※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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N-6 頼れるイビルアイ

 後日、メイドの仕事ぶりのついでに顔を出してきたアインズに尋ねた。

 ヤントラは例の如く家族サービスで留守という。ただし、屠殺場は稼動したまま。

 ンフィーレアも家族サービスで留守だった。

「このところメイド達の仕事が減っていると聞いていたが……」

「大掛かりな仕事の為に部屋の封印がなされているそうです」

「ここに来られる人間への配慮なので仕方が無いんです」

 平伏しているメイド達が答えた。

「解体作業を好んで見ようとする人間は居ないだろう」

「見回りのお仕事は従来どおりなので……」

「うむ。動かせないものも多いだろうから仕方が無いだろう。それで魔法だったな」

「願いを叶える魔法……。それをアインズは習得していると聞いた」

 軽くアインズは唸った。

「便利な魔法であるならばアインズは頻繁に使ったりしないのは何故なのか、と……」

「頻繁に使えたら苦労はしない」

 そう言うとイビルアイは頷いた。

「弱体化するそうだな。……『死者復活(レイズ・デッド)』並みだとか……」

「言葉は濁すぞ」

「構わない」

「その魔法を使いたいのか? 知りたいのか?」

「知りたい。超位魔法はアインズが書き留めることを禁じているのか?」

 禁じているというよりはヤントラが空気を読んで書かないでいるだけだと思う。

 確かに便利でもあるし、とても強力な魔法ばかりだ。

 『悪用方法』の例もあり、おいそれと公表できない気持ちがあるのだろう。

 数万人の犠牲を生む魔法は食らうのは嫌だが敵に使いたくなる者が居ないとも限らない。

 好奇心は国をも滅ぼす。

「将来に不安を感じれば奴だって書く手を止めるだろう。そういう奴だ」

「では、アインズは弱体化というだけで手を止めるのか?」

「と、止めはしないが……。万能の魔法は乱用ができないものだ」

 ヤントラはかなり乱用している。

 今ならアインズでも乱用してしまうかもしれないほどに。

 だからイビルアイは何故、乱用しないのかと疑問に思っている。

 アインズも、できる事なら使いまくりたい、という気持ちがないわけではない。

 ここで今、施設にはメイド達を除けばイビルアイしか居ない事を思い出し、モモンに変わる。

「おおっ!」

 それだけでイビルアイは大興奮だ。

「将来的には乱用に走るかも知れん。今は部下に任せていたり、奴に任せていたりしている。その間に……勉強したり……、調べものをしているのだ。余裕があれば、の話しになるだろう」

 モモンならば頭を下げられそうな気がした。

 支配者アインズでは色々と不都合な部分がある、かもしれない。

 上に立つ者は色々と制約があって動けないものだと呆れてしまう。

「そ、そうか。調べものか……。まあ、そうだよな。アイテムを作って遊んでいる場合ではないものな」

 うんうんとイビルアイは納得するように頷いていた。

 自分の言い分が通じるとアインズも嬉しくなる。

「イビルアイは勉強はする方か?」

「もちろんだ。生きている限り勉強三昧の日々だ。国の運営にも関わらせてもらっているからな。また『八本指』のような悪党どもに国民を危険に晒すわけにはいかないから」

「……偉い」

「ありがとう、モモン様」

 アインズはメイド達を下がらせる。仕事はいつも通り続けるように言いつけておいた。

 今回は監督役は不在だがヤントラのメイドが数人ほど扉近くに待機していた。

 メイドが居なくなったのを確認してから改めて尋ねる。

「支配者が勉強する姿はかっこいいのか? それとも、部下にみっともない姿として見えるのだろうか」

「愚かな命令を下すのはみっともないだろう。勉強と言っても程度があると思うのだが……。各国の情勢や自国の経済などは常に勉強しなければならないだろう。王とて各役所から上がる書類を精査しなければならない」

 うわ、難しそう。と、アインズはヘルムの中で嫌そうな顔をしようとした。骸骨では大して変化は付けられなかったけれど。

「知ったかぶりする支配者の方がかっこ悪いな、きっと」

 言われたくない言葉だが納得出来るものがある。

 時間が無い、などと言い訳しても仕方が無い。

 ちゃんと勉強したい気持ちはアインズにもある。だから、ヤントラと語学の勉強を必至でやっている。

 教え方についてはよく分からないが熱心に続けてくれるので助かっている。

「みっともないことよりエ・ランテルが廃墟になりかけているぞ」

「う、うむ。流出した人口が戻らないからな」

 人間が居なくなってもナザリック地下大墳墓としては何も問題は無い。だが、アインズ・ウール・ゴウン魔導国としては経済が停滞することは不味い。

 税収入が無くなってしまうから。

 外部の協力者を募る方が良いのだが自分たちでは限界がある。

 需要と供給があってこそ。

 アンデッド兵が揃っていても借り手が居なければ資金は入ってこない。

 人間同士の争いが無いから平和。と、いえなくはないけれど。

「魔導国の領土は少ないんだったか?」

「……地図的には……、それほど広くは無いな。カッツェ平野を含めたら……、広くなるか……」

 カッツェ平野はアンデッド多発地帯にして冒険者の資金源。

 農業には適していないけれど利用方法はこれから検討される。

「後回しにしすぎたな。……だが、腐っても城塞都市だ。都市としての価値は失っていない。帝国側と協議はしないのか?」

 しない、というよりはしていない、が正しいだろう。

 難しい会議などは出たくないから。

 大事な事は分かっている。

 イビルアイは侵略した事よりエ・ランテルという都市の未来について真剣である事は伝わった。

 統治者として応えねばならないだろう。

 今すぐ画期的なアイデアが出るわけではない。

 犯罪抑止だけでは豊かにならないということだろうか。

 部下達と相談していては解決しない事もある、んだろう。というか、部下任せだから解決しないんだろう。

 モモンの格好のまま七から六の宝物庫に移動することにした。

 メイド達が地下二階から覗きに出てくるような気がしたので。

 イビルアイの執務室は簡易的な仕切りがある程度だが、机もあれば本棚もあり書類が山積みだった。

 本棚の側には魔法の触媒に使われる材料が並んでいた。

「魔導国はここしばらく音信不通というか、国外に何も発信していないようだが……。使者は居ないのか?」

「居るには居る。予定がないだけだ」

 音信不通というか王国に伝えるようなことなど何かあっただろうか。

 帝国側にも特に言う事は無いはずだ。

 法律の制定が遅れてごめんなさい、と謝ればいいのか。

「新たな国が出来たのに物静かでは王国側としても対応に苦慮する」

「というと、王国に出向いて来い、ということか?」

「様々な領界の協議だとか貿易のやりとりとか、いろいろとあるだろう。そちらの国民を王国側が迎えてもいいのか、とか」

 そういう難しい事はデミウルゴスに丸投げしたい。

 もちろん、国王として考えなければならないことは分かっている。

 このままだと何も考えていないことがバレて大混乱になりそうな気配がする。

 お前、何を考えて領土を貰ったんだ、と。

「私は直接王や貴族から頼まれたわけではないけれど、年間行儀の通知とかするべきだろう? 国民同士の交流を禁じているのでなければ……」

「う、うむ。そうだな」

 イビルアイは前々から思っていたが、とても真面目な人間で驚かされる。

 そのままでは一方的に説教を受けてしまうだろう。

「……もし、そういう事を考えるのが苦手なら宰相を連れて来い」

「さいしょう? 大事なことは国の偉い者が全部決めるものではないのか?」

「賢い王も居れば愚かな王も居るものだ。もちろん! モモン様は賢い方だと思っているぞ」

 無い胃や心臓に大きなダメージを受けるモモン。

「ナザリックというか魔導国には宰相という役職は無いのか?」

「ん……。国造りは初めての事だから……、役職にはうとい」

 ここは素直な方がいいとモモンは判断した。

「階層守護者はそれぞれにちゃんとした役職名があると思っていたのだが……」

「いや、それは無い。全てを統括するから守護者統括というものはあるけどな」

 それ以前にかつての仲間達が宰相のような者達だったのかもしれない。

 急に居なくなるから色々とヤバイ。誰か来てくれ、とアインズは叫びたかった。

「……そうか……。居ない、というよりは無いのか……。それは難儀するだろう。というかジルクニフ陛下と相談しないのか? あれは賢い統治者だぞ」

「イビルアイから見てもそう思うほどか?」

「部下の扱いはうまいだろう。前の話しになるが、世界征服を標榜していたが……」

「……ああ」

「国が安定してから始める、または検討する、ということで今は他国と手を取り合う気は無いか?」

 アインズは顔を上げる。

 今のイビルアイの提案はもやもやした頭に光りを差し込むような妙案に聞こえた。

「安定してから……」

「バカみたいに世界を取って何も出来ないのでは国民が不幸だろう」

「うむ。その通りだ」

 自信満々にアインズは相槌をつく。

「確かに征服ばかり考えていては国は豊かにはならんな」

「ただでさえ王国は内部にも敵が居る。帝国もしかり。スレイン法国も亜人と森妖精(エルフ)の国と戦争している。征服どころではないし、新たな敵に対応することも難しい。敵無しの魔導国には正直に言って大人しくしてほしいのが本音だ」

「ほう。我々に口を閉じろ、とか。身動きをするなと?」

「アンデッドだからではないぞ」

 というイビルアイの言葉に少し経ってから理解できて、アインズは笑った。

 アンデッドは息を止めていても問題が無いから。

「国というのは世界征服する為にあらず。国民の幸せを願う為に土地の開発を進める。当然、主義主張の違う国家とぶつかるだろう。それが今の三国の睨みあいだ。現状、魔導国と事を起こす国は……そうそう現れないだろう。この時期を逃すことは無いと思うぞ」

「静かなうちにどこかの国と色々な交渉ごとを進めろと?」

「そうだ。魔導国はまだ小さい。というか、人口流出中だ」

「……うむ」

「それで国をどう豊かにする? 数人で経済は潤わないぞ」

「はい」

 確かにイビルアイの言う通りだ。

 ナザリックの者達はそもそも金を持っていない。持たせても税収として価値があるようにも思えない。

 やはり外貨というものは大切だろう。

「戦争云々は国王や皇帝を交えた政治で決着してくれ。私の一存では決められないからな」

「いや、忌憚無き意見に感謝しているぞ」

「国民を幸せにするなら敵である魔導国とて交渉の糸口を探す。帝国民と王国民は憎しみ合う関係ではないからな。あちらは軍事国家として命令を下しているから仕方がない。それはこちらも承知している」

「……つまり割り切っているのだな」

「そうだな。帝国だって殺戮したい為に王国と戦争をしているわけではない。領地を持つ貴族の既得権益を守るため……、みたいなものだ。いつだって泣くのは国民だ」

 貴族の話しは難しいので聞き流していたがアインズも国王となったのだから無関係ではいられないだろう。

 利益のための戦争もいずれ自分で起こすかもしれない。その時、国民に好かれているかは分からない。

 少なくとも今は国民に好かれる国王になりたいのは嘘ではない。

「大変、勉強になるな。世界の覇者はまだまだ遠いようだ」

「少なくともアインズはこうして私の言葉に耳を傾けてくれる。だから、私は言葉を話す。そうでない場合は黙って戦争なのだろう」

「……そうだな」

「宰相が居ないなら仕方が無い。こちらから意見交換の手紙を送るよう打診しようか? 聞き分けの無い貴族やバカ王子が居るけど……」

「おお、それは……。いや、それは安易に決めていいものか……」

「決めるのはモモン様、というかアインズだ。こちらは帝国側がアインズにどんな助言をしているのか分からないからな」

「そうか。それもそうだな」

 ジルクニフをしばらくないがしろにしていた気もする。

 国について本当にしっかりと話し合う必要があるだろう。というか友達になったのに無視ばかりしていてはいい気分はしないだろう。

 自分なら魔法を一つ打ち込んでいるかもしれない。

「ま、まずは……ジルクニフと話し合ってみるよ。ただ、王国側の打診は任せよう。返事は出来かねるがな」

「そうか!? 手紙だが……使者はどこへ行けば良いんだ? アンデッド兵は何も答えてくれなかったそうだぞ」

「えっ? 来たの?」

 そう言うとイビルアイは頷いた。

 確かにアンデッド兵に伝言は難しいだろう。

 与えた命令以外は柔軟に対応するとは思えない。

「どこの兵だ?」

「エ・ランテルだったと思う。魔導国はまだ工事が盛んだったからな」

「……ああ、なるほど。エ・ランテルが臨時だって言ってたな、そういえば……」

 自分で決めたことなのに色々と失態が重なっていたようだ。

 報告が無いから誰も来ていないと思っていた。

 来ていたとしても下等生物とは取り合わないとして追い払っていそうだ。

 部下の教育は難しい。

 それにしてもイビルアイは優秀で頼もしい。部下に欲しいくらいだ。

 本来は敵なのだろうけれど、殺すには惜しい逸材だ。

 普通なら敵は殺せ、という分かり易い図式になる。だが、アダマンタイト級は一筋縄ではいかない連中が多いようだ。

 強いだけではない。

 もっとも下級冒険者は非常に頼もしくない。金の為に冒険者をしている連中は特に。

 志のある者と無い者の差かもしれない。

 竜王国のロリコンとか言われていたセラブレイトは煩悩を糧にしている分、非常に優秀な働きを見せる、と聞いた。

 育てれば光るものがあるかもしれない。でも、ロリコンは困るな。

「……確かアルベドが食糧問題を担当していたな……。イビルアイよ。手間をかけるが経済分野での協議なら今は受けられる。……こういうのは手紙を書くものか?」

「部下と相談する時間はやるぞ。もし、こちらから手紙を出すなら私が城に届けよう。もちろん、協議の日時は後日検討の上で出されるだろう」

 この場で書け、と言われたらどうしようと考えてしまったが助かった。

 評議国の時といいイビルアイには色々と世話になってしまったな、とアインズは思った。

「礼と言えるかは……分からんが……。件(くだん)の超位魔法の名前を教えてやろう」

「おっ。そ、そうか。予想ではとんでもない効果だと思うから安易に使えないのだろうな」

 賢いイビルアイは予測から看破される確率がとても高い気がした。

 だが、危険性を認識してくれるのはありがたい。

「奴のような乱用は本来出来ないのだがな……。万能ではあるけれど出来ないことはある。例えば特定の人間の死を願っても無理だ。あと、特定の効果は打ち消せ無かったりと、な」

「やはり……。本当に願いを叶える魔法、なのだな」

「指摘しないぞ。超位魔法とて色々あるということは分かってくれ」

「ああ」

「イビルアイが知りたがっている超絶魔法……。超位魔法『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』という」

 うぃっしゅあぽんあすたー、と小さくつぶやくイビルアイ。

「コストは……。生命力を大幅に削る。私でもおいそれと使えない大魔法だ」

「そのようだな。だが、モモン様ならご主人並みの使用が可能ではないのか?」

 それは『悪用方法』を伝授された『アインズにも出来る』という意味でなら可能と答えられる。

「恥ずかしいのだが……。私は奴ほど悪用が得意ではなかったのだ。それにそのような研究もしてこなかった。敵を倒す戦略ばかり考えていたからな」

 これは嘘ではなく本心からの言葉。

 ゲームバランスを崩すことはそもそも出来ないし、ここがユグドラシルならヤントラは真っ先に消されている筈だ。

 あいつはどれだけの規約違反をしているのか分からないほどだ。

 『PKの鬼』がもっと危険な鬼になったのではないか、と思うほどだ。

「正攻法が好みだったとは……」

「裏をかくことは私もするが……。あいつは桁違いだ」

 確かそれはアバターに影響されたと言っていなかっただろうか。

 ヤントラのアバターはアインズが知る限り、適当に作られたはずだ。それが適(・)当(・)ゆ(・)え(・)に酷く歪んだ結果を生み出している、と言われると信じそうだ。

 世界に危機をヤントラ自身がもたらすならばたっち・みーに代わってお仕置きするまでだ。

 というか、結構殴ってるよな、自分。

「物騒な研究は私も驚いているのだが……。意外な手法に驚かされっぱなしだ。だから、というわけではないが、簡単には真似は出来ないのだよ」

「そういうものか。モモン様なら簡単そうだと……」

「いやいや。簡単そうに見えて自分の部下に試せると思うか? 私は失敗が怖い。取り返しがつかないことはやりたくないのだ。そういう差があって出来ない……。出来ないというかやりたくない……」

「……意外だ……」

「ん?」

「モモン様は優しい心を持っているのだな」

 アインズは苦笑する。

「侮辱に聞こえるぞ」

「ああっ! いや、素直に驚いたのだ。ご主人と同じく命を軽く見てはいないかと……」

「他人の命は軽く見ることは……あるな。うん」

「ご主人の方法を知った……、これからはどうするんだ?」

「どうもしないさ。確かに少しずつ挑戦するかもしれないな。折角の方法は試したい、という欲求は私にもあるからな」

 試して大失敗しそうだ。よくマニュアルを読み込んでいない自分が悪いのだが。

「出来る限り安全なものは特に……。巨大モンスターを繁殖させて世界を潰したくないからな」

「……おぅ。それは絶対に潰さないでくれ」

「屠殺場の訓練も一定程度は許容しよう。全ての人間は困るがな。こちらで調べたところ、東方には忍者(ニンジャ)や強いモンスターがまだまだ生息しているらしいことが分かった。魔導国としては遠い場所に未知の発見を求めて冒険者を送りたいと思っている。簡単に死なれては困るから、我々も訓練を始めようと思っている」

「冒険者を魔導国が育成するのか?」

「そうだ。世界は広い。この辺りの国々で争っているのはもったいないではないか」

「うむ。冒険者はもっと広く活躍するべきだろう。世界を知る事は自分の為にもなる」

「今は検討段階だがな。その前にエ・ランテルを立て直さないといけないから」

「そうだったな」

 ここでアインズはアインズ当番のメイドを連れてくるのを忘れていた。というか、まとめて下がらせてしまった事を思い出す。

 イビルアイにそれとなく、会話の内容を覚えているか尋ねた。

 意外と物忘れが激しいところがあるので自信が無かった。

「大体は……」

「さっきの魔法以外でメイドに説明してほしいのだが……」

「了解した。モモン様の頼みに全力で応えよう」

 頼もしいイビルアイに深く感謝し、すぐにメイドを『伝言(メッセージ)』で呼ぶ。

 どこに居たのか、メイドが駆け足で六の宝物庫にやってきた。

「すまなかったな、お前まで下がらせてしまって」

「い、いいえ。ご命令には……」

「良い。それより、イビルアイから説明を受けてメモしろ」

 長いセリフを支配者特権で断ち切り、メイドに命令を下す。

 羊皮紙とインクはイビルアイが提供してくれた。

 それから思い出しながらイビルアイの長い説明をメイドは一字も漏らさずに書きとめていく。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 政治や経済、エ・ランテルの現状などの話しなど。

 秘書のようなものは必要なのだが、秘密の話しはメイドにも聞かれたくない。その線引きが難しい。

「せっかく手に入れた都市を腐らせるのは勿体ないな」

 自国で完結するならまだしも他国との貿易は考えていない。

 部下任せのツケが回ってきたのかもしれない。

 国民を監禁するわけにも行かない。

 アインズは自分の発した意見も忘れないうちに書かせた。

 イビルアイだけでは整合性に欠ける。

 手に入れて終わりではない。発展させなければ国民は出て行ってしまう。

 統治しない都市は返せ、と言われるかもしれない。

「経済の話しをするのか、という点だが領土を含めて全てを盛り込まなくていい。おそらく王国側は貴族が色々と口出しをする可能性がある。アインズ側は対応できるものに絞ればいい」

「経済なら経済のみでいいのか?」

「のみかどうかは……。当事者が話し合って決めるなり柔軟にな」

「儀典官の嫌味などはあるのかな? これは興味からだが……」

「ああ、他国の貴族を招く場合の奴か……。駆け引きで嫌味は出るかもしれないな。私は立ち会えないのだが……。ラキュースが詳しいだろう」

 嫌味を言われるのは嫌だなと思った。

 帝国側は恐れられているせいもあり、誰からも招待を受けていない気がした。ただ、招待されても行く気はしないので、無視するかもしれない。

 小難しい話しやどうでもいい話しを延々と聞かされるのは苦手だから。

 イビルアイは真面目だが自分の国にかかわるから頑張って話しに耳を傾けている。

 それほど嫌味には聞こえないのも悪い気がしない事かもしれない。

「ところで魔導国は新しい貨幣を発行するのか?」

「……造幣関係は持ち合わせが無い。それは独自に作るものか?」

「無いのか……。ならばそれは帝国で助言を受けるといいだろう。王国側は立場的には意見しか言えないと思うから。……これは内緒だぞ」

「ありがとう。参考にさせていただく」

 造幣関係も考えなければならなかった。

 ユグドラシル金貨を普及させる案も出るだろうけれど、様々なコストに使われるので通貨としては相応しくない気がする。

 新硬貨を作るとしても施設を作らなければならないし、他国との両替関係も決めなければならない。

 一人で考えるには問題が多すぎる。

「イビルアイは政治にも精通しているのだな」

「そうでもない。ただ……、人生経験が長いだけだ。私は統治者の経験が無いから聞いてもダメだぞ。こういう話しは専門家と共に勉強するのが一番だ」

「……それが私の場合は皇帝であり、イビルアイやラキュースなのだな」

 専門家とはいえ王国語と帝国語を操るものだ。

 彼らの文章を早く読み書きできるようにならなければ、とアインズは流れない汗を流す。

 イビルアイが要望していたアイテム鑑賞も忘れていたのでメイドにそれとなく書かせておく。もちろん、別の羊皮紙に。

 アインズは忘れないうちにイビルアイの言葉を精査する事にした。

 手紙については後日持参する事を約束し、去っていった。

 モモンの姿で対話していたせいかイビルアイは嬉しさ半分、不安半分と言った気持ちだった。

 将来の不安ともいえる。

 都市が滅ぶか再生するか、その意見が交わされたのだから心配だ。

 敵の手に落ちたとはいえ気にはなる。

 魔導国に割譲された事によって戦争は停滞している。

 徴兵も行(おこな)われていない。それでいいのかもしれないが急な宣戦布告が無いとも限らない。

 アインズは今のところ戦争を起こす気が無いようだが、何がおきるか分からないのが政治の世界だ。

 沈黙を守っているスレイン法国が動く可能性は無いわけではない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 世界の命運とは関係なく戻ってきたヤントラは施設を巡回する。

 転がり落ちる金貨と素材の量の確認。

 空中倉庫はもう少し小さくても良かったなと思った。むしろ下に溜める倉庫を大きくした方が良い。など改善点をメモする。

 ゴムの木の育成も問題なし。

 一日の稼動に問題はなく、次の日は子供達をつれて都市の散策と施設の巡回をする。

 所々に居るモンスターの生態について解説したり、様々な魔法を披露する。

 ヤントラは信仰系だが魔力系の魔法も少しは扱う。

 基本は戦士職。その中でも対人戦に特化した暗殺者(アサシン)職。

 冒険者とはいえ国の命運に関わる仕事が出来ない時点で活躍の場が無い、という事実に直面していた。

 大規模戦闘に参加できない。

 地味な仕事ばかり。

 そこら辺に竜(ドラゴン)とか大量にいて暴れているクエストとかは無い。

 低位モンスターばかり。

「小鬼(ゴブリン)ばかりでは冒険者は育たないかもしれないな」

 かといって元冒険者の犯罪者ばかりでは困る。

 帝国はカッツェ平野というアンデッドがよく出る場所があるから比較的、戦う相手に困らない、かもしれない。

「おかあさんひとりでさびしそう」

「そうか? 離れているからな」

 身体が大きくなってきた子供達も顔つきは母親に似ているようで自分に似ているところもあるような気がする。

 教育に関してはリ・アインドルには優秀な人材が多いと聞いていたので任せようと思っていた。だが、子供達自身はヤントラから色々と学びたいと思っているのか、遊びたいと思っているのか。

 産ませた本人は無責任だなと思うのみだ。

「大人に与えられるのは夢かもな」

 健康的に育てば良い。それ以上は本人たちが勝ち取れば良い。

 ラキュースに任せっ放しは子供の教育には良くないのかもしれない。とはいえ、政治に口出しはそうそう出来ない。

 子供達が白い吐息を出す。そこでヤントラは忘れていた事を思い出す。

 遥か上空の気温はとても低くなっているかもしれない、ということに。

 厚着させた子供達に粘体(スライム)を装備させて『万魔殿(パンデモニウム)』に行くと一段と冷え込んでいた。

 シーツの防りで雪は積もっていないがメイド達の動きがぎこちない。

 戦乙女(ワルキューレ)の護衛に全てのメイドを集めさせると手足が黒く壊死した状態の個体が居た。

 それらの手足を断ち切り、治癒魔法をかける。

 子供達の目の前でも構わず。

「お父さんは容赦しないところがある。隠しても仕方ないし、お前達に良い父親を見せる気も無いぞ」

 驚く子供達をよそにメイド達を施設に戻すように命令する。

 戦乙女(ワルキューレ)型と転移できるメイドを残して撤退する。

 その後、防寒着などの寒さ対策を万全にした個体を『万魔殿(パンデモニウム)』に向かわせる。

 寒さ対策していないメイドをまずは処分しようか労わるか考える。

 考えているだけでは時間の無駄なので、治癒魔法をかけたり一般メイドに風呂に入れてもらったりする。

 別のメイドに防寒対策のアイテムの用意をさせる。

「働いてくれるメイドを簡単に処分するのは勿体ないな。労働者は労わらないといけない。良い上司は部下を気遣うもの。だけど私は悪い上司だ」

「わるいひと?」

「わるいことはだめ」

「悪い事を悪い、と言えるバスディオは偉いな~。……でも、それがいつまで続くかな? いつまでも続くといいな」

 色んな言葉を言うようになった子供達の成長を楽しみにしつつ製作にかかわるメイド達に新たな命令を下していく。

 火精霊(ファイア・エレメンタル)などを駆使して防寒と火事の対策を追加する。

 とある洞窟に居たサラマンダーがまだ居るのか探す必要があるのかもしれない。

 ついでにNPCの調査も。

「悪いお父さんは月とか遠い場所で反省した方がいいかな?」

「……とおいところ?」

「いっしょにいく」

「暮らすには色々と建物を作らないといけないから、そう簡単な話しにはならないな」

 子供を連れて建造するのは少し危険だろう。

 観光できるようにはしたい。それが出来るのは何年先になることやら。

 短期間の工法は人生の楽しみを色々と奪いそうだ。

 

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