ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
イビルアイと共にンフィーレアは様々な仮説を検討する。
王国だけでは帝国が警戒する。
普及しそうなのは第五位階の魔法。それらを再検討していく。
良い事に使える魔法は悪い事にも使える。
「空飛ぶ馬車か……。夢のある発明ではあるけどな」
「誰でも扱えないけれど、空中も平和ではなくなってしまうのは困ります」
最終的には第三位階の術者だけ居れば済みそうな気がする。
フールーダを仮想敵とすると色々と作られそうな予感がする。
「対抗策を取れば抑止力にはなるかもしれませんが、泥沼化は避けたいところです」
「その為には平和条約の締結か……。犠牲になるのは兵士や市民か」
未来の話しだとしても便利な魔法は悪用されがちだ。
犯罪者の手に渡って泣くのは弱い人間ばかりだ。
「『
王国と帝国は第三位階が人類にとって最大の難所と考えられている。だから、被害が多く出ていない。
戦争が起きても戦うのは戦士職の兵士達ばかりだ。
「数が少ないから問題だ。逆に多く普及させてしまえばどうだろうか?」
「互いに空を飛びあう……。混乱……。色んな物が空から落ちてきそうですね」
「今のところは
帝国では実際に空飛ぶ騎士を運用している。
魔法文化がお互いに未熟だからこそ大きな被害が出ないとも言える。
いずれは強大な魔法を体得する人間が現れないとも限らない。
「抑止という観点から空の平和が守られれば普及しても良い、とも言える。急に集団で村を襲う
「技術の発展は新たな火種を生む……。頭の痛い問題ですね」
「
「縄張り意識とか国境問題とかあるのかもしれませんね。国に属して法を遵守する人達なら盗賊まがいのことはしないでしょう。……これ、国が検討したらどうなりますか?」
「紛糾するな」
イビルアイは即答する。
国王立会いの場であっても会議は難航するだろう。
抑止力に理解は持ってくれるかもしれないが、対抗策が浮かばないと簡単には運用に関して首を立てに振らない。
悪しき者は色んなことを企む。それに対処するのは難しい。
貴族お抱えの犯罪者など居れば尚更だろう。
「……ところで疑問なのだが……、今作っている巨大建造物は宇宙に出た後、落ちる可能性はあるのか? うまく言えなくて申し訳ないが」
「宇宙に出ると重力圏から外れて引っ張られなくなる、そうです」
と、言いながら図を描いてイビルアイに見せる。
「月が落ちてこないように、一定距離に達した後は停滞するか、この星の周りを回ったりするそうですよ」
「この中に居る限りは落ちる可能性があるのだな」
「物が落ちる力を『引力』といい、常に星の中心に向かって働きます。空中に留め置く場合は魔法によって擬似的に『無重力』を作り出します。でも、実際には引力に反発しているので、一定以上の強さを加えれば下に落とし込めます」
「うむ。魔法とはかくも偉大なものなのは分かった」
小難しい理屈があるのはイビルアイも知っている。
そもそも論で言えば魔法がなぜ存在しているのか、それは誰にもわからない。
六大神が伝えたのではないか、というのが有力な説となっている。
「単純な物理法則が通用しないので僕にも正確な理屈は説明できません。隕石を落す魔法のように、そんな馬鹿げたものでもないかぎり宇宙に出た物体を落すことは無理でしょう。後は城に向かって移動させたりしない限りは」
「この一度出た後で戻ろうとすると摩擦熱が発生する、と聞いたのだが……」
「防御魔法から出るのは簡単ですけど、入るのが難しいって理屈でいいみたいです」
「……凄く納得した」
「星を空気の壁で覆っているので僕達は息が吸える。出なければ酸欠になって呼吸ができなくなります。あと、仮に穴を空けたとしても自然に修復するそうですから出る分には問題が無いそうです」
という説明はシズ先生によるものだ。
「星を包む空気の壁は常に動き続ける風のようなもの。ガラスのような無機質ではないので壊れる、ということは無いのだとか」
「そこまで行かないのによく知りえたものだ」
「そうですよね。でも、天文学では色々と研究されている分野でもあるので、魔法一辺倒の不可解な説明ばかりではありませんよ」
「学問は素晴らしいな」
時代を感じさせる。
二百年前に無かったもの。百年前に無かったもの。
時を経るごとに新しいものが作られる。
激しく変化するのは人の
長年続いた風習はそう簡単には変わらない。だが、何かのきっかりがあれば色々と変わるものもある。
ここ数年で王国のみならず周辺国家の様相は劇的に変わっただろう。それだけでも凄いとこだ。
闇に紛れて暮らしてきたイビルアイはひしひしと感じていた。
「んっ? 隕石は魔法によるものか?」
「それもありますが……。もともと通り道にあったりすると落ちてきたりするかもしれません。物凄く遠くて把握するのが困難なほど、とか。その時は諦めるしかないかも」
シズ先生による解析では小さな石の集まりのような場所があり、何らかの事情で星に向かう軌道を取る事がある。
絶対に来ない、という保証は無い。
「星の中に入る場合、摩擦熱に耐え切ったものだけです。小石程度なら燃え尽きてしまうそうですよ」
燃え尽きないと地表に色々と落ちてくる。
流れ星が星に向かってくる隕石だと今の研究者は言っている。
シズ先生も。
「では、いずれ星を砕くほどのものが来る可能性もあるのだな」
六百年の歴史の中では起きていない。なので明日にでも星が崩壊すると言うのは暴論かもしれない。
「そんな時があるなら徴候が現れるはずです。何も分からず一瞬で星を破壊するような事態は無いと思いますよ。それこそ月が落下してこない限り」
「そうそう、月だ。あれはなぜ落ちてこない?」
「『衛星』と呼ばれる天体だから、としか……。うまく均衡を保って今まで星の周りを回っていたんでしょう。この星に落ちるかは不明ですが急に進行するのは考えにくいです」
「……まあ、そうだよな……」
二百年前から月があるのに今すぐ落ちるのは考えすぎだ。
落すような魔法でもあれば別だが。
「……思い込みは思考を狭めます。星の動きとか専門家の意見も聞いていますから」
「そうだな。フィア殿が全てを解決するわけではないものな。魔法は時に天体すら操る、と言われていたことがある」
「それが出来るのは高い位階魔法ですよ、きっと。少なくとも隕石を地上に落せば辺りに甚大な被害が出ます。敵を倒すのに使うには危険すぎますよ。ゴウン様も周りに被害をもたらす魔法は使いたくないと言ってましたし」
「色んな意見を集める事は大事だな」
色々と模型が無いとイビルアイに説明できない気がした。
シズ先生に相談して色々と作る必要があるだろう。
宇宙や最先端科学についてシズはとにかく詳しい。ただし、ンフィーレアよりも専門知識を持っているというだけで宇宙の原理を説明できるほどではない。
仮説を立てることは大事、という意見では自分達の学問と似ている。
今のところはイビルアイに月は簡単に落ちない事を頑張って説明することにした。
ちょっとした育児放棄のような気がしていたのでヤントラは子供達を施設内で遊ばせて見る。
まずは女体の解体から。
というのは無理だった。遊べるような場所も無い。
この人達は用が済んだら処分されるんだよ、と説明するわけにも行かない。
「武器を持たせて
もう少し大きくなってから色々と考える必要はあるだろう。
遊具を作るとしても女体が命がけで用意した金属はさすがに気まずい。
ヤントラとて気にする。
入手が簡単な木材を加工して色々と作ってみる。糸は
完成したのはブランコとシーソー。
滑り台は製作中。砂漠から持ってきた砂で砂場を用意。
遊び方は伝えたのだがシーソーを一人で使うと子供には結構危険だ。
出来ないことは無い。物凄く虚しくなるけれど。
ブランコは好評のようだ。他の遊具は思いつかないし、危険な物は作れない。
鉄棒やジャングルジムはまだ早そうだ。
少なくとも
「子供が喜びそうなものか……」
完成させた滑り台。今度は
ジャングルジムを
折角作った宿舎も活用しなければ勿体ない。
いっそ潰してしまうのも手だ。
娯楽施設は大事だ。退屈は最大の敵と言える。
食事処も作らなければならないし、街造りは必要だろう。
この施設を都市化させる事は出来なくとも浮遊施設には色々と取り入れる必要がある。
移動倉庫に過ぎなくとも、将来的には宇宙ステーションとして活用する事になるだろう。
今回は思い切って規模を拡大しすぎた気もするが、それはそれとして挑戦する。
「後は新たなモンスターとかかな」
荷物を積み込める段階までは新しい事はしなくていいのではないだろうか。
余計な荷物は月に運び込んでからでも遅くは無いだろう。
次の日、大量の
「おばあちゃんの知り合いの方々です」
大人数をいきなり連れて来ても仕方が無いので数人ごとに慣れさせる作戦に出た。
春とはいえ気温の低い場所。
しっかりとした装備は用意した。
移動した先についてまず荷物を事務所に運び込む。
転移の方法を伝えて装備の再確認をする。
「まだ階段などは無く、メイドによる移動となっています」
「了解しました」
木造の事務所の中には
「積層の床板を並べる作業を優先させていますが、膨大で時間がかかっています。出来る間に他の事も設計しておかないといけません」
床下収納や壁。配管など。
作業に当たるメイドを適度に避難させる。
温度差が激しいので未だに一般人を招くことが難しい。
「苛酷な環境の方が色んな事態に対処しやすくなります。かえって丈夫なものが出来るかもしれません」
「そうでしょうね」
「周りをシーツで包んでいるので雨や雪は防げますが……。気温はどうにもなりません」
シーツには破裂を防ぐ切れ込みがあり、そこから水滴などが落ちて内部を凍らせる原因を作っている。
高温多湿になりやすいので空気の逃げ道は必要だった。
高山の頂上に匹敵する場所での作業なので色々と地上とは勝手が違ってくる。
見切り発車が多いヤントラの計画は色んな問題が発生する。だが、それはあえて起こして原因を究明し対処するというものならばンフィーレアも納得する。
何も考えていない、というところも否めない。
「……
「生息している場所は分かっているんですか?」
「一応は」
炎の蜥蜴モンスター。
全てのモンスターが近場に居るわけがないので探すのは冒険者の醍醐味だ。
「冬場は中でも雪が積もります。外壁が無い状態でこれらを問題なく排除する方法は何か意見がありますか?」
ンフィーレアは早速、色んな問題点を提示して質問していく。
様々な意見を集約する事はとても大事だ。
将来、何が役に立つか分からないし、役に立たないまま終わるかもしれない。
研究結果は持ち帰ってもいいと以前から聞いている研究者は特に反応はなかったが、新しい人材は驚いていた。
秘匿するのが美徳と思っている人間も居るかもしれない。
「オリハルコン以外でも作れなくは無いのですが……。問題は扱う魔法です。第五位階魔法……。これを普及させられる世の中にならなければ夢物語です」
「……第五位階……」
「帝国では一部は第五位階まで扱える人が居るらしいです。もう少し人数が増えてもいいかもしれませんが、悪用は怖いです。それと永続させる為に必要な資金。一回につき金貨二枚かかります」
ンフィーレアは王国金貨と交金貨で実験して実証して見せた。
『
ちなみにユグドラシル金貨だと二百五十枚。
「地上の建物なら『
範囲を小さくすれば重量はそれだけ分散できる。逆に広い板だと重量は分散しにくくなる。
分散しにくい、というのは一枚にかかる負荷が増えるということ。小さい板を敷き詰めた板に乗る事を考えれば分かりやすいだろう。
節約するならコストを何所にかけるかが問題になってくる。
自分たちが今居る場所は節約せずに資源を投入している。それを地上で再現しようとすると国家予算が枯渇するほどになってしまう。
しっかりした基礎と数百年も変わらない材料で出来ている城だとしても外部から攻撃を受ければ壊れる。
宇宙では壊れてはいけないものを作らなければいけないとシズ先生はおっしゃった。
外が真空なので穴が開いたら中のものが外に飛び出して空気も無くなり、大変なことになると。
安全確保は絶対に必要だから手抜きは出来ない。
万が一の事故の対策も取るのが当たり前。
シリカなどは再突入させなければ使用しなくていいものでアダマンタイトなどの強固な外壁で充分だという。
往復できる事も想定しないと宇宙開発は出来ない。と、シズ先生は断言した。
「僕らだけで宇宙に行けるまでには何世代もかかるらしいので、ここでは様々な技術革新を勉強しましょう。地上の建築物とか新しい発明の役には立つでしょう」
「宇宙……」
「帝国などにも伝えるのですか?」
「その予定です。地上で争ってばかりでは権力闘争で人生が終わる……。世界を壊す事は簡単です。維持して発展させる方が難しい」
星とて永遠に存在すると思わないことだ、とヤントラが言っていた。それは今はンフィーレアの判断で言わない事になっている。
星が崩壊する、というのは遥か先の事だが人の手で終わらせる事ができる、可能性がある。
帝国には独自に伝えるつもりでいた。
難しい事は切り上げて、それぞれ護衛のメイドを伴って移動していく。
あくる日には更に数十人を追加する。
その次の日に近隣の貴族も招く。
「オリハルコンの無駄遣いではないか」
レエブン侯の配下の騎士が言った。
他の者も同じく憤慨している。
「丈夫な金属で手に入れやすいものなので」
レエブン侯は苦笑する。
「地上だけではなく空にも凄いものを作られるとはな。こちらの方が安全度は高いのだろう」
「落下防止対策は取っていますよ。人に見せられない物の宝物庫に比べれば今の『
「月に持っていかなくてはならないんだったな。では、地上の施設は……?」
「更地に戻してお返ししようかと」
「……それはそれで勿体ない気がするな。かといって……、これほどのものが地上にあっても困るだろうな……。特に範囲内の領地を持つ貴族にとっては」
落下物で被害が出たら困るし、抗議の声が上がるだろう。
事前にンフィーレアから色々と聞いてはいたが実際に目にすると驚かされる。
『マグヌム・オプス』も様々な意味で恐ろしい施設だったけれど。
沖合いのリ・ロベルへの被害も考慮されているとか。
恐れてばかりでは建築物は全て脅威となってしまう。
王都に浮遊建築の打診はされているようで、王は色々な意見を聞いて検討していると聞いている。
落下は怖い。とはいえ城も高い位置にある部分が折られたりすれば地上に少なくない被害をもたらす。そちらはどうして問題にならないのか、という意見が出た。
魔法によるものだろうと高い建築物の危険度はそれほど差は無いはずだ。
「金属は加工しやすいから石材には向かないのだったな」
「サビや劣化も考慮していくと新しい素材の開発をすることになりそうで」
「この
身にまとう気持ち悪さを我慢すれば身体を守る優秀な防護服ではあるのだろう。
羞恥心さえ克服すれば排泄物すら処理すると聞いている。
「それにしても空中なら税はかからない、というだけでここまでのものを作るのはヤントラ殿くらいだろう」
「あまり国に迷惑はかけない、という意味合いで始めたので」
「君のお陰で戦争の意味合いが分からなくなったよ。帝国と戦うのがバカらしいと言うか……。帝国側も似た気持ちになったから宣戦布告を出して来ないのだろう」
集めた情報ではバハルス帝国は真面目に国の治安維持や発展に力を注いでいて、兵士達の育成は従来どおりだが国民の幸せを本気で考えているらしい。
今年の皇帝の支持率はとても高く、評判も良い。
年間行儀も滞りなく勤めているという。
王国は国王の身体を気遣ってはいるのだが、また少し利権争いをしている。
同国関係を結ぶ国として南方の聖王国に使者を送ろうとしているのだがモンスターに阻まれている。
森の中にやたらと強いモンスターが巣食っていて邪魔をしているらしい。
スレイン法国にも使者を送ってはいるのだが、こちらはあいも変わらず中立を保つ立場のまま。
竜王国は遠いのだが魔導国を突破しなければならない。
この国はスレイン法国と現在、仲が悪くなっているらしく王国側との同盟にも前向きという噂がある。
「敵なら倒せばいい。それは私も同意見です。……ただ、世界は広いので世界は一色より雑多な色合いの方が面白そうかな、と」
「では、今の王国は広いのか、小さいのか、と聞かれたら?」
「全体的には広いのかもしれません。自分の手に治まる程度でいいのではないかと思います」
国土を増やすより同盟相手を増やす方がいい、という解釈にレエブン侯には聞こえた。
味方の国を増やせば商人や人の往来は増えるだろうし、新しい文化を知ることが出来る。
どの国もそれぞれの事情で同盟関係を結ぶ。時には敵同士の国とも。
属国と同盟国、意味合いは違う。
帝国、スレイン法国。今は新たな魔導国に囲まれてしまった。
自国のみで国力を付けるのにも限界はあるだろう。
他国と会談を持って友好関係を構築することも大事だ。
アーグランド評議国に使者を送ることも検討してみたが相手は多くの亜人を擁する
味方が多くなったとはいえ反対派は居る。
立ち位置的に帝国の分があるけれど、負けてはいられない。
一日おきに見学者を入れれば一ヶ月はすぐに経ってしまう。
研究者は早く過ぎ去る時間が勿体なくてもどかしい。
「はっ!? 私の秘密の工房になぜ多くの研究者が!?」
「えっ!? 今更驚いているんですか!?」
ヤントラの驚きに驚きで答えるンフィーレア。
離れていたイビルアイは苦笑する。
「おかしい……。確か一人でこっそりと作っていたはずなのに」
「フィア殿の熱意に負けたのではないか? 研究成果は色んな者達と共有すれば新しい発見があるとかないとか」
「僕はちゃんと覚えています。元々はおばあちゃんの面倒を見る為に来ていたことを」
「それを利用して秘密を暴いていたことを……」
と、イビルアイが続けるとンフィーレアは苦笑する。
結果的には秘密の暴露になったのは間違いない。それは言い逃れできない事実だろう。
「ちなみに私は城に打診し、ご主人の活動に悪影響が出ないように尽力したぞ。王も『
「むう」
「ひっそりとエロい実験をされるのは王国としては見過ごせない事態なのだがな。ここしばらくは真面目な事が多くて安心している」
貴重な種族を増やすとか言っていた気がするけれど。
護衛のモンスターが数体程度なら今の王国は動かない。
都市部で暴れなければいい。
カルネ村も来客を脅すような事は無く、外敵モンスターの排除にも協力的だ。
自然界の
一体だけの
自我が無いせいか、表情に乏しいところが気になるようだ。
「賑やかなのは嫌いではないけど……。改めて考えると変だな~とは思う」
思っていたのと違う。そんな気分と似ている。
「個人で研究していたのに第三者がよく口出しするからな」
「……すみません。興味本位でした」
素直に頭を下げるンフィーレア。
「今更排除は出来ないけど、増やしたら増やしたで色々と問題が出るんだろうな」
「それは間違いないな。特に他国の研究者を入れたら小さな戦争が起きる」
互いの研究成果を巡った争いなど。
兵器開発しない所はイビルアイ達の安心できる点だ。
施設そのものが巨大兵器と言えなくはないけれど。
「こっそり小さい箱型を作ってさっさと月に行こうかな」
「……それだと楽なのか?」
「はた目から見ると不恰好で夢がぶち壊しになるかもしれません」
「あ……、なんか今浮かんだ。その間抜けな風景が……。……なるほどね~」
普通の立方体がただ月に向かって飛んでいく。
単純すぎると面白くない。
「正八面体といえども飛ぶ風景は……。あちらは規模が違うか……。浮いてるだけでも迫力のある浮遊要塞……」
「積層構造ですもんね。ただの箱では……」
『
しっかりした骨組み。様々な施設を内包する包容力に溢れている。
改造次第では浮遊する住宅建築にも出来るし、一つの都市にもなる。
外観は単純だが技術者や錬金術師の夢が詰まっている。
「先に行けば転移が楽になりますね。でも……。すみません」
と、フィーレアは頭を下げる。
「みんなで使いたいです。巨大建築物の中身は色んな人と共有すべきものだと……」
「ご主人のいかがわしい実験が出来なくなるぞ」
「もう一つ作れと……」
「そこまで巨大でなくても縮小規模を近くに配置してほしいです。できれば宇宙空間とかに。転移付きで」
言うだけならタダ、という気持ちでンフィーレアは直談判する。
今なら拒否されても平気、という気持ちがあった。
倉庫に使うだけでは勿体ない。
オリハルコンを抜きにしても色々と新たな実験をするには宇宙は未知に溢れている。
新しい発明も大事だ。研究ももちろん大事だ。
「永住はきついと思うので……」
「打算的だな、フィア殿は」
「研究は地上で続けますけど、宇宙にも行きたいです」
宇宙に出ると様々な障害が発生する事は聞いている。
太陽の光線を直接受けると危険だとか。有害な光線が飛び交っているとか。
現段階では誰も連れて行けない。
下手をすれば内部に待機させるメイド達が丸焼けになるかもしれない。
「その前に……、外の大きな物体を片付けないとね」
浮遊と移動の実験の為に用意した物体の片づけを忘れていた。
数日放置した時の移動距離の調査では星と動きを合わせているようだった。
これはすっかり忘れていた事だが魔導国に用意した物体は今のところ問題が無いのは確認した。
空中で停止すると星の回転と切り離されてしまうかもしれない、という仮説を立てて真下に糸を垂らして移動距離を測る。
動いていなければ同調している事になる。そうでなければ独自に停滞し、星の動きに干渉されないことになる。
つまり完全に停止してしまうと星においていかれる。
引力の作用からも切り離されると空中に停滞している都市エリュエンティウが何故、その場に留まっているのか説明できなくなる。
この星は太陽の周りを回っている。四季があるのだから天動説は通じない。
星の回転に逆らう魔法の法則ならば浮遊する物体は星の動きに連動しない。
ンフィーレアと様々な学者の実験では浮遊の魔法は星と連動している。ゆえに真下の糸の位置は微動だにしない。
これは永続化された後でも有効だった。
ただし、それは基点となる
宇宙に出ると引力から解放され、星とは連動せず、独自の動きを取る事もありえる。
宇宙に出れば他の星の引力も作用するだろうから違った様相を見せるかもしれない。
様々な仮説を実証し、証明していく。
「手からなぜ火が出るのか、と言われると魔法だからと言うのは簡単ですよね」
話しを聞いているうちにヤントラはある事を思い出した。
それは倉庫である『マグヌム・オプス』には本来、必要の無いものなので失念していたものだった。
羊皮紙というものがあるし、全く思い至らなかったもの。
それは『黒板』だ。
存在自体は確認している。帝国の魔法学院にはあった。
「黒板? ああ、そういえば……」
イビルアイとンフィーレアは頷いた。
リイジーは自分の店の方に既に用意しているのでンフィーレアは特に気にしていなかった。
誰かに見せるわけでもないのに黒板が必要な理由が二人共思いつかなかった。
「大きな黒板に数式とか理論を書いて思考を整理する上では必要だろう」
チョークは安価で自作も出来る。
早速、試験的に壁などに黒板を用意していく。
ンフィーレアには様々な計測機器も追加した。
「六の宝物庫を僕らが占有してすみません。倉庫なのに……」
「君達に色々と頑張ってもらっているからね。……そうなると更地に出来ないな……」
「私が魔法でフィア殿が錬金術、建築学……。フィア殿、随分と学問が増えたのではないか?」
「おばあちゃんと共同研究をしていますし、
規模がとんでもないけれど。
ポーション研究と薬草の加工は今まで通り行っている。
「チョークの粉は問題ないですが月に一回は掃除した方がいいかも」
「うむ」
「肉片や血でなければ安全でしょう」
「……血生臭い実験は気をつけるよ、ご主人」
さっそくイビルアイは黒板を使い始める。彼女は飛べるので縦に並べても問題は無い。
カッカッカッと小気味良い音が聞こえてくる。
ンフィーレアも定規と脚立を使いながら書いてみた。
「……広い黒板は書きごたえがありますね……」
他の職人も利用できるようにンフィーレアの方は十メートル規模の黒板を十枚ほど並べてみた。
七の宝物庫の地下一階にも大きな黒板を設置してみた。
役割分担や連絡用のメモとして。
別の日にンフィーレアは様子を見に来たアインズに黒板に書きつつ説明を始める。
息抜きに来るらしい。いわゆる小休止だ。
かなり王国語を覚えたアインズは大体のことは理解出来た。どうしても分からない事はさすがに尋ねる。
お供として連れて来た一般メイド達もンフィーレアの近くに控える。
「星は回転している。魔法によって空中で停止すれば、そもそもその場から動かない、というか地面の方が動いているから。……あ~、表現が難しいな。動きによっては城にぶつかる事もあるだろうな」
便利な魔法に
魔導国に作らせた浮遊する立方体も知らず知らずのうちに高い建物とかに当たる可能性だってあっただろう。
細かい事だけれど、実験や仮説は大切だと改めて思った。
巨大な物体を動かす時、中身が移動するのか気にしていたヤントラの言葉はまさに
外側が動いても中身が停止していればどこかにぶつかってしまう。
慣性の法則が働かないこと、と当時は聞いていた。
だからこそ『
魔法に物理法則を適応させる為に。
例えば浮遊する城のどこかに紐を結ぶ。それを引っ張るだけで城が動くのか、という問題にどう答えれば正解だろうか。
重さが無いなら子供の力でも動くのが正解のはずだ。
水平には動かない、という縛りがあれば微動だにしない、が正解の時もある。
もし動くのなら強風に煽られたら動くのか、と聞かれればどうだろう。
そういう一つ一つの疑問をしっかり考える事は大事な事だろう。
「この引力から解放されたら止まっている物体はどうなるのでしょうか?」
「本当の意味でその場に停止する、かもしれないな」
近代科学技術があれば星の回転運動に同調することが出来るかもしれない。
西洋ファンタジーがSF色を帯びていくのは複雑な思いを感じる。
星から出ると魔法の効果が無くなる、という仮説がある。自力での移動もできるようにしなければならないだろう。
「天文学のようですが、空中建築には欠かせない学問だと気付きました」
「そうだろうな。私も失念していた」
小気味良いチョークで書く音は不思議と心を和ませる。
不協和音に聞こえない。ンフィーレアの書き方がうまいのだろうか、と思った。
図を視覚的に見ながらの説明は理解し易い。
「安全度が高まれば……。帝国だと空中兵器とか作られそうですね」
「空中騎士団のことか? 数が少ないから……。懸念は理解しているぞ」
数百の空中騎兵を用意できれば王国との戦争も早いうちに終わっていただろう。
それをしなかったのは平和的に降伏させようとする皇帝の意思が働いていたためかもしれない。
『鮮血帝』という二つ名を持つが血に飢えた戦闘狂ではない。
兵士の健康管理を気にするところがあり、国民を愛している。
「近代兵器は国によっては試したくなるもの。すごい魔法は使いたくなるとの一緒だ。物騒な考えを持ってはンフィーレアも困るだろう」
「はい」
「魔導国に作らせた建物は使い道があるわけではないが……。あれはあれで素晴らしいものだ。もっと機能的に作るには職人を育てなければならないだろう」
落下を恐れては飛行機は作れない。
今は一つ二つと作る程度だが、天空に浮かぶ城は魅力的だ。
自分好みに改築できるのであれば尚更良い。
「絶対にオリハルコンでなければいけないわけではありませんが、外敵の攻撃に対抗する手段があれば心強いです。今のところ地震と洪水には強いことが分かっています」
カカっとチョークで書かれる立方体と災害の様子。
矢印には使われる魔法。
「従来は床が浮いていないので気にしませんでした。空中建築は背面も気にしないといけません」
寝る時、背中に気配を感じやすくなる。
床板が薄ければ矢を放つだけで終わる。
一つを気にすれば次々と気にする点が生まれる。
火災に地震。戦争と災害。
対処できるものにも限界がある。星の崩壊はどうしようもない。
「壁際は厚く、寝室は中ほどに作ります。偏りは魔法によって発生していないのですが、出来る限り安定に努めます」
「安定と言っても魔法は自動的に補正してくれないだろう」
「はい。傾いたものは傾いたまま。ヤントラさんはメイド達に正確な水平を保つように命令して解決しています」
道具を使えばンフィーレアも水平に保つ事は出来る。
巨大建築では全てを正確に水平にすることはとても困難だ。城でさえ多少の誤差が出る。それが『
板に球を乗せても転がらないほどだ。
「宇宙も気になりますが、地上も発展させなければなりません。魔法にばかり頼っても不安ですし」
「そうだな」
「もちろん、薬学も研究しています。森の薬草は取りすぎれば枯渇してしまう。安定的に得るには栽培技術を身につけなければなりません」
多岐に渡る研究をしなければならない。
それらはンフィーレア一人が秘匿していると技術の向上はとても遅くなる、予感がしていた。
たくさんの研究者と切磋琢磨した方が新しい発見もある。
ヤントラが作っているのは数世代先の技術だとンフィーレアは見込んでいる。その技術に追いつける自信は無いけれど、きっかけはもらった気がする。
モンスターの発生頻度が多ければ冒険者の仕事も増える。今は山や森、洞窟などに隠れているのか危険というほどのモンスターは現れていない。
人間の犯罪が多いくらいだ。
全ての人間が高い信仰系魔法を習得しているわけではないのでポーションや薬草の需要は無くならない。
あれもこれもとンフィーレアは研究できるわけではないけれど、知りたい事はまだまだあって大変だった。
「人材の呼び込みはンフィーレアが判断すればいいだろう。ただ、我々に害なす者は許さない」
「はい」
「こちらはしばらくは国の運営に努める」
浮遊する倉庫は魔導国が招いた研究者たちに様子を見させている。
ンフィーレアの意見も大事だろうから様子を見に来る事は許可した。
「これらの文字は消すのか?」
「大事なものだけ書き留めます。黒板は書き散らしをあえて残して新しい発想の糧にするんです。一見、無関係な両者が実は凄い技術の基礎になったりと……」
書きなぐりの王国語は判読が難しい。
書いた本人も時々、なんて書いてあるのか分からなくなる事があるという。
アインズはポーション造りに必要な工程を書かせた。
「現在の工程では再現率は半分以下ですね」
「使っている素材が違うせいもあるだろう」
高い位階魔法を扱えるのであれば、満足する一品まであと少しだろう。
「近い効能の素材を見つけるしかないな。無理に赤色に拘らなくてもいいだろう」
ンフィーレア達が作っているポーションは青系。
毒性の確認をし、鑑定もしっかりする。いきなり人間に飲ませたりはしない。
チョークの音を聞きつつ制作方法を眺める。
スキルによる製作ができるようだが基本的には自分達と大差がないように感じる。
必要な道具と方法、素材を与えれば全く同じとまでは行かないが優秀なポーションは確保できるだろう。
ここ三年で敵対プレイヤーの存在は確認されていない。
未だに潜伏している、というのがありえるのか疑問だが、隠れてばかりでは息が詰まる。
時には姿を見せるが攻撃の手は未だに無い。
警戒は怠らないけれど怯え続けるのは不健康だ。モモンとして活動しつつ街の巡回は今も続けている。
遠出が出来ないのは少し不満ではある。
暇つぶしに『
宇宙に上げておけばシズが喜ぶようだし、手を出すと悲しむだろうな。
役割上、表に出せないから難儀させている。