ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
O-1 強いモンスターは全てナザリックに居る
死後の記憶は曖昧で不確実。
睡眠時とさほど変わらない。
現実に引き戻されるわけではないから、固定されれば時間の感覚が無くなる。
目が覚めて千年後もおそらく不思議は無いのかもしれない。
失った日々は実際には数日だが、それらはメイド達の説明で補完していく。
「メイド達の画期的な扱い方とか、その時々で浮かぶから後で説明を求められても答えられないぞ」
と、見回りに来た一般メイド達に言うヤントラ。
全身が金貨が出来ている、という感覚は意外と気持ち悪い。
「同席したメイドによる書き取りの事柄は残されておりますから」
「そうかい? それでナーベラルは……うちのメイド達に捕まったと……」
監督役のナーベラルはあいも変わらず不機嫌な顔だった。
「強引な相手には強引な手で返す。それは置いといて……、我慢の足りない相手には手痛い反撃をするようにしていたが……。さすがはアインズ様だな」
「ふん」
慎重に事を進めようとすれば長考になる。
短気な相手ならすぐにでも拘束される。特に王国の貴族連中ならば。
戦略を練るラナーであれば一筋縄では行かないかもしれない。
「封印された部屋というのはずっと封印されたままなのですか?」
「百年くらい放っておけば解放されるよ。そこまで責任は持ちたくないし、次の世代にくれてやるさ、みたいな感じだ」
「……百年ですか……」
「月に行って基地が作れたら、ここは更地に埋め直す。改めて掘っても何も出ないように。立つ鳥は跡を濁さない」
「埋めちゃうんですか!?」
「こんな物騒な施設は無くなった方がいいだろう。イビルアイ達用の建物は残そうと思う。あと、畑とか。完全に更地には……、出来そうに無いな。その時に改めて考えるよ」
「分かりました」
「それにしてもナーベラルは我慢したのだな」
「施設の破壊は命令には無かったからな」
迂闊に破壊すれば罠が発動するかもしれない。
大人しく従う事が最善だと判断した結果だ。
一時の侮辱は耐えられる。
いざという時は破壊も辞さない、という命令ならば無理にでも抵抗したかもしれない。
ナザリックでアインズから耐えた事を誉められたので嬉しかった。
「そういえば培養室はもう何も無いから入ることは出来る。容器類も回収したし。稼動している部屋は荒らされると作業に支障が出る。あと、通り道も」
メイド達はそれぞれ頷いていく。
「隠し部屋を含めて、うちのメイドは百人に満たない少数だ。どんどん増えて千人になったりしない。それは大丈夫だ。各地に散っているメイドというのも少ないが……、砂漠地帯が一番多いかな。巨大モンスターを隠す意味で」
王国やスレイン法国、竜王国からでも結構な距離があるはずなので簡単には行けないと思う。
「分かってて邪魔しに行かないだろうな?」
「戦闘メイドに黒い仔山羊の対処は難しい。ご命令であれば行く事はあるだろう」
階層守護者も一緒でなければ粉砕されるおそれがある。
「
「餌付けしているわけではないが……。実験農園の人が作物を与えてから、来るようになった。まだ子供のようだし、うちのメイド達にも餌やりだけは命令してある」
無闇に処分するのは可哀相というエンリの頼みもあった。
エンリとて覚悟している。
大きくなっていく
段々とモンスターとの仲を深めていくカルネ村の村長。
歴史に名前を残す偉人になるかもしれない。
メイド達が見回りの仕事をしている間、ナーベラルには封印された部屋のいくつかを見せておく。
強引に立ち入られるよりはマシだし、罠にかかってしまうと解放が面倒くさい。
「偽物の出現するような罠は無いが……。質問は後回しにしてくれ」
「む……」
「そういえば、前に案内しなかったか? 中身はそんなに変わっていないのだが……」
「定期的に報告しようかと……」
「封印の部屋は献体を静かに眠らせると言う意味で
「うむ」
短い返事しかしないナーベラル。
これがアインズならわりと納得してもらえる事柄だがナーベラルはそれでも暴きたい衝動に駆られるらしい。
融通の聞かない部分なのかもしれない。
二の宝物庫はどうして封印していたのか、アイテムを保管したままだからと思い出す。自分でもなんで封印したのか忘れる事がある。
三の宝物庫は解放しているので問題なし。
屠殺場は言うまでも無い。
五の宝物庫は金貨。
六の宝物庫の地下二階は休眠中。
「よくよく考えたらあまり見せても面白くない気がする。急に新しい部屋が出来たりはしないぞ。道をふさぐことはあるけど」
「……それでも気になるところは見てみたいものだ」
「他人の秘密ばかり暴きやがって」
「……それは申し訳ない。こちらは私の権限では暴露できないけれど……」
ヤントラの方がナザリックの秘匿情報を知っている。
今のところ要求は無いのだが、ナーベラルはそれなりに覚悟していた。
「ところで、王や皇帝の寝室を見せろ、とか言ったりしないよな?」
「そこまでは言わない」
何でも知りたい気持ちがあるなら言ってもおかしくない。だが、そこまで非常識ではないとナーベラルは自負している。
宝物庫だから全ての部屋を確認したくなるのかもしれない。
第九階層の部屋の確認もたまにする。
「地上の宿舎は特に制限は無いが、食料は無断で持っていくなよ。うちのメイドが追いかけていくから」
「了解した」
持ち出す時はンフィーレア達に頼むと問題が無い、ことを教えてもらった。
宿泊も基本的に自由だが勝手な居座りは断っている。
事前に泊まる部屋を報告すれば何も問題は発生しない。
犯罪抑止のため。
中土月の中ごろにナーベラルを『
春だからといっても五千メートルの上空の気温は低い。搬入した資材は凍り付いている。
所々に木造の詰め所を設営。その中では温かい気温に囲まれて一部のメイドが寝泊りしている。
主にMP回復を兼ねている。
扉が凍り付いていたら
「規模が大きいから一ヶ月で何所まで進むのかは分からないな」
「重量にはまだ余裕があるのか?」
「今の段階では余裕はある。部屋の小物や数百人の客人を入れても大丈夫だが、重いエレメンタルや巨大生物はすんなりとは行かないだろう」
しっかりと魔法の効果が効いているのならドラゴンを百頭乗せても落ちない自信はある。
ナーベラルの印象では完成までにはまだまだ時間が必要だと思った。
ルプスレギナや他の戦闘メイド達にも見せていく。
特にシズは進行具合が遅くてがっかりしたようだ。
「……外気温を想定すれば仕方が無いこと。……温度管理も重要」
続いて休日のアウラ達にも見せる。
寝ているだけでは退屈なので、アインズから注意事項を教わりヤントラの下に来た。
「うっひゃー、これが空に浮いてるとはねー」
「……こ、これ一つで数年がかり、なら……。たくさんは、用意できないかも」
「試行錯誤しながら作業をしているから時間がかかっているけどね。一つ完成して何事も無ければもう少し早く出来るかも」
「木材で作るとしたらトブの大森林が綺麗な平原になりそうだね」
「魔法で作るとしても安定に、不安が、残るかも……。これだけの規模は、想定外です」
床板とメイド達の休憩所以外でめぼしい施設はまだ作られていない。
風呂やトイレも設置はまだ先の話しだ。
排水設備も整っていない。
見学を終えた後は作業の再開だが、その前に氷などは全て海に落としていく。
石鹸もナザリックに渡してフェルト作りに励む。こちらは最終的にどれだけ必要なのかは不明なので作りすぎるかもしれない。
ンフィーレアとリイジーによる設計計画書の作成などを行いつつ、近隣貴族の見学も受け入れる。
ヤントラ自身は貴族らしい仕事が出来ない。
ラキュースの補佐でも出来ればいいのだが、不得手な分野があるので無理に手伝ってもらうよりは好きなことをさせる方がいいと判断した。
子供達は定期的に遊びに来て、こっそりとカルネ村に移動する。
アインズの語学レッスンはすぐに慣れ、メイドの為の教材も作って行く。
意外と忙しい事にヤントラは驚く。
第九階層でそんなことを呟いた時、昼食を食べていたメイド達の顔が青くなる。
「どうかしたのか?」
「い、いえ」
「今日はアインズ様は一緒ではないのですね」
「……あっ、こら」
と、色々と言い合うメイド達。
不穏な空気を感じるけれど、それは自分が死ぬ前に何かが起きた事なのは察しが着いている。
それを蒸し返そうとは思わないし、どうせろくな事がなかったのだろうと。
「私が第九階層に自由に往来できるという事は特に問題が無いからだろう。
「そ、そういうものですか?」
殺された場面を目撃したメイドにとっては平然としているヤントラは凄いと驚いていた。
さすがは至高の、とか色々と小声で言い合っている。
「大ゲンカでもやらかしたか?」
「いいえ、それは無かったかと……」
「穏やかな会話が続いていたのは間違いございません」
和やかに殺されたのか。どういうシチュエーションなんだろう。
ヤントラは苦笑する。
「詳しく聞かないから。じゃなくて、もう聞いた後だったね」
「そうでした!」
「では、これまで通り個人レッスンなるお勉強は続けられるのですか?」
「そうだね~。日常会話や冒険者ギルドは特に問題が無いくらいだが……。帝国語が控えている」
「今度はそちらもですか」
「対訳を繰り返せば普通に生活するうえでは問題ないだろう。皇帝との対話が多いと思うし、覚えていけば交渉ごとにも有利になるだろう」
モモンとしても帝国語の依頼書を見る機会もあるだろう。
エ・ランテルは今は帝国からも人材が来ている。
共用語は無いけれどどちらの国の人間が多いかで標準語が変わってくる。
今はまだ王国語が多い。将来的には帝国語か第三国の言葉になるのかは未定だ。
更なる効率化。
それは簡単には出来ない。
地道に増やすか、活気的な素材を作り出すか。
とにかく続けるしかない。
楽して作ると手抜き感いっぱいの欠陥住宅になりそうで怖い。
雨漏り対策も出来ないだろうし、隙間風もひどいだろう。
歩くごとに異音が聞こえる。安定性も悪い。
「今のところンフィーレア君から見て、異常は無いかな?」
「そうですね。水平が保たれていますし、整然とした床は見事です。配管周りも特に問題は無いようです。気がかりがあるとすれば大質量を動かせるのか、というところです」
簡単な説明は受けていたが空中庭園よりもさらに巨大なものなので動かせる自信は無い。
こればかりは実践あるのみだ。
大体の方法は模索されているのだが、それは通常では考えられないくらい荒唐無稽なものだ。
鎖で引っ張るのだが、千メートル規模を魔法一つで移動というのは想像を絶する。
考えが煮詰まる事はよくある。その時は魔導国に王国語と帝国語の例文で手紙をいくつか送っておく。
なんて書いたのかの回答は手元に残しておく。後で忘れてしまっては困るから。
冒険らしい事から外れて随分と経った。
ずっとゲームが出来るわけが無く、大半は仕事。ヤントラの場合はリハビリも含まれる。
今は次のアップデート待ちの状態かもしれない。
新たな敵に新たなシナリオ。新マップ。
自分にとっては月が大型アップデートとも言える。それまでは平坦な状態が続くのかもしれない。
リイジーも同伴し、必要な部屋を設計していく。
寒さ対策の
「本当なら壁まで吹き抜けにしたいところだけど直射が怖いので……」
「集光すれば火災や目が潰れるかもしれんな」
壁の中は
一部は隙間があるせいで透明度が下がらないような工夫も考えておく。
修繕しにくい場合は事故対策が取りづらい。
風呂場。トイレは作るだけなら難しくないが排水処理は大変だろう。
水源の確保は未定だからだ。
倉庫と培養室は多めに確保する予定になっている。
既に金貨の貯蔵庫は出来上がっている。
後は執務室や寝床の位置。
「
近代科学をモンスターで代用すると意外と滑稽な姿が見られるかもしれない。
そう思うと笑いそうになる。
船外活動はアンデッド系なら余裕。アンデッドは気持ち悪いから女神級モンスターで代用しても大丈夫だろうか、とか。
議論を交えつつ作れるところは優先的に作って行く。
基本は正八面体だが辺には丸みを帯びた配管が伝っていくこともありえる。
一面には配管だらけ、ということもあるし、機能性は大事にする予定になっている。
鋭角過ぎて磨耗に耐えられるか不安が残る。
階層が多くても吹き抜け構造に安易に出来ない。しかし、広い空間は確保したい。
色々な用途に使用できるように柔軟な改造も視野に入れる。
偏った部屋の配置もできない。
壁面の損傷も考慮。
考える事がいっぱいあって大変だ。
作業に集中すれば数ヶ月はすぐに経過してしまう。
冒険者としては勿体ない時間の使い方かもしれない。
リ・ロベルに行き依頼書を眺める。
海沿いの町とはいえ海からモンスターが攻めてくることがない。というか、落下物で逃げてしまったような気もする。
漁業が中心のはずだから魚などを取るのだろう。
モンスターと一般の動物の区別が曖昧な気がするけれど、ちゃんと分けているのであれば問題は無いだろう。
モンスターとて食料になるようなものだから適当ということもあるのかもしれない。
海と言えば孤島。
遠い場所にあるにはある。
無人島だったものを漁師達が休憩地点として利用していた歴史が数百年前からあるという。
地図には載っていないが数十はあるとか。
あまりにも遠出すると帰ってこられないので無理に沖には行かないらしい。
過去に冒険者が言ったらしいが戻ってきた、という話しは聞かない。反対側の大陸に着いたのかもしれない。
海岸沿いの依頼は清掃作業が関の山。貴族の護衛や素材調達もあるにはある。
凶暴なモンスターの討伐依頼は無かった。というか、居ないのだろう。
そういえば人魚のモンスターが居たことを思い出す。
「海には過去に沈んだ船の宝が眠っていると言われている」
定型分のような言葉を話すのは地元の冒険者。
昔から言われている噂を他の冒険者に伝える一族みたいな感じだった。
「深い場所だから狙う奴は少ない」
潜水服というものは作れないわけではないらしい。
深度によっては一定以上は潜れなかったり、空気の管が切れて水死、ということもあるらしい。
無謀な挑戦で命を落す。宝が実在すれば努力は実る。
仮定の話しも挑戦して確かめなければ話しが進まない。
深い場所には凶悪なモンスターが居るものだ。
女体では
海の中は未開拓の場合が多いからヤントラもあまり詳しく知らない。
未知のモンスターがたくさん生息しているのかもしれないけれど、人間型はそう多くないだろう。そもそも口呼吸の人間が水の中に居るのはおかしい。
悪魔みたいな独自の生態系を作ることもあるかもしれないけれど、人間である必要は無い。
海底神殿があれば
神の怒りが降り注いだ噂が無いところから、近くには無いだろう。
それはともかく、他の依頼書を眺めて見ても緊急を要するような重大な案件は無い。
一人で活動するヤントラに出来そうなのは見回りと清掃しかなさそうだ。
どこかに
平和な世の中を無理に荒らす者は今のところ居ないようだ。
小さな紛争は何所にでもあるだろうけれど。
『
都市から出たヤントラは海に向かう。
平和である事は否定してもしなくてもいいだろう。
混沌としすぎていると文化が育たない。
「モンスターが居るというのに……」
国がしっかりしているのと高位のモンスターが現れない。
厄介なダンジョンが近くに無い事も原因だろうか。
低位モンスターによる騒動などはあるようだが、都市を危険に晒すほどではない。
大人しいモンスターが多いともいえる。
施設に戻った後で一般メイド達に愚痴を言うヤントラ。
日頃の疲れなのか、溜めすぎたストレスなのか。
「強いモンスター、全部ナザリックじゃん」
「……あはは」
メイドはどう答えたらいいのか分からず、乾いた笑いを見せる。
他に言いようがあれば任せたいところだ。
「この世界特有のちょっと強いモンスターは居ないのかね」
「外の世界は……、すみません」
「ナザリックのモンスター達は規則正しいですからね。勝手に外に出ません」
「冒険者らしい仕事が無い……」
「モンスター討伐の仕事はあった方がいいのですか?」
「適度に出来るほどには……。アンデッドモンスター以外は滅多に騒動が起きないのが不思議だ。森から
ラキュースの仕事の手伝いが出来るとは思えないのだが、とりあえず行ってみる。
『マグヌム・オプス』とリ・アインドラは結構離れている。
普通なら馬車で二日か三日近くはかかる距離らしい。それをヤントラは飛ぶように移動するので数時間で済む。
そもそも馬車は物凄く早い移動手段ではない。のんびりと進んでいく。ちょっとした競歩くらいのスピードしか出ないのが一般的だ。
子供達と触れ合いながら仕事内容を聞いていると眠くなってきた。
都市の治安や税の徴収率。嘆願書の整理など。
事務仕事が多い。
警備の依頼を出したり、城への報告書。
政の打ち合わせなど。
地味だが忙しい。
「大きな犯罪組織の噂は聞かないけれど、市民生活は何かしらの苦情があるものよ」
「戦争が無いのは良い事なのに……」
王国で出来そうなのは羊皮紙の販売くらいだろうか。
バレアレ家にやらせている、という点では立派に仕事をしているとも言える。
臨時収入があるのかは未確認だが。
「無理して貴族の暮らしをしなくていいのよ。研究者は研究者らしくあればいいと思う」
「……下準備に入ると暇な時間が出来るから」
「……ああ、そうだわ。こちらから色々と聞いてあげる。……あと、三人くらい子……、は忘れていいわ!」
慌てるラキュースにヤントラは首を傾げる。
跡取り息子という訳ではないのだが、財産に余裕があるうちに何人か子供を育ててみようか、という発想と同時に子育ての大変さを思い出し、断念する。
充分な教育機関があれば将来の国の平和に貢献できるのではないか、という事柄が脳裏に過ぎった。ただ、子供が大きくなるまでが大変だ。
小間使いに任せるのも手間だ。
「舞踏会に来ても権力闘争とかに興味が無い人には居るだけで苦痛よ、きっと。あと、お酒が出るから」
「モンスター討伐しか考えてなかった……。剣と魔法の世界だと思って楽しみにしてたのに」
「もう十年ほど昔ならモンスターが蔓延って賑やかだったでしょうね。王都周辺はモンスターより人間を討伐する方が多いかも」
役に立てそうに無いので子供達を連れて都市の中を散歩したり、召還魔法で天使を呼び出し、背中に乗せたりしてみた。
言葉をだいぶ話すようになり、色んなことに興味を抱く子供達。
モンスターに慣れすぎて本物に攻撃を受けたら泣くだろうな、と思いつつ退去させる。
結婚というシステムは珍しくないし、子育ても未経験という訳ではない。
ただ、ここが現実の世界だとして本物の子供だとしても驚きは無い。それはそうあるものとして受け入れているから。
順応とも言う。
ゲームの延長上かもしれないし、第二の人生かもしれない。
魔法が使えるのとモンスターが居ること。一部の物理法則とかがおかしいなど気になる点はあるけれど。
「お父さんはお母さんにもなれるんだぞ」
「ほー」
「急にモンスターにはならないけど、子供のうちは健康に育ってくれればいい」
子供達に望む高貴な願いは無い。
普通と言うか健やかに育てばいい。強くなるかどうかは本人次第だろう。
エロい方向に育つとラキュース以外が憤怒の形相を見せそうで怖い。
リ・アインドルは教育施設が充実しているのでヤントラが居なくても問題は無い。
海に連れて行けるのは夏ごろ。冬山登山する風習は無いし、そもそも娯楽が少ない。
剣術や魔法を少し勉強する以外は商売人になるか農民か。
貴族であるから黙っていても領主としての税収入があるから暮らしに不自由はないだろう。
小憎たらしい貴族にはなってほしくないな。
戦士や
施設に戻り、点検してから『
階層数が思ったよりも多いのが難点ではあるけれど仕方が無い。
それはそれで空中都市にも出来ると言う事だ。
積層構造で数万人程度は耐えられるだろう。現実的には小さい床タイル一枚に一万人も乗らない。
普通の家の規模よりも安全に出来る設計のはずだ。
問題は動くのか、だ。
巨大質量の物体だ。簡単にはいかないだろう。
嫌な金属音を響かせて瓦解。解呪されない限りあっさり壊れはしないだろうけれど。
どうなることやら。
縮小版を作って実験するしかないだろう。
「縮小版の設計をお願いします」
ンフィーレアに土下座で頼んでみた。
「了解しました。起動実験は大事ですよね」
ンフィーレアも何らかの実験は必要だと思ってはいた。
今回は無理を承知で作り上げるのだから一つ二つの無茶は想定内だ。
「材質は普通でいいですね。無理してオリハルコンにするよりは壊れ易い素材で試した方が色々と分かりやすいと思います」
まず最初に大雑把な縮小版を描き出す。
作成中の方は手を止めずに続けてもらう。
「一メートル規模から始めましょう。空中庭園は動かすだけは出来ましたし」
「永続化や魔法をかける順番なども大事なのだろう」
一メートルから十倍ずつの大きさの物体を作って行く。
百メートル級までを目安として用意するのに数日はかかった。
それらを魔法のみで上下左右に移動させる実験を繰り返す。
材質を変えながら。
大きければ抵抗が増えて動きが鈍くなる。ただ、見た
一メートル動かす移動速度はどれも一緒だ。大きさが目の錯覚を生み出しているだけ。
全体を包む鎖を引っ張り訳ではなく、魔法を伝達しているだけだ。ただし、途中で切れてしまうとどうなるのかは不明。
不測の事態のも研究対象だ。
電気は使わないので漏電の心配は無いのだが、雷魔法による感電なども調査しなければならない。
熱伝導など。
強風でも構わずに進むところは魔法の物理法則を無視した動きで苦笑してしまう。
「……便利な魔法はいつに無く凄いものだ」
「そうですね。スクロールでも可能のようですし」
「移動速度をあげるには魔法では限界があるかもしれない。風の力や爆発力の火力などもいずれは必要になってくるんだろうな」
風力で動かないものを近代科学で制御出来るだろうか。
融通が利かないところもまたの厄介なところだ。
空気と水、食料の循環も忘れてはならない。
鎖や金属の糸。理想としては網状に張り巡らせたい。
移動の次は転移実験。
高位の転移魔法になる。こちらは完全の闇の場合を想定する必要がある。
見える星は遥かに遠い。戻れなくなる事もあるだろう。
出来るだけ目標となる目印も配置したい。
「……もし数万人の
「仮に山を浮かせられたとしても宇宙には出せませんよね。観光名所には出来るかもしれません」
ンフィーレアの想像する映像では簡略化された浮遊する山になった。
魔法の可能性としては城も浮かせられるかもしれない。
落下は怖いけれど。
「部分的に重量を軽減できていないので開発は大変でしょうね」
火山なら溶岩が漏れ落ちて大変なことになるだろう。
第五位階の使い手が数万人も居ないから夢物語になっている。
魔法文化がもっと深く浸透していれば世界はかなり変わるだろう。
「こういう実験は他の人も交え方がいいか。今更だけど」
「……今更ですね」
ンフィーレアは苦笑する。
元々研究者などの知り合いが居ないから仕方が無い。
リイジーにそれとなく言うと他人に情報公開するのはもったいないと言い出した。
秘匿傾向にあるのが研究者の悪いところだ。
帝国に打診するとしても距離があるので迎えるのは大変だ。こっそり転移でもしてもらわない限り。
「国として発展する事には僕も賛成ではあるんですが……。欲の無い人なら素直に尊敬できるのに」
欲望の権化だから素直に尊敬出来ない。
女体以外は下心は無い。最近では部位の搾取もしていないようだし、帝国側に変な要求はしないかもしれない。
余程変わった人間でも居ない限りは。
生徒も大人しく鍛えるだろう。
「空飛ぶ馬車……。魔法をうまく使えば、簡易的なものなら出来そうですね」
物はヤントラが作るとして操縦者は『
よく考えたら凄い発明品が出来る気がする。
品質によれば将来的には個人でも魔法コストはかかるが作れない事は無いだろう。
必要な魔法はそれほど多くないし。
戦争には使えないとしても。空中爆撃の兵器として使用されるかもしれない。
ただし、それは将来の話だろう。
ンフィーレアは良くない未来が頭の中を過ぎったので、いろいろな仮説を立てることにした。
兵器転用にした場合の国の未来などを。
高位魔法ゆえのデメリット。それは遅かれ早かれ想定されるべき事柄だ。
地上の兵士にとってはひとたまりもない。
帝国の大
今はアインズ・ウール・ゴウンという更に上の強者が居るけれど。
戦争の事を考えればきりがないだろう。
後は悪意ある者に使用された場合など。