ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
ヤントラ個人としては気候変動はものともしない。
シーツの補強。
内部温度は零下に達しているし、呼吸も辛い。
見回りしている一部のメイド達は避難させておく。
シーツの内側は雪が降らないのを確認し、
一日がかりで凍らせた後、空気の逃げ道としての穴を
相当な重量が増加される事を見込んで『
球体の上半分を支える形にしていく。
念のために
固まる氷の不思議な音が内部に響く。
「吹雪は入らないだろう」
いわゆる鎌倉状態だ。
弱点は湿度が高くなることだ。
季節柄仕方が無いだろう。潔癖に近い対応にも限度はある。
下界は海なので水は下に落す。
氷柱が出来ては困るので
「まだ何か足りないかな」
問題なく建造するには『
その上で内部に足場などを組んで作って行く、と思う。
そんな施設を地上に作れるとは思えないが、候補としては聖王国の近くにある荒野だろうか。
季節も安定しているようだし。
「まずは掃除だな」
内部が凍りついた時も想定して温度を上げて水を落す仕組みが必要かもしれない。
それより完全に水気を吸い取る方法がいいだろうか。
電熱線は無いし、電気は魔法だ。
便利な魔法は近代建築にもう少し貢献すべきではないだろうか。
よくよく考えたら手から
近代技術の研究は専用の部屋を作ってから始めたい。
属性エレメンタルによる温度管理は必要だろう。
あとは必要な魔法を探す作業が大変な事かもしれない。
どれが必要なのか分からない事がある。
溶岩関連のモンスターは怖いので火と氷のエレメンタルを色々と配置していく。
「そうそう、折角作った断熱材を浮かせておくか」
返事は無いが独り言を呟くヤントラ。
寂しすぎると勝手に出てしまう。
天然のモンスターはなかなか見つけにくい。都合よく見つけるのは至難の業だ。
転職アイテムで精霊系になるものがあったような気がする。
温度管理の為に転職するのは可哀相だな。こんなことのために生まれてきた訳じゃないから、人生を呪いそうだ。
一メートル四方のシリカの板を百個ほど散りばめてみた。
とりあえず、火事にならない位置に火属性のエレメンタル達を乗せておく。
氷属性のエレメンタルで温度が上がり過ぎないようにする。
外壁が閉じるまでは苦労が続くだろう。
施設に戻り、温かい湯に入る。
温度調整も課題だろう。
『
後は雪や氷、場合によっては四大精霊全てとなるだろう。
地道な作業を続けていると時間はすぐに経ってしまうのだが外の世界情勢が全く入らなくなる。
イビルアイ達はとても忙しいようだし。
ため息ばかり出るヤントラは『蒼薔薇の園』に向かう。
人の流入が多くなってきて護衛の仕事が多くなってきたとティア達は教えてくれた。
「適度に流血すると凶暴化するクレマン」
「
「大出血はさすがに……。そんなことはいいの!」
ちゃんと突っ込みを入れられるクレマンティーヌ。
「モンスター溢れる世界なら冒険者ももう少し活気付いていただろうに」
「先の戦争で多くのモンスターが萎縮しちゃったのかな」
「他方面にはまだまだ居るらしいね。評議国付近には
夜間は虫のモンスターが明かりに集まってくる。
「平原はあまりモンスターが見当たらない」
「見晴らしのいいところに普通は出て来ないから」
「
吸血鬼も出て来ないし、と。
ただ、各都市の貧民街の犯罪は未だにあるらしい。
経済格差は仕方がないとして仕事が無ければ犯罪に手を染めるのはどうしようも無いのかもしれない。
毎年、城を壊して国民に仕事を与えるわけにも行かない。
「それはそれで素晴らしいけど……」
「財源の問題が……」
「自由な発想も大事だよ。毎年壊す建物作ればいいじゃん」
「
「ありかも」
ガガーランはどうやら城にいるらしい。
ルリマリスは
「イビルアイはすっかり
「恋する乙女だから仕方ない」
「一つ疑問。イビルアイと魔導王の仲は良いの?」
「よく相談しているようだから仲はいいんじゃないかな。特にアインズの方が悩み事を言うようだから」
「へー。それは意外。……あ、部下には言えない悩み事くらいあるか……」
「あまり隠す事が無いから、酷い事に発展はしないと思うけど……。魔導国の運命のいくつかはイビルアイが握っているのかも……」
「……確かに」
「わたしも行こうかな、魔導国」
「クレマンが行っても……」
「政治の話しとか出来るの?」
「スレイン法国についてなら少しは出来るよ。モンスターはびこる世界にとっては厄介なのかな。人間以外のモンスターを駆逐したら冒険者の仕事が無くなりそうなんだけどね」
人間だけになってもクレマンティーヌは特に困らない。
殺せる人間が増えるだけだ。
ヤントラも滅ぼされる前にモンスターをいくつか集めているから問題は無いかもしれない、とクレマンティーヌは施設の中で出会ったモンスター達を思い出す。
ヤントラはスレイン法国にとって潜在的な敵となるだろう。
それはそれで見ものだ。
神人とヤントラ。
果たしてどんな戦いになるのか、気にならないわけがない。
「新しいモンスターは増えた?」
「
「王国と帝国以外の場所に行かないと未知のモンスターは見つけにくいよね」
「進化や住んでいる場所によって性質が変わったりするし。一度、じっくり観察してみたいな」
倒すばかりだったモンスター。
可愛い生物は愛でてみたい。
家の中には凶悪なモンスターが何匹か居るけれど。
魔導国が現れてから世界は蛇に睨まれた蛙の様に停滞する。
時間が止まったわけではないけれど大きな争いが無くなった。
兵を差し向ける先に魔導国が障害物のように鎮座しているせいもあり、戦場であるカッツェ平野が使えない。
各国が身動きが取れない理由の一つに強大な力を持っているアインズが大っぴらにひけらかさない所だ。
帝国は戦士職が多いので。
アインズは交渉ごとに長けている。と、各国首脳は思っている。
他に予定が無い限り会談の場を設けてもらえる機会が多く、様々な話し合いに応じてくれる寛容さがある。
世界征服という目標を掲げているにもかかわらず。
最初は恐怖。次は言い知れない魅力で戦いを挑んでくる。
攻めるに攻められない国。
ただの蛮族ならば問題は無かっただろう。
竜王国が
反撃する事に何のためらいもない、のが普通だ。
だが、魔導国は違う。
帝国が代理戦争で魔導国のための領地を手に入れてから、かの国は世界に覇を唱えるどころか、沈着冷静に自国の開拓を長い時間をかけて
王国に恨みがあるわけではなく、帝国の意向に従って魔法を使ったに過ぎない。
その後は様々な条件を魔導国は呑んでいくのだが、領土を返還する気がないのが唯一、はっきりしていた。
「戦争終結から二年が経ったか」
リ・エスティーゼ王国のランポッサ国王は玉座からため息混じりに呟いた。
室内に待機しているのは何人かの従者と六大貴族の一人、レエブン侯とゼイゼール伯爵。第三皇女のラナーと王女付きの騎士クライム。
「世界の情勢は戦争から政治へと変わりましたね。お陰で血生臭い事件が減りました」
「通年であれば帝国との戦争が起きているはずですし、その通知も来ているはず……。だが、今年も使者すら来ない事態とは……」
「それでは我々が戦争を望んでいるように聞こえますわよ」
ラナーは朗らかに笑う。
「習慣というものはそう簡単には消せません。ただの皮肉です」
「かの国が同盟国を増やし、賑やかにしているようだな」
「そのようですね。占領した都市を再開発しているようです。見捨てる事はせず、新たに立て直してくるとはあっぱれですな」
「戦場の
王の言葉に従者の一人が羊皮紙を広げる。
「今年も天候に恵まれて各農村は活気に満ちているそうです。食糧需給も例年より上がっていると報告がありました」
「当たり前ですわね。よっぽどの悪天候でも起きない限りは……」
口元に手を当ててラナーは言った。
「国民が飢えなければ仕事に活気が湧く。あと適度に仕事を与えれば自然と国は豊かになります。問題は高みを望むと弊害が生まれる事です」
「はい。各都市の貧民街の治安は依然として悪化しております」
「富める者は悪い事をするものです。それは帝国も同じでございましょう。悪党のお陰で仕事が増える組織があるのも皮肉なものですわね」
その組織に『真蒼の薔薇』が含まれる。
暗殺要因として活動する事もあるけれど、彼女たちは独自の調査で相手の処分を決定する。
命令された程度で安易に殺しはしない。クレマンティーヌを除いて。
ガガーランは参加に否定的だ。
「必要悪のお陰で正義が映えます」
「ラナー様は厳しくなられましたな」
「見せしめに処刑したいところを我慢している所などですか?」
ラナーの言葉にレエブン侯は苦笑する。昔であれば顔を青くしているところだ。
「見せしめしないところですね。王女は血で汚れるべきではないと思います。怠惰な国民を作らず、適度な厳しさは必要でしょう」
「厳しすぎて国民の皆様の前で首を撥ねる事態になってしまうかもしれませんわね。せめて跡取りが生まれるまでは自重いたしますわ」
「笑えませんが……。ちゃんとお分かりになられているところは……、恐ろしいと思いますよ」
聞いている従者達は冷や汗を流していたが国王は冷静に聞き耳を立てていた。
王女の側に居るクライムも表情ひとつ変えない。
王女の部屋には知り合い以外には見せられない物騒な宝物が置いてある。
会議での発言が言い過ぎた時は宝物に謝罪する。
そうして自分を律するラナーをクライムは尊敬している。
悪人に対して非情な判断を下す事は間違っていない。変な慈悲をかけてはいけないこともある。
貧しいからという理由で何をしてもいい理由にはならない。
ラナーは独自の判断で資産を使い、親の居ない子供達に教育を施す施設を作らせた。
優しいだけではなく、将来性を考えている。
単なる慈悲で資産は投じない。打算的なところがあるのがラナーの恐ろしいところだ。
「お父様、捕らえたスレイン法国の者達はどうなさるのですか? 私、すっかり忘れておりましたが……」
「ガゼフ暗殺の罪により十年の懲役刑となっておる。保釈に関してスレイン法国から何も言われておらん。このまま解放しても処分されるだけではないかと心配はしているよ」
「村人には手を出していないのですよね? 多少は減刑されてはいかがですか?」
「信心深い彼らは減刑は望まなかったらしい。罪は罪、と受け止めているようだ」
カルネ村の半数を殺害した謎の部隊は結局は分からず仕舞いだった。
帝国の仕業なのか、スレイン法国の偽装部隊なのか。
王国側から派遣された秘密部隊なのか。
誰かが口を紡ぐと真実が現れない仕組みになっているようだ。
死体はアインズが回収したらしい。
カルネ村以外に三つほど焼き討ちなどをしてきたのだから同情は出来ない。
代わりとしてスレイン法国の死体は王国から法国へと引き渡された。
「ゼイゼール伯爵。そなたの都市は問題は無いか?」
物騒な話題を変える為に国王は新しい大貴族に尋ねた。
「はい。治安は多少は悪いのですが、都市の運営は滞りなく……」
「大きな
「ははっ。ありがたき幸せに存じます」
「各都市に大きな変化は無いのだな?」
王の言葉に従者は頷く。
「懸念されております高位モンスターと思われる敵性体はアーグランド評議国を除けば目撃例はありません」
「やはりかの国から流れ込んできているのか?」
「そういうわけではないようです。山沿いに住処があるのでは、と『朱の雫』からの報告がございました。国境付近は特に異常は見られなかったそうです」
「アダマンタイト級でも対処できないモンスターがいくつか居るようですね。それは今でも出てくるのですか?」
「はい。出て来ても攻撃しなければ山に戻る黒い
報告を受けてゼイゼール伯爵とレエブン侯は拍手して喜んだ。
「続いて
「話しかけてくるんですね、
「そのようです。人間に恨みがあるわけではなく、縄張りに入ってこなければ無闇に攻撃はしないと……」
暇になると話し相手を求める習性が出るとか、報告書には書かれていた。
「
召喚された下僕は
モンスター同士の戦いの影響が近隣都市に波及して色々と迷惑をかけているらしい。
「一口にモンスターと一括りにできないのだな」
「そういうモンスターをじっくりと研究する事ができれば対処方法も戦う以外に見つけられるかもしれませんね」
「我が国は怪しいものは討伐しろ、が慣習としてあるようですからね」
レエブン侯の言葉にラナーは苦笑した。
適当なモンスターを城に招いて話しを聞かせろ、ということはさすがに出来ないだろう。
平和的に話しができそうなのは
漆黒のモモンが馬代わりにしているハムスケというトブの大森林では『森の賢王』と呼ばれていたモンスター。
カルネ村で生活しているという
こちらは友好的に話し合いが出来るかもしれないが、アインズの部下達は無理そうだ。
口が悪いから。
丁寧な者も居るけれど、大半が人間蔑視だ。
下っ端のメイドですら人間は下等生物だと言っているという。
改めて人間代表としてンフィーレアと共に『
ほんの数日だが雰囲気が変わっている。
「エレメンタル系が増えていますね」
装備を外せば一気に冷え込むかもしれない。
「火と氷を駆使して気温を安定化させようとしたのだが、どうだろうか?」
「すごいという以外には無いんですが……」
床に手を近づけると冷気を感じた。
「室内が冷え込んだ時の対処方法も必要ですね」
「暖房は煙の問題があるからエレメンタルで温めたい。ただ、溶岩系は怖いので試せない」
「密閉空間なら危険ですよね。排気口は機能し続けないと危ないですよね」
「便利とはいえ膨大な魔法を一つずつ調べるのは大変だ。なかなか選定が難しいものだね」
「攻撃に特化したものばかりだし。生活に密着したものは見つけにくいでしょう」
戦闘以外の使用方法は限定的なものばかりだから。
巨大施設に適した魔法は想定されていない。
「極寒の空間でも作業できるような服が欲しいね。
「素材にもよりますね。厚手のゴムで服を作るくらいしか出来ないのではないかと」
今の技術で水に濡れない服というものは空想の産物に近い。
イメージは出来る。
外側の服で水気を弾き、内側の
どう頑張っても加工する段階で水漏れの恐れが出てしまう。
水や空気の漏れは
自分を守ってもらう代わりに
「そういえば、この
「水分かな……。後は人間の老廃物とか。知らなくていい餌だったりする」
「……なるほど。事前に与えていれば安全だと」
モンスターなので知らなければ良かった事柄は色々と出てくるだろう。
今は作業をする上で命を預けている状態だ。少しは相手のことも知っておいた方がいいだろう、とンフィーレアは思いつつ
服は例によって設計だけ任せてみる。
試作品は個人的に作ってもヤントラは怒らない。安全なものに限るけれど。
悪環境でも作業をしなければならないことがある。
上から氷の雨が降っても。
氷点下の外気の中でも。
「安全で快適な環境はなかなか訪れない。これも試練なんだろうね」
「そうですね」
木造の作業小屋を作るとして何所にどれくらいの規模がいいか、ンフィーレアに意見を求めてみる。
設置には
「直接作業をさせなくて悪いと思っている。どうすればいいかは考えてはいるんだ」
「なんとなく分かりますから。オリハルコンを繋げる作業ができないのでしょう? 一般の建築技術ではどうしても重量が発生してしまう」
「そうだ。だが、それだけでは……、味気ないのは分かっているんだが……。規模がでかいと職人に頼みにくい」
問題点として材料が充分に用意できない。
長期に雇い入れる資金が心許ない。それはラキュースに土下座すればなんとかなるかもしれないけれど。
完成する保証が無い。
既に多くの失敗と問題点が浮き彫りだ。
下手をすると多くの職人を死なせている結果もある。
あと、職人たちは魔法が使えない、または高位の魔法が使えない。
「並べるといっても一枚ずつ魔法をかけながらですよね。普通は無理ですよ」
聞いた高位の魔法は第五位階。
出来るだけ低位の魔法を使わせているというが、一般人には伝説級だ。
同時進行でアインズに第七位階ほどの許可を得ようとしている事は耳にした事がある。
当たり前だが、魔導国に弓引く者を生み出されては困るからだ。
それは逆に王国側や帝国側も同じなのではないかと聞いた時は驚かれた。
他国の事は関知していなかったからかもしれない。
「第三位階でも天才級というのに第五位階を普及させるのは凄い事ですよね」
それは凄いというか今までの常識を覆す事だ。
歴史を覆す事に匹敵する。
当然、疑心暗鬼になるだろう。しばらくは大混乱が予想される。
事実、帝国の生徒達は大混乱したはずだ。
「位階が高くなれば試したくなるのも道理……。ただ、欲は悪でしょうか?」
「程度や内容にもよるね。例えば精神支配系ばかり覚えて悪さをするとか」
「……ああ、ありそうですね」
「私が実際そうだったりする。あると便利な
「とんでもない悪党が目の前に」
「あまりにも言う事を聞きすぎると面白くない。だから、作業する時は無心になるようにしている」
「いい事を言っているようで性質が悪いですよ。それでも大規模な建築を始めるのは凄いと思います。特に現実にするところが」
想像ばかりではなく、現実に作ってみろ、と言われて作りましたと見せられている気分になる。
絵空事ではない現実。それは幻術ではない事を祈りたい。
そんな事を言うと夢を壊すような事を言ってくるのでンフィーレアは黙った。
子供っぽいところは嫌いではないけれど。
「それにしても地上で作業する広い場所があればまた違っていたんでしょうね」
都市が近いこともあり、これだけの規模となると近隣の農村がまず反対するだろう。
影のせいで作物の発育が悪くなるとか。
海上に出ているのは落下物対策だと思われる。
ンフィーレアは独自に調査し、考えてみた結果を書類にしたためている。
一見すると無謀だが打算的な部分があるヤントラ。
そうそう無計画に事を進めているとは思えない。
「二キロメートルほどの巨大な立方体を王国が建設を許可してくれるかな?」
「……門前払いですよね」
温厚な国王より土地を管理する貴族達が激怒するのではないかと。
ラナー王女は笑って許しくれそうだ。
当然の如く討伐隊が派遣されて大混乱になる、ところまではンフィーレアには想像出来た。
「一軒家なら許してくれそうですね。作るなら最初に地上で作ってから浮かせれば……」
「地上で作らないのは作業スペースの問題だ。いちいち広い土地を使うからね。その点、空中は遮るものが無い」
「ちゃんと考えてたんだ……」
「それはね。地上で作るのは簡単だけど、浮かせる方法がちょっと思いつかなかった。分からない事より分かっている方法から試していった結果だ」
「全体的に浮遊させるにはより高位の魔法になりますもんね」
魔法の持続時間を考えると空中に固定する時が大変な作業になるのではないだろうか。
不確実な方法では危険度が違う。
ンフィーレアは欠陥を思いついてしまった。
「僕が思いついた方法だと……、危ないですね。効果が切れると落ちます。支える手間が必要ですから」
僕が、というか一般的な思想だと思う。
なるほど。と何度も思う。
誰もが思いつく程度はヤントラも思いつく。
どちらが安全で効率的かは考えているんだろう。時々、失敗するのは確認のためだ。
数ヶ月もこの『
これだけの大規模な建築を維持しているのだから。
解呪されると簡単に瓦解してしまう弱点があるけれど。
ただ、一回では落ちない。徹底的なほど部品一つ一つに魔法がかけられている。
並みの
「将来的に触媒金貨屋が現れたり」
「発想が自由ですね、ヤントラさん」
「百年毎に世界は様相を変えるらしいけど……、どうなるんだろうな。あんまり殺し合いばかりされるのは困る」
モンスターを倒すのもいいが国が発展したり荒廃したり、誰も居なくならなければ、それはそれで良いのかもしれない。
文化が死に絶えるのはもったいない。
アインズに語学のレッスンなどをしつつ建築作業を続ける日が続く。
魔導国の周りは様々な人が往来するようになり、亜人も迎え入れる。ただし、人間を食料にしない種族から少しずつ。
国が平和だと冒険者の仕事は減ってくる。
それを補う仕事は必要だろう。
殆ど便利屋に退治屋と揶揄されるような者達だから農作業を手伝うくらいはどうということはないはずだ。
全ての亜人が友好的とは限らない。
敵性体のモンスターも居る。
魔導国から遠く離れた地に生息するモンスターなど。それらにちゃんと対処できる為には特訓が必要だ。簡単に死なないように。
悪事を働くものは罰する。それは魔導国とて同じ事だ。
エ・ランテルと魔導国の二つしかないので監視の目は厳しい。これから更に都市が増えれば監視の目も届かなくなってくるだろう。
都市を治める者に責任を押し付けるのは簡単だが改善してくれないと困る。
国の発展の将来設計はアインズにとって頭の痛い問題だ。
みんなが幸せならそれでいい、以上の事を考えていなかったから。
「世界各地にバカみたいな穴を掘ろうかな」
急に思いついたバカなこと。
イビルアイとンフィーレアは当然の如く嫌な予感がした。
「言ってることが既にバカみたいなのだが」
「穴……」
世界中というか国の許可は必要だが穴をあける。
それも大規模に。
地盤沈下とか落盤が怖いけれど。
デメリットとして掘り抜いた後の土の処分をどうするかだ。
雨水が入るだろうし、色々と不安要素が湧いて出る。
『マグヌム・オプス』はデメリットに色々な対策を講じているから今まで無事でいられた。
それはとても凄い事だ。
大雨による逆流も防いでいる。これは下水処理をしっかり整えた結果でもある。
「土地を取得する資金が気になりますが、無視します」
「おう……。思い切ってきたな」
「地下百とは言いませんが五十キロメートル四方を掘りぬきます。高さは十キロメートル……、そこまでになると落盤とか地下のマグマ層とか影響するか……」
「かなり深く掘ればマグマに当たるかもな。……今、とてもバカな結末が浮かんだぞ」
王国が噴火で吹き飛ぶイメージがイビルアイの脳裏に浮かんだ。
「とりあえず、聞きましょう。それから現実に出来るか調整すればいいんだし」
「フィア殿。国は滅ぼさないでくれよ」
「はい」
広大な地下空間を各国に作る。というものらしい。
その中にはち切れんばかりの金貨を満たす。
「触媒金貨ですね」
「それくらいの規模なら『
「金貨は減る一方なのと
イビルアイの指摘にヤントラは頷く。
「……本当にバカだな」
バカなことだが魔法による様々な発明が生まれるかもしれない。
特に触媒の調達は楽が出来るだろう。
無駄な事をしなければ、数百年は持つかもしれないという。
空中だと底に穴をあけたら、結構な被害が生まれるかもしれない。
確実に農村は飲み込まれるし、川に流れ込まれたら井戸水が金貨になってしまう。
国中混乱するのは火を見るより明らかだ。
「……国を滅ぼす気か?」
「あはは」
「実現すれば笑い事ではすまなくなるぞ」
「イビルアイさん。あくまで想像です。各国に触媒を提供する事で魔法文化が育つかもしれない。増やす方法があれば異常な分量は避けられるかもしれませんよ」
極端な例ではあるけれど大規模に魔法を行使するなら思い切った方法も必要だろう。
他国に攻め込まなくて済むかもしれない。
「国中穴だらけも嫌だな……」
「国家事業としては相当な量は必要になるかもしれませんね」
「せめて一軒屋だ。百年くらい先の事を考えているのかもしれないけれど……」
「イビルアイさんって現実主義者でしたっけ?」
「……その
「保管するとして穴は有効です。建物だと壁が壊れるので、結果としてどちらが被害が大きいかって話しになると思いますよ」
イビルアイとンフィーレアの意見がぶつかる。
「大規模は夢があるが破裂すると恐ろしいな」
「城だって瓦解すれば結構な被害を生みます」
「なかなか手が出せそうで出せない。夢と現実の戦いだな」
「探求はいつだって現実と戦ってますよ」
正論をンフィーレアは言うのだが、一概に否定できないところは感心する。
イビルアイも理想は否定しないけれど被害が先に浮かんでしまった。
触媒を使用しない魔法にだって限界はある。
「……だが、王国にも浮遊する建築が欲しい……。もどかしいな」
「絶対に解呪されない、というのは長い目で見ると厄介ですからね。というより城は魔法的に守られているんですか?」
「……いいや」
警備体制は万全だろうけれど、城を丸ごと防御魔法で包んでいるわけではない。
魔法攻撃を受ければ壊れる。ただし、一度に瓦解することはないはずだ。
余程の大規模破壊魔法でも打ち込まれない限りは。
第三位階の攻撃魔法なら家が丸焼きにはなるけれど国が滅びるほどではない。
浮遊する建築はしっかりと組んでいれば解呪されてもすぐには落ちない。
ただ並べただけの物は落ちるだろう。
問題なのは重さが戻ること。それにより重量が加算される。
最終的には浮いていられなくなる。
落下して地面に激突し、壊れていく。
普通の城は基礎から既に地面に食い込んでいる。
積み重なる重量を地面が全て支えている。
とはいえ、永遠に立ち続けられるのかは分からない。
いずれは崩壊するだろうけれど、それは遠い未来の話しだ。
「……壊れる壊れないの話しは不毛だな……。心配性になってしまったようだ」
「心配事は大事ですよ」
金貨貯蔵庫は案としては素晴らしいかもしれない。それに比例してリスクも高いけれど。
バカな話しの後で培養室の様子を見に行く。
不死性の部位以外はオリジナルをいつまでも保管している事は出来ない。
それが難題だ。
無駄に詰め込んだ部位も一部は破棄する。
処理を終えたものは一の宝物庫に保管していく。
培養室が
開いた空間は資材置き場にしておこう。