったヤントラは周りを見回し、ツアーたちを見据える。

 昔はたくさんの調度品が並べられていたのかもしれない。それが今は何も無い。

 移動させたのだろう。

 竜(ドラゴン)は宝物が大好きだと言われている。

 実際に赤竜(レッドドラゴン)は財宝を寝床にしていた。

 この洞窟はあえて何も置かない事で利用価値を下げたのだろう。誰かが攻め込んできてもいいように。

 椅子に座り、過去を夢想する。

 八欲王達はそれぞれに拠点を持っている。その強大な力で世界を蹂躙し、様々なアイテムを手に入れた、のかもしれない。

 伝説では欲王と呼ばれるくらいなので互いに殺しあうようになり、滅んだとされている。

 竜王(ドラゴンロード)数体かがりで欲王一人に挑む相手だ。相当な強さがあったのだろう。

 コンソールを呼べば出て来た。ただ、それは八欲王が知っていた可能性があったのかは不明。

 急に明るい光りが現れてツアー達は驚いた。

 その光りは今まで見たことが無いものだったからだ。

「拠点名は無し、か……。相手は……『ミズガルズ』か……」

 全員死亡。というかNPC類も調べるべきだったかもしれない。

 装備を剥ぎ取り、と思ってみたものの使い道が今ひとつだ。

 大事なのは女体モンスターだ。

「何をしている」

「女体モンスター探し」

 手馴れた操作で必要な情報を得ていく。

 ほぼ財宝類は無さそうだ。つまりは評議国が持ち去ったのだろう。

 NPCの武具はやはり奪い取るべきだろうか。聖剣使いの女性でもいればいいのだが。

 聖剣を持った戦乙女は戦乙女(ワルキューレ)くらいしか浮かばない。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)が多そう。

 ギリシア神話の『戦闘の女神(アテナ)』だけとか。

「つまらんな。……二度手間か……」

 蘇生可能な者は居るようだが、言う事は聞かなさそうだ。

 念のために言う事を聞くようにしておこう。あと、名前もメモっておく。

 あとで山の方も再調査が必要だろう。

 ギルド武器を使った事が無いので詳しいことは分からないが、ギルド武器を持つGM特有のスキルのようなものがあるはずだ。

 忘れかけていたがアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは居ないようだ。

 異形種揃いだから不死の存在が多く、過去に飛ばされて倒されていたら復活させてやろうかと思う。というか、その方が色々と助かる。

 伝説ではメンバーの活動らしいものは無さそうだ。

 過去には居ないが未来に出てくる、ということがあるのかもしれない。

 影に潜んで他のプレイヤーを恐れている、とかだったらバカだよな。

 都市に入れない条件でもあるのかもしれないけれど。

 八欲王との繋がりは無さそうだ。

 一応、宝物庫が無いか調べてみた。

 竜(ドラゴン)の知覚で見つけられない事は無さそうだが、念のために。

 拠点ごと転移した例は珍しいのかもしれない。

 めぼしい情報は得た。

 残りは六つ。拠点の間借もあるだろうからもっと少ない事もありえる。

 コンソールを消して大人しくしていたツアー達を見据える。

 汚い椅子はそのままにしておいた。証拠隠滅は後だ。

「こんなだだっ広い場所にギルド武器を安置していて安全ですか?」

「ここは秘密の場所だからな。他に安全な場所は……、思いつかん」

「竜王(ドラゴンロード)ツアー。抑止力が欲しいなら意地を捨ててみる気はあるか?」

「はっ? アイテム以外に何か良いアイデアがあるなら聞きたいところだ」

「魔導国と会談の場を設けるといい」

「新しく出来た国のことか? 以前、招待状が届いたようだが……」

 他の竜王(ドラゴンロード)達の反対意見や忙しさで辞退した覚えがある。

 戦争により強大な魔法で多くの人間を殺戮した魔法詠唱者(マジック・キャスター)。

 かつての八欲王のように何かしらの要求、または力による支配を受けることを恐れた。

「魔導国の目的は単純に世界征服だ。生物の虐殺ではない」

「他の竜王(ドラゴンロード)はかの者の力を恐れている。新たな火種が起きる、とな」

「魔導国は評議国に恨みを買うようなことをしたのか? または逆の事が起きましたか?」

 アーグランド評議国は魔導国に対し、後ろめたいことは何もしていない、はずだ。

 あえてあるとすれば白銀の鎧と吸血鬼の戦闘だろう。

「仮に魔導国の吸血鬼であれば白銀の鎧との戦闘を持ち出して戦争になる、かもしれん」

 ヤントラはシャルティアの言葉の中に白銀の鎧の事は一切聞いていないはずだと思った。

 精神支配から解放された影響で数日間の記憶が消失している、とかなんとか聞いた覚えはある。

「ちなみに吸血鬼とはどういう経緯で戦闘になったのですか?」

「どういう? なんじゃったかな……。近づいたら攻撃してきた、と思う。それで魔法を一発お見舞いして逃げたような……」

「その魔法は攻撃魔法ですか? 精神支配系ですか?」

「攻撃魔法だ。……それは大事な事か?」

「はい。精神支配系のアイテムなどは持っていますか?」

「……まあ、そこの鎧を操る魔法くらいは使えるよ」

 鎧を操っているのと同時に吸血鬼は操れそうに無い。というか、操れるなら攻撃魔法は打たないだろう。

「ちなみに他に誰か居ました? 野盗とか?」

 吸血鬼の戦闘にこだわりがあるのか、リグリットは首を傾げた。

 それと同時にこの質問はとても大事なものであるような気がする。

 単なる戦闘狂というわけではないようだとリグリットは思った。

「よくは分からんが……、漆黒聖典らしき集団が逃げ帰ったような……」

「スレイン法国では存在しない組織と言われているはずですが?」

「それはそうだが……」

「ヤントラ殿の仲間におるじゃろう、元漆黒聖典の人間が。そやつから聞いていないのか?」

「本人が言いたくなったら聞くだけです。……私も相手の立場は尊重しますよ」

 尊重しているようには全く見えないのだが、とツアーとリグリットは同じ事を思った。

「本来、漆黒聖典は『破滅(カタストロフ)の(・)竜王(ドラゴンロード)』の復活を阻止する為に存在するらしい」

「カタストロフ・ドラゴンロード……という竜王(ドラゴンロード)が居るんですか」

「居るようだ。竜王(ドラゴンロード)とてさまざまな性格を持っている。脆弱な人間を殺すのが好きなものとかな」

 その脆弱な人間にコテンパンにされているツアー。

「その漆黒聖典……、スレイン法国は様々なアイテムを持っている、という認識で合っていますか?」

「スレイン法国は六大神由来のアイテムを多数所有している、と聞く。色々と持っているだろう」

 つまり線が繋がる、ということだろう。

 運の悪い国だ。

 ヤントラ自身は理由が聞ければ納得する。だが、納得しないものは殺し合いにしかならない。

 予め、滅ぼしておくのも手だ。

 犠牲は少ない方がいい。

 個人的にはどんなアイテムを持っているのか、気になる。

 やはりNPCを、と思ったところで装備品は復活対象に入らないことに気づく。しかし、アイテムボックスに隠している場合はこの限りではない。

 面倒くさい事になっているな、と一人で呆れるヤントラ。

 確率で言えばとても低い。

 神器級装備ならいざ知らず。

 色々と納得できたり、出来なかったり。

 考えれば対抗策など慎重派は大喜びだ。

「まあ、私には関係のない事になりそうなことばかりだ」

 願わくば世界が潰れない事を祈る。

「具体的に魔導国とどう付き合えばいいと思う? というか、魔導王はアンデッドだろう?」

「嬢ちゃんから話しは通じるようだと聞いているぞ」

「……私としては……、ギルド武器という名称がこの世界でもありふれたものなのか、が気になる。その辺りは竜王(ドラゴンロード)としては秘匿事項かな?」

 そう言われてツアーは大きく唸る。

 急な事ではあるけれどギルド武器はリーダーから教えてもらったような気がするし、八欲王が言っていた、と伝えられたような気もする。

 数百年も昔の事だから物覚えが悪くて困る。

「我らのリーダーがそう言っていた。ギルドの象徴だとな。これは守らねばならないと……」

「八欲王というから八つはあるはずだと……」

 竜王(ドラゴンロード)は八欲王の武具は八つしかないと思っているのだろうか。

 ギルド武器はギルド一つに対して一つで間違っていない。

「『ユグドラシル』の特別なアイテムだとリーダーは言っていた。同じ『ぷれいやー』である仲間を殺す事になり、若くして死んでしまった。蘇生を拒否したので復活もさせてやれん」

「それが……、二百年前の事だと……」

「うむ」

 牛頭人(ミノタウロス)の『口だけの賢者』と呼ばれる者も二百年前の存在。

 百年ごとに厄介な強者が現れる仕組みになっているので現地の原住民は戦々恐々として対処に当たっている、ということだろう。

 敵になれば恐ろしい存在だ。

 味方にするにしても慎重にならざるを得ない。

 他のメンバーを見つけるのは難しいのだろう。百年ごとに待っている事になってしまうかもしれない。

 都合よく全員、とまでは言わないが何人か居る可能性は少ないかもしれない。

 ナザリックのように拠点ごとの転移ならまだしも。

「殺し合いにならないようにしなければね。魔導国は味方にはしにくいが同盟国という可能性は高い」

「同盟か……。だが、欲深い連中に酷い目に遭ってきた歴史がある。そう簡単にはいくまい」

「何事も交渉は大事です。敵対すれば総攻撃は目に見えて明らか。お互いにとってメリットは無いだろう」

「検討は……しよう」

「よくある考えでは魔導王を倒そう、という意見が出ると思うけれど……。敗北を知る相手は二度目の敗北は無い」

 それはとても恐ろしい。

 ツアーは竜王(ドラゴンロード)ではあるけれど恐怖を知らないわけではない。

 絶対的強者とて八欲王に負けるのだから。

「アインズは一人だ。たくさんの国を同時に統治出来はしない。部下の頭数だって無限ではない。そこら辺が抜けているようだが……」

「情報は収集している」

「検討ばかりで話しが進んでいないのではないか?」

 リグリットの指摘にツアーはまたも唸った。

 ギルド武器の守護で動けなかったりと色々と事情がある。

「そういえば世界征服が目的だと言ったな?」

「男のロマンだそうだよ。世界を統一する夢ってやつ。皆殺し、という文言は無い」

「おう……。アンデッドだらけの国を作る、ということではないのか?」

「死体だらけでは花が無いと思うのだが……。アインズはアンデッド以外の種族も好きな方だよ。でなければアンデッドではない部下を大勢殺さなければならない」

「なるほど。伝え聞いた話しでは女淫魔(サキュバス)や闇妖精(ダークエルフ)が居るんじゃったな」

「粘体(スライム)種も居るよ。蜥蜴人(リザードマン)に森妖精(エルフ)も」

「魔導国は異種族で形成されているのか!?」

「早い話しが、そうだと言える。アンデッドでなければダメだ、というルールは無い。そこら辺は本人に聞けばいい」

 本人に聞かないから良からぬ噂が一人歩きして国が大混乱に陥っている。

「相手はアンデッド。話し合いなど出来るものか?」

「イビルアイは話しの通じない娘か?」

「うう……。インベルンの嬢ちゃんは特別だ」

「交渉ごとは難航するものだ。長く対話してお互いを知るといい。と、私は思う」

「戦争に使った物凄い魔法を使われる可能性がある」

「心配性だな、竜王(ドラゴンロード)は。王国の貴族か? 異形種のクセに」

「心配して何が悪い! 八欲王のような暴虐な存在が怖いだけだ!」

「……最強の竜王(ドラゴンロード)と聞いたんですが……、他の竜王(ドラゴンロード)もこんな感じですか?」

 ヤントラは小声でリグリットに尋ねると彼女は苦笑した。

「ツアーよ。何事も一歩からじゃ。対話の機会を作るところから始めてもいいのでは?」

「そこの鎧を使ってもいいだろうし。イビルアイを間に立たせてもいい。ラキュースも付けてもいい」

「すぐには返答は出来かねる」

「私はどうでもいいんで……。じっくり考えてください」

 竜王(ドラゴンロード)の反応からアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの事は知らないようだ。それはそれで少し残念ではある。

 長い時を必要とする世界のシステム。

 そんなに悠長に待てる精神ではない、と思う。

「話しが終わったのなら竜王(ドラゴンロード)を解体してもいいですね?」

「いやいや、待て待て。ユグドラシルの特別なアイテムの話しだろう!?」

「ちぇ……。ギルド武器は大切に保管しておくといい。魔導国には秘宝という言葉にしておいた方が盗られなくて済むかもしれませんよ」

「お、おお。それもそうだ」

「そうじゃった。魔導国は建国はしたようじゃが……、どのような国にする気なのかさっぱり分からん」

 そもそもまだ法律を制定中だ。

 街並みはだいぶ完成しているのだが、将来の事を考えて遅々として進まないこともあるのだろう。

「あまり言うと怒られると思うけど……。アインズ本人もどういう国にすべきか悩んでいると思います」

「つまり……、まだ何も決まっていない、ということか!?」

「皆さんがどう思っているのかは分かりませんが、アインズは話しの通じないアンデッドではありませんよ。もちろん、人並みに悩みます。頼れる部下は武闘派ばかり。政治についてはど素人です。戦闘の知識は高いんですけどね」

「魔導王は賢いのではないのか?」

「魔法には詳しいですよ。得て不得手があると思います」

「……う~む、それは意外だ」

「そんな所は部下には中々見せられないから魔法で誤魔化すことも……。仕方がありません。ナザリックの支配者なんですから。部下にみっともない姿は見せられないんです」

「世界に打って出て、都市を焼き尽くしたりはしないと?」

「敵対するものには容赦はしないと思いますが、急に襲い掛かるのは……、無い筈です」

「国民の命は取らないのだな?」

「なんで私に聞くんですか。それを本人から聞いてください。頑張れ、竜王(ドラゴンロード)」

 唸り続ける竜王(ドラゴンロード)。

 見た目は威厳のある風格を備えているのに弱気な性格のツァインドルクス=ヴァイシオン。

 アーグランド評議国において最強の竜王(ドラゴンロード)と名高いはずなのだが。

「インベルンの嬢ちゃんにも協力してもらうから、ツアーよ。頑張ろうではないか」

「が、頑張る」

「……どこをぶった切ろうかな……」

 せっかく竜王(ドラゴンロード)がいるのに手ぶらで帰りたくないな、と呟きながらツアーの鱗を眺める。

 若い竜(ドラゴン)より硬くて良い素材が取れそうだ。

「ヤントラ殿。仮に手足を斬り落としたとして、その後はどうするんじゃ?」

「治癒しますよ。ほったらかしにはしません」

「『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』などをたくさん用意しておるのか?」

「あるにはありますよ。あと、保存用の容器もいっぱいあるので」

 用意がいいのう、とリグリットは小さく呟く。

 やはり一度は保存容器の様子を見た方がいいのかもしれない。

 ヤントラが本当にどこまで危険な人間なのか。

「ツアーよ。足の二本や三本くれてやればどうじゃ?」

「う~む。そのくらいなら……、ってわけにいくか!」

 意外にノリの良い竜王(ドラゴンロード)のようだ。

 大きい図体だが人懐っこい。

 そういうところがあるから十三英雄として活動できたのかもしれない。

 というより竜王(ドラゴンロード)がメンバーに居るとはすごいものだ、今更だが。

「尻尾で我慢してあげます。……培養に物凄く時間かかるんですよ。首を落すのはやめておきましょう。なんだか倒す相手が居なくなるようで面白くない」

「培養!? お前さん、家でどんな研究をしておるんじゃ」

「月へ上がる研究と……、せっかくの原住民を保管したり繁殖させたりする、ありふれた世界構築です」

「せ、世界を作るということか?」

「貴重な生物を戦争などで絶滅させてはもったいない。私は女体が好きだし、偏見にまみれている。気持ち悪い生物は除外します。特に得体の知れないモンスターは。よく、人から戦力増強と恐れられますが……。そういうつもりは……少しだけあります」

 戦力を増強しておかないと厄介なモンスターを駆逐できない。

 必要な武力はどうしても必要だ。だから、否定はしない。

「国を取ろうとは思いません。だからこそ月に行くんですけどね」

「……一度は見てみたいの……。そなたの実験施設を」

「荒らさなければ構いませんよ。保管庫なので街のようには作っていません。あと、規模の都合で巨大なモンスターは置きにくいんです。この程度の規模の竜王(ドラゴンロード)を入れるのは新たに作るか、肉片として保存するか、しかないですね」

「聞けば聞くほどおぞましい。そんな施設が存在するとはな」

 竜王(ドラゴンロード)としては今すぐにでも討伐隊を指揮して飛び立ちたいところだ。

 他国の領内のようだからすぐには無理だが。

「培養したとして出来上がった竜王(ドラゴンロード)はどうなる?」

「意識の無い肉の塊です。ここに居るオリジナルが殺されでもすると精神が培養したものに宿ります。なので、勝手に死んだりすると厄介な事になります」

 復活場所がヤントラの施設という事を言っているのだろうとリグリットは理解した。

 そもそも培養技術を持っているのはすごい事だと思う。

 死体を使役するものと少しは思っていたが違うようだ。

「全てのモンスターを保存……はしないのだな、確か」

「アンデッドや邪神系は厄介なスキルを持っていますから。保存したくないですね。召喚で呼ぶエレメンタル系や非実体のモンスターをどう保存しようか悩みどころだったりします」

 隠さず話す。

 正直者であり、隠し事の苦手な性格のようだ。

 確かに素直な人間だとは聞いていた。

 あと、間違いなく変態だと。それも危険な意味で。

 死者使いとしては魅力を感じるところはあるし、ちゃんとモンスターの危険性を理解しているようにも思う。

「それにしても……。ツアーさん。ギルド武器はいいとして竜王(ドラゴンロード)はそんな武器は装備できそうに無いのだが……、どうするつもりなんですか?」

 どう考えても人間サイズの武器を扱えるとは思えない。

「一定の年齢に達した竜(ドラゴン)は変身出来る。かの竜王国の『七彩(ブライトネス)の(・)竜王(ドラゴンロード)』のように。若い世代の竜(ドラゴン)や国民の為に戦う事になるだろうし、冒険者に装備させる事もあるだろう」

「ギルド武器は誰でも装備は出来ませんよ。それに知らない冒険者に与えるのは危険かと」

「うむ。それは分かっている。最終手段として残すがな」

「敵として戦う事ばかりでは不健康です。魔導国とは交渉ごとで臨むといい」

「だが、世界征服を目的とするならば戦争は不可避ではないか?」

「属国になればいい」

「ぞっ!?」

 何か言い出しそうなツアーをヤントラは手で制する。

「少なくとも自国の一員となった者を無下に扱う事は出来なくなります。それに評議国を統治するには長年統治してきたツアーさん達が必要でしょう」

「魔導王の配下のシモベではないのか?」

「統治できそうなのが数人しか出てきません」

「……うむ、あえて敵の懐に入り、加護を得て今まで通りの生活を保障させるのじゃな」

 国は無くなっても都市は残る。

 戦争する理由が無くなるので市民を危険に晒すこともない。

 暴虐な事でも起きない限り。

 その辺りは交渉してみないと分からない部分があるだろう。魔導王の性格など。

「ギルド武器が奪われてしまう」

「そうか。それでヤントラ殿が保管する、という話しに繋がるのじゃな」

 魔導王でも手出しがしにくい相手が持っていれば、むしろ安全度が高まるという。

「竜王国や帝国も会談の席は設けたようですが、すぐに属国宣言はしていないようです。世界征服は宣言したようですが……。色々と気がかりがあるようで時間がかかっているようですね」

「すぐに戦争を吹っかけてきそうなものだが……。建国して一年以上は経つのに静かだな」

「国の統治方法で悩んでいるんでしょう。部下が余計な事をして市民を苦しめないか、とか」

「魔導王は国民の心配をするのか?」

「悪い王様にはなりたくないようです」

 外面をとても気にするし、悪口に過剰反応する。

 暴虐の王にはならない気がする。

 ギルドの長としてのプライドが残っているのだろう。

「……ただ、部下は支配者のためなら手段は選ばないんじゃないかな。色んな種族が居るので」

 ヤルダバオトのように王都を襲撃してモモンの名声を上げたりするし。

 国を手に入れる一番いい方法は戦争を起こす事。

 ヤントラの知らないところでは着々と戦争を引き起こす算段が練られているかもしれない。

 丁度いい事に貴族は今も魔導王を討とうとしているらしい。

 帝国も危険な魔法詠唱者(マジック・キャスター)の扱いに困っている。

 戦争か属国か。

 たとえアインズや魔導国を打ち破ったとしても国同士の争いは続く。それが権力者の性(さが)かもしれない。

 それはそれで混沌としていてヤントラの望む世界になるだけだ。

「本人との交渉を持たなければならないか……」

「……それにしても『ユグドラシル』ですか。それは誰が言っていたのですか?」

「我らのリーダーだ。様々なことに精通していて……」

 八欲王のギルド武器が『ユグドラシル』製のものならば彼らはプレイヤーなのだろう。それも力に溺れたクズの方。

 今のヤントラも人のことは言えないかもしれない。けれども、無闇な殺戮は控えている。

 控えているったら控えている。

 百年ごとにユグドラシルのプレイヤーが現れて原住民を困らせている。それはそれで同じプレイヤーとして指導が必要だろう。

 もちろん、指導役はアインズ。

 聞いた話しではプレイヤーは大量には来ていない、または来る予定かもしれない。

 アインズ達のように拠点ごともありえないわけではない。

 百年毎なら寿命を迎えているプレイヤーが多いだろう。中には子孫を残している者も居ないとは言い切れない。エロい事が出来る証明でもある。

 問題はどの程度の数のプレイヤーが転移してくるのかだ。

 アバターのまま最終日までログインしていた者はそれ程多くない筈だ。記念だからといって意外と多く残っていたのなら数人ほど街で見かけていそうなものだ。

 それとも現在位置が悪いのか。

 多く転移している国がどこかにあれば結構、脅威かもしれない。特にヤントラをPKしていた連中は確実に敵だ。仲良くなれる確率が低い。

 では、NPC達はどうなったのだろうか。

 真っ先に倒されている可能性の方が高いと思うけれど。

 拠点を持つギルドはNPCを作る権利を得るものだ。

 城クラスで七百ポイントだったかな。

 最高難易度を誇るナザリックでおよそ、いくらだったか聞きそびれたが二千は超えていたはずだ。

「……尻尾からでしたね」

「面白い人間だな、ヤントラ殿は」

 話しを逸らすところを見ると深く追求してはいけない部分なのだろうとリグリットは思った。

 知られてはいけない、というよりは周りに伝播(でんぱ)しない方がいいと思っているのか。

「ヤントラ殿なら八欲王の都市『エリュエンティウ』を攻略できるかも知れんな」

 八欲王が世界を支配した時に作った首都エリュエンティウ。

 そこには都市を防衛する魔法の武具を装備した三十人ほどの守護者が居る。

 十三英雄はそこに行き、いくつかのアイテムの持ち出しを許可された。

「砂漠方面には行ったのではないか? 空中に浮かぶ都市がエリュエンティウじゃ」

 浮遊都市の真下にも都市があり、浮かんだ都市から無限に水を放出する。都市全体を魔法の結界が包んでいると言われている。

 数百年も放水しているのなら水浸しになっていてもおかしくないはずだ。

「砂漠地帯は周りから。中心部は保留にしています。今は近くでシリカの製造とかしているだけです」

「すぐに行ったりしないのだな」

「冒険は時間をかけた方がいい時もあります」

「八欲王のような者に我々は対処せねばならん。すぐに属国など出来る筈が無い。やはりアイテムの収集を続けるしかないと思うのだが」

 アイデアを提供しても評議国の都合で『出来ない』と言われると言葉も無い。

 意見を述べているのだから少しは妥協したらどうだ、とリグリットは呆れる。

「ツアーよ。それは水掛け論じゃ。いつまでも解決せぬぞ」

「魔導国側の招待を断っておるのだから、改めてこちらから、というわけには……」

「グダグダ言うと全身をバラバラにしますよ。いい加減、頭の悪い竜王(ドラゴンロード)は殺したくなってきます」

「そうじゃな。いっそ……」

「こら! なんじゃ、二人して私をイジメおって」

「竜王(ドラゴンロード)が直接、謝罪に行けとは言ってませんよ。相手方の都合もあるでしょう、とか。言い訳くらい適当に見繕ったらどうですか?」

「魔導国の国王は争いは好きな方か?」

「わりと平和主義ですよ。自分達の組織が無事なら率先して攻め滅ぼそうとは……、たぶんしません」

 蜥蜴人(リザードマン)の集落を襲った、という以外はアインズが自ら国を襲うことは聞いた事が無い。

 冒険者モモンとして情報収集している時は真面目に仕事をしていたらしいし。

 モモンの悪い噂は聞かない。聞く気が無かったところもあるけれど。

 悪のロールプレイをしていた人間とは思えない。

「直接対話は必要だろう、ツアーよ。各国首脳が暗殺された、とは聞いておらんし」

 バハルス帝国と竜王国は暗殺したようなものだ、ヤントラが。

 リ・エスティーゼ王国のラナー王女を入れると一番の悪党はヤントラだろう。

「……たぶん、私が一番の悪人ですね」

「そ、そうだった。今まさに私を殺そうとしておる」

「実際には殺したりはせんじゃろうが……。それはそれとして、ツアーよ。時間を作って魔導国と対話する案は考えた方がいいぞ」

「う、うむ。だが、どこで会談するかで揉めるだろう」

「他の竜王(ドラゴンロード)は遠隔操作はできるのですか?」

 と、白銀の鎧を指してヤントラは言った。

「竜王(ドラゴンロード)は人間に変身出来るじゃろう。巨体で会談しなくとも……」

「魔導国に乗り込むのは抵抗があるな……」

「私の施設を使ってもいいですよ。イビルアイ達も利用しているし、都合のいい状態になってます」

「……行きたくないな……」

「贅沢は言いっこなしじゃぞ。というか、大きい図体でただをこねるでない」

 魔導国との会談は自国で検討する事になった。

 抑止力とする武器はあまり役に立たない事を言われてがっかりしたツアー。

 代わりに色々と希望の武器をヤントラが用意する事になった。

 鍛冶職の練習になるから、というのもある。

 本来なら眼球などを引っこ抜くのだが尻尾で我慢する事にした。

「はぁ!?」

「聞いていると恐ろしいな」

 イビルアイから色々と聞いてはいたが言葉を濁される理由が分かった。

 おぞましくて口に出したくなかったのだろう。

 自尊心の塊のような人間がしおらしくなるほどに。

「評議国にケンカを売る手間が省けるので。改めて……」

「尻尾を少しくれてやればどうじゃ? このままだと戦争になりそうじゃぞ」

「……ぐぅ……。だが、竜王(ドラゴンロード)の身体を切り裂ける武器……」

 言っている側から物騒な大剣が姿を現す。

「おぅわぁ!? お、お前は竜殺し(ドラゴンスレイヤー)か!?」

 『討伐者(スレイヤー)』という上級職は存在する。

 ヤントラは種族問わず殺す暗殺者(アサシン)だ。

 暗殺者(アサシン)というかジェノサイダーの方が近いだろう。

「竜(ドラゴン)は既に倒しているので、問題は無いです」

 若い竜(ドラゴン)に比べてエンシャントの竜(ドラゴン)は能力的にも格段に高い。

 口で言うのは簡単だが実際の戦闘では苦戦する、普通は。

 広い空間とはいえ派手な戦闘が出来るほどではない。

 『始原の魔法(ワイルド・マジック)』を人間に使うのはもったいないし、近くにリグリットが居る。

「白金(プラチナム)の(・)竜王(ドラゴンロード)の尻尾をよこせ、だなどと言ったものは君が始めてだ。まして眼球とか……。狂人か君は」

「妻によく言われました」

「誉めてないから!」

 人間の笑顔は理解している。

 ヤントラが笑っているようにツアーには見えた。

 グダグダ文句を言う竜王(ドラゴンロード)に対し、必要な魔法を次々と唱えていくヤントラ。

 もはや強引な手法に出るつもりのようだとリグリットには見えた。

 本来の竜王(ドラゴンロード)は人間に遅れは取らない。

 強固な防りがあるはずだ。それをヤントラは平然と突破してきている。

 八欲王が強大な敵だったように竜王(ドラゴンロード)一体では勝ち目が薄い相手なのかもしれない。

 転移により尻尾の部分に移動し、下から振り上げるように武器が奮われる。

 静かに切り裂かれる尻尾だったが中心の骨に当たった時に武器がへし折れた。

「ゴァ!」

 ヤントラは慌てる事無く、新たな武器を取り出して上から叩き斬るように振り下ろした。

 五メートル分の尻尾が転がる。

「刃こぼれするとは……。並みの身体ではなくて安心しました」

 一先ず尻尾に『保存(プリザーベイション)』をかけて遠くに蹴り飛ばす。

 本体に近いと治癒魔法をかけた時に元に戻ろうとする力が働く可能性がある。

 慌てるツアーの本体に回復魔法をかける。

「身体が大きいので時間はかかるけど、ちゃんと治りますよ」

 と、言ったヤントラにツアーの前足が振るわれる。

 痛みと怒りによる思考力の低下。

 というか単に怒ったのだろうけれど、今の一撃でヤントラは壁に激突し、沈黙する。

「くたばれ、この野郎!」

 とどめのブレス攻撃の態勢に入ったところでリグリットの静止の声が飛んでくる。

「やめんか、ツアー! ほれ、尻尾が生えてきたぞ。少し落ち着け」

「あっ!? 落ち着いていられるか! あれは危険だ。この場で葬らないと……」

「殺す気なら最初の段階で首を落としていたであろう」

 ツアーは背後を振り返り、尻尾の辺りを見ようとしたが見えない。

 痛みは既に無いけれど、急な喪失感は気持ち悪い。

 治ってきているとはいえ傷跡が大きいので血が景気よく噴き出している。

「尻尾が生えている!?」

「そうじゃ」

「……低い位階魔法ではないということか?」

 部位の再生は高い治癒魔法でなければ無理だ。

 いくら竜(ドラゴン)とて第五位階や儀式などを経て第七位階がやっと。

「信仰系第六位階の『大治癒(ヒール)』じゃな。高い位階魔法を扱えるからこその技じやろう」

 回復手段があるからこそ無茶な事が出来る。

 イビルアイが手放しで尊敬するわけがない。ちゃんとした実力を持っているからこそだ。

 それはそれとして傷の治りが遅くなり、未だに出血している。

 回復魔法を新たにかけなければならないだろう。

「このままだと中途半端な状態で再生が止まってしまうぞ」

「……おお、あの野郎……。というか、今の一撃で死んだか?」

 リグリットが屍同然のヤントラの様子を見ると身体の治癒が始まっていた。

 もろに食らったせいですぐには立てないようだった。

「無事かの~? こっちはこっちで時間がかかりそうじゃな」

 ヤントラに要求する時は気をつけろ、と言われた理由はよく分かった。

 身体を提供するとは部位の搾取を意味する。そして、それを現実に見た時に恐れて慌てる。

 竜王(ドラゴンロード)をも倒す算段を持っているのは素直に驚いた。

 ギルド武器を集めるどころではないかもしれない。

 数分後に復活してきたヤントラは軽く準備運動を始める。

 普通なら死んでいるケガも骨折すら治癒してしまった。

「要求ばかり飲まされたのだから尻尾の一本くらいは我慢したらどうじゃ?」

「人事みたいに言いおって。すごくびっくりしたぞ」

「誰でもびっくりすると思うがの」

 慌てふためく白金(プラチナム)の(・)竜王(ドラゴンロード)。

 まだまだ元気に動き回れるようで安心した。

 竜王(ドラゴンロード)の怒りの一撃は予期していたとはいえ意識が持っていかれてしまった。

 リグリットが声をかけてくれなければ死んでいたかもしれない。

 なにせ、防具は無く普段着だったから。

 身軽だけど攻撃を受けると大ダメージだ。

 全快するまでまだ少し時間がかかるようだ。その前に竜王(ドラゴンロード)のケガの具合を確かめる。

 血はまだ出ていたので新たに魔法をかける。

 図体が大きいから二回は必要だろうか。

 肉が盛り上がり安定してくると鱗が生え揃う。ただし、出来たてなので柔らかい。

 数日放っておけば硬くなるだろう。

「……ちゃんと再生していっておるわ。これはなかなか不思議な光景じゃのう」

 どんな要求か分からないけれど若返りも可能らしい、とリグリットは聞いていた。

 伝え聞いた噂でフールーダが物凄く若々しくなった、とか。

 不老不死の場合は封印が怖いと言うことでリグリットも少し納得した。

 引き際はとても大事だ。不死になって壁の中に封入されたくは無い。ただ、若さには興味がある、女の子だもん、と。

 イビルアイも慎重に事を進めてもらったと言っていた。

 若返りが出来る、という事は老化も可能だ。

 一時間ほどで再生が終わった後、ヤントラはシーツを取り出して竜王(ドラゴンロード)の尻尾に巻いていく。

 黙っていると大人しい人間だが欲望は八欲王並み。

 無闇に暴れない所は安心する。

 巻き終わると淡々と流れ出た血で汚れた地面を掘り、箱に入れていく。というか、次から次へとアイテムが出てきて驚かされる。

 壊れた武器も回収された。

「……掃除道具もあるのか?」

「変なモンスターが湧いてこないように、という願掛けというか……。そんな感じのものです」

 地面に『火球(ファイアボール)』などをぶつけて滅菌処置までする。

 習得している魔法かと思っていたが、いくつかの魔法の時はスクロールを使っていた。

 次から次へ手数の多い人間だな、とリグリットは驚いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。