※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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O-7 世界征服と世界の王

 国は作った。後はどうすればいい。

 世界を征服する方法をアインズは知りえない。

 力による強奪くらいしか浮かばないのが本音だ。

 交渉ごとは多少は自信があるけれど、国対国はこの世界で始めての経験だ。

 そもそも元がサラリーマンだ。

 最下層の人間が王様をやっているのだから目も当てられない。

 やはり仲間は欲しい。

 一人では破滅しそうだ。

 近隣の国だけが世界の全てではない。

 外界はもっと広くておぞましいモンスターの巣窟だったらどうしよう。

 近隣の最高レベルが100でも外界は10000かもしれない。

 もっと広い視野が必要なのだが、忙しい毎日を乗り越えるだけで精神的な疲労は凄まじい。

 アンデッドでなければ過労死しているのではないだろうか。

 その上で今後の展望も決めておかなければならないし、国民を幸せにしなければならない。

 国の統治者って大変だな、と他人事のようにアインズは思う。いや、今は自分も当事者だったと自己嫌悪に陥る。

 世界征服どころか国の運営だけでも大変なのに。

 無茶な目標を掲げてしまったものだ。今は保留とか休止ってことにしているけれど。

 今さら国の運営やめますって言ったら戦争で殺した十万人以上の被害者が大激怒するだろうな。

 しない方がおかしいよな。

「アインズ様? どうかなさいましたか?」

 ナザリック地下大墳墓の玉座の間でアルベドが頭を抱える支配者に声をかけた。

「国の運営の難しさを痛感していた。それでアルベドよ。貿易は問題は無いか?」

「は、はい。現在のところいくつかの貴族と交渉し、商談のための商人とすり合わせをする事になっております」

 売る為の商品が実は手元にない。

 エンリは収穫には自信があると言っていたので任せるほかはないのだが。

「商品が無いのだが……」

「それは向こうも承知しているようで。畑の様子を確認して色々と決めたいと申しておりました」

 それは確か、なんと言ったんだっけ。

 商品が無くてもいい商売方法。

 商人スキルを持つ音改(ねあらた)が居れば即答しているところだ。

 畑に問題が無ければ規模を見るだけで大体の収穫量が予想できる、ということなのだろう。

「こういう事はやはり専門家に任せよう。エンリの同行を許す。おそらく交渉も取り計らってくれるだろう」

「畏まりました」

「そういえば……。魔導国の国民服というものはどうなった?」

「おそれながら……。下等な人間に大層な服が必要あるのでしょうか?」

 あるんですよ、アルベドさん。

 雑巾を着せて歩かせたら魔導国から住民が逃げますって。

「自由な服装も良いが……、魔導国らしさもあった方が……。私の国民だと分かるだろう?」

 首輪をつければ良いじゃない、と誰かが言いそうだが。

 人間を奴隷にする国ではない。

 それでは亜人の国と大して変わらなくなる。

 その亜人すら首輪をつけているような気がするけれど。

 ナザリックに属していないものは全て生きる価値のないゴミ、と断ずる者が多いかもしれないけれど。

 よくよく考えたら、そんな性格設定したメンバーってかなり酷いな。

 というか、誰だ、そんな設定にした奴は。

 ヘロヘロさんか。

 ク・ドゥ・グラースさんか。

 ホワイトブリムさんか。

「それよりアルベド。一つ聞いても良いか?」

「もちろんでございます。私に遠慮などは無用……」

「ふむ。私が人間に肩入れすることに何か言いたい事はあるか? 不満でも何でも……」

 そう言うといつもは微笑みを絶やさないアルベドがまじめな表情になる。

「確かに……。下等生物たる人間に肩入れするのは将来を見据えてのことかと……。利用できるものは何でも利用する、というお考えならば……このアルベド、何の不満もございません」

「そうか。世界征服といったがお前達は……私が世界の王として君臨する姿を想像しているのか?」

「は、はい……。そうだと思っておりますが……」

 自分たちが思うアインズの世界征服ではそれ以外に何があるのだろうか、とアルベドは疑問に思う。

「私はナザリックの支配者ではあるが、世界の王になりたいわけではない。結果としてそうなるだけなのだが……。国づくりで王という立場の大変さを痛感している。ただでさえナザリックだけでも大変だというのに他の都市のことまで考えてられん」

「であれば、目障りな都市は滅ぼしてご覧にいれますが?」

「そういう力技はやめよ。もっと賢く行動するのだ。目標は目標として残した方が人生に張り合いがあるというもの。それを無くせば……、私も奴のような……、い、いやなんでもない。じっくりと腰を落ち着けて我が国を発展させようではないか」

「はっ、畏まりました」

「性急に行動して余計な敵を作るのは本意ではない。それからアルベド」

「はい?」

「いずれお前の苦労に対し、何かしら報いたいと思っている。今しばらく待たせることを許してほしい」

 そう言われた後でアルベトの腰から生えている黒い翼が物凄くバタバタと動き出し、ついでアルベドの身体が震え、最後に頬を紅潮させた顔は喜びに打ち震える形になってきた。

 ちょっと触ったら天井をぶち抜くほど飛び上がるのではないかと思うほどだ。

「あ、アルベド……さん。どうしました?」

「あ、あ、アインズざま~!」

 号泣するアルベド。

 美貌が崩れることをいとわない一人の女性が泣き出した。

「ぞのおごどばだげでうれじゅうございまず~!」

 涙声で聞き取りにくいが、とても喜んでいるようだった。

 近くに居ながら何もしてやらなかったアインズは咎める事無く見守った。

 『モモンガを愛している』と書いた責任はとても大きいのだろう。

「ああ~! モモンガざまだいずぎでずぅ!」

「あ~、よしよし。すまないな、アルベド。今は思いっきり泣くが良い」

 今は従者たちも居ない二人っきりだ。と思ったが天井に五体の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達が居る事を思い出した。

 彼らには一時、退避するように小さな声で命じておく。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 眠り姫たるヤントラが意識を回復したのは十日後だった。

 その間に知らないプレイヤーの愚痴を言い続けていたらしいが目覚めた途端に記憶から抹消されたように思い出せない。

 中にはたっち・みー達と過ごした想い出もあるようだが、それらも思い出せない。ただし、寝言は一部のメイドが書きとめていたようで確認すると恥ずかしいことばかり言っていたみたいだった。

 戦士職でエロいヤントラも羞恥心を覚えさせるものだった。

「人のプライベートを事細かく書いて……。いくら私でも恥ずかしいぞ」

「も、申し訳ありません」

「折角だから書き写させてくれるか」

 メイドが書いたものを自前のメモ用紙に複写していく。その書き留める速さはメイド達を驚かせるものだった。

 速筆。

 ただし、敏捷が高いだけで特別なスキルではない。

「それにしても『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』を装備して熟睡とは……。寝ようと思ったら案外眠れるのかも。……起きようと思わない限り眠ったままっていうのは怖いな」

「皆様、ご心配しておられました」

「寝袋ではないというところは……。アインズにも世話になったようだな」

 自分でも驚いてはいる。

 急に眠るのはナルコレプシーか、と思うほどに。

 そういう病気になった事は無いのだが、謎(ドット)アイテムの効果とは違うのは理解した。

 あれは急に眠らせる効果は無い。

「施設は無事か?」

「はい。普段どおり異常は見られませんでした」

「よし。……まずは謝罪からだな」

 礼も兼ねて運んでくれた者に。アインズ達にそれぞれ頭を下げていく。

 現在、作業している内容でアインズに報告すべきことは無いのだが、語学レッスンのことを思い出し、改めて謝罪する。

「無事であれば良い。それで……、勉強の方は出来そうなのか?」

「遅れた分は取り戻せないが、することは変わらない。眠ってても働いていたような気がして疲れが取れた気がしない……。施設の点検が終わり次第、教材を用意する」

「一日くらい休んでもいいぞ」

「丁度良い労働の方が身体にはいいんだろう。……色々と世話になった」

「前回、お前を殺したのが原因という事は無いだろうな?」

「それを言えばキリが無いぞ」

 実際のところはヤントラ自身にも分からない。

 アバターの侵食率というものがあって、それが十割に達するとどうなるのか。

 正直、そんなことは考えたくない。

 アバターだけ自由にさせられる方法があれば分離したいところだ。

 縦に真っ二つ。

 過去にやられたことがあるが、その時はそれぞれ意志があって互いに協力していた気がする。

 身体が近くにあったからかもしれない。

 もっと離れていれば自分の予想では利き手のように右側に意識が移り、左側が死んでいくのでは、と。

 例外もあるかもしれないが、それは今のところ考えたくない。

 奇跡はたまに起きてくれればいい。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 季節はめぐり春到来。

 上水月(四年目の四月)の中旬。

 魔導国は予め植えておいた麦の生育状況を確かめる。

 それほど広くは無い田畑に新緑の麦が順調に育っていた。

 二期作、二毛作に挑戦し米とトウモロコシを安定的に育てる計画だった。

 連作障害を回避する為にエンリや農業関係者の指導を受け、最悪の場合だけ森祭司(ドルイド)の力を行使することにした。

 あまり魔法に頼るのは自然の摂理を崩壊させかねないとのことで。

 もちろん、リ・エスティーゼ王国だけではなくバハルス帝国でも広大な田畑による作物の育成は行(おこな)われている。

 戦争を抜きにして、人々は食べなければならない。

 飲食不要の種族にとっては取るに足りないことかもしれないけれど、作物の育成は食べる事の他に経済を動かす重要なアイテムである。

 穀物だけでは栄養が偏るので他にも小さな範囲で様々な野菜類も作られる。

 魔導王は直接的に味見は出来ないのだが育成に関する報告が上がってくると破顔してしまう気持ちを抑える。素直に喜びたいところだが、部下の前なので自制している。

「土質に異常はなく、このまま順調であれば来月には最初の刈り入れが始められるようです」

「うむ。……しかし、アンデッドを入れると連作障害になりやすい、というのは盲点だったな」

 土に害ある細菌が混じると作物の育成に良い影響を与えないという。

 確かに腐っているアンデッドモンスターだから危険な細菌が付着していてもおかしくない。というか、危険なアンデッドが居るのも事実だ。

 完全な白骨の骸骨(スケルトン)でもないと。

 ただ、骨の成分が溶け出して、何かが起こるのでは、とか色々と言われると安易に使えなくなる。

 もちろん、潰しの利く畑を用意して実際に色々なアンデッドに畑の耕しをさせている。

 エンリが言うには畑がダメになると回復させるのに数年を要したり、二度と畑として仕えなくなる事があるという。

 森祭司(ドルイド)の力で回復できるのかもしれないけれど、一般的には高位の森祭司(ドルイド)が居ないので地道な経験便りの意見が出されていた。

「害虫や細菌は自然豊かな……。免疫の無い世界だからか……。なるほどなるほど」

 医療技術はまだ未発達。

 魔法に頼るのも実は大変な世界ということを失念していた。

「何事も失敗の繰り返しだな。畑に関してはこのまま様子見で構わない。いきなり貿易で税収入とは行かないもののようだ」

「では、続いて。鉱山開発について」

 鉱石相手の作業にはアンデッドはとても有用で落盤でも起きない限り、問題は発生しにくい。

 問題点は毒ガスが発生するかも知れないということと珍しい鉱石かどうかアンデッドには判断できない。

 意外な発見を見逃してしまうのではないかというものだった。

 これは死の魔法使い(エルダーリッチ)などの別のシモベに調べさせる事にした。

 普通ならば人間を憎むアンデッドとして恐れられているので魔導国の安全なアンデッドであるという目印が必要になってくる。

「森林開発はどうなっている。伐採ばかりでは禿(は)げ山になりかねん」

「はい。伐採後は新たな苗木を植える作業をさせておりますので、それは問題ないかと」

「安定するのに数年はかかる、ということだが最初は心配事が山積みだな」

 もちろん、最初に作った『マグヌム・オプス』の主もそうだったのだろう。

 失敗の連続。それに怯えていては前に進めない。

「蜥蜴人(リザードマン)達の生簀(いけす)はどうだ?」

「こちらも特に問題は無いかと。大型淡水魚の養殖に今のところ問題はないと報告がありました」

「こちらも街に卸せる数が出来れば少しは収入になりそうだが……。そこまでは増えていないだろうな」

 元々は全部族が安定的に食べるために育てる計画だったのだから。

 それを売る為に取り上げるにはもう少し過剰に増えてもらわなければならない。

「その魚は人間も食べられるものか?」

「それは分かりかねます。ツアレに調理を依頼しましょう」

「そうだな。それと毒性が無いか鑑定するように」

「畏まりました」

 アルベドは必要な事をメモし、控えているメイドやシモベに連絡していく。

 今のところは問題なく順調だ。

 世界に打って出るより自国の安定を少しだけ優先させたアインズ。

 安易な世界征服で廃墟ばかり築くのは面白くない。何の為に今まで慎重に行動してきたのか分からなくなるからだ。

 実際の国の運営は数日で劇的に変化するようなものではない。

 過剰な変化は世界に住む生物にとって良くないだろう。

 

 一時は要塞化していたカルネ村は少しずつ村らしい姿に変貌していった。

 森側の塀はそのままだが、来客用の塀は低く削られた。

 奥には矢盾の板が何枚も立てかけられている。

 ンフィーレアの薬草工房があり、一部の冒険者が訪れる。

 宿泊施設も設置されており、やはり冒険者の利用客が使っている。

 人の往来が増えて領主に税を滞りなく払っても余裕が生まれる。あと危険視されにくくなった。

 小鬼(ゴブリン)などのモンスターが常駐しているが一部の大型モンスターはトブの大森林に移ってもらっている。

 カルネ村は様々な農作物の研究が始められ、各農村に色々と種などを提供していた。

 もちろん、王都から訪れる役人の検閲を受けなければならない。

 一部の毒草も使用目的次第では取り扱えるのが薬師の特権でもあった。

 薬草学に毒物は付き物なので。

 他の街の薬師を招き講演したり、研究内容のすり合わせも行(おこな)われる。

 バレアレ家はリ・エスティーゼ王国での地位はとても高い。

 要請があればバハルス帝国にも訪れる。

「ネムちゃん、大きくなったね」

「はい」

 小さな少女も姉と共に畑仕事に従事し、新しい明日に向かって邁進(まいしん)していた。

 職業(クラス)とレベルは低いけれど、一生懸命な姿はカルネ村の癒しだった。

 もちろん、ネムが望めば強くなれるのだが今は勉強を優先させていた。

 地道な経験の積み重ね。基礎は大事だという姉やンフィーレアの教えを守っている。

「キリイちゃんは元気?」

「はい」

 キリイ・バレアレ。

 ンフィーレア達の息子で元気いっぱいに育っている。いきなり魔法は使わないがカルネ村の次代を担う希望の星だ。

 人蛇(ラミア)はラフィー・エモット。

 人馬(ケンタウロス)はセヌメ・エモットとそれぞれ名付けられている。

 こちらも随分と身体が大きくなっている。いずれ自分たちが人と違う事を自覚し、悩む年頃になるかもしれない。

 同種の居ない亜人種。

 戦争孤児は珍しくないのだが、いずれ聞かれる時はどう答えてあげればいいのか。

 責任という言葉は年々、重さを増して襲ってくる。

 自分の意思というものを持たない蜘蛛女(アラクネ)・戦乙女(ワルキューレ)も名付けようか迷った。

 九体居るという戦乙女(ワルキューレ)達には専用の名前が存在する。

 モンスターとしての名前となると同じ名前が横並びになる可能性がある。

 今はアラクネさん、と呼んでいる。

 以前はよく来ていたルプスレギナはここ数ヶ月は姿を見せていない。居ない事はなく、魔導国やエ・ランテルで働いているようだ。

 村にずっと常駐する事ができないようなので仕方が無いのだが、急に来なくなると寂しいものがある。

 代わりに来るのは全身を黒い服で包んだような人物の小脇に抱えられた『ナザリック地下大墳墓をいずれ支配する』と言い張る鳥人間の『エクレア・エクレール・エイクレアー』というモンスターと身体中が鱗で覆われた蜥蜴人(リザードマン)かと思われた人物。

 エクレアは鳥人(バードマン)という種族のモンスターで主な仕事は清掃業。それに誇(ほこ)りを持つ紳士な執事助手だ。

 対する蜥蜴人(リザードマン)モドキは竜人(ドラゴニュート)という種族なのだが、人間に名乗る名前は無い、と元気に言い張った。

 背中から生えている立派な翼に凛々しい顔つき。裸ではあるけれど引き締まった肉体はエンリやネムもつい顔を赤くするほど立派だった。

 ただ、背丈は子供サイズ。ネムより小さい。

 竜(ドラゴン)種は長命で成長も比例して遅いのだろう、とンフィーレアは分析する。

 森妖精(エルフ)と同じくじっくりと成長していくのだろう。

 人間の成人サイズになるには五十年くらいかかるのではないかと。

「イー」

 エクレアを運ぶ人達は『イー』しか言わない。それしか言えないのかも知れないけれど、どんな素顔なのだろうか。

 骸骨(スケルトン)という気はしない。触った感じでは肉体らしい弾力があったので。

「みすぼらしい村民たちよ」

 と、小脇に抱えられたエクレアが言った。

「大きなお世話です」

「うむ、すまぬ。村は相変わらずか?」

「急な発展はしませんから、相変わらずですよ。襲撃もありません」

 もし、あれば一大事だが。

 竜人(ドラゴニュート)は蜘蛛女(アラクネ)に戦いをよく挑む。適度に相手をするように命令されているので練習相手としては最適なようだ。

 攻撃に転じればあっさりと倒されてしまう竜人(ドラゴニュート)。

 子供とはいえ竜(ドラゴン)種はカルネ村の大人より強い。

 成長すると立派な竜(ドラゴン)になるかというと、そういうことはないらしい。

 人並みより少しだけ大きい人間型の竜(ドラゴン)。火も吐こうと思えば出せるとか。

 基本的に雑食。人間も食べられない事はないらしいが、無理して食べたいとは思っていない。

 寒さに弱い。冬場の竜人(ドラゴニュート)は物凄くしおらしくなる。

 基本的に裸だから寒いのでは、とエンリは首を傾げるのだが。

 竜人(ドラゴニュート)用の服が無い。無い、というか着たがらないのかもしれない。

 飛竜(ワイバーン)が服着て空を飛ばないように。

「何か装備品があればいいのに。蜥蜴人(リザードマン)も何かしら着ているわよ」

 腰布だけだったりするけれど。

「いらねー。おいらは戦士だ。人間的な装備は……っくしょい!」

 たまにだがクシャミと共に火が出ることがある。

「ほらほら。春になったばかりとはいえ、寒いんじゃない? 夏はまだよ」

 あと、村を燃やされたくないので温かい格好をしてほしい。

 エンリはエクレアに頼んでみた。以前も頼んだはずなのだが、改善されていない。

 本人の意思を尊重したのかもしれないけれど。

「なにしろ、私に権限が無いのだから仕方が無い」

「ナザリックを支配する予定なのに?」

「予定は予定だ。未定の今は何も出来ない」

「そんなんでナザリックを支配できるんですか?」

 そう言われてエクレアは唸った。

 正論を言われると言い返せない。

 村娘のクセに生意気な、とは思うのだが納得出来ることがあるので仕方が無い。

 人間の言葉など受け取る価値は無い、と簡単に斬り捨てられない。

 創造主である『餡ころもっちもち』は人間にとても寛容だった。だから無下に出来ない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あくる日に物々しい一団がカルネ村に訪れる。

 国旗はバハルス帝国。

 重装備の騎士と騎兵。大部隊というわけではなく要人警護の少数部隊。

 村を襲撃するには物々しすぎるが蜘蛛女(アラクネ)・戦乙女(ワルキューレ)が先行して彼らに近づく。

「我等は戦闘に来たのではない。皇帝からの親書を届けに参った」

 蜘蛛女(アラクネ)・戦乙女(ワルキューレ)は一般の人間と会話しない。

 敵対行動に出れば排除するのみの警護役に過ぎない。

「武器を置け」

 師団長と思われる人物の言葉にそれぞれ従い、武器を地面に置いた後に騎士達は両手を空に向かって上げる。

 その行為で蜘蛛女(アラクネ)・戦乙女(ワルキューレ)は武器を収めた。

 この事を知らない者は襲われても仕方がない。

 馬に乗ったまま腕を上げ続けるのは大変なので、蜘蛛女(アラクネ)・戦乙女(ワルキューレ)の様子を確認し終えた者達は待機状態に入る。

 蜘蛛女(アラクネ)・戦乙女(ワルキューレ)が一歩下がった所で村の代表者がバハルス帝国の騎士の下に駆けつける。

「よ、ようこそおいで下さいました。物々しい歓迎をお許し下さい」

 今日はンフィーレアとエンリが不在だった。

 村長代理の青年が恐る恐る対応する。

 その青年の影に影の悪魔(シャドウ・デーモン)が潜んでいるのだが、それを知る者は少ない。

「長旅の為に一泊させてはくれぬか。村の外でも構わないが……」

「は、はい。この辺りですと……、向こうの丘となります。申し訳ありません、今は村の中は収穫時期の用意で大部隊をお泊めする場所がございません」

「構わない」

「飲食と水に関してはお持ちいたします。村長が不在なのですが、どのようなご用件なのでしょうか?」

「うむ。まずは親書を渡しておこう」

 代表者がいくつかのスクロールを青年に渡す。

「要点は一つだけ。我が国の村の一つなのだが、原因不明の不作に見舞われているので調査を依頼したい。王国随一の農家という噂を聞きつけて藁にもすがる思いでやってきた。もちろん、皇帝陛下の許しも得ている」

 その皇帝からの嘆願書が親書のスクロールだ。

「は、はあ。不作……ですか? それは大規模なものでしょうか?」

「ああ、一面黒ずんだ土で何も育たない。掘り返すと粘菌のような粘つくものが出るとか……。粘体(スライム)系の仕業ではないらしいのだが……」

「それは……」

 疫病ではないかと青年は思った。

 正確なことは村長達の帰還を待たないと何ともいえない。

「……もしかして、貴方達はその畑に入ったりしませんでした?」

「いいや。我々は報告を受けただけだ」

「もし、入っていたら装備品に細菌が付着しているおそれがあるもので……」

「うむ。その可能性はバハルス帝国でもなされている。石灰による消毒は行(おこな)っている」

 バハルス帝国でも大規模農園はいくつかある。当然、疫病対策もおろそかにしない。

「最悪、畑が死んでいる可能性がありますね」

「そうか」

 試験的に畑に疫病を撒いて観察する、という事ができないので対処法がバハルス帝国には無かった。だが、研究はされている。

 帝国には居ない優秀な農家の意見を聞く為に今回は皇帝の勅命を受けて訪れた、ということだった。

 どの国も畑は生活の生命線。

 簡単に捨てられないものだ。

 騎士達には村人総出で宿泊準備を整えさせて、青年は影の悪魔(シャドウ・デーモン)に連絡を依頼する。

 地面に国境は無いので自分の村のことのように心配するのは当たり前だ。

 対策を怠ればカルネ村の田畑も被害を被る。

 騎士達が一泊して帰還した次の日にエンリ達が戻り、対策会議が行(おこな)われる。

「実際に調べてみないとダメそうだね」

 帝国語の親書をンフィーレアが読み上げてエンリは顔を青くする。

 事態はかなり深刻だった。

 帝国にある大農園の畑がダメになったというのだから。

 小さな畑とは違い、一都市の食糧事情に大ダメージを与えるものだ。

 畑が使えないだけで済むわけはなく、何も育てられない、というところが問題だ。

 疫病は拡散する。他の畑に波及しては一大事だ。

 いくつかの村を焼き討ちするレベルに発展でもしようものなら戦争が起きる可能性が出てきてしまう。

 歴史的にも他国の畑を目当てに戦争が起こされるのは珍しくない。

 無ければ奪え。

 それが争いの歴史だ。

「万能の魔法でも根付いた疫病を完全浄化しないかぎりは不安が残る」

 頼みのアインズ・ウール・ゴウンという魔法詠唱者(マジック・キャスター)は死霊系統を極めているという。だから、疫病を広める方の魔法は持っていても浄化は無いだろう、とンフィーレアは予想していた。

「まずは現地調査からだね。土の総入れ替えで済む問題とも思えないけれど……」

「そうね。死んだ畑を復活させるのに十年以上はかかると言われているし」

 敵国とはいえ農民を苦しめる趣味はエンリ達には無い。

 困っていれば手を取り合う心はある。それが両親の敵(かたき)だとしても。

 つ(・)て(・)で聞いた範囲だが、皇帝の話しでは王国の村を襲うように命令した事は無いらしい。

 部下が勝手にやったのか、というと証拠が出て来ない。

 鎧は本物のようなのだが、似せて作ることが可能なほど大したものではないので、真偽を確かめることが出来ないのだとか。

 後で知った事実では帝国兵に行方不明になった者は一人も居ない。つまり、何者かの偽装工作員だった、ということになる。

 エンリ達にその話しを素直に信じることは出来ないし、確かめるすべは無い。

 居なくなった者は居ない、と言われても帝国兵のことは村娘に確認しようが無いから。

「カルネ村は元々は帝国に恨まれるようなことはしていないし、ここで恩を売るのも戦略としてはありかもよ」

「ということだけど、ネム。留守番をお願いできるかしら?」

「……絶対に帰ってきて」

「私達にはゴウン様がついているんだから。……いざという時のヤントラさんも居るわけだし。……正直、あの人に頼みたくないけど……」

 エロいし。

「ヤントラさんはそれ程悪い人じゃないよ。今はエロくないよ」

「本当に?」

「あらかたやり尽くしたって感じだから。もう数年くらいは……。でもほら、たまになら……」

「……たまにね~。ま、まあそうよね。たまに子供を増やしたくなるわよね」

 エンリは顔をンフィーレアに近づけていく。

「が、頑張るよ、僕は」

「その意気よ。さて……」

 エンリは真面目な顔になり、気合を入れる。

 ンフィーレアは必要な採取の道具を整える為に動いていく。

「調査する前に消毒作業用の道具を揃えてちょうだい。場合によれば一国だけの問題ではないかもしれないから」

 と、命令を下していく。

 それは小さな村から国全体に拡散し、バハルス帝国にまで広がっていく。

 『飛行(フライ)』によって上空からバハルス帝国の広大な田畑を見るといくつか黒ずんだ土地が見えた。

 規模が大きすぎると被害もそれだけ広がり易い。

「疫病を拡散させるモンスターの仕業なのかしら?」

 疫病爆撃手(プレイグ・ボンバー)というモンスターは居るのだが、このモンスターはバッドステータスを拡散するだけで畑を汚染する能力は無いはずだ。

 詳しいことは持ち主に聞かなければならないけれど。

 慌しくカルネ村が活動しているころ、ナザリック地下大墳墓の執務室でアインズもバハルス帝国の報告を受けていた。

「帝国がエンリに助力を求めた件は了承した」

 まず影の悪魔(シャドウ・デーモン)を下がらせ、書類に目を通す。

 自分たちも農業に着手しているので他人事ではない。

「そもそもの原因は何なのだ? 疫病だけか?」

「はい。モンスターによる被害拡大、というわけではないようです」

 超位魔法で物騒な効果をもたらすものはいくつかアインズも習得している。だからといって畑に試し撃ちはしていない。

 そもそも超位魔法を使ったのであれば、部下から報告が来るはずだ。

 同盟国の内情は各地に部下を派遣しているので分からないはずは無い。

「その畑はアンデッドを派遣した村とか?」

「いいえ、それは無いかと」

 他の部下からの報告をアルベドは告げていく。

 エンリの助言で畑仕事にアンデッドは使わないようにしているのだから有り得ない、はずだ。

 何者かがこっそりと使っていれば、それはその者の責任だ。

「被害の規模は大きいのか?」

「はい。国土の8パーセントが被害にあって、今も少しずつ拡散している模様です」

「……うぁ……。それはすぐに手を打たねば」

 国土の一割近い畑というのはバハルス帝国の全国土から考えれば小さくない規模だ。

 一都市分とも言える。

 1パーセント未満ならまだ少し余裕を見せられるけれど、とアインズは呟く。

「今の時期に蝗(いなご)の大発生というのも考えられないな」

「蝗害ではないようです。土壌汚染という報告がありますね」

「それはそれで深刻だな」

 アインズとしては聞きたくない単語だった。

 元の世界は土壌どころか大気も汚染されている。

 人工的に作られた人工物の中でしか生活できないような暮らしはアンデッドの身であるけれど身震いする恐怖だ。

 自然の温泉に浸かる。その幸福を味わえないのは苦痛だろう。

 自然食品の素晴らしさはブルー・プラネットだって熱く語るほどだ。

 自然を破壊するものは敵だ。

「それは一箇所だけか?」

「確認されている畑は複数とのことです」

「他人事ではないぞ、アルベド。こちらも調査隊を派遣しよう」

 さすがにアンデッドは不味いのでアウラとマーレ、冷凍保存という観点からコキュートスや蜥蜴人(リザードマン)達も送り出す事にした。

 自然を守る事に出し惜しみは無しだ、という強い決意を込めて。

「菌といえば茸人(マイコニド)! 食堂はツアレに任せて、副料理長も出そうか。いや、出したらより被害が広がるか……」

 害は無いと思うけれど、気分的にアウトな気がした。

 

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