※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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M-8 アインズは見栄っ張り

 書類や内装の調査をしていたヤントラにリグリットはフェルトの製作現場に連れて行ってもらうことになった。

 メイドが数人現れる。

「武器は……、要らないか……。まだ作業が残っているから」

 ついつい用済みになったら処分してしまいそうになる。

 フェルトはまだまだ必要で石鹸水が無くなるまでは残しておく。

 むしろ、石鹸の製作に時間がかかるのかもしれない。

 油と灰から作られるのだが大量に必要なので。

 灰そのものだと真っ黒くなるので水や湯で溶かし、こした灰汁(あく)を使用すると良いらしい。

 準備が出来たところで転移する。

 次に現れた場所に到着した途端にリグリットは驚愕した。

 目の前に巨大なモンスターが鎮座していたのだから。

 距離にして数十メートルは離れていた。だが、物凄く近くに居るように感じた。

「……はぅわぁ……、これほどとは……」

 巨大だとは聞いていたし、ツアーの巨体にも慣れていた。

 大きさで言えば小さいかもしれない。

 存在感が違った。

 まともな生物の姿ではない。

 五本の足が生えている丸い身体。天辺(てっぺん)には無数の触手。

 全体的に黒くて邪神系に相応しい。

「……先ほど厠に行ったばかりなのに、また行きたくなってきおったわ」

「作業に専念しているので勝手に動いたりはしませんよ」

 足元にはメイド達が居たが一人だけ倒れていた。

「おや? モンスターの襲撃でもあったのかな」

 背中を貫くのは太い尻尾。それは蠍系モンスターの毒針のようだった。

 倒れているメイドは既に死んでいた。

 人間種だし、服は普通。攻撃は普通に通る。

 レベルが高くても物理攻撃無効は備わっていない。

 他のメイドに死体を運び出し、追加のメイドを呼んでおくように命令する。

 襲撃したのは近くに建てている小屋に縛り付けてあるらしい。

 尻尾を落とされている筈だから脅威度は低いだろう。

「……『蠍女(ギルタブルル)』か……」

 上半身が人間の女性で下半身が蠍の亜人。蜘蛛女(アラクネ)の亜種のようなものだ。

 蠍人系。バビロニア神話に出てくるモンスター。

 砂漠地帯には何体か死体だけ転がっていたのは発見していた。

 生きているのに出会えたのは運が良かったのだろう。

 メイド達に食料などを与えるように命令しておく。

 飢えによって今は虫の息だった。

「他にも捕まえたようだな」

 砂漠特有のモンスターが居たので、そちらにも食料を与えるように命令しておく。

 餓死したものは処分するしかない。

 モンスターとて生きる為に必至なのだから。

 エジプト神話のモンスターは遺跡などに居るのだろうか。

 ごちゃ混ぜになった神話のモンスターでは生態系に影響が出そうだ。

「確かにあんなモンスターは見た事が無い。あれは……、強いのか?」

「強いですよ。身体も硬いので。特殊召喚モンスターが弱いと困りますから」

 一撃で倒す事はほぼ不可能。

 並みの武器では歯が立たない。

 単純な攻撃しかしないけれど、圧倒的な存在感で襲ってくるので立ち向かうのも大変だ。

 白金(プラチナム)の(・)竜王(ドラゴンロード)は巨大な竜(ドラゴン)だが、こちらも負けず劣らず大きい。

 竜王(ドラゴンロード)でもない限り、逃走を余儀なくされるだろう。というか、見た目が気持ち悪い。

 戦闘意欲を減退する意味でも強敵と言える。

「召喚モンスターなので倒しても経験値にはならないかもしれませんね」

「魔法の的としては申し分ないな」

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)でも近づきたくない相手だ。

 人間を不安させる姿というのか。

 悪夢に出てきそうだ。

 イビルアイが怖がっていた理由がよく分かる。

「いくつか命令してみましょう」

 ヤントラはメイドに命令を与え、メイドは黒い仔山羊に命令を伝える。

「メエエエェェェ!」

 触手を奮い、鳴き声をあげる。

 リグリットはそれだけで尿意を覚える。

「うおぉ……。声に不安の効果でもあるのか?」

「トイレはそっちの部屋です。このモンスターは人に不安を与えると言われています。そういうモンスターですから、形状もそうですが、人間が相手にするにはしっかりとした準備が必要ですよ」

「う、うむ」

 まず先にトイレに駆け込み、出すものを出しておく。

 襲撃してこないけれど、鳴き声のたびに尿意が湧いて来る。

 イビルアイは戦争の現場でもっと辛い目に遭っただろう。

 竜(ドラゴン)も強敵だが不安を煽(あお)る事は少ない。

「……おかしい。ツアーより小さいのに……」

「竜王(ドラゴンロード)より強いからでしょう。最強のモンスターというのはおそらく八欲王だったのではないかと。彼らよりは弱いはずです」

「八欲王はこのモンスターより強いじゃと? 何か根拠があるのか?」

 確かに竜王(ドラゴンロード)十体以上と互角か、それ以上の強さがあると言われている。

 実際の強さは見たことは無いけれど、このモンスターより強いのが想像できない。

 メイドに新たな命令を与えて数分後に槍を持った女性が現れる。

「人間の姿をしていますが女神系モンスター『影の国の女王(スカアハ)』と言います。強さ的には黒い仔山羊と同じくらいです」

「はっ? このモンスターと同じ強さ?」

 黒い仔山羊はフェルト作りから離れて移動を始めた。

 それから物凄い勢いで走り回る。

「あれが戦場でイビルアイが見た黒い仔山羊の姿です」

「………」

 触手を振り回し、馬よりも早く駆け巡る。

 それは逃亡など出来よう筈の無い速度だった。

 悪夢が猛烈な勢いで兵士達を太い足で踏み潰していくのだろう。

「……おぉ。じょ、冗談じゃないわい。兵士にあんな化け物が相手になるか! 魔導王! なんというものを召喚したんじゃ」

「メエエエェェェ!」

 可愛い山羊の鳴き声。迫り来る黒い暴虐の塊。

 戦場から帰ってきた兵士達が後ろが気になると言っていた理由がよく理解出来た。

 むしろよくぞ生きて帰ってきた、と言いたい。

「……それが五体も出たんじゃな。……というより、こいつをどうしてお前さんが持っておる?」

「倒したからですよ」

 倒した。

 簡単に言うが、倒せるモンスターだろうか。

 いや、ツアーの尻尾を斬りおとしたのだから出来ないはずはない、かもしれない。

 だが、黒い仔山羊は別格だと思う。

 イビルアイから肉片が保存されている事は聞いた。ただ、その肉片を再生させただけだ。

 つまり、仔山羊を倒して肉片を手に入れた、ということだ。

 あのモンスターを倒さなければ出来ない芸当だろう。

「……まあいい。せっかく若返った頭がぱーになっては困る」

「怖がらせるつもりはございませんよ。責任を持って管理しますから」

「うむ。それは、本当にそうしてくれ」

 ツアーが見ても驚くだろう。

 むしろどんな戦いになるのか気になるくらいだ。

「では、ここからが見所かもしれません」

 影の国の女王(スカアハ)に命令を下す。

「畏まりました、我が主」

 一足飛びに遠くに行った黒い仔山羊に向かう影の国の女王(スカアハ)。そこに恐怖心は微塵も無い。

 ただ、命令に従順なシモベだ。

 あまりにも遠いと困るのでメイドが駆け出して新たな命令を下すと黒い仔山羊が鳴きながらヤントラのところに向かってくる。

 遠くといっても身体は小さく見えない。それが土煙を上げながら足を恐ろしい勢いで動かして迫ってくる。

 リグリットは武器を構えて迎撃できるか、想像してみた。

 竜(ドラゴン)の突撃を兵士に止められるはずがないのと同じように、逃走を選ぶだろう。だが、黒い仔山羊というモンスターは不安を与えてくる。

 おそらく目の前に迫った段階で足腰が震えて逃げられなくなるだろう。

 巨大モンスターの猛攻はそれだけで脅威だ。

 ツアー相手なら転移などで逃げる算段がつくかもしれない。

 兵士に『飛行(フライ)』や『転移(テレポーテーション)』などの方法が選べるわけが無い。そのまま踏み潰されてしまうだろう。

 真に恐ろしいのは初めて見る脅威のモンスターというところだ。

 事前の予備知識が無いモンスターほど怖いものは無い。

 リグリットも二度、三度と観察できれば恐怖心は下がるかもしれない。けれども戦場でそういう機会は中々訪れないものだ。

 こんなにおぞましいモンスターとは思っていなかった。もっと単純な形だと。

 巨大なアンデッドモンスターならまだ免疫があっただろう。

「……『破滅(カタストロフ)の(・)竜王(ドラゴンロード)』と言われても信じるぞ」

「普通は召喚モンスターとして呼ばれるので時間になったら消えます。だけど、これは消えません。ちゃんと殺さない限りは」

「倒せるのか?」

「倒します。そのための準備は整えていますから。実際に五体くらいは倒しているはずです」

「……ちゃんと倒してくれ。これは街に現れていいモンスターではない」

 最初は怖かったが、だいぶ黒い球に慣れてきた。

 鳴き声は聞くたびに尿意を刺激されるので、恐怖などの効果が含まれているのかもしれない。

 それも高位の術者に通じるほどだから上位モンスターなのは間違いない。

 影の国の女王(スカアハ)は全く恐怖を感じていないのか、槍を繰り出して攻撃を始めた。

 黒い仔山羊は触手で影の国の女王(スカアハ)の攻撃をさばく。

 ガンガンと重い音。金属とぶつかるには耳をふさぎたくなるような重低音が響く。

 槍一本で無数の触手をさばく影の国の女王(スカアハ)の動きはリグリットの視力では捉えにくいほど早かった。

「すさまじいのう」

 モンスターの触手攻撃も凄いが影の国の女王(スカアハ)も負けていなかった。

 リグリットは精神支配系を阻害する魔法などを改めて確認し、戦闘を見守る。

 強いモンスターは相対しただけで畏怖させるという。それはあながち間違ってはいない。

 自然界に居ないようなモンスターは特に。

 戦闘だけ見ていると目が慣れてきたのか、恐怖に耐性がついたのか。

 単純な攻撃しかしない黒い仔山羊の動きはツアーの方に分がありそうな展開になってきた。

 空を飛んでブレス攻撃。

 始原の魔法(ワイルド・マジック)は切り札としても。

 五体居てもツアー達、竜王(ドラゴンロード)が勝ちそうだった。

 ただし、攻撃が通じればの話しだが。

 硬い身体を持つと聞いていたのでブレスが効かなければ意味がない。

 ケガらしい傷も見当たらない。どれだけ硬い皮膚なのだろうか。

 影の国の女王(スカアハ)の槍が刺さっているところは見た事が無い。

「相当な硬さがあるようじゃな」

「アダマンタイトでもへし折るでしょう。ガゼフさんが持っていた『剃刀の刃(レイザーエッジ)』以上の武器ならば切り傷は付けられると思います」

「あの秘宝を持ち出さないとダメな程か……。勝算が低そうじゃのう」

 そんなモンスターをどうやって倒したのか。

 高位の魔法だろうか。

「武器だけではダメですよ。生粋の戦士職でなければ」

「それはそうじゃろうな。では、魔法ではどうじゃ?」

「第十位階魔法は最低でも必要ですね」

「……絶望的じゃな」

 数十の攻防。

 皮膚に何発か槍が当たってはいる。だが、影の国の女王(スカアハ)も攻撃を受けて顔が血まみれになってきた。

 高速治癒のスキルを有しているとはいえ、頭部に攻撃を食らうと一瞬だけ朦朧状態になる。

 脳に損傷を受けたからかもしれない。それでも女神のモンスターだ。

 すぐに体勢を立て直す。

 触手の攻撃を受けても身体が爆散しないところは高位モンスターだからだろうか。

 一般兵士なら防御したまま砕け散るだろう。

「そろそろ仕事に戻ってもらいましょう。今は倒されては困りますので」

「いやいや、見事な戦いじゃった。……こやつ、不安を振り撒く能力があるのか?」

「不安を覚えさせるモンスターだったはずです。邪神系ですし、人々に恐怖を与えるのは普通……」

「普通か!? 少し慣れたが……、初見じゃあ、きついのう。いきなり戦場に出てこられたらたまらんわい。いや~、参ったわ」

「即死効果が無い分、楽かもしれませんよ」

「それはそうじゃろうな。でなければ死人だらけじゃ」

 メイドに命令を与えて影の国の女王(スカアハ)達を下がらせる。

 影の国の女王(スカアハ)には治癒魔法をかけておいた。

 黒い仔山羊は大人しく作業に戻り、他のメイド達は踏み荒らした現場の整地を行(おこな)っていく。

 歩くたびに振動が伝わってくるので、相当な重量があるのは身体に伝わってきた事で理解した。

 単純な体当たりでも人は死ぬだろう。

「命令を聞く、ということは賢いのか?」

「はい」

「それは……、厄介じゃな」

 知性の劣るモンスターなら戦いようがいくつか浮かぶ。だが、知能レベルが高いモンスターはこちらの攻撃を避けたり、的確に得物を狙ったり出来るということだ。

 相手の嫌がる方法を選ばれると非常に戦いにくいだろう。

「一体だけなら、なんとかなるかも、じゃな」

「限界数は五体らしいが……。再生版は一度は試したいですね。十体以上を」

 動かないのであれば実験として試すのもリグリットとしてはやぶさかではないと思える。

 戦場に五体どころが二体以上も居れば全滅は必至。

 敵としては出会いたくないモンスターだ。

 イビルアイが嫌がる理由も理解出来る。彼女に言われた通り倉庫に置いてあったマスクと手袋を着用する。

「触っても良いかな?」

「もう大丈夫です。ただ、体液には気をつけてくださいね。あと、口に手を入れないように」

「うむ。了解した」

 フェルト作りに戻った黒い仔山羊の足部分に触れる。

 手の感触では石と変わらない。

 身体全体の大きさが十メートル。触手を入れると倍といったところだった。

 武器を当てても平気か尋ねるとヤントラは頷いた。

 二、三回ほど叩き付けてみたが石に当たっているようで硬かった。

 ただ、硬質的な皮膚にも関わらず柔軟な動きを見せる。

「……兵士の武器では無理じゃろうな」

 表面には細かい傷でもあるのかと思ったが見当たらない。

 丸いので影の国の女王(スカアハ)が攻撃を加えた場所が分からない。

「私でもそう簡単には倒せないモンスターです。傷だけなら見せてあげましょうか?」

「お願いしようかの。この辺りを頼む」

 武器で攻撃箇所を指定する。

 ヤントラは見た目には普通の剣を取り出した。

 それは切れ味に特化した『処女の業(ヴァージンカルマ)』というブロードソード。

 アポイタカラ製だが、大剣版は検討中だった。

 在庫としてはまだ少し残っているのだが、新しく作り直したかった。

 必要な増強魔法の後、斬撃を叩き込む。

「……おお!」

 数十の斬撃。と、体液を浴びないようにメイド達がリグリットを守護する。

 影の国の女王(スカアハ)では刺さりもしなかった硬い皮膚に切り傷が生まれていく。

 それは少しずつ多くなり、体液が漏れ始めてくる。

 自分の時は石を叩いたような音だったのだがヤントラの場合は石を小気味よく削り取るようなものだった。

「こんなものかな」

「凄い。凄いものを見せてもらった」

 出来た傷に改めてリグリットは自分の武器を当てるが、石に阻まれたように硬くてどうにもならない。

「はぁ!? これは参った……。ブロードソードが通じんわい」

 というか安物の武器だから、ということもあるだろう。

「小さい傷を増やして広げていくしかない。中身も硬いので。体液は体内に入ると危険です。毒に耐性がない人は命を落とすかもしれません」

「毒消し対策は出来ておる。たとえば体内に『火球(ファイアボール)』を打ち込んでも無駄か?」

「少し焼ける程度です。簡単に死なないところが強者たるゆえんです。耐久力がとても高い」

 作業に支障が出ては困るので治癒魔法をかけておく。

 硬い皮膚とはいえ治癒されるとすぐに傷跡が消えてしまった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 見るものを見た後で『マグヌム・オプス』に転移で戻るとイビルアイが駆け寄ってきた。

「……凄まじいモンスターじゃった」

「そうか」

「一体だけなら何とかできそうじゃな。竜王(ドラゴンロード)達が」

「……そう簡単にいけばいいが……。とにかく無事で何よりだ」

 ヤントラは女体モンスターなどの回収を忘れたのでもう一度、転移で移動する。

 若返ったリグリットは心臓に悪い現場を見てしまったので、しばし休憩を兼ねて六の宝物庫でくつろぐことにした。

 風呂を勧められたがイビルアイと一緒に入るなら、ということで大浴場に移動した。

 地上の宿舎の風呂は狭いので。あと、ここには風呂道具が揃っている。

 洗い場にも使うのだが、風呂場としても優秀で掃除も毎回行(おこな)われていて清潔だった。

 イビルアイ達が居ない間にヤントラはモンスターの処理を始める。

 オリジナルはすぐに死にそうなので眠らせて保管する事にした。

 砂漠地帯は生物が暮らすには苛酷な環境なので水場や食料の確保が出来る施設でも作ってやりたいところだった。

 自然の掟を破ると生態系にも影響が出るかもしれない。その辺りも難しい問題だ。

 数日を費やし評議国側の準備は整った。

 イビルアイはナザリック地下大墳墓の第十階層の玉座の間にて評議国との会談について説明する。

 跪(ひざまず)け、と階層守護者に言われたが毅然と拒否した。

 形式的な敬礼で我慢しろ、と。

 アインズは話しを優先させる事にしてイビルアイの好きにさせることにした。

 対する魔導国はナーベラルなどに連絡を取るのだが、アインズはむしろ驚いていた。

 前回は無視されたので今回はどういう意図があるのか、と。しかもヤントラがらみ。

 素直に橋渡ししたと思えば良いのに余計な深読みをするアインズと曲解ばかりする階層守護者達。

「直接見たわけではないが、ご主人はそれ程大層な他意は無いと思うぞ」

 と、イビルアイが呆れながら言った。

「そうか? まあ、施設作りに忙しいだろうしな」

 礼や報酬についてはまったく言及していないので言われるまで無視する事に決め込んだ。

 さすがに世界級(ワールド)アイテムをよこせ、と言われたらどうしようと思いはした。

「それより竜王(ドラゴンロード)は大きい身体だと予想していたが『マグヌム・オプス』にどうやってくるんだ?」

「変身能力があるから人間形態か……。全身鎧(フルプレート)を遠隔操作するんじゃないか。こちらはモモン様で行く、なんて言わないだろうな?」

 対抗意識は燃やさなくていい、と伝えておいた。

「了解した」

「評議国は戦争の準備はしていない。人間と亜人は仲が悪いのだが、王国に恨みがあるほどではない、ことは分かってくれ。獣人(ビーストマン)のように食料に困っているわけではない」

「うむ。……それにしても竜王(ドラゴンロード)か……」

「亜人の評議員も居るぞ。世界の行く末はどこも心配事の一つだからな。まして、評議国は八欲王と凄絶な戦争をしてきた歴史がある。アインズの強さが脅威と分かれば……、どうなるか」

「八欲王か……。噂では聞いていたが……」

「そうそう。ばばぁに聞いておいたがアインズの仲間と思しき者達は見当たらなかったらしい。アインズと同じくらいの強者なら目立つはずなのだが……。地下に潜んでいるのか……。もちろんアインズ・ウール・ゴウンという名は評議国でも浸透している」

「おお、そうなのか。浸透していて無反応は寂しいな。あい分かった。評議国の者達と会談の手はずを整えよう。というか、予定だな」

 評議国には居ないのか。それとも偽物に警戒しているのか。

 何らかのアプローチは欲しかった。

 居ないのであれば、それはそれで仕方が無い。

 ヤントラが討伐しに行っているわけでもなさそうだし。

「竜王(ドラゴンロード)と相対するのは早計ではないでしょうか?」

 と、アルベドが進言する。

「こちらはまだ国として活動しておりません」

「早めに何らかの覚書でも交わそうという魂胆かもしれない」

 というアインズの言葉にアルベドや他の階層守護者達が頷く。

「相手が何を考えているかは直接対話の方が早いし、理解もしやすい。伝言ゲームでは真意が歪められるおそれがある。それに今回は非公式に近い。公式ならば公の場で会談をするのが一般的だろう?」

 例えばお互いの国の会議室のような場所など。

 移動している間に何者かの襲撃があっては互いに非難しあう結果が生まれてしまう。

 第三国による陰謀など。

「非公式に交わせる約束事など少ない。……それに偽装しているとはいえ、向こう側が会いたいと言って来たのだ。こちらも誠意を見せなければ」

 争う理由が無いので竜王国のように友好的に事が進むかもしれない。

 同盟国が増えるのは気持ち的にも嬉しいものだ。

 属国の噂が飛び交っているようだが、それは仕方が無い。世界征服なんて言っちゃっているんだから。

 元々はヤントラが争いを避けるために王国を脅したのが原因らしい。

 確かに世界を征服する力技が出来るほどの力は持っていると自負している。

 それはもちろん敵性プレイヤーが居ない事と強者が居ない場合に限られる。

 アダマンタイト級の力を把握したからこそアインズが本気を出せば世界征服はたやすいとタレントなどで見せたのかもしれない。

 普通なら厄介な魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居れば武装を整えて戦え、と言うところを戦うな、と言っている。

 押すなよ絶対に押すなよ理論で言えば、そんなことを言われれば戦争の準備を逆にするところだ。

 それをさせなかった、またはしなかったのは何故だろう。それはアインズにも分からない。

「相手は評議員だけか?」

「アーグランド評議国だけだ。竜王(ドラゴンロード)も三体だけだと聞いている。他の竜王(ドラゴンロード)は自由気ままにどこかにいるらしく、白金(プラチナ)もよく知らないとか」

「そんなんでよく国がまとまっているな」

「どうまとめているのかは私も分からない。竜王(ドラゴンロード)以外の評議員も居るから丸投げでもしているんじゃないか」

 イビルアイは苦笑する。

「今回はご主人のお陰もあるかもしれない。魔導国に対して会談ではなく力による防衛計画が着々と進んでいたようだからな」

「ほう? 魔導国とことを構えようとしていたのか」

「らしいな。いわゆる見えない敵は怖い、という奴だ。王国と似たような感じだな」

「なるほど」

「抑止力はどこの国も欲している。不測の事態に対処することは当たり前だ。魔導国はアインズ。竜王国はドラウディロン女王。評議国は白金(プラチナ)ことツァインドルクス=ヴァイシオン。やはり強大な敵はどこも怖いものさ」

「評議国は竜王(ドラゴンロード)という抑止力で魔導国に対抗しようとしていたのか?」

「魔導国というよりは……、八欲王のような存在だろう。アインズは八欲王のような邪悪な敵かも知れないという……」

「……竜王(ドラゴンロード)をも恐れさせるのか、八欲王は」

「そうらしいな。それは本人に聞けばいい」

 会談の内容は魔導国とはどういう国なのか。それは聞いてくるだろう。

 イビルアイはリグリットと共に作っておいた事前の質問内容予想を書いた書類を出した。それはまずアルベドが受け取り、罠などが無いか確認してからアインズへと渡る。

 その書類は王国語で書かれていた。

「……どうかしたか? 何か聞かれては不味いことでも?」

 不味いのは文字が殆ど読めない事だ。

 勉強は少しずつしている。だが、殆どまだ読めない。

「イビルアイ……。申し訳ないが、奴を呼んでくれないか?」

「ご主人か? 構わないが……。ケンカはしないだろうな? なんかますます様子がおかしいのだ。ぼーっとしたり、痴呆みたいな感じで……。頭を殴られすぎて、ぱーになったのではないかと……」

 あまり聞きたくない情報にアインズは軽く呻く。

 確かにメイド達も話し半分で呆然とする事があると聞いていた。

 疲れているのでは、と思っていたが違うのだろうか。

「治癒魔法はかけているのだが……。少し心配だ。頼むから穏便に相手をしてくれ」

「魔力系の私にはどうにも出来んが……。後でペスにでも見てもらおう」

「うむ。では、連れてくる」

 イビルアイが去って数十分後にヤントラがナザリック地下大墳墓第十階層の玉座の間に訪れる。

 アインズから見たヤントラは少し疲れが見える程度でいつもと変わらないムカつく顔だった。

 涎などは垂らしていないし、足取りも普通のように見えた。

 イビルアイには図書室に待機してもらい、ヤントラとアインズは第九階層の空き室のひとつに移動した。

「……せっかくお前と国について議論しようと思ったら、元気が無いと聞いて驚いたぞ」

「あ……。うん。それは目的がなくなってきたからだろう。飽きっぽいというより……、なんだろうな……。説明が難しい」

「それはそれとして……。イビルアイが持ってきた書類だが……。王国語で書かれているぞ。お前が翻訳してくれたのかと思っていたのに」

 言葉は自動的に翻訳されるが文字は自力で勉強しなければならない。

「それは悪かったな。製作で色々と後回しになっていたようだ」

 椅子はヤントラ自身が出して机は一般メイドに運ばせた。

 イビルアイが持ってきた書類を即座に日本語に書き直す。

 完璧というわけではなく、ヤントラも自作のメモを見ながら分からない単語を調べていく。

「……見栄っ張りも後々きついぞ。そういえば辞書も途中だった」

「現地の言葉を覚えるのは中々進まないな」

 一番の問題は部下の目があるということだ。

 見栄っ張りなので勉強している姿を見せたくない。支配者だもん。

 その意地さえ無ければもう少し柔軟に対応できるのかもしれない。その勇気がなかなか出てこなくて困っている。

 『獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)』という魔法の名前だけ何度か言ってみた。

「ナザリックに居る時くらい多少の勉強はいいんじゃないか? 図書室があるんだし。そんなにみっともないか?」

「何でも知っている支配者は尊敬に値するだろう」

「いやいやいや。何でも知っているなら千年先まで予定が決まっているだろう。勉強に励むといっても子供じゃないんだから」

 というか、お前社会人だろう、とヤントラは思う。

「アインズ様。そんなことも分からないんですか? って意地悪な事は言われないと思うけどな」

 今の言葉は少しアインズに刺さった。

「そ、そうか?」

「見栄もほどほどにしろよ。ンフィーレア君に色々と質問していた勇気を思い出せ」

「その勇気が何故、ナザリックで効果を示さないんだ……」

 自分でも分かっているのだが、自然と拳に力がこもる。

 ほんの僅かな勇気がほしい。

「辞書のことを忘れていたから、急いで作ろう。さすがに帝国や竜王国、今回の評議国の追加は困るが……」

 スレイン法国は魔法やタレント的に行ってはならないと言っているのか、調査にすら行っていない場所だ。

 信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)を多く抱え、森妖精(エルフ)と亜人達などと戦争している国。

 各国には六色聖典の諜報員が活動している、などなど。

 人間至上主義の国である事以外は王国や帝国に対し、中立を保つ国だ。

 六大神を信仰し、傍目からは平和そうな印象なのだが人間以外には容赦しないところがある。

 厄介な宗教国家ともいえる。

 他の特色として一夫多妻を条件付きで認めている。

「……こんなところかな……」

「この頃、報酬を要求しないがとんでもないことでも計画しているのか?」

「女体以外の欲が湧いてこない。便利な魔法の悪影響だな。支配欲でもあれば王国を領土にしたりしていたのかもしれないし、砂漠地帯や森林地帯に国家樹立も果たしていたかもしれない。……自分ひとりしかいない王国になるんだろうな」

 今はイビルアイ達が居るから支配欲はそれほど湧いてこない。

 ラキュースが無事であれば、それでいいし。

 妻の扱いを悩むのも退屈しのぎにはなるだろう。

 子供達がもう少し大きくなれば色々と教える事も出来る。

 大それた計画は月以外では正直、考えたくなかった。

 気の向くまま生活できれば、それでいい。

「お前とはじっくりと話し合う予定だったが……。評議国との会談のあとだ、な……」

「頑張れ。離れた国家はどうも侵略戦争のことばかり考えてしまうらしいな」

「そのようだな。評議国が招待を拒否したくらいで怒りはしないのに……」

 怒らないけれど無視されたことは多少は根に持ったり、気にしたりするだろう。

「……お前と一緒で何かを警戒したんだろうさ」

「……うむ。警戒する気持ちは分からんでもないな。今度の相手は異形種だし、スレイン法国のような毛嫌いはないと思うが……」

「そうだな。一つ教えておこう」

 アインズにしっかり向き直るヤントラ。

「強大な吸血鬼に攻撃した事があるんだそうだ」

「なに!?」

「おそらくシャルティアだろう。その辺りを気にしていた」

 アインズは怒りのオーラを噴出する。しかし、ヤントラは手で制する。

「説明では既に精神支配された後だったようだ。近づいたら攻撃されたと言っていた」

「支配された後だと!? そ、それなら……、そうだな。そうなるな」

「後で吸血鬼が魔導国の者ではないかと思って警戒した、という流れになっていた」

「大雑把だが……。ありえない推論ではないな。なるほど。それでは警戒するのも理解出来る」

「竜王(ドラゴンロード)に聞いておいたが精神支配するアイテムは持っていないそうだ。その事(吸血鬼の下り)を言っても怒るなよ」

「ん……。今の怒りで沈静化したわ。……いや、……そうだな。話題に出されていたら怒ったかもしれない」

「憂いが一つ取れてよかったな。たぶん、壊れた鎧が出てくると思うが気にするなよ」

「竜王(ドラゴンロード)本体はどんな奴なんだ?」

「三十メートルくらいのエンシャント級だろうな。あれだけの巨体はおいそれと国外に出られないだろう」

「三十……。うむ。大騒ぎなるな。そうかそうか。それでは非公式にならざるを得ない。……というか、本当に来ていたらどんなパニックになっていたことか。ああ……、ログハウスにも入れないか」

 野外での特設会場でも作らないと無理だなとアインズは色々と納得した。

「どの国もそうだと思うが……、魔導国はどんな国を作るのかみんな知りたいだろう。早く応えてやれよ。黙っていると諜報員とかけしかけられて余計な混乱が広がる」

「……応えてやりたいのだが、こればかりはな。自分の国だから……」

「言い訳としてエ・ランテルの機能を代理にしている、とか言っておけ」

「それはもう言っている」

 ヤントラの言葉に答えつつ翻訳された書類に目を通す。

 質問内容や魔導国のあり方、会談日時の調整など細かい項目がズラリと並んでいる。

 ただ、問題なのは返答を王国語で返さないといけない事だ。

 恐らくはリグリットが評議国に説明するためだろう。

 欲の無い内にヤントラに仕事をさせるのも悪くはないのかもしれない。けれども、こいつに頼るのはプライドが許すかどうか、というジレンマに襲われる。

 結局はヤントラに弱みを見せたくない、ただの意地だ。

 自分は凄いゲーマーなんだと自慢したくなるような、そんな気持ちに似ている。

 ギルドマスターという責任ある役職だし、部外者如きに大きな顔をされたくない。

 もちろん、たっち・みー関連で言えば自分は弟弟子(おとうとでし)みたいなものだが。

 そこだけ負けている以外は全てに勝っている。

 ゲーム内では敵対者というわけではないのだが、どうしても対抗意識が芽生えてしまう。

 この性格はそろそろ治したいと思っている。

 本音の部分では手を合わせて早く成仏しろ、とアンデッドの身体で思う。

 成仏しかかっているからぼ~っとしているのだろうか。それはそれで少し怖い。アンデッドの身体だけど。

 居なくなれば居なくなったで翻訳作業などで困ってしまう。

 姿さえ見えなければ役に立つ事はたくさんある。

 心の小さい支配者だな、と自分でも思っているし、自覚もある。

 人の部下を複製して遊んでいるような奴だが、色々と気づかされる事はある。

 

 もし、自分だったら。

 

 便利な魔法の新たな使い道を発見したらどうするだろうか。

 もちろん実験するに決まっている。

 それも部下に丸投げする確率が高かったりする。

 自分でも実験はする。危険な方法は隠蔽するだろうけれど部下が見つけてしまった場合は最悪だ。隠せないのだから。

 提供された『悪用方法』はまさに未来に起こる最悪の結末だろう。

 他人の作った解説書を読むのは別に問題は無い。

 もともと情報サイト巡りは好きな方だから。

 自分でも再現する事もやぶさかではない。

 特に安全なものは。

 失敗が怖いだけで。

「あー、思い出したわ」

 と、ヤントラは掌(てのひら)に拳を落とす仕草をする。

「何がだ?」

「複製の使い方とか個人レッスンしなきゃって思ってた。翻訳も辞書が出来たら勉強会だな」

「……おう」

 勉強会。

 個人レッスン。

 それはとても大変そうだ。

 部下には見られたくないな。いや、むしろヤントラだからこそ可能で部下の目も気にならないのではないだろうか。

 さすがにメイド全員に観賞されたくは無いけれど。

「ギルドマスターであるアインズなら出来る方法だ。だから、お前が使い方をちゃんとしないと……。困るんだよ、部下が勝手にやった理論では」

「……はい」

「取り返しがつかない。世界崩壊。誰か助けて、では。やだよ、お前の尻拭いは。アインズを土下座させるのが好きなわけではない。ギルドマスターとしての威厳は大切だと思っている。嫌いなのは性格であって、部下に対する態度はどうでもいい。そこら辺は尊重していた筈だが」

 性格だけでも嫌いだと言われるのがムカつく。

「私の全てを否定するような感じだったぞ」

「それも性格だろう。ギルマスやめろ、なんて言ったことないぞ」

「……言っていないな、確かに」

 あと、モモンガはギルドマスターに相応しくない、と言った事は無い。それはヤントラもはっきりと自覚している。

 被害妄想が強すぎて色々と想像してしまうことはある。

「……もしかしてアインズ付きのメイドが常に監視しているのか?」

 そう言うとアインズは身体を跳ねさせた。

 確かに『アインズ当番』なるメイドの仕事があり、交代でアインズの側に付きっきりでお世話をすることになっている。

「期待値を高くするようなことを……」

 二十四時間メイドにひたすら見つめられる刑。

 どんな刑罰だ。ヤントラでもきついと思う。

「……それ、立派な刑罰だと思うぞ」

「メイドは仕事を欲しているのだから仕方なく……」

「言い訳のうまいお前でも難儀するのか」

「大きなお世話だ」

「いつまでも棚上げには出来まい。メイドには私から色々と言っておこう。とにかく、勉強だ。お前に必要なのは」

 少しの間、アインズは唸った。

 怒りのオーラを出さずに色々と脳内を駆け巡る。

「……勉強はよろしく頼む……」

「……王国語くらいだぞ。帝国の方は簡単な文章くらいだ」

「いや、充分だ」

 勉学に関してはプライドを捨てる事にした。というか、捨てる勇気が出た。

 後々必要になるだろうし、まだまだ交渉ごとの仕事は山積している。

 あまりにも部下に任せすぎると良くない事が起きそうで怖い。

 『獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)』のスクロールでも御守として持っておこうと思った。

 返答の翻訳もヤントラに任せる事にしたが、評議国側の事前質問は未定が含まれているのですぐには答えられない。

 会議などではお互いに質問のすり合わせもする。

 全く予想外の質問ばかりでは話し合いが一向に進まなくなるからだ。

 吸血鬼の事は書かれていないが会話の合間に挟み込まれることも考慮しなければならないだろう。

 案の定というか、精神支配された時の記憶が無いのでシャルティアは襲撃者、特に白銀の全身鎧(フルプレート)のことは覚えていなかった。

 評議国側の意見としては調査の為に近づいたら攻撃してきた。その時に鎧が破損したので反撃してから撤退したという。

 鎧はとても大切なものだったので、つい手が出たとか。

 魔導国側がこの一件で難癖を付けるのか、気にしていた。

 仲間を襲う者は全力で叩き潰す。そんなことをどこかで言った事が影響しているらしい。

 それはヤントラが広めた言葉ではないだろうか。

 アインズ本人も仲間達が作り上げたNPCに何かあれば全力で叩き潰すつもりなので否定はしなかった。

 ヤントラ本人は自分が一番悪い事をしている自覚はあった。

 誰も殺してないから問題なし、と開き直る事にしていた。

 そもそも最初に許可を得たもん、と。

 エロい事には容赦しない。全力でエロいことをする。掛け値なしのクズ人間、というか女性の敵。

「シャルティアの襲撃については向こうが被害者だ。これは痛み分けとしておこう」

 精神支配ではなかった場合は少なくとも戦闘になるのは避けられなかったかもしれない。それはそれで不幸な遭遇戦だろう。

 気がかりとなる項目は見当たらない。

 支配者がアンデッドなので戦争します、というバカみたいな理由は生まれないだろう。

 スレイン法国のように亜人や異形はそれだけで滅ぼす、みたいな国でもないようだし。

 森妖精(エルフ)の国と戦争している情報は得ている。山小人(ドワーフ)とは交流があるらしい。

 ある時、森妖精(エルフ)の裏切りがあったらしく、それで戦争状態になったとか。

 お互い引くに引けず泥沼と化している。

 同じ人間種なのに、と疑問に思っていたが怨恨で戦争をしているようだ。

「竜王(ドラゴンロード)は白金(プラチナム)の(・)竜王(ドラゴンロード)以外は会っていないんだな?」

「そもそも評議国の都市に入っていない。どんな国かは改めて行かない事には……」

「分かった。イビルアイなどの話しぶりからも話し自体はしても大丈夫そうだな」

 亜人のような態度のでかい輩。

 強い者に従え、という肉体言語でしか通じない者。

 頭の悪そうな種族ではないようだ。

 最強種の竜(ドラゴン)が治めているのだから知的レベルは高くなくては困る。高すぎて逆に話しに参加できない事も困るけれど。

 得た情報によれば人間の国と同じく、冒険者組合もある。

 生活も人間と大差なく、住民が人間から亜人に変わっただけとも言える。

 多種多様な種族が暮らしているようだし、人間も住んでいる。

 獣人(ビーストマン)達のように食料としてではなく、奴隷に近いこともあるかもしれない。

 詳しい事は実際に見てみないことには始まらないだろう。

 シャルティアを襲撃したのは消去法で言えばスレイン法国だ。ただ、どのような理由で精神支配したのか、証拠が出て来ない。

 それが無い限りは何を言っても無駄だろう。

 六色聖典という秘密部隊はスレイン法国では存在しない事になっている。

 存在しない割りに物凄く有名なのは疑問なのだが。

 クレマンティーヌという女は普通に答えてきた。

 元漆黒聖典はたくさん居て、あちこちに住んでいる、ということも分かっている。

 身分などを隠して余生を過ごしている。

 漆黒聖典は六色聖典の中では最強の部隊と言われていて、物凄い強い人間は『神人』と呼ばれたりするとか。

 肝心のシャルティアが役に立たないので情報は推測の域を出ない。

 事前質問に答えている間、ヤントラを空き室に寝かせることにした。

 目を離すとぼーっとしている事が多く、声をかけない限り大人しい。

 ペストーニャの部屋に運び込んで面倒を見てもらう事にした。

 

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