ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
金属加工が済んだ床を並べられるだけ設置していく。
途方も無い数が必要とはいえ、魔法を使用しながらでは時間がかかる。
遅々として進まないように見えるほど。
それでも二段、三段と進めていく。
遅いのは設置した後に撤去しなければならない部分があるのも原因だ。
配管を通さなければならないし、柱も設置しなければならない。
床下収納も排気口の確保も。
一ヶ月で終わるような簡単なものではない。
単純に数年はかかる。それでも早い方なのだが。
角の空間から逆算して層の数の調整をしても思っていたよりも多いことに驚いてしまう。
誰がこんなバカなものを造ろうと思ったのか。
魔法で一気に楽して浮かべられたらどんなに良いことか。
そんな事を考えていたら、
評議国に近い山間部の秘密の洞窟に向かう。転移要員は既に処分してしまったので改めて行き直さなければならない。
数人のメイドと共に突入し、半分ほど進んだところで
攻撃しなければ襲ってくることは無いようで無視することにした。
と、思ったが無限に増えそうなので処分しておく。
魔法要員を呼び寄せて片付けさせる。
温泉を通り過ぎ、螺旋の回廊を下れば最下層だ。
女神や英雄は全て処分してしまったせいか、人間型のモンスターの姿が無い。
原住民ではなかったのかもしれない。
玉座の間の近くに居るはずの
辺りは地熱で暖かく、温泉は今も健在だった。
鉱石系のエレメンタルを持ち帰れないか、検討する。こちらは
というか、
放っておくととても危険な気がする。
テイマー系のスキルを使うのか、都合の良い魔法で仲間にするのか。
モンスターを眺めながら考える。
この洞窟に居るエレメンタルは火属性。それしか居ないようだ。
風属性も居たような気がしたのだが、気のせいだったらしい。
人型。鉱石型。モンスター型とエレメンタルは色々と居る。
有名どころが
魔法の一覧表ではエレメンタルを操る魔法があるにはあるらしい。これかな、と自信が無いのは第六位階辺りの魔法だからだ。
第八位階くらいだと永続化しそうな気配なのだが、無い場合は諦めるしかない。
よく分からない魔法は後回しにして
前回はうっかり討伐しちゃったような気がするので絶滅していると悲しいな。
モンスターは大事にしないといけない。特に希少なものは。
螺旋通路を降りていくとエレメンタル達の明かりが際立つ。
丁度良い天然の照明器具だ。
それ程複雑な構造はしていないけれどモンスターの強さはアダマンタイト級でも厳しいと思った。
厄介なのは
凶悪なアンデッドは絶滅したようだ。出てきそうだが。
目新しいモンスターは居らず、最後の部屋の前までたどり着く。
前回はこの近くに
地熱の効果で下層は蒸し風呂に近い。連れて来たメイドは強いので問題は無い。
「
二匹ほどしか見て居ないので、もっと居ても不思議は無い。出来れば絶滅していないでほしかった。
倒さずに複製を取っておけば良かったかな。容器に入れたとしても熱くなって火事になるのでは、と思ったのが悪かったようだ。
軽く見渡してみたが居ない様なので大広間に向かう。
玉座があった広い部屋。
今は何も無く、ガランとしている。
天井は高く、壁の向こうには宝物庫がある。
深い地の底でギルドを運営していたのだろうけれど、それは数百年も昔のこと。
人間種のプレイヤーが何を思って活動していたのか、今は分からない。ただ、世界を蹂躙した、という伝説が残るだけだ。
もちろん、真実が歪められている可能性はある。
本当の八欲王とはどんな存在だったのか。
「……最初の転移者は仲間が居たから寂しくなかったのだろう」
もし、一人だけなら絶望に打ちひしがれて世界を壊そうとするかもしれない。
若返りや不死化のすべが無ければ少しずつ死に向かう恐怖にかられていくのかもしれない。
充分な知識を持たずに冒険の日々。それは出来そうでできないことだ。
天井や壁は天然ものらしく、横穴などが空いている。そこからエレメンタルが出たり入ったりしている。
最下層のはずだが、溶岩が見当たらない。それでも温かいのは地熱の影響なのは間違いない。
地面を後一つ踏み抜けば溶岩が現れるかもしれない。
メイドの一人が壁から出て来た
モンスター専用の通路が縦横無尽に走っているのだろう。
人間が通れる程大きくは無いようだ。
急ぐ用件ではないので洞窟内を散策する事にした。
他にもモンスターが現れるかもしれない。一応、宝物庫の中も確認させておく。
あらかたのモンスターは手に入れてしまったから、急に人型が現れることは無い筈だ。転移でも使わない限り。
火属性のモンスターは他に何が居たのか、思い出せない。もちろん、溶岩系は除く。
「……ああ、あれがあったっけ。……でも、ブレスは強力だから活用は無理か……」
エレメンタル系の方が確実なのだろう。
地面にシーツを敷き、寝そべる。
誰も居ない広い空間。
かつて、ここには大勢の人間が活動していた、のかもしれない。
それから五百年は過ぎて今は無人の荒野。一部の傭兵モンスターの楽園となっていた。
時は無情。
不死のプレイヤーなら現代をどう見ているのだろうか。
というか、その時にアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一人でも居なかったのだろうか。
正式名称『アインズ・ワン・オーシャン・オール・ランズ・ゴウン』
クトゥルフ神話の
メンバーが異形種だから、あながち間違っていないだろう。
一人で活動していたとはいえ友達が居ないわけではない。
だから、今はとても寂しい。
本音の部分で言えば、そうなるのだが。
そういうことを考えられるのもいつまで出来るのやら。
最初に比べてだいぶ、精神が磨耗して来た気がする。
今の自分は大半がアバターの性格だと思う。
残っている
それらが無くなった時、本当の死に繋がるのか。
運営から貰った自殺アイテム。
持っているだけで効果を発揮する、というのは精神をアバターに食わせることなのだろうか。
運営でも対処できないほど死んだ後は自動的にアバターがあなたの代わりに活躍します、そのアバターが死ぬまで。プレイヤー側はアカウント消滅により外部から干渉は出来なくなる、とか。
勝手に騒動を撒き散らすアバターのヤントラ。今での恨みがボス化で仕返しし始める、ということもあるかもしれない。
適当ゆえに厄介な敵となるだろうな。
折角構築した苦労を水泡に帰す事も辞さない気がする。
「規定数の
「分かった。それぞれ警戒してくれ」
「畏まりました」
従順なメイドの言葉を受けて現実に戻る。
自分を見つめなおすことは大事だ。だから、何度も再確認する。
自分はここで死ぬのか、生きるのか。
生きるのならば、何故、生きなければならないのかを。
そういう選択は大事だ。
狩り尽くすのはもったいない。
モンスターは世界の財産だ。
次はNPCの復活だが、どんなモンスターが居るのだろうか。
拠点ポイントからはそれほど大した者は居ない気がする。
人間種が創造するものは異形種ばかりとは限らない。
即死耐性を持たせる上では異形は有効だが、アンデッドはなかなか手は出さない。
中に居たモンスターから悪魔は確実に使われている。
「新世界の守護者……」
この地で永遠に封印されたままでは可哀想だろう。
幸福は無いかもしれないが停滞から解放はさせておきたい。
戦争は終わったのだから。
洞窟のクエストを終えたあと、下準備を整えなおして再度、
暗い世界で生活するアーグランド評議国の永久評議員は厄介な客人の姿に身構えた。
「……まあ、礼は言っておかなければな。だが、身体はやらんぞ」
「今回は戦闘は無しで……。私もモンスターを絶滅させたいとは思っていないので」
身じろぎする白金のツァインドルクス=ヴァイシオン。
「ところで、くそばばぁ。随分と綺麗になりおって……」
ヤントラを案内した妙齢の女性ことリグリット・ベルスー・カウラウは眼を細めつつ笑う。
「羨ましいか?」
「全然」
「もう数百年は現役で活動できる。若さとはいいものじゃ」
「中身は年寄りのままだな」
「さすがに記憶ごと若くなるわけじゃないからの」
二人が話している間に椅子のあった位置にヤントラは移動する。
特に伝えたいことも無いし、ギルド武器にも興味が無かった。貰えたらもらうけれど。
さっそく連れて来たメイド達を周りに配置する。
邪魔なものは全て削除。
五百年分の
見取り図を呼び出して現在位置を確認する。
敵性体の数を把握。
稼働中のNPCの様子なども。
「……やはりここにも居ないか……」
五百年前に転移したアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは無し。
八欲王と手を組む場合も想定していたが、期待はずれだった。
伝え聞いた数は三。確実に可能性があるとすれば、だが。
八欲王のNPCの回収はきっと難儀するだろうな。
と、期待と不安をにじませたのだが杞憂に終わってしまった。
一体ずつ、というところと本来の敵ではない、というところが助かったのかもしれない。
「なにやら、モンスターが湧いて出たような……」
「八欲王をちょっと復活させてみようかなと……」
「おうっ! なんと言う事を……」
「五百年も経ったのだから……。永久封印は……辛いだろう」
理屈としてはリグリットは納得出来るのだが、被害者意識の強い
凄惨な記憶は今も焼き付いている、者も近くに居るのだから。
「人間世界では数十年の服役で罪を帳消しにするかもしれん。死罪以外で。じゃが、ここではそういう風習は無い」
「精神のみが永遠に囚われるのは私でも辛いと思う。蘇生魔法と言うものが無ければ、私は何も文句は言わないのだが……」
「根は優しい、というのはそういうことか」
リグリットの言葉にヤントラは首を傾げる。
「ツアーよ。お主の危惧は理解しておるだろうから、
「……ううっ。我等にとって五百年はつい昨日のことだ。人間のようには割り切れん」
長命な
時間の感覚が人間の十倍以上あるのだから、考え方も種族によって違うんだろう。
それは憎しみを感じる長さも同じこと。
「同族意識、という点で言えば私は謝罪する方かもしれない」
「……お前は私の尻尾をぶった切ったではないか。八欲王とはまた違う気がするぞ」
「まあまあ、ツアーよ。話しを聞いてやろうではないか。いちいち指摘していたら話しが終わってしまう」
「つまりなにか、八欲王はお前の友人なのか?」
「……たぶん、赤の他人……」
「なら、他人の罪を感じるのは筋違いではないのか?」
人間的な感情が分からない
それに対してリグリットが『少し黙って聞いてやれ』と言いつつ肘でツアーをつつく。
「罪を憎んで人を憎まず。水に流そう、とは言いませんが……。永遠の牢獄と言うのは精神が病んでしまいます。悪はより悪に……」
「自業自得だと思うが?」
「……そんなことヤントラ殿は分かっていると思うぞ」
「あんまり追い詰めると数万年後に世界を滅ぼす悪魔として復活してきますよ」
数万年後には寿命のある者達は死に絶えるだろうし、世界の様相が変わり、八欲王が復活し易い環境になってしまうかもしれない。
「私は世界を潰したくない。その為の楔を打ち続けている。さすがに永遠に、とは行かないけれど……。私が希望を持つ限りは……」
希望というか絶望というか。
この世界に存在し続けることが希望なら問題は無い。元の世界に帰る方法があれば、それは帰りたいと願う者に渡したい。
毎回、転移してくる場合はどうしようもないけれど。
そういうことが
「気分的には世界征服しちゃった気がします」
「……お前さん、頭がおかしくなったのか?」
「そうかもしれません。よく殴られたりしますから」
「殴られるような事をするからだ」
ツアーの力強い言葉にヤントラは苦笑で返す。
ツアーもヤントラはそれ程悪党という気はしなかった。それが何故、あれほどの実力を持っているのだろうか、と疑問に思う。
八欲王に匹敵するのは間違いないだろう。
「データ削除、完了いたしました」
と、横で黙々と作業していたメイドが言った。
「見るべきものは見たし、回収すべきものは回収した。これで……、何のクエストが完了したのかな」
二つ目のギルド攻略クエスト、だろうか。
次は三つ目を探すとしよう。
「倒すべき敵が居ないと退屈です」
「まだ浮遊都市『エリュエンティウ』が残っておるぞ」
「それはそれ。もう少し世界を旅してみたいですね」
「まあ、なんだ。お主とはいずれちゃんとした席を設けて話し合おうではないか。魔導国や武具の件でも世話になった。身体はやらんが……」
「
「……愚痴くらい……、聞いてやらんでもない。
「ありがとうございます」
言葉からは邪心などは感じないのだが、何故、恐ろしい事が出来るのか、ツアーは理解できない。
普通に話せば害の無い人間なのに、と。
「ツアーの複製とやらが出来ると動くようになるのか?」
「魔法の性質では不可能です。擬似的に動かすことは可能ですけどね」
「記憶とかはどうなるんじゃ?」
「こちらから与えない限りは真っ白なままです。胎児として生まれるわけではないので。あと、寿命はオリジナルと同じです」
聞けば普通に答えてくる。これはイビルアイから聞いていたのだが、リグリットと後ろで聞いていたツアーも驚く。
「命令次第ではお前さんの仲間となるのか」
「さすがに近隣都市を襲え、とは言えませんよ。そういう破壊的な考えは持ってませんので」
戦略的には有効的な気がする。
ツアーが乱心した、という事になって世界が混乱するのは火を見るより明らかだ。
戦いの場であれば複製は有効な一手となるだろう。
それゆえにヤントラの手法はとても恐ろしいものだ。
「……あ、複製のことは各国に知れ渡っているのだったな」
「なに?」
リグリットはふに落ちる回答に納得した。
犯人が誰か、各国はすぐに分かるから王国に調査を願えば答えはすぐに出る。
「複製を他に運用できるとすれば、魔導国くらいか?」
「現時点ではそうですね。あと、安易な魔法で複製は動きません」
まず複製を貯蔵している施設から献体を盗み出せるのはナザリック地下大墳墓くらいだ。
侵入者が居たとしても
それがプレイヤーなら『
高レベルモンスターのメイドを蹴散らせるプレイヤーが居れば、むしろ会ってみたいものだ、とヤントラは思う。
施設を上から静かに爆撃など出来ない。外にはルプスレギナ達が控えている筈だから。
何しろ、大事な一般メイド達が仕事で来るのだから手厚い警備が敷かれている。
「破れかぶれに世界を滅ぼす、のも面白いかもしれないけれど……。素に戻ったら……。ああ、一つだけ危険な可能性がありました」
「何だと!?」
ツアーは声を荒げる。
地声なのか、洞窟の中だからなのか、結構な振動としてヤントラの身体に打ち付けられる。
「私にお酒を飲ませたら、世界が終わると思うので、それだけ注意してもらえば良いですよ」
「酒?」
「私の弱点です」
「……酒……。そこから世界が崩壊するのか……」
ヤントラ自身はだいたいの崩壊手順が分かる。
自分がどのように暴れるのか。
杞憂で終われば良いのだが、馬車移動の弱点から考えて世界崩壊レベルは確実だという確信があった。
利用としては一滴程度ではどうにもならないけれど、一本ともなると何が起きるのか自分でも恐ろしくて考えたくない。
だが、それでも分かることがある。
「超位魔法『
「ん……」
「超位魔法『
超位魔法という単語だけで嫌な予感がする。ただ、言っているだけなのか、魔方陣は現れない。
「超位魔法『
この三つはヤントラが習得している広範囲殲滅魔法。
どれも一対多を想定しているので、それぞれ危険な魔法だ。
一個師団どころか十個師団すら殲滅しかねないほどだろう。
「うっかり使ったら、ごめんなさい」
「ごめんなさいで済むレベルなのか?」
「う~ん、国を一つ更地に出来る自信がありますね」
「おいおい!」
冗談ではなく、それほど強力な広範囲殲滅魔法だ。
一番目は武器が降り注ぐだけなので近づかなければ生き残れるけれど、二番目と三番目はヤントラ自身、どうなるのか分からない。
無限召喚の悪魔を一気に殲滅する時に使ったっきりなので。
特に三番目は王都が綺麗に無くなる自信がある。ただし、転移後の影響で効果範囲が拡大されていれば、の話しだが。
普通なら数十メートルの範囲内のモンスターなどが崩れ去る。
ユグドラシル時代はダンジョンの中とかで使っても洞窟を破壊しなくて済むから、それほど脅威の魔法ではないけれど。
この世界は洞窟も破壊対象に入っているから大変だ。
絶対に壊れない仕様、というものがこの世界には無い。だから、使うと危険だ。
「もし余裕があるなら魔方陣、特に巨大なものが見えたら攻撃してください。それで簡単に解除できますから」
「う、うむ。了解した。他の者にも伝えておこう」
「いいのかい、隠し玉じゃないのか?」
「世界を壊したいとは思いませんので。少なくとも……、私はそこまで世界を憎んではいませんよ」
「優しいのじゃな」
「試しに見てみます? 超位魔法」
「だ、ダメだ!」
ツアーは慌てた。だが、リグリットはせっかくの魔法なので一度は見てみたいと思った。
直接、確認することは大事だろう。
超位魔法は位階の制限を受けないし、MPも消費しないので使い勝手が良い。
また他にも使える超位魔法があったりする。
ちなみに今の三つの超位魔法で黒い仔山羊とどの程度戦えるのか、と聞かれると発動までに時間がかかるし、純粋なダメージを与えるものばかりなので体力を半分ほど削る、ところまでは行かない。
三つ目の超位魔法でもせいぜい表皮を削り取る程度で耐え切ってしまうだろう。
それほど黒い仔山羊の耐久力は高い。
攻撃回数の多さでは一番目の超位魔法の方がダメージ量は多いかもしれない。
ツアーに色々と解呪方法を教えた後で『マグヌム・オプス』に帰還する。
容器の整理の後は石鹸作りと資材搬入という地味な作業ばかり。
それだけで年月はあっという間に消費されてしまうだろう。
倒すべきボスモンスターでも居れば良いのだが、世界が安定期に入るとプレイヤーは退屈してしまう。
普通に生活し、普通に仕事に従事する。
ごく普通の生活。それに意外なイベントは起こりにくい。
起こるとすれば退屈を嫌う者達だ。
「ああ、
「!?」
黒板に字を書いていたイビルアイがびっくりしてチョークが粉々になった。
「身も蓋も無いことを……」
あながち正しく聞こえるから困る。
一口に老化と言ってもコスト的には1レベルドレイン規模で100年。
「いやまあ、しかし……。魔法とはかくも残酷な現実を教えてくれる」
「蘇生魔法がある中で私はどうすれば
死んだ時に現れる選択肢。
それを選ばずに成仏する方法。
それは数ある魔法の中にあるものだろうか。
うまい抜け道があればいいのだが、それはそれで探すのが大変なのだろう。
「月から先の世界に行くしかない、というのならば、それはそれで仕方が無いんだろう」
「人生を諦めるのはやり遂げてからにしてくれよ」
「そうですね。まだ五十年は余裕があるはずですから」
「その意気だ。……もう少しがんばれば二百年くらい伸びるかもしれないぞ」
リグリットやフールーダみたく。
もちろん、イレギュラーであるイビルアイ自身も。
だが、時間切れは唐突にやってくるものだ。
ヤントラは六の宝物庫にゆっくりと倒れこむ。
急な睡魔が襲ってきたように。
意識が持っていかれる時に似ている。
近くにイビルアイが居ても声は聞こえないし、音も聞こえなくなる。
それから周りの時間が遅くなる。まるで『流水加速』の武技のように。ただし、ヤントラ自身は武技は使えない。
身体の変調は以前から感じていたものだが、精神が極度に疲弊すると発生するところまでは理解した。
七割から八割。世界が身体を侵食した、というのが正しいかは分からないけれど。
これが十割になればヤントラの本来の個性は消滅し、アバターが代わりに動き始めるだろう。
ラキュースに恋したのがアバターであるように。
一目惚れはアバターでシャルティアに激怒したのはヤントラ。
二つの存在が溶け込んでいるのが不安定なヤントラ・サルヴァスパという存在だ。
大人しい自分と活発なアバター。
自分は既に終わった人間だから今さらな気もするのだが、心配事はアバターが死んだ後で選ぶ選択だ。このアバターなら間違いなく破滅を選びそうで怖い。
世界に最適化された事により、精神体のヤントラが消費され、残ったアバターが設定された性格のまま生活を始める。
その時、止めるものがいなければ適当ゆえの崩壊現象が起きるかもしれない。
元もとの七割の自分はきっと
三割方の精神体でここまで来た、というのも凄いのだろう。
残り時間の少ない自分の冒険からすれば充分すぎるものがある。
アバターに全権を任せるのは心許ない。
予定を繰り上げる時期に来たのかもしれない。
第三の身体。
それもまたアバターと言えるかもしれない。
問題は現アバターがどの程度の抵抗をするかだ。
ラキュースから引き離して生活していたのだから、酒を飲んで暴れることもありえる。
二対八なら分が悪い。
やり残しがあるから我慢してもらいたいものだ。
充分な回数、死んでやっただろうに、と。
性転換して妊娠させてやれば少しは落ち着くだろうか。
それらも含めて一度は起きなければならないけれど。
下準備が多くて大変だ。
自分の異変はいつからと聞かれるかもしれないが最後にログインしたときから既に兆候は把握している。
というか余命幾許もない人間なのだから、知らない方が不思議だと思う。
最初に馬車で轢かれた時、そこで死んでいればと残念に思ったものだ。だから、ついエンリに意地悪な事を言ってしまったし、ネムには完全に嫌われてしまった。
これでも子供には優しい
「やまさん、私はここまでのようです」
「仕方ないわね、ちょっとぶん殴ってくるから待ってなさい」
「確か奴はレベル95の猛毒持ちだったはずっ!」
「……やっべ、あれ無理。逃げっぞ!」
猛烈な勢いでモンスターに襲われること多数。
大抵はレベルの低い私はモンスターに掴まってお陀仏なのだが。
「もう少し
「……
「隠し
「ごめん、グレさん。アイビー。あと、バカ」
「……お前、後で殺すけど、頑張れよ」
「……友達を殺すなよ」
懐かしい顔が、全く浮かばない。
グレさんにアイビーとバカって誰だ。
というか、お前ら誰なんだよ。
知らない記憶が流れ込んでないか。全く関係ないモノローグ見せやがって。
やまさんは合ってるはずだが、後半は全く身に覚えが無い。
「ほ~ら、バスパ用の七色鉱を持ってきたから武器を作ってやろう」
「わ~い」
「みんなでコツコツと集めたアイテムを四つ目の隠し金庫に入れておいたから、必要な時は開けてもいいぞ。
「うむ。本当に困った時だけだ」
「最後まで楽しくゲームが出来る様に、と……」
「我々は引退していくかもしれないが……、お前は閑散とした世界を駆け巡るが良い」
「ウルベルトさんもバスパには甘いんですね」
「ふんっ!」
「こいつはアインズ・ウール・ゴウンの……、アレだ。えっと……」
「ゆるキャラっすか?」
「そうそう、それ。支配者ちゃんだ」
そういえば、そんなことがあったような。
確かに聞き覚えのある声たちだ。確か、それからすぐに事故に遭ったんだったな、とヤントラは思い出す。
第四の金庫の存在は知っている。
というかナザリック地下大墳墓には六つの隠し金庫が存在する。
普段は三つを併用しているのだが、四つ目は開けずに残していた。
他の二つはザリチェとタルウィ用なので手出しはしない。
サービス終了となった今は隠し金庫の存在は
まさか異世界に転移しているとはたっちお兄ちゃんたちは知る良しもないだろう。というか、自分も思ってなかった。
第四の金庫にケーキが入っていたらすぐ閉めるだろう。
この話しはサービス終了の数年も前のことだ。生ものならとっくに腐っている。
この期に及んで非常食だったら困るな。
とはいえ、
今さら金貨だったら笑ってしまう。
何を入れてくれたんだっけ。七色鉱の残りでも今さらな気がする。
メンバーが隠れていたら凄いな。
お前らマジでバカだろ、と言ってやる。