ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
アーグランド評議国の代表者とアインズ・ウール・ゴウン魔導国との非公式会談が執り
立会人としてラキュースとイビルアイ。リグリットは評議員たちの送り迎えの役目を負っている。
魔導国側はアルベド、アウラとマーレ、デミウルゴスとセバス。控えにユリ達戦闘メイドの六人。一般メイド達。
評議国側は
亜人の評議員が数名。その秘書達という予定だ。
「……円形は失敗だったか……」
魔導国国王アインズは第一印象としてそう思った。
会談などしたこともないヤントラが漠然と設置したものだから仕方が無い。
「申し訳ない。首脳の会談の場は同席した事が無かったので勝手が分からなかった」
イビルアイは冒険者だし、前回は食事会風の会談の一種だ。正式なものとは違う。
アウラは四角より円形がいいと言って結局は変えなかった。が、アインズのがっかりした発言で顔を青くしていた。
「椅子は対面になるように調整したぞ」
「中心部が離れては……。そうだよな……、身内の会議じゃないもんな……」
支配者の座る椅子はとても豪華だ。これはさすがに恥ずかしかった。
せっかくアウラが用意したのだが、会談内容には相応しくない、と思う。
客人を迎える王の役目ならば理解出来る。
今更変更は出来ないので豪華な椅子はそのまま使う事にした。相手の椅子は質素なのでさすがに不味いと判断し、対面だけ同程度の椅子を見繕わせた。
装飾は申し分ない。即席とはいえ豪華に仕上がっているし、派手すぎるのはシャンデリアくらいだ。
転移によって現れる評議員たち。
亜人は問題ないが永久評議員と呼ばれる三名は全員鎧のいでたちなので話し合いになるのか、アインズは少しだけ不安に思った。
どう見ても戦いに来たとしか思えない。
ヤントラから話しを聞いていた通り、白銀の鎧の肩口には穴が空けられていた。
どう見ても攻撃を受けた跡だ。
それぞれが着席していく。
罵倒などなく、とても
遠隔操作の鎧以外はメイド達によって飲み物がそれぞれに置かれていく。
飲もうが飲むまいが自由。
「では、これより非公式会談を始めたいと思います」
ラキュースがまず声を上げる。
それからお互いに自己紹介が始まった。
形式的なものなので特に問題なく進められた。
事前質問などの書類がそれぞれの目の前に配られる。
アインズは中身を見てみると案の定、王国語だった。一部は暗記しているとはいえ、文字は読めそうに無い。
ラキュースに顔を向けるが微笑み返された。
仕方ないので『
「……畏まりました……」
と、小声で返答するラキュースは地上に出て地上施設の二階に向かう。
建物に決まった名前は無い。ヤントラ一人で使う予定だったので、自分が分かれば良いという程度だった。
子供達は一応、連れてきたのでヤントラと執務室で大人しくしていた。他にはエンリやンフィーレアが居て、彼らの子供と
ラキュースが駆け込むようにやってくると子供達は喜んだ。
「ちょっといいかしら?」
「もう私の出番か……。早いなー」
「子供達は私達が見ていますから」
「お願いします」
ラキュースはエンリ達に頭を下げてヤントラの手を引っ張った。
緊急事態なのはアインズであってラキュースではないけれど、大事な会議は失敗したくない気持ちがあった。
仮面とローブで身を隠し、会談の場に向かう。
ツアーにバレても問題は無いが他の者には気付かれないだろう。初対面だし。
アインズの側に移動して質問書を受け取る。それからメイド達が控えている場所に移動する。
言葉による話し合いは問題なくアインズは出来るので、分からない事は部下に任せておけばいいだろう。
便りのアルベドとデミウルゴスが今回は同席しているので。
ラキュースは連絡要因として控えてもらい、大急ぎで質問内容を翻訳していく。
セバスはメイド達の指導で忙しそうだ。
評議国は王国語が標準語と考えているのか、それともこの世界は王国語が標準なのだろうか。
イビルアイなどに聞くのを忘れていた。
バハルス帝国は独自の言語なので王国語では読めない。
質問内容は特に変わらず、正式な文章としてまとめられているのだろう。
個人レッスンする時間も無かったので仕方がないのだが。
数十分で書き終えた後、アインズに手渡す。
せっかくなので控え室で話しでも聞こうかなと思った。
「ふむ。なるほど」
日本語訳の文章で質問内容が理解できて安心した。
大幅な変更は無く、少し堅い文章と言う程度だった。
「失礼……。法律に関しては時間がかかったが、もうすぐ出来るので今しばらく待ってもらいたい。なにせ、一から作るのだから意見などをまとめる事柄が多いのだ」
「そうか。一切の情報が出て来ないので我が国では疑心暗鬼になっていた」
「世界征服と言う言葉を使われたのだから、どの国も心が休まることがないであろう」
「男のロマンと各国の首脳には言ってある。それに……、短期間で成し遂げてしまうのはつまらんではないか。冒険もそうだが時間をかけて世界を知る。帝国とは違い、相手を脅すのは最終手段としたいだけだ」
評議国側がざわついた。
特に亜人は互いに見合って小声で意見を交わす。
「あっさりと世界は取らないと言うことか?」
「抵抗しろとは言わないが、無条件降伏などは今のところは考えていない。各国の反応を見てから一つずつ決めていこうとしている」
「一気に打って出ないのですか?」
と、アウラが言った。横でマーレも頷いた。
「それは先の戦争でやってしまった。あの時の魔法で各国の警戒レベルがぐんと上がった事だろう」
「はい。他の国々は戦々恐々としているようでした」
「私としてはあくまで一つの戦争を終わらせるための魔法を放ったにすぎない。それが思ったより効果が出てしまって……。次の手が打ちにくくなってしまった」
「えっ!?」
「次の手……ですか? 嫌な予感がしますな」
全身鎧なので誰が喋っているのか、どんな顔なのか分からない。
元より
声の雰囲気で推し量るしかない。
「戦争は戦争だ。私としては他国とは友好的に付き合いたいと思っている。王国ともだ。帝国が代理戦争をしかけてくれたとはいえやり過ぎたことは認めるしかないだろう」
「魔導王陛下はご自分の魔法による惨劇をお認めになると?」
「ランポッサ国王の要請で犠牲者の記念碑に哀悼の意を表した」
戦後賠償は考えたくなかったのでジルクニフに丸投げしたがな。
その後は特に責められる様な話しは聞いていない。
「戦争については水掛論になってしまうので、議題を変えましょう」
「異論はありません」
「いえ、アインズ様。次の手についてお教え願えませんでしょうか?」
蒸し返すのはデミウルゴスだった。
アインズはせっかく頑張って変えたのに蒸し返されるとは思っていなかったので驚いてしまった。
「デミウルゴス……。それは今、必要か?」
「評議国が来ているのですから。次の手の内容によってはかの国も取り込めるのではないかと……」
案の定、評議国側はかなりの人数が唸った。
「次の手は……もちろん考えているぞ。だが、それをここで話すわけには……」
法律云々の製作で大変だから考えているわけが無い。
「ご命令があれば
「では、命令だ」
「はい」
「大人しく座っていろ、デミウルゴス。事を荒立てるのは戦う時だけだ。今は平和的な話し合いだ。その空気を壊す事は許さんぞ」
少し力を込めてアインズが言うとデミウルゴスは大人しく引き下がった。
「暴力で事を進めるのは簡単だろう。だが、それは頭の悪い支配者がすることだ。お前達は私をそんな愚か者にしたいのか?」
「い、いいえ、滅相もございません」
「アインズ様は智謀の王でございます」
自分でも格好いい事を言ったと思った。
頑張れば出来るじゃん、アインズ様。と、自画自賛する。
アインズは一つ咳払いをする。
調子に乗るのは失態の元だ。
「部下が失礼な事を……」
「いいえ。お気になさらずに」
中央に居る白銀の鎧は手を挙げて落ち着いた雰囲気の言葉で言った。
「こちらは魔導国がどう転ぼうと警戒するだけです。他の国も自衛の策は練っているものですよ。魔導国だけが特別という事はないでしょう」
「耳に痛いですな」
「ただ、情報収集ばかりで警戒しすぎて自滅しそうになっているのが現状です。こうして直接、お会いして色々と得ているのは幸いなのかもしれません」
遠隔操作の鎧姿だけど、と小さく誰かが呟いた。
「それはこちらも同じですよ、
竜王は陛下とか付けるべきなのか、アインズは首をかしげた。
ラキュース達に聞きそびれてしまったと思い、軽く唸る。
「名前が長いのでツアーとお呼びください」
「では、こちらはアインズと……。ゴウンというのが一般的らしいのですが、私はこちらが好きなもので」
「分かりました、アインズ様」
名前のトラブルが多かった分、切り替えしがスムーズだと気分がいい。
ジルクニフは呼び捨てだった。
では、こちらもツアー様と呼んだ方がいいだろうか。
気軽過ぎると心象が悪いと聞く。
『
こういう部下に聞けない事柄を尋ねられる人材としては打ってつけだ。
相手の敬称に倣うのが一般的と答えてきた。
王や皇帝は陛下と付ける。閣下というのは身内や将軍職に多いらしい。
閣下と付けても問題は無いが、堅苦しくなる。
「こちらはツアー様と」
「ははは。我々は複数で統治しているので様というのは気恥ずかしいものがあります。でも、ありがとうございます」
「では、こちらもアインズ殿と……。議題を変えますので」
そう言ったのは別の
「構いません」
魔導国はどんな国にする予定なのか。
法律の内容で言える範囲。
住んでいる国民はどんな人種なのか。
軍備はどの程度なのか。
占領したエ・ランテルについて。
交易をする気があるのか。
世界征服の展望。
真面目な質疑応答が繰り出される。
ゲームのような遊びは無く、本格的な首脳会談だ。
アインズは迂闊に国を作ってしまって混乱しそうになってきた。
ギルドを作るよりも大変だ。
当たり前だが、国なんて大層なものを誰が作ったんだろうか。
賃貸に変更したいくらいだ。
それほど考えていたわけではないので答えられることは少なかった。
ゲームで言うところの拠点を制圧して終わり、が普通だったから。
後は野となれ山となれ、では済まされない。
今は魔導国というギルド拠点をどう改造するのか、という問題だ。
普通ならば仲間達と相談して色々と決めていくのだが、その仲間がNPCしか居ない。
専門知識を持つ仲間達ならば様々な問題を解決しただろう。
例えばウルベルト。るし★ふぁー。タブラ・スマラグディナ。ぷにっと萌え。
適材適所で難題をクリアしてきたが今は自分ひとりだ。
無いはずの胃が痛む。
「ふむ、了解……しました……」
評議国側はあまり満足な回答を得られなかったので困惑しているようだった。
相手ばかり質問しているわけではなく、アルベドが代表として質問を投げ返す。それに対して評議国はしっかりと答えてきた。
難しい言葉が多いけれど、アルベド達は理解しているようだった。
「人間は食べないのですね」
「六大神が降臨する前は食べていたようですが……。何しろ、成長が遅いので」
「品種改良した家畜の方が今は人気ですよ。雑食で病気になりたくないので」
「増えにくい人間ばかり食べても国は発展しません」
「正論ですな」
食べ物の話しになり、亜人の評議員たちの腹の音が聞こえたので仮面を付けたヤントラが出てきて、彼らの前にお椀を置く。
椀の中には豆がたくさん入っていた。
「んっ……。なんだ、この匂いは」
「腐った豆です」
「はっ!?」
アインズは
「これは……、まさか納豆か?」
「頑張って作ったよ。正真正銘の食べ物なので大丈夫ですよ。腐った豆は……、豆腐の方ですね」
作り方は至って単純なのだが、ちゃんとできる保証はどこにもない。
エンリも糸を引く、腐った豆に驚いていたくらいだ。
口が汚れるだろうからとタオルと匂い消しの香草を置いた。
「どんな食べ物も誰かが発見しない限り、新しいものが生まれない。保存食はその一例だろう。最初に見つけたものは尊敬に値する」
「糸を引いているのだが……」
「よくかき混ぜて食べて下さい。味見はちゃんとしました。醤油と味噌が完成すれば後はご飯くらいだ」
日本食。西洋文化の国には馴染みがないものだろう。
アインズとしては飲食不要の身体においてもったいないと思う事の一つである。
「熟成や醸造という言葉がある。じっくりと寝かせる事で味わい深い食材が生まれる。魔導国も案外、よい国になるかもしれませんよ」
「どうだかな」
「意見交換せずに怖がってばかりだと不健康極まりないと思います」
「うむ、それには同意する。こういう対話の機会はどの国にも必要なのだろう」
醤油の無い納豆は大して美味しくないかもしれない。
それでも一生懸命に用意した。
何事も一歩からだ。
「人間しか食べる事の出来ない種族は居るものですか?」
ヤントラの質問に対し、亜人達はどよめき顔を見合わせる。
意外な疑問にすぐには答えられない。
「……居ない。少なくとも評議国では聞いた事が無い」
「そんな種族が居たら全ての種族と仲良くなんか到底出来ませんよね。食べ終わったら、そのままにしてください。後でメイド達が回収しますから」
そう言ってヤントラは引き下がって行った。
アインズは少し呆然とした。
なにやら凄い質問をしたような気がした。
それはとても大事なもののように感じた。
大豆と塩と
スキルで出せたら夢はぶち壊しだ。
それはまるで金貨を食べているようなものだ。
「アインズ様、
「食べ物です。発酵食品だったはずです。豆を煮て藁で包むだけで出来たような……」
包んだだけで納豆がどうして出来るのか、それはアインズの知識には無かった。覚えていないだけかもしれない。
「糸を引いたり匂いが苦手な人も居ますから、好みが分かれると思います。あとで作り方を書いた書類を渡しますので」
と、ヤントラが言った。
「……いや、要らない。匂いが苦手だな」
「そうか? 乳製品の発酵食品が作られるのだから私は平気だが」
「食材の新たな可能性を見つけることは悪い事ではない。保存食があれば
飢えない種族には分からない苦しみだが、食料を必要とする種族にとっては死活問題だ。
農業を持つ国は特に。
西洋文化にとっては和食は未知の分野かもしれない、とアインズは思った。
飲食不要で味の確認が出来ないのはもったいないのだが、外貨獲得の役に立つかもしれない。
海に近い土地であれば海草類も欲しい所だが、淡水地域しかない。
伝え聞いた話しでは海は真水だとか。
塩は魔法で出すもの。
塩分は身体に必要な物と知識としてはあるのだが、その塩分をしっかり取れないと世界として危機なのではないだろうか。
その辺りの調査もしなければならないだろう。
全て飲食不要にしてしまえば食糧問題は解決する。だが、それでは農業の価値が無くなってしまうのではないだろうか。
「ところで、アインズ殿」
「なんでしょうか」
「そちらのアンデッド兵を住人として使役しているのか?」
「住人? 警備に使っている。住人は今のところ元々住んでいた者達をそのまま住まわせている」
「アンデッド以外の部下をお持ちなのは理解した。比率でいうとアンデッドと生身はどちらが多いのかな?」
「数でいえば今のところ生身の人間種などが多いですね」
質問の答えに亜人の評議員と
アインズは支配者なので部下と意見を交わす彼らが少しうらやましいと思った。
とはいえラキュースとこっそり意見交換しているのだから、大して変わらないかもしれない。
「細かい事で申し訳ないのだが……。アインズ殿は必要事項は記入されないのですね」
「代わりに我々が書いておりますので、ご心配なく」
アルベドには悪いのだが、とても心配だ。どんなことを書いているのか。
下手をするとかなり未記入である事もありうる。
お前達の言葉など書く価値は無い、とか。
「麹菌は
と、後方からヤントラの声が飛んできてアインズは少しだけ驚いた。
「し、失礼……」
「菌類のモンスターだものな。検討しておこう」
「コウジキン、とは何ですか?」
納豆を食べた亜人が尋ねてきた。
「発酵食品を作る時に必要な菌類です。天然の藁にも着いてたりします」
「ああ! それで納豆が出来るんだった。そうだったそうだった」
と、アインズが納得する。
その菌の名前が納豆菌という。
「納豆菌は熱に強くて整腸作用があるという……。ゴホン、失礼」
納豆は健康食品として注目される立派な食べ物だ。
だが、環境汚染の影響で天然物が作りにくくなっていた。
匂いに好き嫌いがあるのも特徴だ。
穀物類が広まっている西洋風でも作れない事はないだろう。
「食文化は奥が深い。私は飲食不要の身ではありますが、生身の身体を持つ者の栄養はとても気になります。成長に必要ですから。もちろん、健康的に育ってほしいと思います」
「失礼を承知で言いますが……、アンデッドなのに?」
「はい。アンデッドなのに、です」
「魔導王陛下は我々の知るアンデッドとはまるで違う」
「う~む。これは強敵ですな、
「破壊の権化。征服王。そんな単純な言葉では表せないのかもしれませんね」
アインズは今の言葉に軽く唸る。
明らかに侮蔑がこもっていたように聞こえた。
「ツアー様。破壊の権化と思っていたのですか?」
「はい」
「……ん」
即答したので言葉に詰まる。
「こうして対話するまでは。とある変態……、かの者の方が厄介なくらいと思いました」
変態という単語で後ろに控えたヤントラが苦笑した。
「国については色々と未定が多いのは理解しました。こちらの意地悪な質問に対して誠意を持って答えてくださり、感謝しますよ」
「それはご丁寧に……」
「ここからが本題というべきか……」
白銀の鎧の雰囲気が変わった、ようにアインズには感じた。
背後に巨大な
「八欲王はご存知だろうか?」
「噂などでは……」
「遥か昔……。五百年ほど前に世界を瞬く間に征服し、全てを蹂躙した者達が居たのです。アインズ様の言う世界征服を成し遂げた暴虐の王達が」
「確か
「はい。我々は子孫に当たりますので当時の
「八欲王に匹敵する強さを私が持っていると思い、恐れているのですね」
「そうです。なので前回は検討に検討を重ねて招待状は辞退させていただいた。正直、怖かったからです。強大な魔法の的にされるのではと」
「その危惧は理解できます。私が愚かな暴虐の王なら弱者は一掃していたでしょう。残るのは廃墟だけです」
「我々も無抵抗に殺されはしないのですが……。いかんせん、戦力となる
未知の敵はアインズも恐れている。その点で言えば
その敵はとても強大だ。慎重に事を進めなければ手痛い反撃を受けるだろう。
ただし、二度目の戦闘に出られるほどの戦力は失ってしまったので殆ど残っていない。
新たな欲王が現れればひとたまりも無いだろう、と思っている。
「魔導国は世界とどう向き合うつもりなのですか? 対話か武力か」
「今は対話ですね。武力については必要な時に出す程度です」
「……やはりお互いを知るには直接対話は必要ですな」
亜人達にアインズは食事の為に休憩を申し出てみた。
イビルアイが鑑定魔法などをかければいいと進言し、大きな騒ぎにはならなかった。
「毒を盛るほど器は小さくないぞ」
「同族料理も出しませんので」
人間は食べるけれど自分と同じ種族の料理には抵抗があるらしい。
アインズにも知識として同族食いは知っているのだが、他人事とはいえおぞましい事だと思った。
生身のアバターであったら人間を食べる事ができただろうか。
おそらくは無理だろう、病気になる、とヤントラと同じような答えに行き着く。
仲間同士で食い合うのも本当は嫌だ。
健康的な食事が一番いい。
菜食主義者は
一般メイド達が亜人の為に料理を運んできた。
アウラとマーレも身体の栄養の為に食事を取る事にした。
アインズの感触としては和やかな雰囲気だと思う。
真面目な話しは仕方が無い。八欲王の話しも相手の立場なら理解できなくは無い。
怪しい
人間ではないからだろうか。
異形種も少しはアンデッドに抵抗があるのだろうか。
「聞いた噂ではアンデッドの秘密組織があるそうだ。非合法な儀式で都市を壊滅させたとか……。つい二百年前の話しなのだがな」
二百年どころか、アインズ達は二年前に来たばかりだ。
遠い昔の事など知る由もない。
「酷い話しだな」
知らない振りをするよりは乗った方が得策だろう。
もし、知らないと言えばどこから来たのか聞かれて事態が混乱するのではないだろうか。
異邦人である事は王国側には知られている。その時は拠点ごと飛ばされた、という事で話しは終わった筈だ。
「アインズ殿の仕業ではないのか?」
「証拠があるのか?」
うん。これが普通の反応だよな、とアインズは不思議と納得できた。
「『ズーラーノーン』という組織の盟主ではないのか?」
「私がその盟主……」
ここは乗りすぎてはいけない気がする。
事態が悪化していく気配を感じた。
一生懸命に頭を回転させて、言葉を探す。
別に悪い事はしていないし、無関係ならはっきりそう言えばいいだけではないだろうか。
敵対しているわけじゃないし。
自分の悪いクセかもしれない。これは反省せねばなるまい、と思った。
「国づくりに一生懸命なアインズ様がアンデッドの儀式で都市を壊滅させるのはおかしいだろう」
と、
「アインズ様なら都市の壊滅などいつでもお出来になりますわ」
と、余計な事を言うアルベド。
「ま、まあ、大規模破壊魔法を使えたりするからな」
「なんと!?」
うっかり喋ってしまって
流れない汗が大量に落ちていく。
「それはそうだろう。高位の
意外と落ち着いている
他の者よりものを知っているようだ。
頭がいい者は交渉ごともうまい。敵としては強敵だといえる。
「アインズ様は『死の螺旋』はご存知か?」
「高位の魔法か?」
そう言った瞬間に
かまをかけられた。そうアインズは思った。
「も、もちろん、知っているぞ!」
「アインズ様。ご存知なら説明して下さい」
「おっ……」
言われたくない言葉を言われてしまった。
この場合は部下に任せればいいのか。いや、部下が知っている確率は低そうだ。そもそも、ズーラーノーンなど話題に出た事は無い。
いや、出たとしても冒険者モモンの時ではないだろうか。
「おっと、今のは意地悪でした。申し訳ない。試すつもりは無かったのですが……。乗ってくれたのが嬉しかったので……」
無い筈の心臓が跳ねる。
今のは何なのだろうか。
「アインズ様は意外と親しみ易い御仁かもしれないぞ」
「しかし……。偽装と言う事も……」
「嬢ちゃんはアインズ様に教えなかったのかい?」
「教えるも何も秘密結社の事など『八本指』で手一杯だったからだ。ついぞ、忘れていたよ」
「アインズ様を貶める下等生物の皆さん。我々はいつまでも大人しくしていると思わないでいただきたいですわ」
どす黒いオーラがにじみ出るような威圧感をアルベドは振り撒く。
「アルベドよ、落ち着くのだ。この程度で怒っては器が知れよう」
「そ、そうですわね。申し訳ありません」
亜人達はアルベドの剣幕に恐れたようだが、
後ろに控えているラキュースは口元を抑える程度で耐えていた。
「儀式で都市を滅ぼす気なら法律など作りはしないだろう。住民は所詮、生け贄……。そう考えるのが悪党と言うものだ。だが、アインズ様は自らの国民の未来を真剣に考えているようにお見受けする」
「う、うむ。それは真面目に考えている。儀式用の羊とは思っておらん」
「
「百万人!?」
魔法の犠牲にしては多いなとアインズは驚いた。
「竜王国の女王が扱う
「た、多少はな」
あの女王はとんでもない魔法を使う事ができるのか。
だが、生け贄が多いのが気になる。
それは敵なのか味方なのか、で話しは変わる。
普通はそう考えてしまう。では、自分の国の国民を犠牲にする魔法ならどうだろうか。
相打ち覚悟の超位魔法。
そんな魔法は使いたくないだろう。
「国民を犠牲にする魔法だから
白銀の鎧は頷いた。
「八欲王から逃れた
「ん……。生け贄、という話しなら無いわけではありませんよ」
「国民を愛する気持ちがあるならアインズ様はズーラーノーンとは無関係でしょう」
「だが、王国の民を魔法ひとつで十万人を屠ったと聞いているぞ」
それは『
「戦争で使ったのならば仕方ない。王都で虐殺行為をしたとは聞いた事が無いぞ。悪魔が来たらしいが……」
「悪魔ヤルダバオトはモモン様が撃退してくださった。十万人も犠牲は出ていない。あと、殆どの悪魔はご主人の天使召喚で一掃されたよ」
力強くイビルアイが答えた。
「王国のアダマンタイト級冒険者『漆黒』のモモンですね」
イビルアイはモモンの正体を知っている。それを迂闊に喋らないか心配になった。
「そうだ! アイテムを改めて取りに来る、とか言っていたヤルダバオトは忘れてしまったのか、未だに取りに来ないのだが、評議国に現れたか? 仮面を付けて空を飛ぶ細身の悪魔なのだが……」
「いや、
そのヤルダバオトはアインズの隣に座っていたりするのだが、その事はイビルアイは知らない。というか説明していない。
「ヤルダバオトなる悪魔……。聞いた事が無いな。嬢ちゃん、本当にその悪魔はヤルダバオトという名前なのか?」
「本人がそう名乗っていた」
「……
「気にするな。……それにしても、悪魔を召喚するアイテムはちゃんと保管しているから、さっさと取りに来たらいいのに……。戦力でも増強しているのか、あいつは」
「イビルアイ。その悪魔を見かけたら説明しておこう」
「おっ、アインズ。では、その時はよろしく頼む。王城の宝物庫で厳重に保管している、と伝えてくれ。王はいつでも引き渡す用意があると言っていた」
「了解した」
アインズは『
「アンデッドは生者を憎むと言われている。それは通説に過ぎないようだ」
「例外はあるものですよ」
「アインズ様は生者を憎む、などのように憎む存在はおありか?」
「まあ……、居る事は居ます。局所的と言うか。生物全体のような広範囲ではありませんが……」
「なるほど。我々も八欲王のような邪悪な存在は憎みます。できればアインズ様とは手を取り合いたい仲になれれば、と希望します」
「私は世界を取るものですよ」
「存じております。ですが、帝国の例もあります。方法が平和的であれば……。魔法で脅迫して領土を寄越せ、という結果にしかならないかもしれない……か……」
アインズは結局のところは相手を脅迫する手段に出るかもしれないと思った。
話し合いで領土を頂戴、と言って寄越す国などありはしない。
戦争を起こして奪うのが通説だろう。
ただ、戦争を起こす大義名分が無いとアインズ的には困るし、面白くない。
トラブル無く、敵を作らずに事を進めたいから。
「
微笑を絶やさないデミウルゴスは言った。
「八欲王の時代に随分と折られたはずだが……」
アインズは納得する。
今は新たな八欲王の出現に怯えている最中だ。
更に追い詰めるのは可哀相だろう。
「デミウルゴスよ。昔はたくさん居た
「敵は居なくなった方が……」
「敵は敵だ。今は
「失礼致しました」
「私は冒険者として多くのモンスターを狩りつくしてきた。今は無闇に殺しつくすのは可哀相だと思うようになってな。だから、というわけではないが我が国に様々な種族を招いて住まわせ……、ようと思っている」
「おお、様々な種族ですか」
「そちらの評議国も色んな種族が住んでいると聞く。お互い通じるものがあるのかもしれないな」
「それはどうだろうか。スレイン法国という人間至上主義の国がある」
「うむ。それは存じている」
「八欲王以外ではスレイン法国が我らと敵対する国だ。やつらは分かり易い。人間以外は全て殺していいと思っている。亜人狩りで度々、我が国民も屠られている」
「冒険者がよく討伐している
「襲ってくる者は倒していいだろう。弱肉強食が自然の摂理だ。我らの歴史は
傲慢な態度には聞こえないのでアインズは言葉を続けさせた。
「弱きものは強きものに従う。それが自然の法則だった。だから、人間だろうと別に憎しみは無い。敵は倒すだけだ」
「うむ」
「だが、八欲王は違う。世界征服に飽き足らず、弱い者は次々と虐殺していった。食料にするでもなく。何と言えばいいのか、殺しを楽しんでいるような、趣味と言うか……」
モンスターの狩り場と捉えていたのなら不思議はない。
レベルアップやドロップアイテムを狙っていれば、そうなるだろう。
実際、アインズ達ギルドメンバーもその傾向があった。
「その後は言うまでも無い。反撃の末に八欲王を撃退した。世界がそれで平穏になればいいのだが……、最下層の人間達が今度は集まって国を作り始めた。弱者が寄り添って国を作るのは別に悪くは無い。スレイン法国はその中で極端な思想を得て我らと敵対するようになってしまった」
「スレイン法国については我々も情報を集めている最中ですよ」
モンスターだけではなく、同じ人間まで殺そうとしていたような気がした。
スレイン法国の狙いがいまいちよく分からない。
「アーグランド評議国は八欲王が居なくなった後、他国に侵攻する気はなく、友好関係を結ぶ方法を取ろうとしてきた。一部のモンスターが村などを襲っているようで、我々を恐れている部分があるらしいが……。無関係と言うのは簡単だが、少なからず心を痛めている」
「評議国は仲良くなりたいのか?」
「弱肉強食時代の……、おや? こういうのはなんと言うんだったか?」
「おいこら、くそばばぁ。若くなった途端につれないじゃないか」
「はぁ!? お前さんこそ、ちゃんと考えてものを言いな」
「アインズ様が意外と聞き上手だから、つい言いすぎて混乱しとるだけだよ」
聞き上手と言うより、口を挟めない熱意を感じたからだ。
それから評議国は他国を敵視しているわけではない事も分かった。
平和な世界ではなく、ヤントラ同様に少し混沌とした弱肉強食のある世界を望んでいるのだろう。
ユグドラシルのようなゲームに似た世界かもしれない。
少し歩けばモンスターが現れて戦闘になるような。
そこに憎しみは無く、強い者が勝って弱い者が負ける。
根絶やしにするような事の無い世界。
モンスターが少ないのは過去に狩り尽くされた弊害で繁殖力の高いモンスターしか目立たないから、とも言えるだろう。
それは雑魚モンスターばかりのつまらない世界でもある。面白いわけが無い。
宝も無いだろう。
それでは冒険者も強い者が現れにくくなるのも頷ける。