※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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N-3 『万魔殿』の製作は難航中

 鉱物資源は大規模な鉱山を手に入れれば魔法による負担は格段に下がるだろう。

 都合の良い鉱山はありはしないのだが。

 一定量しか溜めて置けない。使用回数に限界がある。

 今まで処分した命の数は数えたくない。などの問題がある。

 まともな方法であれば千年くらいかかるのではないだろうか。

 百年も経てば技術も進歩しているかもしれない。

 普通に考えても非効率的だ。

 宇宙開発が出来るほど文明を発展させてしまうと大きな戦争が起きそうだ。少なくとも科学技術による大量破壊兵器は生産されるだろう。

 それはそれで滅ぼしがいのある世界だ。

 そんな事はさておき、魔導国の事は関知しないまま資材整理したり、運び込んだりを続ける。

 ナザリックで製作されているフェルトは石鹸の在庫が切れて停止中。

 それは別に問題なし。

 灰の調達方法を色々と模索中。

 魔法は便利だが即席ゆえの弊害がある。自然環境に逆らうのだから後が怖い。

 自然の流れに逆らわない方が良い。

 蒼玉の粘体(サファイア・スライム)を使い、ラキュースと子供達を建造中の『万魔殿(パンデモニウム)』に連れて行く。

「広大ねー」

「……おー」

 子供が走り回っても大丈夫なように柵は事前に設置しておいた。

 調度品は無く、吹き抜け同然の空間。

 天井と床の間はかなり空いている。

「高過ぎる天井だけど十メートル……でも高いか……」

「床を厚くしたりするけど、全体のバランスを調整するためには大雑把な部分を作る必要がある。場合によっては下げる事もあり得るよ」

 外壁部分が分厚くなるし、階層の数が増えてしまう。

 様々な圧力の関係で内部に下手に広い空間を作るのは良くない気がする。

 絵として描く事は簡単だ。

 実際は色々と面倒くさい。

 普通に作るだけなら充分な施設ではある。

 内部に重力を作り出す部屋も必要だ。こちらは魔法で何とかできたはずだ。などなど。

 出来ている階層に案内しても面白そうなものは無い。せいぜい作業しているメイドの様子を見るくらいだ。

 普通は建築関係者だがメイドという。

 金属の溶接や使う素材など。見所が子供には無い場所だが興味深げに眺めている。

「実験的に外壁部分も少しだが設置している。かなり上の方だから飛ばないとな」

「……完成予定はいつぐらいかしら?」

「今年は無理だな……。見当も付かない。出来ても飛行実験とかあるし」

「気の長い作業なのね」

 いつ出来るか分からないものに一般人を雇ったらアインドラ家の財政は十年持つだろうか、とラキュースは試算する。

 設計士に払う資金なら問題は無い。

 本来なら個人で製作する事も国の事業で製作することも難しいだろう。

 特に莫大な量の資源を使っているのだから。

 外見の大まかな寸法はンフィーレア達に計算してもらった通りにロープを張っている。

 所々に浮いているロープに従って作業は進められていた。

 見た目は正八面体にする予定だが、宇宙船としては非効率的な形だろう。

 小型で鳥形のようなものでは物資があまり乗せられない。最初から要塞型として宇宙に出すところから始める。

 こういう宇宙ステーションのような施設をいくつも浮かべて星の開発を行(おこな)うのも面白いかもしれない。

 百年後の世界は分からないけれど。

 

 折角ゴムがあるので床タイルとして製作を試みる。

 磨き上げた大理石を使いつつ。

 耐水性に優れているし、掃除もしやすいだろう。

 滑り止め加工が出来れば歩きやすくなる。

 それには広大な土地が必要だ。なので低位置の空中植物園の製作を計画する。

「二十メートルほどの上空ならンフィーレア君も様子が見やすいだろう」

「時代は空中開発ですね。ただ、第五位階魔法が普及していれば多くの国が色々と挑戦していたでしょう」

 永続化(パーマネンシー)は色々と問題があるので安易に使えない魔法だ。

 本来なら大儀式などを行(おこな)うのが基本だろう。

 それだけの価値がある魔法でもある。

「日陰が出来ても良い施設の上空に配置しようか。水が落ちてきても問題は無いだろう」

「まとまりの無い施設になってきましたね」

「何が起きるのか、私にも分からなくてわくわくするね」

 ヤントラとて危険な実験はやりたくないし、慎重に行動する。

 ゴムの木の増産となれば安全度は高いだろう。

 後日、非番のルリマリスと共に新しいゴムの木を探す。

 モンスター退治ではなく、植物の捜索だ。

 危険なモンスターはヤントラが担当するので目的の樹木のみに集中するように言った。

「……森祭司(ドルイド)系のクラスも取っていた方が良いか?」

「自然の少ない都市で働くので無理には……」

 木の匂いや雰囲気などに神経を集中させて捜索していく。

 ついでに森精霊(ドライアード)が居れば手に入れる。

 一日いっぱいかけて捜索したが森精霊(ドライアード)は見つからない。

「それほど多くは居ないので……。トブの大森林には結構居たような……。五十年も昔の事ですけど……」

 外敵が居なければかなり長生きするモンスターだ。

 そもそも論で言えばゴムの木がありそうな場所に特徴があるのだろうか。

「陽の光りが降り注ぐ場所と湿気が多い場所ですかね」

「見つかったとしても根こそぎは取らないよ」

「は、はい。増やすんですよね」

 森の中だと森妖精(エルフ)は安心するのか、表情は明るかった。

 身軽さを最大限に利用し、森の中をかけていく。

 ある程度進んだところで小休止する。その間、森妖精(エルフ)の長い耳を触る。

「森妖精(エルフ)に直接触れられるのは貴重な経験だろうな」

「そうですか?」

「そんな耳が容器にいっぱいあるのも……」

「……おぅ」

「培養する時に困るのが持ち主がうっかり死ぬ事だ。完成した時に暴れだすと色々と面倒くさい」

 今のところは問題が無いのだが、魔法の性質だから仕方がない。

 なので子孫を保存するのが安全だ。

 オリジナルを完全に処分するのも勿体ない気はする。

「あと少し進んで何も無ければ戻ろうか」

「はい」

「王都の暮らしに不便は無いか?」

「特には……。充分な幸せを感じております」

 持ってきた弁当を食べさせた後、ゴムの木探しの後、施設に引き返す。

 目新しい収穫は無かった。

 施設に戻った後でルリマリスに宿舎の一室を与えたり、備蓄している食糧の取り扱いを任せたりした。

 物騒な事が無い分、ルリマリスは安心して食料の選定に入る。

 必要とあれば持ち帰りも許した。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 次の日は施設の真上に金属板を置いて行く。

 広さは百メートル四方からはじめる。拡張はおいおい考える事にした。

 こちらは大きな板を置く予定なので作業は早い。

 浴槽型というか温室にして土を搬入。深さは二メートルもあれば充分だろう。

 下から手すりつき階段を設置し、エンリ達が観察し易いようにする。もちろん、落下防止の柵も設置する。

 後は等間隔に株分けしたゴムの木を植えていく。

 土に馴染んだところでゴムの樹液を採取する。

 合間にゴムの木の捜索も行(おこな)う。

「なんだか、色んなことに手を出している施設になってきたな」

 イビルアイも『マグヌム・オプス』の変容に驚いていた。

「研究施設としては面白いのだが……。なんだろう、夢が溢れているって気がする」

「大爆発しないように気をつけているよ」

 イビルアイの貴重品は別の場所に保管するようには言ってある。

 ンフィーレア、リイジーなどはそれぞれ独自の隠し金庫のようなものを持っているようだ。

「大丈夫だ。ここが安全などと思ってはいない」

 最初の頃にアインズに破壊される恐れがあると言われて、壁に大穴を空けられた事を知っているから。

「上はゴムの木の生産なのだな」

「床に乗せるタイルとして」

「染料も必要なのか?」

「一色だと品薄に……。床を華やかにする為ですよ。装飾と一緒」

 少量で構わないので一通りは購入しておいた。既に試作品は作ってある。

「加工し易いし、弾力がある。足の負担も軽減される」

「色は落ちないのか?」

「落ちない、はずだ。上から塗っているわけじゃなく、練りこんでいるから」

 色が落ちると服や靴、裸足だと足の裏にべったり色がついてしまう。

 黒い服装だったイビルアイなら問題は無いのだが、今は明るい青を基調とした服装なので目立つ色は付けたくなかった。

 この世界の染料は服にも使われる一般的なものだ。

 鉱石や生物から取れる天然の染料。

 色落ちするなら住人の身体はとっくに汚れまくっている。

「必要な物が多いと施設もにぎやかになるのだな。大規模になれば当然、足りなくなるものがあるだろう。……桁違いに……。ところで、ご主人……。身体は大丈夫なのか?」

「はい。夢中になるものがあると問題なくすごせるようです。何か作っていた方がいいのかもしれない」

「そうか。評議国に引き渡す武具は完成したら私が届けよう」

「亜人は理解出来るけど、竜(ドラゴン)が装備する姿が浮かばない……」

「なんとかするだろう。そこは気にしなくていいのでは?」

 巨体が人間武器をどう扱うのか疑問だ。

 人間に変身して戦うならまだ理解出来る。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あくる日にナーベラルを『万魔殿(パンデモニウム)』に連れて行く。

 あまりにも巨大な建造物なので製作が遅い。

「現在の技術ではこれが手一杯だろう。そもそも浮遊する建築は前代未聞だ」

「……うむ」

 広範囲が吹き抜けで何本もの柱が建てられている。

 床下は一部に穴が空いていたり、収納空間が見えていたりする。

 調度品は無いが作業するメイドと資材を入れた箱がたくさん置かれていた。

 階層構造なので上を見上げれば製作途中の天井が見える。だが、そこに至る階段は見当たらない。

「『飛行(フライ)』用にしようか、無重力用の通路にしようか色々と検討中だ」

 梯子(はしご)でも代用が利く。

 電気で動く階段という概念が無いので転移による最先端技術の方が楽なのではないかと。

 普通なら無数の機械類が設置されるが、この施設には機械は無い。

 一先ず宇宙空間で運用して色々と再検討が必要かもしれない。

 何事も最初が肝心だ。

 一気に全ては完成しない。

「重量級のモンスターを詰め込んで落下させたら、さすがの星もひび割れるかもな」

「むぅ……」

「……そう簡単にはいかないか……。確実に国は滅びるだろう。破壊は簡単だな、ナーベラル」

「簡単……。簡単に行(おこな)えるものを作る御技は素晴らしいだろう」

 これがアインズならば今すぐに跪きたいくらいだ。

「宇宙に出られなかった場合は解体して各国に資源の再利用として提供しよう。燃え尽きさせるのも勿体ない」

「うむ。丁寧に作っているから時間がかかるのか?」

「一つ一つに魔法をかけているからだ。効率の良い永続浮遊の方法があればもっと楽に作れるだろう。制限のある魔法を有効活用しているのだからずさんな方法は怖い」

「了解した」

「見る分には他の者も来ていいぞ。解呪すると物が落ちるからやめてくれよ。……一般メイドは少し心配だからダメか……。たまにモンスターが来るらしい」

 ナーベラルは必要事項をメモしていく。

 遥か上空とはいえ強風などは吹き荒れていない。

 施設を覆うシーツが影響しているらしい。

「階層を少なくすると動かした時、色んな力が影響して潰れそうになるとか。均一に力がかかるように設計士に頑張ってもらっているよ」

「ただ形を作ればいい、というわけにはいかないのだな」

「……巨大な城は止まっているから安定しているように見える、とか。様々な物理法則が働くんじゃないか。いざとなれば小型の箱で飛んで宇宙空間で作り直すさ。臨機応変にな」

 現段階では壊れても空中分解する程度で済む。

 落下する部品はメイド達に集めさせれば被害を少なくさせることが出来るかもしれない。

 床板を敷き詰めるだけで今年は終了するかもしれないらしい。

 外壁は来年以降となる。

「今日明日に劇的な変化は無いからな。過度な期待されても困るぞ」

 明日、急な秘密兵器は搭載されない。

 荷物の搬入がせいぜいだ。というか、まだ貯蔵庫の選定が出来ていない。

 想像以上に階層が多くなって驚いたくらいだ。

 だいたい四層くらいじゃねーの、と最初は思っていた。

 

 評議国への依頼は早めに済ませ、無報酬だろうと思いつつ『万魔殿(パンデモニウム)』製作に取り掛かる。

 一日で出来る作業量は少なく、草原で頑張っている黒い仔山羊の様子を見たり、ゴムの木の大量栽培の様子を確認したりする。

 木造の大型倉庫ならメイド達でも出来るだろうから、いくつか作っておく。

 フェルト用。窓用。シリカ用。

 積み重ねると壊れそうなものは間に金属板を挟む。

 これくらいならすぐ出来るようになった。

 冒険者はどこへ行ったのだろうか。

 『万魔殿(パンデモニウム)』が失敗作であれば金属はそれぞれの国に提供してもいい事にした。というか、成功と失敗の後始末はよく思い浮かんでしまう。

 同じ事を何度も思うんだろうな、と。

 『永続化(パーマネンシー)』が解呪されてしまえば瓦解するだけだ。

「ヤントラさんが決めたことには従いますよ」

「ありがとう」

「重量の効率化は新たな建築には必要ですからね。ちなみに、今までの研究結果は公開してもいいものでしょうか?」

「魔法以外はいいかな。高い位階魔法は夢物語のようだから」

「そうですね」

 公開したからと言って大規模建築が出来るとは限らない。

 そもそも論で言えば重量の加算問題を解決しないと落下してしまう。

「……じゃあエロいことでもして気分転換かな……」

「じゃあって……。困った人ですね」

 ヤントラは一人のメイドを呼びつける。

「何の抵抗もしないメイドを触りたいかね?」

 最初こそは恥ずかしかったけれど無抵抗のメイドは人形そのもので触りたいほどとは思わなかった。

 エロも意外と奥が深い、などと思いつつもヤントラは困った人だと思う。

 身体を触るだけならメイド、のような人で事足りる。では、何が不満なのか。

 正直、エロ関係は考えたくなかった。

 ずっと同じ事を研究するのが大変で頭の切り替えがエロならば理解出来なくは無い。

 出来なくは無いのだが、ンフィーレアは唸ってしまう。

「親になっても変わらないですね、ヤントラさんは」

「命令に従順すぎるメイドを見ていると興奮は冷めてしまうな」

 そう言いながらメイドの頭を撫でたりする。

 本来は赤の他人。

 用が済めば処分される。

 そういう事実をンフィーレアは知っている。

 命を粗末にするよりは長く活用する方法を模索してほしいと思う。だが、今のところは良い案は浮かばない。

 従順なメイドはその後、転移していった。

 やろうと思えば胸も揉めるけど、ここしばらくは裸のメイドは見ていない。

 たまたま目撃していないだけかもしれない。

「……何人殺したんだろうか……」

「数百億人くらい? 処分せずに利用できないものですか?」

「『永続化(パーマネンシー)』はそのままだが……。弱体化の場合はどうしようもない。鉱山を掘りつくすことは出来ないからね」

 世界を掘りつくす勢いが無ければ『万魔殿(パンデモニウム)』は作れない。

 人工的に生み出す技術革新は今の段階では未知の分野だ。

 環境汚染も起きてしまうだろう。

 そこは慎重に進めたい。

「人的資源を最大限活用したいけれどね」

 さすがにいちいち殺してしまうような方法ではンフィーレアが困るだろう。

 都合のいい魔法に頼らない方法も実は大事だ。

「私の方法は短期間で素材を得ているから非合法極まりない。これは真似してほしくないな」

「非合法は真似したくないですよ」

 ンフィーレアとて分かっている。

 ヤントラの資源は『マグヌム・オプス』内のものを使っていると。

 一部の例外を除けば王国や帝国の資源は殆ど使用していない。

 自己完結型の研究施設はそうそう作ろうと思って出来るものではない。

 アインズをして驚いていたくらいだ。

 肉片一つあれば時間はかかるが同等のものをヤントラは新たに作り上げられるという事実。

 限定されたクラスとスキルを最大限使いこなして不可能を可能とする。

 同時に自己完結型は寂しさとの戦いだ。

 他人を必要としない。

 自分の祖母が己の研究に人生を捧げるのと同じで、協調性が無くなってしまう。

 研究者の悪いところかもしれないし、ンフィーレアも夢中になればエンリや子供達の事を忘れそうになる。

 そうならないようにヤントラは定期的にカルネ村に戻るように勧めてくれる。

「早くみんなで作業が出来るといいですね」

「雇う資金が膨大になりそうだがね」

「あら、それを忘れていました」

 さすがにタダ働きはさせられないだろう。

 規模としては『マグヌム・オプス』と同等くらい。

 現在、素材生産が追いつかないから休み休みの状態だ。

「現場に行くには粘体(スライム)に耐えてもらわないといけない。設計士はもう現場に入れてもいいだろう。浮遊を抜きにして新たな建築様式が広まったら凄いだろうね」

「小型のものは出来そうですね」

 照明などの小さなものは有益だろう。それなら貴族の資産でも無理は無い。

 第五位階ならアインズも検討はしてくれるはずだ。こちらはンフィーレア個人でも交渉出来そうだ。

 第八位階『仮初の停滞(テンポラル・ステイシス)』は使い道がンフィーレアにはまだ少し理解できないけれど、これは今は必要ではない。

 こちらの金貨で五百枚ほどという大出費。おいそれと使えはしない。

 本当に金貨五百枚かは試したくないけれど。

「宇宙に出ないのであれば木造建築でもいいんですよね?」

「うん。長期運用を考えて金属にしている。錆びにくい金属でね。強固なガラス製にすると光りが乱反射して大変な事になる」

「あ……、燃やされますか……」

 一番の懸念は火災だ。

 石は重い。あと、壊れるおそれがある。

 全ての外的要因に対処しようとすると、とんでもない労力がかかる。

 耐性付与だけで壁一枚作るのにどれだけ期間を必要とするのか。

「考えたらキリが無いですね」

 実行してから考えた方が気が楽になる。

 最初から完璧なものは出来ない、という前提で作業をしないと何も作れないかもしれない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 計算された設計図を元にロープを張り、階層を製作していく。

 数人の設計士はまず粘体(スライム)をまとうのに苦労した。

 動き易さでは粘体(スライム)は優秀なので我慢してもらう。

 自然界に居る同じ粘体(スライム)なら確実に人間は死ぬ。それほど強いモンスターだということは教えておいた。

「従順な粘体(スライム)は自然界に普通は居ません。召喚モンスターとして呼び出すものならまだ希望はありますけどね」

「時間になると消えるから大変ですよね」

 退去時間の計算は必須だろう。

 設計士は戸惑いながらも粘体(スライム)をまとい、件(くだん)の巨大施設『万魔殿(パンデモニウム)』に乗り込む。

「………」

 数人の設計士は言葉なく周りを見回す。

 整然と並べられた床。

 高い天井。それを繋ぐ太い柱。

 飛んでいるたくさんのメイド。作業するメイドと続く。

 果ては白く景色は閉ざされていた。

 風は微風。バタバタと小さくシーツの揺れる音が聞こえる以外は作業の音が僅かに聞こえる。いや、金属の揺れる音も聞こえていた。

 吹き抜けだがシーツに包まれた世界だからか、風切り音などはあまり聞こえない。

 シーツは球体で外は海が広がっている。

 落下防止の網も広げられている。

「この床全てがミスリルやオリハルコン、アダマンタイトかね?」

「床はオリハルコン製ですね。アダマンタイトはそれ程数が得られにくい、と言われています」

 武器製作には充分だが建物に使うには量が圧倒的に足りない。

 重要な部分にはアポイタカラやヒヒイロカネが使われる予定になっている。

 もちろん、もっと希少な金属も使われる。

「薄い床板で本当に支えている」

 床下収納に降りた設計士が確認して驚いた。

 厚さは一センチメートル未満。

「規定の重さに対してはびくともしない。それを積層構造で強固さを補っています」

 一枚だとうっかり解呪するかもしれないので三層にしている。

 大きな板に変えて十層にしようか迷った。

 量は同じだが数に差が出る。違いは魔法の付与回数くらいだ。

 一度固定すれば術者が死亡しても問題は無い。

 『解呪』と『故意に破壊する方法』と『規定以上の重量を乗せる事』が崩壊につながるものとして上げられる。

 低位の解呪魔法だと物体一つだが上位の解呪は広範囲に及ぶ。

 およそ六メール分。

 アインズの協力の下で色々と実験した結果は一軒屋程度の建物丸々一つ、または大部分が瓦解する事がわかった。

 魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)を使うと二百メートル規模に及ぶ。その時の様子は中々に見ごたえのある光景だったとンフィーレアは苦笑する。

 砂で作った城が崩れ去るような感じだ。

 解呪されると板が落ちるだけで砕け散ったりはしない。

 積層にしても上位の解呪には抵抗できないようだ。

 アインズに実験結果を報告し、出来るかぎり低位で様子を見ると言っていた。

 広範囲に効果を及ぼすものは味方にも被害が出ないとも限らない。

 外敵による解呪魔法のおそれがなければ様々な建築に着手したいところだ、とアインズは言っていた。

「解呪魔法は想定しない事にしています。そうしないと手間が更にかかってしまうので」

 想定していたら完成するのに数十年はかかるのではないかと思った。

 ヤントラやシズから宇宙船の製作は早くて一年ほどはかかる大事業だと教えられた。

 数年かかって当たり前。

「魔法を駆使しているので通常の職人は作業に当たれません。ですが、小規模なら僕らにも出来る可能性があります」

「いやいや、これだけでも尋常ではない事は分かりますよ」

「……しかし、夢のある事業ですな」

 多少強く踏みつけても動じない床。

 一般人なら暴れても問題がないとヤントラは言っていた。一部のメイドは客人の安全の為に動くらしい。

 辺りに静かに響く金属音。

 固有の振動が加わる為に様々な音が反響する。その音を消すゴムなども検討されている。

 粘体(スライム)によって耳は守られているので実際はもっと大きな音かもしれない。

 メイド達は全てンフィーレアの設計した耳当てを装備している。

 短期の仕事であれば問題は無いが、長期間だと耳を傷めるおそれがある。

 問題が発生すれば原因を調査し、改善していく。

「上の階層に行く場合は今はメイドさんに頼ります」

 階段は場所をとるので梯子が検討されている。

 荷物は引き上げればいいのだが、人間には色々とまだ不便だ。

 それぞれ設計士達は長さを図ったり、疑問をンフィーレアにぶつけていく。

 羊皮紙に記入する机と椅子はメイドが用意する。あと、小屋がいくつかあるので議論する場所としても使える。

 常識外れの建築に驚きつつも真面目に討論される。

 未来の建築に少しでも役に立てば、とヤントラは公開してくれる。

 この建物には船のように舵取りする装置が無い。どうやって動かすのか。というか動くのか。疑問は作らせているヤントラも未定だとか。

 様々な魔法があるので当てはあるらしい。失敗するかもしれないけれど、と続く。

「我々の仕事は安定と頑丈に作ること。作業はメイドさんたちが行(おこな)いますが、現状では人間に出来る事は意見を出すことくらいです」

「地上建築とは違いますからな」

「浮遊要塞のようですが、王国は警戒されないのですか?」

「王国と帝国には製作の報告はしてあります。使用目的も。他国に迷惑をかけない約束をすでに交わしているので今のところは抗議はありません。魔導国も同様に」

「了解しました」

「落ちたら危険ですよね」

「はい。落としません、と……。落下に関しては様々な方法で吹き飛ばすとか」

 大半のメイド達は階層の床板を地道に並べる作業に専念している。

「オリハルコンを贅沢に使うとは……」

「瓦解するような失敗作に終われば様々な国家に寄付されるようです。捨てるのも勿体ないと」

「おおっ!」

「失敗するように設計しないで下さいね。魔導国はヤントラさんを追い出したいと思っているので成功させろ、と言われております」

「なんと!? あの魔導国が……」

「膨大なオリハルコンは市場価格を下げるおそれがあるので、これらは金銭目的で売ろうとしない方がいいとか」

 その言葉に二人ほど頷いた。

「過剰供給ですな。買い手が居なければ鉄くずと同じ。ちゃんと考えておられるのだな」

「ヤントラさんは賢いですよ」

 設計士達の為に大きな羊皮紙をヤントラは用意していた。

 それらを配っていく。

 内部の設計は大雑把なものは出来ているけれど、細かい部分は改めて設計士に計算などをしてもらう。

 作業用の小屋もメイドに命令すれば木造だが作ってもらえることになっている。

 トイレと風呂に関しては粘体(スライム)が吸い取る事になっている。

「排泄物は全て堆肥に加工されます」

「無駄を無くすところは見習わねばならないな」

「施設に戻りましたらお風呂をご利用して下さい」

「了解した」

 それぞれ頷き、仕事人の顔になっていく。

 メイドにいくつか小屋を作らせている間、補強工事の必要性や部屋の構造で議論が交わされる。

 低位の解呪では簡単に瓦解しない造りだが気の緩みは無い。

 ヤントラ自身、かなり徹底的な性格をしているようでメイドは全てに魔法を行使している。

 メイドの周りを溶けた金貨が絶えず流動するという不思議な光景が広がる。

 作業は一日いっぱいではなく交代制で入れ替わっていく。

 施設に戻ったメイドはナザリックのメイドにマッサージを受ける。

 飲食不要ではあるけれど手厚い労わりは忘れない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 時が経つのは早いもので季節は秋の終わりごろ。

 下風月(十二月)の中旬ではあるけれど雪はまだ降ってこない。

 小麦の収穫時期が最盛期。

 木々の紅葉が地面に落ちていく頃の王国の周りでは目立つようだが、砂漠地帯ではまだ葉が落ちる程度だ。

 この時期、雪はアーグランド評議国付近ではよく降っている。時には国境地帯が埋まるほど。

 四季の移り変わりは地下ではあまり感じない。分かるのは一日の時間の流れくらいだ。

 七の宝物庫の地下一階に並べられた布団には多くのメイドが横たえられていた。別に死んでいるわけではなく、休憩の為に眠ってもらっていた。

 一人ひとりにナザリックのメイド達がマッサージをしたり身体を拭いたりする仕事に従事している。

 力仕事に向かないところもあるけれど。

 複数の職業(クラス)を持つメイドが作業を行(おこな)っているが効率は中々上昇しない。

 『万魔殿(パンデモニウム)』に内部で作業できるいくつかの部屋と風呂とトイレと食事処に寝床は最低限確保する予定になっている。

 魔法のコストである金貨の貯蔵庫も。

 外部の探査をする各頂点には特別な部屋が造られることになっている。

 遮光装置が働かないと太陽の光りで身体が焼けたり被爆するおそれがある。

 高速治癒を持つ女神系モンスターなら問題は無いかもしれないけれど人間でも安全な設計にはしたい。

 いざという時は『水晶の画面(クリスタル・モニター)』を駆使するほか無いかもしれない。

「……仕事に集中しているご主人はかっこいいな」

「そうですね」

 イビルアイの言葉にンフィーレアは頷く。

 設計士が描いた図面を真面目に眺めるヤントラ。

 必要な事項や気がついたことはどんどん書き加えていく。

「粘体(スライム)を装備するのは大変だな」

「はい。でも、呼吸はとても楽です。装備しない場合だとめまいを起こしたり、吐いたり、激しい頭痛が起きますから」

 イビルアイは呼吸しないので分からないが人間は大変だなと心配した。

「地上で作業しても総重量が重ければ持っていけないものな」

「はい。お城を作るより大変だと言われました」

 徹底的ともいえる重量の削減で総重量は溶接部分の数十キログラム程度ではないかと言われている。

 宇宙空間での建造なら重さは気にしなくていいのだが星には降り立てない。

 重力の概念があるところに行くと重さが加わり、瓦解する恐れがある。

 シズの説明では無駄なものは排除し、軽量化を図るのが基本だと言われている。

「巨大な質量を動かすのは実際には可能なのか?」

「分かりません。推論は実証しないと……」

 物体を動かすには推進力が必要だ。そして同時に同じだけ抵抗力が生まれる。

 その抵抗力に耐えられなければ『万魔殿(パンデモニウム)』は瓦解してしまう。

 それを解決する為に各頂点に術者を配置する。

 ヤントラはある程度の推測に基づいて作っている。それを一つ一つ証明しながら他人の意見を吸い上げている。

 量産資源から金属板を作り、それらを現地の倉庫に運び込む。

 配管類は必要数を作り上げて個別に送り届ける。

 密閉空間になるので匂いなどの問題が発生する。空気の入れ替えをするのは検討段階だが排気はしなければならないだろう。

 果物の木を入れて天然の芳香剤にすることも盛り込まれている。

 資源は一日で規定の量には達しない。その間に息抜きに旅をする。

 ルリマリスとメイドを連れてゴムの木探しとか、果物の木の捜索をする。

 見つからないからと言ってルリマリスは苛めない。

「この辺りには無いのかな」

「あるいは私の知らない品種とか。独特の匂いがありますが……、この辺りは毒性が強いのかもしれません」

 忍者(ニンジャ)が数体ほど襲ってきた。

 モンスターとて何か食べているはずなのだが食生活はどうなっているのだろうか。

 恐竜型を食べているのかもしれない。

 その割りにアンデッドは見当たらない。

「昔から忍者(ニンジャ)が居るなら装備品が至る所に落ちていても不思議は無いはずだが……」

「倒すと消えるのかも。回収屋が居て街に卸されている事も……」

「噂が出ないとなると出生率が低いとか、洞窟に夥しい数が生息しているとか」

「……それは怖いですね」

 『分身の術』が使えるはずなので数千体くらい襲ってきても不思議は無い。

 モンスターに警戒しつつ樹木探しを続ける。

 知らない木の実は鑑定する。

 湿度の高い南方に移動していくとゴムの木や珍しい果実の木を発見する事ができた。

 森祭司(ドルイド)系のメイドを呼び、増やしてから土と共に回収していく。

 気候によって育つ樹木に差があるようだ。

「わー、大きなキノコがありますよ」

 と、ルリマリスが指差す方向にあったのは一メートルは超えている巨大キノコ。

 一目で近づきたくないと思った。その巨大キノコは群生しているようで二十本ほど生えていた。

 『魔法の矢(マジック・アロー)』を放って逃げる。

「……あれはきっとモンスターだな」

 砕け散る巨大キノコ。とどめに『火球(ファイアボール)』で焼き尽くす。

 山火事が起きてはいけないので氷系モンスターを召喚させる。

 ヤントラはキノコ系が苦手だったりする。

 近づくと爆発するものは特に。料理を作る茸人(マイコニド)はまだ我慢できる。胞子を管理できるという点で。

「……胞子で増殖するのも苦手なのですね」

「無限増殖は気分が悪くなる。料理として出されるものは平気なのだが……」

「森妖精(エルフ)の中にも苦手な人が居ますから」

 遠くにまだ巨大キノコがあったのだが、言わない方がいいだろう。

 森が焼き尽くされるから。

 氷系モンスターによって現場を氷結した後、火事の痕跡がない事を確認してから移動する。

 巨大キノコを見た後だからかヤントラの表情は険(けわ)しかった。

「今日はもう戻りましょうか?」

「もう少し行こうか。大丈夫だ。小さくて綺麗なものなら……」

「湿度が高いと育ちも良いんでしょうね」

「前人未到の地だから、とも言えるな。……やっぱり帰ろうかな」

 愚痴を言いつつ歩は進める。

 メイド達による調査は範囲が広いわけではない。ここら辺もまだ未調査であった。

 上空から見ただけでは分からない事がある。

 巨大キノコの次は巨大な花がいくつかあった。ただ、花弁人(アルラウネ)ではなかった。

 光りも充分に差し込んでいるので植物の育成には適しているのだろう。

 巨大な森の番人(トレント)を発見したが、人間の姿を見て逃げてしまった。

 目的のモンスターは女体。森精霊(ドライアード)である。

「森の番人(トレント)でも良かったのかもしれないが……。巨大モンスターはちょっと遠慮したいな」

 献体という意味では必要かもしれない。検討だけして保留にする。

「あはは。全てのモンスターが対象というわけではないのですね」

「私にも苦手なモンスターは居るからね」

 苦手なものの代表格がアンデッド。特に気持ち悪い肉の塊とか毒や病気を撒き散らすタイプだ。

 即死効果を持つモンスターも苦手としている。

 安全そうな植物も回収するんだったと思い出し、ルリマリスに選ばせた。

「小ぶりでいいよ。観葉植物に適していそうなもので」

「はーい」

 任されたが自分も初めて来る地域なので植物には詳しくなかった。ただ、森祭司(ドルイド)のメイドに尋ねれば色々と教えてくれる。

「ルリマリスは身体が細いようだが、ちゃんと食べているのか?」

「はい。運動もしていますよ。……筋肉はそれ程ありませんけど」

「こうして連れ回しているわけだが……、何か希望する事はあるか? 遠くに旅立ちたい、とか以外で」

「……う~ん。すぐには浮かびませんね。森の散策は好きなので問題はありません。……あえて言えば凶悪なモンスター退治は苦手です」

「今の君なら天然の赤帽子の小鬼(レッドキャップ)くらいは倒せるんだよ」

「暴力的なものが苦手です」

「そうか。戦闘は他の者に任せて避難誘導とかに専念してもらおうか」

「頑張ります」

 話しつつルリマリスは樹木の選定。ヤントラは罠や凶悪なモンスターが近くに潜んでいないか調査する。

 餌として食べられた花弁人(アルラウネ)が何体が居たが弱肉強食の世界はどんなモンスターにとっても厳しいものだ。

 竜(ドラゴン)は居ないけれど恐竜系は中型をよく見かける。

 装甲の厚そうな草食動物も居た。

 凶暴な肉食獣は今のところは現れていない。

 喉が渇いただろうルリマリスに『無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)』を渡す。

 何本かの樹木を送った後で昼食にする。

「木も『万魔殿(パンデモニウム)』に乗せるんですか?」

「乗せる予定だよ。空気を綺麗にする上で樹木は必要だ」

「確かに森の空気は新鮮ですよね」

 観葉植物以外に野菜類も育てる予定だ。

 どこまで自給自足出来るかも調査する必要がある。

 長期間の滞在は今後の活動にも役に立つだろう。

「森の番人(トレント)が居たら森精霊(ドライアード)も居るかな」

「どうでしょうか」

「居たらどうやって持ち帰るかだ。森精霊(ドライアード)は宿る木と共に生きるモンスターだから。増やせないような気がする」

「……増やす気満々なんですね。物理的に触れられれば可能性はあるかもしれません」

 というか、モンスターを増やす人間はヤントラしか知らない。

「犠牲になるモンスターの方が可哀相です」

 殺戮しないけれど恐ろしい。

 殺すのが好きというわけではない。命の大切さは分かっているのだろう。

 今まで見たことも聞いた事も無い方法を取るのでルリマリスも表現に苦慮(くりょ)していた。

 外出のたびに裸にされたりはしないし、研究者の一面もある。

「生活の為にモンスターを退治する人に比べれば……。いやいや、それでも……」

「作業する時は目を隠しておけばいいだろう」

「……そういう問題ではありません」

 物騒な作業は見たくは無いけれど凶暴なモンスターが襲ってきては困る。

 先ほどから恐竜型とすれ違うがヤントラが追い払ってくれるので助かっている。

 ヤントラというかメイドが。

 

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