ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
寒さ対策の後、子供達を連れてカルネ村の外壁周りを歩く。
重装備にも関わらず身軽に移動するモンスター。
低位のモンスターはほぼ駆逐できるし、おそらくは王国の一部隊も壊滅に追い込めるのではないかと思われる。
ガゼフ・ストロノーフと一対一で戦えば良い勝負が出来るかもしれない。
レベル的にはガゼフが上だろうか。
露出していた肌に村人が作ったのか、マフラーなどが巻かれていた。
ちゃんと複数の脚に絡まないように施されていた。
「『
神話の通りの能力を持っているかは疑問だが数が多くなってくるとどうでもよくなる。
一体だけのボスモンスターならまだしも。
冬の女神として有名な『
行動阻害能力が高い。
名前があるからと言って非常に強力なモンスターというわけではない者が多い。
小麦の収穫を終えた今、黄金色の海は見えず。
引き続き子供達を連れて歩く。
「おとうさん、さむい」
「そうだな。帰ろうか」
「おふろ~」
子供達に急かされて大急ぎで施設に戻る。
施設の中は温暖であり、四季を通じて暑過ぎず寒過ぎない。
引きこもってしまうと季節感が分からなくなる。
少しだけ温まった後でリ・アインドルにて子供達を風呂に入れる。
死体洗いのような『マグヌム・オプス』の風呂場は小さな子供には
もう少し大きくなってからだ。
ずっと面倒を見る方がいいのかもしれないけれど、ヤントラの施設で学べる事は物騒なものばかりだ。
言葉はラキュースに任せている。
翻訳のせいで現地の言葉が混乱してはいけないので。
貴族の子供だからといって今のうちから政治の勉強は早いだろう。
社交界には出せるかもしれないが何をしでかすか。
ヤントラ自身貴族らしいことはしていない。研究者でいいのかもしれないが、資格とかあるのだろうか。
販売許可証とか貰っていないような気もする。販売はしていないけれど。
ふと、子供達の髪の毛に顔を向ける。
トゥーレアの金髪は日ごとに長くなってきたかもしれない。
いずれはロールにするのだろうか。
バスディオは短髪のままいくのかな。二人共、将来は美男美女か性格がどこかで捻じ曲がるのか。
優秀な政治家になるのか。
本人は何を選ぶのだろうか。親は見守るだけだ。
最後は仕事を終えたラキュースの髪の毛を洗う。
湯に濡れてロールが解ける彼女の美しい金髪。
一度は失われた髪もちゃんと生え変わって一安心だ。ずっと白髪のままかと少しは心配した。
女体モンスターを手に入れる気持ちがあるからラキュース達も倒して手に入れてしまっていたかもしれない。
どういう方法にしろ、世界が潰れるなら女はどんな手を使っても手に入れていてもおかしくない、とも言える。
物思いに耽って頭をつぶしては困る。
軽く頭皮をマッサージし、髪の毛は優しくいたわる。
お返しとしてラキュースもヤントラの髪の毛を洗う。
もちろん、他の仲間が居たとしても同じように身体を洗っているだろう。
子供達に背中を洗ってもらったり。
手が届きにくいラキュースの色白の背中。少し手を伸ばせば胸も触れるという。
「……強引な結果は容器の中かもな……」
決して殺さず、全ての存在を容器に閉じ込めて世界を止める。
もしそれが可能ならば凄い事だ。
少なくとも時だけ無情に流れる世界が出来上がる。
鉱物と植物はどうしようもないかもしれないけれど。
発展も無く、誰にも解呪されないとすれば永久封印も可能。
百年毎に現れるプレイヤー頼みとなってしまう。
「世界は止まっているより動いている方が健康的だ。動いていると争いが生まれてしまうわけだが……。良い人にはなれそうにないな」
「単調な生活に飽きてしまえば新しい事に挑戦したがるものよ。武器を持つ国はいずれ他国に牙を向ける。そう簡単に平和は来ないわ」
身内にすら敵が潜んでいるのだから、とラキュースは苦笑する。
トゥーレアが母の大きな胸を突付く。
将来、結婚して子供が出来た時の生活などラキュースは想定していなかった。
今は子供達が居る。慣れてきたとはいえ戦士としての活動は今でも熱望している。
国の為に戦う意志は今もある。
争いが無ければどこぞの貴族と見合いでもしていたのかもしれない。
それが遅いか早いかの問題だ。
子持ちの戦士は珍しくない。ただ自分は受け入れに時間がかかっているだけだ。
いずれ親子で戦場に立つ日が来るのかもしれない。
「発育が良い胸は少し邪魔よね……。それだけ私は健康なのかしら?」
「貧乳で困っている女性が聞いたら怒られるだろうな」
イビルアイは少なくとも羨ましがっていた。
「大きすぎて困るなら……。母乳を少しでも吸い出し……。刺激されたらかえって大きくなるかも……」
「……適度な大きさがいいな……」
それは後で考える事にして子供達にラキュースの身体を洗わせた。
風呂から上がった後は両親協力の元で製作された料理が振舞われる。
まだ小さい子供なので大した量は作れないけれど。
好き嫌いなく食べてくれる姿は微笑ましい。
夜には様々な書物を読み聞かせる。
ヤントラが親として出来そうなのは知識を与えることかもしれない。武器などはもう少し先だろう。
少なくとも自分で戦士などを選ぶようになってからでも遅くは無い。
自分は善人ではないし、誇れる親にはなれない。
反面教師でも良い。
子供達がもう少し大きくなるまではラキュースの元で育てるのが良いだろう。
今のヤントラの施設では作業の邪魔にしかならない。
アインズとイビルアイが密かに色々とやりとりをしているようだが、それは別に咎めたりはしない。禁止にしていないから。
施設を派手に壊さなければイビルアイの裁量に任せる。
ンフィーレアの邪魔にならないように、ということは言ってある。
「こちらはこちらで効率を上げていきますか」
メイドに任せると心許ない。
それでも単純な命令をゲシュタルト崩壊せずに
大浴場の
作業を続けていたメイドの手を止め、休ませる。それから場を清掃させて休憩に入らせる。
清掃が終わった後は増やす分だけ残して処分しておく。
倉庫までの順路に異常が無いかの確認も忘れないうちに
『
「見た目の差で手元が変わるのは難儀な事だ」
一つため息をついてヤントラは作業を始める。
自分で考えた方法は自分で
あとは補助が上手なら文句は無い。
五百体を用意したところで一休み。溜まった金貨を五の宝物庫に投げ入れ、素材は新たな倉庫に溜めた方がいいのかもしれない。
『
道端に山にする事も出来ない。
メイド達の世話が終わる夜間に各メイドを総動員する。
一時間で一万体は余裕という。人海戦術の恐ろしさが垣間見える。あと、魔力譲渡は反則的と言えるだろう。
三時間後に命令を下すと空中倉庫に駆け上る女体モンスター達。
時間差で積みあがる複製。
朝になる頃には十万体近くは増えただろうか。そのまま続けたいところだが魔力は無限ではない。
休息は必要だ。
時間差で作業すれば数十万体くらいは造作も無い。という所まで来てしまった。
単独では無理でもメイドを総動員すれば。だが、作業場には限界がある。
控えのメイドもたくさん置けない。意外と狭く感じるものだ。
文句を言っても仕方ないし、贅沢は禁物だ。
魔法の効果は本当に絶大だ。献体の劣化が起きない。
普通なら肉体的な損傷が現れてもおかしくない。かといって手放しで喜ぶ事はできない。
不測の事態は天災と同じく突然現れたりするものだ。警戒は解かない。
二日間で随分と世の中が変わったような気がする。ただし、気分的に。
何度も思うが外界に出ないと時の感覚が狂う。
ゴムの樹液採取やフェルトとシリカ製造も再開しないといけないだろう。
余計な施設を作って色々と混乱してきた。
フェルトと言っても石鹸水をまず先に用意しなければならなかった。
油と灰、または
灰はシリカを作る時に葉っぱなどを燃やして作る。枯れ葉を集めさせるのをド忘れしたので雪の降る今は見つけにくいかもしれない。
火山灰は成分が違うから止めた方がいいと
素直に植物に頼るのがいいんだろう。
大人の牛を丸焼きにして油を抽出する。それに適しているのはやはり黒い仔山羊。
触手をうまく使えば工業に役立つモンスター。ただし、呼ぶのに数万人の犠牲が必要だ。
油を
「問題はどこに作るかだ。また空中かな。あと灰の調達」
「そうですね~。肉牛の焼く匂いに誘われてモンスターが現れやすくなるかも……。葉っぱは森がいいんでしょうけれどね」
油を濾し取った肉はどうするのか、も考えなければならない。
健康食品に加工できそうだが複製は心配だ。
堆肥加工が関の山かも。
シリカを製造している場所に大きな施設を作るのが効率的かもしれない。
メイド達に森に落ちている葉っぱ類を毒草を除いて採取するように命令しておく。
灰にするのだから毒草が混じっても関係ないかもしれないが、細かいところはンフィーレアに研究させよう。彼がダメと言えば諦めが付く。
砂漠にオアシス地帯を作ってモンスターの憩いの場にするのもいいだろう。
簡単に駆逐しては可哀相だ。
無闇やたらの殺戮はンフィーレアも難色を示すので平和的な利用ならばと設計を快諾してくれた。ただし、国境を越えているのでバレたら逃げる事にした。
肉牛の量産を始めて用意しておく。
監督役に来ていたナーベラルに砂漠地帯での開発についてまとめた書類を渡しておく。
「衝突回避のためだ。問題があれば言ってくれ」
「了解した」
一般メイドはさすがに砂漠に連れて行けない。
アインズ付きメイドは秘書のように外に連れ出しているらしい。
魔導国の中に新たな施設というか建物が出来るたびにメイド達の仕事が増えるらしいが利用方法が未定のものも少なくない。
「建物が増えればこちらでのお仕事が出来なくなる可能性がございます」
「それはそれで結構な事だ。充実した一日を送ってくれ」
「はい」
「我々に仕事をお与え下さり感謝しております」
感情豊かなメイド達にヤントラはただ頷くのみだ。
倉庫のような施設で出来る事はあまり無い。
他人を多数内包する施設というわけではないから。
『
まず排水できない。補給の問題がある。
水を生み出す魔法に頼る事になるだろう。
普通の宇宙船なら充分な補給物資を積み込む。消費すれば外部から補給するしかない。
自給自足はなかなかに難しい。
砂漠の緑化を続けつつ石鹸の材料を生産していく。
脂分を取り除いた肉牛を現地のモンスターに与える。もちろん、食に偏りが出てはいけないのでエンリの協力の下、野菜畑も作る。
よその国というのは内緒で。
砂漠地帯がどんな国の領内なのか、実は把握していない。
空中都市『エリュエンティウ』かもしれない。ただし、そこまでの道のりはどこにも無い。
砂漠地帯が広がっているせいで都市が殆ど見当たらない。
人が住める地域が少ないとも言える。
遺跡がいくつかある事以外は旅する冒険者くらいしか往来は無いかもしれない。
無駄に放水している都市国家から水でも引こうかと思ったが怒られそうなので保留にする。
地下水があれば組み上げたいところだ。
砂漠で育てられる作物が無ければ育てられる土地に改造するしかない。
既に一キロメートルの緑地化が進行しているので色々と作ってみることにする。
現地のモンスターの栄養も兼ねて。
作物を育てる間、ヤントラの施設で育てていた野菜などを与えてみる。
森から出てくる恐竜型も食料に釣られてやってきた。
あまり餌付けすると居座ってしまうかもしれない。そうすると撤退が難しくなる。
エジプト神話のモンスターがあまり出て来ないところを見ると飢え死にして絶滅したのだろうか、と思ってしまう。
空中都市の近辺に居るのかも知れない。
居れば居たで結構な事だ。
『
シュメールだかバビロニアだかのモンスターも居るといいな。
『
神クラスになると王国とかあっさり滅んでいてもおかしくないから、それほど強力なモンスターは居ないのかもしれない。
巨大なものなら遠目でも分かりそうなものだ。
難しい事は出会ってから考える事にした。
油は何度かシーツで濾して不純物を取り除く。肉はモンスターに、残ったカスは堆肥に混ぜる。
灰は枯れ葉や木などを燃やして作る。
特別な薬品は使わない。
水漏れしない巨大な浴槽を作り上げ、そこに投入して混ぜる。
粘度のある状態にしてから数週間放置して食塩水を投入して混ぜ、分離した固形物が石鹸となる。
シズ先生の説明に従い製作。
食塩を生み出す『
この魔法は今のところ原住民が習得している独自の魔法でユグドラシルには無い。
何故、そんな魔法があるのかヤントラは首を傾げた。
肉体から塩分を分離するという魔法などがあるけれど、生活魔法の方が抵抗が少なそうだ。
一般に売られている石鹸は様々な薬品を加えているらしく、自前で作れそうに無い。
賢いように見られているけれどンフィーレアが思っているほど頭は良くないと自分では思っている。
新しい技術は無い。先人の知恵を借りているだけだ。
排水する時は浄化すること。水質汚染に繋がるので。
『
百メートル四方を一つ。あまり膨大な量を作っても処分に困る。
残りカスばかりでは可哀想なので絞らない肉も用意した。
「世話をかけるね、エンリには」
「いえいえ。……バレたら逃げる、という所が面白そうですね」
「砂漠が近いから放っておけば数年で全部、元の砂漠に戻るかもしれない。手入れする人間や亜人でも居ればいいのだが……」
「ここら辺は未開の地のようですから難しいですね。向こうの亜人達が来たら状況が変わるかも……」
その亜人は
聖王国の近くにある荒野を縄張りとする。それを誘導してもろくな事が起きない気がする。だが、居ないよりはマシだろうし、責任を押し付けるという意味では有効な手段とも言える。
「こちらの作業が終われば考えておこうか」
「折角のオアシスですから、有効的に使ってほしいですね」
それを作ったのはヤントラなのだが。
シリカ作りが始められるころ、一部のモンスターに緑地を使わせた。
照りつける太陽に焼かれる黒い仔山羊。ダメージは無くとも肌は熱くなっているだろう。
作業場全体を広大な屋根で覆う。たまに砂嵐が発生するらしいが平原や森にまでは来ない。
緑地化で育てている樹木が防風林として役立っている所もあるのかもしれない。
国の運営に頭を悩ませるアインズは世界征服の意義を見失いかけていた。
支配者として当然、という言葉が独り歩きしすぎて取り返しのつかないことになるかもしれない。
一旦、足を止めて振り返ることにした。
建国し、法律の制定も終了した。後は発展させるだけだ。
人口流出でゴーストタウンになってきたエ・ランテルの現状に危機感を覚える。だが、部下達は余計な人間が居なくなって安心している。
それはとても不味い事態だ。
賑やかな国がアインズのイメージにあった。それが無くなると困る。
人の居ない国の支配者はバカみたいだ。
声援の少ない人気者。
それのどこがかっこいいんだろうか、と。
「こんな
人が居ないならアンデッドを配置すれば良い。
どこかで聞いた格言の改変を耳にするアインズ。それは幻聴であってほしいと願ってしまう。
アンデッド兵を投入すれば賑やかにはなるだろう。
真の意味でゴーストタウンになるけれど。
余計な人材が居ない方が敵を気にしなくていいのかもしれない。
広い世界を独り占め。
一見すると素晴らしく聞こえるのだが、未知の発見が無くなる。新しいアイデアが生まれにくい。
困った時も他人の意見が参考にならない。
なによりもアウラ達の成長に良い影響は無いだろう。
ナザリック地下大墳墓の運営に関しては広大な土地を使い、様々な作物を育てられるかもしれないので今のところは問題ないと思う。
今のうちに情報を集めて厄介な者達を処分すればいいのか、というと不味いと思ってしまう。
仮に支配者として部下を残して全てを処分するとしよう。
それをかつての仲間達に自慢して喜ばれるだろうか。
みんな殺したよ。凄いだろう。
わー、凄いすごい。さすがはモモンガさんだ。
で、いつ再生成されるのかな。再生成はされません。
どうするの、この先数千年もナザリックの者達とだけで暮らす気か、と。
「原住民を排除するつもりは無い。ナザリック地下大墳墓によそ者を入れる気は無いと言ったかもしれないが魔導国は違うぞ。今は小さい国だが経済発展によって他国よりも豊かにしたい。もちろん、強引に他国の財を奪うような野盗まがいはしない。私をそのような能無しにさせたいのなら前に出ろ」
控えて居る者は頭を上げられない。
支配者として当然の権利を支配者自ら放棄すると言っている。それが理解できない者は居るには居るのだが意見を言える雰囲気ではない。
アインズは怒っていると皆に伝わっているからだ。
「可及的速やかに対処しろ、とは言わん。この危機的状況の打開策をそれぞれ考えてほしい。セバスよ。お前は今の魔導国は素晴らしく見えるか?」
声をかけられたセバスは少しだけ黙った。
「……おそれながら……。発言を許可していただけるならば……」
今、尋ねたのに許可とは何だろうとアインズは首を傾げる。
「セバスと言ったのが聞こえなかったのか?」
「い、いえ。聞こえておりました。……ただ、アインズ様が何故、ご機嫌を損ねられているのか……」
「ふむ。機嫌を損ねる理由……。そこから言わなければならないか……」
今、言ったじゃん、と。
魔導国の人口を増やしたい。経済発展させたい。
ごく普通の希望をアインズは述べている。それがナザリックの者達には理解出来無いという。
これ以上の分かり易い疑問をどう説明すればいいのだろうか。
苦労して考えた法律は発布した。イビルアイに手紙も出した。
ヤントラから王国語の勉強もしてきた。
ジルクニフに国の運営の勉強まで教わっているのに。
一朝一夕には出来ないことは分かっている。
良い国を作りたい。最初の一歩はとても大切だ。
「魔導国はまだよそ者の流入については色々と議論の余地があるだろう。だが、エ・ランテルはモデルケースとして発展させたいのだ。なのに人が少なくなる一方で経済も困窮する始末だ。これで機嫌が良くなるわけが無いだろう。私が治める都市なのだぞ」
「はっ!」
「この調子では他の都市を手に入れても誰も居なくなってしまうではないか。人の居ない都市は自分でも作れる。……征服とはそういうものではない。セバスが答えられないなら……、誰が答えられる?」
アインズの言葉にマーレが一歩前に出て頭を倒す。
「マーレ、言いたいことがあれば発言せよ」
「……はい。あ、アインズ様の、治める国に、現地の人間を住まわせる理由が……、わ、分かりません。邪魔者なのでは……、と……」
「現地の人間と仲良くなって何が悪い? 私は殺戮者になりたいわけではないぞ」
アインズは優しく言った。
「わ、悪くはありません。で、でも……。その中に敵が居たらと……」
「疑えばキリが無い。その時は迎え撃てばいい。例えば全員が敵だとしたら……、仕方ない、だろうな」
「……つまり、敵かどうか分からないうち、は受け入れると?」
「スパイ程度はどこの国も送るだろう。よくよく考えれば現地調査は当たり前だ。それにいちいち怒っていたら皆殺しになってしまう」
元もとの計画では味方に出来るプレイヤーが居れば手を取り合うことも検討していた。
周り全て敵として排除するのはやりすぎだろう。
ジルクニフは悪い人間とは思えない。もちろん、怖がらせているところがあるので気の毒だとは思っている。
友達は大切にしたい。そういう心はアインズにもある。
「ナザリック地下大墳墓に侵入するのはけしからんが、魔導国という大きな範囲までは適用しないぞ。都市は寛容でなければいかん。亜人や他の異形も住まわせる予定なのだから」
種族の垣根を越えた友好都市を目指すのだから。
「
トブの大森林は魔導国の支配下にある。逃げたところで意味が無いだろう。
警戒しろと言ったのは自分だ。だから部下達はそれに倣っているのかもしれない。
そう考えれば安易に責める事は出来ないだろう。
自分の発言に責任を持たなければいけないのだが、なかなかうまく行かないものだ。
幸せを感じられる国にしたいのに逃げ出されれば傷つく。
それが魔導国だけならば我慢できる。エ・ランテルが誰も居なくなるのは寂しい。
国の指針を決めるのに時間をかけすぎたのも原因かもしれない。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国の人口は増やしたいな」
もちろん交配での増殖ではない方法で。
人間以外はスレイン法国に睨まれるおそれがあるので人間種だけで五十万人は欲しい。
目標としては十年以内に五百万人。
「人口を意味も無く増やしても仕方がない。この国に住みたいと思わせるアイデアがあれば出してほしい。あと、アルベドよ。輸出する産業の候補は出来ているか?」
そう言うとアルベドは恭しく
「仰せの通りに候補は出来ております。季節の関係上、輸出するほどの量は確保できておりません」
「魔法で簡単に育ててしまうと特産品としての価値は無くなるからな。出来るだけ魔法に頼らない作物を心がけろ。これは時間がかかってもよい」
「畏まりました」
「不毛な議論を続けて魔導国に作ってきた建物が無駄になるような事態は避けたいところだ」
アインズは控えている部下達を一人ずつ眺めていく。
自我を得たソリュシャン・ダストもプレイアデスの補欠要因として平伏していた。
新しい名前が浮かばなかったのでそのままだが、ソリュシャンと交代で活動が出来て、互いに意見交換が出来る。
利点があるとすれば
アウラとデミウルゴスは引き続き自分の仕事を続けてもらって構わないだろう。
問題はシャルティアだ。
種族の特性から言って
元々、階層守護者は自分の階層を守ることだけが目的だった。それ以外のことは想定外だ。
それらに新たに仕事を与えなければならないのだから悩みは尽きない。
このところナーベラルも暇になってきている。
監督役はちゃんと続けているようだが、ほかの仕事も与えたい。
部下に何とかしろと迫っても解決策はなかなか出て来ないだろう。
支配者が困った時は役に立たない。
全てはアインズ様のお考えに従います、と言われてしまえば終わりだ。
部下にいつも丸投げしているせいもあるけれど。
会議を終えた後、モモンに姿を変えてイビルアイの元に訪れる。といっても『マグヌム・オプス』だが。
今回は忘れずにアインズ付きメイドを従えた。
「王国からの返事はまだだ。検討は続けられている、はずだ」
「それはいい。今日は……愚痴かな」
アインズは魔導国に観光客や住民を増やす案を訪ねてみた。
「自分の部下を住まわせるのではないのか?」
「自分達の部屋はあるから不用だろう」
「……そう言われると言葉も無いが……。帝国や王国の民を住まわせるならば募集をかけてはどうだ? 冒険者ギルドに依頼として張り出してみるとか」
冒険者は得体の知れない者が多いから住まわせるとなると抵抗がある。
かく言う自分が一番得たいが知れないけれど。
「まずは外部から人を雇ってみるとか。宣伝は必要だろう。帝国なども様々な流れ者が住み着いて今の国家を形成している。魔導国も亜人などを住まわせて人口を増やすとか……」
「募集か……」
「安易に国は変えられない。引越しを願うなら、それなりの魅力を見せなければならない。あと仕事だ。王国や帝国に居る将来の暗い次男、三男を受け入れる体制でも整えてくれれば少しずつ誰かは来るかも知れん」
イビルアイの言葉に頷きつつメイドにメモさせていく。
征服欲はあっても国の未来は何も考えていない、では本当にただのバカだ。
ここは恥を忍んで頭を下げる覚悟でイビルアイに意見を求めている。
「人の居ない魔導国となれば王国と経済で話し合うのは大変だろう」
「うむ。法律の制定に時間がかかりすぎてしまった。出て行く人口を無理にせき止めることも出来なかったしな」
強引な方法を取れば人口減少の歯止めはつけたかもしれない。けれども、周りの国に良い印象は持たれないだろう。
「新興国家であるから、これから発展したいと望む会談にすれば希望はあるだろう」
その為には頭を下げる必要がある、気がする。
どうか助けてくれ。または協力してくれ、と。
領土を奪ったのに。
「それより魔導国は税収が無くとも発展はできそうなのだが……。労働力は間に合っているのだろう?」
「あ、ああ。確かにアンデッドを使えば労働力は特に問題は無い」
問題は税だ。
育てる作物から金貨を得る方法が最有力なのだが、国民を働かせて活気ある国家にしたい気持ちもある。
国に魅力があれば住人は勝手にやってくる。だが、魔導国はまだ魅力を見せていない。だから、人が居なくなる。
アンデッド兵は強力だが使う人間が限定されてしまうだろう。
金の無い人間は論外。
「税の無い国にすればいいのか?」
「魅力は上がるだろう。……だが、遠い将来的には不安だな。国民を幸せにする財源を
「……む」
国民に一定の負担をさせて共に幸せを得るのが税だ。
国王が全て負担してしまえば国民は一気に堕落して破滅の道を突き進むことになる、気がした。
「……無尽蔵に金が使われてしまう、わけだな」
「当然の帰結だ。富を独占するものが居れば尚更、国は傾くだろう。王国は七割の領地を大貴族が所有していた。今はだいぶ減ったが……。それによって王個人の発言権が弱い。魔導国は今のところは国王がすべての領地を保有している、んだよな?」
「貴族が居ないから、そうなるな」
今の魔導国は国王の発言に誰も口を挟めない、という意味になる。
完全に独裁状態だ。
「土地を貸すところから始めないといけないか……」
いきなり土地は怖いので魔導国に建てている住民専用の建物を買うなり借りるなりしてもらうのがいいだろう。
ということをメイドにメモさせておく。
「土地の借用は王国側で出来そうなのが……」
「エンリか」
「そうなるな。大規模農園で経験を積んだ若き農家に貸す、という手もあるぞ。将来を見据えるなら今の閑散とした状態は織り込み済みとして呑んではどうだろうか?」
「……のむというのは、我慢しろと?」
アインズの言葉にイビルアイは頷いた。ただ、メイドは厳しい目つきを彼女に向ける。
モモンの姿のまま数分ほど黙る。
人口を増やしたいと思っていたが簡単なことではない、のはなんとなく分かっていた。
少しずつ色々なことに挑戦して増やす努力をしなければならないのだろう。
暮らせば幸せになる、だけでは大量に人は来ない。
理想と現実の差は激しく開いているようだ。
何度も唸る自分の状態に気付き、呆れてしまう。
「誰だ! 世界征服したいなんて言った愚か者は!」
施設を揺るがせる様な大声でモモンは叫んだ。
「国一つ治められない愚王ではないか! 全くけしからん奴だな!」
はっきりと言い切るモモン。
横で聞いていたメイドは驚きのあまり口を半開きにしていた。
イビルアイも仮面で隠れていたが驚いていた。
「今のは書かなくていいぞ」
「は、はい……」
「……だが、頭の痛い問題が山積しているな。都市を占領すれば国民をそのまま使えると思っていたのに」
「それは安易な考えだ。国民は危険を感じれば逃げ出す弱い存在なのだ。そして、それは責められはしない」
「……イビルアイの言葉は耳に痛い。そして、ためになる」
「ありがとう、モモン様」
世界征服どころではない。
都市一つ運営できないのに他の国のことなど考えられるわけが無い。
少し叫んだせいか、気分的にすっきりした。
「性急な課題と思うから悩みすぎるのではないか? 建国したからと言ってすぐに結果は出ないだろう」
すぐ結果が知りたいとどこかで思っているのかもしれない。
アンデッド兵によって治安は安定したし、暮らしやすい環境になったのではないかと思っていた。
法律制定の間に人々はどんどん出て行ってしまった。
それに対して引きとめることをしなかった統治者にも責任はある。
出て行くなら勝手にどうぞ、と。面倒ごとが減って良かったと思ってはいなかっただろうか。