ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
本来は倒すべき邪悪なアンデッドのはずが日を追うごとに様々な人物に囲まれる事態となっていった。
領土を奪われた王国にとっては仇敵であるはずなのに様々な人材を差し向けて国の発展に寄与している。
恐れていた帝国も経済支援をするようになっている。
カッツェ平野を利用したいのだが、こちらは冒険者育成の場所にする予定だった。
アンデッド反応を出す空気が充満するので作物を育てる場所としては相応しくないとか。
魔導国に大衆浴場を新たに作り上げているので労働を終えた人間はこちらを利用している。
ナザリックの大浴場を再現するのは今の段階では難しいらしい。
よそ者を待つより、まず自分たちが引き入れた亜人や
地下に隠れて住まわせる必要が無いように取り計らう。
先に建物を作ってしまったが種族に適した住処というものがあるらしく、人間の邸宅は身体に合わない問題が発生した。
差別無く様々な種族の調和とかかっこいいことを言っていたアインズは頭を抱える事になる。
口で言うほど簡単ではないと。
まず
今はまだ居ないが
虫系は食料の問題を除けば森の方が住みやすいだろう。
蜂系は花が無いと困るだろう。
四季の都合もあり『
「理想は理想か……」
実際にやってみて色々と気付かされる。
自分のやろうとしていることの難しさを。
ナザリックは様々な種族に対応できる柔軟性があるから平気だった。特に階層ごとに属性が違ったり。
第四階層守護者のガルガンチュアなど
無理に住まわせる必要は無いけれど、つい考えてしまう。
「……アルベドよ」
「はっ」
「……最初に全て作るより一つ一つ考えてから作った方が良かったな。いくつか無駄になってしまう気がする」
「不要な建物はすぐに撤去いたします」
どう考えても人間が主体の都市構造だ。
エ・ランテルはその点では優れているのだが、魔導国はそれよりも発展したものを想定していた。
無駄な労力ともいえる。
「これが
様々な種族を住まわせるといっても貨幣を扱えない者ばかりでは経済が働かない。
至高の四十一人のように全てがプレイヤーならば
この世界のモンスターは本当の意味でモンスターだ。貨幣の使い方など教えても無駄な気がする。
地上にナザリックの各階層を再現するのも怖い。特に第七階層は溶岩地帯だ。
「都市は人間にこそ相応しい場所なのかもしれないな。他の種族には住みにくいところは否めない」
ヤントラの施設は最初から住まわせる気が無く、モンスターは全て保存容器の中と割り切っている。
そういう思い切りがアインズにも必要なのかもしれない。
時間をかけて理想を現実にすればいい。最初の一歩は小さいものだ。
少なくとも一部の亜人も住めるのだから、少しずつ変えていけばいいだろう。
「あの宙に浮いているのは何ですか?」
「見張り台だ。それほど大きくは無いが物置にも使える代物だ」
六面を
周りの支援も悪い気はしない。
数日も過ぎれば良からぬやからが現れるのも道理。
魔導王の力を傘にして権力を振りかざす者。
知らない貴族が面会を求めたりする。特に帝国は現皇帝をよく思わない元貴族などが多い。
かつての栄光にすがる
資金力は乏しい。それは魔導王自らも認めることだ。
大半はモモンとして稼いだものなので仕方が無い。
税などを徴収できるようになれば国庫として潤ってくるだろう。
その為には多くの作物などの輸出業を充実しなければならない。それと同時にユグドラシル金貨の安定供給も整えなければならない。
高い山の上に玉座を置いて下界を見下ろすだけならバカでも出来る。
命令するだけで全てが解決する。それは一見、素晴らしい事のように思えるが椅子に座るだけの簡単な仕事が支配者というのは味気ないだろう。
支配者は何もしなくていいんです。部下が全てやりますから。
つまり介護老人のような感じになる。
はいはい、さすがはアインズ様。朝ごはんはもう食べたんですよ。
そんな幻聴が聞こえてきた。
「アインズ様?」
「魔導王は介護老人ではない!」
怒りのオーラが吹き出た。
わけも分からず部下達は一様に平伏していく。
周りで作業していた人間達は慌てて手を止めていく。
「アルベドよ」
「は、はいっ」
「私は支配者か?」
「その通りでございます」
「椅子に座るだけの支配者か?」
「い、椅子に……。え……」
アインズの言葉が理解できなかった。
必至に言葉を探すアルベド。
「つまらん」
「はい?」
「つまらんと言った。椅子に座るだけならパンドラズ・アクターでも出来る」
支配者という役職に文句は無い。ただ、それから先が無いのが問題だ。
毎日、さすがはアインズ様と言われるだけの仕事は飽きる。
様々な研究や勉強がしたい。
魔法の研究も。
知識欲はあるのだから。
敵が居ないせいで戦略を立てる楽しみが失われている。
頭脳労働は確かに苦手ではあるけれどやりたくないわけではない。政治や経済が苦手分野なだけだ。
「大事な用件でもないかぎり玉座に座るのはやめておこう。国の未来の為に私も服を汚そうではないか」
「はっ? そ、そんな……。アインズ様が土ぼこりにまみれるなど……」
「良い。良いのだアルベド。良い支配者は民間視線で物事を見る事も大事だ。大事な国民を大切に出来ない支配者にはなりたくない」
エンリ達のお陰で活気が出て来たのだから。
ジルクニフも行事を大切にしている。時には村に訪れて一緒に田植えをすると聞いた。
ランポッサ国王は身体に無理の出ない範囲で各都市を巡っているという。
国の頂点に居る者は民を気にかけて当たり前だ。
世界征服などすれば全ての都市を回るだけで一年などすぐに経ってしまう。というか、ただグルグル回るだけになる可能性がある。
例えば五年に一度の大行事にする手もあるだろう。
「さすがに大切な行事に着るものまで汚すわけにはいかん。汚れても良い簡素な服を用意せよ。無ければ作れ」
「みすぼらしい服装は……」
「私はそれ程派手好きではないぞ。もちろん、護衛はつけよう。正直、敵に手の内を見せるような装備は身に付けたくない」
「は、はい。畏まりました」
「アルベドも行事以外は地味目で構わないだろう。洗濯など大変ではないか?」
「お気遣い感謝いたします。……ですが、女は着飾ってこそ価値があるものですので」
「過剰な化粧はお前の本来の美しさを損なわせてしまうのではないか?」
そう言われてアルベドは頬を赤く染める。
アインズも今の言葉は適切だったと思った。
女性を気遣う心もあるというところは見せたいので。
かといって浮浪者のような汚い格好はさせたくない。
守護者統括という任についているのだから安易に粗末な格好は出来ないかもしれない。その辺りの調整は男性であるアインズの苦手分野だ。
アインズには考え付かなくても貴族のラキュースならば適切に衣装を選んでくれるかもしれない。
正直、自分の部下達。特にメイド達は派手好みだ。
地味目の服もあるのに選んでくれない。
コキュートスは例外としてもアウラ達はいつもの装備のままだし。こちらの方がどうにかしなければならないのではないか、と思う。特にアウラは女の子だ。
いくら『ぶくぶく茶釜』が男装をさせたとしても。
マーレは可愛いから、いやダメだろう。
おい、ぶくぶく茶釜。テメーの子供の成長に責任を持てよ、と言いたい。
ピンク色の
制服であるメイド達のメイド服も四季にちなんだお色直しをさせたい。
年中、厚い雲に覆われた毒の沼だった頃のナザリックではないのだから。
ここは様々な花が咲く美しい世界なのだから。
雪が降り積もる中でも畑では作業が続けられていた。
四季を通じて温暖な作物育成の出来る建物を造っておいたので寒さは軽減されている。
人はそれを温室と呼ぶ。
密閉してしまうと一酸化炭素中毒になって大変、とシズ先生の指導の下、安全に作業できるように作られている。
アインズも知識としては知っているのだが原住民に最新技術を教えるのには抵抗がある。特にシズは
機械技術がある程度、普及しているのは二百年前に現れた『口だけの賢者』によるものだという。なので多少の公開は大丈夫そうだ。
魔導国の開拓は続けられているのだがエ・ランテルも忘れてはならない。
多くの人材が行き交うようになり、出て行った住民の一部が戻ってきた。
それは王国のお陰もあるだろう。奪われたとて城砦都市エ・ランテルは潰すに潰せない要所。敵の手に落ちても有効活用されなければ、なんか勿体ないと貴族達の言葉に人々は動かされた。
広い墓地は今でもアンデッドモンスターが現れる。
銅プレートが特訓するには打ってつけの場所だ。
自然発生では時間がかかるのでナザリックの中で自動的に湧き出る低位のモンスターを送り込む。
間違って強いモンスターが混じる事もあるが、それは
モモンの時以外のハムスケは特訓くらいしかやることがない。
武技も随分と扱えるようになったのでオリハルコンかアダマンタイト級より少し強い程度にはなっているだろう。
「恐怖心に打ち勝つでござるよ!」
「はい!」
死なない程度に鍛えるように言ってある。
弱い奴は死ね。というのでは人材は育たない。
腕がもげる程度は想定内だ。
出血多量で死なないように信仰系の見張りも置いている。
そんな特訓をよそに魔導国の支配者はナザリック地下大墳墓の玉座の間にてデミウルゴスと対面していた。
「征服もいいのだが、自国も満足に統治できないのは面白くない」
「はっ」
片膝を付いて拝謁の姿勢のデミウルゴス。
「当初の予定とは違うが良い経験だった。国が発展していくのは気分がいい。外に偵察に向かわせている者に変わりは無いか?」
「特に異常はございません。対処できぬ敵の存在もありません」
「情報は宝だ。無理に対処しようとは考えるなよ。砂漠方面にメイド達が居るそうだが、その辺りには集落や都市などはあるものか?」
「スレイン法国より南には集落の影はなく、廃墟が点在するのみでございます。海沿いにいくつかあるかもしれませんが、そちらはまだ未調査でございます」
「うむ。ただ、これからは冒険者を向かわせる予定なのだが気になる拠点は事前に報告してくれ」
「畏まりました」
「空中都市『エリュエンティウ』はこちらから手を出さなければ何も起こらないだろう。場所が場所だけに監視は難しかろう」
砂漠地帯の中心部付近にあるらしく、並みの冒険者では近づくことが難しいと言われている。
その都市には三十人ほどの都市防衛の守護者が居て、とんでもない強さを持っているという。
今は情報収集のみに限定し、機会を見て近づくことにする。
「砂漠地帯の近くで作業しているメイドの仕事の邪魔さえしなければ東方面の森の調査も行ってよい。奥は毒を持つ植物に覆われて視界不良と聞く。それと少し強いモンスターが出るらしい。もし、捕まえられるならば数体でよいから持って来い。集落は見つからないようだが深追いは禁物だ」
「直ちに行動いたします」
そう言ったデミウルゴスを手で制する。
「慌てるな。ここまでで世界の全体の四分の一、または十分の一ほどかもしれない。我々が思っているよりも世界はもっと広いかもしれん。慎重に進め。進むごとにモンスターの強さが上がるかもしれんから」
「仰せのままに。……ですが、慎重のままで良いのですか?」
「慌てても面白くないではないか。急ぐ用でもあるのか? 我らは長命なのだぞ。一部は除くが……」
「人間の部下も居るので事は急いだ方がと……」
「言いたい事は理解出来る。だが、急ぎすぎるのはつまらん。シャルティアのように焦ってばかりで大失態に繋がっては困る。そもそも階層守護者を前面に出すのは失敗だった。だからこそ、冒険者を前面に出す計画を始めたのだ。裏切られても心が痛まない連中だ」
多少の武器という投資で大きな成果があれば良し。無ければハムスケの特訓相手にでもすればいい。
ヤントラが
未知の能力を勝手に持つより対処がしやすい。
「それにデミウルゴス」
「はい?」
「我々が大人しくしている間に同盟国やら交流を深める国が増えたではないか。武力による制圧ではなく平和的に。頭の悪い支配者には出来ないことだぞ。敵を作らず味方を増やすのは」
気がつけばスレイン法国を包囲している。
人間以外は全て敵、という国とは正直、仲良くできそうにない。
つまり仮想敵国となっている。
「聖王国とも仲良くなれば竜王国と敵対する他の六大国も手中に収められるかもしれない。相手は
居なければ彼ら亜人の国に勝ち目は殆ど無い、という意味にデミウルゴスの耳には聞こえた。そして、身体が震える。
自分の主の偉大さが少しずつ伝わってきているためだ。
「……おそれながら、同盟関係はいずれ崩れるおそれがあるのでは?」
「んー、そうだろうか。敵対して利益が得られる材料があれば壊れるだろう。無ければ維持される。彼らが我々よりも強い軍事力を持っているなら見てみたいな」
ドラウディロンの魔法は百万人の犠牲が必要らしい。
階層守護者は確実に倒されてしまうかもしれない。けれども、ナザリック全体の被害はそれほど大きいとは思えない。
復活に必要な資金はそれなりにあるし。
リスポーンキルは通用しない、というかしにくい。
存在抹消系の
「同盟にあるうちに情報を集められるだけ集めてしまえばいい。制圧して国だけ貰っても秘密が分からなければ意味が無い」
「それは……、部下達に調査させればいいのでは?」
「罠避けにか? 大事なアイテムごと吹き飛ばすようでは困るな」
「も、申し訳ありません」
「よいよい。人材は生きた情報だ。友好関係を築いた方が楽なこともある。無理に捕まえて精神支配した事によって変な罠が発動して自害されては困るからな」
「おっしゃる通りでございます」
精神支配は万能ではない。かける毎に効果は薄くなる。
条件によって自害されることもある。
特定のキーワードに反応したりするものは厄介だ。
「さて、デミウルゴスよ。性急な計画ではない事に不満を感じていることだろう」
「い、いいえ、そのようなことは……」
「この世界をゆっくりと楽しみたいのだ。世界征服を完了したからと言って冒険が終わるわけではないだろう。未知の敵は百年毎に現れるという。ならば百年毎の長い計画を立てても罰は当たらないだろう」
「アインズ様に罰など……。この世界の神であっても……」
「いやいや。至高の四十一人ということもありえるわけだ。私としても他のプレイヤーと交流を持ちたいとは思っている。敵なら倒すだけだ。仲間が多ければ賑やかだが……、退屈はしないだろう」
慎重に行動するのは大事だが亀の如く歩みを遅くしろ、というわけではない。
警戒を怠ってはならない事は言い含める。
「デミウルゴスのところにどんなモンスターが居る? 聞いた話しでは
「はい。
「それらで脅威のものは……、居そうか?」
「亜人達の中で突出しているモンスターは居ないかと……。南下すれば蠍型のモンスターが現れるというのは聞いておりますが、我々のところまでは滅多に現れないようです」
「分かった。それらのモンスターが冒険者の前に出ても丁度いい相手となるかもな。勝手に行く者は無視して構わん」
「畏まりました」
「お前に不自由を強いて悪いと思っている」
「なにをおっしゃいます、アインズ様。あなた様の為に働けるだけで幸せにございます」
「あまりナザリックから遠ざけているようで心配でな。お前自ら遠出すると心許ない事が良くある。シャルティアの件もある。充分に気をつけるのだぞ」
「ははっ。勿体なきお言葉に存じます」
「……ところでもう一つ……」
「はい」
「複製……の子供達か。それらに異常な兆候は現れたか? 万一ということがある。今の内に得られる情報は控えておきたい」
「はい。ご懸念されております異常な兆候と思しき事態は起きておりません。身体の変質。進化のような成長など。寿命に関しては今のところ老衰は確認できませんが、急な老化などを起こした者は居ない模様でございます」
「実験内容によっては命を落とす事もあるだろう。死んだ後の内臓の様子は調べたか?」
「
「うむ。それは後で執務室で吟味しよう。解剖によって毒ガスなどは発生していないな? 生物特有のガスは仕方が無いが……」
「アインズ様は本当に細かいところまで心配されるのですね。その繊細さを少しでも見習いたいところでございます」
「油断は小さなところから生まれる。じわじわと広がる脅威は恐ろしいものだ。プレイヤーだけが敵とは限らないのだから。未知の病原菌とかな」
「毒に絶対の耐性を持つアインズ様でも気がかりなほどでございますか?」
「もちろんだ。その絶対耐性は無敵ではない。シャルティアの件で少し過剰反応しすぎなところがあるかもしれない。だが、将来を考えれば対処できる事に全力を尽くすことは必要だ。後悔しないためにな」
「さすがはアインズ様。油断無きよう全力で勤めてまいります」
「うむ。……少し説教臭くなってすまないな。では、引き続きよろしく頼むぞ」
「畏まりました」
恭しく頭を下げた後、デミウルゴスは持ち場に戻っていった。
次に現れたのはアウラだった。
「アウラよ。相変わらず、その格好か」
「こ、これはぶくぶく茶釜様から頂いた大事な勝負服なので」
「ずっと同じものでは……。舞踏会や披露宴などにお前を連れて行けないではないか。ぶくぶく茶釜さんには悪いが他人の目を
「え~っ!? ご、ご命令なら……」
「う~む。出来れば……、強制はしたくないな。まあよい。それより森の調査、ご苦労だった。そろそろスレイン法国の領内であろう?」
「はい。一通り調べは終わりました」
「
「三日月湖という湖の近くに
「
「見た限りでは……、居ませんでしたね」
そう言うとアインズはがっかりしたようだ。それはアウラの仕事に失望したわけではなく、アウラの為に見つけたかった種族が居なかった事に対する失望だ。
「消去法でいえばスレイン法国に精神支配のアイテムがありそうだが……。真っ向勝負は危険だろうな」
「あたしがちょっと行って持ってきましょうか?」
「こらこら。シャルティアの二の舞になるぞ。それにまだ他に隠し玉があるかもしれん。不用意に近づくな、いいな」
「りょ、了解しました」
口を尖らせて返事を返す。
アインズはアウラを手招きする。
「機嫌を治す褒美をやろう。膝に座るがよい」
「えっ!? いいんですか!? やったー!」
喜び勇んでアウラはアインズの元に訪れる。ただし、飛び乗るような失礼なことはしない。
ゆっくりと尻をアインズの膝上に乗せる。それだけで幸せいっぱいの表情となる。
アインズは落ちないようにアウラの背中を支える。
「単身での任務、ご苦労だったな。物品の褒美が思いつかないのだが……。ナザリックにある宝であげられそうなものが思いつかなくてな」
「い、いいえ。アインズ様のお優しいお気持ちだけで……。こうしてお近くに居られるだけでも幸せですよ~」
アウラの顔が
もし、この場にアルベドが同席していたら女の修羅場が拝めるだろう。
現在、アルベドは食料の取り引きの相談の為に留守にしていた。
「そうそう、アインズ様。膝の上から失礼します」
「ああ、構わんよ」
「あたしの複製があるとして、
「いいや。というか、アウラはどうなのだ? 自分の複製というものについて。嫌なら処分してもらうか、破壊しておくぞ、施設ごと」
「ん~、それが……。悪さしているわけじゃないみたいだし。あたし的にはどんな使われ方をしているのか見た上で判断したいな、と……」
「……寛容だな、アウラは。私は部下の複製が異種交配というだけで怒りが湧くというのに……」
「でも、複製ですからね。オリジナルに影響が出るっていうならあたしでも怒りますけど。任務中は特に気分が悪くなったりしませんでしたし、精神的なリンクは繋がっていないみたいですね」
「……冷静なアウラが羨ましいぞ。私は冷静ではいられなかった。ナーベラルは自害しようとするし」
今は安定しているのか、自害をしようとしないので安心している。
女体モンスターということだから女連中はほぼ被害者。
聞いたところではセバスとツアレも犠牲者だという。
「召喚モンスターだと思って……」
「そう簡単に割り切れたらどんなに楽だっただろうか」
「心配してくださってありがとうございます。……もしあたし達が複製で信用ならなかったら……、この首を遠慮なくぶった切ってください」
アウラはアインズの膝から降りて片膝を付く。
「至高の御身に忠誠の証しとして、いつでも処分される覚悟を持っております」
「簡単に処分はしたくないがな」
「あたしも大人になってナイスバディを見せるまで、死にたくないですけどね」
子供らしい輝く笑顔を見せるアウラ。
「そういえばアインズ様」
「なんだ?」
「複製を製作できるのはバスパ様だけですか?」
「技術と方法があればナザリックでも出来る、というのは分かっている」
「いえ、現時点で実践している者です」
「奴……だけだ。もちろん、分かっている人間では、な」
「犯人が分かっているならバスパ様が別の存在に伝授しない限り、今は、仲間内で偽物騒動は起きにくい。という認識でよろしいでしょうか?」
「う、うむ。そうなるだろうな」
うっかりナーベラルで失敗した時の事を思い出した。
複製は運用するには危険な代物だ。気軽に扱えない。
一部の容器はナーベラルですら見る事が出来ないという。というか、アウラ達の入っている容器というものを見た、という報告は聞いた覚えが無い。
確認されているのは戦闘メイド達。
各階層の高位モンスター。
後は何が居ただろうか。黒い仔山羊は肉片状態だし。
一般メイド達も見回りで色々と見ている筈だ。
封印された部屋というのが鍵なのだろう。
「封印された部屋はそのままがいいのだろうな」
自分の複製は見た、という話しは聞いた事がある。
管理が徹底されていれば問題は無いだろう。ナーベラルでさえ防がれるのだから並みの盗賊では歯が立たないだろう。
少なくとも保存液が満たされている容器を持っていく場面が浮かばない。
持って運ぶだけでも大変なはずだ。重さを軽減したとしても大きさは変化させられない。
『
聞いた話しでは全ての部屋の点検はちゃんとしているということだった。
自分の施設だ。無くなれば気づくだろう。取られても平気なものは分からないかもしれない。
「偽物を送り込んでナザリックを混乱させる敵なら脅威だろうな。だが、複製でも出来ないことがある」
「この装備までは一緒に増えない」
「そうだ。シャルティアのスポイトランスがたくさんあっては困る」
『魔槍ゲイ・ボルグ』という槍を量産することが出来る、とイビルアイに聞いた時は驚いたものだ。
種族によって装備ごと出てくるものが居るらしい。
報告書では子供時代の無いモンスターに多い。
ただ、それは複製ではなく妊娠によるもの、だった。ただの複製では装備は増えない、だったはずだ。
アインズが目撃した全裸の女性モンスターは少なくとも装備品は持っていなかった。当たり前だが、当たり前ではない事が起きるのが、この世界。
一番大事なことは複製を操れるのは精神支配系の魔法を除けば限られてくる、ということだ。
魔法の場合はダメージを与えたり、解呪すればいい。
それ以外は部下にも教えられない方法になる。
この複製は単純ではあるけれど運用できる人間が限定されている。
ヤントラ以外はアインズだけとなるのだが、それ以外の可能性があるとすればプレイヤーとなってくる。それもただのプレイヤーではない。
「日頃の恨みで複製を送り込む可能性が無いとは言い切れないが、今のところお互い協力関係にあるから敵対は無いはずだ」
「そのようですね」
イビルアイから何も報告は無いし、ラキュースも夫婦生活はいつも通りと言われた。
懇切丁寧に語学の勉強をしていて、この骸骨野郎と急に怒り出す理由がわからない。
メイド達もいつも通り見回りの仕事で変わったことは無いと答えているし、ナーベラル、ルプスレギナ、シズも異常なしと答えた。
これら全てが複製だとすれば、とんでもない悪夢だ。
アウラを下がらせた後でシャルティアを呼びつける。
種族の事もあり、表立って活動させられないがナザリックの治安の大半は任せている。
「息災か、シャルティア」
「はい。ナザリック地下大墳墓において異常事態は見当たらないでありんす」
異常が無い限りは一ヶ月に一度、報告書を提出するだけの任務だ。
それでも誰かが見回りをしてくれるのはありがたいことだった。
「特別な行事が無い限り不自由させていると思う。時にシャルティア」
「はい?」
「お前の階層に何か作ってほしいものがあれば……。内容次第だが、何か希望はあるか?」
ペロロンチーノの影響により、妙なエロいグッズでないことを祈りつつ。
「そうでありんすね……。急には浮かびんせんが……」
真剣に悩むシャルティア。
「お花畑やお茶会が出来る会場など……。わたしの担当する階層は暗くてアンデッドくらいしか居ないでありんすから」
第一から第三階層がシャルティアの担当する場所だった。
普段は自分の住処である第二階層の『死蝋玄室』にて優雅に暮らしている。
独自に華やかな内装で
「も、もちろん、侵入者対策の部分は避けた場所でございます」
階層全てを花畑にするイメージが湧いてすぐに訂正する。
「そ、そうでなければ困る。だが……、女性の居る場所としては色気が無いだろう。花は今の季節では手に入りにくいぞ」
「春になってからでも構いません」
アインズは『
大事な会議の時は同席させることの出来ない場面がある。特に階層守護者が居る場合など。
大急ぎでかけつけたメイドを近くに呼び付ける。
シャルティアの要望をメモさせた。
「……ところでアインズ様。そのアインズ様当番とやらのメイドは役に立っているのでありんすか?」
「常に連れて歩けはしないが……。それなりにな」
シャルティア当番のメイドが居たら、きっとエロい事をさせたりするんだろうな。
『
ペロロンチーノが現れてくれたら顔面を殴っているところだ。
姉弟そろって変態め、と。
さらに輪をかけたハイブリッドな変態が世界を蹂躙しているけどな。
「そうそう。要望のイメージ画でも描けたら持って来い。出来るだけ再現できるようにとりはかろう」
「ありがたき幸せにございます」
イメージ画がとんでもないことになっていたら困るけどな。
花畑は毒草でもない限り、エンリやヤントラのところに居る
「あ、アインズ様……、インクが切れてしまいました」
「そうか。では、補充して来い」
「は、はい。少々お待ちを!」
「焦るでない。転ぶぞ」
メイドは大急ぎで
出来るだけ音を立てない走法は見事だ。