※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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N-4 マーレが現れた

 休憩を挟みつつ森の奥に進む。

 暗いところは行かず明るい場所を重点的に捜索していく。

 森精霊(ドライアード)は樹木自体が歩く森の番人(トレント)と違い、人間と変わらない大きさで通常は宿る木の中に避難したりして外敵から身を守っている。

 時には高いところに避難したり。

 普通であれば見つけるのは困難だ。

 樹木と共生関係なので遠くには行けない。

 手に入れるなら宿る木と共に。

「そういえばゴムの木とか見当たらなくなったような……」

「絶対にある、という保証はありませんから。今回手に入れた分でも多い方ですよ」

 分割した後、植え直した。そこだけ見るとヤントラは自然に優しい人に見えるから不思議だ、とルリマリスは思った。

 普通なら根こそぎの伐採で絶滅してもおかしくない。それをしないのは自然を大切に思っているからなのか。

 決して独占せず。

 一概に悪者と断ずる事はできない。

「花弁人(アルラウネ)かな。色が少し違うようですが」

 前方数十メートル先に緑色が基本の花弁人(アルラウネ)とは違う桃色の女体が居た。

 下腹部に花弁があるので植物モンスターなのは確かだろう。

 近親種の『花弁人(アルルーナ)』かもしれない。

 名前が違っても種族としては同じものがいくつか居る。

 花は同じ種類ばかりではないので緑もいれば青や赤、黄色と白が居ても不思議はない。

 闇に染まった花弁人(アルラウネ)が居ても驚かない。

 竜(ドラゴン)型だと驚くかもしれない。

「……おう」

 近づこうとしたが周りに巨大キノコがいくつか生えていた。その巨大キノコと花弁人(アルラウネ)種の距離が近い。

 すぐ『魔法の矢(マジック・アロー)』を放ち、巨大キノコは爆散。近くに居た花弁人(アルラウネ)種はびっくりした。

「悪(無限増殖)は滅びろ」

「……あはは。いきなり攻撃するから花弁人(アルラウネ)が驚いてますよ」

「ここら辺はキノコが多いのかな」

 例によって伐採するヤントラ。

 容赦ないところも笑いそうになる。

 株分けしつつ五体ほど縛り付けて持ち帰る。

 助けに来たのか誘拐しにきたのか、どちらが悪者か分からなくなる。

 残す分はキノコに養分を吸い取られない位置に移動させてから充分な水分を与えておいた。

 『火球(ファイアボール)』などでキノコが生えていた辺りを焼いておく。

 ルリマリスは巨大キノコの破片を一応、鑑定する。

 毒性は無く、食用に適したものらしいのは分かった。ただ、味は食べてみないと分からない。

 数から言って繁殖力は強くない。巨大に成長する分、養分の独り占めが行(おこな)われているせいもあるのだろう。

「……今の騒音で森の番人(トレント)が逃げていきます」

「目標は森精霊(ドライアード)だから追わないよ」

「……可哀想な森精霊(ドライアード)」

 ずっと大人しいメイドが山火事などを調査し、氷精霊(アイス・エレメンタル)を召喚して様子をうかがう。

 一切、喋らないメイド。仕事の時以外は動かないのでは、と思うほどだ。

「花は採取しないのですか?」

「あれば持ち帰るよ。一つだけだと勿体ないから残す」

「花もあれば報告しますね」

 派手な魔法だけどモンスターに向かって撃つ事は少ない。

 それからしばらく歩くと小屋が見えてきた。

「ここまで来たか」

「誰か住んでいるとか?」

「メイドに作らせた拠点のひとつだ」

 外見からは襲撃された痕跡は無く、中も異常は無い。

 メイドが手を叩くと部屋の奥から数人のメイドが顔を見せる。

「異常は無いようだな」

「……滞りなく」

 一斉に答えるメイドたち。

 ルリマリスは旅の疲れを取る為に風呂に入る事にした。

 ここは数ある拠点のひとつでメイドによる転移が可能だ。

 拠点は安全圏と思われるところ以外は撤去させている。

 作りすぎてはモンスターに狙われて対処が大変になるからだ。

 ヤントラはメイド達から日誌を受け取り、読み込んでいく。

 口頭での説明では物凄く長くなりそうなので。

 稼動しているメイドは三人。絶えず一人ずつ交代させている。

「……新しい発見は無さそうだな。不便な事は無いか?」

「ありません」

 控えていない者も連れてくるように命じると数分で連れて来た。

 各メイドに治癒魔法をかけて一人ずつ抱きしめておく。

 調査目的のメイドにはまだ少し働いてもらうためでもあり、ちゃんと大切にする自分のためでもある。

 その後、一人は撤退してもらった。

 砂漠地帯に居るメイドと違い、肌はそれ程焼けていない。

 ルリマリスが風呂から上がる頃にはメイド達は仕事に戻っているという。

 日誌は異常事態が起きれば記入されるので殆ど空欄だ。

「一休みの後、暗くなるまで捜索再開でいいかな?」

「はい」

 ルリマリスを寝室に案内する。

 メイド達も利用しているので蜘蛛の巣は張っていない綺麗な部屋だった。

 ここに置いてある寝具もナザリックのメイド達が洗ってくれる。

 

 休息を終えた後、夕方までの間に森を捜索する。

 探索系の魔法は使用せず気の向くまま移動する。

 途中にある木には迷わないように印が付けられている。

「辺りを燃やせばすぐに森精霊(ドライアード)が出てきそうなものだが……」

「ダメですよ、火事は。一気に広がるんですから」

 森祭司(ドルイド)の力なら再生は容易いかも知れないけれど、普通は再生に数十年はかかってしまう。

 森で暮らす森妖精(エルフ)は火の扱いには慎重だ。

 燃やせば森精霊(ドライアード)が出るかもしれない。同時に燃えてしまいそうだ。

 ゴムの木は湿度の高いところにあるらしいので今居る場所は比較的、乾燥地帯だから無さそうだとルリマリスは判断した。

 雨を降らせれば良い、というわけにはいかない。

 花弁人(アルラウネ)と森の番人(トレント)の他に見つかるのは恐竜型のモンスター。

 見慣れない奇妙なモンスターというのはまだ出会わない。

 地面や樹木の調査は続ける。

「光りが差し込むのに花が少ないな」

「あっても毒草だったりしますからね」

 普段なら森妖精(エルフ)は罠除けとして使われるがヤントラはメイドと共に平等に扱ってくれる。

 ケガをすれば治癒魔法をかけてくれる。

「そういえば。ナザリック地下大墳墓の中で転移魔法は通用しますか?」

「通用しないよ。普通は階段で下りる」

 その階段までが長い道のりになる。

 攻略する者は敵に注意しつつ階段などを探すのだがナザリックは最高難易度を誇るダンジョンに改造されている。一筋縄ではいかない。

 ナザリック地下大墳墓までの道のりも実は大変だったりする。

「そんなことを聞いてどうするのかな」

「えっ!? あっ! と、特に他意は無いのですが……。思い出してしまって……」

「森妖精(エルフ)の存在は他国にも公(おおやけ)になっているからそう簡単に処分はしないだろう」

「……はい。申し訳ありません」

「国造りが忙しいから今はアンデッドだの戦力増強は保留になっていると思うよ。あまり気にしても仕方が無い」

「……はい」

 元気を無くすルリマリス。

 他の二人の森妖精(エルフ)は共に旅した仲間として気になるのかもしれない。

 少なくとも性奴隷にはされていないはずなので第六階層で元気に暮らしている、はずだ。

 ルリマリスの背中を押しつつ探索を再開する。

「森の中はモンスターが溢れていると思ったのだが……。意外と居ないものだな」

「……魔法に驚いて逃げたのでは?」

 特に巨大キノコは発見するたびに容赦なく粉砕するから。

 見ている分には面白い。

「モンスターとて大きな音には敏感だと思いますから」

「邪魔なモンスターが居ない分、探しやすいのかもな」

 たくさん居ても困る。

 ヤントラ達は樹木と花とモンスターを探しつつ進んだ。

 死体はちらほら見かけるが骸骨(スケルトン)として動いている者は居なかった。

「モンスターの死体も森の栄養として使われているのだな。小鬼(ゴブリン)などのアンデッド版は見た事が無いのだが……。何か条件でもあるのだろうか」

「人間はアンデッドになりやすいとか。埋葬とかやりにくいですね」

 無限に死者が溢れては世界が混沌と化す。

 神官職の浄化やアンデッド退散のスキルは必須だ。

「そろそろエロいことでもしようかな」

「う~ん。森の中で胸でも揉むんですか?」

「ここなら裸になっても平気だ」

 イビルアイから聞いてはいたが、時々ヤントラは変な発言をする。

 適度に相手にしないと本気になるので厄介だとか。

「森妖精(エルフ)は頭以外は一般の人間と大差ないですよ」

 頭というか耳だが。

 見目麗しい外見も特徴だといわれる。だが、ルリマリス自身は美人かどうかは他人が決めているので理解できない所ではある。

 エロいことがしたいなら拠点の風呂上りを狙えば良い。

 ここで言うのは単に気晴らしなのだろう。

 めぼしい発見が無いから。

 数回ほどヤントラと共に植物とモンスターを探しに出ているが、真面目に探索する事が多い。

 本気ならメイドに拘束を命じている筈だ。

 ヤントラは何かに気付いたのか、手で合図をし始める。それは体勢を低くしろ、というものだ。

 ルリマリスは黙って従う。同様にメイドも体勢を低くしてルリマリスと共に木陰に移動する。

「……モンスターですか?」

「凶悪なアンデッドモンスター。……だと思ったのだが、気のせいかな」

 明るい場所に現れるアンデッドは滅多にいない。

 ヤントラ達を感知した者でも無い限り。

 メイドに転移を命じる。そして、数分後に戻り、耳打ちする。

「マーレが来たのか……。ルリマリス、一旦戻るよ」

「はい」

 探索を中断し、拠点へ転移する。

 戻った時にアンデッドが五体、拠点の入り口に立っていた。どれも死の支配者(オーバーロード)だ。

 巨大図書室(アッシュールバニパル)に勤めている者達だろう。

「おお、バスパ様。お邪魔していますぞ」

「君たちか……。よく見つけたね」

「たまたまでございます」

 建物の中に入ると大人しく椅子に座る闇妖精(ダークエルフ)『マーレ・ベロ・フィオーレ』が居た。

 神器級アイテム『シャドウ・オブ・ユグドラシル』を大切に握っている。

「ようこそ」

「は、はい。お邪魔しています。こちら、の建物はバスパ様のものだったのですね」

「中継地点用のな。何か緊急の用でもあるのか?」

「い、いえ。たまたま調査に出た時に見つけた、だけです。爆発音を頼りに……」

「……あれは……目印になってしまったか。キノコに魔法を放っただけだ」

「そうでしたか」

 メイドに氷精霊(アイス・エレメンタル)を召喚させ、部屋の温度を少し下げておく。

 王国とは違い、この辺りの気温はまだ高い。

「植物の調査でルリマリスと探索していたところだ。別に建国とかしていないぞ」

「りょ、了解しました」

「メイドの休憩室も兼ねている。風呂とトイレ付きだ。邪魔なら撤去するよ」

「そ、そのようなご命令は、受けていません。……たぶん、設置していても問題は無いかと……。魔法の実験は、していないのですね?」

「自然破壊は控えているよ。……多少は使うけど……」

 それが森の中で発生した爆発音だとマーレは思い、苦笑する。

「既に奥にも行っているけど……。毒地帯だ。今日は明るい場所で樹木と森精霊(ドライアード)探し」

「森精霊(ドライアード)を探していたんですか?」

「うん」

「あ~……。それはまた……、見つけにくいでしょうね」

「森の番人(トレント)は居たけどね。逃げてったけど。モンスターの死体はあるけどアンデッドモンスターは出て来ない。不思議だなと話していたところだ」

 マーレも何体かモンスターの死体は発見している。

 ヤントラの言うようにアンデッドモンスターは見当たらない。

 骸骨(スケルトン)くらい出てきそうなものだ。

「今日は夕方まで探索したら帰るよ」

「ぼ、僕も引き続き調査しなくちゃいけないんですが……」

「この先に進むなら……、闇に覆われた場所に一つと……」

 森の中にある拠点は明るい場所には砂漠方面と現在地の二つ。闇の中は手探り状態なので二つだが、面倒くさいので地図を描く事にする。

 マーレは新たなモンスターか街や村の調査かもしれない。

 それはそれで結構な事だ。力によって制圧しなければ。

 メイドに地図を作らせ、それを渡す。

「この先に進むなら忍者(ニンジャ)が出てくる」

「モンスターの忍者(ニンジャ)ですか?」

「そうだ。下忍(ゲニン)辺りで強くは無いが襲ってくる」

「了解しました」

「それ以外は……、見当たらない。集落はもっと行かないとダメかもしれないけれど……。闇夜に輝く妖精とか。高位モンスターが居たら森はすぐに焦土と化すか……」

「森が焼けても、ぼ、僕が治しますけどね。……地図はお借りしても?」

「あげるよ。深入りしてモンスターに襲われないように。たまに高位モンスターが現れる場合がある」

「はい。気をつけます」

 拠点に居るメイドは敵対行動を取らなければ隠れる事を伝えた。

 ヤントラはマーレに伝えたい伝言は無かったので探索に戻ることにした。

 死の支配者(オーバーロード)達と別れて進んだ場所まで転移する。また同じ道を歩くのが面倒だから。

 一度通った場所ならメイドはだいたい転移で行けるし、上位転移(グレーター・テレポーテーション)を駆使してヤントラ達を個別に送ることも出来る。

「安全なアンデッドで良かった」

「安全ですか?」

 ルリマリスは苦笑しながら言った。

「少なくとも勝手に破壊活動はしない、という意味で」

「……なるほど。図書館の死の支配者(オーバーロード)達は気さくですよね。というか死の支配者(オーバーロード)というアンデッドモンスターは自然界に居るものですか? 死の大魔法使い(エルダーリッチ)は噂などで知っていましたが……」

「高位モンスターは少なくとも王国と帝国周辺には居ないかもね。それらがよく出るようだったら冒険者ももう少し強くなれると思うよ」

 天然の死の支配者(オーバーロード)は八十レベルから。決して弱くは無い。

 現段階で高位アンデッドを屠れる冒険者はほぼ居ないだろう。

 国を挙げての討伐になる。

 こうして暢気に女体モンスターを探している間にも世界は魔導国の動向を探ったり、戦々恐々としているのだろう。

 平和だな、ここは。

 側にメイドと森妖精(エルフ)が居る。

 メイド服を着ていれば誰でもメイドだが。

「陽がたいぶ傾いてきましたね」

 周りに明かりが無いので森の中は全体的に暗くなる。

 闇夜に紛れて新たなモンスターが現れるのだが、そんなことはさておき。

 巨大なキノコを見つけるたびに魔法で粉砕するヤントラ。

「あれもモンスターにとっては貴重な食料かもしれませんよ」

「手が勝手に……」

「口だと思いますが……」

 ルリマリスが砕けたキノコに治癒魔法をかけるとボコボコと盛り上がってから辺りに結構な数のキノコが生える。

 胞子がかなり飛び散っていたようで、生えすぎてしまった。

「あ~らら……。これは大変だ……」

「もうこっち来なさい。服にも生えたら大変だ」

「す、すみません」

 ルリマリスの身体を確認し、メイドに軽く服を叩いてもらう。

 念のために粘体(スライム)を呼び寄せて胞子などが無いか徹底的に排除していく。

 確認作業を終えて粘体(スライム)を撤退させてから探索を続ける。

 歩きつつもルリマリスの言葉を反芻し、ヤントラは反省する。

 毒性が無ければ貴重な食料ではあるのだろう。だが、気持ち悪いくらい綺麗な形だった。あれは安全でも食べたくない。

 焼いたら美味しそうですけど、という呟きが聞こえたがヤントラは顔をしかめる。

 森で生活している森妖精(エルフ)は平気なようだ。

「ルリマリスは植物と会話は出来るのか?」

「……どうでしょうか。野伏(レンジャー)や森祭司(ドルイド)を修めているわけではありませんので」

「もう少し強くして森祭司(ドルイド)系を修めようか?」

「……できるものなら。自然の中に居るのは落ち着きますし、都市部より過ごし易いです。植物の知識も欲しいです」

 頼もしい意見にヤントラは嬉しくなる。

 戦力ばかりでは芸が無い。

 折角の職業は有効的に使われるべきだ。

 冬間近(まぢか)の夕暮れは早く、十歩も進めば闇は深くなる。

「闇にちなんだモンスターは出て来ないものか」

「まだ進むんですか?」

「ルリマリスだけ戻っても良いよ。帰るかい? 私はもう少し居るけど……」

「……帰りたいです」

 無理に引きとめる気は無いのでメイドに転移でルリマリスには『マグヌム・オプス』に戻ってもらった。

 意地悪されると思っていたのか、ルリマリスは六の宝物庫で再転移して消えたメイドが居た場所をしばらく見つめた。

 気弱なメイドの代わりにもう一人のメイドを追加した三人体制でヤントラは冒険を続ける。

 ここから先はほぼ会話は無い。

 これが人形とオリジナルの差の一つだろう。

 闇が深くなろうとヤントラには『闇視(ダークヴィジョン)』があるので関係ない。

 樹木に関しては森祭司(ドルイド)系のメイドに任せて進む。

 深入りする気は無く、夜に現れるモンスターの出現を期待しているだけだ。

 昼間は行動を起こさなかった夜行性のモンスターとか。

 昼間活動していた恐竜型は自分のねぐらに引きこもり朝を待つだろう。

 光り無く、進んでいくと仄(ほの)かに輝く樹木を発見する。これが目的の木であり森精霊(ドライアード)だ。

 正確には森精霊(ドライアード)が宿る樹木。それ自体はモンスターではなく、普通の木だ。

「……うん。これでいいな」

 木の周りの土を掘り、採取していく。

 感知魔法を使えば見つけるのは容易いのだが森精霊(ドライアード)も魔法は使える。それを見逃さなかっただけだ。

 大した強さは無いけれど樹木と共に生きる可愛いモンスターだ。

 森祭司(ドルイド)系のメイドが交渉し、木から顔を出すように命令する。

 強引に切り倒したり、攻撃しない事を約束する。

「やってる事は悪党だな」

 ほぼ脅迫だ。

 強引なところは自覚しているけれどモンスターを調べるのは好きなので仕方が無い。

 調べられる方はたまったものではないだろう。

 森精霊(ドライアード)は人間の女性に類似した形をしている。

 新緑の髪。たぶん葉だろう。

 種によって身体の色などは色々とあるだろう。

「まずは質問をしていく。素直に答えてくれ」

 メイドに通訳を頼む。

 念のためではある。

 森精霊(ドライアード)とは何か、から色々。

 宿る木は変えることが出来るのか。魔法が使えるのか。

 普段の生活。繁殖方法。

 他の仲間の事。

「……持ち帰りたいところだが……。まずは試しだ」

 メイドに通訳をさせると森精霊(ドライアード)の顔は驚愕に彩られる。

 人間と同じく表情豊かに変化させられるようだ。

 魔法で眠らせる。眠らなくても強引に進めるだけだ。

 樹木と同じであれば傷は治せる。というか花弁人(アルラウネ)で色々と実験した事を思い出す。あと睡眠に絶対の耐性を持ち、基本的に眠らないモンスターだった。

 ただし、今回は樹木とは別個の存在だ。とはいえ植物と大差ない気はする。

 妖精系はどういう繁殖方法なのか実は分からない。知らないと言ってもいいだろう。

 木から引き離しても即死はしない。全体が樹木と同じなので光合成や水、土からの養分で生命を維持している。

 外敵から身を守る為に樹木の中で寝泊りする。

 基本的に平和主義。

 ただし、宿る木に危害を加える者とケンカすることはある。

 株分けは出来ないけれど増やすことは容易い。

 問題は増えた分がどうなるか。

 隠れられないほど細い木には宿らないだろう。

 そんな事は関係なく容器に入れられる大量の部位。

 回収が終わった後、目覚める森精霊(ドライアード)。

「!?」

 急いで近くの樹木に入ろうとするがメイドに捕まって拘束される。

「このままここに暮らすか、うちに来るか」

 メイドの言葉を聞いた森精霊(ドライアード)は言う通りにしないと恐ろしい目に遭うかもしれないと思い、震え始めた。

「無理強いはしない。代わりに樹木の事を教えてくれ」

 仲間を見つけても強引に連れて行かない事を約束する。

 果実の木とゴムの木の場所を教えてもらい、森精霊(ドライアード)を解放する。

 メイドに樹木へ栄養を与えさせる。

 過剰供給すると枯れるおそれがあるので適度に抑える。

 幹や根の周辺に水を撒いておく。

 澄んだ水に興味が出たのか、顔を出す森精霊(ドライアード)。

 意地悪せずにヤントラは水を与えた。

 綺麗で冷たい水に森精霊(ドライアード)の顔は幸せそうに変化した。

「他の仲間を見つけたら手厚く労わろう」

 メイドを通して言うと森精霊(ドライアード)は了解の意を表す。

 強引に連れ去っても仕方ない。もっと過酷な環境に放り出すかもしれないのだから。

 他のメイド達を呼びつけて果物やゴムの木、もちろん土付きで回収に向かわせる。

 それから八体ほどの森精霊(ドライアード)と上位種『神木精霊(ハマドライアード)』を見つける。

 こちらは専用の木に宿る戦乙女(ワルキューレ)のようなもので、それぞれ専用の名前があるらしい。

 全部見つけるのは今は困難だが、八種類居るらしい。

 今回は三体だが、更に上位種が居るとか居ないとか。

 見つけるより育てて作った方が早い気がする。

 あと、専用の木に宿らせるとか。

 意外と身も蓋も無い方法が通用したりするから困る。

 ギリシア神話のモンスターは何人かセットになっている場合がある。

 コンプリート欲を掻き立てるとアインズが興奮する。

 目的のモンスターが手に入ったので無理して探検する事は無いだろう。

 メイドに森全体に雨を降らせて潤いを与える。出来る限り自然の天候に影響しない程度で。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 施設に戻り、ルリマリスに森精霊(ドライアード)を見せると驚かれた。

 ぐったりしているけれど容器の中に居る限りは安全だろう。

「美しい娘さんですね」

「こっちは上位種だ」

「神木精霊(ハマドライアード)……。より人間に似てますね」

 どうしてと聞かれると困るけれど神話関係は人間に似せたモンスターが多かったりする。

「無理に連れ帰るよりはいいだろう。ちゃんと水と栄養を枯れない程度は与えておいたよ」

「おお、それは素晴らしいです」

「のちのち人の手が入って伐採とかされるかもしれない。住処を作るのも……ってあそこの土地はどうやって取得しようか」

「う~ん、アインズ様に何とかしてもらうしかないですね」

「……普通はそうなるよな。まあ、我々が考えても仕方ないか」

 ルリマリスは泊まるなり、風呂に入るなり、宿舎を利用するなり好きにさせた。

 それほど数多くの献体が必要ではないので、今回の探検は終了にする。

 次の日、採取したゴムの木の株分けを行(おこな)い植えていく。

 果物は地上の畑に植える。

 モンスターを全種族集めたりしないヤントラ。

「好き嫌いがはっきりしているようだな、ご主人は」

「手に入れるなら可愛いモンスターがいい」

 イビルアイは苦笑する。

「色々と手に入れてくるようだが……。段々この広かった施設も手狭に感じてきた。……さすがはご主人だ」

 溜めていけばいつかは満杯になる。

 この施設はそう簡単にはいっぱいにならないと思っていたが甘かった。

 竜(ドラゴン)の巨体が邪魔なせいもあるだろう。

「王様に見せられない施設になってきたな」

「……本当に研究所を作ってくれないと困るほどだ」

 容器はメイド達に任せて施設上空に広げている庭園作りを再開する。

 階層にする予定は無いけれど、色々と同時進行した方が効率も良いだろう。

 一通りの素材や人材などが揃ったら、後はひたすら単純作業だ。

 石鹸の製作もしなければならない。いつまでも黒い仔山羊を放置しておけない。

 冬が到来し、一年が終わろうとする。

 各国の疑心暗鬼は続いているはずなのだがヤントラはそれらとは無縁のような生活を送っていた。

 魔導国の法律が制定されたとしても興味なし、という感じだ。

 冬ならではのモンスターが居るかもしれないので雪山に向かう。充分な厚着で重装備。

 イビルアイは体温が無いので普段どおりだが一緒に着いて行くことにした。

 狙うモンスターは当然、女体。

「雪女郎(フロストヴァージン)はかなりの高位モンスターですから、もう少し弱めの奴が居ないか探します。あと、可愛い動物とか」

「低位モンスターなら雪の妖精とかだろうか」

「……やっぱりやめて冒険者の仕事にしようかな」

「私は構わないぞ。むしろ、そうした方が良いくらいだ」

「……そういえば、王国にある家の床下に忘れ物はなかったかな?」

「無いな。ティア達と徹底的に捜索したから。……献体の忘れ物だと思うが、大丈夫だ」

 いくつか収納スペースが出来ていて驚いたことを思い出す。

 当時はじかに死体のような女体が縛られた状態で色んなところに隠されていたとか。

 立派な監禁罪だぞ、とイビルアイは言った。

 雪山捜索は中止して冒険者ギルドに向かう事にした。

 イビルアイと共に依頼書を眺めると冬にちなんだ仕事は寒さ対策ばかり。

 それほど雪は積もらないが薪割りの仕事が多い。

「……冒険者の仕事じゃないね」

「仕事は仕事だ。腕力がつくぞ」

 鍛錬だと思えば納得するのか。

「雪山で遭難する人を助けるとか」

 と、イビルアイは言ってみた。

「それは緊急性があるから依頼を出している間に死んでしまう」

「……うむ。大抵は死体探しだ」

 ヤントラの言っている事は理解出来た。

 何日も帰ってこない家族を心配して依頼が出される。

 後は一部の貴族が雪道を通るので護衛など。

「冒険者ではなく便利屋って名前なら納得するんですが……」

「申し訳ありません。国境がありますので協定とかの問題で……」

 受付に文句を言っても仕方が無い。

 冒険者らしい仕事は雪山や森、洞窟でアイテムを見つけたりモンスターを退治することだ。

 護衛とかは冒険者らしくないが実力は発揮できる。

 襲撃者を撃退する、という意味で。

「懸念は理解出来る。国境を突破してそのまま帰ってこない場合はこちらから捜索などそうそう出せないのだ」

 イビルアイの言葉に受付嬢は頷く。同時にヤントラが真面目な指摘をすることにも驚いた。

「今の時期は一部のモンスターが冬眠の準備で都市部にはあまり現れないだろう。餌を求めて村を襲うことはたまにあるのだが……」

 今年はとある村人のお陰で豊作に近い収穫量になった。

 なのでモンスター用の倉庫を用意し、様々な農作物を入れておいた。

 別の村人によって倉庫は魔法の氷などで鮮度を落さない工夫が施されている。

 共存共栄という考え方なのだが、これはまだ始めたばかりだから不安はいっぱいだ。

 村人は安易にモンスターとは戦わない、という意思表示を見せる。

 一部の貴族はモンスターを飼い慣らす行為だと非難するだろう。

 最初は色々と問題が山積するものだ。

 

 イビルアイは城での仕事の為にヤントラと別れる。

 雪山モンスターの捜索を中断した後はエ・ランテルに向かう。

 灰色の空が死の都のように街を照らしている。

 街を巡回するアンデッド兵は相変わらずだったが、住んでいる人々の表情は暗い。

 人口流出が激しく、活気がないせいだろう。

 来客が無ければ経済は潤わない。その結果が目の前に広がっている。

 これがアンデッドをビジネスにしようと考えた末路だとも言える。

 店仕舞いしているところが多く、市民はどんな事で生計を立てればいいのか分からない状態のようだった。

 貿易は禁止されていない。では、どうして人が居ないのか。

 ヤントラが冒険者組合に入ると無人、ではないかと思うほど閑散としていた。

 受付嬢が一人だけ座っている状態だ。

 依頼書は張られていたが数ヶ月前のものだ。

「冒険よりまず人を呼び込むところからだな」

 噂話を聞く雰囲気ではない。

 来年には廃墟になっているのではないかとさえ思う。

「誰か飢え死にとかしていませんよね?」

「今のところは大丈夫ですよ」

「本当に? うちに大量の備蓄があるから持ってきましょうか?」

 受付嬢は三日に一日だけ食事を取っているのではないか、というくらい顔色が悪かった。

 今の生活から抜け出したいと思っているのかもしれない。

 活気のあったエ・ランテル。戦争さえなければ、と呟く日々。

 人が居ない点で言えばヤントラも似たようなものだ。

 複製はたくさん居るけれど。

 魔導国の都市でもあるのだからなんとかすればいいのに、あの骸骨(魔導王)。

 食事に関しては充分な量が確保されているので国民が飢える事態は起きていないらしい。

 大半の店が休業し、安い宿屋も閑散としている。

 かつての城砦都市がいっそうの悲壮感を漂わせている。

 これから発展する姿が想像できないヤントラには物資を届けるくらいしか思い浮かばない。

 無責任にならないようにしなければ、と。

 このまま放置はしないだろうけれど、見捨てるならもらうぞ、と。

 都市丸ごと研究所にしてやろうかな、とか思ってしまう。

 統治に関しては面白く無さそうなので施設に戻り、色々と計画を練る。

 もっと効率を上げる為に地上の施設から空中へ階段を延ばし、広い空間を最大限利用しようと思った。

「最大限……。どれくらいですか?」

 なんとなく予想がついたンフィーレアはあえて尋ねた。

「そうだね……。五キロ……は広すぎるか……。五百メートル四方でいいか」

「……思い切った数字が出てきましたね。広すぎても困りますよね」

「大きな板でオリハルコンじゃなくていいから、たぶん楽だ」

 石でも木造でも可なら確かに労力で言えば楽だろう。

 つまり、より効率を上げる大規模工場を作る気だと。

「本気を出させると恐ろしいですね。しかも空中はほぼ無制限に使えますし」

 小さな範囲で細々としていたら時間ばかり過ぎてしまう。

「問題点はどんなものがありますか?」

 聞くまでも無い気がした。

 五百メートル四方でも巨大な物体が浮くのだから、当然畏怖される事だろう。

 それもかなり目立つ形だ。

 巨大建築という観点で言えば夢のある事業とも言える。

 都市の上なら問題だが、ヤントラの施設の上ならまだ地震程度で済むのではないだろうか。

「外は蜘蛛女(アラクネ)の糸を巻きつけて暴風対策。シーツで落下物対策もするよ」

「ありふれた素材なら被害も少ないか……」

「一段と身投げが……」

「……関知したくない単語が……」

 新たな施設を稼動させると自分の精神がまたおかしくなる、かもしれないことをンフィーレアに伝えておく。

「即死はしないだろうけれど、活動には多少影響は出るかもしれない。迷惑をかけるね、ンフィーレア君には」

「いえいえ。色々と新しい発見が勉強できて嬉しいですよ」

「植物については……。ゴムの樹液は容器に溜めておけばいいか」

「空気に触れない限り固まりませんので。ゴム製の床タイルは作っていて良いんですよね?」

「任せるよ。色とりどりのもので」

 ゴムは再利用できないので失敗したら廃棄する。再利用については研究中ではある。

 ヤントラ同様にンフィーレアもたくさんの研究課題が控えていて、忙しい毎日を送っていた。

 既に製造方法は出来ているので作るだけだ。

 数万枚ともなると気が遠くなりそうだ。

 一日で出来る仕事ではないので後で保管倉庫も必要だろうから作ってもらう。

 

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