ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
特産物が無いのに治安だけで人を呼ぶのは難しいのだろうか。
犯罪の無い国だから住んでください。労働はアンデッドが全部やります。
国民は税金だけ納めて下さい。
収入が無いのに税を納めろ、と言われて住む奴は最初から金を持っている貴族辺りではないだろうか。
改めて考えると無茶な要望を出していたのかもしれない。
無謀ともいえる。
これで人が来る方が不思議だろう。
労働を奪われた国民が逃げ出すのも無理は無い。
働けなくなれば給料が出るはずがない。
相当バカなことを考えていた気がする。
まだ手遅れではないはずだ。
「イビルアイよ。私はまだ間に合うだろうか?」
「国の運営か?」
「そうだ。人を住まわせる方法とか……」
「詳しくは分からないが……。これから計画を練る猶予はあるだろう。王国との話し合いを延期にしてもいいぞ。魔導国の発展は王国の未来にも関わるだろうから」
仮面を外して微笑むイビルアイ。
「……むしろ帝国には助言をくれる人間は居ないのか? たくさん有能な奴が居そうな気がするのだが……」
「そ、そうだな。あまりにも衝撃的なことがあってな」
「エンリと相談するなら明日、フィア殿が来るはずだから……。いや、直接転移で行けばいいのではないか?」
「後で行く。……支配者の言葉だけで国は豊かにはならないようだな」
「言葉だけで豊かになるなら色んな事を言うだろうな」
アインズはエンリの元に行こうと思った時、お供のメイドに顔を向ける。
見栄もあるしメイドにかっこ悪い姿を見せる事になる。
今でも充分にかっこ悪い姿を見せているのだが。
単独ではうまく話しができない。この場合はイビルアイに話しを通してもらうのがいいだろうか。
「……つかぬことを聞くが……。王国の国民から助言を受ける場合、何か報告義務とかあるのか?」
「無い。国民の意見交換に政治は不介入だ。冒険者は立場上、行動は出来ないが口約束程度は問題ないと思う」
「了解した。………」
今のイビルアイの言葉はメイドも書き取っているようだ。
自分は国王だから色々と不都合な部分がある。
国王が農民から助言を受けるのは実際はどうなのだろうか。いやむしろ国民が国王と対等に話す事は問題にならないのだろうか。
モモンの姿なら問題は無いか。
冒険者が農地開発の話題を振るのは奇妙かもしれない。
こういう時、確か都合の良い言葉などがあったはずだ。思い出せ、支配者アインズ。と、必至に頭を働かせる。
イビルアイだけでなくラキュースとも連絡を取るべきか。
というか王国の意見ばかり聞いているな。
本来なら帝国側に聞くのが筋だろうに。
「おお! お忍びの視察……。非公式の方か……。それならば問題は無いか」
「……国王だったな……。確かに素直にどこでも勝手に訪問は立場上、問題だろう。特に外交の面で」
「うむ」
理解の早いイビルアイは話しやすい。
これが部下ならとんでもないことも平気で言いそうだ。
全ての国はアインズ様のもの。生きとし生ける者は全てひれ伏して当然、とか。
このメイドも支配者であらせられるアインズ様を前にしてイビルアイはなぜ平伏しないのか、と憤慨しているほどだ。
そうそう、影武者役にパンドラズ・アクターが居たことを忘れていた。
モモンはそのままで奴には国王として突っ立ってもらえばいい。そうすれば外見上は偉そうにしてくれるだろう。
「非公式とはいえ他国の王が来訪する事に問題は無いか?」
「エンリのところなら……、こっそりと訪れる分には問題ないだろう。大勢の部下を引き連れていると問題になるかもしれないが……。もし、非公式で秘密裏に事を進めたいなら……、こちらの『こっそり転移』を使うと良い。あと、あえて聞くが……」
隠し部屋にある転移用の床板を『こっそり転移』と名付けている。
悪用を避ける為に一つしかない。
「うむ」
「軍事面のような物騒な話題は無いだろうな?」
「軍事……。王国に攻めるための隠れ蓑というやつか?」
そう言うとイビルアイは頷く。
確かにそういう利用法も考えられないわけではない。
だからこそ報告義務などが発生するのだろう。外交をする上で敵対行為しないと
「……カルネ村を騒乱の渦中に放り込む気は無い。もし……。カルネ村の住民を魔導国が引き取るとすれば戦争になるだろうか?」
領地を取るのではなく、移住という形で。
「難しい判断だな。戦争になるかは貴族の態度次第だが……。今の王なら止むを得ないと判断する可能性が高い。もちろん、カルネ村の村民の意思は尊重するだろう」
普通なら憤慨する会話もイビルアイはちゃんと真剣に考えてくれる。
これが貴族ならけしからん、と絶叫しているのだろう。
得たいの知れない
「だが、エ・ランテルの人口流出が激しいなら彼らの生活も大変だろう」
農産物を売買したり、冒険者相手の商売も少なくなっている筈だ。
少し遠出をしないといけない、ということは村にとっては小さくない問題だ。
日用品を買うにも数日がかりとなってしまう。
魔導国は人間の国民は少ないが品物を用意することは出来る。少なくとも食料は充分にある。
外貨は得られにくいけれど。
それらも含めて経済で王国側と話し合いをするのが目的だった。
「国の運営って……大変だな」
「大変だ。国の上層部によって振り回されるのは弱い国民なのだから、いい迷惑だろう」
「良い国にするのだから頑張らねば」
「頑張ってくれ。カルネ村の移住については王に進言してみよう。ただ、全員は無理だろうな。今まで育てた農地を簡単には捨てられない。税が納められなくなった、という言い訳をするとして……。放棄するには勿体ない」
「せっかく塀を築いて整備した村だ。簡単にはいかないだろうな」
今のカルネ村は単独の自給自足が出来る。税金もバレアレ家の稼ぎだけで実は
「もちろん、明日出て行きます、さようなら。とはいかない。管理している貴族に内緒で失踪となれば王国兵が調査に来るだろう」
「……バレたら大騒ぎにはなるな」
「魔導国側も受け入れ態勢は整えてほしい。必要な物はエンリ達と相談すればいい」
明日から来て下さい、だけではダメなようだ。
そもそも農地の用意をしていない。
家に住まわせて終わり。というわけにはいかないだろう。
「村民の居なくなる村は兵士達の駐屯地として再利用するかもしれないな。そこら辺は管理している貴族が検討するだろう」
村民を受け入れた後、魔導国で買い物したくても店が全て閉店状態。飲食店もやっていない、というのは困るだろうな。
様々な人間や亜人達を入れるにしても。
帝国から商人を招く事も検討しなければならないだろう。
物事はなかなか思い通りにならないものだ。
暮らしにくい国を作って世界征服しても幸せにはならないのではないだろうか。
やはり魔導国を地道に発展させてからでも遅くは無いはずだ。
それに魔導国は一人ぼっちではない。
竜王国とアーグランド評議国との繋がりがある。
希望はまだついえていない。
アインズはいきなりカルネ村に行く事はせずイビルアイに事前連絡を任せることにした。ついでに王国との話し合いも延期にしてもらい、様々な事を検討する道を選ぶ。
良い国を作ろうとするアインズの意見を尊重し、イビルアイは早速行動に出る。
魔導国の運命が動き出すころ、王国内では魔導国との今後の交渉についての議論が交わされていた。
急な予定変更の通知には驚いたがイビルアイが間に入り、両国の国益について考える猶予を得た事にランポッサ国王は満足していた。
「魔導国は外面は出来ていたが中身はこれから、ということか」
「新しい国の発展はこれからだと思います」
報告に来たイビルアイは平伏していた。
「延期については了解した」
「……法律の制定にえらく時間がかかっていると思ったら……。何も考えていないバカではないのか?」
と、新しく六大貴族入りしたゼイゼール伯爵は言った。
三対三の王派閥と貴族派閥の安定した組織を維持する為に任命された経緯から権力よりも捨石にされないか気になって仕方が無い。
一度戦争が始まれば魔導王の強大な魔法の餌食になってしまうのではないかという恐怖があるためだ。
もう一人のユインマン公爵も保守的な立場を取っている。
人智を超えた力に抵抗するだけの戦力が想像できない。
元アダマンタイト級冒険者であるラキュースと彼女の仲間達も鍛錬で強くなってきたとはいえ暴虐のモンスターに抗える自信は無いと答えている。
伝え聞いた情報では現れたモンスターは退去時間まで逃走するのが一般的で戦うのは無謀だという事だった。
犠牲を覚悟で散り散りに逃げる。
戦争において敗走は恥ずべきことなのだが、それしか自分達には出来無い。または出来そうに無い。
「無能も力を持てば何をするか分からないものだ」
「かの御仁の言う通り、派手すぎる魔法ゆえ我々は平穏を手に入れた。今を大切にする事を考えた方が良いのかもしれない」
王はイビルアイの報告を聞きながらヤントラの言葉を思い出す。
地味な戦い。政治的戦争は終わっていない。
帝国は軍備の増強はいつもと変わらないようだが自国の運営に力を入れているらしい。
魔法を使わせた当人ですら恐れさせる魔導王の御技。
生きているお陰で国はまた活気を取り戻そうと必死だった。
「暴虐の主が国づくりで苦悩している、というのがいまいち理解できないのだが……」
「なればこそ交渉で領土を取り返すべきでは?」
「いや、あえて運営させてみたらどうでしょう? こちらから攻撃を仕掛けない限り反撃はしない筈です。どういう事情があったのかは分かりませんが、彼らは方法を間違えた。そして、取り返しがつかない分、頑なになっている、ということも考えられます」
ナザリック地下大墳墓の支配者だと言っていた。その支配者が素直に領土を返還しようとすれば部下が不審に思うのではないだろうか。
少なくとも部下達は人間相手に媚びへつらう事はしない。恥辱と受け止められれば暴力で持って攻めてくることもありえる。
もちろん、その部下をちゃんと引きとめられるかは分からない。
「自治権を認める話しですが、彼ら異形種に素直に土地を渡す方は居ますまい。結局は武力による争いになっていると思われますが?」
「うむ。相手の実力も分からないまま兵を向ければ大惨事であっただろう。……不謹慎ではあるが、
小さい範囲というのは大貴族一つ分の犠牲という意味だ。
エ・ランテル近郊はリットン伯の領地。
自分の領地を得体の知れないモンスターに渡すとは思えない。
「あの御仁をたきつけてナザリックを殲滅すれば良いのではないか?」
「自分の故郷を滅ぼすバカがどこに居る。それに戦争に関わらない覚書は我が国だけではなく、帝国と竜王国にも渡しているという。約束を守る彼が己の
「イビルアイ殿との交渉により世界征服という夢は延期されるらしい。自国の未来を考える上では我らも協力してはどうだろうか? 聞けば真剣に考えているそうだな」
王の言葉にイビルアイは頷きで答える。
「アインズ本人は真剣に幸せいっぱいの国を作ろうとしているようです。自衛の武力は仕方がありません。その点は妥協しなければ話しが進みません」
「うむ。続けてよいぞ」
「はっ。自国の運営が初めて、ということなのでこちらから専門家を派遣してはどうかと思います。何故か帝国側の協力が得られないようなので……。小さいところからカルネ村の村長の力を貸すことを許諾していただきたいと思っております」
「帝国に見捨てられたのか?」
「あるいは魔導王に恐れて言葉がかけられない、ということも」
「……いずれにせよ、恐ろしい隣人に圧力ばかりかけてはいずれ爆発してしまいます。アインズ本人も本当は想定外だったのではないでしょうか。我々が
イビルアイの言葉にそれぞれ呻く。
もっと強い兵士であれば違った展開になっていただろう。
例えば屈強な冒険者も参加できるような戦争であれば。
戦略を立てずに数で押し切ることしかしなかった報い、ともいえる。
アインズの魔法は暴虐のモンスターを召喚するものだけではない。他にも色々と隠し玉があるはずだ。
「仮にこちらが沈黙したまま手も差し伸べないで居るとどうなるのだ? もちろん帝国も手を出さない、ということで」
人口流出で誰もいなくなり、国は自然と滅びる。
国は確かに滅びるかもしれない。けれども彼らにはナザリック地下大墳墓が残っている。自らの住処は単独でも運営できる自然の要塞だ。人間が居なくても困らない、とも聞いている。
「百年後に活動を再開されてしまうと意味がなくなりますな。相手はアンデッドです。時が味方してしまいます」
交渉できるうちに対処すれば王国の未来は少なくとも暗くはならない可能性がある。
あと、改心するかもしれない。
征服はやめて国の運営に全力を注ぐ事もありえない話ではない。
あくまで世界征服は男のロマンなのだから。
「人間を滅ぼす、という気持ちが無いので……」
「皆さん、我々もヤントラ殿と共に月に移住しますか? 少なくとも魔導王の事は考えなくて良くなるかもしれませんよ」
レエブン侯が薄く笑いながら言った。
戦争の悲惨な現場を目撃してから戦いには否定的になってしまった。
領地を奪われても魔導王とは戦いたくないと進言したほどだ。
「おそれながら、我らの敵は魔導王だけではありません。亜人や未知の敵がおります。手を取り合える相手との交渉は大事だと思われます」
「陛下……」
片膝を付いて頭を垂れるのはラキュース。
「んっ? アインドラ殿、何か意見でもあるのか?」
「おそれながら……。かの国は評議国、竜王国、帝国と交流を持ちました。残る王国との融和を進めれば敵はスレイン法国のみとなるのではないでしょうか? それにあの国は人間以外は全て敵と思っている節があります」
「つまりスレイン法国の包囲網が出来つつある、ということか」
「なんと!」
「いやしかし……。魔導王はそれを見越して我らと……」
「こちらの情報では既にローブル聖王国にも使者を向かわせたらしいです。亜人の紛争で閉じ込められているかの国に救いの手を差し伸べられれば魔導国の地位は向上いたします」
「むう……」
「確かに圧倒的な戦力を持つかの国ならば容易いことだろう」
「問題なのは侵略ではなく融和という点でございます。敵対しない限り、こちらは大義名分が立ちません。スレイン法国のようにアンデッドだからという理由で攻め込むことは無理でしょう」
「……確かに。それにスレイン法国は
「確か魔導国の者の中に
「いえ、
スレイン法国は
自ずと力関係は推し量れるだろう。
魔導国とスレイン法国は仲良くなる材料がない。
ここで王国も敵対することは無謀に近い。
「魔導国は国としては未熟かもしれませんが潜在的な力は未知数でございます。国の発展を思うなら手を差し伸べる用意を整えた方が……」
「敵の懐に飛び込む勇気が必要な時もあるだろう。カルネ村に……、使者を送るとしても誰が良いのだろうか」
「親書をしたためてくだされば私がバレアレ家の者に渡します」
「おお、そうか。では、それはイビルアイ殿に任せよう」
王は満足したように頷く。
「武力以外の地味な戦争か……。これはこれで強敵であるな」
特にアーグランド評議国と交渉の席を持ったところが。
竜王国は帝国の同盟国だから不思議は無いが、かの
交渉術においても魔導王は優れているのかもしれない。
「人口の流出により経済が破綻するものなのだが……」
「破綻するのは人間の経済であって、ナザリックの経済は磐石だと思われる。エ・ランテルを豊かにする気持ちはあるようだし、他の都市も受け入れが大変なのではありませんか?」
「うむ。急な受け入れに対応するのは難しい」
「遠い将来だと願いたいが、周りの国々を併合していった時、経済で困るのは我々の方かもしれません。相手の出方を伺うことも必要かと存じます」
魔導国は使いようによっては農産物の確保に優れる可能性がある。
外敵に対しても充分な武力を有している。
「別個の国として存在している限り貨幣の価値は安泰かと。魔導国は外貨を必要としているようですが、下手に属国などになっては後の世界が混乱し、おそらくは一般市民が大打撃を受けるのではと愚考いたします」
貴族も困るかもしれないけれど、市民生活が一番の影響を受けるのは間違いが無い。
それがどのような形になるのかは分からないけれど、嫌な予感はする。
「猶予があるうちにお互いを知ろうではないか」
「得体の知れないアンデッドを討伐する方が世界にとって有益ではないのですか?」
勇気ある疑問を投げかけたのはユインマン公爵だった。
「その有益の為にどれだけの犠牲が出るのか。考えたくは無いな……」
魔法一つで十万人が犠牲になった。
まだ実力が未知数の部下達が控えているナザリック勢に王国が太刀打ちできるとも思えない。
少なくとも帝国も戦場に現れた化け物に対しては恐怖を感じていたと聞く。
戦争を仕掛けるのは人類の希望が断たれる時くらいかもしれない。
そんな状況は知りたくない、と王を含めて戦場に赴いたことのある者達は思った。
「
ラキュースの言葉に王は唸る。
「かつて世界を支配し、蹂躙の限りを尽くして多くの
「短絡的に討伐して手痛い反撃を受けるのはユインマン公爵だけで勘弁してほしいものですな」
と、嫌味を言うレエブン侯。
頭の悪い者と同調するのは嫌だという表れかもしれない。
ラキュースも苦笑する。
「魔導王自ら交渉したいと言っているのだから。それを武器で対抗するのは頭の悪い者の所業よの」
「……しかし、その交渉に村の村長を当てるのは……。大丈夫なのですか?」
「魔導王と顔見知りでもある。知らない仲ではない」
カルネ村の村長エンリは王も伝え聞いている。
知らないのは新たな大貴族入りしたゼイゼール伯爵とユインマン公爵だ。
「進捗状況については私がお届けします。もちろん、各貴族の皆様にとって納得できないこともあるやもしれません。それから秘書官をお貸し下さい」
「うむ。あい分かった」
「交渉と言っても王に直々に大きな取引をする意図は無い様なので、しばらくは様子見で構わないと思われます。……あえて言えばカルネ村をよこせ、ということがあるかもしれないくらいです」
「……確かに」
王は納得して頷いた。
「だが、そのカルネ村も我が国にとって大切な存在だ。多少は抵抗させていただかなくてはな」
「譲渡ではなく貸与という形で妥協させてはいかがでしょう? これも交渉で決めるべき事柄と存じますが」
「良い案だ。イビルアイ殿一人で何かと苦労をかけておるな。それぞれの派閥から秘書官を一人ずつ選出し、補佐に回せぬか?」
「では、選出方法について改めて議論いたしましょう」
リ・エスティーゼ王国は静かに魔導国と経済で争うことになった。
物流によって利益をどの程度得るのかは各国がしのぎを削る問題である。
経済発展する魔導国からどの程度の利益が生まれるのか、当然調査しなければならない。
敵国だからと一方的な敵視政策は不健康だ。
スレイン法国とは違い、魔導国は悪意を持って国を落そうとは思っていない。
少なくとも魔導王は手を差し伸べる用意を整えてくれる。
あくる日には国の許可を得たエンリがアインズ・ウール・ゴウン魔導国を訪れる事になった。
王国の代表という大層な体裁を抜きにしても良いとイビルアイから説明を受けた。
アインズにとってエンリとンフィーレアは信頼厚い友人の一人である。
帝国からも数人の役人が訪れて合同で国の発展を討論することになった。
難しい話しはンフィーレア達に任せ、アインズはまずエンリに手に入れた広大な平原の開発を相談する。
「人を呼びたいところだが売る品物が無い。アンデッド兵を貸す事業とて買い手との交渉をするにもわが国には、その人材が不足している」
帝国に試験的に貸しているが貴族の護衛の仕事自体少ない。
厄介な貴族を皇帝が粛清しているせいもある。
「広大な土地を全て麦畑にするのは果たして正しいのか、専門家の意見が聞きたい」
「麦だけでは国民は養えません。家畜や野菜類も豊富に育てるべきです。水源はどうなっていますか?」
「トブの大森林から新鮮な水源は引いている」
森林以外からも水源は調達している。いざとなれば第四階層や魔法で出す予定だ。
ただ、魔法で出す水というものは一定時間が経過すると消えてしまう。蒸発とは違うので土地の為にならない可能性がある。
浮遊都市『エリュエンティウ』から降り注ぐ水で砂漠化が解消されないのは魔法の水だから、という原因があるかもしれない。
「王国では麦はどこの村でも作っています。同じものを作っても利益は出ないと思われます。こちらの麦を売る代わりにそちらはこちらでは作れないものを作った方が良いかと」
「そうか」
全ての国が全部麦であるなら値段に差が出ないだろう。
特殊な製法でも開発しない限り。
エンリは投げっぱなしにはせず、候補を提示してきた。
「土地や気候に合わないものは育てにくいです。大規模農園を想定しているなら新たな野菜類などはどうでしょうか? 鮮度を保つのは難しいのですが。そちらの第五階層は氷の世界と聞きました。そこを食糧貯蔵庫として使用できれば四季を通じた備蓄も可能になるのではないかと」
事前にエンリに言える範囲の情報は提供していたが、確かに敵の迎撃ばかりでは宝の持ち腐れだ。
というか、エンリは知らないが大量の死体も冷凍保存されている。
主に帝国で逮捕された犯罪者と王国で秘密裏に捕まえた『八本指』の残党だ。
他にも竜王国の支援で手に入れた
あと、デミウルゴスが死なせてしまった人間など。
「野菜か……。豆類なども育てられるのだな」
「はい。土は耕さなければなりません。ただ、これだけ綺麗な平原を畑にするのはもったいないと思います」
「事前に開発用の土地は選定している。いきなり大規模に開発はしないさ」
そう言うとエンリは安心したようだ。
土地全てをいきなり畑にしてしまうと後々別の利用法を思いついた時に困った事態になりそうだ。
少しずつの開発で様子を見るのが賢いやり方だろう。
目先の利益に走らず慎重に行動する。それが魔導王アインズとしての本来の姿だろう。
第六階層でも畑の製作は続けられている。そちらは果樹園などになっていた。
「ヤントラさんのところで作られている農作物もこちらで育ててみてはどうでしょうか?」
「奴のところのか?」
機嫌が悪くなることを分かってあえて言ってみた。
国の発展のためを思っての発言だ。
「あの人が作っているのは全て自分で消費するものばかり。販売はほぼしません。ゴムなどは帝国にも売れると思いますけど。工業製品として」
「う~む。個人で消費しているとはいえ……。あっ、だから、いいのか……」
「必要な書類はンフィーに用意してもらいますが、どうです? 挑戦してみては」
その書類はおそらく王国語で書かれているだろう。
今はだいぶ文字が読めるところまで来ているが専門用語はまだ不安が残る。
「ゴム以外にも販売できそうな作物を作っているのか?」
「販売出来るかは、これから確かめなければいけませんけど。様々な場所にあったものを土地が変わっても育つかどうかの研究をしてきましたので。変なものはありません。ちゃんとンフィーが監修しております」
土の状態や水のやり方など。
細かい項目はあるけれど、出来た作物は味見もしている。もちろん毒物は除く。
ルリマリスも協力してくれるようになった。
「向こうは実験ですから規模は小さいです。こちらは大規模に出来ますし、研究を許してくれればもう少し幅広く出来るかもしれません」
納豆の製作にも挑戦した。
発酵食品も販売できるようになれば新たな市場が開拓できるかもしれない。
それには人材が必要だ。
「申し訳ないのですが……。畑仕事にアンデッドはあまり相応しくありません。彼らに出来ることは疲労しない単純作業だと思います。生き物を相手にする仕事は毎日の気配りが大事です。温度変化で野菜はダメになったりします」
「うむ。それは耳に痛いことだ。確かにアンデッドにも出来ないことはあるだろうな」
複雑な命令が理解できなかったりするし。
自分で考えて行動する事が出来ない。特にNPC以外は。
土を耕すことはアンデッドでも出来るだろう。問題は実際にどこまでできるかだ。
「人を募集する前にいくつか作って見ましょう。それから募集をかけても遅くは無いと思います」
「頼もしいな、エンリは。聞いた話しではいくつかの村で指導する立場になったそうじゃないか」
「ゴウン様とヤントラさんのお陰です」
まず人を集めるところから、と思っていたが何も無いままでは人は来ないものかもしれないと思い、エンリの意見を採用することにした。
土を
輪作と呼ばれる方法も教わり、様々な作物を育ててみる事にした。
大量生産は土台が出来てからでも遅くは無い。
ンフィーレア監修によりゴムの木をたくさん植えてみたりする。
王国と帝国から人材を募り、護衛にはそれぞれの冒険者を使ったりアンデッド兵を用いたりする。
自国民は少なくなったけれど他国からの訪問客のお陰で一日一日と人が増えていく。
宿泊施設や飲食店も招き、数日間の様子見を続ける。
最初から揃った状態で国が発展するものと思っていたアインズは見込みが甘かった事を痛感し、反省する。
丸ごと買収すればいいという安易な発想は危険だ。
通常なら会社を買収すれば社員も自分のものに出来る。だが、今は都市を人員ごと手に入れたが殆ど逃げ出してしまった。しかも、自分たちは彼らを引きとめず、危機感も持っていなかった。
人員はやはり国の発展には欠かせないものだ。
恐怖政治ではダメなのだろう。
もちろん、力による圧力は余計な敵を生みやすい。だからこそ、幸せな国を作ると宣伝したのだが、人々には通用しなかったようだ。
途方にくれていた魔導国をエンリ達の協力で再出発させることが出来た。それは素直に嬉しかった。
出来た作物の販売はアルベドに考えがあるようなので任せてみることにする。
「販売できるほどは集まっていないのだが……。売るあてはあるのか?」
「それはもちろん。何人かの協力者を見つけてあります」
「買い手がつかない暴利ではないだろうな? 安すぎても困るぞ」
「それは心得ております」
「エクスチェンジ・ボックス用のものとは別だな?」
「はい」
「よし。作物についてはそれぞれに一任しよう。エンリ達への褒美も考えなければな」
貨幣制度については王国と帝国、竜王国からも専門家を招いて協議が
新貨幣の製造は簡単ではなく、価値基準もバラバラになる可能性がある。
今現在は王国と帝国と交金貨の三種類を併用する形なのだが、統一通貨にしたいのがアインズの要望だった。
候補としては交金貨を魔導国の基軸通貨にする案だ。
新しい貨幣を作らないで交金貨を増産する方法が手間がかからない。
新貨幣の価値が馴染みの無い者だと使いにくい。ただ、貿易面では色々と有利になる事がある。
他国よりも貨幣の価値を下げすぎると抗議が来る、とイビルアイとエンリに言われてしまった。国に有利に働かせる事はなんでも抗議が来るものだと教わる。
自分達の通貨の価値を調整し、有利に利益を得られる事もやろうと思えば出来る。
今はそこまで賢くは出来ないけれど。
あくどい商人に騙されて貨幣が暴落しては困る。それこそユグドラシル金貨並みに。
今のユグドラシル金貨は通常金貨の一万分の一が相場のようだ。物質としての価値は二倍なのに。
そこが経済の難しいところだ。
新貨幣を作っても普及しなければ子供銀行券のようなオモチャと変わらない。
あなたの国の貨幣はこの国では使えません、と言われたらアウトだ。
ヤントラは魔導国の活発な動きに対して傍観を決め込んでいた。
イビルアイとンフィーレアが協力しても文句は言わない。
強制しているわけではないし、自分の判断に従っていいと思っている。
「……アインズは私と同じなので、こちらの書類を渡すといい」
「はっ? なんで?」
ヤントラの言葉にイビルアイは首を傾げた。
「もともと王国でも帝国の人間でもないからだよ。内緒だぞ」
という言葉にイビルアイは総毛立つ思いを感じた。
完全に失念していたからだ。
アインズは王国語を理解していると。
「……そうか、そうだったな。なんで気付かなかったんだろう……」
「君達はそのままで構わない。魔導国に関して気になる事はあるか?」
「ん……。そうだな。国民を呼び込む方法だろうか。各国から旅行者を招くことは容易いが……。国を変えるのは難しいだろう。生活に困っている者とか候補は挙げているのだが……」
帝国には落ちぶれた貴族がたくさん居る。
彼らは過去の栄光にしがみついているのでプライドが高い。
貧しいものは犯罪に走る傾向にある。
「まず戸籍制度から整えていく方がいいだろう。それで他国との差別化を計る為の措置を検討させる」
「うむ。小さなところから始めることは大事だな」
「武力から経済で戦争する。これも立派な戦いだ」
「ご主人としてはこちらが望みだったか。確かに血は流れないな。頭は痛くなるが……」
吸血鬼なのに、と。
地味な戦争とはいえバカにできない。
知恵をつけ始める相手は後々厄介な仕返しをしてくる。
力を除けばイビルアイから見てアインズは素直で優しい王様に見える。
傲慢な姿は支配者としての立ち位置だから仕方が無い。けれどもエンリと話す魔導王は一人の生徒だった。
それは演技なのか素なのか。
メイドにメモさせているとはいえ、細かい疑問もちゃんとぶつけている。
そこに悪意は感じられない。
強大なアンデッドが持つ特有の邪悪さというものが無い、とも言える。
アインズ・ウール・ゴウン。
とても不思議な人物だった。