※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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O-8 バハルス帝国の食料危機

 無難な部下をまず送り出し、エンリ達と合流させる。

 それから現場まではアウラ達の魔獣によって一日で到着するという速さ。

 現場の状況が分からないので『転移門(ゲート)』の使用は控えた。

「まずは皆さん、菌が付かないように防護服を着て下さい」

「えー、これを着るの~」

「はい。いくら階層守護者の皆さんでも従ってもらいますよ。コキュートスさんは……、畑に近づかない方がいいですね。出来るだけ足元を凍らせた部分で待機しててください」

「アイ分カッタ」

 コキュートス用に水を入れた桶が用意され、それを周りに撒いて凍らせていく。

 ンフィーレア監修による指示が飛ばされる。側には転移要員のメイドも控えていた。

 被害にあった畑には作物どころか雑草すら生えない真っ黒な荒野。

 どうしたらこんなことになるのか、頭を傾げてしまうほどだ。

 どこぞのバカが変な魔法を使ったんじゃないかという有様だ。

「ちなみに、畑を真っ黒にする厄介な魔法ってあります?」

「あるに、はある、と思いますが……。実際に見たことは、ありません」

 マーレも足を踏み入れたくない状況に驚いていた。

 村人総出で被害にあった畑を取り囲むように石灰を撒いていく。

 他の場所にも同じように処置を施す。

 単純に上から氷結すればいい、というわけにはいかないようだ。

 あと、焼却処分も簡単にはいかない。

 疫病なら地面の下にも広がっているので、地域丸ごと切り抜きでもしない限りはどうしようもない。

 魔導国なら出来そうな気がするけれど、そういう力技は最後の手段にしたい。

「モンスターの影は無し!」

 と、見張りをしていた蜥蜴人(リザードマン)が言った。

 まずは問題の土を採取する。

「うわぁ、なんだこれ……。土が腐ってるのか?」

 引き上げると悪臭が漂ってきた。あと、糸を引いている。

 泥状になっているようだが、とにかく気持ち悪い感触だった。

「いつからこんな状態なんですか?」

「一週……二週間ほど前かな。急に畑が黒くなったんだよ。それからゆっくりと広がっていったみたいで」

「これがモンスターだとして、話しが通じれば原因が分かったりするんでしょうけれど……」

「いやこれ古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)の死骸みたい……」

 強力な酸は無い様なので粘体(スライム)ではないようだ。

 悪臭が酷いのでアウラとマーレは顔をしっかりと守っていた。目はガラスのメガネで防御。魔獣達にも顔や身体を守るように布などを巻いてもらった。

 実際に古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)だったらンフィーレアの手は簡単に溶け落ちている。

「今の季節は温暖ですが菌が増えるほどの要素は無いはずなんですが……」

 容器に入れるのだが空間を作ると悪臭がこもったりするので慎重に扱った。

 焼却処分で解決するような気がしない。

 もちろん氷結も無駄だろう。

 凶悪な猛毒に晒されて土が腐ることもあるかもしれない。

 ただ、被害が拡大するほどかと言うと疑問に思う。

 作業員は毒対策をしている為に今のところ具合が悪くなった者は現れていない。

「ナットウキン、という菌のせいかな?」

「それは無いと思うよ。食用に使う菌がここまで危険なら、そもそも使えないと思う」

「う~ん。意外な敵の出現に困ったわね」

 階層守護者は人間やモンスターの対処は出来るけれど自然災害などは不得手だ。

 火災なら水をかければいいし、コキューストの冷気でもいい。

 土を腐らせる敵は森祭司(ドルイド)の出番だろうか。

「で、でも、根本の原因を、取り除かない、うちは僕の魔法を使っても、意味がないと思う。ただ単に上に乗せるようなものだから」

「そっか~。それもそうだね」

 被害がどこまで広がっているのか調査しなければならない。

 上辺だけ除去しても地面の下に少しでも疫病が残っていればまた同じことの繰り返しになってしまう。

 いわゆる特効薬が必要だ。

「とりあえず、被害の畑は放棄しましょう。コキュートスさん、少し強めの冷気で封印作業……、溶けたら意味無いか……」

「言イタイ事ハ理解シタ」

 ンフィーレアは採取した土を厳重に封印し、木箱に収める。

 転移要員のメイドに運ばせる。

「今は打つ手無しですが、しばらくお待ち下さい」

「お手数をお掛けします」

 畑の持ち主がンフィーレア達に頭を下げた。

 石灰による消毒作業の後、畑全体を氷結していく。

 低温により活動を遅らせる、と言う意味がある。

 念のために『飛行(フライ)』で似たような畑が他にも無いか確認していく。

 畑の持ち主や作業員から今までの作業工程を聞いていく。

「この服は最後、どうするの?」

「焼却処分ですね。出来れば粘体(スライム)による異物除去も受けてほしいですけど」

 聞きたくない言葉が聞こえてアウラは嫌そうな顔になった。

「どんな風にするの?」

「露出している肌にまとわりつかせます。髪の毛の奥とか、顔の奥はやりたくないのですが……」

 それだけで大体の想像がついたアウラ。

 アインズの命令ならば文句一つ言わないかもしれない。いや、少しは言うだろう。

 そんな気持ち悪い方法は嫌だ、と。

「ちなみに、どんな粘体(スライム)なの?」

「蒼玉の粘体(サファイア・スライム)です。綺麗な色で適度に強く、酸の調整も出来る、という……」

「ああ、あれ。ソリュシャンとかじゃなくて?」

「掃除用に訓練しているようなので。他の粘体(スライム)も見てみたいですね」

 訓練しているのならば仕方が無い。

 ソリュシャンだと仕事をちゃんとできるのか、と言われれば暗殺は得意だろう。

 毒物に関しても詳しいかもしれない。

 汚れ除去はおそらく苦手かもしれない。

「……適材適所か……」

「そ、その粘体(スライム)自体、細菌に攻撃される可能性はありますか?」

「細菌が粘体(スライム)より強ければ……、ありえなくはないですね。この粘体(スライム)より強いと人間……、というか村民にはどうしようもないです」

 蒼玉の粘体(サファイア・スライム)はかなり強いモンスターだと聞いている。それより強いとなると国の存亡レベルだろう。というか、今がまさに存亡の危機だった。

 アウラ達の魔獣はかなり遠くに避難させているので安全度は高いだろう。

 調査する時に二重三重の対策をするのは当たり前だ。

 容器の一部をアウラ達に任せるのだが、管理方法をこと細かく告げると嫌そうな顔をする。

 マーレは大事なことなので真面目に聞いていた。

「熱に弱ければいいんですけどね。処分方法も下水にそのまま流さず、浄化魔法とかを使わないと危ないかもしれません」

「分かりました」

 おろそかにできない。

 いい加減な人間が扱うと畑が死んでしまう。

「連作障害と言うわけではない、ですよね?」

「ここまで酷いのは僕の記憶にも無いですね」

 エンリも生きてきた人生で始め見る脅威だと言っていた。

「蝗害ならまだ虫系モンスターの仕業だと言えるんですが……。これは完全に疫病クラスです」

「そ、そうですか。治りますかね?」

「治したいですね」

「放置も出来ませんので。出来るだけ早めに手を打たないと被害が広がるばかりですから。頑張って、ンフィー」

「はい」

「こちらも調査して頑張ります」

「お互い、頑張りましょう」

 被害にあった畑は氷系モンスター達を動員して氷結してもらい、交代制で監視する事になった。

 他の無事な畑も調査して石灰などを撒いていく。

 最終手段として荒療治が必要な場合がある。それは原因を特定せずに殲滅するようなことなので将来を考えると悪手の一つとなる。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 土を腐らせる原因は細菌類以外に考えられない。

 例えば魔法で土を殺すものがあるとするならば砂漠化するはずだ。

 未知の細菌モンスターとするならば上位モンスターで制御出来るはず。

 様々な仮説を立ててンフィーレアは調査していく。

「死んだ土は除去しなければなりませんが……。問題はどの程度まで広がっているかですね」

 書類を読むイビルアイも他人事とは思えず、研究に対して色々と意見を述べる。

 王国でも同じことが発生した場合の対処にも繋がるからだ。

「人に言えない物質を入れるとか。何かの拍子で細菌が混入、または遠くから入り込んだ……」

「人的被害は今のところ無いそうです」

「カッツェ平野からも遠い地域だし……。急だな」

 メイドの一人がンフィーレアにガラスの容器を手渡す。

「ありがとうございます」

「それは?」

「焼却した土です。半分近く入っていたんですが……、ここまで減るとは……」

 色はほぼ白。

 金属棒で軽くかき混ぜるが、特に反応は無し。

「死滅したようですね。焼却処分は出来ると……。邪神系の粘体(スライム)……。それが発生したんでしょうか?」

「それにしては大規模すぎだな」

 育てていた作物に原因があるのか。

 何者かが疫病モンスターを投げ込んだのか。

「ヤントラさんはどうしていますか?」

「リ・アインドルで静養中だ。さすがにご主人が帝国を襲うというのは、ありえないと思うな」

「疑り深い人間なんですかね、僕達は」

「そうかもしれない。それで……、この細菌は増殖するのか?」

「被害の様子からは増殖するタイプのようですね」

 別のメイドがンフィーレアの元にやってきた。

「あっ、透明になっている。低位の浄化魔法が通用するかもしれません」

 水に細菌を入れて浄化魔法をかける実験。

 浄化されたと思われる細菌は白い砂となり、底に沈殿していた。

「アンデッドの出現が無いから信仰系の出番か」

「問題があるとすれば表に出ていない被害がどこまで広がっているか、です。表面だけ浄化しても意味が無いので」

「そうだな」

 ンフィーレアとしては細菌を駆除する薬品を投入したいと考えていた。

 一部の薬品は二度と作物が育てられなくなるような強いものだったりする。

「東の毒地帯のようになってはいけませんよね。そういえば、そこの調査もありましたね」

「アインズ側からも助っ人を頼めれば活動もしやすいだろう」

「こういう時に金儲けをたくらむような人ではないと思うのですが……」

「貴族なら有り得ない話しではない。というだけだ。バハルス帝国は任せてもいいが、王国は譲る必要は無い」

「はい」

 とはいえ、情報共有は大事なのでバハルス帝国用の書類も用意する事にしていた。それに関してイビルアイは止めたりしない。

 若き薬師の熱意を応援する立場だ。

 

 細菌類は低位のモンスターで低位の信仰系の魔法で充分に対処できることがわかった。

 本当にモンスターなのかは分からないけれど。

 ただ、バハルス帝国に発生した経緯は特定できない。

 故意なのか、事故なのか、偶然なのか。

 便利な肥料と思って使ったらとんでもない事になった、ということもありえる。

 被害の拡大を防ぐ為にまずンフィーレアはヤントラを呼び寄せる。

 本来は家族サービスの邪魔はしたくなかったし、イビルアイも緊急時という事でメ(・)イ(・)ド(・)服(・)を(・)着(・)て(・)謝罪する。

「一週間メイド服を着るから手を貸してほしい」

「分かりました。別にメイド服にこだわりがあるわけではないけれど……。それよりイビルアイが犠牲になっていいんですか?」

「事は国や世界全体に広がる問題だ。食は何よりも大事なこと。私は飲食不要ではあるけれど……、飢えが辛いのは知っている」

「それより王国内は無事なんですか?」

「つてを頼って集めた情報によれば無事だそうだ」

 まずヤントラに作ってもらいたいのは大量の土砂を入れる広い浴槽だった。

 既に汚染されている土は全て掻き出して浄化していく。浄化すると砂になってしまう。それは後で色々と再利用の為に考える事にする。

 新たな土は簡単には用意できないが、肥沃な大地で浮かぶのは女体の排泄物だ。

 恥を忍んでンフィーレアはヤントラに救いを求めた。

「砂漠の緑地化で思い出したんです。ヤントラさんは今(・)あ(・)る(・)物(・)で開拓しようとしている。その発想をお貸し下さい」

「エロい事は無し、でいいよ。ちょっと絞首台の小人(ガルゲンメンライン)が過(よ)ぎったけれど……。さて、その畑はどれくらいの規模なんだ?」

 嫌な言葉が聞こえたけれど、ンフィーレアは書類を渡す。

「増殖速度はそれほど速くは無いのですが、温かくなると早まる可能性があります」

「一ヶ月で勝負をつけたいと見た」

「ご名答です。間に合う……、間に合わせますよ」

「よろしい。……ところで国王や皇帝から怒られたりしませんか?」

「農家の一大事はランポッサ国王も気にされている。手助けに関して口出しされることは無いだろう」

 他国で活躍する事を気にしているのだろう。

 勝手に活動するとラキュースが咎められてしまうので、気にすること自体は理解出来る。

「疫病系の魔法だとすると高めの位階だったはず……。随分と急な被害ですね」

 それはまるでナザリック地下大墳墓が元々あった周りの毒の沼地が転移してきたような感じだ、と思った。

 場所が大幅にズレているので関連は無いと思うけれど、ありえない事態はよく起きるから油断は出来ない。

「細菌であって毒ではない、と……」

「毒かもしれませんが……、土を侵食するほど、というのが……」

 育てている作物の側に毒消し用の植物を植える方法もある。

 今回は間違って毒草を植えた可能性もあるかもしれない。

「毒草……、確かに知らずに植える事はあるかも」

 書類だけでは分からないので細菌を封入した容器を調べる事にした。

 大浴場の一角に氷結保存してメイド達に監視させていた。

「浄化の魔法が通用するので、ここに置いています。粘体(スライム)ではないようです」

「なるほど。現地の細菌類という可能性が高いか……」

 既に鑑定はしているけれど詳しいことは分からなかった。

 それはただンフィーレアの鑑定レベルが低いから、ということもある。

「不定形の粘液(ショゴス)であれば人を襲う可能性が高い。菌の粘体(モールド・スライム)なら……」

 ヤントラの口から色々なモンスターの名前がこぼれる。

「えっ? 今、聞いた事の無い名前が……。それもモンスターですか?」

 特に後者は始めて聞く名前だった。

「ああ、私の知識はあまり役に立たない。大半はその時々に思い出すからね。前者は邪悪な粘体(スライム)だと思っていい。後者は病気を振り撒く菌類の粘体(スライム)だが、それほど強くはない」

「へー、そういうモンスターも居るんですね」

 菌類と粘体(スライム)は別物だと思っていた。

「こういう生物(なまもの)系はアインズが詳しいかもしれない。少なくとも私はこういう菌類は苦手だ……」

「あらら、あー、そうですかー。では、ゴウン様にも意見を貰いますよ」

「見目麗しいモンスターなら、いいのだが……」

「いえいえ。人の趣味ですもんね」

「あー、聞いた特徴の感じでは菌の粘体(モールド・スライム)に近いかもしれない。こいつも病気を振り撒くモンスターだから」

「分かりました。他に特徴とかあるんですか?」

「広範囲に広がって獲物を狙う点は普通の……。ナザリックの茸人(マイコニド)に聞いた方が早いかもしれないな。土を腐らせて広がる点は似ているだろうね」

 ただ、モンスターなので獲物に襲い掛かるはずなのだが、それが無いのは途中で力尽きて腐ったのか。

 ヤントラの苦手分野なのでうまく説明は出来なかった。

 とにかく、強さは大した事が無い、というところははっきりしている。

 難度でいえば10から20程度。

 小鬼(ゴブリン)程度の強さだろうか。

 

 ンフィーレアは一般メイドと共にナザリック地下大墳墓のアインズの執務室に訪れた。

 調査の内容などを告げていくと何度も頷かれた。

「菌の粘体(モールド・スライム)! 確かに特徴は似ているな。現地産の菌の粘体(モールド・スライム)ということもありえる。だが、モンスター反応が無かったようだが……」

 生きている菌の粘体(モールド・スライム)は小さな卵型。その身体の周りに菌類などをまとわり付かせていく。

 最終的には絨毯のような姿になり、広範囲に疫病を撒き散らしながら獲物に襲い掛かる。

「栄養が足りなくて途中で力尽きてしまったのではないでしょうか?」

 と、発言したのは第九階層で一般メイド達に料理を振舞う茸人(マイコニド)だった。

 人間的な顔ではないのでどこを向いているのかンフィーレアは分からない。

 全身が茸で出来ているような感じだった。

「そのまま病気を撒き散らしていると……」

 それはそれでただただ厄介なモンスターだな、とアインズは呆れる。

「おそらくは……。腐った土は早急に取り出さないと病気が広がるばかりかと」

「既にヤントラさんに大型の浴槽を用意してもらっていますが……、数日はかかるかと」

「その間に信仰系の者で場を清めてもらいましょう。少しでも被害を食い止める為に」

「分かった」

「栄養が足りない、または身体に合わない……。様々な点が考えられますが今は掘り出すことに致しましょう。ただ、その後はどうしましょうか?」

 副料理長は首を傾げた。

 はた目には頷いた様にも見える。

「膨大な堆肥で埋めようかと。砂漠地帯で緑地化の実験もしていたので、その方法を取ればいいかもしれません。ただ、すぐには土地が回復しないと思いますけど」

「回復するのであれば時間がかかってもいいだろう」

 自然が回復するのであればアインズも安心することが出来る。

 自分たちは悪のロールプレイをしているけれど、世界を穢したいわけではない。

 綺麗な空。肥沃な大地は守りたい、という気持ちはある。

 それに来月は麦の収穫準備が待っている。

 エンリの喜ぶ顔はアインズとて見たい。

「その菌の粘体(モールド・スライム)が地下に住んでいた場合は対処の仕様が無いな」

「さすがに保存して愛でることは出来ないモンスターですよね」

「うーむ。その辺は副料理長、どういう気持ちなのだ?」

「ナザリックに害をなすものは近親種であろうと敵です。制御できない者は要りません」

 ばっさりと斬り捨てる茸人(マイコニド)。

「仲間として迎えられれば良いのだが……」

「いいえ。田畑が害されれば第六階層も無事ではなくなる可能性が出てきます。お客様がいる限り、そのお客様を優先するべきだと思います」

 力強い意見にアインズも感心した。

「ならば行動に移そう。どの道、そのモンスターは死んでいるんだろう。丁重に弔(とむら)ってやろう」

「ありがとうございます、アインズ様」

「ゴウン様、これより行動を開始いたします。特に気がかりがあればお早めにおっしゃってください」

「うむ、こちらは異存はない。田畑の開発は重要だからな。私とて全てのモンスターと仲良くしなければならない、と無茶を通す気は無い。敵は倒す」

「厳しいですね」

「対処法についてはンフィーレアの指示を仰ごう。今後のためにも」

「頑張らせていただきます」

 一つ頷いた後、アインズはンフィーレアの指示を仰ぐように言ったり、必要な魔法を持つシモベたちを現場に集めるように指示を飛ばした。

 施設に戻ったンフィーレアは道具の選定と浴槽の規模や材質などをヤントラに依頼する。

 土の入れ替えは後回しにして、まずは浄化作業から取り掛かる事にした。

 

 土に浸透した死骸については粘体(スライム)達に吸い出させる事にした。

 病気まみれなので適度に治癒魔法をかける必要がある。

 無事な土まで掘り起こし、浴槽に腐った土を入れるのだが、汚染された土は腐葉土としては使えない。

 水を入れて浄化の魔法などで無害にする作業を行(おこな)う。

 被害の拡大はゆっくりとしたものだが、結構な損失となってしまった。

「いくつかダメになった畑は新しい土を入れればいいのですが、調査に時間がかかります」

「二度と使えないよりマシです。今年は諦めますよ」

「元は小さなモンスターだったのではないかと思います。それにしても被害が大きいのが、ちょっと気になりますね。モンスター入りの肥料を撒いたとか」

「そんな筈は無いのですが……。もし、そうなら販売元も何かしらの被害が起きているはずでは?」

 そもそも物騒な粘体(スライム)を操る組織に覚えが無い。

「仮定で言えば飛竜(ワイバーン)の身体についていたものが落ちた、とか」

「ありえなくは無いですね。空飛ぶモンスターまではどうしようもない」

 疑えがキリが無い。

 だが、原因の大本は特定したい。そうでなければ周りからジワジワと病原菌が浸透して都市を飲み込んだりしてしまう。

 毒に完全耐性のモンスターに付着していた場合は見つけるのが困難だ。

 地面で言えば長虫(ワーム)と竜蛇(ワーム)が居た。

 虫系は今回は除外してもいいだろう。

「農業は小さい敵が多いです」

「はい」

 数週間かけて土を取り除くと、見るも無残な大地が広がる結果になった。

 都市一つ分の食料をダメにしたのだから少なくない損失だ。これで報酬などは受け取れないだろう。

 他の田畑の被害は無く、ナザリックが所有する長虫(ワーム)の調査でも異常はまだ報告されていない。

 死しても疫病を撒き散らす。

 この疫病は日光に弱いので夏場は被害が広がりそうなものだが意外にも拡大しない。だからこそ、世界の危機にはなっていなかった、とも言える。

 ただ、対処しなければ好き放題に被害が広がるので厄介な点は変わらない。

 茸人(マイコニド)の意見では大気に飛散するタイプではないらしい。仮に死んだ後の浄化されたものが飛散したとしても、菌自体の効果は無くなっているので他の田畑への影響は無い筈だと。

 肥沃な大地である田畑だから拡散してしまったのだろう。疫病としての寿命は短いらしい。

 長くて二ヶ月だが栄養がある限り広がり続けてしまう。

 大規模農園にとっては危機的状況だ。

 ある程度の浄化作業を終えた後でンフィーレアとエンリはバハルス帝国の皇帝に呼ばれた。

 身なりなどは気にしなくて良い、という事で従者に伴われて謁見の間に通された。

「堅苦しい挨拶は抜きにしようか」

 と、大きな声で言ったのはバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 ここしばらく魔導王が大人しいので心労の負荷が軽減され、顔色も良かった。

「カルネ村からの使者よ。今回はまことに助かった」

 エンリ達は平伏したまま顔は上げなかった。

「顔を上げてくれるか、勇敢なる研究者たちよ」

「ははっ」

 二人が顔を上げると無邪気なジルクニフの笑顔が見えた。

 年のころは自分達と大差ない若者に見える。若干、年上というところだろう。

「被害が甚大ゆえ褒美らしいものは与えられんが……。此度(こたび)の要請に応えてくれてまことに嬉しく思う。原因も特定し、浄化まで……」

「いえ、色んな知り合いのお陰でございます」

「大部分はそなた達の力だと聞いている。特にあのアインズがお前達を誉めていたぞ。邪悪なアンデッドと陰口を言われているあの者に気に入られるとは……」

「ゴウン様は見た目は怖いですけど、僕ら人間と大差のない優しい心を持っています」

「魔法は強大ですが。私もゴウン様は力だけ、特化している以外は……」

「うん、そうなのだろう。だが、疑り深い人間ゆえの恐怖心があるものだからな。それは簡単には無くせはしない」

 うんうん、とジルクニフは頷く。

「はっきり聞くが……。今回、被害にあった田畑は使い物になるのか?」

「今年は……無理かと……。残念ですが土というものは簡単に復活いたしません。便利な魔法に頼るのも危険だと思います」

「なるほど。それはもっともとだ。……しかし、残念だ。たかがモンスターに広大な田畑が潰されてしまうとは……。仮に『火球(ファイアボール)』を打ち込まれた場合はどの程度で復活する?」

「畑にですか?」

「そうだ。急な例えで悪いが」

「はあ。……焼畑をなさりたいとしても『火球(ファイアボール)』は範囲魔法……。土ごと炭化し、入れ替えない限りは使えないと思います。ただ、入れ替えればすぐに使えるかと」

「では、水田はどうだ。穴が開くだけで特に問題はない、とかか?」

「水蒸気爆発は起きるでしょうが……。そうですね、農民が深みにはまるくらいですね」

 うんうん、と満足げに皇帝は頷いた。

 発想としてはンフィーレアは小首を傾げるが、皇帝が言うのだから何か意味があるのだろう。

 畑に魔法を打ち込む。それはまるで。

「ヤントラさんみたいですね」

 と、エンリが言うと皇帝は軽く笑った。

「自由な発想のことか?」

「は、はい……」

「想定外の事を多く見てきたからな。発想を柔軟にする事も国の運営には必要だろう」

「畑に魔法を打つ実験でもしているとか、でしょうか?」

「戦争の二次被害について、農家の意見をもらおうと思ってな。いくら停戦しているとはいえ、我が国は軍事国家だ。王国以外と戦争する可能性が無いとは言いきれない。その時、我が国の被害状況を少しでも把握すれば無駄な事はしなくて済むではないか」

 これから王国と戦争する準備を整えている、という風にンフィーレア達には聞こえた。

 だが、被害想定をする事は大事だとも思った。

「戦争というのは例えだぞ。我等は王国以外にも獣人(ビーストマン)の国とも敵対しているのだから。まだ他にも居る気はするが……」

「はい」

「カルネ村は帝国とは因縁のある村だが……。出来れば農業関係において手を取り合いたいと思っている。侘(わ)びというわけではないのだが……。村長エンリ。我が国に出来ることは少ないかもしれない。手を取り合うことは出来ないだろうか」

「皇帝陛下のお言葉は大変ありがたいことと存じます。ですが、王国領の小さな村が勝手に判断することは出来ません」

「賢い女性は……嫌いな部類なのだが、そなたは別格だな。独り身であれば愛嬌に据えても良いところなのに」

 そう言われてンフィーレアは慌てて、エンリは顔を赤くして怒った。

 だが、怒りは懸命に抑える。

「わ、私はそれほど安い女ではありません!」

「面白い女だ。ンフィーレアと言ったな。大事にしろよ」

「は、はいっ!」

「今回の畑の損失は王国と共有しようと思っている。また問題が発生したら助けてくれるか?」

「困っている農民の役に立てれば本望です。ですが、私や夫だけでは解決できない問題があります」

「色んな意見を聞く事は大事だろう。こちらも必要な情報は出せるだけ出そう」

「ありがとうございます」

「皇帝陛下。土壌汚染がモンスターの仕業であるならば下水道の管理を徹底すべきだと思われます。もちろん、土の中を移動する場合はどうしようもありませんが……」

「うむ。モンスターを探る魔法というものがあるそうだな。魔法詠唱者(マジック・キャスター)の育成はこれまで通り続けようと思っている」

「身体が小さいのも居るそうですから。異常が発生しても冷静に対応することが重要でしょう。慌てても仕方がありません」

「胸に留めておこう。それで……、何か要望することはあるか? 金銭以外が望ましいが」

 国家予算が傾くような大工事で今年は節約したかった。

「では、農家の交流をお許し下さい。作物の意見交換を活発化して新しい品種改良などを行(おこな)いたいので」

「大きな施設は作れないぞ、今年は」

「こちらから建築資材を持ってきます」

 ジルクニフは待機している従者を呼びつける。

「屠殺場を作る案があったが、そなたたちの方が無難そうだ」

「強くなる分には有効的です。……ただ、今はヤントラさんの調子が悪いので……」

「あやつも具合を悪くするのか。信仰系なのに」

「はい。魔法では癒せない病気みたいな感じです。物凄い睡魔が襲うそうで。睡眠不要の指輪の効力も通じないらしくて」

「それは……一大事だな」

 皇帝はこちらの言葉にすぐさま切り返してくる。

 頭の回転が速いのだろう。

 対するエンリも負けずに言い返しているけれど。

「では、少し意地悪な事をたずねるが……。そなた達の魔法で畑を汚す事は出来るか?」

 エンリは首を傾げたがンフィーレアは皇帝の言わんとしている事が分かった。

 田畑を人為的に使用不能に出来るのか、ということだ。

 犯人と決め付ける意図は皇帝にはない。ただ、統治者としては色々と知っておきたいのだろう。

「酸系の魔法は使えます。範囲を拡大するような被害は生まれないはずです。仮に出来るとすると疫病(プレイグ)系というそのままな魔法が存在するそうですが……。位階が高くて余程の高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)でも無い限りは無理かと。あとはそれらの能力を持つモンスターを召喚する魔法詠唱者(マジック・キャスター)となるかと……。可能性としては召喚モンスターが容易いかと」

「うむ。なるほど。なかなか広範囲にわたって特定するのが難しいようだな。低位モンスターも使い道次第ということか。これは厄介なことだ」

 皇帝はすぐに別の従者に声をかける。

「今後の対策の糧としよう。頻繁に田畑を荒らされてはたまらん。それが例え戦争の一手として有効だとしても、だ。私としても農民まで苦しめる意図は持ち合わせていない。それを理解しろとは言わないが……。領土が穢れるというのは……、良い気分はしないものだな」

 雰囲気的にはジルクニフという人間は嫌な気配は感じない。

 真意は不明だが、統治者として安易に相手に心の内を悟らせない色々な対抗策を持っているのだろう。それ自体に文句は無かった。

 確かに畑に魔法を打ち込むような魔法詠唱者(マジック・キャスター)は聞いた事が無いが、自分の田畑で練習してほしい。後で取り返しが付かなくなったら対処に困るだろう。

「エンリ。野菜というものは切った後、魔法で再生するものか?」

「はっ? そ、それは……分かりかねますが……。ああ、植物系モンスターの株分けなどは出来たらしいです。ですが、野菜までは……」

「魔法は万能だが時に夢を壊す、と聞いたのでな」

「は、はい……。それは確かにヤントラさんも言っておられました」

「解呪されるとどんな結果になるか怖いから、食物には使いたくないと言っていました」

「色んな想定をしている人物の意見はとても有意義だな。うむ、色々と為になった」

「皇帝陛下は農業に関心があるのですか?」

「市民生活にとってはなくてはならないものだ。私も飲食不要のアイテムで生活したいとは思っていない。食べる事は明日への活力だ。アンデッドはその点では不幸な存在だろう。アインズも実は食にこだわりがあるらしい。全てのシモベがアンデッドというわけではないからだろうが……」

「そのようですね。ゴウン様は部下の体調管理の為に色々と勉強なさっているようでした」

「モンスターとして見ているから色々と考えてしまうのだろう。ちゃんと卓を囲んで語らいたいものだ」

「農業を愛する者に悪人はおりません」

 力強くエンリは言った。

 ただ、戦争時に十五万人ほど虐殺したアンデッドモンスターというのは皇帝の脳裏から離れてはいない。

 自分達の仲間を守るためなら国をも滅ぼす存在だ。

 だが、ずっと恐怖を抱いているのも不健康。

 時には語らいも大事だろう。

 情報収集だけでは分からない何かが分かるかもしれない。

「最後の質問だが……。すまないな。色々と問題点が浮かぶようで」

「いいえ。問題提起を後回しにしない所は大事だと思います」

「うむ。褒美については後で考えておこう。今回は急な要望ゆえに何も用意できなかった。では、酸の魔法を放った後はどうなるんだ?」

「普通なら数時間で効果を無くして蒸発いたします。水洗いとかすればいいかと」

「菌類に関してこんなに拡散するものは初めてなのだが……。お陰で茸類の料理が怖くなってきた」

「疫病の菌糸らしいので通常とは違うようです。浄化の通用しない強力な疫病であればもっと被害が広がっていたでしょう。通常の疫病モンスターは負のエネルギーを撒き散らしますけど、田畑を汚染するほどではないとゴウン様は言っておられました」

「あと、巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)のような猛毒を持つモンスターとかが考えられます」

「今回に限って巨大なモンスターの発生や死体は報告されていない。毒ならば解毒で済むのではないか?」

「そうなんでしょうけれど……。原因究明は続けるつもりです。いくつか書類が完成いたしましたらお届けします」

「それはありがたい。質問が増えてしまったが……。今回は大いに助けられた。国民を代表して感謝の意を表そう」

 ジルクニフはンフィーレア達の側にかけより片膝を付く姿勢を取る。

 平民の平伏はさすがに出来ないが、皇帝の最大限の礼だった。

「それにしても話しやすいな、お主達は。普通なら分かりません、後で調べます、などが多いものだが……」

 しっかりと基礎知識が身についているから色々な質問に臆する事が無いのだろう。

「こちらこそです、皇帝陛下。とても頭の回転が速くて驚きました」

「大勢の部下を相手にしているからな。色んな事を考えねばならない」

「為になります」

「おお、そうだ。あの空飛ぶ浴槽のようなものはどうするんだ? 捨てるのか?」

「あれは徹底的に浄化した後で……。アイテムか何かで処分するはずです。埋めなおしは……、ちょっと言葉に出来ない方法なので……、申し訳ありません」

「そうか。深くは聞くまい。ちなみに浄化は低位の魔法で出来るんだったな?」

「第三位階までなら大丈夫かと」

 ンフィーレアの言葉をこと細かく側に控えている従者は書きとめていた。

「対処方法があるのと無いのとでは今後の運営に差し障る。そなた達の忠告はありがたく利用させてもらう。……もちろん、物騒なこと以外でな」

「お役に立てられれば嬉しいです」

 ジルクニフはンフィーレアとエンリの手を取り、改めて感謝の意を表した。

 

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