ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
まずは地上施設の執務室の壁を破壊。そこから五十メートルほど上空に向かって階段を設置していく。
範囲は出来る限り『マグヌム・オプス』の上空にする。
農園は『
ありふれた素材で作るので階段はすぐに出来上がる。
外部から覗き見ることができないようにシーツで包んでおく。
敷き詰める板は三重構造にして重さの引き算を考慮しておく。
数日かけて敷き詰め終われば下に落す穴をいくつか作っておく。
それらは倉庫に落ちるようにしておく。
強風に負けないように排気口は確保しておく。
地上施設の入り口も封鎖。どうせ誰も利用しないから問題なし。
空中から地上の倉庫を繋ぐパイプは頑丈な鋼鉄製。それを木枠で包み込む。
天井は錆びてもいいので鋼鉄製。
効率のみに特化した住むのに不便な空中工場が一週間ほどで完成する。
全体的にシーツと
屠殺場も改造しておく。
シャワーと大型浴槽を設置。浄化の棒も付属しておく。
簡易的なので取り外しは楽。多少の汚れは気にしない。
水滴は自然と蒸発するので。
「よし、出来た」
「思いっきり手抜き感がすごいですね」
「落下実験は成功した。これ以上の贅沢は望まないさ」
ンフィーレアは建物の中を確認しているのだが、雑極まりない。
歩くと嫌な軋み音が聞こえる。実際、床板はとても薄い。普通なら歩ける状態ではない。
この程度なら民間でも高額ではあるけれど空中建築は可能だろうと確信するほどだ。もちろん、贅沢を言わない事が条件だが。
第五位階の魔法を習得すれば不可能も可能になる。そしてそれは決して手の届かない夢物語ではない。
前提として第五位階の習得が困難を極めるだろう。
帝国の魔法省と協力して研究するのが良いらしい。
今さらだが『
習得方法の研究も必要だ。
「稼動する時はンフィーレア君に見せられないのが残念だ。本来なら見せてもいいのかもしれないのだが……」
「……たぶん、裸の女性が大挙して登るのでは、と思います」
「そうだね。非合法だからね。効率を上げる為に……」
中心の穴から金貨などが落ちるのだろう。それが元はなんだったのか、予想はつく。
もし、処分しなくていい方法があればヤントラはこんなものは作らないだろう。
「……しかし、巨大な箱になってしまいましたね~」
空が隠れる。
想像以上に巨大な空飛ぶ箱。帝国からでも見えるのではないかと思うほどだ。
城からも見ることは出来るだろうから、城内は今頃騒がしくなっているのだろうか。
後でやってきたイビルアイの話しでは『あいつ、またなんか作ってるぞ』という話しがちらほらあったらしい。
地表を僅かとはいえ暗くしているので多少なりとも迷惑をかけているような気がする。
ただ、王様は不思議な建物については喜んでいたようだ。
リ・エスティーゼ王国に不思議な建築物が出現し、観光客が増えるのではと。
話題性のある建物があれば経済の観点からも財政が潤う、かもしれない。
位置的に他国へ侵攻する秘密兵器とは考えにくい。
「もっと広い土地をくれ、というわけにもいかないし」
「そりゃあそうですけど……。空だと農村が困りますよね。……普通なら、ですが……。時期的に問題はありませんが春から夏にかけては移動も検討しないと……。というか、移動できるのか……。あっ、移動実験は出来ますね」
村の損害を考慮し、賠償する用意はある。
その辺りの交渉はエンリに任せようと考えていた。
金貨十万枚かかってもいいと。
「候補地が海上と南方くらいですもんね。確かゴウン様はトブの大森林には来るな、とおっしゃられていた気がします」
南方にはスレイン法国がある。
下手したら海上に一大帝国が出来上がるかもしれない。
それはそれで見物だ。
作るのは簡単ではない。
床板を敷き詰めるだけでかなりの期間がかかるだろう。
どの道、下準備はかかる。これもまた大事なことの一つだろう。
空への通路が木の板などで封印されて一般メイドの活動がまた制限される結果になってきた。
「……頻繁に改装なさるのですね」
「そういう施設だとうかがったでしょう」
「別に君達に恨みがあるわけじゃないよ」
行動を制限されるメイド達に頭を下げるヤントラ。
「何事も下準備は必要だから。倉庫を作るには作業する場所が必要なように」
「はい」
「ナザリックでの作業もありますから」
石鹸水が切れるとナザリックで
メイド達の服の清掃や『
七の宝物庫の容器の点検。
範囲は狭くなっても仕事はまだ残っている。
元々全員で取り掛かれないのだから仕方が無いし、全員来てしまうとナザリックでの仕事がおろそかになる。
アインズ当番は二十四時間から二十時間に短縮されてしまったりする。ただし、これは個人レッスンがある時に限られる。
調査などで時間が短縮される事はよくある。
「試行錯誤の連続は自分でも何が起きるのか分からない。それはそれで楽しいのだけどね」
「臨機応変……、という事でございますね」
「失敗の想定もしておかないと。……出来てない事が多いかもしれないけれど……」
想定ばかりしていても前には進めない。
「君達、屠殺場の掃除などをやるかい?」
「出来るのであれば」
「モンスター退治ではないですよね?」
「複製の量産だ。君たちなら怖がらないだろう」
「人間の皆様は怖がる作業なのですね」
「ああっ! だから封印されているのですね」
「なんと! なるほど~。怖がらせては悪い噂が立ってしまうかもしれませんものね。お優しいですね、バスパ様は」
「……アインズ様も解体風景は隠すとおっしゃっておいででした」
メイド達は賑やかに喋りだす。
今日の監督役であるシズは始終無言だった。
「現在製作されている『ぱんでもにうむ』というのはそれほど大掛かりなものなのですか?」
「大掛かりだね。自分でもビックリしているよ。うわっ、デケーって。頭で思っていたものと実物との乖離だ。それはそれは凄まじい差があったよ。あれを動かした途端に瓦解したら泣くね、確実に」
「……うわぁ……。絶対に成功してくださいませ。無事の稼動を祈っております」
「ありがとう。ちゃんと稼動してくれないと次に進めないからね」
解体風景はメイド達に秘密にする必要は無いのだが自分も意外と隠蔽体質なのかもと思い苦笑する。
裸の大行進が始まるので一応、移動だけでも感知されないようにしておいた。
入り口は屠殺場と大浴場の二箇所。
後はひたすら解体するだけだ。
「あっ、ゴムの育成の妨げになるか……」
いざ武器を持って作業しようと思った時に思い出す。
作業は屠殺場だけ始めておく。ヤントラ抜きでも稼動できるようにしてある。
戦士職の
保存や治癒担当などを複数で対応。
完成した複製に命令を与えるマニュアルも用意して望んでいる。
後は放っておくだけでいい。
ヤントラはンフィーレアを伴ってゴムの生産を
「普通ならば南方がいいでしょう。今の時期は発育が遅いので春まで休んでも大丈夫だと思います」
移動実験が出来るので移動する事には賛成だった。
まずは結構な広さを持つ土台をどう動かすのか。
メイドの一人が『
『
効果が切れれば『
全体を効率よく移動させるには第五位階『
効果は一日。
外見的には何も変わらないが細かな部分が接着剤でくっつけたようになる。
効果範囲は三十メートルほど。一回につきユグドラシル金貨二百五十枚必要。
『
まだ使用方法を模索する余地のある魔法だ。
バカデカイ建築物を想定していないだろうから実験は繰り返さなければならない。
日のあたる場所まで移動し、後は『
「段々魔法を使うのが怖くなってきたな」
「規模が大きいですからね。しかも贅沢です」
資金が豊富なら金持ちの道楽としては最適かもしれない。
メリット、デメリットも研究できるし。
問題点を研究する事は意外と出来ない。
移動が終わり、改めて解体作業に入る。
まずは必要数を増やしておく。それから更に倍、という風に続けていく。
屠殺場に百体を移動させて解体するのだが排水溝には
再生を終えた献体は浴槽に入れられ洗われる。
流れ作業のように複数人のメイド達が次々と運んでいく。
ひ弱なナザリックのメイドに出来る事はシャワーで洗う事だけかもしれない。
一定数集められた献体は『
一般メイドを守るように言いつけてあるので、魔法効果に入らないようにヤントラのメイドがしっかり動いてくれた。
後々になって気づいた一般メイド達が顔を青くしていた。
濡れたまま移動する
大浴場で再生した献体もどんどん運び込まれていく。
三十分後には足手まといにしかならない一般メイド達。
「この作業では邪魔になるみたいだ。最後の掃除の時まで見回りを頼むよ」
「……お役に立てそうに無くて申し訳ありません」
「こちらこそ、すまない。効率重視で」
本格的に稼動させればぶっ通しで作業する事になる。
休憩時間は本来は必要ない。
ナザリックのメイド達には申し訳ないが引き下がってもらうことにした。
全ての献体を屠殺場に集めて数千体まで増やしておく。そこから二十体ごとに魔法をかける。
時間差を作る為に作業用のメイドは百人体制にまで増やしておいた。
それぞれ役割分担が決まっていて稼動すれば人体練成工場と化す。
こまめに交代し、返り血を洗っていく。
裸で歩く献体達は地上から天空へ移動していく殉教者のようだ。
行ったら帰ってこない。
それが止め処もなく続く。
移動人数を考えると五キロメートルは大きすぎる。百メートル規模が無難だったかもしれない。
五百メートルでも充分広い建物だろう。
執務室の近くに控えているメイドの様子を確認する。
与えた命令を実行させる。
ものの数分で作業終えるメイド。それを確認してからヤントラは屠殺場に戻る。
後はひたすら解体していく。
作業を分担することで効率が上がる。ヤントラは切る役に徹した。
数十人ずつ出て行くさまを見ながら部屋がいっぱいになるまで。
時計を確認すると既に深夜。
どれだけ急いでも治癒の時間は早くはならない。そこは仕方がない事だ。
再生は気にせず、どんどん斬っていく。
それから朝になるのだが後の作業はメイド達に任せておく。
倉庫に向かうと金貨の音が無情に聞こえてくる。
人の命は安いもんだ。複製なら尚安いのかもしれない。
人間である利点は解体しやすいところだ。
ならば子供はもっと簡単だろう。
ンフィーレアの為にモンスターでも構わないのかもしれない。
同種の殺戮が受け付けないのはどの種族も変わらないだろう。
メイドを一人呼びつけて砂漠地帯に向かう。
断熱材の製造は今まで通りで構わない事を確認。
緑化作業はのんびりと続けさせる。既に七百メートル規模まで達していた。
平原のフェルト製作は石鹸水の補給があるまで停止。作業に当たっているメイドは撤退させて
南の果ては海が広がっている。そこまで普通に移動するのに数週間はかかる。
今は転移ですぐだ。
「そうそう世界は小さくないな」
自分たちが居た国は小さく。まだ多くの広い土地が広がっている。
東は深い森。悪魔系が住んでいてもおかしくないほどの環境だ。更に先は平原が広がっていて牧畜が盛んだ。
北方は雪国。寒い地方特有のモンスターが居る。
東南は未調査だが妖怪系が居る筈だ。
様々な神話モンスターが出てくるなら居てもおかしくないモンスターも当然、居るだろう。
それでもやはり女体モンスターは手に入れたい。
あと珍しくて可愛いなら尚良し。
ンフィーレアとイビルアイの顔色が悪くなっては困るのでモンスター系の解体を始める。
「人間では抵抗があるのだろう」
「どっちみち抵抗がありますよ」
「あちこちの鉱山を掘ってしまうのは国としても心配するだろう」
明らかにヤントラが作る施設は国が保有する資源を枯渇させるほど。
イビルアイも天然資源を使え、とは言えない。
「しかし、中身を知った上で見たら物騒な倉庫なのだろうな」
どんどん裸の女性が昇っていく倉庫。
金貨と資源が転がり落ちてくる。ただし、登った女性の姿がどうなるのかは不明、という。
見たいようで見たくない。
「カラクリは教えられないもの……、だよな」
真似しようとしても出来ないだろう。
そもそも、何故、という疑問がある。
犠牲が必要な魔法、魔法なのだろう。それを使うしかないのだろうか。
書物には書かれていないので超位魔法の方かも知れない。
「使うと弱体化するのか?」
「知りたいですか?」
「……そう言われると尻込みしそうだ」
意地悪、というよりは知らない方が嫌な思いをしなくて済む、かもしれないのだろう。
化け物の召喚ではないようだ。
資源を生み出す超位魔法。それは素晴らしい。
予想ではあるけれど、スキルと違うのは分かった。
ヤントラはンフィーレア達を地上に連れて行く。
地面に線を描く。
「君たちの強さがこのくらいとする。登っているのが最高峰とする」
「ん……。線の長さが強さか?」
ヤントラは頷く。
先端から少し下がったところに斜線を引く。
「力を使うとこれだけ下がる。では、元に戻るのにどれほどかかると思う?」
「相当な強さが弱体化すれば戻るのも一苦労ということだな」
「弱い人間であれば、そんなに苦労はしないと……」
強ければ強いほど弱った時に取り返す分は多くなる。
最高峰ともなれば並大抵ではない。
「……この取り戻す労力よりは数で使い潰すと……。増えるまで待つより早い……。まあ、理に叶っているのだろう。……それは生命を道具と見なすようなものだな……。我々に抵抗があって当たり前か……」
国を挙げてできる様な事ではない。
命の冒涜をなんとも思わない者なら可能かもしれない。いや、思っているから精神をすり減らしているのではないだろうか。
使い潰すのは複製だ。
家畜と思えば、とイビルアイは色々と考える。
「慰霊碑を作ろう。生まれて死に行く者達の魂を鎮める為に……」
イビルアイの言葉にンフィーレアは頷いた。
犠牲になる無垢なる命に感謝の気持ちを乗せて。
「そのとんでもない魔法は……、資源を生むだけか?」
「他にも色々と……。効果は様々ですが……、不可能を可能にするだけはあります。習得条件も厳しいけれど、生け贄は必要としません」
「お、おう。それは良かった」
巨大モンスターがたくさん暴れているのを『マグヌム・オプス』で見たことは無い。
強大な魔法の全てが召喚魔法というわけではない、と頭では分かっている。
強大な破壊魔法もあるし、天候を操るものもあると聞く。
今回の魔法は願いを叶えるものなのだろう。かといって何でも叶うわけではないはずだ。
万能であれば苦労はしていない。だが、それに匹敵するほど強力なのは確かだろう。
「願望を叶える魔法……。それは究極の力だろうな」
魔法の研究者なら誰もが抱く高みでもある。
死者の復活も願望の一つだ。
超位魔法は一日に最大で四回使えることは聞いている。
第十位階魔法なら使い放題だ。
その超位魔法のコストが弱体化なら何度も使えない事になる。
弱体化すると最新の魔法が使えなくなると。だから、覚え直すために鍛錬するのが基本だ。
願望に見合ったコスト。いや、弱体化では安いかもしれない。
秘中の秘。
その願いのためならどんなおぞましい事も平気で
「……その魔法はアインズは知っているのか?」
「知っているも何も……、習得していますから」
「なんと!?」
知っていて習得もしているとは。
イビルアイは素直に驚いた。
それ程の魔法ならば使用実験などはしないのだろうか。
弱体化を懸念しているとも思えない。
ヤントラのように人海戦術をしてもおかしくないだろう。
アインズはヤントラのような方法が出来ないのか。やりたくないのか。
支配者なら率先して
本人に聞くしかないだろう、と判断することにした。
とにかく、ンフィーレアと共に慰霊碑を作ることにしたし、ヤントラも了承してくれた。