※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

196 / 213
O-4 自らの複製と対面

The end of YGGDRASIL

 背中に土ぼこりを付かせたヤントラは起き上がる。

 第二の人生を歩んでいると言うのに面白い事が少ない。

 それはとても勿体ない事だと思う。

 出来るところまでは進もう。

 本体は要らない。今頃は廃棄物として捨てられている様な気もするけれど。

 案外、現実の方は時が止まっている、というオチかもしれないし。それはそれで最悪ではあるけれど。

 夢の無い世界はこちらから願い下げだ。

 さようなら、本来の自分。

 だからこそ、気の済むまで好き勝手させてもらう。こんなところに飛ばした者が責任を取ればいい。

 

 バン。

 

 そんな音が聞こえた。

 例えるなら胴体が分断されるような肉を断つ音。

 いや、例えではなく今まさに身体が真っ二つにされているところだった。

「ありゃ、当たっちゃった?」

 暢気な声はアウラだろう。

 数年来の友人ではないので最近聞いた声には覚えがある。

「う~ん……。避けるもんだと思ってたのに……」

 そんな事を言いながら胴体を合わせるアウラ。

 申し訳無さそうに舌を出して謝ってきた。

 ヤントラは仕方が無いな、と思いつつ『大治癒(ヒール)』で身体を繋ぎなおす。

 あまりに離れていると下半身の再生成が始まるが、繋いだ状態であれば接合が始まる。

 普通の治癒魔法も第五位階以上でなければ傷口が塞がるだけで肉体の接合や再生は起きない。

 起きにくい。が正確か。魔力の強さも関係するだろうから。

 もちろん、ひっくり返されていれば途中で効果がなくなってしまう。

 そう簡単に変わった接合などはしない。

「黄昏(たそがれ)ているところを……」

「えへへ、ごめんごめん。でも、無事に治ってるみたいで良かったよ」

 血に濡れたアウラの持ち武器である鞭を見る。

 人間相手でも使い手によれば立派な凶器だ。

 アウラは再生が終わったヤントラの身体をつつきつつ興味深げに眺めた。

 本来の性別とか色々と考えているのかもしれない。

「んー、今日はあたし達の複製でも見せてもらおうかなと思って。アインズ様はそ(・)れ(・)と(・)な(・)く(・)見せてもらうように言われたけれど、あたしは面倒くさい事は嫌いなの」

「素直だね」

「ありがと」

 子供らしい笑顔を向けてくるアウラ。

 この場でアウラを殺せば世界崩壊のフラグが立つかもしれない。

 だが、タレントの影響という訳ではない、はずなのだが殺戮を行(おこな)う気が起きない。

 最初こそ敵は全て殺すべし、だったような自分が殺生を控えている。

 自分のアバターの性格設定の影響もあるのかもしれない。

 本来、ユグドラシルプレイヤーがストーリーを進める為に必要な行動原理とでも言うのか。目的意識のようなものがある。

 七割方適当に設定したヤントラはこの世界でメチャクチャな最適化が行(おこな)われている気がしていた。

 この世界に順応した性格に引きずられる形というのか。

「秘蔵のコレクションは公開したくないな」

「まあまあ、そう言わずに。戦闘メイドは公開したんでしょ? 今更隠し通しても意味がないと思うけど?」

 興味本位で見たいだけでアウラは複製を破棄させようとは思っていない。ただし、保存方法次第では考えを変える事も辞さない。

 伝え聞いた範囲ではヤントラがおかしな保存や使用はしていないらしい。

 仮にやましくても今は怒らない。ただし、と状況によっては考えを変える。

 わがままな部分は多少は自覚している。

「部位だけだと思っていたのに。すごいことしていたようだね」

「部位からどう再生しようと貰ったもの勝ちだと思うがな」

「そう言われると言葉も無いよ」

 やれるものならやってみろ、と言った奴が悪いのだから。

 アウラも納得せざるを無い。

 首から下も部位と言えば部位だ。そこから新しく身体が再生しても文句は言えない。

 

 アウラと共に七の宝物庫に移動すると見回りの一般メイド達が集まってきた。

 待機を命じられていたらしく、アウラが手を挙げるとそれぞれ恭しくお辞儀した。

 メイドの一人がヤントラのお腹部分が血で汚れていたのを発見するがアウラの『内緒だよ』という口に人差し指を当てる無言の仕草で黙った。

「何人かこっちにメイドが来るお陰でナザリック側の仕事もそれなりに忙しくなってきたよ。魔導国の建国により複写の仕事も増えたし」

「力仕事は無いけれど、見回りしてくれるから数日は留守に出来る」

「ここって見晴らしが良いせいでかえって進入しにくいよね。特にこっそりと近づくのは……。……あー、あたしらは中から転移で来られるけれど。近場の雑魚モンスターは冒険者の餌食になってるみたいだし。たまに来る飛竜(ワイバーン)もいい警備員になってるし」

 中と外を一通り調査したアウラは感心していた。

 人が寄り付かない施設は近づく者が目立ってしまう。

 ごちゃごちゃした方が隠れ易い。

「そうそう、あたし達が戻るまで待機してていいけれどお弁当を持ってきてもいいよ。黙って待つのは退屈でしょうから」

 アウラは一般メイド達に言った。

「退屈だなどと……」

「メイドとして受けた命令は……。今のがご命令ならば従います」

 それぞれメイド達は首を振って弁明する。

 仕事をくれと言い出すメイドを放置すると余計にうるさくなるので命令として待機させないと質問攻めにあう。

 一日いっぱいの待機になるわけではないので第九階層の食堂にでも行っててもらう方が無難ではある。

「満遍なく仕事を振り分けられたら少しは楽が出来るのかもしれないけれど……。侵入者対策で出来る事と出来ないことがあるからね」

 ナザリックでは罠を稼動させると一般メイドはすぐ死ぬかもしれない。

 この施設では一般メイドは転移で飛ばさないように、という命令が行き渡っているのだが、封印された部屋には入れない。

 ナーベラルが一般メイドを利用しようとしても無駄だとアウラは聞いた覚えがあった。

 利用してメイドが死ぬような事があればアインズは確実に激怒するだろう。

「あたしが帰るまで待てる?」

「はい」

「アウラ様のご迷惑になっては困りますもの」

 弁当持参以外は現場待機を命じて移動を始める。

 目的地は一の宝物庫。

 各宝物庫に固有の名前は無い。大浴場も花弁人(アルラウネ)の飼育を除けばモンスターの貯蔵庫と言えなくも無い。

 それぞれに名前を付けるのが面倒くさい、という一言に尽きるかもしれない。

 普段は扉などにメイド達が立ち塞がるのだがヤントラが居るせいか、素通りできる。

 何者かが監視していなければ出来ない芸当だろうとアウラは予想する。

「無防備に見えてしっかり監視しているのよね、ここって」

「大事な宝は持ち去られたくないからね」

「まあ……、そうね」

 知らない盗賊に自分の複製を持ち去られるのは気分的にも嫌だ。

 至高の四十一人なら話しは別だ。

「地上と繋がっている一の宝物庫だっけ? そこに大事な宝があるとしても一番脆そうな気がするんだけどな」

 この施設で一番安全そうなのが七の宝物庫の地下二階ではないだろうか。

 侵入経路から判断してもどの宝物庫も大差ないかもしれないが、数で圧倒する七の宝物庫は見るものを怯ませる。

 上から入りやすいはずなのに遠回りする必要がある一の宝物庫。

 地上の入り口は塞がれている。というか稼働中なので仕切り壁が邪魔をしていた。

「あっ、そうだ。ここって大規模魔法とかで攻撃された場合は……、どうなるの?」

「一の宝物庫を粉砕するとどうなるかってことか?」

 そうヤントラが言うとアウラは頷いた。

「保存容器が壊れたりしたらって意味」

 侵入するより粉砕した方が早いよね、とアウラは呟く。

 ただ、その場合は瓦礫が邪魔になって捜索が面倒になってしまう。

 コキュートスに綺麗にくりぬいて貰えば、とか色々と想像するアウラ。

 仮にくりぬこうとしても引きぬけなければ真っ直ぐ落ちて色々と粉砕する結果となるだろう。壊れない容器だとしても瓦礫が邪魔になる。

 良い案はなかなか浮かばない。

 『暗黒孔(ブラックホール)』だとアインズにお伺いしなければならない。それは自分の立場ではわがままが過ぎるかもしれない。

 それとなく、と言われているし。

「勝手に動くのか、という疑問なら……。ほぼ全て動かない」

「動かないの!?」

 思考の海に没していたので、つい声が大きくなってしまった。

「アウラ達の複製は『大治癒(ヒール)』によるものばかりだ。七の宝物庫にある一部の者は『複製(クローン)』で作り上げられたものがあるから運が悪ければ動く」

 運が悪い、というのは複製元が死んでいた場合は精神が複製に宿る。

 『大治癒(ヒール)』は魔法効果から精神が宿るようなことは無いので動かない。

 効果としては複製(クローン)の劣化版。本体と共に成長する、という。

 適切に管理すれば、そうそう簡単に朽ちたりしない。脳と心臓がしっかり機能しているからかもしれない。

 本来なら機能不全に陥り、腐り始めるものなのだが、そこはまだ未調査だった。

「ユリのようなアンデッドが居るけれど動かない。破壊されても『動死体(ゾンビ)』のように徘徊しない」

「しないのかー。一斉に徘徊するイメージがあったんだけどなー」

「容器に入れる前はみんなロープで縛り付けていたけどね。それでも動くものは居なかったよ」

 動いたらどうしよう、とは思った。

 勝手に徘徊されたら色々と混乱が広がっていただろう。特にアインドラ家から。

 飼っていたペットがいつの間にか増えて一斉に逃げ出して大騒動に発展しそうな感じに似ている。

 裸の闇妖精(ダークエルフ)が大勢逃げ出す所は恥ずかしいとアウラは思った。

 保存液に入れるから裸は合理的だが、他人に見せるのは抵抗があるだろう。

 きちんと管理されているところはありがたいと思っている。

 見世物にされていたらさすがに施設を破壊するかもしれない。

 色々と考えている内に目的地の部屋にたどり着くのだが、誰も出て来ない。

 話しによれば部屋の中は定期的に点検していて、放ったらかしにはされていないらしい。

 保存液は理論上では数百年も劣化しないと司書長から聞いていたし、アウラも確認の為に聞いていた。

 余程の間抜けが雑な扱いをしない限り、溶液が濁ることはないと。

 七の宝物庫の保存容器はアウラも確認しているのだが、見事に濁った容器は一つもなかった。

 メイド達も感心するほどだ。

 竜(ドラゴン)を入れている大きな浴槽も透明度が高い。ただし、保存容器ではないので司書長の話しでは濁る可能性があるかもしれない、と言っていた。

 密閉できないのが問題だからだ。

 身体が大きいから定期的な入れ替えは必要だろう。

 メイド達が監視している限りにおいて濁った事はまだ無かった。

 掃除をする場合は粘体(スライム)が軽く表面に浮くゴミを取っていき、減った分を注ぐ。

 完全に溶液に沈めているかぎり保存の効果は持続する。

 ヤントラが部屋の扉を開けると眩い光りが発せられる、ことはなく。

「こんな感じだ」

「ほえー」

 清潔感溢れる部屋。それがアウラの第一印象だった。

 寝台型の容器にはタオルがかけられていた。

「ちゃんと隠してはいるんだ……。わー、あたしだ」

 眠っている闇妖精(ダークエルフ)の頭部が見えた。

 紛うこと無き自分自身。

 側の棚には見慣れた部位である眼球と耳がやたらと多く入っている容器があった。

「……整理整頓されてても……、自分のだと気持ち悪く感じる……。でも……思っていたより綺麗でよかった」

 壁に釘で貼り付けにされていたり、血だらけな拷問部屋を最初は想像していた。

 ナザリックの拷問官こと『ニューロニスト・ペインキル』が管理する『真実の部屋』はお世辞にも綺麗とは言えない。

「ちなみに寝ている方が本物であたしが偽物というオチはありえるかしら?」

「そんなことを言い出せば私も実は偽物となって混乱が広がる。偽物かどうか見分ける方法はアインズに伝授してある。……こっそりと尋ねてみるといい」

「うん」

 大元のオリジナルのアウラだけが持つもの。

 それは持っている装備品や性格など。

 アインズも反逆を恐れて全NPCの情報は把握しているという。不審な点があれば気づくだろう。

「反逆を恐れるのが一般的だ。迷いも無く私をぶった切ったアウラが実は偽物というのもおかしな話しだ」

「……うん。それは……ごめん」

 挨拶代わりに攻撃した事はさすがに悪いと思った。

 この施設に来る前にアルベドとアインズによる確認作業は徹底的とも言えるほど受けてきた。

 偽物と言うが複製が正しく、身体的な区別はほぼ不可能だ。

 大きな違いは秘匿されているらしく、アインズからは教えられなかった。

 アルベドからは自分の知りうる限りは説明できないと言っていた。

 アインズが知っていてアルベドが知りえていない事だと思い、それはそれで少し安心した。

 自分の敬愛する支配者アインズが知りえているなら問題は無い。

「ちなみに性格だけ移した場合は記憶はどうなるの? シズの話しでは他人の身体に精神を移すアイテムがあるらしいじゃん。あくまで転写ってことだけど……」

 転写なのでオリジナルが死ぬ必要は無い。

「そっくり移るだけだ。というか記憶ごとな。ただし、身体的な能力とかは継承されないだろう。やりたくないから確認してないけれど……」

 鳥の記憶を人間に移しても空は飛べない。

 転写する上で大事なことは他人の自我を持つ身体に上書きが出来ないことだ。

 そのアイテムの使い道は複製の複製に自分の精神を書き込む、というものだ。まだ実験していないので、確証はまだ無い。

 説明文によれば知識、記憶、個性が転写できるらしい。

 転写先が複製(クローン)である事が条件の複製専用のアイテムということになっている。

「あたしの記憶をマーレに移したところで森祭司(ドルイド)の魔法は……、魔獣使い(ビーストテイマー)のスキルが使えなくなって身体が保持している魔法は使えるんじゃない……」

「その筈だ」

 逆にマーレの記憶をアウラに移して森祭司(ドルイド)の魔法が使える事にはならない、はずだ。

 というより他人の記憶を上書きするよう事は想定されていないので失敗する可能性がとても高い。

「性格だけ移すアイテムは無い、と思う」

「そこは間違えたかも」

「性格だけなら強気なマーレになるんじゃないか。記憶関係ねーじゃん」

 アウラは自分が聞きたかった事が間違っていたことに気づいて恥ずかしくなった。

 褐色の肌なので耳が赤くなった所は目立たないようだ。

「き、記憶を移した場合……、能力的なものってことだったわ」

「色んな職を転々としていた私も魔法を保持したままではいられなかったよ」

 そうでなければ三百以上の魔法を扱える事になる。

 アインズなら課金や生け贄の儀式などせずに魔法を増やしていただろう。

 ゲームバランスというものが働いているから仕方が無い。

 そうでなければ誰もが全ての職と魔法を取得している事だろう。

 歩く核兵器。

 歩く自然災害ともいうべきものだろうか。

 宇宙の破壊者などもあるだろう。

「偽物は居ないとしても……、複製には記憶は宿らないのね」

 オリジナルが死なない限り、と小声でアウラは続けた。

 死ななくてもアイテムの力でどうにかなる、可能性はある。

 身体が出来ると記憶も保持されるもののように思えてくるので、眠っている複製が目覚めたら話しかけてきそうに見える。

 実際にはそういう事は無い、とアインズから聞いているが直接見て確認しない限りは、やはり信じられない。

 稼動している複製メイド達が喋っているのもアインズの説明によれば『性格や命令』を与えられているからだと言う。

 複製は完成したばかりの時は記憶がまっさらな状態で自我も無いので何もしない。

 赤子とも違うらしい。

 聞くたびに複雑怪奇で混乱してくる。

 だからこそ他人に簡単に扱えないものだともいえる。

「作るのは簡単そうなのに」

「簡単に扱えてたら世界はかなり混乱するだろう」

 本物の定義があやふやになる世界。

 同じ能力を持つ時点でオリジナルの必要性が無くなってしまう。

 価値があるとすれば複製を得る時くらいかもしれない。

 唯一のものが貴(とうと)い価値を持つ。

 だからこそ複製は乱用できない。

 戦力としては優秀かもしれない。後の責任を負えなければいつかは我が身に返る。

「寿命がある者の複製は一緒に成長するって本当?」

「効果が本物ならオリジナルと一緒に歳をとる。成長もあるだろう。ただし『複製(クローン)』の魔法ではそうだった」

 複製なので培養直後は赤子から、ということはない。

 老人の複製からは老人として出来上がる。

 『大治癒(ヒール)』は未知数なので何が起きるかわからない。

 そもそも、複製まがいのことは想定されていない。

「……その為の目玉や耳なのね。安易に活用できそうで出来ないってことか。……まあ、常識的に考えたら分からないものを使うのは勇気が要るよね。研究が必要だったり、いきなり持ち去られたら大変だって思うのも理解したわ」

 本人と同じ複製なら説明し易いが、違う相手であれば悪知恵が働くかもしれない。

 もし、アウラではなくマーレの複製を見せられたら、自分はきっとよからぬ事を企むかもしれない。

「あると分かっているのにアインズ様は何故、慎重なのかしら?」

 支配者であるアインズならば適切に運用できそうな気がする。

 自分たちはうまく活用できないかもしれないけれど、かなり分析しているアインズが乗り気でないのはアウラにはまだ少し理解できない。

 危険性という事態を想定していると言えればいいのだが、それだけではない気がする。

「それはきっとナザリックで危険な実験をしたくないからだよ」

「あ~、なるほどね~。でも、強固なナザリックなら様々な事に対処できそうだけど……」

「守護者が良くても支配者は大切な地に何かがあっては一大事と思っているかもよ」

「そういうものかな~」

「仲間達が作り上げたナザリック地下大墳墓、という意識があるんだろう。小さい範囲なら実験する事もやぶさかではないだろう。実際にデミウルゴスに色々とやらせているんじゃないか」

「かもね~。秘密にされる事が多いからな~、アインズ様は」

「そこはじっくりと交渉していけばいいよ。何もかも秘密にする事はないだろう。共有しないと困るような事態が出てきてしまうと大変だから」

 楽な方法を取らず、正攻法が多いアインズ。

 アウラとしては時々、もどかしさを感じるのだが嫌いではない。

 目の前に美味しい餌があってもすぐに飛びつかずじっくりと観察し、研究する。

 自分ならすぐに飛びついて相手の術中にはまってしまうだろう。

 

 見るものは見たので部屋を出る。

 全部見せろと言われるのは困るだろうから言わないけれど、部屋の構造はだいたい同じだと聞いた。

 特別な事は無く、点検も行(おこな)われているし、ヤントラか施設のメイド達で清掃をしているとか。

 ナザリックのメイド達は階層守護者などの質問攻めに会うので秘匿情報を喋ってしまうだろう。

 目上や各上の相手に逆らえないところがある。

 立ち入り禁止を設ける事で情報が守られている。

 そこは自分達の情報の秘匿と大差は無いだろう。

「そもそも、なんで複製を作り始めたの?」

「たまたま出来たからだよ。こりゃすげーと……。魔法はなんて便利なんだと思って」

「……えっと、人体再生で複製を思いついたと?」

「そうなるな。実験したらうまくいった、というパターンだな」

 アウラは苦笑した。

 きっかけとはそういう単純なものかもしれない、と思って納得してしまった。

「思いつく方も凄いけどね」

 色々と実験を重ねて今に至るのだろう。

「小鬼(ゴブリン)達より見目麗しい女体の方がいい」

「あ~、それで女性ばかり狙って……。掛け値なしの変態だね、バスパ様って」

 好き嫌いがはっきりしている所は見事というか、嫌いではない。

 女体と言っても稼動しているモンスターや人間、七の宝物庫の様子を見る限りは変態的な要素はあまり感じられない。

 丁寧に扱っているようだし、メイド達も嫌がらない。

 来るたびに裸にされているわけではないらしいし、ナーベラルの監督役も特に変化は無い。

 最初だけ変態だ、という噂は本当のようだ。だが、思い出したように女体を求めてくる事があるので油断は出来ない。

「……で、この後はあたしの身体をバラバラにするとか?」

 胴体ぶった切ったし、多少は我慢する事も、とか脳裏に浮かんだ。

「必要数は確保しているから無理に増やす気は無いよ。各百体ずつ、とか。同じ顔がたくさんあっても意味が無い」

「可愛い闇妖精(ダークエルフ)がいっぱい居るのはお気に召さないと?」

「闇妖精(ダークエルフ)だけ好きだ、というわけじゃないから」

「たくさんあるのは……、保存用とか無くした時用とか?」

「そうだね。必要な時に収穫していいか、と聞くわけにはいかないだろう」

「……普通は嫌がられるよね。というか、こんなことする人知らないわよ」

 むしろ存在するのが凄い。

 耳ちょうだい。いいよ。とはならない。いや、なるわけがない。

 ヤントラの場合なら仕方ないな、と言って与えそうな気がする。

「複製の優先度は脳が一番で心臓が二番だ」

「らしいね。ちゃんと研究しているからあたし達はオリジナルだと分かってくれるんだ」

 分かってくれないと困るけれど。

 縦に真っ二つにするとどうなるか、という問題があるようだが知りたくない。

 安全度の高い方法を選んでくれるから安心できる。いや、安易に安心してはいけないけれど。

 植物系モンスターがまさに分割すると双方に自我が宿るタイプだ。

 脳に当たるのが根なので、それ以外は本能に沿った動きを取るだけだとか。

 花弁人(アルラウネ)も女体部分が枯れても新たに生え変わる事があるらしい。

 マーレが言うには本体である根の堆肥になるだけで生物としての死ではないのだとか。

 根が枯れると植物系モンスターは本当の意味で死ぬ。

 ただし、複製の実験はやったことがないから推測に過ぎない、という。

「同じ顔がたくさんあっても面白くないか……」

 戦力増強になるかもしれないけれど、同じ存在がたくさん居れば、それだけアインズに誉められる頻度が少なくなる。

 自分だけが特別だと思われたいし。

 それが百体も居ると気に入らない。

「名前を呼ぶ時、困るわね」

 アウラと声をかけたら百人が返事をする。それはそれで怖い。

 同じ存在がたくさんナザリックの中を歩き回る光景を思い浮かべたら背筋に冷たいものが流れた。

 それは悪夢でしかない光景だろう。

 階層守護者は特別な存在だ。二人も要らないし、百人も要らない。

 二人も要らない中にマーレはもちろん含まない。

 唯一の存在は必要だ。

 闇妖精(ダークエルフ)という種族としての存在はたくさん居てもいいけれど。

「……無駄に多く居ても困るわ、絶対に」

「雑魚モンスターなら問題は無いけれど、君達がたくさん居ては色々と困るだろう」

「居てもいいけれど、二人までとか少数が限界でしょうね」

 無計画に扱える問題ではない事にアウラは気付き始めた。

 アインズが慎重になる理由も何となく分かってきた。

 未知の発見は心躍るが適切な運用が出来なければ恐ろしい事態を引き起こす。

 後始末まで考えておかないと複製は扱えない。

 すぐ処分する理由も理解出来た。

 七の宝物庫まで引き上げると息苦しさから解放される。

 普段使わない脳みそが沸騰するところだった。

「ア、アウラ様……。顔色が優れないようですが?」

 心配してくるメイド達に軽く手を振る。

「頭脳労働してきたからね。でも、大丈夫」

「危険性を理解する事はとても大事だ。便利な事だけではないからね」

「そうだね。これは……格下には向かない仕事だわ」

 各上の存在は荷の重さを理解した時、今のアウラと同じく唸るかもしれない。

 実際にアインズは危険性を理解している。だから、深入りするなと言っていた。

 おそらくマーレであっても同じ対応になるだろう。

「考えれば考えるほどダメージの大きい問題に思えてきたわ。逆に言えば頭の悪い奴はど壺にはまりそうね」

 素晴らしい技術だと思って手を出して後々になって後悔する図が浮かぶ。

 当人だけなら笑えるけれど周りを巻き込む事態になればいい迷惑だ。

 だからこそアインズは迂闊に手を出さないのだろう、とアウラは思って納得する。

 さすがは至高の御方と。

 アインズ様、万歳。と、胸の内で叫ぶ。

 メイド達に見回りを任せてアウラは引き上げていった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あくる日には普段は王都に居るガガーランとティアとティナが訪れた。

 近いので散歩がてらに来られない事はない。

「あれれ~、人の気配が殆ど無いけど~」

「みんな実家に帰ったのかな」

「帰ったよ。エンリの要請があれば誰かは来るかもしれない」

 目に優しい水色に近い青の装備で身を固める『真蒼の薔薇』の面々。

 主武装は使い慣れたものを愛用しているし、武器までは口出ししない。

 素材は少しランクアップしたものになっている。

「……屈強な戦士から女らしさが……」

 ヤントラがガガーランの様子を見て評するのだが、ティア達は首を横に振る。

「ないない」

「人間さが抜けているだけ」

「……はっきり言われると傷つくな」

「確かに掃除するようになったけれど、見た目は早々変わらないって」

「もう十年は現状維持だと思うよ」

「……人間までの道のりは長いんだな」

 仲間内だからこそ成り立つ会話なのだろう。

 ガガーランは苦笑しつつ話しを合わせている。普通なら怒るところだ。

「進化は長いよ、脳筋」

 誉めてるのか、けなしているのかはヤントラには判断が付かない。

 長い付き合いの彼女達に任せるしかない。

 三人は特訓が目的ではなく、ヤントラの顔を見に来ただけのようだ。

 ごく最近にも顔合わせはしたような気がするのだが、気のせいだろう。

 来てはいけない規則はまだ無い。

 プレイヤーの影が全く感じられない中で生活し、平和な世の中である事を恨むのは筋違いだろう。

 争いの絶えない世の中ならば冒険者の需要も高いと思っていたが、そもそも国にかかわる事を禁じられているのだからどうしようもない。

 志願兵になるのも面白くない。

「空中要塞のような施設を作っていると思うけど、手伝える事ある?」

「無いな……。超高度の作業は人間には難しいし、オリハルコンの加工を必要とするからね。運ぶのは転移だし」

「……無理か~」

「冒険者らしい仕事がしたい、というのが本音かもね」

 やろうと思えば出来なくもないのだが、数日かかるものとなると施設が心配になる。

 留守を任せればいいのだろうけれど。

 意欲が減退している状態だから他の冒険者の迷惑になるだろう。

 次の世代に行かない限り、国で出来る事はあまりないのかもしれない。

 後は子供達が大きくなってから改めて進路とか色々と考える事があるだろう。

「私達を孕ませるのかと」

「そんなことはしないよ」

 ヤントラは苦笑する。

 子育てが出来ない時点で妊娠は意味が無い。

 バスディオ達だけで手一杯だ。

「〈影分身の術〉」

 『壁抜けの術』なども出来るらしい。

 術以外に道具を用いた戦法も行(おこな)う。

 代表的なものに『煙玉』などがある。

 とにかく身軽な体術で隠密行動に特化している。急所攻撃も出来る。

 二人が同時に術を使うと四姉妹のようだ。

 クナイを用いてヤントラに襲い掛かる。

 カンカンと小気味良い金属音を響かせて四人同時攻撃を捌く。

 盗賊(ローグ)系を収めているとはいえヤントラはそれなりに手ごわい。

 忍者(ニンジャ)対暗殺者(アサシン)。

「むむっ、旦那さんの腕は鈍ってはおりませんな」

「ありがとう」

「弱体化していると思ったのに」

 素の赤帽子の小鬼(レッドキャップ)ですら勝てるようになったとはいえ、まだヤントラは遥かな高みに居るようだとティア達は感じ取り、武器を収める。

 ただ、分身は時間が来るまで勝手に行動するようで、止められなかった。

 攻撃を当てれば消滅する。本体よりは弱いのは確実だ。

 あえてヤントラは受けに回っている。

「本体がくつろいで分身が働いているのかよ」

「結構楽だよね」

「……滑稽に見えるぞ」

 ガガーランは呆れてしまった。

 重戦士であるガガーランは武技を使った力技でしか闘えないので盗賊(ローグ)とは相性が悪い。

 掴まえればこっちのものと言うのは簡単だ。

 力を過信した相手なら盗賊(ローグ)といえども戦えるのだが、ヤントラは違う。

 特訓以外では相手の攻撃など受ける気が無いのだから。

 武技をかなり駆使しないと攻撃は当てられないし、こっちの命はあっと言う間に奪われてしまうだろう。

 油断しない強者は侮れない。

「旦那さんが強いから手加減しなくていいし」

「いい特訓になる」

 うっかり殺しても大丈夫そうだし、と胸の内で言うティア達。

 受けに回ったヤントラは数分後には分身を倒しきる。その技は見事だった。

 確実に攻撃を当てる手法は強引な力技とはまた違った意味で脅威だ。

「冒険者はそう簡単に暗殺依頼は受けないけれど……。旦那さんと戦う事になったら……」

「命と引き換えにするくらいになるかもね。……割に合わない」

「貴族の利権の為に動きたくは無いけどな。もちろん、俺は平和主義だぜ」

 自信満々にガガーランは言った。

「敵なら殺す、と言った気がするけれど……。今は安易な殺生は複製くらいだ」

「……まあ、殺しすぎなほどだよね」

「桁違い」

「私も上昇志向が高ければ……、と思うことがあるよ」

「そうだね。旦那さんはちょっと高望みした方がいいよ」

「うんうん。張り合いのある日常は大事だよ」

 張り合いが無いから退屈しているように見える。

 貴族とはいえ貴族らしいことはしていないし、する気も無いらしい。

 権力欲があれば国の様子は違ってくるのかもしれない。

 ティア達の予想では瞬く間に王国を手中に収めてしまいそうだ。

 今後の国の運営が不安ではある。なにせ女体好きだから。

 子作りに励むような政策を取られるのは勘弁してほしい。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。