ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
続いてマーレを呼ぶのだがアウラも一緒だった。
インクを補充したメイドの為にテーブルと椅子を近くに置いた。
「あたしの事は気にしないでください」
手を振りながらアウラは言った。
また膝に乗りたい、という無言の願いが聞こえた気がする。
「まずはマーレを
「モンスターの、し、死骸があったのですが……。放置したままで、良かったのでしょうか?」
「新しい
モンスターの骨も武具の製作には必要な材料となることがある。
研究目的ならば必要かもしれないが、それは階層守護者の仕事ではない気がした。
「後でシモベ達に箱二つ分ほど回収を命じておけ。それだけあればだが。無ければ無いで構わない」
「か、畏ま、りました……」
気弱な性格なので返事もぎこちない。けれども、そういう性格なのだから仕方が無い。
「
「その、ようです。動物から抽出、した油と灰、と水を混ぜて作るそうですね」
「必要なアイテムを自前で作るのは大変だ。再生成しない物質などは使いきりで無くなってしまう。量産体制を確立することはナザリックにも必要な事だ。後々、メイド達が身体を洗えず、汚れていくのは可哀相だ」
女の子であるアウラも身だしなみが整えられない、ということになれば困るだろう。
雨水のシャワーだけで充分、と言いそうではあるけれど。
「一先ずマーレは第六階層の様子を見て、新たな命令を待ってもらおうか。
「分かりました」
「……うむ。アウラにも言ったがマーレは逆に男の子らしい服を用意するように」
「ええっ!?」
当然の反応にアインズは苦笑する。
「アウラとマーレの格好を容認したままだと紹介する時、恥をかく。お前のところは変態だな、と。ちゃんと男の子は男の子の格好をさせろ、と言われるかも知れん」
普通は言うのだが、魔導王に言えるのかは不明だ。
出来れば言ってほしい気持ちはある。
「もちろん、ナザリック以外の催しなどの席だぞ。お前達は頑なな部分があるからな」
「ご命令ならあたしは従います」
「……ぼ、ぼくも、従います」
「強制するようで悪いがな。外交は色々と大変なのだ。……特に他人の目とか意見が……。相手に配慮したものばかりではお前達も辛かろう」
良い印象を持ってもらうには常識の範囲で相手より少しだけ下に見えるように振舞う。
下すぎると逆効果だが、その調整は意外と難しい。
「い、いえ……。アインズ様のご判断に……」
「待て待て、返事をするのは早いぞ、マーレ」
「?」
「アウラもだが……」
「はい」
「今の服を是とするなら、社交界用の服を用意させよう。茶釜さんが用意してくれた衣装でもかまわんが……。その装備の服だけではあるまい?」
アウラとマーレは互いに見合ってから頷いた。
ぶくぶく茶釜はアウラ達の為に様々な服を用意していた。
現在の装備はその中でもお気に入りなので身につけている。いつでも戦闘に赴けるので。
「押し付けばかりでは申し訳ない。お前達の意見も尊重しなければな」
マーレは黙って頭を垂れたがアウラは頬を赤くして目を輝かせる。
「社交界とか催し物の時だけでよい。それと大事なアイテムは他人に見せるな。特にマーレ」
「はひっ!」
「相手に情報を与えそうなアイテムは隠しておけ」
大事な時は厳しく言う。こればかりは譲れない。
「は、はい!」
「社交界なども戦争だ。情報戦という意味ではな。お前達を参加させない、という手もあるのだが……。それはそれで可哀相だと思ってな」
アウラ達をジルクニフが
階層守護者を使うのは正直、気が進まないが戦略は立てなければならない。
「一先ずアウラ達には休息を取ってもらう。あまり頻繁に表に出すのも心配だからな。ナザリック内であれば自由に過ごしていてくれ」
「休息……ですか?」
「そうだ。あまりあちこちに出向いて場をかき乱してしまうと私が困る。シモベに出来る事をお前たちに頼むのも問題であろう。変な者が接触を図るかもしれん」
「迎撃、は不味いのですか?」
「余計な混乱を生むだろうな。シモベにちょっかいをかける程度は想定内だ。お前達は階層守護者なのだぞ。……私も強く言えないのだが……」
アインズの言葉にアウラ達は深く頭を下げる。
「説教じみてきたな……。とにかく、しばらく休息するように。第六階層の様子は引き続き見てもらうがな」
「か、畏まりました」
「次の命令が決まるまでヤントラの施設にある植物について調べてもよい。今、魔導国で色々と植物の育成を試みているから参考までにな。……さすがに今は複製は取られないと思うのだが……。深入りはしてほしくない」
「はい」
「……いいか、気になる事はそれとなく……。それとなくだぞ。聞くように」
声を潜めつつアウラ達に言うと二人は黙って頷いた。
「服については……、ラキュースの意見を聞こうと思うのだが……。異存はあるか?」
「アインズ様は随分とあの人間に肩入れするんですね」
「原住民の感覚は大事だ。我々と感性が違うようだからな。
正直に言えば自国の民の服装はどうにも派手なものにされそうな気がして怖い。
人間の民ならば雑巾のようなものでも構わないと言いそうだが、アインズとしては魔導国に相応しい国民服を着せたいと思う。
貧しくとも汚い格好は外面的に恥ずかしいものだ。
絢爛豪華なものだと自分の美的感覚がおかしくなりそうだ。
少なくとも一般常識は捨てたくない。
「あと、あまりにも乖離しすぎていると魔導国の将来が不安だ」
どこかに仲間達が居たら大笑いされるか卒倒されるか。
変な目で見られたくない。
モモンガさん、これはちょっと。
みんなの冷たい視線が痛いだろうな、と思った。
「……茶釜さんは爆笑しそうだが……」
言うべき事を言ったと思うのでメイドを下がらせた。
膝に乗りたそうにしていたアウラ達を招き、ひざに乗せるのだが両手がふさがり頭をなでることができない。
油断すると落としてしまいそうになるので。
部下を労うのも支配者の立派な仕事なのだろう。
物品の褒美が見つからないので、こういう褒美しか浮かばない。
物欲はあるだろうけれど仲間達とは違い、アイテムを作って渡す事が苦手だ。
ここはぶくぶく茶釜やペロロンチーノに出てきてもらわないと無い胃が痛む。
仲間達の装備品は一点物が多い。渡せば終わりだ。
買い物とかなら金貨を渡せるのに。
かといって競走させるわけには行かない。上昇志向によって仲間達が互いを追い落とし、誰も居なくなってしまうかもしれない。
ナザリックは少なくとも仲間同士で争う組織ではないし、これからも共に歩みたいと思っている。
おそらくヤントラはその辺りを危惧しているのだろう。
この生活が長続きしなければ危険だと。
小さな失態も積み重ねれば取り返しがつかなくなる。
シャルティア討伐の時、ヤントラは激怒した。
おそらく、タレントが見せたのかもしれない。
自分の部下を倒す場面を。そうでなければあれほど怒るだろうか。
自治権を認めれば隠れる必要が無い。というのはシャルティアなどの存在を安全に暮らすための方法だったのかもしれない。
落ち着いているからか、思考がとても鮮明である事にアインズは驚く。
忙しくて色々と忘れるのに、今は随分と過去になってしまったことを思い出している。
「独裁者にも色々と居る。私は部下や国民に慕われる恥ずかしくない支配者となろう」
「応援しています、アインズ様」
「ぼくも、頑張ってお手伝いします」
うむ、と頷くが子供二人をひざに乗せていると格好が悪い。
しばらく褒美として我慢する事にした。
アルベドが同席していなくて良かった。
魔導国は色々と人を招くようになったのだがエ・ランテルは一部の冒険者以外は街の様子を見て引き返したりする。
移住するには覚悟の居る都市に見えているのかもしれない。というか、モンスターが警備の為に徘徊しているので。
人が居ない、または少ないうちは住んでも仕事が出来そうに無い。
改装するにも金はかかる。
ただ、それはンフィーレアとイビルアイの助言で補助金制度を使う。
初期投資はいくらかかかるものだ。
帝国の財務を担当する者を交えて色々と決めていく。
人間の姿を多く見せるのも一つの手法だ。ただ、亜人はまだ問題がある。
問題の
いくら仲良くしようとしても食料と共に暮らせ、というのは無茶だ。
調和は難しい。
何事も時間のかかる問題だ。
争いの歴史を一年くらいで解消出来るはずが無い。
「スレイン法国は頑なだ。あそこは人間至上主義として数百年の歴史を持つ」
「だが、対話は必要だろう」
モモンの横に控えるイビルアイ。
「亜人などと仲良くするとなると教義が崩れる。今まで築き上げてきた信仰を覆すのは容易ではない」
「そうだな。対話が出来るなら色々と向こうの情報も手に入るだろう。無理して仲良くなる事も無いけれど……」
必要な情報を得たら鞭もありうる。飴だけ与える気は毛頭ない。
対スレイン法国は一筋縄ではいかない。
戦争こそ無いがリ・エスティーゼ王国の仮想敵国でもある。
一部の貴族は裏で手を組んで色々と物騒な計画を立てているという噂は後を立たない。
三つ巴の戦いに水を差したのが謎の
表向きはアインズとなっているのだが、真の敵はヤントラだとアインズが思っている。というか、スレイン法国の秘密部隊を撃退したのがヤントラなのだから当たり前だ。
アインズは傍観者で恨まれる筋合いは無いのだが、噂が妙に捻じ曲がってしまったらしい。
それはアインズ自身も仕方がないと思うところがある。
カルネ村を救ったのはアインズ、となっているからだ。
ガゼフを救ったのはヤントラというのは王国では周知の事実。
得体の知れない
名前を売ると色々と面倒ごとに遭遇するのは覚悟していたが、少し納得がいかない。
仮にヤントラが居なければ狙われる事自体は変わらなかったかもしれないけれど。
カルネ村を襲っていた兵士達が実はスレイン法国がバハルス帝国の騎士に偽装していた、という事ならば、色々と理解出来る。ただ、それをスレイン法国が自ら告発できるとは思えない。
村を襲う悪逆非道の兵士がスレイン法国の手の者の仕業だと認めてしまうとバハルス帝国は間違いなく、猛抗議する権利はある。
ガゼフ暗殺の為に手を組んだかもしれないリ・エスティーゼ王国の貴族はかばう理由を失う。あと、自国領の村を襲われた被害者だし。
それだけではない。
スレイン法国の信仰心が崩壊する。
崩れる方の崩国と
自動的にアインズは何の気兼ねも無く英雄となる。当たり前だが、村を救ったのは間違っていない。自作自演もしていないし。後ろめたいことは正体を隠すことだが、今はそれすら無い。
人間プレイヤーに文句を言われることも無いし、大義名分は
尚且つ、この事で地盤はかなり固まり味方も増える気がする。
もちろん、これらは推測に過ぎない。
スレイン法国が村を襲撃した張本人という証拠があれば、いいのだが。
と、アインズはあることを思い出す。証拠になりえるかは分からないが、秘密部隊の隊長が服役していた事を。
迂闊に手を出して自害されては困るから、そこは色々と王国と交渉の場を持たなければならないけれど。
死刑にされた噂は聞かないが、シモベ達を使い情報だけでも集める必要はあるだろう。
それはそれとして、モモンはイビルアイと共に冒険者組合長の元に訪れる。共として美姫ナーベも連れて来た。
アルベドも連れて来た方が良かったのかもしれないが、魔導国の食糧事情の残務処理で手が離せなくなったらしく、今日は辞退することになった。
一部の有力者は今でもエ・ランテルで暮らしていて必要な物資は行商人に運ばせていた。
「ようこそ、モモン殿。イビルアイ殿。……ナーベ殿は……?」
「暴言しか言わないだろうから、部屋の外で警戒任務だ」
「あ……、そうですか。中で待機されても良かったのに……」
「我々は常に戦場で戦ってきたのでな。油断しないようにしているだけですよ」
一応、伏兵として
一流は中々誤魔化せない。
むしろ、それがアインズにとっては当たり前の警戒態勢だと言える。
組合長『プルトン・アインザック』はエ・ランテルが魔導国に割譲されてから精神的な疲労でも溜めていたのか、頬が痩せていた。いや、もともと痩型だったのかもしれないけれど。
前都市長のパナソレイは現在、どこかの都市に引っ越したらしく不在。
都市長の邸宅は魔導王が使用していた。
魔導国の整備が終わるまでの臨時としてだが。
「今日のご予定はどんなものなのでしょうか? 依頼件数の苦情でしょうか?」
仕事が激減して冒険者も住民も逃げ出すように減っている。
その上で受付嬢などの従業員に払う資金の前借りなど出来はしない。
「依頼件数が少なくなっていることは我らも憂慮している。まずは落ち着いて聞いてほしい」
「イビルアイ殿の前とはいえ悪態をつきたくなる現状です。これ以上の嫌な話しは聞きたくないですな」
「分かっている」
客に出す飲み物も用意できないのです、と組合長は言ったが二人共飲む気は無かった。
イビルアイは懐から巻いた羊皮紙を何本か出した。
大事な書類は懐から出すのが一般的らしい。
役人などはちゃんと専用のカバンがあるらしいが冒険者は胸元に入れる事が多い。
心臓の次に大事なもの、という意味合いがあるのかもしれないし、入れやすいから、ということもあるのかもしれない。
モモンはアイテムボックスから出すけれど、通常はマントで出すところは見せない。
「……羊皮紙を丸めると延ばすのが大変ではないか?」
「そ、そうですか?」
羊皮紙は上下の部分を掴んで読むものなので、左右をつかむモモンにはまだ慣れないものだった。
横ではなく縦に巻く。魔法のスクロールも縦巻きだ。
後は重石などを乗せて伸ばす。
「この書類は魔導国の発展に冒険者が担う仕事の草案だ」
「魔導国の?」
「他国の侵攻などは想定していないが、まずは読んでいってくれ」
アインザックは五枚ほどの書類をじっくりと読み込んでいく。
王国語ではあるけれどモモンも簡単な文章は読めた。
「なんだこれは」
「驚かれたか?」
「イビルアイ殿。これは……、魔導王の真意か?
国璽はアインズ・ウール・ゴウンのギルドの紋章が使われている。
「……慣習を逸脱した内容ばかりではないか」
「そう捉えるか。とはいえ、確かに驚かれるのは無理も無い。初めての試みはそんなものだ。魔導国の冒険者は今までとは毛色の違う仕事についてもらいたい、とのことだ」
イビルアイの落ち着き払った態度はモモンも見習いたいところだった。
魔導王として人々と一人で交渉する事態になった時もちゃんと出来るか不安ではある。
時には部下に頼れない事態も出てくるだろう。
「他国の冒険者を特訓させる為に墓地を開放したのはこのためですか!?」
冒険者と言っても銅級から金級までの者達だ。
魔導王からは弱い者から優先的に使わせるようにと命令が来ていた。
「……しかし、これを実現するとなると命の危険度が上がるのでは?」
「調査が主体だ。だが、守られてばかりでは強くなれない。低位のモンスターは自力で対処してもらう。飴と鞭だよ、組合長」
と、モモンは自信を持って言った。
「広範囲すぎませんかね? スレイン法国よりも南方は未知の領域ですよ」
「だからだ。冒険者と名乗る以上はそれくらい当然ではないか。弱いままではいざという時、困るだろう。折角のランクも飾りに過ぎないではないか」
「モモン様の意見に私も賛成だ。いきなり放り込むわけではない。魔導国が一通りの訓練を
冒険者育成計画。
未知の領域に冒険者を派遣し、世界地図を埋めていくという。
当然、行けば行くほど危険度は増すし、帰ってこられる保証は無い。
最初の試みとして戻ってこられる範囲に何人か送り込み、時間をかけて多方面に冒険者を派遣していく。
珍しいモンスターや薬草類を発見すれば褒賞を出すし、モンスターが持っている武器はよほどの
事前にモンスターの調査はしているのでアイテム回収に関しては口出ししすぎない方がやりがいを感じてくれるだろう。
中位程度のモンスターが持つ武具はモモンとしては無視できる。
近場の護衛任務ばかりでは冒険者の仕事とは言えない。
「亜人や異形とともに親交を図る事も目的らしいぞ」
「亜人や異形……。モンスターとして討伐してきた冒険者と仲良く出来ますか?」
「生きるための戦いはどの種族も同じだと思うのだが」
事前の調査では人間と亜人の混合パーティは存在する。
イビルアイも仲良く出来ているのだから、あとは本人たち次第だろう。
「魔導国は出来るだけ手を取り合う方向に持って行きたいそうだ。敵対しか出来ないなら戦うしかないだろうな」
イビルアイは物事を割り切る傾向にあるので冷徹なところがある。
モモンは深く考えていないのでみんな仲良く、を無理に押し通そうとしてしまう。
弊害を後で知って愕然とすることは多々ある。
「帝国と同盟関係にあるから帝国内を移動することは問題ないだろう」
「問題無いというか……。途方も無いというか」
「無理難題を突きつけるわけではない。成果に見合った報酬は魔導国が責任を持って与えるだろう」
「……現物支給かもしれんがな」
モモンは腕を組みつつ言ってみた。
金貨という報酬は限りがある。
今の段階では多くは与えられない。逆に現物支給なら少し強い武具は渡せそうだ。
ヤントラから貰った資源も結構あるから。
帝国の貴族にスポンサーになってもらうことを今、思いついた。
モンスターの武具などを提出して資金を得られるようにすれば魔導国の負担を少しでも軽く出来るかもしれない。
低位モンスターは希望が持てないかもしれないけれど。
「あと、冒険者とは別に畑仕事の人材も依頼させてほしいのだとか」
「何が起きるかわからない事ばかりですね。……正直、責任を負えません」
無茶な依頼の場合は国に助けを請う場合がある。
国家の命運がかかるものは冒険者は依頼を放棄するものだ。
「今までの冒険者が人材派遣のような仕事ばかりだったのだ。これぐらいは魔導国としてやらなければ差別化が図れないだろう」
モモンは身を乗り出さんばかりの勢いで言った。
遠出をさせる冒険者と人材派遣を両立する新たな、というか適材適所の冒険者ギルドの運営を始めたいと考えた。
魔術師ギルドも当然、併合なりする予定ではある。
こちらは新たな魔法の開発などを帝国と共にやってもらいたいが、魔法省との話し合いは必要だろう。
若くなったフールーダにやってもらいたいところだが、権威を振りかざしそうで心配だ。
「すんなりと決めるのは難しかろう。検討だけしてくれ。後日、魔導王自ら会談の場を設けてもらって今後の活動について話し合ってもらいたい」
「一人で、ですか?」
「不安なのは重々承知している。だが、国の未来を真剣に考えているのは確かだ。そこに魔法による脅迫は無いだろう。このエ・ランテルを活気付かせたい為に色々と模索しているのだから」
イビルアイの言葉は横で聞いていて素晴らしいと思った。
これくらいの意気込みを自分も出来なければいけないのだが、自信が無い。
不安ばかり脳裏に浮かぶので。
自分で考えたことはなかなか実現しないものだ。
検討に検討を重ねても轟沈することはよくある。
帰ってこなかった冒険者が出た場合のこととか。色々と問題点は残っている。
金だけ貰って失踪とか。
遠出は目標で冒険者の育成が目的、ということにすれば集まるかもしれない。
エ・ランテルを活気付かせるためには餌がどうしても必要だ。
アンデッドが支配する、という負のイメージを払拭する為に。
人材派遣も兼用し、農業も充実させていく。これをメインにしてもいいのでは、とイビルアイは言ってくれた。
治安はアンデッド兵に任せてもらうけれど、という注意事項が付いてくる。
アンデッド兵のレンタルは出来そうで出来ない仕事だ。魔導国に貴族が居ないから。
階層守護者は独自の護衛が居るし。
出来ることは畑を耕すことくらいだ。堅い地面とかは役に立つだろう。
後は鉱山の採掘など。火山帯に当たると危険ではある。
国外から来る訪問者を容赦なく敵とみなして倒すようなことがあれば一大事だ。
安易に商売には使えない。
「仕事の依頼が無いと冒険者は生活が出来ませんからね。ただ、魔導王が命令すれば済むのではないですか?」
「強引な手は使いたくないのだろう。現に様々な人材に声をかけている。今回は吟味のみお願いに来た。まあ、私はモモン様のお供だけどな」
鼻息荒くイビルアイは言った。
隙あらば寄りかかりたいくらいだ。
「吟味は致しますが……。これは……即答できかねますね……。魔術師ギルドの組合長とも話し合わないと……」
「そちらに任せる」
と、モモンは言った。
「平和な国を作ろうとしているのだから時間はかかるだろう。だが、返答に関わらず話し合いの席にはついてもらいたい、とのことだ」
「う~む……。分かりました」
「受付嬢に賃金を払わねばならないだろう。そちらが構わなければ私も同席しよう。ランポッサ王もエ・ランテルの未来を憂いていたからな」
「……それはありがたいですな。他の真蒼の薔薇の皆さんはお元気ですか?」
「それぞれ元気だ。だが、仕事は激減している。バラバラに行動はしているが鍛錬は欠かさない」
「アダマンタイト級は健在という事ですな」
「……近くに物騒な施設があるから、油断が出来ないだけだと思うぞ」
「物騒? あ、ああ!
心から笑うアインザック。
久しぶりに思いっきり笑ったせいか、涙が出て来たようだ。
「言っておくがカルネ村じゃないぞ」
「ええ、分かっています。リイジーさんのお店があるところですよね」
そう言うとイビルアイは咳払いをする。
「今の内に鍛えておいた方がいいぞ。気まぐれを起こして野に放たないか心配で仕方がない。……ある意味、魔導国のアンデッド兵より怖いからな」
「あはは。……うぇええ!? あのアンデッド兵よりも厄介なんですか!?」
「大きな声では言えないがな。モモン様もご存知なので、滞在している間は任せてほしい。
「全部動いたら私でも対処が難しいかもしれんがな」
というか、魔導王でも対処できないかもしれない。
特に複製部隊は。
「魔導王も承知しているから魔導国が今すぐ動くことは無い。というか本人がそう言っていた」
「りょ、了解しました。……魔導王が承知しているなら……、でも意外ですね」
「うむ。だが、何度も話し合いを重ねた結果かも知れん。怒ることはあるのだが、大人の判断は出来る御仁だ」
「分かりました。イビルアイ殿の言葉を信じましょう」
「モモン様は……、同席なさるのですか?」
イビルアイは疑問に思っていたので尋ねた。
自分の記憶が確かなら影武者を持っている筈だと。
エ・ランテルにアインズが訪れた時、モモンが現れた。その時、ヤントラは偽装していなかったという。
「必要とあれば。しばらく我々、漆黒はエ・ランテルに滞在することになっている。その間に使者を送ると魔導国の者が言っていた」
「場所などは向こうが指定するんでしょうか?」
「それ程遠出はさせないだろう。この建物を使うのではないか? 詳しいことは使者が伝えるだろう」
アインザックは使者がアンデッドのようなモンスターではないかと危惧している。
出来れば人間であってほしいと願った。
アンデッド兵だと受付嬢が逃げ出してしまう恐れがあるからだ。
友好的と思って近づいたら墓地から逃げ出した
書類には何も指定されていなかった。
「日時の調整だろうから組合長の都合を伝えてからが本番だと思う」
と、モモンは言った。
リアルタイムで情報のやり取りが出来ないのだから手紙などを使えば日数による時間差が生まれてしまう。
アインズとしても伝えたい事を精査する時間は必要だ。
冷却期間とも言うのだが、勢いだけでは物事はうまく行かない。
後悔しない為に小さなことでも精一杯頑張る。
世界が活気づく頃、石鹸の出来などを確認し、必要な物資を『
のんびりした時間が流れていた。
もちろん、語学の勉強は続けている。これは長丁場になる予定なのでラキュースと共に問題集などを作る。
結構忙しい事に苦笑する。
子供達の様子も見られるし、悪い気はしない。
無報酬というのが気になるところだ。
魔導国には王国金貨を払う余裕がない、というのが原因だから仕方が無い。
ゴムとフェルト以外はどんどん運び込み、モンスターや強風などの天候に負けないようにしておく。
メイド達も凍傷などを起こさないように防寒着などを着て
断熱材を敷き詰めて
高度五千メートルの気温はかなり低い。油断すれば人間型はすぐに死んでしまう。
季節柄なのか、下界の天候に影響されにくいと思っていたのだが寒気などに包まれたのだろうか。
星の天候や気圧配置とか分からないから仕方が無いのだろうけれど。
秋ごろはそれ程でもないが、冬に入れば一層の冷え込みは激しさが増していく。
極寒の環境でも動けるモンスターは『
雪国のモンスターはそれ程居ない。
苛酷な環境でも活動出来なければ宇宙にはいけないだろう。
あらゆる環境に対応できるモンスターを揃えておくのは必要かもしれない。でなければ空飛ぶ棺桶を作るのと同じだ。
急遽、ンフィーレアに四季を通じた暑さ寒さ対策を練ってもらう。
「相当、冷え込んでいるんですね」
「『
「……冬のモンスターとはいえ裸は酷いですね」
鬼だ、と思った。
「冷え込みによる金属の温度変化も大事だ。素手で触ったら張り付いて取れなくなる、とかあるから」
「冬の金属は一段と冷たいですからね」
冬場は家庭で暖炉を使って温かくする。
「また失敗か……」
「別に施設はなんともないでしょう? 頑張りましょう」
「まずは……木造の倉庫を作って作業場を確保しようか。外気が流れ込むから大変なのかも」
「周り全て金属ですからね。最終的に断熱材を入れる段階になれば少しは楽が出来るのですが……。そこまで行くのが大変でしょうね」
という話しを設計士や建築に
真冬に工事するのは自殺行為だと。
雪山で小屋を作った経験のある工事関係者も万全の装備で望むのだとか。
「相手は五千メートルだろ? ふざけんなっていう感じだな。俺のところなら断るね」
「規模が大きい施設ですから。それに地上で作ると都市に影が落ちたり、変なモンスターに狙われたりしますから。あと、盗掘……ですね」
「そこまで盗みに行く勇者は居ないだろうな」
納得したり唸ったり、人それぞれ反応を見せる。
工事が不可能という話しではなく、防寒対策の意見が聞きたいので大工の苦情は無視する。
「寒さに負けない作業小屋を作りたいのですが、必要な材料などを教えていただけますか?」
「現地で作れって話しなら無理だと……」
「お前に頼んでるんじゃねーから黙ってろ」
「こちらの雇い主が自ら作るらしいから意見を寄越せっていう話しなんだよ。バカかオメー」
と、小さなケンカが始まる。
血の気の多い職人は言葉使いは荒いがンフィーレアは嫌いではない。
他の者も慣れたもので気にしている人間が殆ど居ない。
「規模はどれくらいを想定してるんですか?」
「普通の一軒屋程度です。あまりに巨大なため
溶岩のモンスターが居るらしいが、それを使うと金属が溶けてしまう。
王国の領内に大規模建設できそうな立地は見当たらないのだが、国が許してくれれば平原に下ろして作業したいところだ。
高さが千七百メートルの巨大な物体は異様そのもの。だが、現時点では骨組み程度。
ンフィーレアとしては移動実験が出来るので移動させる事自体は賛成だった。ただし、不測の事態は保障できない。
落下というか倒れるだけでも大きな被害を出してしまう。
あと、盗掘とモンスターの襲撃の危険性が増すだろう。
「オリハルコン目当てに襲撃者がやってきそうですけどね」
「そうだね。降ろすに降ろせないか……」
今のところは見える金属は全てオリハルコン。
巨大建築物だから全てを守るのは難しい。だからこそ、超高度で建設しているのかもしれない。
天然の要塞。天然の防犯対策。
「それにしても五千メートルで作業なんて……。命知らずでも怖気づくでしょうに」
「呼吸は
溶岩のような
ただし、ンフィーレア達はモンスターではない。
「工事を中断して春に再開するのが無難なのですが……。冬や極寒でも対応するという想定で意見を出してほしいんです。あの施設は完成時にはもっと苛酷な環境に向かうので」
「五千メートルよりも過酷な環境かい? 想像絶するところなんだろうね」
「月に移動するという話しだが……。本気なのだな」
「過酷な環境に耐える建築はのちのち役に立つかもしれません。開発技術は秘匿せず、皆さんの役に立てて良いとヤントラさんは言っているので」
「貴族なら口封じもんってことか」
「魔導国もですが……」
ンフィーレアは大きな羊皮紙を取り出す。それを集めた技術者達に見えるように壁に張り出す。
現段階で出来ている『
「そういう形になるんだ」
「これはまだ大雑把ですけど。階層は最終的に七十から八十は超えるらしいです。吹き抜けをいくつか作るので増減はあるかもしれません。柱も相当な数が設置される予定です」
「床は厚さが二メートル……。収納できる空間は確保するのか」
「空飛ぶ城だな」
「現時点で出来ているのは真ん中と上下を一枚ずつ。この辺りです。段々と床面積が狭くなるので作業も早くなるでしょう」
広い場所から順々に作られている。
床一面だけでも結構な労力が必要だ。
「……これで縦千七百メートル……。すげー」
実際に現地に行った設計士も夢物語だと思っていた。それを現実に見てしまうとバカにできないものを感じる。
魔導国や『マグヌム・オプス』にある浮遊倉庫は現実に作り上げている。
使われる位階魔法は高位ではあるけれど不可能ではない。
多額の資金は必要だろう。
「単純な疑問なのだが……。完成したら誰を乗せるんだ?」
「聞いた範囲ではヤントラさんの家族と仲間でしょうか。後は膨大な……、荷物といったところです」
「王や貴族は招かないのか?」
「見学はさせるかもしれませんが……。そこは未定でしょう」
世界を飛び回るには巨大すぎる。
空中要塞という範囲を飛び越えている。
「工事に関わりたい。それは素直な気持ちだ」
「関わるとしても防寒対策しなきゃな。今回はそういう話しをするのが目的だろう?」
「そうだった」
巨大な浮遊する施設『
急な気候変動に耐えられなかったり。
苦難の連続も新しい発見だと割り切る。