ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
評議国は魔導国の参考になるような資格はあるようだ。
人間を含むモンスターが共存し、未来の事を考えている。
人間は人間の国があるから評議国は特に言及しないのだろう。
「世界征服するというアインズ様は我らの国をどうしたい? 侵略か? 同盟か?」
どの国もそうだと思うが、支配するのか同盟関係になるのかの二択がこれからも出てくるのだろう。
それは世界征服を標榜してしまった自分の責任だ。
「今は自分の国で手一杯だ。おいおい考える。性急過ぎるのは精神衛生上の不健康だからな」
「了解した。こちらも魔導国と敵対関係にはなりたくない。アインズ様と同盟関係を、と思っていたのだが……。征服がご所望では……難しいだろうな。帝国もそうなのだろう?」
「あちらのことは存じていないぞ」
「皇帝は随分と悩まれているようだが……。アインズ様の機嫌を損ねたら国を滅ぼされてしまうのでは、と思っているのかもしれませんぞ」
「はぁ!? バハルス帝国とは同盟関係だ。どうしてそうなる? ……ああ、世界征服の言葉が効いているのか……」
同盟関係はアインズの裁量次第では破棄出来るし。
王国に放った魔法は今度は帝国に放たれる。
デミウルゴスの疑問だった『次の手が打ちにくい』の理由。というか言い訳かもしれない。
仲良くなった帝国を傘下に治める方法だ。と、今思いついた。
世界征服なのだからこの星全てを魔導国の支配下に置く、という意味にしなければならない。
つまり帝国も魔導国領にすることだ。
皇帝はそれを考えておびえているのかもしれない。
戦争以外で穏便に済ませる方法などを。
平和的に世界を取る、と言った気がする。
その気になれば魔法で脅して奪い取るぞ、ということも相手方は考えるかもしれない。
「強引な手段はかっこ悪いな。それでは頭の悪い支配者にしかなれないではないか」
「支配者というのは総じて頭が悪そうな者が目指す夢だと思いますが?」
「むむっ!? お、男のロマンを否定するか……」
「夢を見るのは自由です。私も
最強種の
友を失うのはアインズとて辛い。
だが、同情は出来ない。
違う世界に生きているのだから。
「話しが急に変わるのですが……」
申し訳無さそうに
「な、何ですかな?」
「性急に征服なさらないなら……、同盟関係を結ぶ事は可能かな?」
「アーグランド評議国とか? こちらはまだ魔導国として正式に始めていないのだぞ」
「我らも帝国とは浅からぬ関係。竜王国とも同盟関係にある。その縁ということで……。同盟が無理なら友達から……」
「
イビルアイが怒鳴った。
「敵対してもいいこと無いと思ったからだよ」
「そりゃそうだが……。それは公式の場で交わせばいいだろう」
「魔導国は遠いだろう? アインズ様、アーグランド評議国までご足労願えるものですか?」
「その前に
「……大きな声では言えませんので、ご内密に」
評議国側は来たくてもスレイン法国が居るので来られない。
襲撃されるリスクが高いから。
この『マグヌム・オプス』は位置的にも距離的にも丁度いい場所だった。
「これは失念していた。こちらこそ、申し訳ない」
アインズは初めて頭を下げて謝罪した。
守護者達は慌ててしまった。
絶対的支配者のアインズが非公式とはいえ謝罪の意を表すとは思ってもみなかったからだ。
「アインズ様!? かような下等生物に頭を下げられるとは……」
「私だって非を認めることはある。時には頭も下げる。それが対話と言うものだろう?」
「それは……分かっておりますが……」
絶対的支配者はどんな相手にも決して頭を下げたりしない。というイメージがあるのだろうかとアインズは疑問に思う。
確かにNPCには無茶な事を言う。
無理を押し通そうとすることもある。
時にはそれが嫌になる事もあるし、冒険者モモンになった時は何度も謝罪した覚えも、たぶんある。
社会人としての接客スキルは持っている。
「礼を尽くすのは当たり前だろう? 無礼な奴に下げる頭はない。そこの変態がまさにそうだ」
「誉めるな」
「誉めてねーよ」
素で言い返してしまった。
「ごほん。失礼」
「来たくても来られない理由はもう一つありまして……」
「もう一つ?」
「『神人』はご存知かな? スレイン法国に居る者なのですが?」
ヤントラというかイビルアイの仲間クレマンティーヌから聞いた覚えがある。
とにかく、化け物並みに強い人間がそう呼ばれる。
「六大神の生まれ変わりと言われております。かの八欲王に匹敵する強さを持っている人間らしいのです」
つまり物凄く強い人間という事になる。
アインズの脳裏に『プレイヤー』という言葉が躍る。
「その者に出会えばひとたまりも無いでしょう。そこの変態……、ヤントラ殿はまさに神人クラスと言えます」
ヤントラは照れた仕草の後でラキュースに頭を叩かれた。
「スレイン法国は確実に葬りにくる。ですので、この鎧を借りても来訪は難しいかもしれません」
「それはお気の毒に」
というか、
最強種の
ヤントラの強さを理解したならば神人は正しくプレイヤー。それも敵性プレイヤーかもしれない。
「……ツアー様。もしかして、この変態と戦われたのかな?」
「尻尾を持っていかれましたが反撃には成功しました」
いや、それもうアウトだから。
アインズががっかりしたような吐息を漏らす。
イビルアイはアインズが状況を理解したことを理解した。
「おいこら、変態野郎! お前、なにしてくれてんの!」
「聞き分けの無い
アインズはヤントラの近くに行き、頭をスコンと叩いた。それだけでヤントラの仮面はヒビ割れて、本人は昏倒した。
何の防御対策も取っていないので気絶状態に陥ったのだろう。鼻血が出て来た。
「ラキュース。その変態はもう捨てて来い」
「畏まりました。……皆様、うちの人が大変、失礼しました」
イビルアイはラキュースと共にヤントラを地上に持っていった。
「……ツアー様。あの変態はこちらで処分しておきますので」
「おお、いやまあ、色々と話しを聞いてくれたので穏便に願います。今回の会談も彼の一押しがあったからこそです」
「いやいや、あいつは肉片一つ取られてはいけない相手ですよ」
肉片を取られずに無傷で勝利することは恐らく難しいだろう。
勝つことは不可能ではない。ただ、勝利条件がとんでもなく難しい。
上の上クラスのプレイヤーでもないかぎり。
手数が多いし、相打ちも辞さない。敗北も恐れない。
全身を神器級で包み込むとかしないかぎり。
ラキュース達が戻ってきたところで対話が再開される。
「話しには聞いております。月へ持っていくそうですね。この地上を荒らさなければ文句はありません」
「……ツアー様……。あなたは心が広いんですね。とても驚きましたよ」
いやほんとマジで。
地上の平穏が保たれるならば肉片くらいどうって事ない。そんなことはアインズでもそう簡単には言えないことだ。
さすが最強の
つい、なんならこの施設を吹き飛ばしてあげますよ、と言いそうになるほどだ。
「心と言うより図体が大きいからの。ちょうどいい大きさの心なんじゃろ」
「うるさい、ばばぁだな。君はずっと黙っていたらどうなんだ?」
「若返っても性格は年寄りのままじゃ。今更若作りは出来んて」
「無理にでも若作りしてほしいから、頑張ってリグリット」
「二百年くらいかかりそうじゃのう」
「くそばばぁ……。お前も捨ててくるぞ、地上に」
と、リグリットのわき腹に拳を何度も当てるイビルアイ。
お互い厄介な友人を持っているようでアインズは苦笑した。
その後でヤントラは友人に数えたくないな、と呟く。
自然とアインズと
評議国の
「我々は若輩国家ゆえ、もうしばらく
「そうであったか。無意味に国を支配して民を苦しめる支配者ではないと信じたいな」
その言葉は素直にアインズの胃の辺りを直撃する。
支配だけで何も考えてなかったんです、と言えたら言いたい。
今更引き返せないし、軽い冗談で十五万人も殺してごめんなさいとは言えないだろう。
どんな虐殺者だ。
殺した人数など正確に数えているわけが無い。
「国の運営などは未定で申し訳ない。その他に気になる事はあるのかな」
「あるにはあるのだが……。一つはもう聞いているだろうが吸血鬼だ」
「お……」
聞いている内容が間違っていなければ責められる材料は無いはずだ。
「この鎧を砕くほどの吸血鬼はついぞ、記憶に無い。接触した感じでは暴走状態と思えるのだが……。アインズ様の手持ちに吸血鬼はおられるかな?」
「色々な種族はおりますよ。……全員連れて来て首実検でもなさりたいと?」
「いえいえ、吸血鬼について知りたいのです。そちらの吸血鬼は自動迎撃するようなモンスターなのかどうか……」
「状況にもよりますな。私の知りうる情報では『血の狂乱』を起こして暴れまわった事があると聞いております。ですが、それでも自制が取れるはずです。無闇に襲い掛かる事はないと思いますよ」
「……いや、あれは血の狂乱ではない。冷静に襲ってきたぞ。意図的ではないとすると……、精神支配を受けたことになる」
「うむ」
「ですが、吸血鬼は精神支配に対して絶対の耐性を持っていたはず……。そちらの吸血鬼は……精神支配を受け易い種族と言うことなのですか?」
「決め付けは良くないのですが……。普通は無理です。特に外部に出した事のある吸血鬼は敵に対する様々な対処が出来る武装を持たせております。高位の精神系でも不可能だと自負しております」
「おお、それは凄い。それほどの手ごわさがあるのですな」
部下の細かい強さの情報は正直に言えば出したくない。だが、ある程度の情報開示は必要だろう。
それに吸血鬼そのものの知識は冒険者も持っているようだった。
「もう一つの懸念である八欲王の対策の為に強者の情報を得るのは必定。その事でアインズ様に恨まれるのは得策ではないと判断し、正直に述べました。しかし、我が一撃を受けても消滅しなかった、あの吸血鬼。八欲王の再来かと思いましたぞ。同じ異形種として対話を試みたかったのですが……。その吸血鬼は……アインズ様の知らない吸血鬼であればやはり……、八欲王に連なる者でしょうか?」
まさにシャルティアのことだな、とアインズは納得する。
鎧の損傷からシャルティアの神器級装備『スポイトランス』の一撃に似ていた。というか、それ以外で穴は空けられないのではないだろうか。
今の話しが真実だとして
少なくともアインズが対決した時は既に無傷だったはずなのだが。
高速治癒が間に合った、ということだろうか。
不幸な遭遇戦とはいえ部下を攻撃したものは少し不快だ。もちろん、対話を試みようとして襲うような状況であれば相手にも反撃する権利はある。
それにちゃんと報告してくれた
「我らの仲間を傷つけるような爬虫類には罰が必要ですわ」
と、部下が言い出せば無い胃はどこまでも痛む。
「まあ……、待て。近づいて来た者は無差別に、一方的に攻撃しろと命じた覚えはないぞ。……確か、情報収集が目的だったはずだ。うちの部下は勝手に攻撃する頭の悪い連中ばかりか?」
「い、いえ。それは無いかと……。最低限の反撃は許可されておりますゆえ……」
そもそもシャルティアを外にどうして出したのか、アインズは覚えていない。
セバスと共に王都の調査だったはずなのだが、何を間違えたのだろうか。
「……確か、セバスとソリュシャンは王都まで同行していたのだろう?」
後ろに控えていたセバス達が丁寧に頭を下げた。
「はい。シャルティア……様は野盗の調査の為に向かわれたかと」
「おお、そうだったそうだった。あの辺りの野盗の調査を命じていたのだったな」
どうして命じたのか覚えていないが。
人選を間違えた事ははっきりと分かる。
「当時は武技や魔法を修めた人間の調査を承っておりました」
「ああ、思い出した。そうだったな」
シャルティアには消えてもいい犯罪組織の連中の捕縛だ。
吸血鬼のスキルを使わせて一網打尽に捕らえるという。
「命令が
消えてもいい人間ならば文句は出ないだろうと命令を下した。
それがどう間違ったのか、冒険者ギルドに知られてしまう結果となってしまった。
その辺りが精神支配を受けた弊害なのだろう。
でなければ罪人以外の敵を攻撃する、なんて勝手は許していないのだから。
「では、やはりアインズ様の部下でしたか」
「ん?」
部下と認めると色々とややこしくなる気がした。
ここは言葉を濁したい。
「その吸血鬼が私の部下という証拠は無い。確か……もう一体……」
と、アインズはイビルアイに顔を向ける。
「『国堕とし』やホニョペニョコなる吸血鬼が居たはずだが?」
「『国堕とし』のことをご存知とは。そちらは私も知っているので。……しかし、ほにょぺ……言い難い名前ですな。そんな名前はついぞ聞いた事が無い」
と、他の評議員たちに意見を求めたが総じて首を横に振った。
「聞いた噂では『国堕とし』に弟子が二人居ることになっていた。そんな話しは聞いた事が無い。誰だ、そんな嘘を言ったバカは」
イビルアイは腕を組んで鼻息を荒くした。
はい、私です。とアインズは胸の内で手を挙げた。
「知らぬ間に尾ひれがつくものなのだな。今頃『国堕とし』はどういう立ち位置にされているのか……。知りたくないな……」
「見えない相手は本人の知らぬ間に強大な敵として成長しているものかもしれない。自分の目や耳でしっかり確認する事は大事なのだろう」
しみじみと
「その八欲王に匹敵する吸血鬼は冒険者モモンによって討伐されたのでは?」
と、
「では、モモン殿も八欲王に匹敵する実力者ということか? そういえばその者にも会いたいと思っていて忘れていたな」
「モモン様か? モモン様は確かにお強いぞ」
イビルアイは手をアインズに向けて、何か言いかけたところで停止した。
第十位階魔法『
「嬢ちゃん、どうかしたのか?」
「あ、ああ、いやなんでもないなんでもない! う、うん。なんでもないんだ」
空気の読める人物で助かった。
イビルアイはアインズが思っているほど状況把握能力が高いのかもしれない。
これがナーベラルならすぐに自慢するところだ。
「モモンさ……んは……」
早速、自慢しようと一歩前に出た
うっかり『
「えっ? は、はい……」
わけも分からずラキュースはナーベラルを取り押さえようとした。
「な、なにをする貴様!」
「そういうご命令なので」
「ごほん。ああ、ナーベラルよ。モモンについては自慢しなくていいぞ」
「えっ?」
とにかく、黙れ。お願いだから、とアインズは強く思った。
それと『
「八欲王については残念ながら私は存じ上げないのでな。強さの基準は答えかねるぞ」
「確かに。これは失礼した。なにしろ、奴らは人智を超越した化け物……。基準がはっきりしません。あえて言えばヤントラ殿……と言えなくはないのですが……。彼の本気はどの程度なのか……」
ヤントラはなかなか本気を見せない。
意外と空気を読む戦士だ。
アインズの知る基準では今は中の中ほどの戦士職だ。
装備に難あり、でも。今は上の下くらいはあるかもしれない。色々と上位モンスターを倒しているようだし。
その八欲王は上級プレイヤーである、ということになる。
それはそれで厄介な相手だろう。
それが八人となると階層守護者を総動員した程度の戦力かもしれない。
それらと
「倒しても復活する。そこが多くの犠牲が出たゆえんだろう」
「ほう、復活するのか……」
ならばリスポーンキルで倒し続けるしかないだろう。
それでも
上級プレイヤーで八人。
「……それが八人だと!?」
上位ギルドであれば百人単位の大所帯。
いやに少ない。
「八欲王は八人なのは当たり前か……」
「アインズ様? 何か心当たりでもあるのですか?」
アルベドが心配そうな顔で尋ねてきた。
「そいつらはチームなのか? それぞれ別々の存在なのか?」
「最初はチームだったようだ。それがある時に互いに殺しあうようになった。欲にまみれた者達ということで、我々の先代が彼らを八欲王と呼称したのだ」
全てを
そうでもしないと勝利できない相手なら戦略としては間違っていない。
八人で思い当たるギルドやプレイヤーは居る。
上級プレイヤーと一口に言っても数千人規模だ。それらの中から特定するのは不可能に近い。
例えばアインズ・ウール・ゴウンの前身『ナインズ・オウン・ゴール』は九人のチームだった。
後に人数が増えて四十一人になった。
「先ほどから八欲王なる存在が示唆されておりますが……。それらが何故、今も脅威に思われているのですか?」
アルベドの疑問にアインズもそういえばそうだった、と気付いた。
全てを倒したのなら脅威は取り除かれたのだろう。
しかも、彼らは五百年前の存在だったはずだ。
封印が解ける、とかだろうか。
「そこが重要なのです。八欲王を倒した後の話しに繋がっていきます。彼らは強大な力を持つ敵、または存在です。欲深い彼らを撃退して平和が訪れた、はずでした」
「また復活した、とかいうのか?」
「いえいえ。それは無いでしょう。評議国の総力を挙げて厳重に監視しておりますので。復活の兆しがあれば報告が入ります」
つまり彼らの拠点は押さえてある、という意味だろう。
レベルドレインによる弱体化で仮に復活しても討伐できるように。
陰湿ではあるが、自国を守る上では必要な措置とも言えるし、永遠の刑罰とも言える。
二度と蘇らせない。
それはヤントラの封印話しに似ているようだった。
不死の存在ならば永遠の牢獄は容易く構築できる。
「五百年も経てば改心するのではないか?」
「彼らは欲深い。力をつければ復讐するに決まっている。それに多くの
もし自分なら許すだろうか。
かつて
答えは否。
やはり自分も永遠の牢獄に閉じ込めてしまうだろう。
今はそう思う。百年後には案外、永遠は可哀相かなと思うかもしれない。
永遠の封印は自分も怖いと思うから。
「この世界はある周期によって強者が現れる。今までもそうだったのだから間違いない。評議国はその周期に従って八欲王並みの存在を探索している。そして、今回見つけたのがヤントラ殿であり、おそらく魔導国だ」
「周期と言うのは初……、いや続けてくれ」
「そこで最初の話しに戻るのだが……。現れる強者が我々の敵なのか、味方なのか……。その見極めが難しいのだが……。手を取り合えるのであれば歓迎したい。敵ならば……戦うしかない」
つまりプレイヤーがある周期で現れるということを評議国は見込んでいる。
そして、それはかなり実証されているのかもしれない。
彼らの言う強者がプレイヤーでアインズ側が思っている事と同じ場合に限る。
全くの別物の可能性も否定できない。
「魔導国は世界を欲しているようだが……。他に狙っているものとかあるのですかな。質問が卑しくて申し訳ないが……」
「充分な財はありますからね。他国の秘宝に少し興味がある程度です。特に……、マジックアイテムなどを」
「我々もです、アインズ様。
「そちらの
と、デミウルゴスがメガネを光らせながら言った。
「見せてくれるのであれば……。奪うほどの戦力はありませんよ」
「戦力があろうと今の評議国の立ち位置では侵略は難しいですぞ、
帝国と同盟関係にあるようだし、勝手な振る舞いは国として出来ない。
「評議国の懸念は理解できます。魔導国は全て敵として排除するつもりはございません。同盟だって結ぶ用意はありますよ」
「それはありがたい」
「帝国と同じく同盟を結ぶのですか?」
「それも世界を取る手だ。いきなり強引に奪うのは面白くないだろう。お前達が戦う機会を奪われて退屈するかもしれないけれど」
「い、いいえ。アインズ様の決定には我々も従いますとも」
「へ、平和的な、統治が、アインズ様の目的、ですよね?」
「マーレの言う通りだ。戦う敵が居ないのも少々、不健康かもしれないが……。国の安定を思うのであれば無闇に戦うのは得策とはいえないだろう。それは世界征服ではなく、ただの虐殺者だぞ。殺しが大好きな支配者では国としてどうなのだ?」
「素晴らしいと思います!」
と、元気よく答えたのは悪魔のデミウルゴス。
つい『うん。そうだろうね』と小さくアインズは言った。
「殺しが大好きでは……」
ナザリックに属していないものがどうなろうと知った事ではない。という風潮がNPC達に染み込んでいるのであれば仕方がないのかもしれない。
だからといって虐殺行為は個人的には好きではない。
廃墟の支配者は嫌だと言ったような気がするのだが。
静寂の世界の支配者になってしまうではないか。
ヤバイ。
アインズはヤントラの書類の内容が少しずつ思い出される。
最悪の結末を選びそうになる。それを避けたいが為にヤントラは苦心していたのだ。
世界を潰す支配者となってしまったら、何を糧に生きていけばいいのだろうか。
「ご心配には及びません。モンスターなど繁殖させればいいのです」
本当にヤバイ。
ウルベルトの影響を受けたヤントラはそれで月を開発させようとしている。
問題は人の居る地域かどうかの差だ。
デミウルゴスはこの世界の住人を蹂躙しようとしている。それはやりすぎだと言えればいいのだが、支配者の為に一生懸命なのだから怒るに怒れない。
「デミウルゴスよ。私は単純な方法で世界征服をしたいとは思っていない。誰もなしえない事をしてこそ偉業には価値が出るのだ」
「はい」
「だが、お前の考えている方法は力技のような気がするのだが……、合っているか?」
図星だったのだろう。
悪魔が唸って黙ってしまった。
「平和的な統治と言っているのに圧力を掛けるバカな支配者が居るものか」
「申し訳ありません、アインズ様!」
椅子から降りて、片膝を付く悪魔。
「よい。アルベドもデミウルゴスに同調するのか?」
「い、いいえ。確かに同調していたかもしれません……」
「夢は価値が無ければならない。だが、誰もなしえない方法だから私も手探りだ。失敗もしよう。安易な方法で得た成果など、私はそれほど魅力は感じないぞ。それこそ部下に出来る程度なら命令だけで終わってしまうではないか。多少は命令も必要だから、命じているに過ぎない」
アウラ達も椅子から降りて平伏していく。
「私は一人だ。手が足りないからお前達を頼るのだ。お前達を必要とするような、私一人では出来ないほどの価値を手に入れたいと思っている。それは至高の四十一人が総力を結集してナザリック地下大墳墓を作り上げたほどのな」
「我々の浅慮をお許しくださいませ」
「……アインズ様の遠謀深慮に敬服いたしました!」
「顔を上げよ、まだ会談は終わっておらん」
アルベドは良いとしてデミウルゴスは力技を好むのか、と少し残念な部分を感じた。
確かに手っ取り早い手段を取りがちなのだが、統治に関しては力技は好ましくない。
どう考えても悪い結果しか浮かばない。
部下達を椅子に座らせると
「お恥ずかしいところを見せてしまったな」
「いや、素晴らしいものを見た。アインズ様の部下は上の者に対する敬意をちゃんと持っているのだな」
それは少しバカにされたように聞こえてしまった。
「……部下がバカだと言いたいのか?」
「そうではない。大抵は信用の置ける部下など少ない方だ。いつも裏切りを警戒する。その点でいえば魔導国は伝え聞いたかぎり部下の入れ替えは聞かないのだが……。粛清はされないのだな」
「それこそ
「そうかね?」
平然としているツアー。
彼らには部下の裏切りはありふれたものかもしれない。
「我々というか、王国や帝国などは部下の入れ代わりが激しい。つい先日、会ったはずの者がもう別の顔に変貌している、ということはよくあるのでね」
「それはそれぞれの国の事情でしょう」
「うむ。侮辱と言われたが……。羨望だ。アインズ様は部下の教育が素晴らしいのではないだろうか。それとも人となりか。力で従わせている愚か者とは違う魅力があるようですな」
聞いているだけで腹が立ちそうになるのだが、
相手は人間ではない。
最強種を自負する
その
「我らは最強種の
「ほう。
「
聞かれるであろう疑問だ。だが、これにはまだ答えられない。
エ・ランテルで実験中なのだから。
「考えてはいる」
「不死のアンデッドであるアインズ様には時が無限にある。性急に答えを出せ、というのは定命なる我らの悪い癖かもしれん。それは許してくれ」
許さん、と言ったらどう答えるだろうか。
つい浮かんだバカな言葉にアインズは軽く苦笑する。
「失礼。性急に答えを出すのは……、正直、得意ではない。お待たせばかりさせてしまってこちらこそ申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
「どの国もそうなのだが……。一年の計が決まっているところは不測の事態に対処しにくい。帝国も竜王国も色々な催し物で忙しいのだ。その合間を縫って他国と会談せねばならないのだから……、自然と催促じみてしまうのだ」
「なるほど、それは理解できます」
全ての国がアインズの都合で回っているわけではない。
それは制圧した後でも同じだろう。
後回しにすれば人口流出で寂しい都市になりつつあるエ・ランテルのようになってしまう。
それぞれの都市に仕事を与えないと住んでいる国民が困る。
「支配者たるアインズ様に他の者が予定を合わせればいいだけでしょ」
アウラの言葉は強引ではある。だが、支配者としては正しいのかもしれない。
君臨するアインズ・ウール・ゴウンに国民の方が合わせるべき、と。
きっと大きな失態に繋がるんだろうな。
飲食不要なので放っておいたら餓死者が急増、とか。
ある都市が自然災害で苦しんでいても気付かないまま病気が蔓延とか。
「……耳に痛いな、ツアー様。今、深刻な未来が見えましたぞ」
「おお、それは僥倖。私もよく他の都市の様子が気になってしまいますよ」
「嘘をつけ、洞窟でぐうたらしているクセに」
と、リグリットが言った。
「
「直接、見たり聞いたりしていないんじゃろ? 民の不満は誰が集めておるんじゃ?」
「……我々ですよ」
と、今まで大人しくメモなどを取っていた秘書達が一斉に手を挙げた。
「ほれ、見ろ」
「……ぐぅ……」
確かに
「ツアー様の超知覚は国を丸ごとカバーしているのですか?」
「そんなわけないじゃろ。精々、都市ひとつ分くらいじゃわい、確か……」
都市から外は意外と分からない、ということだろうか。
「他の
「
イビルアイの言葉に
「……ああ、敵の接近には有効なんだっけ……」
「そうそう、その程度じゃ。都市丸ごとは到底不可能じゃな」
「……あまり苛めないで下さい……」
リグリットとイビルアイの前では
「国を治めるという点では最強の
「いくら私でも出来ない事はあるぞ」
「一気に制圧するよりエ・ランテルをしっかり統治してくれ。国とは長い時間をかけて歴史を積み重ねて作られるものだ。アインズの偉業も大事かもしれないが、残される歴史も立派な財産だと思う」
「重い言葉だな。出来立ての魔導国はこれから歴史が積み重なる」
「そういえば、その魔導国にご主人が作った浮遊倉庫みたいなものの……。その謝礼とか聞いていないのだが……」
また胃の痛くなることを、とアインズは唸る。
「何も請求されていないぞ」
「言われていないからタダ働きさせるのは悪いクセになるぞ。仕事に対する対価は絶対に必要だ。……アインズの為に書類を書いているのだから」
「むぅ……。出来る限り報酬は考えておこう」
金貨なのかアイテムなのか。
女体モンスターはそれほど持っていない。
珍しいモンスターでも召喚してみるか。いや、個人レッスンを真面目に受ける、というのがあったな。
「そ、そういえば、八欲王のような超越者が現れる周期と言うのはもう特定されているのか?」
「おそよ……、百年だ」
「百年? それはまた随分と間が空いているな……。十年単位とかではないのか」
「歴史的に見ても百年が妥当だ。ただ、どこにどんな者が現れるのかがはっきりしない。どれだけの人数が居るのかも……。分かるのはとんでもない強さと我らの知らない知識を持っている、という事だろう」
知識に関しては外部に漏れないように気をつけていた。
もし、出会いが早ければ戦闘になっていたかもしれない。
どういう理由かは分からないけれど。
「強いだけで理由になるのかな?」
「……そうですね……。我等の知識は二百年前からなので……確証が無いのは認めざるを得ない」
「
イビルアイが腕を組んで言った。
「その者は?」
「十三英雄のリーダーだ。この世界に訪れる強者の正体なども色々とな。だからといって誰が来るかまでは分からなかったようだ」
「欲王達に匹敵するから敵だ、とは言わない。交渉できるものなら話し合いもするよ」
アインズは慎重に事を進めたつもりであったのに結果として目立ってしまった、ということになる。
確かに超位魔法でプレイヤーを
警戒している相手にとっては目印になってしまうことだったのだろう。
「……これでも慎重に事を進めてきたのだがな。分かるものには分かってしまうとは……。最小限の手勢で進めるべきだったか」
「アインズ様の威光は隠すべきではありません。はっきりとした力の差を見せ付ける必要がございます」
「そうですよ。ナザリック地下大墳墓の支配者がこそこそと隠れるなんてみっともないです」
「で、でも、アインズ様は、慎重に進めたかったのでは?」
マーレが平和的で少し安心した。
「例え相手が下等な存在であろうともアインズ様の慈悲深いところを見せる事も必要かと。力による威光はただの暴力に過ぎません」
真面目なセバスの意見にアインズは頷いた。
評議国側は亜人達が唸っていたのだが、
「アインズ様は国王ではなく支配者がお望みなのですか?」
無い心臓に一撃が加えられる。
「ナザリックでは支配者という地位に居たのでな」
「なーに、下等な爬虫類の分際で。文句でもあるの?」
賢い
それはそれで強敵なのだ、とアインズは言いたかった。
短気を起こさない冷静な相手ほど言葉による先導は難しい。
交渉ごとの難しいところだ。
王国と帝国では傲慢で頭の悪そうな貴族がすぐ短気を起こしてくれるし、ベラベラと勝手に喋ってくれる。
動揺しない、と言った方がいいだろう。
そこは最強種である自負なのかもしれない。
「あー、小さな村を救ったのでしたね。支配者は大抵は小さな事には目もくれないものなのに……」
「普通はな。最初は行きたくなかった。無残に殺される村人の顔がたまたま見えたのでな。それで、困っている人は助けよう、という昔の仲間の言葉を思い出しただけだ」
「仲間の言葉はアインズ様でも重いか」
「重いな」
互いに表情の読めない顔ではあるけれど雰囲気は伝わったはずだ、と思う。
「今回は非公式ではあるけれど、有意義な会談だった。出来れば、このまま交わせる約束事があれば交わしたいものだ」
「
「同盟は無理でも友達は可能だろう? バハルス帝国が間に入ってくれれば」
「彼らは我らに友好的とは思えませんが?」
特にアインズの部下が。
国王たるアインズはまだ友好的だと思えるけれど、部下は自分たち以外は下等生物だと思っている。それが気になって仕方が無い。
それはアインズも同じ気持ちだった。
アルベド達と仲良くできるような空気ではない、気がした。
階層守護者は表で仕事が出来ないかもしれない。
これは素直に、どうしよう、と。
「仲良くする必要は無い」
と、はっきり言い切るのはイビルアイだった。
「嬢ちゃん……」
「アインズの部下は他人と仲良くはならない。だが、仕事は真面目だ。そういうものとして付き合うしかない」
「融通がきかないところは他国の方々に色々と迷惑を掛けることだと思う」
というか、アインズでもアルベド達を教育できる気がしない。
至高の四十一人の趣味を体現したようなNPCなのだから。
「……個人的な友好関係は出来無いと言うことか? それは寂しいな」
「確かに個人的な付き合いが出来るような部下が居ないのだが……。新たに引き入れた
「
「ここに居る
「ほう。
「そうだな」
「さらったわけではないぞ、ツアー様。保護している。今はナザリックの為に働いてくれている」
「保護と言うと……、奴隷か」
「そうらしいな」
「奴隷解放に力を向けると色々と敵を作ることになりますぞ」
「そうらしいですね」
奴隷と言っても誘拐ばかりではなく、生活の為に自ら奴隷制度を受け入れている者が居る。それは帝国にいた時に色々と学んだことだ。だから、責められる事は何も無い、はずだ。
「……これは独り言なのだが……」
と、ツアーは言った。
秘書達も羊皮紙などから手を離す。
「
初耳の情報にアインズはアルベドにメモするように言った。というか、必要な事はちゃんと書いているのか心配になってきた。
議事録というものは
ただの口約束よりも。
非公式であっても、多少は情報として役に立つ。
「捕らえた
「他人の愚痴に口を挟む野暮なことは致しませんよ」
「あと……、バハルス帝国の皇帝は良い男です。鮮血帝という物騒な二つ名を持っておりますが、国民の人気はとても高いのです。大事にしてあげて下さい」
「ツアー様が言うほどですか」
「はい。富を独占する傲慢な貴族を粛清し、本当に国の為に働いている人間です」
「胸においておきましょう」
この頃、放置気味で相手をしていない。
友達となった筈なのにいいように利用ばかりしては申し訳ないだろう。
たまにはナザリックの第九階層にでも招待してくつろいでもらおうかな、と思った。
男同士、裸の付き合いも悪くは無いだろう。
さすがに